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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-19

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 舞達を避けて行けば幸せだ――!
「破ぁ!」
 Tさんが内心の言葉を前置きにして放った光弾は、祈りのままに舞達を避けて弘蔵とエレナへと迫った。
 ケウを間に挟むようにしてそれぞれの武器をTさんと千勢へと向けていた二人は、弾かれたように跳んで光弾を回避した。
 ケウの方でも舞とリカちゃんを乗せて距離をとり、千勢がケウの背からリカちゃんによって放り投げられた≪壇ノ浦に没した宝剣≫を手にして槍を持った弘蔵の方へと駆けていくのを視界の端で捉えながら、Tさんはユーグと向き合った。
「今度は最初から敵として認識するぞ、Tさん」
 Tさんは頷いて、ユーグに言葉を返す。
「……モニカが何故と問いかけていたよ、ユーグ」
「何故、か……」
 苦く口許を歪めた騎士は黒い悪魔を、その加護を纏った。
 先の言葉には答えず、目的のみを告げる。
「モニカを渡してもらう」
 Tさんは≪ケサランパサラン≫へと祈祷しながら応じた。
「渡しはしないよ、騎士殿」


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 舞とリカちゃんを乗せたまま距離を取ったケウと、それを追おうと〝小松明〟の火を纏って姿を隠して迫っていた弘蔵の間に千勢は滑り込んだ。
「行かせんさ!」
「――っ!」
 弘蔵は千勢に向かって手にした槍を全力で抉りこんだ。
 千勢は剣の腹で火を灯す穂先を受け流すと、繋がる動作で弘蔵の胴を薙ぎに行く。
 弘蔵は地面に背から体を倒れこませて斬撃を躱すと、地面を転がって体勢を即座に戻しながら槍の石突きで千勢を殴打しようとした。
 それを剣の腹で受けとめた千勢は動きを止めた槍の柄を蹴りで跳ね上げる。
 即座に剣を頭上に掲げて、跳ね上げた柄の振り下ろしに対応しながら身を低くして突進し、弘蔵に当て身を喰らわせた。
 ――浅いな。
 軽い手応えを千勢はそう判じる。こちらの当て身に合わせて相手は後方へ跳んだのだろう。
 千勢自身の剛力も手伝って数メートルを飛んだ弘蔵は態勢を崩すことなく着地し、槍の穂先を再び突き込んでくる。
「はっ!」
 千勢は槍の穂先に刃を叩きつけて対応した。
 金属同士がぶつかる高音が響いて、槍の穂先の軌道が逸らされる。
 弘蔵は地面を足で抉りながら突きの勢いを殺すと、槍を手元に引いて、穂先で斬りつけにかかった。
 千勢はそれを躱し、あるいは宝剣で対応して弘蔵に接近しようと試みるが、それをさせまいと弘蔵も槍を振るう。
 両者が続けて放つ突きと斬撃が打ち合わされ、幾度も金属が自身の身を削る悲鳴を上げた。
 脇をかすめた穂先に舌打ちをしながら千勢は相手の正体に目星を付ける。
 私に対応出来る程の技量、ユーグと共に居るところからして、≪神智学協会≫オルコット派の正体不明だった二人の内、一人か……!
 徹心の作成した書類では、個人戦闘に特化した人間である可能性が示唆されていたが、
 ――まったく、良い読みだ!
 弘蔵の攻撃は鋭く的確で、技のみを純粋に競えと言われたら千勢でも対応は慎重を要求される。
 だが、
「これで終わりだ!」
「っ!」
 一際大きな音が上がると同時に弘蔵が振るっていた槍が崩壊した。
 跳び退いた弘蔵は己の武器を確認する。手にしていた槍の崩壊をまぬがれ残された柄の部分は、武器の打ち合わせで傷だらけになってしまってた。
 彼はそれを呆れたように眺め、
「一応、これでも名槍と誉有る業物なのだが……」
「コイツとぶつけるには分が悪いだろう。この剣、原典を辿れば神剣を欠けさせた逸話があってな。――とかく丈夫だ」
 そう言って構えられた≪壇ノ浦に没した宝剣≫には傷一つ付いていない。弘蔵は槍の残骸を放り捨てながら「馬鹿力だ」と苦笑した。
「やはり、相当だな。得物も持ち主も」
「そう誉めるな」
 千勢は宝剣を構えて弘蔵へと斬りかかる。
 刃は弘蔵へと真っ直ぐ向かい――しかし受け止められた。
 宝剣を受け止める為に間に割って入ったのは長衣に茶髪の女性、エレナだ。
 彼女はその手に持つ金属製の棒で宝剣を受け止めていた。
 数歩後退した弘蔵の気配を背中越しに察して、エレナは千勢に告げる。
「私が相手をしましょう」


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 エレナは金属製の棒を千勢に向かって大きく振りかぶった。
 弘蔵から自分へと注意を向けさせるための派手な、しかし注意を向けさせられている事を悟った相手がエレナの攻撃を無視できない程に鋭い動きだ。
 上段から振り下ろされる金属棒は自然、力に任せた動きになる。
 ……≪神智学協会≫オルコット派の最後の一人か!
 そう思いながら千勢は宝剣で金属棒を受け止めた。
 そして違和感を得る。
 ――!?
 剣から手、体へと伝わって来る衝撃が予想よりも大きいのだ。
 ――このッ、馬鹿力……!
 自分の事を棚に上げて心中で悪態をついた千勢の足が、地面に沈み込みかける。
 こちらを押しこもうとする力に対抗して、千勢は剣を力任せにかちあげた。
 金属棒を持ち上げ、すぐに低く構えて一歩を踏みこみ、身体全体で当たりに行く形でエレナへと迫る。
 そうして狙われた突きは、金属棒の尻の部分で防がれた。
 千勢は長時間の接触を避けて一旦距離を置いた。
 一連の打ち合いで金属棒の長さに当たりをつけながら、相手の所有する武装と都市伝説の関連を思案する。
 あの女の能力……馬鹿力だけか……?
 そう考えながら再接近、数合を打ち合い、押して行く。
 しかし相手が持つ棒が斬れない。≪壇ノ浦に没した宝剣≫相手に、ただの金属棒ではあり得ない現象だ。あれも彼女の都市伝説なのだろう。
 ――ならば、
「馬鹿弟子!」
「なんだ!?」
「この女の武器を視ろ!」
 ざっと見た感じではこの金属棒に透視を遮る能力は無い筈だ。ならば相手の武装の正体を知っていた方が戦闘を有利に運ぶ事が出来る。
 Tさんはユーグの相手をしながら、迷惑そうに回避動作の中で視線を振って来た。
「≪デリーの鉄柱≫だ! 他にも何かと契約しているらしいが視えん――ッ!」
 弾かれたようにTさんが跳ね飛ぶ。その一瞬前までTさんがいた空間をユーグの剣が裂いた。
 どうやら向こうも戦闘に忙しいようだ。
 そう思いながら千勢はエレナの胸元で淡く光っている、Tさんの視線を防いだ物品を確認する。
「それは……」
「ユーグがくれた護符のおかげね」
 エレナが胸元で揺れる、掌に目が描かれた護符にちらと視線をやった。
 声が聞こえたのか、Tさんが視線を再度飛ばしてそれを確認するのが千勢にも窺える。同時に千勢は護符の正体を看破した。
 五本指の掌に目の意匠、そんな特徴を持つ護符の名は、
 ――≪ハムサ≫か。
 邪視避けの護符の一つだ。視線を介する能力を妨げるのだろうと千勢にも判断がつくが、
 あの護符、たしか出自は中東の……。
 同じ事を考えていたのかTさんが光弾を放ちがてらユーグに言い放った。
「騎士殿にとっては敵の護符だろうに」
「≪神智学協会≫は人種、信条、性別、階級、皮膚の色の違いにとらわれることがなく、私はあらゆる秘儀に通じている≪テンプル騎士団≫なのでな」
 ユーグが避けた光弾が流れて飛んできて、千勢とエレナは距離を開けるように反対方向へと跳んだ。
 悪びれる風も無く言い放つ。
「馬鹿弟子ののぞき行為は禁止されたか」
 だが彼女が所持している武器の正体は割れた。千勢はその都市伝説に関する伝承を思い出して評する。
「≪デリーの鉄柱≫、いい物を持ってるじゃないか」
 ≪デリーの鉄柱≫は立てられて1500年に渡って錆びる事が無いという世界遺産、クトゥブ・ミナール内にある鉄柱の事だ。
 千勢の斬撃で切断されないという事は、契約による効果は鉄柱の不変性の維持だろうとあたりを付ける。
 ≪デリーの鉄柱≫はあくまで鉄柱自身の不変性を維持しているのに過ぎないだろうな……。
 ならば、
「≪ハムサ≫のせいでうちの馬鹿弟子が視てとれない何か……それがその馬鹿力の正体か!」
 斬撃を浴びせかけに行きながら、一筋縄ではいかない相手だと千勢は認識する。
「その鉄柱で私の首でも取っていくつもりか?」
「それもいいけど、私達が今求めているのはモニカ嬢だけよ!」
 やはりモニカが目的か……。
 今更隠すつもりも無さそうなエレナの言葉に千勢は内心で相槌を打つ。
「そうか、残念だが彼女らは今ここには居ない!」
 そう言い放ちながら≪壇ノ浦に没した宝剣≫と≪デリーの鉄柱≫を打ち合わせる。
「信じると思ってるの!?」
 エレナは≪デリーの鉄柱≫を渾身の力で振り上げて宝剣を跳ね上げた。
 ――やるなっ!
 そう感想を抱く間にも、跳ね上げられた宝剣につられて腕が打ち上げられ、千勢の胴がガラ空きになる。
 千勢は宝剣を先頭とする重心の移動に逆らわず、そのまま上体を逸らした。同時に跳ねあげられていた腕の角度を調整し、頭越しに宝剣を地面へと突き刺す。
 宝剣が地面に刺さって沈み込むままに千勢の上体も反らされて、やがてブリッジを描くように背が地面に着かんばかりになる。
 直後、先程まで千勢の鳩尾があった位置を≪デリーの鉄柱≫の先端が貫いて行った。
 幾条か千勢の黒髪を巻き込んで行く≪デリーの鉄柱≫。それはすぐさま引き戻されて今度は上からブリッジの姿勢の千勢を叩きつける動きを見せた。
 千勢は上体を極限まで反らした状態から足を地面から離し、地に刺さった宝剣を支点にして倒立した。
 そのまま身体を縦に回転させた勢いで宝剣引き抜き、地面に立つ。
 エレナの振りかぶった≪デリーの鉄柱≫が、彼女の踏み込みと共に尚千勢を叩き伏せる軌道で振るわれているのを視界にとらえて、千勢は剣の腹で打撃を受けた。
 金属同士が打ち鳴らされる澄んだ硬質の音が高く響き、その余韻が消えるより早く両者の得物が再度ぶつかりあう。
「――ッ!」
 鋭い呼気と共に千勢は剣を押しこんでエレナを弾き飛ばし、更に蹴足を叩き込んだ。
 エレナは≪デリーの鉄柱≫で蹴足を受け止め、数メートルを地面を踏ん張る足で削りながら滑って行く。
 千勢は追撃に草薙の斬撃を放とうと≪壇ノ浦に没した宝剣≫を腰だめに構え、
 ――――ッ!
 ≪壇ノ浦に没した宝剣≫を振り抜こうとして、出し抜けに一歩を退いた。
 その位置を不可視の斬撃が駆け抜けていくのを認識して、千勢は斬撃の主を視線で射抜く。
「〝北谷菜切〟……不意打ちでも仕留めそこなうか」
 斬撃の主、弘蔵は手にした包丁のような形状をした、所々綻びた刃物を無念そうに眺めて構えた。
「北谷菜切……たしか不可視の斬撃を飛ばす刃物の名だな」
 そう答えながら牽制の刃先をエレナに、油断の無い視線を弘蔵に向けた千勢は二人に問いかけた。
「お前達は見た事の無い顔だな」
 応えたのは槍を失い北谷菜切を構えた着流しの壮年、弘蔵だった。
「儂は秋月弘蔵と言う。研究方面で世話になって以降、オルコットを手伝っている。こっちは――」
「エレナ。エレナ・サヴァレーゼよ、鬼神さん」
 千勢は呼び名にまたか、と呆れたように呟いて、「千勢と呼んで欲しいな」と申し出る。
 エレナは千勢を睨みながら恫喝するように告げる。
「チトセ、今すぐにモニカ・リデルを引き渡しなさい。オルコット様の邪魔をしないで」
「それはできない相談だ」
 言いながら苦笑を浮かべる。
 なぜならそもそも――
「今この場に本当にモニカ嬢は居ない」
「……信じるとでも?」
「……私の方でも白い獣の方を視てみたが、本当に居ないようだ」
 千勢の言葉を否定する動きを見せていたエレナが味方の、ユーグの言葉を聞いて訝しげに目を細めた。
「そんな……どさくさにまぎれてどこかに逃げたという事は?」
「儂ら全員の目から逃れられるのならそれも可能だが、流石に不可能だろう。転移能力者も今はその力を使えない状態なのだろう?」
 弘蔵の言葉を受けて千勢が言う。
「だから言ったろう? この場にモニカは居ないと」
 そう言いながら千勢も相手の様子に違和感を抱いていた。
 ……随分とこの場にモニカが居ない事を驚いているな、まるで居てしかるべき人間が居なかったかのような反応……。何故だ?
 疑問を抱いていると、舞が携帯を片手に声を上げた。
「おい! Tさん! 千勢姉ちゃん! フィラちゃんとモニカの所で何か問題が起きたらしいって徹心のおっちゃんが!」
「何……!?」
 雲隠れしている筈の二人が見つかった。その事実に少なからぬ衝撃を受けていると、≪神智学協会≫側の三人も息を飲んだ気配がした。
 三人はTさんと千勢から距離を取るように離れる。その様子はどこか突然の事態に驚いているように感じられ、
 ……この事態、向こうにとってもイレギュラーなのか?
 千勢が考えているとTさんが傍に来た。
 彼は≪神智学協会≫側の様子をつぶさに観察しながら低く呟く。
「事態が動いたようだな……それも、望まぬ方向に」


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 幽霊船≪ベイチモ号≫の中で、オルコットは緊急の名目で飛んできた情報に悠然と頷いた。
「そうか、ウィリアムがモニカを探査する都市伝説を入れ替えていたか……お前たちは引き上げて来い。モニカはウィリアムの手に落ちただろう。詳しく報告をしてもらいたい」
 そう指示を出したオルコットへと≪冬将軍≫が訊ねる。
「動じてはいないようだな?」
「予想はしていた……大方これの複製でも作っていたのだろう」
 そう言ってオルコットは紙片を机に放り出す。紙片は幾度か机の上で震え、やがて静止した。
「探査を妨害されたか……対抗策も心得ているようだ」
「これは手詰まりかな?」
 ≪冬将軍≫の試すような語調にオルコットはまさか、と首を振る。
「時間さえかければ異界越しにでも探査を完了することが出来るまでに改良されたこれに探れぬものなどない」
 そう言って、オルコットは渋い顔で笑った。
「ウィリアムめ……私から離れなくとも実験はできように」
「アレは自分の好きなようにモニカを弄びたいだけだろう。オルコット、君がいるとあまり過激な事は出来ないだろうからな」
 ≪冬将軍≫の言葉にオルコットは頷いた。「ある程度まではそれもいい……」と答えた上で、今後の方針を口にする。
「モニカを壊されてしまえば、また始めからやり直さなければならん。モニカの封印の解除が確認でき次第、モニカを我々で押さえなければな」




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