恐怖のサンタ 日常編 22
「――――あれ?」
夕刻。ヴァレンタインと別れ、一人家路についた俺は、道の先に見慣れた赤いシルエットを見つけた。
ふらふらと夢遊病者のように歩くそれは、冬だと言うのにミニスカワンピースで身を覆っている。
今朝と違い、今は何故か赤いケープと肘近くまで覆う同じく赤い手袋を着用しているが、間違いない。マゾだ。
今日は確か「資料」を渡してくれた例の一人にお礼を言いに行く……という名目で一日ストーキングを敢行していたはずだが、こんな時間にどうしたのだろうか。
ふらふらと夢遊病者のように歩くそれは、冬だと言うのにミニスカワンピースで身を覆っている。
今朝と違い、今は何故か赤いケープと肘近くまで覆う同じく赤い手袋を着用しているが、間違いない。マゾだ。
今日は確か「資料」を渡してくれた例の一人にお礼を言いに行く……という名目で一日ストーキングを敢行していたはずだが、こんな時間にどうしたのだろうか。
(……アイツ、何カ変ジャネェ?)
(だよなぁ…………)
(だよなぁ…………)
そのまま天にでも上ってしまいそうな軽い足取りで、マゾはこちらの方へと向かってくる。
時折立ち止まっては、手に持った紙袋を抱きしめて、何やら非情に蕩けた表情をしている。
時折立ち止まっては、手に持った紙袋を抱きしめて、何やら非情に蕩けた表情をしている。
(…………ツイニ壊レチマッタノカ?)
(ありそうで怖いから言うな)
(ありそうで怖いから言うな)
マゾがこれからどこへ行くつもりなのかは知らない。
しかし、この状態のまま放って置くのは、どう考えても危険以外の何物でもない。
いくら不死身とはいえ、「教会」の連中が町を跋扈している今、あんな薄着で歩くのは襲ってくれと言わんばかりではないか。
こうしている間にもマゾは迫り、俺との間隔は最早2メートルも無いのだが、マゾがこちらに気づいた様子は無い。
なんとも危なっかしいので、俺は声をかけることにした。
しかし、この状態のまま放って置くのは、どう考えても危険以外の何物でもない。
いくら不死身とはいえ、「教会」の連中が町を跋扈している今、あんな薄着で歩くのは襲ってくれと言わんばかりではないか。
こうしている間にもマゾは迫り、俺との間隔は最早2メートルも無いのだが、マゾがこちらに気づいた様子は無い。
なんとも危なっかしいので、俺は声をかけることにした。
「――おーい、マゾー!」
「…………………………………………はい?」
「…………………………………………はい?」
マゾがぼんやりとした返事をする。この間約五秒。
……本当に大丈夫か、あいつ。
立ち止まってマゾは周囲を見回し、それでようやく俺の姿を目にとめた。
……本当に大丈夫か、あいつ。
立ち止まってマゾは周囲を見回し、それでようやく俺の姿を目にとめた。
「…………あ、契約者じゃないですか。どうしたんですか、こんな所で」
「それはこっちのセリフだっての。今日は夜まで帰らないんじゃなかったのか。例の一人の所に行くとかで」
「あー、契約者。聞きたいですか? 聞きたいですかっ!?」
「それはこっちのセリフだっての。今日は夜まで帰らないんじゃなかったのか。例の一人の所に行くとかで」
「あー、契約者。聞きたいですか? 聞きたいですかっ!?」
ケープについた白いボンボンを左右にはためかせ、マゾが歩み寄ってくる。
「な、なんだ。なんか良いことでもあったのか」
「えへへへへー。それがですね! それがですね!!!」
「えへへへへー。それがですね! それがですね!!!」
紙袋をより一層強く抱きしめ、マゾがピョンピョンとはねる。
それにつられ、今度は縦に揺れるボンボン。
……なんだ、一体何があったというのか。
マゾと出会って一年と一ヶ月。ここまで嬉しそうにしている彼女は初めて見たかもしれない。
それにつられ、今度は縦に揺れるボンボン。
……なんだ、一体何があったというのか。
マゾと出会って一年と一ヶ月。ここまで嬉しそうにしている彼女は初めて見たかもしれない。
「…………あ、ちょっと待ってください契約者。話したいのは山々、本当に山々なのですが、その前にちょっとやることがあります」
「あ、ああ。別に構わないぞ」
「では失礼して」
「あ、ああ。別に構わないぞ」
「では失礼して」
紙袋を左手で抱え、手袋をはめたマゾの右手が、俺の手を取る。
マゾの体温で暖められた手袋は、俺の冷え切った肌にじんわりと暖かかった。
マゾの体温で暖められた手袋は、俺の冷え切った肌にじんわりと暖かかった。
「……って、え、ちょ、お前何やって――――」
「すぐです、すぐ。すぐ終わりますので」
「すぐです、すぐ。すぐ終わりますので」
そう言って、マゾは俺の手を、その頬へと導いた。
寒さで赤みがかったマゾの頬に、俺の掌が宛がわれる。
……うわ、やわらけぇ。
掌から、マゾの頬の感触、そして体温がフィードバックされる。
女の子の頬に触れたのなんて、良子以外で初めてかもしれない。
若干の丸みを帯びたそれは、もちもちしていて弾力がある。
寒さで赤みがかったマゾの頬に、俺の掌が宛がわれる。
……うわ、やわらけぇ。
掌から、マゾの頬の感触、そして体温がフィードバックされる。
女の子の頬に触れたのなんて、良子以外で初めてかもしれない。
若干の丸みを帯びたそれは、もちもちしていて弾力がある。
……っていや、何素直に楽しんでんだ俺。つーかマゾは一体何を――――
「――――つまんで下さい、契約者。力の限り思いっきり」
――――はい?
「な、なにゆえに」
「なにゆえにでもです」
「なにゆえにでもです」
動揺する俺とは対照的に、マゾの表情は真剣そのものだ。
こ、これはあれか、何かの都市伝説に操られてるのか?
思わずあたりを見回すと、散歩中のおじいちゃんと目が合った。
微笑ましそうにこちらを見ている。
顔が赤くなった。くそ、どこの誰だか知らないが、マゾに一体何をしたんだ。
こ、これはあれか、何かの都市伝説に操られてるのか?
思わずあたりを見回すと、散歩中のおじいちゃんと目が合った。
微笑ましそうにこちらを見ている。
顔が赤くなった。くそ、どこの誰だか知らないが、マゾに一体何をしたんだ。
――のるか。そるか。
ゲームならここで時が止まり選択肢でも出ている所なのだろうが、あいにく現実の選択肢は俺を待ってなどくれない。
ゲームならここで時が止まり選択肢でも出ている所なのだろうが、あいにく現実の選択肢は俺を待ってなどくれない。
「契約者、ほら、早く早く」
「…………ええいっ、ままよっ!」
「…………ええいっ、ままよっ!」
――――むにゅぅ。
……お、おおぅ、何だこれ。超やぁらかいぞ。
俺の左手でつままれた頬が、本当にモチのように伸びる。
俺の左手でつままれた頬が、本当にモチのように伸びる。
「こ、こんな感じで良いのか」
「も、もっひょ。もっひょ強くお願いしまふ」
「あ、ああ」
「も、もっひょ。もっひょ強くお願いしまふ」
「あ、ああ」
マジか。もっと強くってどこまで伸ばせばいいんだ、俺。
というか相変わらずじいちゃんが見てる。散歩続けろよおじいちゃん。恥ずかしいよおじいちゃん。
何だか居たたまれなくなってきた。
路上に立つマゾと、そのマゾの頬をつまむ俺。
はたからは一体どんな風に見えているのだろうか。
というか相変わらずじいちゃんが見てる。散歩続けろよおじいちゃん。恥ずかしいよおじいちゃん。
何だか居たたまれなくなってきた。
路上に立つマゾと、そのマゾの頬をつまむ俺。
はたからは一体どんな風に見えているのだろうか。
(……ばかっぷるジャネェノ?)
(やめろ良子に殺される)
(ソォカヨ)
(やめろ良子に殺される)
(ソォカヨ)
「も、もういいか?」
「あ………………はい………………」
「あ………………はい………………」
言ったマゾの表情は、今度は打って変わってどんよりしていた。
ついさっきまで笑っていたかと思うと、いきなり顔をかきくもらせる。
情緒不安定にも程がある。これは本当に何かあったのだろうか。
ついさっきまで笑っていたかと思うと、いきなり顔をかきくもらせる。
情緒不安定にも程がある。これは本当に何かあったのだろうか。
「ど、どうした。なんか変だぞ、お前」
「……あ、あの、契約者――――」
「ん?」
「……あ、あの、契約者――――」
「ん?」
ぎゅっと紙袋を再度抱きしめて、マゾが不安そうな表情を俺に向ける。
「やっぱりこれ、夢なんですかね?」
「…………んん?」
「直希様がいきなりプレゼントをしてくれましたし、契約者が何だかオカマみたいな格好してますし、それに――ほっぺをつねられても痛くありませんでしたし……」
「…………んん?」
「直希様がいきなりプレゼントをしてくれましたし、契約者が何だかオカマみたいな格好してますし、それに――ほっぺをつねられても痛くありませんでしたし……」
あわわと何やらテンパっているマゾ。
……つまりあれだろうか。
マゾは今が夢かどうかを確かめたくて、俺に頬をつねってもらって、そして痛くないから夢だと思ってる……?
いや、しかしそんなの――――
……つまりあれだろうか。
マゾは今が夢かどうかを確かめたくて、俺に頬をつねってもらって、そして痛くないから夢だと思ってる……?
いや、しかしそんなの――――
「……だってお前、痛み感じないじゃん」
「……………………あ」
「……………………あ」
俺とマゾの間を、乾いた冬の風が通り抜ける。
マゾが瞠目していた。マジで気づいてなかったのかこいつ。
マゾが瞠目していた。マジで気づいてなかったのかこいつ。
「……じゃあ、頬が痛くないのは」
「お前の体質のせいだろ」
「……じゃあ、契約者が変な格好をしているのは」
「言うな。精神的にきついから触れないでくれ」
「……じゃあ、直希様が私にプレゼントを下さったのは!」
「現実だろ。いや、というか何やってるんだ例の彼さん」
「お前の体質のせいだろ」
「……じゃあ、契約者が変な格好をしているのは」
「言うな。精神的にきついから触れないでくれ」
「……じゃあ、直希様が私にプレゼントを下さったのは!」
「現実だろ。いや、というか何やってるんだ例の彼さん」
都市伝説にやられたのは例の一人の方だったのだろうか。
幻覚系の都市伝説に精神汚染されたとか……?
幻覚系の都市伝説に精神汚染されたとか……?
思案する俺をよそに、マゾは暗かった表情を明るく変えていき――――
「えへ。えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「待てちょっと待て。その顔はまずい。蕩ける通り越してモザイク処理しないと駄目な顔になってるって!」
「待てちょっと待て。その顔はまずい。蕩ける通り越してモザイク処理しないと駄目な顔になってるって!」
にへらとマゾが笑う。そんなに嬉しかったのだろうか。いや嬉しかったのだろう。
あんな情緒の欠片も無い紙束ですら家宝にすると言っていたのだ。
それが本当にまともなプレゼントなど貰ってしまったら、これから一体どうなってしまうのか。
…………怖いから想像するのは止めよう。
あんな情緒の欠片も無い紙束ですら家宝にすると言っていたのだ。
それが本当にまともなプレゼントなど貰ってしまったら、これから一体どうなってしまうのか。
…………怖いから想像するのは止めよう。
「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「ってか怖っ! 顔怖っ!」
「ってか怖っ! 顔怖っ!」
おじいちゃんお前見て逃げちゃったよ、かわいそうに。
「ほ、ほら。どこにも行く予定がないなら帰るぞ。そんな顔いつまでも公衆の面前に晒してちゃちゃいけません」
「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「いやえへへじゃなくて歩けよ」
「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」
「いやえへへじゃなくて歩けよ」
ずるずると、だらしなく弛緩しきった顔のマゾをひっぱる。
――――冬空の下、陶然とした女の子を引き連れるオカマ。
……通報されなかったのが奇跡だと、後になって思った。
……通報されなかったのが奇跡だと、後になって思った。
【Continued...】