●
秋月のおっちゃんを伴って、俺達は通路を駆け抜ける。
次々と現れる兵隊は秋月のおっちゃんが信じられない早さで斬っていって道を作ってくれていた。
本当に俺達を道中守ってくれる気があるらしい。
何度目か、刀身に小さな光を宿らせて刃に付いた汚れや歪みを直した秋月のおっちゃんに隠し部屋をリカちゃんが察知した事を伝えながら、俺は訊ねた。
「その不思議刀ってさ、もしかしてこの前千勢姉ちゃんに槍ぶっ壊されたからその対策用の武器?」
「……一応はそうなる。それに今回は多く斬る必要がある。長く使える武器が要り用だったのだ」
そう言いながらおっちゃんは壁を斬って中を確認する。中は良く分からない実験室のような部屋で、特に怪しい所は無かった。
これまでも数回同じ結果を繰り返してる。モニカを見つけれなかった事に、もう変に気落ちする事もなく、すぐに次の隠し部屋を探してまた通路を走りだす。
「その今回多く斬る必要があった兵隊達だけどさ、やっぱそいつらもウィリアムの研究って奴に何か思い入れとかあんのかな?」
おっちゃんは不思議そうな目で俺を見て、ややあってから首を振った。
「……いや、無いだろう。ここに居る者達は金で雇われた者かウィリアムに力を与えられるのを狙っているような卑しい者ばかりだ」
「力……超能力部隊のことね?」
フィラちゃんが呟く。
「それも一つ。他にも、身に付けるだけで一定の効果を発揮する都市伝説をウィリアムは開発し、保持している」
≪千人針≫みたいなやつか……。
「なんつーか、金とか、そんな理由でも殺し合いとかできるんだな」
「皆が皆立派な題目を掲げているわけではないし、ただ生きる手段として人を殺す者とている。現在のこの国に生まれた娘には分からないか」
秋月のおっちゃんが言う通り、俺にはそういうのはこれっぽっちも分からない。所詮は高校を卒業したばかりの小娘だ。分かってるさ。きっと俺の見識は狭いんだろう。
「秋月のおっちゃん達はどうなんだ? オルコットの世界の在り方を変えちまうって奴を目指してんの?」
「舞ちゃん」
フィラちゃんが注意するような口調で言ってきた。
「いいじゃん、気になる事を聞いたってさ」
「一応敵方なのよ?」
俺達の会話を聞いて、秋月のおっちゃんが苦笑した。
「異なことを聞く娘だ。質問すれば答えが聞けると思っているのも問題だが、答えたとして正直な事を話すとは限らんぞ?」
「話半分で構わねえよ。≪神智学協会≫って内紛起こしてオルコットに反対する奴を皆潰したりしたんだろ? 徹心のおっちゃんが作った資料見たけどさ、≪神智学協会≫としてオルコットが傍に残したのってめちゃくちゃ少人数じゃん? オルコットが最終的に手元に置いてる奴等がどんな事を思ってるかとかさ、やっぱ気になるじゃん?」
フィラちゃんが引き攣った顔で、そろそろやめておけ的ジェスチャーをする。
うーん……、
「やっぱ秘密?」
秋月のおっちゃんを見ると、押し殺した笑い声がした。
「面白い娘だ。――そうだな、エレナや≪冬将軍≫は本気でオルコットに従っているだろう。ユーグは複雑だ。彼は≪テンプル騎士団≫という都市伝説なのだが、どのような存在か知っているか?」
話を始めてくれた。その事にフィラちゃんと目を見合わせて軽く驚く。
「知らんのか?」
「あ、いや、知ってるぞ?」
Tさんとか徹心のおっちゃんに教わったからな。大体どういう存在かは分かってる。
秋月のおっちゃんは頷いて、
「――彼は元々都市伝説に語られるように異端者として存在していたのだ。そこにエルマー・リデル、モニカの祖父が契約者として現れた。彼は契約の後、世間から指弾され荒れていた≪テンプル騎士団≫達を纏め上げ、裏では史上のテンプル騎士団の名誉を回復させるために教会を弾劾した。
そのような過去があるために、彼は人間を、リデルの家を敬っている」
「それでなんでモニカを怪しげな実験に使おうとしたりあの子の両親を殺したりしたの?」
フィラちゃんが訳が分からないというふうに問いかける。秋月のおっちゃんは首を振って、
「そこまでは儂には窺い知れん。そも、儂が真実を話しているかもわからんぞ?」
おっちゃんの言い方はそっけない。その様子から今の話が本当かどうかを判断するのは俺には無理だ。
だから、とりあえず判断は保留。今の話は徹心のおっちゃんにでも訊けば本当かどうかわかるだろうしな。
じゃあ次は、
「秋月のおっちゃんはどうなんだ? 世界を改変したいって思ってんの?」
「儂は――」
呟いたおっちゃんは曲がり角から現れた兵隊を出会い頭に斬り付けた。驚いて反射的に身を竦めると、秋月のおっちゃんは口許を小さく歪めた。
「儂は元々時代遅れの武芸者。どこまで儂は力を得られるのか、その果てにあるものに興味があったのだ。人間の潜在能力の探究を標榜しておった≪神智学協会≫には儂の性向の縁で所属しておる。ウィリアムに身を預けて実験に使わせたのも興味故……オルコットには恩がある、彼の理想の手伝いはするが、エレナのようにそのために生きるという事はせん」
恩……。
「じゃあさ、ウィリアムの方には付こうとは思わなかったのか? ウィリアムの実験に身を預けたって事はさ、そっちとも繋がりがあったんだろ?」
「たしかにあの男は研究者としては有能な男だ。そして≪心霊手術≫、その能力の手練でもある。しかし人格がいかんともしがたい。好きにはなれぬよ。ウィリアムは元よりオルコットの世界の在り方の改変の結果そのものには興味が無いようだった。
そう、あの男はそこに至るまでの過程、世界の理を書き換えるその力そのものとその為に行われる実験に興味を持っていた。それゆえに力の器になるモニカ嬢に執着しているわけだが――」
『――――まったくその通りだね。そして今、その成果が見られようとしているんだ。アキヅキ、邪魔はもう少ししないでもらいたいな』
突然通路の天井から聞こえてきた声に思わず俺達は動きを止めた。
「なんだこの声!?」
「……ウィリアム」
「え?」
……マジかよ?
始めて聞くウィリアムの声は妙に神経を逆なでするような声音だった。
『オルコットとは互いに利用し利用され、結局ワタシの方が多くを吐き出す事になってしまったが、それでも十分な報酬を得たね。モニカ嬢、彼女の封印もじきに解ける。邪魔はして欲しくないね。もう少しの間、その仔達の相手でもしておいてくれ』
「お姉ちゃん! 前!」
リカちゃんが叫んでケウが前肢に体重をかけて進むのを止めた。振り落とされそうになって必死にケウにしがみつく。
完全に止まったところで顔を上げて通路の先を見てみると、
「なんだ……ありゃ?」
通路一杯に奇怪な生き物が溢れていた。
一つはよく映画とかで見る≪フランケンシュタイン≫っぽく見えるけど……他の類人猿の出来そこないみたいのと不気味な粘土みたいな生き物はなんだ?
「あれは、≪ヨーウィー≫に≪ブギーマン≫?」
「フィラちゃん知ってんの?」
ええ、と頷いてフィラちゃんが堅い表情になる。
「モニカを攫いに来た時にウィリアムが連れていた都市伝説よ」
『正解だ』
天井からの声はやけに嬉しそうに言う。
『その仔らは人肉や都市伝説の残骸を組み合わせて作ったワタシの自信作だ、君等の居場所も機械を通して伝えているので白い獣の能力は意味を為さないね』
「く、居場所、ウィリアムにはわかってんのかよ!?」
「さっきの白衣の男のような透視……?」
『違う違う、ワタシは自身を超能力兵士に改造しようなどとは思わないよ。戦闘のセンスはからっきしだからね。これは≪ピリ・レイスの地図≫のおかげだ。オルコット達が持っている原本を改良する依頼を受けた時に占術系都市伝説を組み上げて複製した代物で、なかなかの精度を誇る。通路の監視カメラを破壊してもその仔らの補足からは逃れられんよ。――では、健闘を祈っている』
そう残して通信は途切れた。
奇怪な生き物達はどんどん俺達の方に迫ってきている。その外見のせいで目で俺達をしっかり確認しているのかを判断するのは難しいけど、多分居場所はばれてる。
「……どうする?」
「……強引に行くしかないでしょう」
「だよな」
答えてケウの首を叩く。
「ケウ、行っちまえ!」
言いながらフィラちゃん共々ケウの背中に思いっきりしがみつく。
ケウは低く唸り声を上げて床を跳ね飛んで壁を蹴り付けた。とんでも無い軌道で進むケウに振り落とされないようにしていると近くから声がする。
「やはり≪ピリ・レイスの地図≫が複製されていたか」
ケウの動きに余裕の表情で付いて来ている秋月のおっちゃんの声だ。
「≪ピリ・レイスの地図≫、モニカの居場所を探り当てたのもそれね?」
フィラちゃんが訊ねる。Tさん達が言ってた≪神智学協会≫が持ってる優秀な探知機の名前がそれなんだろうか?
どんな都市伝説かは分かんねえけど、かなりの広範囲を探る事が出来る都市伝説って事になるよな。
「数年前、モニカ嬢を徹心が匿ったと推測したオルコットが最終的に彼の異界を探り当てられるようにあらゆる改造を施された都市伝説だ。時間さえあれば異界内に逃げても補足可能、その白い獣では隠れることはかなうまい」
そう言って秋月のおっちゃんは足を止めた。ケウも同じように動きを止める。
「……完全に包囲されているようだ」
「へ?」
「囲まれたわね」
フィラちゃんが言って俺も周囲を見回す。
通路一杯に広がっている奇怪な生き物の大群が視界いっぱいに広がっていた。
「うそだろおい……」
パニック映画とかだとこれ、もうなんか絶望的な状況じゃね?
そう思っていると、秋月のおっちゃんが腰からボロい包丁見たいな刃物を取り出した。
この前も見た事のある……たしか北谷菜切とか言った、見えない斬撃を飛ばす危険物だったはずだ。
「――ッ!」
おっちゃんは空気を切る音を伴いながら北谷菜切を振るった。
見えない斬撃がいくつも飛んで、異形の大群が切り裂かれていく。
生肉が地面に転がる水気を含んだ嫌な音や異形達の絶叫が何度もして、今までの進行方向の逆方向、地上の方に続く通路が開かれた。
秋月のおっちゃんはその道を指さす。
「君達はここで手を引け、姿を補足されるのならもうこれ以上進めはしないだろう。儂としても武芸者以外を手にかけるのは忍びない」
「ざけんな、モニカを取り返す。んでもって≪神智学協会≫がまだモニカを狙うんならそれを邪魔する。手を引いてなんかやるもんか」
秋月のおっちゃんは呆れたようにため息を吐いた。
「……警告はした」
言って秋月のおっちゃんは一人で勝手に前進し始めた。
「あ、てめ、おっちゃん! 一人で先に行くんじゃねえよ! おい!」
おっちゃんは止まらない。でっかい刀で都市伝説の群れの中に突っ込んで、すぐに目じゃ追えなくなっちまった。
「くそ……っ」
「お姉ちゃん……」
ケウが唸り声を上げながら後ずさる。このまま強引に進もうとすればまた囲まれる事になるよなぁ……。
さて、どうしようか……。
次々と現れる兵隊は秋月のおっちゃんが信じられない早さで斬っていって道を作ってくれていた。
本当に俺達を道中守ってくれる気があるらしい。
何度目か、刀身に小さな光を宿らせて刃に付いた汚れや歪みを直した秋月のおっちゃんに隠し部屋をリカちゃんが察知した事を伝えながら、俺は訊ねた。
「その不思議刀ってさ、もしかしてこの前千勢姉ちゃんに槍ぶっ壊されたからその対策用の武器?」
「……一応はそうなる。それに今回は多く斬る必要がある。長く使える武器が要り用だったのだ」
そう言いながらおっちゃんは壁を斬って中を確認する。中は良く分からない実験室のような部屋で、特に怪しい所は無かった。
これまでも数回同じ結果を繰り返してる。モニカを見つけれなかった事に、もう変に気落ちする事もなく、すぐに次の隠し部屋を探してまた通路を走りだす。
「その今回多く斬る必要があった兵隊達だけどさ、やっぱそいつらもウィリアムの研究って奴に何か思い入れとかあんのかな?」
おっちゃんは不思議そうな目で俺を見て、ややあってから首を振った。
「……いや、無いだろう。ここに居る者達は金で雇われた者かウィリアムに力を与えられるのを狙っているような卑しい者ばかりだ」
「力……超能力部隊のことね?」
フィラちゃんが呟く。
「それも一つ。他にも、身に付けるだけで一定の効果を発揮する都市伝説をウィリアムは開発し、保持している」
≪千人針≫みたいなやつか……。
「なんつーか、金とか、そんな理由でも殺し合いとかできるんだな」
「皆が皆立派な題目を掲げているわけではないし、ただ生きる手段として人を殺す者とている。現在のこの国に生まれた娘には分からないか」
秋月のおっちゃんが言う通り、俺にはそういうのはこれっぽっちも分からない。所詮は高校を卒業したばかりの小娘だ。分かってるさ。きっと俺の見識は狭いんだろう。
「秋月のおっちゃん達はどうなんだ? オルコットの世界の在り方を変えちまうって奴を目指してんの?」
「舞ちゃん」
フィラちゃんが注意するような口調で言ってきた。
「いいじゃん、気になる事を聞いたってさ」
「一応敵方なのよ?」
俺達の会話を聞いて、秋月のおっちゃんが苦笑した。
「異なことを聞く娘だ。質問すれば答えが聞けると思っているのも問題だが、答えたとして正直な事を話すとは限らんぞ?」
「話半分で構わねえよ。≪神智学協会≫って内紛起こしてオルコットに反対する奴を皆潰したりしたんだろ? 徹心のおっちゃんが作った資料見たけどさ、≪神智学協会≫としてオルコットが傍に残したのってめちゃくちゃ少人数じゃん? オルコットが最終的に手元に置いてる奴等がどんな事を思ってるかとかさ、やっぱ気になるじゃん?」
フィラちゃんが引き攣った顔で、そろそろやめておけ的ジェスチャーをする。
うーん……、
「やっぱ秘密?」
秋月のおっちゃんを見ると、押し殺した笑い声がした。
「面白い娘だ。――そうだな、エレナや≪冬将軍≫は本気でオルコットに従っているだろう。ユーグは複雑だ。彼は≪テンプル騎士団≫という都市伝説なのだが、どのような存在か知っているか?」
話を始めてくれた。その事にフィラちゃんと目を見合わせて軽く驚く。
「知らんのか?」
「あ、いや、知ってるぞ?」
Tさんとか徹心のおっちゃんに教わったからな。大体どういう存在かは分かってる。
秋月のおっちゃんは頷いて、
「――彼は元々都市伝説に語られるように異端者として存在していたのだ。そこにエルマー・リデル、モニカの祖父が契約者として現れた。彼は契約の後、世間から指弾され荒れていた≪テンプル騎士団≫達を纏め上げ、裏では史上のテンプル騎士団の名誉を回復させるために教会を弾劾した。
そのような過去があるために、彼は人間を、リデルの家を敬っている」
「それでなんでモニカを怪しげな実験に使おうとしたりあの子の両親を殺したりしたの?」
フィラちゃんが訳が分からないというふうに問いかける。秋月のおっちゃんは首を振って、
「そこまでは儂には窺い知れん。そも、儂が真実を話しているかもわからんぞ?」
おっちゃんの言い方はそっけない。その様子から今の話が本当かどうかを判断するのは俺には無理だ。
だから、とりあえず判断は保留。今の話は徹心のおっちゃんにでも訊けば本当かどうかわかるだろうしな。
じゃあ次は、
「秋月のおっちゃんはどうなんだ? 世界を改変したいって思ってんの?」
「儂は――」
呟いたおっちゃんは曲がり角から現れた兵隊を出会い頭に斬り付けた。驚いて反射的に身を竦めると、秋月のおっちゃんは口許を小さく歪めた。
「儂は元々時代遅れの武芸者。どこまで儂は力を得られるのか、その果てにあるものに興味があったのだ。人間の潜在能力の探究を標榜しておった≪神智学協会≫には儂の性向の縁で所属しておる。ウィリアムに身を預けて実験に使わせたのも興味故……オルコットには恩がある、彼の理想の手伝いはするが、エレナのようにそのために生きるという事はせん」
恩……。
「じゃあさ、ウィリアムの方には付こうとは思わなかったのか? ウィリアムの実験に身を預けたって事はさ、そっちとも繋がりがあったんだろ?」
「たしかにあの男は研究者としては有能な男だ。そして≪心霊手術≫、その能力の手練でもある。しかし人格がいかんともしがたい。好きにはなれぬよ。ウィリアムは元よりオルコットの世界の在り方の改変の結果そのものには興味が無いようだった。
そう、あの男はそこに至るまでの過程、世界の理を書き換えるその力そのものとその為に行われる実験に興味を持っていた。それゆえに力の器になるモニカ嬢に執着しているわけだが――」
『――――まったくその通りだね。そして今、その成果が見られようとしているんだ。アキヅキ、邪魔はもう少ししないでもらいたいな』
突然通路の天井から聞こえてきた声に思わず俺達は動きを止めた。
「なんだこの声!?」
「……ウィリアム」
「え?」
……マジかよ?
始めて聞くウィリアムの声は妙に神経を逆なでするような声音だった。
『オルコットとは互いに利用し利用され、結局ワタシの方が多くを吐き出す事になってしまったが、それでも十分な報酬を得たね。モニカ嬢、彼女の封印もじきに解ける。邪魔はして欲しくないね。もう少しの間、その仔達の相手でもしておいてくれ』
「お姉ちゃん! 前!」
リカちゃんが叫んでケウが前肢に体重をかけて進むのを止めた。振り落とされそうになって必死にケウにしがみつく。
完全に止まったところで顔を上げて通路の先を見てみると、
「なんだ……ありゃ?」
通路一杯に奇怪な生き物が溢れていた。
一つはよく映画とかで見る≪フランケンシュタイン≫っぽく見えるけど……他の類人猿の出来そこないみたいのと不気味な粘土みたいな生き物はなんだ?
「あれは、≪ヨーウィー≫に≪ブギーマン≫?」
「フィラちゃん知ってんの?」
ええ、と頷いてフィラちゃんが堅い表情になる。
「モニカを攫いに来た時にウィリアムが連れていた都市伝説よ」
『正解だ』
天井からの声はやけに嬉しそうに言う。
『その仔らは人肉や都市伝説の残骸を組み合わせて作ったワタシの自信作だ、君等の居場所も機械を通して伝えているので白い獣の能力は意味を為さないね』
「く、居場所、ウィリアムにはわかってんのかよ!?」
「さっきの白衣の男のような透視……?」
『違う違う、ワタシは自身を超能力兵士に改造しようなどとは思わないよ。戦闘のセンスはからっきしだからね。これは≪ピリ・レイスの地図≫のおかげだ。オルコット達が持っている原本を改良する依頼を受けた時に占術系都市伝説を組み上げて複製した代物で、なかなかの精度を誇る。通路の監視カメラを破壊してもその仔らの補足からは逃れられんよ。――では、健闘を祈っている』
そう残して通信は途切れた。
奇怪な生き物達はどんどん俺達の方に迫ってきている。その外見のせいで目で俺達をしっかり確認しているのかを判断するのは難しいけど、多分居場所はばれてる。
「……どうする?」
「……強引に行くしかないでしょう」
「だよな」
答えてケウの首を叩く。
「ケウ、行っちまえ!」
言いながらフィラちゃん共々ケウの背中に思いっきりしがみつく。
ケウは低く唸り声を上げて床を跳ね飛んで壁を蹴り付けた。とんでも無い軌道で進むケウに振り落とされないようにしていると近くから声がする。
「やはり≪ピリ・レイスの地図≫が複製されていたか」
ケウの動きに余裕の表情で付いて来ている秋月のおっちゃんの声だ。
「≪ピリ・レイスの地図≫、モニカの居場所を探り当てたのもそれね?」
フィラちゃんが訊ねる。Tさん達が言ってた≪神智学協会≫が持ってる優秀な探知機の名前がそれなんだろうか?
どんな都市伝説かは分かんねえけど、かなりの広範囲を探る事が出来る都市伝説って事になるよな。
「数年前、モニカ嬢を徹心が匿ったと推測したオルコットが最終的に彼の異界を探り当てられるようにあらゆる改造を施された都市伝説だ。時間さえあれば異界内に逃げても補足可能、その白い獣では隠れることはかなうまい」
そう言って秋月のおっちゃんは足を止めた。ケウも同じように動きを止める。
「……完全に包囲されているようだ」
「へ?」
「囲まれたわね」
フィラちゃんが言って俺も周囲を見回す。
通路一杯に広がっている奇怪な生き物の大群が視界いっぱいに広がっていた。
「うそだろおい……」
パニック映画とかだとこれ、もうなんか絶望的な状況じゃね?
そう思っていると、秋月のおっちゃんが腰からボロい包丁見たいな刃物を取り出した。
この前も見た事のある……たしか北谷菜切とか言った、見えない斬撃を飛ばす危険物だったはずだ。
「――ッ!」
おっちゃんは空気を切る音を伴いながら北谷菜切を振るった。
見えない斬撃がいくつも飛んで、異形の大群が切り裂かれていく。
生肉が地面に転がる水気を含んだ嫌な音や異形達の絶叫が何度もして、今までの進行方向の逆方向、地上の方に続く通路が開かれた。
秋月のおっちゃんはその道を指さす。
「君達はここで手を引け、姿を補足されるのならもうこれ以上進めはしないだろう。儂としても武芸者以外を手にかけるのは忍びない」
「ざけんな、モニカを取り返す。んでもって≪神智学協会≫がまだモニカを狙うんならそれを邪魔する。手を引いてなんかやるもんか」
秋月のおっちゃんは呆れたようにため息を吐いた。
「……警告はした」
言って秋月のおっちゃんは一人で勝手に前進し始めた。
「あ、てめ、おっちゃん! 一人で先に行くんじゃねえよ! おい!」
おっちゃんは止まらない。でっかい刀で都市伝説の群れの中に突っ込んで、すぐに目じゃ追えなくなっちまった。
「くそ……っ」
「お姉ちゃん……」
ケウが唸り声を上げながら後ずさる。このまま強引に進もうとすればまた囲まれる事になるよなぁ……。
さて、どうしようか……。
●
……何故あの娘達を気にかけたのだろうか?
文字通り、血路を切り拓きながら弘蔵は胸中に浮かんだ疑問を審議する。
……戦うような者でもないのにこのような所にまで出向いて来ているからか、あの娘達相手ならいつでも殺せると高を括ったのか……。
どちらでも構わないか、と思う。彼女らに話した事等オルコットと旧知の徹心に訊けばその都度話してもらえるような事だし、各々の戦う事情なども刃を交えていれば自然と互いに分かって行くものだ。それよりも、と弘蔵は意識を眼前の敵へと向けた。
……確かに自信作と言うだけはある。少なくとも超能力部隊とやらよりは手応えがある相手だ。
伸ばされてくる≪フランケンシュタイン≫の縫い目だらけの腕を紙一重で躱して、すれ違いざまに首を落とす。
弘蔵自身の姿に擬態した≪ブギーマン≫の胸に何の感慨もなく剣先を突き入れて、回避運動をとるついでに強引な動作で刃を引き抜く。
乱暴な扱いを受けた大太刀がその能力で曲がった刀身を補修する間に、見えない斬撃を飛ばす刃で周囲の者達を牽制し、その間も足を止める事無く通路を走る。道中、幾人もの超能力部隊の兵がウィリアムの遣わした都市伝説に殺されたらしい残骸を眺めやり、彼等の知性は敵味方の判断が細かくつくほど高くは無いものと推測する。
……この、まさに使い捨てと言わんばかりの数の放出……より敵の数が集まっている所へと向かえばそこにウィリアムが居ると言っているようなものではないか……。
まさか弘蔵やユーグをこのようなもので倒せるとウィリアムも思ってはいまい。
……あれは狂ってはいるが、考え無しではなかった。
ならばこの都市伝説の群れは、
本当にただ壁のつもりか……。
それほどにウィリアムが欲する時間が短いということだろう。
……オルコットの目的自体は儂のような世捨て人には尊さも意義も理解し難いが、彼には恩がある。
自分に戦う場所を与え、自身の限界を探る為の場を提供してくれる。それが弘蔵がオルコットに従う理由のようなものだった。
戦って、戦った果てに死ねる場所を探しているのだろうな……。
死地を探す生き方、そのために我ながら随分と道を外れてしまったものだと弘蔵は思わず苦笑する。
オルコットの下にいれば、より危険な戦場、より強い相手を彼の目的が呼び寄せる……。
因果なものだ。だがその因果がやがては弘蔵自身の死地を呼び寄せてくれるだろう。
ならば、
モニカをウィリアムの手にいつまでもおいてはおけない。ウィリアムに徒に壊されてオルコットの目的に陰りが現れてしまえば弘蔵も死地を見つける事は出来無くなるのだ。
封印を解いた所をすぐさま連れ出せるのが理想……。
そう考えながら、見ようによっては人のものにも、化け物のものにも見える死体の山を後に残して弘蔵は走る。
文字通り、血路を切り拓きながら弘蔵は胸中に浮かんだ疑問を審議する。
……戦うような者でもないのにこのような所にまで出向いて来ているからか、あの娘達相手ならいつでも殺せると高を括ったのか……。
どちらでも構わないか、と思う。彼女らに話した事等オルコットと旧知の徹心に訊けばその都度話してもらえるような事だし、各々の戦う事情なども刃を交えていれば自然と互いに分かって行くものだ。それよりも、と弘蔵は意識を眼前の敵へと向けた。
……確かに自信作と言うだけはある。少なくとも超能力部隊とやらよりは手応えがある相手だ。
伸ばされてくる≪フランケンシュタイン≫の縫い目だらけの腕を紙一重で躱して、すれ違いざまに首を落とす。
弘蔵自身の姿に擬態した≪ブギーマン≫の胸に何の感慨もなく剣先を突き入れて、回避運動をとるついでに強引な動作で刃を引き抜く。
乱暴な扱いを受けた大太刀がその能力で曲がった刀身を補修する間に、見えない斬撃を飛ばす刃で周囲の者達を牽制し、その間も足を止める事無く通路を走る。道中、幾人もの超能力部隊の兵がウィリアムの遣わした都市伝説に殺されたらしい残骸を眺めやり、彼等の知性は敵味方の判断が細かくつくほど高くは無いものと推測する。
……この、まさに使い捨てと言わんばかりの数の放出……より敵の数が集まっている所へと向かえばそこにウィリアムが居ると言っているようなものではないか……。
まさか弘蔵やユーグをこのようなもので倒せるとウィリアムも思ってはいまい。
……あれは狂ってはいるが、考え無しではなかった。
ならばこの都市伝説の群れは、
本当にただ壁のつもりか……。
それほどにウィリアムが欲する時間が短いということだろう。
……オルコットの目的自体は儂のような世捨て人には尊さも意義も理解し難いが、彼には恩がある。
自分に戦う場所を与え、自身の限界を探る為の場を提供してくれる。それが弘蔵がオルコットに従う理由のようなものだった。
戦って、戦った果てに死ねる場所を探しているのだろうな……。
死地を探す生き方、そのために我ながら随分と道を外れてしまったものだと弘蔵は思わず苦笑する。
オルコットの下にいれば、より危険な戦場、より強い相手を彼の目的が呼び寄せる……。
因果なものだ。だがその因果がやがては弘蔵自身の死地を呼び寄せてくれるだろう。
ならば、
モニカをウィリアムの手にいつまでもおいてはおけない。ウィリアムに徒に壊されてオルコットの目的に陰りが現れてしまえば弘蔵も死地を見つける事は出来無くなるのだ。
封印を解いた所をすぐさま連れ出せるのが理想……。
そう考えながら、見ようによっては人のものにも、化け物のものにも見える死体の山を後に残して弘蔵は走る。