千勢姉ちゃんのマンションに来た次の日に買った寝間着を洗濯してベランダに干して、俺は一息をついた。
空は青く、街の東西を分けている川が光を反射しているのが目に刺激的だ。春が近付いている3月の気候はまだ長袖じゃないとつらいけども厚着をするほどでもない。
「モニカとフィラちゃん、元気にしてっかな……?」
千勢姉ちゃんやモニカと会って、フィラちゃんと再会して、徹心のおっちゃんやら≪神智学協会≫やらのゴタゴタの話を聞いたあの日から二日が経っていた。
フィラちゃんとモニカは、千勢姉ちゃんの所でこれからの行動方針を話してた次の日には≪首塚≫の持つ別荘――この永取市の北にある山の中にある小屋へと行っちまった。
せっかく仲良くなれた分、こんなにすぐに居なくなちまうと少しさびしいんだけどなぁ。
まあしょうがないんだろう。≪神智学協会≫の追っ手がモニカをまだ探しているのかもしれないんだし、山篭りしてた方がきっと見つかりづらいし安全だ。
二人が出ていく時にTさんと千勢姉ちゃんがくれぐれも気を付けるように言ってたのが妙に印象に残ってる。
「……まだ、何にも終わっちゃいねえんだもんな」
俺だってこの千勢姉ちゃんのマンションから動かないほうがいい状態らしい。なんでも俺やリカちゃん、Tさんは≪神智学協会≫側からどの程度の危険因子とみなされているか分からないから、しばらくは様子見した方がいいだろうとの事だ。
「しっかし、二日も経っちまうとなー」
昨日の内にやり残してた部屋の掃除も済んじまってぶっちゃけ暇だ。外に出てるTさんと千勢姉ちゃんがうらやましい。
「まあ、何もしなくて良いってのも悪かねえけどな」
リカちゃんとケウが陽のあたるところで寝そべっているのを見て、なんとなく思う。
――ああ、平和だ。
「春休みで暇だし、しばらくここでのんびり過ごさせてもらおうかなー」
俺もケウの長く感触の良い毛に突撃すべく、室内に帰還した。
空は青く、街の東西を分けている川が光を反射しているのが目に刺激的だ。春が近付いている3月の気候はまだ長袖じゃないとつらいけども厚着をするほどでもない。
「モニカとフィラちゃん、元気にしてっかな……?」
千勢姉ちゃんやモニカと会って、フィラちゃんと再会して、徹心のおっちゃんやら≪神智学協会≫やらのゴタゴタの話を聞いたあの日から二日が経っていた。
フィラちゃんとモニカは、千勢姉ちゃんの所でこれからの行動方針を話してた次の日には≪首塚≫の持つ別荘――この永取市の北にある山の中にある小屋へと行っちまった。
せっかく仲良くなれた分、こんなにすぐに居なくなちまうと少しさびしいんだけどなぁ。
まあしょうがないんだろう。≪神智学協会≫の追っ手がモニカをまだ探しているのかもしれないんだし、山篭りしてた方がきっと見つかりづらいし安全だ。
二人が出ていく時にTさんと千勢姉ちゃんがくれぐれも気を付けるように言ってたのが妙に印象に残ってる。
「……まだ、何にも終わっちゃいねえんだもんな」
俺だってこの千勢姉ちゃんのマンションから動かないほうがいい状態らしい。なんでも俺やリカちゃん、Tさんは≪神智学協会≫側からどの程度の危険因子とみなされているか分からないから、しばらくは様子見した方がいいだろうとの事だ。
「しっかし、二日も経っちまうとなー」
昨日の内にやり残してた部屋の掃除も済んじまってぶっちゃけ暇だ。外に出てるTさんと千勢姉ちゃんがうらやましい。
「まあ、何もしなくて良いってのも悪かねえけどな」
リカちゃんとケウが陽のあたるところで寝そべっているのを見て、なんとなく思う。
――ああ、平和だ。
「春休みで暇だし、しばらくここでのんびり過ごさせてもらおうかなー」
俺もケウの長く感触の良い毛に突撃すべく、室内に帰還した。
●
永取市の東側、商業区内にTさんは居た。
この街に来た時に降りた駅を中心点として、ここ二日の間永取市の地勢を把握するためにTさんは千勢を伴って舞から頼まれる品物の買い物がてら街を歩きまわっていた。
永取市は見た限りでは普通の街だ。都市伝説やそれに類する者達の気配もこの二日間常に探っているが感じとれない。それだけこの街に居を構えている徹心が危険な都市伝説に対して目を配っているのだろう。
それに……。
「師匠、高部徹心が永取市にわざわざ異界の入り口を設けているのは、以前この街で大規模な都市伝説事件が起こったからだと言っていたな?」
隣を歩いていた千勢が頷く。
「ああ、そうだ」
「その事件は≪神智学協会≫が絡んでいたのか?」
「正解だ。以前、この街には都市伝説としての≪神智学協会≫が裏で持つ、ロッジがあった」
「ロッジ……」
「研究施設、と言い変えてもかまわないぞ」
そう言って皮肉気に千勢は笑う。
「都市伝説として以外に存在する一般社会におけるの神智学協会の保有するロッジとは全く違い、実際に力があるロッジだ。そこで≪神智学協会≫の研究班が大規模に実験を行っていた」
研究班、と呟き、Tさんはこの数日で得た情報を確認のために口にする。
「たしか今はオルコットの起こした内紛の過程で吸収されている部署だな?」
「そうだ、元々研究班とオルコットの派閥は密接な関係を持っていたようでな、モニカとその両親も研究班に所属していた事になる。
≪神智学協会≫は先の内紛で所有するロッジが完全に機能を停止しているが、永取市にあるロッジは日本国内にあるロッジの中では最大規模のロッジでな。その分色々な機能が付属していたようで、完全に調べ尽くせてはいないらしい。≪組織≫でも封印処理を施して放置しているそうだ」
「そのロッジの中から何かオルコットの目的を果たす為の手段を探る事はできなかったのか?」
問いかけると、千勢は首を左右に振った。
「だめだな。いくらか都市伝説化した資料の残骸は見つけたが、具体的な事は何も……ただ、全体的に人体実験関係の資料が多かったと徹心が言っていた」
人体実験……。
モニカに対して行われていた実験もそうして資料の一部になったのだろうか?
そう考えてTさんは重い息を吐いた。
「……目的は分かっているのに手段が掴めないというのは、不気味だな」
「まったくだ」
少なくともモニカが重要なファクターになっているらしいことは確かなのだが……。
「師匠、≪神智学協会≫の現在の構成は高部徹心からもらったこの書類の通りでいいのか?」
「ああ、その書類は私が送った最新のデータを基に作成している。それなりに正確なはずだ」
だとすれば、とTさんは書類の内容をおおざっぱに思い返す。
現在の≪神智学協会≫は内紛で勝利したオルコット派と、それの傘下にある研究班、という組織構成だ。
オルコット派とは言っても所属している人材は少なく、その実態は≪神智学協会≫の長オルコットとその側近の集まりというものだった。その総人数は今現在ではオルコットも含めて五人という事だ。
ただし、実際の兵力としてそれらを換算した場合、その認識は致命的な誤認になる……。
その五人の中には≪冬将軍≫、それに≪テンプル騎士団≫であるユーグも含まれている。それぞれが別々に一組織形体を作り上げる事が可能な能力を持つ者達だ。
それに加えてオルコットと残り二人……。
後の二人の側近はそれぞれ男と女と言う事くらいしか分からないらしい。『外から見て大まかに能力を把握出来る≪冬将軍≫とユーグとは違い、個人戦闘に特化しているのではないだろうか?』と書類にはまとめられていた。
そして、研究班……。
多数存在した≪神智学協会≫の部署の中で、内紛後も唯一オルコットがその存続を許した部署である。研究班が所有する戦力は普通の人間による武装戦力のみと書類にはあった。
元々研究班はオルコットが≪神智学協会≫を設立した当初に目的としていた、世界の在り方の改変を成す為の都市伝説研究を行う為の部署として設立された。現在に至るまでその両部署間の交流はあったようで、オルコットが内紛を誘発して他部署を粛清する動きを見せ始めた初期段階にはすでにオルコット派の傘下に収まっていたらしい。
……研究班の今の長の名はウィリアム・ウェッブ……か。
モニカを使った実験を黙認、または推進したのはこのウィリアムという名の研究班の長だろう。碌でもない人間に違いない。
モニカが狙われているという事で、高部徹心が密かに千勢のマンションを去った由実とモニカの動向を追ってはいるが、≪フィラデルフィア計画≫の回復までの間は藤宮由実を無理に説得しておいた方が良かっただろうか……。
Tさんは僅かな気がかりと共にそう考え、今更か、とため息を吐いた。
この街に来た時に降りた駅を中心点として、ここ二日の間永取市の地勢を把握するためにTさんは千勢を伴って舞から頼まれる品物の買い物がてら街を歩きまわっていた。
永取市は見た限りでは普通の街だ。都市伝説やそれに類する者達の気配もこの二日間常に探っているが感じとれない。それだけこの街に居を構えている徹心が危険な都市伝説に対して目を配っているのだろう。
それに……。
「師匠、高部徹心が永取市にわざわざ異界の入り口を設けているのは、以前この街で大規模な都市伝説事件が起こったからだと言っていたな?」
隣を歩いていた千勢が頷く。
「ああ、そうだ」
「その事件は≪神智学協会≫が絡んでいたのか?」
「正解だ。以前、この街には都市伝説としての≪神智学協会≫が裏で持つ、ロッジがあった」
「ロッジ……」
「研究施設、と言い変えてもかまわないぞ」
そう言って皮肉気に千勢は笑う。
「都市伝説として以外に存在する一般社会におけるの神智学協会の保有するロッジとは全く違い、実際に力があるロッジだ。そこで≪神智学協会≫の研究班が大規模に実験を行っていた」
研究班、と呟き、Tさんはこの数日で得た情報を確認のために口にする。
「たしか今はオルコットの起こした内紛の過程で吸収されている部署だな?」
「そうだ、元々研究班とオルコットの派閥は密接な関係を持っていたようでな、モニカとその両親も研究班に所属していた事になる。
≪神智学協会≫は先の内紛で所有するロッジが完全に機能を停止しているが、永取市にあるロッジは日本国内にあるロッジの中では最大規模のロッジでな。その分色々な機能が付属していたようで、完全に調べ尽くせてはいないらしい。≪組織≫でも封印処理を施して放置しているそうだ」
「そのロッジの中から何かオルコットの目的を果たす為の手段を探る事はできなかったのか?」
問いかけると、千勢は首を左右に振った。
「だめだな。いくらか都市伝説化した資料の残骸は見つけたが、具体的な事は何も……ただ、全体的に人体実験関係の資料が多かったと徹心が言っていた」
人体実験……。
モニカに対して行われていた実験もそうして資料の一部になったのだろうか?
そう考えてTさんは重い息を吐いた。
「……目的は分かっているのに手段が掴めないというのは、不気味だな」
「まったくだ」
少なくともモニカが重要なファクターになっているらしいことは確かなのだが……。
「師匠、≪神智学協会≫の現在の構成は高部徹心からもらったこの書類の通りでいいのか?」
「ああ、その書類は私が送った最新のデータを基に作成している。それなりに正確なはずだ」
だとすれば、とTさんは書類の内容をおおざっぱに思い返す。
現在の≪神智学協会≫は内紛で勝利したオルコット派と、それの傘下にある研究班、という組織構成だ。
オルコット派とは言っても所属している人材は少なく、その実態は≪神智学協会≫の長オルコットとその側近の集まりというものだった。その総人数は今現在ではオルコットも含めて五人という事だ。
ただし、実際の兵力としてそれらを換算した場合、その認識は致命的な誤認になる……。
その五人の中には≪冬将軍≫、それに≪テンプル騎士団≫であるユーグも含まれている。それぞれが別々に一組織形体を作り上げる事が可能な能力を持つ者達だ。
それに加えてオルコットと残り二人……。
後の二人の側近はそれぞれ男と女と言う事くらいしか分からないらしい。『外から見て大まかに能力を把握出来る≪冬将軍≫とユーグとは違い、個人戦闘に特化しているのではないだろうか?』と書類にはまとめられていた。
そして、研究班……。
多数存在した≪神智学協会≫の部署の中で、内紛後も唯一オルコットがその存続を許した部署である。研究班が所有する戦力は普通の人間による武装戦力のみと書類にはあった。
元々研究班はオルコットが≪神智学協会≫を設立した当初に目的としていた、世界の在り方の改変を成す為の都市伝説研究を行う為の部署として設立された。現在に至るまでその両部署間の交流はあったようで、オルコットが内紛を誘発して他部署を粛清する動きを見せ始めた初期段階にはすでにオルコット派の傘下に収まっていたらしい。
……研究班の今の長の名はウィリアム・ウェッブ……か。
モニカを使った実験を黙認、または推進したのはこのウィリアムという名の研究班の長だろう。碌でもない人間に違いない。
モニカが狙われているという事で、高部徹心が密かに千勢のマンションを去った由実とモニカの動向を追ってはいるが、≪フィラデルフィア計画≫の回復までの間は藤宮由実を無理に説得しておいた方が良かっただろうか……。
Tさんは僅かな気がかりと共にそう考え、今更か、とため息を吐いた。
●
何やら難しい顔をしているTさんを見て千勢は苦笑した。
……昔から思慮深げな奴だったが、成長すると様になるものだな。
今の彼からは貫録すら感じる。
電車用の鉄橋と車道が並走している街一番の大鉄橋。その先にあるマンションを見通すように目を細めて、千勢は定期連絡の為に携帯を取り出した。
通話を繋ぐ。相手は徹心だ。
「徹心、モニカやフィラちゃんの様子はどうだ?」
外から気配を探らせているだけだから詳しい事までは分からないよ? と断りが入り、徹心は報告を開始した。
『この二日間は何事も無く過ごせているみたいだ。今は藤宮君が買い物にでも出かけているのかな、小屋の中にモニカ君を隠している』
そうか、と千勢。
「山の中の小屋に隠して外出しないのならば、土地勘の無い者にはまず見つかる事はないだろう」
『うん、それに小屋には隠蔽用の技術が仕込まれているらしい。僕の遣わした兵も意識させていないと認識を外される』
「それはまた……手の込んだセーフハウスだ」
千勢は感心したように呟いた。徹心はそれと、と言って、言い辛そうに述べる。
『高坂君が僕に依頼していた、伏見君とTさん、リカ君のこの件からの離脱策だけど……残念ながらこれが絶対に安全という方法は無い』
「やはりか……」
千勢としても半ば判かっていた事だ。しかし実際に言われると軽く落胆する気持ちは拭えない。
「まあ、あそこまで堂々と名乗ってしまっているのだしな。海外にでも放りだせば可能かもしれないが」
『あまり下手に動くと≪神智学協会≫が何か企んでいる事が他に漏れるかもしれない。それをするのは僕は反対だ』
「分かっている。モニカの今後にも関わる事、慎重に行きたいのは私も同じだ」
子供に優しいのは私の性向だな、とおどけて言うと、徹心から申し訳なさが漂う多少沈んだ声音が返って来た。
『君にとって弟子や舞君がどれほど大事な存在かは分かっているつもりだ。けど――』
「くどいぞ徹心」
千勢はそう言って微苦笑を浮かべた。決まり悪そうに長い黒髪をかき回し、
「舞が申し出て、馬鹿弟子もリカちゃんも賛同した事だ。もとより私には口を出す権利なんてないのさ。けど、まぁ……」
言葉を飲みこんで頬を歪めた。
「……笑うか? ××を戦えるように育て上げたこの私が、今更戦場から遠ざけたいと思う事を」
返答は即座、口調は真摯なもので、
『笑わないさ。笑う事なんて出来ない。それが親というものなんだろう?』
千勢は失笑した。
「親とは笑わせる。アレの両親は息子を護って死んだよ」
『君が拾って育て上げたんだ。高坂君、君も親なんだよ。だからこそ――』
「分かった分かった」
長くなりそうな説教を断ち切るために携帯を切る。
説教くさい奴だ……。
そう思っていると、携帯を切るのを待っていたように、Tさんが声をかけてきた。
「何か藤宮由実達に変わりはあるか?」
「いや、徹心の話では今のところは問題無いようだ」
「そうか」
「早く戻ろう、舞に言われていた必要な品も買った事だしな」
ケウの毛で遊ぶからとリボンを大量に買った袋を軽く掲げて揺らす。この二日、ずっと缶詰状態の舞は暇を持て余している事だろう。
「急いで帰ってやろう。きっと喜ぶ」
「ああ」
……昔から思慮深げな奴だったが、成長すると様になるものだな。
今の彼からは貫録すら感じる。
電車用の鉄橋と車道が並走している街一番の大鉄橋。その先にあるマンションを見通すように目を細めて、千勢は定期連絡の為に携帯を取り出した。
通話を繋ぐ。相手は徹心だ。
「徹心、モニカやフィラちゃんの様子はどうだ?」
外から気配を探らせているだけだから詳しい事までは分からないよ? と断りが入り、徹心は報告を開始した。
『この二日間は何事も無く過ごせているみたいだ。今は藤宮君が買い物にでも出かけているのかな、小屋の中にモニカ君を隠している』
そうか、と千勢。
「山の中の小屋に隠して外出しないのならば、土地勘の無い者にはまず見つかる事はないだろう」
『うん、それに小屋には隠蔽用の技術が仕込まれているらしい。僕の遣わした兵も意識させていないと認識を外される』
「それはまた……手の込んだセーフハウスだ」
千勢は感心したように呟いた。徹心はそれと、と言って、言い辛そうに述べる。
『高坂君が僕に依頼していた、伏見君とTさん、リカ君のこの件からの離脱策だけど……残念ながらこれが絶対に安全という方法は無い』
「やはりか……」
千勢としても半ば判かっていた事だ。しかし実際に言われると軽く落胆する気持ちは拭えない。
「まあ、あそこまで堂々と名乗ってしまっているのだしな。海外にでも放りだせば可能かもしれないが」
『あまり下手に動くと≪神智学協会≫が何か企んでいる事が他に漏れるかもしれない。それをするのは僕は反対だ』
「分かっている。モニカの今後にも関わる事、慎重に行きたいのは私も同じだ」
子供に優しいのは私の性向だな、とおどけて言うと、徹心から申し訳なさが漂う多少沈んだ声音が返って来た。
『君にとって弟子や舞君がどれほど大事な存在かは分かっているつもりだ。けど――』
「くどいぞ徹心」
千勢はそう言って微苦笑を浮かべた。決まり悪そうに長い黒髪をかき回し、
「舞が申し出て、馬鹿弟子もリカちゃんも賛同した事だ。もとより私には口を出す権利なんてないのさ。けど、まぁ……」
言葉を飲みこんで頬を歪めた。
「……笑うか? ××を戦えるように育て上げたこの私が、今更戦場から遠ざけたいと思う事を」
返答は即座、口調は真摯なもので、
『笑わないさ。笑う事なんて出来ない。それが親というものなんだろう?』
千勢は失笑した。
「親とは笑わせる。アレの両親は息子を護って死んだよ」
『君が拾って育て上げたんだ。高坂君、君も親なんだよ。だからこそ――』
「分かった分かった」
長くなりそうな説教を断ち切るために携帯を切る。
説教くさい奴だ……。
そう思っていると、携帯を切るのを待っていたように、Tさんが声をかけてきた。
「何か藤宮由実達に変わりはあるか?」
「いや、徹心の話では今のところは問題無いようだ」
「そうか」
「早く戻ろう、舞に言われていた必要な品も買った事だしな」
ケウの毛で遊ぶからとリボンを大量に買った袋を軽く掲げて揺らす。この二日、ずっと缶詰状態の舞は暇を持て余している事だろう。
「急いで帰ってやろう。きっと喜ぶ」
「ああ」
●
千勢の部屋があるマンション。その隣にあるビルから飛び移り、マンションの最上階を目指して静かに、しかし迅速に移動する者達が居た。
≪神智学協会≫所属の者達、ユーグ、エレナ、弘蔵だ。
彼等はマンション最上階、舞やリカちゃん、ケウの居る部屋の前にまで来ると、素早く突入の準備を始めた。
エレナが金属製の棒を構え、ユーグが白系統の質素な衣服の上にバフォメットの加護である黒い影から引き出した鎧を瞬時に纏う。
準備が完了したのを確認して三人は頷き合った。
玄関の正面に立った弘蔵が懐から包丁のような刃物を抜き、扉へと狙いを付けて、構えた。
――刃が振り下ろされる。
≪神智学協会≫所属の者達、ユーグ、エレナ、弘蔵だ。
彼等はマンション最上階、舞やリカちゃん、ケウの居る部屋の前にまで来ると、素早く突入の準備を始めた。
エレナが金属製の棒を構え、ユーグが白系統の質素な衣服の上にバフォメットの加護である黒い影から引き出した鎧を瞬時に纏う。
準備が完了したのを確認して三人は頷き合った。
玄関の正面に立った弘蔵が懐から包丁のような刃物を抜き、扉へと狙いを付けて、構えた。
――刃が振り下ろされる。