私は普通の少女だった
「「「お嬢様、お帰りなさいませ」」」
家の扉を開けば、大勢の家政婦達に迎えられ
「あら、もう食べないの?」
「まだまだこんなに残ってるじゃないか、そんなことでは大きくなれないぞ?」
「まだまだこんなに残ってるじゃないか、そんなことでは大きくなれないぞ?」
毎日食べきれないほどの食事を与えられ
「ほぉら、お前にお土産だ、欲しかっただろう?」
欲しいものは何でも買い与えられた
他人から見れば、これは普通じゃないというかも知れない
特別な人にしか与えられない生活だと羨ましがる人もいるかも知れない
それでも、私にとっては在り来たりな、極普通の生活でしかなく、
私は、どこまでも普通の少女だった
特別な人にしか与えられない生活だと羨ましがる人もいるかも知れない
それでも、私にとっては在り来たりな、極普通の生活でしかなく、
私は、どこまでも普通の少女だった
何か、変化が欲しかった
家政婦達に支えられ、父や母に甘やかされて終わる1日ではなく、
明日になるのが楽しみだと思えるような、変化のある生活に憧れていた
明日になるのが楽しみだと思えるような、変化のある生活に憧れていた
私は友達が欲しかった
共に遊んで、喧嘩して、仲直りして、悪戯して、怒られて、泣きあって、笑いあって―――
ずっと傍にいて欲しくなるような、傍にいたくなるような友達が欲しかった
共に遊んで、喧嘩して、仲直りして、悪戯して、怒られて、泣きあって、笑いあって―――
ずっと傍にいて欲しくなるような、傍にいたくなるような友達が欲しかった
なのに、両親はそれを許してくれなかった
「お前は“お嬢様”なんだ。そこらにいる子供とは違う、特別な女の子なんだ
お前に相応しいお友達に会えるまで、家政婦さんとお友達になってあげなさい」
お前に相応しいお友達に会えるまで、家政婦さんとお友達になってあげなさい」
両親には、私の気持ちが伝わらなかった
私は親を憎んだ
殺意さえも沸いた
でも、自分を生んで、ここまで育んでくれたのは他でもないその両親だった
枕を涙で濡らす日々が続いた
私は親を憎んだ
殺意さえも沸いた
でも、自分を生んで、ここまで育んでくれたのは他でもないその両親だった
枕を涙で濡らす日々が続いた
そんな私の、唯一の変化
私は両親も知らない、不思議な力を持っていた
重い物を持ち上げる力
何処か知らない所に行くことができる力
綺麗な赤い光を作り出す力
いつから持っていたのか分からないけれど
使う度、頭が痛くなったり身体が熱くなったりするけれど
この力で家政婦達を困らせる事は何よりも楽しく、
この力で生み出した赤い輝きは、何よりも心を癒してくれた
私は両親も知らない、不思議な力を持っていた
重い物を持ち上げる力
何処か知らない所に行くことができる力
綺麗な赤い光を作り出す力
いつから持っていたのか分からないけれど
使う度、頭が痛くなったり身体が熱くなったりするけれど
この力で家政婦達を困らせる事は何よりも楽しく、
この力で生み出した赤い輝きは、何よりも心を癒してくれた
私は普通の生活と、変化のある生活の間で暮らしていた
きっと、永遠にこんな暮らしを続けていくのだろう
そう、思っていた
きっと、永遠にこんな暮らしを続けていくのだろう
そう、思っていた
雷が轟き、雨が激しく降る夜
雷鳴とは違う別な音を聞いて、私は部屋を飛び出した
玄関に広がる真っ赤な水溜り
血塗れになって倒れ伏す両親、家政婦達
それを踏みつけてけらけらと笑う、4人の男性
雷鳴とは違う別な音を聞いて、私は部屋を飛び出した
玄関に広がる真っ赤な水溜り
血塗れになって倒れ伏す両親、家政婦達
それを踏みつけてけらけらと笑う、4人の男性
「あぁお嬢ちゃん、君のお父さんがプレゼントをくれるって約束してくれてたんだけど、
お父さんもお母さんもこの通り寝ちゃっててさ
どこにあるか、知らないかな?」
お父さんもお母さんもこの通り寝ちゃっててさ
どこにあるか、知らないかな?」
違う
寝てなんかいない
もう、皆この世にはいなかった
彼らが殺した
私の両親を、家政婦を―――家族を、皆
確かに、悪戯をして迷惑をかけたこともあった
確かに、一度は殺したいとも思っていた
でも
鮮血に沈められた家族と、返り血を浴びて怪しく笑う男達を見て
悲哀や恐怖ではなく、憤怒や怨恨、憎悪が混ざったような感情が
寝てなんかいない
もう、皆この世にはいなかった
彼らが殺した
私の両親を、家政婦を―――家族を、皆
確かに、悪戯をして迷惑をかけたこともあった
確かに、一度は殺したいとも思っていた
でも
鮮血に沈められた家族と、返り血を浴びて怪しく笑う男達を見て
悲哀や恐怖ではなく、憤怒や怨恨、憎悪が混ざったような感情が
私の中で、大きな音を立てて、爆発した
「ガァッ!・・・・・・」
もう意思も感情も無い
私は本能のまま1人を殴った
男は壁に頭をぶつけ気を失い、血を流しながらずるずると座り込んだ
私は本能のまま1人を殴った
男は壁に頭をぶつけ気を失い、血を流しながらずるずると座り込んだ
「このっ・・・ガキィ!」
2つの銃声
飛んできた弾丸を、赤い光の壁で受け止めた
言葉を失った男2人を、再び赤い光を放って吹き飛ばす
ばしゃりと血の中に倒れこみ、動かなくなった
あと、1人
飛んできた弾丸を、赤い光の壁で受け止めた
言葉を失った男2人を、再び赤い光を放って吹き飛ばす
ばしゃりと血の中に倒れこみ、動かなくなった
あと、1人
「あ・・・・・・・ぁぁ・・・・・・ば、け・・・もの・・・・」
腰を抜かし、必死に後退る男を、光の刃を作って追い詰める
とん、と背に壁が当たった瞬間、彼の顔は恐怖に引き攣っていった
とん、と背に壁が当たった瞬間、彼の顔は恐怖に引き攣っていった
「た・・・たすけてくれ・・・」
また爆発しそうになった
この男は、私の家族を皆殺した
なのに今、自分が殺されそうになって命乞いをしている
躊躇いなく私は刃を振り上げ、ショックで気絶した男を真っ二つに―――――――
この男は、私の家族を皆殺した
なのに今、自分が殺されそうになって命乞いをしている
躊躇いなく私は刃を振り上げ、ショックで気絶した男を真っ二つに―――――――
――――――――――できなかった
私が今、この男を殺せば、私はこの男達と同じ罪を背負う事になる
それで両親達は喜んでくれるのだろうか
この男の家族や友人達は、どう思うのだろうか
そんな思いが、脳を駆け巡る
爆発した怒りとその思いがぶつかったように身体が熱くなる
激しく戦っているかのように、身体が壊れそうになる
それで両親達は喜んでくれるのだろうか
この男の家族や友人達は、どう思うのだろうか
そんな思いが、脳を駆け巡る
爆発した怒りとその思いがぶつかったように身体が熱くなる
激しく戦っているかのように、身体が壊れそうになる
―――もう、人ではいられないかも知れない
私の目の前は、真っ暗になった
† † † † † †
あれから40年・・・
「・・・時の流れは速いものですわね」
抑えきれなくなった「フォトンベルト」に飲まれ、
ある日突然、ある御方に勧誘され、ワタクシは「組織」の一員になりましたの
ある日突然、ある御方に勧誘され、ワタクシは「組織」の一員になりましたの
あの事件の後の事は、よく覚えていませんわ
覚えていた事は2つ
4人の殿方はきちんと法によって裁かれた事
ワタクシの家族はきちんと供養された事
覚えていた事は2つ
4人の殿方はきちんと法によって裁かれた事
ワタクシの家族はきちんと供養された事
『生活の変化』を望んでいたワタクシでしたが
この「組織」に入ってから、ワタクシの生活は特別なことばかりですわ
仲間と紅茶を飲んで
仲間と一緒に笑って
仲間に仕事を怠けているところを見つかって怒られて
ワタクシは仲間の・・・いいえ、友達の大切さを知る事が出来ましたの
けれど
今こうして、ワタクシがこの世にいられるのは、あの方達のお陰なのだから
せめて、せめて一言だけ、両親に伝えたかった
この「組織」に入ってから、ワタクシの生活は特別なことばかりですわ
仲間と紅茶を飲んで
仲間と一緒に笑って
仲間に仕事を怠けているところを見つかって怒られて
ワタクシは仲間の・・・いいえ、友達の大切さを知る事が出来ましたの
けれど
今こうして、ワタクシがこの世にいられるのは、あの方達のお陰なのだから
せめて、せめて一言だけ、両親に伝えたかった
「『生んでくれて、ありがとう』、って・・・」
バタンッ!とドアが勢い良く開け放たれ、
「R-No.0、何暢気に紅茶なんて飲んでるんですか。貴方の書くべき書類は山ほどある筈ですが?」
「へ? あ、あの、その・・・き、今日は紅茶日和でしたので、おほほほほ・・・あ、蓮華ちゃんもご一緒n」
「ふざけないで今日中に書き上げてください。でないとただでは済みませんからね・・・クスッ」
「へ? あ、あの、その・・・き、今日は紅茶日和でしたので、おほほほほ・・・あ、蓮華ちゃんもご一緒n」
「ふざけないで今日中に書き上げてください。でないとただでは済みませんからね・・・クスッ」
再び、勢い良くドアが閉められる
「あらあら; では、少し張り切っちゃおうかしら」
紅茶から漂う薔薇の香りを胸いっぱいに堪能した後、
ワタクシはペンを持ち、仕事に取り掛かり始めました
ワタクシはペンを持ち、仕事に取り掛かり始めました
―――今日も、良い一日でありますように
...END