「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 電子レンジで猫をチン!-36

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【電磁人の韻律詩36~夜と星と黒い鸚鵡・後編~】

八極拳は、敵と極めて接近した間合いで戦うことを得意とする拳である。
八極拳の風格は中国において「陸の船」とも形容され、
歩法の運用も細密なため、他派と比べて比較的遠い間合いでの戦闘に不利であることが知られている。
そのため、近接短打以外の技法を補完する目的で、別の拳法を学ぶ流派もある。
恋路の場合は八極拳に加えて昔の契約者が使っていたクラブ・マガと呼ばれる護身術を納めている。
故に彼女は近接戦闘においてほぼ無敵と断言しても良い戦闘能力を持っている。
だがこれらの技術は全てフェイクにすぎない。
彼女の契約者がとある国の政府の試験兵器として運用された時に得た圧倒的な中・遠距離へのマイクロ波攻撃。
これこそが恋路の本来持つ強みである。
絶招を極めた彼女の技術はそれを警戒して自分から遠く離れた相手に大して
マイクロ波の嵐をたたき込む為のサイドアームなのだ。

だが明日家におけるこの格闘において彼女はそれを使えない。

今戦っている相手が彼女の八極拳を全く恐れていないからだ。

「ああ懐かしい、八極拳か……。」

彼女の極限まで鍛え抜かれた纏絲勁がいとも容易く躱される。
外れた拳は壁を削り骨を砕き戸口が震える。
当然だ、全身の力を身体を螺旋させることで一点に集めて相手を打ち抜く基本にして最終形たる絶技なのだ。
だがそれが、速度、威力共に研鑽の極致にあるそれが簡単に躱された。
そしてお礼と言わんばかりに飛んでくるのが…………






スパァン!

「だが甘いよ恋路ちゃん。
 お姉さんを都市伝説特化型の戦闘者だと思ったのが運の尽きだね。」
「……また見えなかった!?」
「良いかい?
 私の撃てるパンチの速さはたかだか36km/hだ。
 遅い、銃弾にも劣る。
 だが君は躱せない、認識すら出来ない。
 視界の外から襲いかかってくるジャブだ。
 そんなもの君には、いいや人間には止められない。」
「義姉さん、なんですかその構えは……見たことがない。」
「君に教える必要は無いね、私が優しいのは妹に対してだけだ。
 強いて言えば……、読み切り時代の遺物かな?」

明日晶は左手をだらりとおろして右手だけで構えるような独特の構えを取っている。
ボクシングではデトロイトスタイルと呼ばれる構えだ。
これはひたすらにジャブを打つことだけに特化した諸刃の剣なのだが、
都市伝説の力で極限まで反射神経を鍛えている明日晶にかかれば、
その状態でも防御は十全に出来る。
さらに彼女には天性の恵まれた体格ゆえに、
本来ならば日本人の短い腕や固い関節では使えない妙技が与えられていた。
フリッカージャブ
それが先ほどから恋路を苦戦させている見えないジャブだ。
腕全体をしならせることで速く、鋭く、しかも的確に相手の顔面を捉える。
だらりと下がった左腕から放たれるそれは初見であればまず回避不可能だ。




ならば左手によるジャブを突っ切って無理矢理間合いを詰めればいい。
誰もがそう思うだろう。
だがそれは違う。
理由は明日晶がこの戦いで温存し続けている右手だ。
わずかに青く輝く右手。
おそらく都市伝説による念導力をあの一点に凝縮している。
あの不可解な構えが自分のマイクロ波と同じ必殺技であることを恋路は天性の戦闘センスで見抜いていた。
不用意に近づけば……殺られる。

「来いよベネット、ぶっ殺してやる。」
「義姉さん、ベネットって誰?」
「細かいことは気にするな!」

しかしこのままではじり貧だ。
彼女が全ての技を圧倒的な反射神経で躱すというのならば。
良いだろう、後先考えずに全力で不可避不可防の一撃を放ってやるだけだ。
たとえ我が身が砕けようと……明日真を彼女に譲る訳にはいかない。
恋路は覚悟した。

「武壇八極拳・六大開式【猛虎硬爬山】」
「良いね、私も右手を使ってよさそうだ。」

恋路の身体からぱちぱちと火花が散る。
明日真が無意識に使った都市伝説による身体能力強化。
彼女はこれを小規模ながら自在に制御出来ていた。
そして恋路が走り出す。
明日晶はクロスカウンターを狙った渾身の右ストレートを繰り出した。






一方その頃、バイクで夜の町を走る明日真は遠くにテントの明かりを見つけていた。
それは彼の知り合いである契約者「鵺野夜行」が野宿している証拠だった。

「……ふわぁ。」
「あまり遅くまで起きてちゃ駄目だぞ夜行。」
「ごめん母さん。」
「だからもう良い歳して母さんはやめろとだなぁ……。
 そういえば明日は何処に行くんだ?
 今日はここで野宿として……。
 ああそうだ、私の友達がこの辺りに住んでいるんだよ。
 そこそこ金持ちだし家も広いから泊めて貰おうかな?」
「いっやぁ、明日のパンツさえあればわりとどうとでもなるよ。」
「何時からこんなたくましくなった……。」
「あ、夜行さん!よかったー、どうか一晩泊めてください!」
「え、君誰?でもまあ良いや!これは何かの幸運に違いない!」

鵺野夜行はホームレスだ。
自らの契約する【鵺】と一緒に世界やら日本やらを無一文で旅行している。
時々日雇いのバイトをして交通費をかせぐがそれ以外は自給自足である。
彼は基本的に無欲な男なのだが、それでも流石に年頃の男の子である。
いきなりカタナから降りてきた涙目の女の子にすがられたらそりゃあテンションも上がる。

「夜行さん俺です!明日です!」
「えっ?」

鵺野夜行の頭の中には明日というと『組織』の契約者らしいが善良そうな男しか思い浮かばない。






「キミ、マッドガッサーにやられたね?」
「はいそうなんです!」
「ちょっと待ってくれ鵺、どういうこと?」
「いやだから……、カクカクシカジカ」
「そうなんです、でもちょっと事情が違って……カクカクシカジカダイハツムーブ」
「待って、お前ら何でそれで通じてるの?」
「む、何か妙なことを話していたか?」
「俺たち普通に話してましたよ?」
「……あっそう。」

鵺野夜行はあっさりと突っ込みを放棄した。

「まああれだ、こんな女の子状態でネカフェに泊まるのも危険だろ?」
「いやまあそうだが……ジジョウガノミコメナイ」
「ありがとうございます、夜行さん!」
「いやいや、契約者同士助け合い……。
 クソッ、モトガオトコデサエナケレバ……、ウオオオグリードオオオ!」
「どうしたんですか夜行さん?」
「気にするな、少々欲望にとりつかれているだけだ。」
「はぁ……。」
「ほらほら夜も遅い、まずは一晩ゆっくり寝てから組織の知り合いにでも助けを求めるんだな。
 ああそうだ、H-№なら私たちを追うこともないだろうが今日のことは秘密にしてくれよ?
 一応私たちも追われる身でな。」
「へ?わかりました。」

とりあえず明日真は一晩の宿を得た。
彼の家の方からまたもやスーパーロボット大戦的な爆発音が聞こえたが彼は無視することにした。
家族喧嘩は正義の味方の出番ではないのだから。
【電磁人の韻律詩36~夜と星と黒い鸚鵡・後編~fin】



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