「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 電子レンジで猫をチン!-33

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
【電磁人の韻律詩33~ある正義の味方の死・前編~】

その訃報は突然だった。
明日真が学校から帰ると、突然彼の携帯電話が鳴った。

「あ、太宰さん。」
「大変だ明日君、父が事故に遭って……、死んだ。
 君にも葬式やら通夜に出て欲しいんだが、良いかな?」
「……龍之介さんが?」
「ああ、夜の病院を歩いていたら偶然建物が崩れてそれに巻き込まれたらしい。
 正直言って訳がわからないね、そもそも父が夜の病院を歩き回ってた理由も私は知らないんだ。」
「…………ああ、でもこの前夜の病院歩いてましたよね。」
「そういえばそうか、患者の様子を見回るにしてもあの時間は変だよなあ……。
 まあ良い、葬式は一週間後の水曜日になるはずだ。
 人が集まってゴチャゴチャするけど君には是非来て欲しい。
 君への手紙も残っていたからそこで渡したいんだ。」
「はい、わかりました。」
「思ったより冷静で安心したよ、私への手紙にも君のことを書いていたんでね。
 何か有ったら相談してくれ。」

通話状態を終わらせると隣で彼の電話を盗み聞いていた恋路が口を開いた。

「私もついて行くかい?」
「…………ああ、頼む。」

それだけ言うと明日真は力なくその場に崩れ落ちた。
太宰紫の前では冷静を装っていたが
恋路は黙って彼の頭を撫でた。







一週間後
太宰龍之介の葬式はしめやかに営まれた。
明日と恋路は沢山の人々が集まる斎場の隅で静かに座っていた。
だが太宰紫に誘われて彼等も遺族の席の近くに座ることになった。

「君はなんといっても父の志を継ぐ人間だからね。」

少し笑ってみせる太宰紫の表情が痛々しい。
明日達は一応「組織」に所属している。
戦闘に関わる生活を送っている以上、
人の命が簡単に失われていく場面だって見たことない訳ではない。
だが、これは、これはあまりにも悲惨だ。
老若男女、様々なところから来た人々が集まって泣いている。
彼等は今まで太宰龍之介が生きる世界を生きてきたのだ。
これから先の人生で彼等を太宰龍之介が救うことはない。
彼等の世界の一部が崩れ落ちたのだ。
太宰龍之介の思い出が彼等を救っても、太宰龍之介自身はもう彼等を救えないのだ。
彼等の正義の味方は死んだのだ。

「正義の味方だったっけか、君がそうなってくれれば父は死なないよ。
 君の中で生き続けるだろうさ。
 さーて、遺族代表の挨拶に行ってくるよ。」

明らかに無理していると解るのに、太宰紫をいたわる言葉の一つも明日は言えなかった。
彼は自らがショックを受けていることにも気付いていない。
そしてそんな明日真に恋路は黙って寄り添い続ける。





「畜生……、良い奴から先に死んで生きやがる……。」

明日達が案内された席の隣には身長2mほどの大男が座っていた。
大の男がグスグスと鼻をすすりながら泣いている。
それもまあ異様な光景ではあるのだが、明日達の眼を引いたのはその男の顔だった。

「……ねぇアスマ。」
「いや、別人だろ、似てるけど別人だろ。」
「念のために聞いてみても良いんじゃないかな?」
「いやいやいやいや、だってこの人どうみても善良な……。」
「どうしたそこの子供達?
 さっきからヒソヒソと……、もうちょい静かな声で話さないと周りに聞こえるぜ?」
「あ、すいませ……。」

明日がそう言って恋路との話を止めようとした瞬間だった。

「あの、すいませんけどもしかして上田明也って人のことを……。」
「おりょ、あの放蕩息子の知り合いかい?」

ああ、余計なことを言いやがって……と明日真は恋路を少し恨んだ。
しかも本当にこの大男は上田明也の関係者らしい。
明日真はどんどん憂鬱になっていった。

「いや、前に一度ちょっとだけ……」
「彼の探偵事務所を手伝っていたんです!もしかして彼のお父様ですか?」

べらべら喋る恋路を見て明日は平和にこの葬式から帰ることを諦めた。






「ああ、そうだよ。俺は上田明久、あいつの親父で太宰龍之介の親友だ。」
「やっぱり、そっくりですよね。」
「まあな、……お嬢ちゃん都市伝説だね?」
「え、そうですが……。」
「じゃあもしかしてそこの少年は明日真かい?」
「確かに俺の名前はそうです。」
「じゃあ二人とも、紫さんと一緒にこの葬式が終わったら俺の話を聞いてくれ。
 ああ、あとお嬢ちゃん、彼氏の顔色はもうちょっとうかがってやれ。」
「え?」
「お嬢ちゃんはそうでもないが、俺の息子の名前を聞いた時に真君の表情がこわばっていた。
 探偵事務所で手伝っていたというのも嘘ではないのだろうが、
 君達とあいつの関係は決して良好ではないだろう?
 誰かの仲介があって今は矛を収めている状態だ。
 違うか?」
「それは……。」
「そんな状態で俺の息子の話をすれば真君だって気分が……
 おっと、もう坊主の説教が始まる。
 一旦話はやめにしようぜ。」

明日は確信した。
悪魔じみた洞察力と他人の話を聞かないマイペース加減、
間違いなくこの男は上田明也の父親である。
明日はまだ話したりなさそうな恋路を抑えながら正座する足のしびれとの戦いを始めることにした。





葬式が終わるとすぐに太宰紫が明日達と明久の所にやってきた。
三人が親しげに話しているところを見てそれほど驚いていないのは、
やっぱりこうなると予想していたからなのだろう。
太宰は明久に一礼をしてから明日真に白い箱を渡した。

「とりあえずこれを持っていてくれだってさ。
 手紙も中に入っているから後で読んでくれ。」
「はい、解りました。」
「いいや、今開けておいた方が良いぜ。
 これから俺がする話の都合上、その中身は紫ちゃんも見ておいてほしい。」
「……どういうことですか?」
「いんや、その中にはマスクが入っている筈なんだよ。
 で、そのマスクがちょっと曰く付きの品物でねえ……。
 あいつが病院やり始める前、俺とつるんでいた頃にも関わるっていうか……。
 ぶっちゃけるとそのマスクの中に『死神』の契約書が仕込まれている筈だ。」
「へ?父は契約者だったんですか?」
「ああ、しょうけらと契約しているって話は俺聞きましたよ。」
「なんと、私は何も聞いてなかったよ。」
「そうだな、じゃあまずはその話からしようか。
 そう、アレは数十年前のアメリカで始まった物語だ。
 始めたのは『組織』のF-№0の黒服『サンジェルマン伯爵』。
 あいつは人間の進化について研究を行っていた。
 俺と太宰、そしてもう一人の俺の友人がそいつの実験に付き合わされていた。
 まあ進んでつきあってたんだけどな。
 そいつは人間を進化させる為の方法論を研究していた。」





「人間の進化?」
「ああ、都市伝説との契約が人間の進化の形態であるとか言っていたな。
 まあそんなことしなくても強い奴は最初から強い。
 猫は虎になれないし、虎も猫になれない。
 皆違って皆良い、そんな当たり前のことからあいつは目を背けていた。
 あいつからの誘いが有った時、俺も太宰も喜んだよ。
 俺は自らの研鑽の機会、奴は自らの正義の執行の為の力、もう一人は地位と金と名声。
 奴の実験の為に今思えば色々とんでもないことをしたもんだ。」
「とんでもないこと……ですか?」
「そうだよ恋路ちゃん、とんでもないことだ。
 たとえば聖杯と呼ばれる都市伝説の捜索の為に戦地のど真ん中を歩き回ったりしたっけか。
 その中で太宰はゆっくりと歪んで……」

「そこまでです、明久さん。」

「はっ、良いじゃねえか、老人の昔話ぐらい邪魔するな。サンジェルマン。
 どうせなら部下でも連れて偉そうに登場しろよ。」
「貴方は老いても私の研究は続くのです。あと私に吐いてくる部下はいません。
 共に歩む仲間ならおおいですけどね。……なんて。」

澄んだ声が響く。
喪服に身を包んだ碧眼金髪の紳士。
彼の名前はサンジェルマン伯爵。
悠久の時を生きる不死身のマッドサイエンティスト。







「しかし聖杯の話は駄目ですよ、其処の彼も『組織』の人間なんですから。」
「え、組織の人間なのかこの少年。」
「そうですよ、H№管理下の契約者だ。」
「あれ、あの変態集団の?」
「もう彼等の内ほとんどが死にましたよ、巫山戯た話だ。
 組織の人間共は彼等の研究がどれほど価値があったか解らないのか?
 ああ思い出すだけで腹が立つ。」
「えっ、そりゃあ良かった。俺はあいつら嫌いだったもんねー。」
「あの、お二人さん、H№の黒服さんは集団ではないけど変態ですよ?」
「なあ恋路、思っててもいっちゃいけないことがあるってば。」

なんとなく話が脱線していく気配を感じたのか太宰紫が口を開いた。

「ところでサンジェルマンとやら、父の過去について貴方も話していっては貰えないか。」
「私が……ですか。
 いや、私が彼について話すことは色々有りますが……。
 彼は善人でした、真面目で、優しくて、だからこそ人一倍この世の悪を憎んだ。
 憎んで…………。」

そこでサンジェルマンは口ごもる。







「…………まあそこは俺が言う気だったしな。俺が言ってやらあ。
 今日お前らに伝えるように頼まれていたこともそれだ。
 太宰龍之介は都市伝説の力で悪人を暗殺してまわっていたんだよ。
 命が大切?医者は命を守る仕事?
 あいつに限ってはその言葉も虚しいだけだよ。
 俺の前では『悪人は生きる価値もない』と豪語してたくらいだ。」
「……え?」
「どういうことですか、明久さん!」

太宰紫はいきなりの明久からの言葉にただ動揺している。
明日真は上田明久の言葉に驚いて彼に詰め寄る。

「明日真、お前のことは太宰から聞いている。
 あいつはお前にこそこの話を聞いて欲しいと願っていたんだ。
 で、自分みたいにはなるな、とも言っていた。
 だから頼む、落ち着いてゆっくりと話を聞いてくれ。」
「あの、太宰さん、明久さん、その話の前に私からも話したいことが……。」
「どうしたサンジェルマン?」
「太宰龍之介の死の真相についてです。」
「どういうことです、父は事故死したのではないのですか?」
「いいえ、立場が対立したので私が殺しました。」

次の瞬間、上田明久の拳がサンジェルマンの顔面に文字通りめり込んだ。
それから遅れてメキリという音が聞こえてサンジェルマンの身体が宙を舞う。
お前が落ち着けと上田明久に突っ込むか、どういうことだとサンジェルマンに詰め寄るか
明日真はわりと真剣に迷った。
【電磁人の韻律詩33~ある正義の味方の死・前編~fin】




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー