「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 電子レンジで猫をチン!-31

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【電磁人の韻律詩31~彼氏彼女の事情→彼氏編~】

「えー、今日は転校生が来ている。
 名前は明日恋路、お父様のお仕事の都合でこの時期に引っ越しになったらしい。
 みんな学園祭直前で忙しいだろうけど色々世話してやってくれ。
 ちなみに名字で気付いているとは思うが、明日の親戚だ。
 それじゃあ明日、教室に入って。」
「はい。」

教室にしずしずと入ってくる髪の長い女性。
俺と契約している都市伝説『電子レンジで猫をチン!』である。
一応、恋路という名前がある。
だが名字まで揃えているとは聞いていないぞ。
いや確かにそういう設定の方が一緒に行動していても自然だけどさ。

「皆さん、おはようございます。
 明日と書いてアケビ、恋路と書いてレンジです。
 先生のおっしゃっていた通り明日真とは従姉弟同士です。
 忙しい時期なので少しでも早くこの学校に慣れて皆さんのお力になりたいと思います。」

ぺこり、恋路が頭を下げる。
……こいつ誰だ。
ああ、キャラ作っているのか。
こういう場合、俺はどういう顔をすればいいのか解らない。






「えっと……明日(恋)に質問ある奴居るか?」
「はい!」

真っ先に手を挙げたのは花房だった。

「普段はどこに住んでいるのでしょうか!」
「明日くんの家です!」
「同居ですか!?」
「同居ですね!」
「確か明日の家はご両親が海外で仕事していたと思うんですが!」
「二人っきりですね!」
「ありがとうございました!」

次の瞬間。
クラスの男子達の視線が俺に突き刺さった。

「えーっと、コスプレは大丈夫ですか?」
「趣味です!」

今度はクラスの女子からの質問である。
そうだ、俺たちは学園祭でメイド&執事喫茶をやるのだ。
まさか……転校生にいきなりやらせるのか!?

「メイドは大丈夫でしょうか!?ちなみに制服は支給されます!」
「家に私物があります!」
「あとでサイズ聞いて良いですか!?」
「勿論です!」

沸き立つクラスの皆様。
……もう嫌だこいつら。






「明日(真)君との関係について詳しく!」
「家族ぐるみのおつきあいです!」
「結婚寸前!?」
「いや~……それはなんというかぁ」

はい、頬を赤らめない。
どう考えてもそんな初心なキャラじゃないのは俺が解っています。

「とりあえず明日(真)、あとで校舎裏。」
「何故俺!?」
「こんな正統派美少女が親戚に居るとかなんか腹立つ!
 罰として貴様には一日中執事をやって貰っても良いくらいだ!」
「マジで、俺もやるの!?
 音響担当班だとばかり思ってたんだけど!」
「執事が居すぎて困る事なんて無いだろう?
 メイちゃんの執事を見てみろ、何人いると思っている?」

ああ、あの仮面ライダーならぬ仮面執事ドラマね。






思えば、何時からこんな事になってしまったのだろう。
確か去年の今頃は、特に生きる意味も意義も目的もなく、
ぼんやりとした夢だけ抱いて、只漫然と日々を過ごしていた気がする。
よくわからないうちに友達を殺人鬼に殺されて、
よくわからないうちに女の子が家に転がり込んできて、
よくわからないうちにその殺人鬼と勝負した……筈だったのに、
よくわからないうちにその勝負さえうやむやにされてしまった。
俺は俺の身の回りで起きたことを何も解っていない。
俺は……無力だ。
日々の幸せと夢が叶った幸福に溺れるばかりで、何も考えていなかった。
今だって同じかも知れない。
こうやって考えるふりばっかりして、何事も無かったようにクラスの連中と遊び惚けている。
もっと、もっと誰かの為に闘わなくてはいけない。
もっと、もっと誰かの為にやれることがあるかもしれない。

でも、それが出来ないくらい自分は弱い。

それだって、知らない訳じゃない。






そうだ、自分は弱い。
別に坂本先輩のように何か格闘技を修めている訳じゃない。
生まれながらに特別な能力を持っている訳じゃない。
せいぜい機械いじりとかバイクの運転が得意なだけだ。
都市伝説の使い方も大して上手ではない。ぶっちゃけ俺より恋路が戦った方が強い。
正義の味方なんてものを名乗っているがそんな物からはほど遠い。
正義を行うほどの力なんて俺にはない。

ああ、そもそも正義の味方とは……なんなんだろう。

ちょっと正義の味方の先輩に話でも聞きに行くか。
学校が終わると俺は前に入院した病院に向かった。
帰り際のクラスの人々の視線が一撃必殺レベルの鋭さだった。






「とまあ、そう言う訳なんです。
 なんというか自分を見失っちゃって……。」
「ほうほう、状況に振り回されるばかりの自分の無力が憎くてしょうがないと。」
「院長、回診のお時間ですが……。」
「ああ、それなら娘に任せておけ。
 悩める若者を導くのも私の仕事だよ。」

学校が終わると、俺は以前アルバイト中に知り合ったとある契約者の所に来ていた。
名前は太宰龍之介、『しょうけら』の契約者である。
その能力は他人の悪事をその詳細まで契約者に知らせること。
彼は医師の仕事の傍らで正義の味方をやっている。

「でもそれを言えばね、私だって無力だよ。
 悪を倒すのだって結局他人の力を借りねばならない。
 『しょうけら』の能力は戦闘に向いていないからね。」
「う~ん……。」
「正義の味方だからといって、月光仮面のように悪人と直接戦う必要は無い。
 勿論、誰かが戦う必要は有るだろうけど、自分には出来ない、だから他人に任せる。
 私たちは目の前のできることだけをやっていくしかないんだよ。
 それにね。」
「それに?」
「君は組織に所属しているそうだが人を殺したことはあるかい?」
「いいえ……。」
「なら良い、確かに、世の中には殺さねばどうしようもない悪人がいる。
 でもどんな人間でも殺してしまえば人殺しなんだ。
 人を殺すと言うことは常に悪だ。
 悪人を殺すと言うことは自らもまた悪に染まると言うことである。
 戦いの日々のなかで君もそういう人間に会うだろうが、
 その時君には人殺しになって欲しくない。」






「そう、ですか……。」
「そうだよ、人殺しは皆等しく罰を受ける。まともに死ねない。
 君を大切にする誰かが居る限り、君は人を殺してはいけない。
 正義の味方は人間を殺さないんだ。
 戦いに身を置く以上、人を殺さざるを得ない状況も当然あるさ。
 それでも……、無理でもせめて私の言葉を思い出してくれ。」
「太宰さんは、」
「ん?」
「太宰さんは人を殺したことって有るんですか?」
「……無いよ。正義の味方としては。
 医者として救えなかった命は多いけどね。」

言葉が続かない。
こういう時になんて言えばいいのか解らない。








「まあ人生なんてそんなもんだ。
 ほどほどに挫折して、ほどほどに成功して、それで人間生きていく。
 挫折し損ねた人間は哀れだよ?
 しっかり挫折して、それからまたスタートすればいい。
 自分は駄目だ、何も出来ない、それで結構。
 自分を否定して、し尽くして、それでも否定できない物を支えに立ち上がれよ。
 その時には今の挫折くらい物ともしない人間になっているさ。
 挫折した時の絶望程度には負けやしない。頑張れ若人。」
「……ありがとうございます。」
「気は楽になったかい?」
「ええ、だいぶやることが見えてきたというか……。」
「なら良いんだ。
 私は君が始めてうちの病院に運ばれてきた時の事を覚えている。
 傷だらけになりながらも悪と戦い、その体で病院を抜け出して再び悪と戦ったね。
 君の力がまだ足りなくても、君の意志はもう一人前の正義の味方だよ。
 それだけは忘れないでくれ。」

静かに、頭を下げて、院長室を出た。






家に帰ると恋路が待っている。
すっかり暗くなってしまった人気のない帰り道を急ぐ。

その時、突然殺気を感じた。

素早く飛び退いて辺りをうかがう。
何体もの巨大な生物の気配。
巨大生物程度なら、地球上の生物なら、俺の能力の的ではない。

バチッ!
バチバチッ!

「都市伝説だな?」

空間指定半径十メートル。
逃げ場のない高周波の嵐だ。
どこのどいつだか知らないが蒸し焼きにしてやる!





もう一度バチィン!と大きな音が鳴る。
それが鳴り終わる頃には蛇の蒸し焼きが何体か出来ていた。

「人間以外なら、容赦はしなくて良い。」

その通り、俺は弱い。
でも恋路から貰ったこの力は決して弱くない。
元来、生きている物を一番効率よく殺せる能力だ。
自分以外辺りの物全て攻撃して良いならばこれくらいできる。
人間相手の時に加減するのが難しいだけだ。

「しかしこの量の蛇っておかしいよな蛇って。」

ふと、最近面倒に巻き込まれている自分の担当黒服の顔が浮かぶ。
もしかして、彼絡みの事件じゃなかろうか。
敵がこういうタイプの相手なら自分が役に立てるかも知れない。

やれることから……か。

ちょうど良い、やれることからやってやろうじゃないか。
俺はそう思って、携帯から恋路に連絡をした。
考えるのは苦手な自分は行動するしかないのである。
「おい恋路ー、Hさんの身に今……。」
「ジャガイモ買ってきて、じゃあね!」

プツッ

どうやら今回の事件、俺の出番はないらしい。
【電磁人の韻律詩31~彼氏彼女の事情→彼氏編~fin】


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