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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-18

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 振り下ろされた刃は扉を易々と切り裂いて、その用を成さなくせしめた。
 耳に刺激的な軋みを帯びた金属音と共に内側へと倒れていく扉を踏み倒してユーグが踏み込み、エレナが続いた。
 部屋の中から迎撃の気配が無い事を確認して、弘蔵も背に釣り竿のケースを背負い直して部屋の中へと足を踏み入れる。
 部屋の廊下をまっすぐに進んでリビングに至ると、そこではユーグとエレナが共に開け放された窓を見ていた。
 窓の外、ベランダには干されていたと思しき洗濯物が物干し竿ごと落下している。
「……逃げられたか?」
「接近を悟られたようだ」
 そう答えながらユーグにエレナが言う。
「ウィリアムに連絡を」
 今この場で目標を捕らえる事が出来ず、目標に逃げられしまったのなら別の方法でアプローチをかける必要がある。とりあえずの相談をするためにウィリアムと連絡を取ろうとしたエレナに頷いて通信機を取り出したユーグに、弘蔵は待て、と声をかけた。
「まだ目視で追える」
 そう言って彼が見る先では、電線等が不自然な揺れ方をしている。
「あれは、千勢の連れていた白い獣の能力か」
 認識阻害の能力を使用しながら逃走しているらしい。そう理解したユーグは、しかし首を振る。
「足はあの獣だろう? あれは一般人から姿を隠した上でかなりの速度を出せる。我々が人目を気にして普通に追ったのでは逃げられるぞ。かといって余人に目撃されるような追走は避けたい」
「そのために儂がこれを持っている」
 弘蔵はそう言うと背に下げていた釣り道具用の入れ物から一本の槍を取り出した。
 穂先を上に向け、呟く。
「燈せ、〝小松明〟」
 言葉に従うように槍の穂先に火が灯った。
 弘蔵は槍を振るって穂先の火をユーグとエレナ、そして自身に振りかける。
 体に火の粉が触れた途端、火の粉が小さく破裂して全身を包む薄い膜を作った。
「これは?」
「〝小松明〟、この国に伝わる槍だ。遁術を扱う槍でな、この火の粉を纏えば余人に儂等の姿は視えん」
「じゃあ、全力であの獣を追えるということね?」
「そうだ。ただし激しく動けば火の粉は飛び散る。短時間で追いつかねばならん」
「分かった。ではウィリアムには逃げた目標を追走中と伝えておこう。合流地点は変更する事になるだろうともな」
 三人はすぐさま開け放たれた窓から外へと飛び出した。


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 ユーグから来た急ぎの連絡を受け、ウィリアムはほくそ笑んだ。
「ユーグ総長もエレナも弘蔵も、無事に向こうに目標がいると思いこんでいるようだ」
 千勢のマンションへと突入した三人のサポート役として後方に待機していた筈のウィリアムは、永取市内北面にある山の中に居た。
 周囲に人が通る為の道は無い。ウィリアムはただ闇雲に山中を歩いているようでいて、しかし確かな道標を彼は得ていた。その正体は彼が手にした紙だ。
「やはり、他組織を簡単には信用せず別行動をとっていたようだね……」
 ウィリアムは紙を広げ、そこに描かれている道を辿るように山中を歩く。
 目指すはモニカの居場所、山の中の隠れ家だ。


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 部屋の中でお昼寝タイムを満喫しようとしていた俺とリカちゃんは、いきなり立ち上がったケウに咥えられて背まで放り投げられると、そのままケウの背中に乗ってベランダから外に飛び出していた。
 なかなか素敵なお散歩コースだぜ、はは! ――じゃなくて!
「ケウー、いつまで全力疾走してんだ!? 散歩したいなら言ってくれりゃぁ俺だって普通に付き合うんだぜ!? ってか家帰って洗濯物干し直さねえといけねえんだけど!?」
 そんな俺の言葉を無視してケウは走り続ける。
 家の屋根を、電柱を、あるいは普通の道を足場に高速で走り抜けていく。
 恐ろしい勢いで後ろに流れていく風景を見ながら、それだけの速度を出している獣の背に乗っているとは思えない程の震動の無さには驚くけど、速さだけを追求して足場を選んでいるのか、俺の視界はさっきから大きく上下に揺られ続けていた。
 訳も分からないままこんな乱暴な運転を続けられればそりゃ注文の一つもでてくるってもんだ。
 だから俺は注文を口に出てくるままにケウにぶつけた。
「ケウ! 頼むから、あまり、跳ねるな!」
 昼飯をリバースする! あと早すぎて若干寒い!
 ケウはそんなの知らん、とでも言いたげにハイペースな移動を継続している。
 建物の屋根を蹴り、電柱を足場にして突っ走る。
 わけわかんねえ! と思ってると、リカちゃんが頭の上から大声で知らせてきた。
「お姉ちゃん、うしろ! 追いかけてくる人がいるの!」
「マジ!?」
 服にしがみついているリカちゃんの声、振り返っても何も見えないけど……。
「どこだ? リカちゃん?」
「あそこなの! 今ケウちゃんがけったでんちゅう!」
 言われた通りの場所に目をやると、不自然に電柱の周りの電線が揺れ、ついでに電柱が何かと擦れたかのように欠けた。
「ケウちゃんと同じで、かくれんぼしてるの!」
 リカちゃんが言った時、ケウが急に進路を変更した。
 勢いで俺の首がガクンと揺れて、鞭打ち症になるじゃねえかと文句を言ってやろうとした直後、さっきまでケウが走ってた電柱の頭の部分が両断された。
 断面がとってもきれいだ……。自然にはおこらねえだろうなぁこういうの……。
 …………。
 俺はどこかの空き地へと落下していく両断された電柱の頭部分を無言で見送って、ケウの毛を両腕に巻きつけた。
 リカちゃんと共にケウを平手でべしべし叩く。
「ケウー! 全ッ力で突っ走れええっ! 絶対ぇロクな奴じゃねえから後ろの!」
 ケウは短く吼えて、応じるように速度を上げた。
 俺はしがみ付くのに必死になる。断続的に上下する視界は、街を袈裟懸けに両断する川に架けられた橋のうち、一番大きなものを捉えていた。どうやらケウは商業区の方に向かってるらしい。
「千勢姉ちゃん達の所に向かってるのか!?」
 言いながら、リカちゃんにTさんへの連絡を付けるように指示する。リカちゃんからそのようにする旨の返事が返って、ケウが橋に向かって跳ぶ為に、ビルの屋上を強く蹴った。
 電車用の鉄橋と車道が並走している街一番の大鉄橋。その上に架けられアーチを爪で削りながら、でもほとんど衝撃はなくケウは着地して、更に数歩、跳ねるように駆けて行き――不意の衝撃に俺は体を宙に投げ出されそうになった。


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「――え?」
 口から漏れていた声をどこか他人事のように訊きながら、俺は状況を掴もうと首を巡らす。
 ケウがこけたか? と一瞬思って、そりゃねえや、と次の瞬間には自分に反論した。
 そもそも、俺達は障害物なんて気にならない走法で街を跳び駆けていたはずだ。
 電柱や電線を足場に快足を駆使するアホみたいな脚力をもってるケウが、こんなただのアーチで蹴躓くわけがないじゃねえか。
 腕に巻きつけた毛だけじゃなくて、身体にケウが伸ばしてくれた毛が巻きつく感触がして、投げ出されかけていた体はなんとかケウの背中に戻る事ができた。
 同じくケウの毛に絡め取られたリカちゃんが斜め上を示す。
「あそこに人がいるの!」
「!」
 見上げた先には、火の粉のような橙色の光を撒き散らしながら俺の方へと向かってくる長衣の影があった。
「落ちなさい!」
 影が近付いてきて顔がはっきりと見える。茶色い髪の外国人っぽい姉ちゃんだ。それが金属製の棒みたいなもので殴りかかってきた。
 ケウが身を捻って躱そうとして、それよりも早くスイングされて来た金属製の棒の一撃をそのどてっ腹に喰らう。
「――ッ」
 短い悲鳴が重なって、ケウやリカちゃん共々俺は橋の下に落ちた。


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 橋の一番高い所から叩き落とされた俺達は、なすすべもなくそのまま河川敷に落下した。
 高い所から地面に落下した衝撃で息が詰まって、鈍い痛みが体を駆け抜ける。
「――、っく、そ、いってぇ……!」
 ケウのあの早さに追いつくとかなんなんだあの姉ちゃん。ケウが俺を毛でグルグル巻きにしてくれなかったらこの一発で俺ヤバかったぞ!?
「大丈夫か? 二人とも」
 ケウの背にまたがり直して訊ねる。
「大丈夫なの、でもおでんわはまだ出来てないの」
 リカちゃんは大丈夫そうにそう答えて、ケウは体を何回か捻って調子を確かめるようにした後に、大丈夫だ、とでも言うように小さく吠えた。
 よし、と逃走を再開しようとしたところ、事務的な口調で声が飛んできて俺達の行動は遮られた。
「モニカの姿が無いようだけど、一体どこにいるのかしら?」
 金属棒を持った、さっきケウをぶん殴って俺達を落下させた茶髪の姉ちゃんだ。
 姉ちゃんは俺達の方へと歩み寄って来る。その後ろに続くようにして、知った顔と知らない顔の男がいた。
「舞、と言ったな。モニカの居場所を教えるんだ。そうすれば手荒な事はしないと約束しよう」
 知ってる顔の方、≪テンプル騎士団≫っていう騎士達の偉い人、ユーグとかいう騎士のおっちゃんがそう言って、
「逃亡しようなどと無駄な事は考えない方が良い」
 和服に髪を後ろで束ねた妙に時代がかった格好に、不釣り合いな釣り竿ケースを吊ったおっちゃんが補足してきた。
 そうは言われてもな……。
 他の二人はどんな人かよく分かんねえけど、とりあえず騎士のおっちゃんだけでも俺達をブッ倒す事くらい余裕で出来るだろうことはよく分かってる。かと言ってこのままここでコイツ等の話し相手をしてもあまり状況はよくなりそうもねえし……。
「……ケウ」
 小声で言うと、ケウはそれだけで俺の考えを察してくれたのか、長い毛を操って引き戻して、俺をケウの背中にしっかりとしがみつかせ、身を翻した。
 目指すは川の中、そして向こう岸――Tさん達の居る場所だ。
 川の中へと飛び込もうとして、
「あまり儂等を煩わせないでもらいたいものだが……」
 いつの間にか移動していた和服のおっちゃんが、釣り竿ケースの中から一本の槍を取り出して進行方向に立ちはだかっていた。
「――っ、」
 舌打ちしてケウの毛を思いっきり引っ張る。ケウは前肢を高く上げて身を反らせて動きを止めると、牙をむいて和服のおっちゃんを威嚇した。
 和服のおっちゃんは気にした様子も無く槍の切っ先をケウに向けて、
「悪いが、その獣を狩らせてもらう」
 突っかかって来た。
 ――やべぇ!
 そうは思っても突っ込んでくるおっちゃんに何も出来ず、思わず目をつぶってケウの身体にしがみついた俺の耳に、聞きなれた声が聞こえた。
「破ぁあっ!」
 同時に炸裂音が聞こえて、視界が閉じた瞼越しに白く染まる。
「っく、早い到着ではないか千勢、それに――Tさん……だな?」
 和服のおっちゃんの言葉に目を開ける。
 おっちゃんは手にした槍の切っ先をケウから外して別の方向に向けていた。俺はその先を追って目線をやる。そこには、
「舞、大丈夫か?」
 両手に光弾を現して、それぞれ茶髪の姉ちゃんと和服のおっちゃんに向けて掌を向けたTさんと千勢姉ちゃんががいた。
 助かった。
 内心胸をなでおろしてTさんに答える。
「お、おう。Tさんたちよくここがわかったな」
「早く到着出来たのはケウが私達の匂いを辿ってここまで来ていたからだな。よくやったぞ、ケウ」
 千勢姉ちゃんがそう言ってケウを労う。
「それに、リカちゃんの電話がはいった。ありがとうリカちゃん」
「お兄ちゃんもありがとうなの!」
 Tさんは微笑でいらえ、おっちゃん達を睨みつけた。
「≪神智学協会≫だな?」
「だとしたら?」
 千勢姉ちゃんが率直に答える。
「徹心が話していた事もある。世界の在り方の改変など知った事ではないが、やはり方法は気に入らんな。今の世界もせっかく受け容れて生きていることでもあるし、まあ、モニカを狙うというのならお前達を叩き潰すさ」
「貴方も同じ意見なの?」
 茶髪の姉ちゃんが棒の先端をTさんに突き付けた。Tさんは頷いて、
「そうだな、あまりオルコットとやらには賛同できん。人の世界は人が治めるべきだろう。どのような間違いがあろうとも、な。そうでなければ人は自らが生み出した都市伝説という幻想の奴隷になり下がる。それに都市伝説が統べる世界が良いものとは限らん」
「そう……」
 茶髪の姉ちゃんが棒を振り上げた。
「じゃあ、力ずくでモニカを連れて行かせてもらうわ」






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