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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-11

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「今日はもう遅い、このコテージに泊まって行くかい?」
 そう言ってくれた徹心のおっちゃんだけど、それをフィラちゃんは断った。
『……ごめんなさい。疑うわけじゃないけど、身を預けれるほどには私はあなたを信用できない』という事らしい。
 まあ、気持ちは分からないでもない。いきなりあんな事を言われたら俺だって反応に困る。
 徹心のおっちゃんは『それなら仕方ないね』と困ったような笑みで言うと、千勢姉ちゃんに、『どちらにせよ今日の分の宿は必要だろう。君のマンションの方に泊めてあげてくれ』と言って俺達を異界から送り出した。
 そして俺達は今、千勢姉ちゃんのマンションの部屋の前に居る。
 千勢姉ちゃんのマンションは街の西側、ベッドタウンになってる所にあった。
 前この街で起きた都市伝説事件を解決するために腰を落ち着けた時、徹心のおっちゃんが用意した仮の住処らしい。千勢姉ちゃん本人は基本的に放浪してるんでほとんど使った事は無いそうだ。
 最上階のけっこういい部屋とのことで、どんなもんかなと期待していたところ、
「うわ、……こいつは」
「ホコリが……」
「すごいの」
 ものすごい量の埃が部屋全体をコーティングしたみたいに堆積していて、若干引いた。
 リカちゃん共々絶句していると、フィラちゃんが後ろから半ば感心したような口調で言う。
「これは一度掃除した方がよさそうね」
「んー、数年振りだからな。これくらいはしょうがないだろう」
 Tさんがベランダに飛び移って来たケウに待てを指示した。
「ケウ、お前はまだ入って来るな。埃が付く」
 そんなこんなで、スーパーに必要品を買いに行った後、いきなりの大掃除が始まった。
 全部の部屋を今日掃除するのは疲労から考えてまず無理っぽいので、今日使うだろう部屋だけ適当に掃除していく事にする。
「あー、晩飯も作らなきゃな」
 雑巾を絞りながら、フィラちゃん達と衝撃的な再会をする直前に話していた事を思い出して呟く。
「手伝うわよ、舞ちゃん」
「ありがと。ところでフィラちゃんは何日かここに泊まってくのか?」
「……いえ、Tさんの師匠とは言ってもやっぱりまだ信用しきれないから……」
 フィラちゃんとしては一応隠れ家のアテはあるらしいから早いうちにモニカ共々そっちに移る予定らしい。千勢姉ちゃんは離れられると危険なので移るのはやめて欲しいらしけど、そこはそれ、≪首塚≫所属のフィラちゃんからしてみれば≪神智学協会≫もそうだけど、≪組織≫であるT№も信用できないらしい。
 ……難しいもんだ。


            ●


「なあ、千勢姉ちゃん」
「どうした、舞?」
 フィラちゃんと一緒に手早く作った料理を「久しぶりの文明めいた食料だ」と言って喜びながら食べていた千勢姉ちゃんは、俺の呼びかけに箸を止めて即反応してくれた。
「今日の事とか色々聞きてえんだけどさ、質問とかしてっていい?」
「ああ構わんぞ。そのためにこのマンションにフィラちゃんやモニカも招いているんだ」
 話を振られたフィラちゃんとモニカは、二人とも曖昧な相槌を打った。
「わたしも、色々知りたい事がある」
 ベランダの大窓から入って来て窓の前で丸くなったケウと、ケウの頭の上で夕日を浴びているリカちゃんを眺めていたモニカが千勢姉ちゃんに向き直って言った。
「だろうな……答えられる事には全て答えよう。ただ……モニカ」
 千勢姉ちゃんはモニカを見つめた。身構えるモニカに千勢姉ちゃんは言葉をかける。
「君は今、おそらくとても危険な立ち位置にいる。なんとなく分かってはいるだろうが、知らない方が幸せな事も今後君は知らなくてはならないかもしれん。覚悟は決めておいた方がいい」
「う、うん……」
 頷いたモニカは千勢姉ちゃんを見て、訊ねる。
「わたしは本当に……お父さんやお母さんが使う実験体、だったの?」
「おそらくな。トリシアとレニーが今際の際に言っていた、と徹心も言っただろう? どのような実験かは知らん、しかし何らかの実験の被験体であった事は確からしい」
「お母さんとお父さんが……私を……」
「そう悲観したものでもない。命に関わる実験に供されそうになった時、モニカの両親は≪神智学協会≫を裏切っているのだからな」
「うん……」
 俯くモニカ。確かに脱走したとは言っても実験体に使われていたのは事実なんだから内心複雑だろう。
「すまないな。私としても、もっと君を安心させてやりたいんだが、それをするには情報が足りなく、そして今後を考えると気休めは言わない方が良いんだ」
 申し訳なさそうに言う千勢姉ちゃんにモニカは笑顔を見せた。
「大丈夫だよ千勢お姉ちゃん。お母さんもお父さんも殺されちゃって、でもフィラちゃんみたいな優しい人がいてくれて、世界はそういうものだって、きびしいのも優しいのも、両方持ってるんだって、わたし知ってるもん」
 いい子だ。まだ小学生くらいの年齢だっていうのにこんなに気丈に振舞えるんだからまったく、スゴイよ。
「舞、聞きたい事があるんだろう? 今の内に何でも聞いておくといい」
「ん、ああ……」
 モニカを眺めていたせいでTさんの言葉に対する反応が遅れた。
 そして、よくよく考えてみたらモニカの前でこの質問は……聞きづれえなぁ。
 そうは思っても今更質問を取りやめるのも変に気を使ったとばれちまいそうだ……。
 気合いを入れて咳払いを一つ、
 思いきって訊くか。
「≪神智学協会≫って組織が今日モニカを攫おうとしてた奴らが所属してる組織で、んでもって千勢姉ちゃん……というよりあの徹心のおっちゃんが、なが~く敵対してた組織なんだよな?」
「ああ」
「で、その≪神智学協会≫では、モニカは何か分かんねえけどオルコットって奴の目的である、都市伝説を使った世界の在り方の改変? を実行するのに重要な意味を持ってて、それで、向こうさんはモニカを攫おうとしてる……ってこと?」
「概ねその通りだ」
「そうか……じゃあなんで≪神智学協会≫は味方同士で潰し合ったんだ? モニカを手に入れるまでくらいはとりあえず手を組んでおいた方が得策じゃね?」
「それがそうでもない。内紛によって≪神智学協会≫は身軽になった。といっただろう?」
 確認するように言ってきたので俺は頷いた。
「組織とは、その規模が大きくなればそれだけ全体の動きが鈍るものだ。そして大きい組織には当然多くの人間が居て、それらの人々が様々な考えを持っている……≪神智学協会≫の中ですら、オルコットが目指す理想に反発する者もいただろう。多くの人間が、思惑が集まるとはそう言う事だ。
 それ故にオルコットは組織の贅肉を極限まで削り落した。
 現状、オルコットはその一存で組織を自由に使う事が出来るようになっている筈だ。それに表向き弱体化した≪神智学協会≫に対する他の組織の目は緩くなっている。組織全体の規模も縮小した事によって迅速に行動を起こしやすくなっていることだろう」
 それが組織を自ら縮小させた理由だな。と千勢姉ちゃんは締めくくった。
 ……なんつーか、思いきった判断というか。怖い考え方だ。世界の書き換えなんて破天荒な事を考える人間のするこたぁ分かんねえ……ん?
「そういやオルコットって奴は人間なのか?」
 こんな質問が出てくる辺り俺も結構毒されてるなぁと思うけど、今日会った二人は両方とも都市伝説だった。≪神智学協会≫の偉い奴が人じゃなくても不思議じゃねえ。
「ああ、徹心は人間だと言っていた。私も直に会った事は無くてな。確かにオルコットという人物が≪神智学協会≫の指揮を執っているという事はT№を率いて戦いに赴いた時に掴んでいるんだが、契約都市伝説等は私には分からない。徹心もオルコットの契約都市伝説は見た事が無いそうだ。
 ただ、彼は前線で戦えるくらいの実戦能力と、組織をまとめ上げるだけの処理能力がある。としか知らないらしい」
「昔は友達だったって言ってたのに、徹心のおっちゃんも知らないのか?」
「徹心も自身の契約都市伝説をオルコットに教えた事は無いそうだ。一応≪拝上帝会≫という組織の上層部同士、情報は隠していたようだな。それでも徹心の都市伝説は結構目立つし、本人も天帝の禁軍などと呼ばれていたから知られてはいたようだが」
「仲間同士でも隠すもんなのか?」
 モニカ共々首を傾げると、Tさんが説明してくれた。
「あまり広まっても得はないからな。≪拝上帝会≫のように、巨大国家に矛を向けていたのならば特にそういう情報は隠していた方が牽制にも使える」
 千勢姉ちゃんちフィラちゃんが相槌を打つ。
 はぁ……そういうもんなのか……。
「そういや、オルコットって奴も人間ならさ。そいつも年とらねえって事?」
 徹心のおっちゃんと同年代の生まれならどう低く見積もっても150はいってる筈だ。
「そうなるだろうな。都市伝説との繋がりが深いと、稀にそれに引かれて年をとらなくなる事がある。己の噂を広げ続ける契約者を失いたくない、都市伝説の性だな。契約都市伝説がなかなか契約者を見つける事が出来ないような強大・珍しい都市伝説ならば尚更その傾向にある」
「俺の≪ケサランパサラン≫は家系、血筋に憑いていた。それも都市伝説の自己保存手段の一環だな」
「へぇ~」
 こうしてみるとやっぱり不思議なもんだなぁ都市伝説……。
 そう思いながら俺は次の質問をする。
「あの騎士のおっちゃん達をこっちから乗りこんでぶん殴りに行くってのは、やっぱり無理なのか?」
「それが出来たらものすごく気持ちいいのだがな」
 そう言って千勢姉ちゃんは苦笑を浮かべた。
「奴らは幽霊船系の都市伝説で移動している。まず居場所が掴めんのだ」
「ゆーれい船ってガイコツが乗ってるみたいな?」
 モニカが興味を惹かれたように問いかける。
「さて、どうだろうな……船を見た者の話では帆船でなく蒸気船に見えたとのことだから、モニカが考えているような古式ゆかしい幽霊船とは違うと思うぞ」
「そうなんだ……」
「浪漫が無い幽霊船なんて……」
 モニカと一緒に少し落胆する。幽霊船と言えばやっぱりボロボロのマストの木造船で骸骨がヒャッハーしてるのを思い浮かべちまうからなぁ。
「敵の居場所が分からないっていうのに結構余裕ね」
 モニカと顔を合わせて「ねー」と頷きあってると、フィラちゃんが呆れ顔で零した。千勢姉ちゃんが笑い返して、
「そこは安心しても良いだろう。こちらも相手が憑けていた虎の子の≪道案内する死霊≫を排除したんだ。あちらも私達の居場所を見失って焦っているはずだ。居場所が掴めないのはお互い様だな」
「なんにせよ、≪神智学協会≫が血眼になってモニカを探しているという事実は変わらん。警戒するに越したことはない」
 そう話を締めたTさんに被せるように、モニカが小声で言った。
「わたしがやらされてた実験をわたしが思い出せればお姉ちゃん達は戦うの、楽になれるんだよね……?」
「なにか、憶えているのか?」
 ううん、とモニカは首を振る。
「わたし、今までお父さんとお母さんに実験体として扱われていたなんてぜんぜん知らなかった……思い出してみてもあんまり記憶に残って無くて……」
「モニカ、いいのよ」
 フィラちゃんが気遣うようにモニカの髪を撫でた。
 モニカが実験体として扱われていた時なんて言ったらモニカはよくて小学校低学年だ。覚えてなくても無理は無いよなぁ……。
 場の空気が重くなった。それを自覚しつつ俺は殊更に声を上げる。
「さて、飯を食うか!」
「ああ、そうしよう。冷めてしまうからな」
 空元気でもいいからと場を盛り上げ、ついでに訊いてみた。
「そういやさ、さっき千勢姉ちゃん文明めいた食料久しぶりって言ってたけど、今まで一体何食ってたんだ?」
 あーそれはな、と千勢姉ちゃんは頷き、
「蛇とか蛙を獲っていたな。どうせ私がスーパーなどで買い物をしても、食料をそのまま焼くか煮るかするくらいだから、どうせなら金のかからん方法で食料を調達しようとしてな。――なあ馬鹿弟子?」
 話を振られたTさんは仏頂面で頷いた。
「そうやって育てられたせいでしばらくそのあたりの常識が狂った……」
「おお……なんかすげえ」
「うむ、グルメな私は他にも、種類によってはエスカルゴと呼ばれるものや、場所によっては黒いダイヤとまで言われる生物を馬鹿弟子に食わせたりしてだな」
「食事中にそんな話はやめなさい」
 フィラちゃんのお叱りの声が飛んできた。直後、モニカが詳しい説明を求めてきたので、千勢姉ちゃんと一緒に好奇心の矛先をフィラちゃんへと押しつけながら食事は続いた。
 ……Tさんが何かから目を背けている気配を滲ませていたのが、妙に印象的だった。




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