●
弘蔵が進んで行ったのだろう、斬り倒された都市伝説の屍を辿って行くと、程なく切断された扉が見つかった。扉の前には包丁の柄のようなものが落ちている。
「秋月弘蔵が以前持っていた北谷菜切だな」
Tさんは遠目から呟き、それを聞いた舞が神妙に言う。
「じゃあ、あそこがウィリアムの部屋ってことか?」
「おそらくは」
そう話をしている間に扉の前に辿り付いた。
裁断された扉は壁をそのまま切り裂いたのかと錯覚する程の大きさで、更にその奥、部屋の中はそれこそ人間が何百人でも入れそうな程巨大な空間だった。
部屋の中には様々な実験器具と思しきものが置かれ、更にそれを突き破るかのように地面から半透明の柱が幾本も天へと向かって突き抜けている。そんな空間の中、少女のものと思しき、狂気すら感じさせる悲鳴が木霊していた。
……これは、モニカの声か?
この声が誰のものか、例えひび割れていても認識は出来る。しかしTさんは一瞬、この意味を為していない悲鳴の正体をそれと認める事が出来なかった。あまりにもあの少女の印象からはかけ離れていたのだ。
同じように誰の悲鳴なのかを認識した由実や舞が声の狂気に中てられたように表情に緊張を表し、リカちゃんとケウが身じろぎした。
明るい照明に照らされた室内には、白衣の男と通路で見てきたような都市伝説の群れ、彼等と睨み合っている状態の弘蔵とユーグ。そして白衣の男に人質に取られている格好の、意識があるのか怪しい状態で途切れる事の無い悲鳴を天に向かって上げ続けているモニカの姿があった。
「モニカ!」
由実が呼びかけるがモニカは答えない。ただ長い蜂蜜色の髪を振り乱して絶叫を上げ続けているのみだ。
それらを観察して、Tさんは堅い声で呟いた。
「まずいな……」
「まずいって?」
≪ケサランパサラン≫の力を駆使してモニカの状態を視ながらTさんは答えた。
「都市伝説の力が暴走している……」
モニカを苛んでいる力の正体を見抜こうとしたTさんの視界の中では、モニカを中心にして尋常ではない力が荒れ狂っているのが視えていた。
それらは天へと、柱を伝って上昇している。
……この感じ、暴走している都市伝説の力の出どころはモニカ自身か……。
「無理に都市伝説と契約させてこの有様ということもあるまい。普通はこうなる前に都市伝説に飲みこまれて事態は沈静化する……おそらく、この状態こそがモニカが持つ価値、そして狙われる理由だ」
「んだよそりゃ? このままモニカをほっといたらまずいんだよな?」
「ああ、このままではどうなるのか分からない……下手をすれば周囲一帯にこの柱が出現する事になる」
そう舞に答えた所で、白衣の男がTさん達の方を向いた。
顔に神経を逆なでするような笑みを浮かべる。
「おや、君はT、だったね? それにその契約者のマイにチトセの飼っている白い獣、それにモニカ嬢の保護者じゃないか」
「ウィリアム……」
由実が低い声で言うのを聞いて、Tさんはあれがウィリアムかと了解する。
……どうにも嫌悪感を植え付けられる男だ。
こちらを無遠慮に値踏みするような視線、その中にどこかしら狂気に似た色を感じる。そうTさんがウィリアムに感想を抱いていると、ウィリアムが問いかけてきた。
「隠し通路を見抜く力でも持っているのかね? 特にマイやユミ、君達だ。弘蔵と合流した君達があまりにも早くにワタシのいる部屋へと迫っていたせいでワタシも少し焦ってしまったよ?」
「私なの!」
リカちゃんが舞の頭の上で手を上げる。
あまりそういう事はばらさない方が良いのだが……。
内心で苦笑しながらTさんはさりげなく場所を移動して背に舞とリカちゃんを庇うように移動した。興味深そうにウィリアムは頷く。
「ほう、人形……チャッキーのようなものかな?」
「リカちゃんはそれほど趣味の悪い存在ではない」
ウィリアムが挙げたアメリカ製の殺人人形に対してTさんはそう言い返し、彼からも問いを投げかけた。
「この施設に唐突に起こっている柱の出現、この現象の大元はモニカか?」
ウィリアムはどこか嬉し気に答える。
「流石に分かるかね? そう、モニカの≪杞憂≫がこの現象の原因だ!」
「≪杞憂≫……?」
舞が訝しげに首を傾げた。
「杞憂ってーと……ほら、あれだ。国語の授業で出てくる、お空が落っこちてくるっていう噂が広がったけど、結局空は落ちてきませんでしたよーっていう、アレ?」
「故事の説明としてはそのような感じだね。もっともこの≪杞憂≫は杞国で噂されたその憂いを実際のものとして呼び起こすのだが」
ウィリアムはそう言って天へと絶叫を上げ続けるモニカを示す。
「モニカ嬢は都市伝説に飲まれる事のないよう調整された個体だ。その彼女に世界を崩壊させる都市伝説を契約させて暴走させる。その結果はどんなものなのか。楽しみにならないかね?」
都市伝説に飲まれないよう調整だと……?
Tさんは都市伝説達の軍団と向き合っているユーグへと目線を向ける。騎兵を喚んでウィリアムがモニカを放す機会を窺っているユーグは小さく首肯した。
「本当だ。お嬢様はテンプル騎士団の血筋、我々のような≪テンプル騎士団≫の都市伝説に引きずられて都市伝説に飲まれづらい体質をお持ちだ。ウィリアムはそれをどうあっても飲まれない段階にまで調整した。
オルコット様の目的ではモニカお嬢様には二つの都市伝説を契約させる予定だった。その内のもう一つは調整が別に必要なため、先に一つ、≪杞憂≫を契約させておられたのだ」
「その契約の記憶も、契約されていた≪杞憂≫も、レニーとトリシアがモニカの奥深くへと封印してしまっていたけれどね」
ウィリアムは決してモニカの傍から離れようとしない。それがユーグと秋月に行動を躊躇わせる事を把握しているのだ。彼はその気になればすぐさまモニカの首を絞められる位置で語り続ける。
「≪杞憂≫の契約にしても半ばモルモットに対する投薬実験のようなものだったのだけれどね。この目的の為に調整を受け続けてきたモニカ嬢という器が、≪太平天国≫の天帝が後生大事に抱えていた、≪杞憂≫の都市伝説を封じた契約用の術式を封じた符。これによる契約をモニカ嬢が受け容れられなければ、モニカ嬢も数ある実験体と同じく廃棄される運びだったのだよ」
ひどいものだね? と楽しそうにウィリアムは言う。
「そう言えばその頃だったかな? リデル夫妻がワタシ達に叛意を見せるようになったのは」
「モニカの両親が?」
由実が反応した。
「元々あの二人は過激な実験には賛同しない人間だったのだがね、それが顕著になった。モニカ嬢の安全を確保する為にとエルマー・リデルがモニカ嬢に仕込もうとした発信機の件も反対していたね。ワタシの≪心霊手術≫の腕前は分かっているだろうに、あらゆる実験にまず自分達の身体を検体として差し出してきてね。ワタシとしてはテンプル騎士団の血筋の者のデータが増えて嬉しい限りだったが、どうにも理解できないね?」
ともあれ、とモニカの首筋を撫でる。
「これこそモニカ嬢の本分! ≪神智学協会≫、オルコットの目的の為に振るわれる力の一端だ。この力の為の器であったモニカ嬢も見事に力を発現できて満足だろう」
「器ですって?」
由実が低く呟いた。
「そう、それこそがモニカ嬢の存在理由だというやつだね。彼女は人ではなく器だよ。実験動物として、そして壊してはならない至高の器として、ずっとそのように扱われて来た娘だ」
「秋月弘蔵が以前持っていた北谷菜切だな」
Tさんは遠目から呟き、それを聞いた舞が神妙に言う。
「じゃあ、あそこがウィリアムの部屋ってことか?」
「おそらくは」
そう話をしている間に扉の前に辿り付いた。
裁断された扉は壁をそのまま切り裂いたのかと錯覚する程の大きさで、更にその奥、部屋の中はそれこそ人間が何百人でも入れそうな程巨大な空間だった。
部屋の中には様々な実験器具と思しきものが置かれ、更にそれを突き破るかのように地面から半透明の柱が幾本も天へと向かって突き抜けている。そんな空間の中、少女のものと思しき、狂気すら感じさせる悲鳴が木霊していた。
……これは、モニカの声か?
この声が誰のものか、例えひび割れていても認識は出来る。しかしTさんは一瞬、この意味を為していない悲鳴の正体をそれと認める事が出来なかった。あまりにもあの少女の印象からはかけ離れていたのだ。
同じように誰の悲鳴なのかを認識した由実や舞が声の狂気に中てられたように表情に緊張を表し、リカちゃんとケウが身じろぎした。
明るい照明に照らされた室内には、白衣の男と通路で見てきたような都市伝説の群れ、彼等と睨み合っている状態の弘蔵とユーグ。そして白衣の男に人質に取られている格好の、意識があるのか怪しい状態で途切れる事の無い悲鳴を天に向かって上げ続けているモニカの姿があった。
「モニカ!」
由実が呼びかけるがモニカは答えない。ただ長い蜂蜜色の髪を振り乱して絶叫を上げ続けているのみだ。
それらを観察して、Tさんは堅い声で呟いた。
「まずいな……」
「まずいって?」
≪ケサランパサラン≫の力を駆使してモニカの状態を視ながらTさんは答えた。
「都市伝説の力が暴走している……」
モニカを苛んでいる力の正体を見抜こうとしたTさんの視界の中では、モニカを中心にして尋常ではない力が荒れ狂っているのが視えていた。
それらは天へと、柱を伝って上昇している。
……この感じ、暴走している都市伝説の力の出どころはモニカ自身か……。
「無理に都市伝説と契約させてこの有様ということもあるまい。普通はこうなる前に都市伝説に飲みこまれて事態は沈静化する……おそらく、この状態こそがモニカが持つ価値、そして狙われる理由だ」
「んだよそりゃ? このままモニカをほっといたらまずいんだよな?」
「ああ、このままではどうなるのか分からない……下手をすれば周囲一帯にこの柱が出現する事になる」
そう舞に答えた所で、白衣の男がTさん達の方を向いた。
顔に神経を逆なでするような笑みを浮かべる。
「おや、君はT、だったね? それにその契約者のマイにチトセの飼っている白い獣、それにモニカ嬢の保護者じゃないか」
「ウィリアム……」
由実が低い声で言うのを聞いて、Tさんはあれがウィリアムかと了解する。
……どうにも嫌悪感を植え付けられる男だ。
こちらを無遠慮に値踏みするような視線、その中にどこかしら狂気に似た色を感じる。そうTさんがウィリアムに感想を抱いていると、ウィリアムが問いかけてきた。
「隠し通路を見抜く力でも持っているのかね? 特にマイやユミ、君達だ。弘蔵と合流した君達があまりにも早くにワタシのいる部屋へと迫っていたせいでワタシも少し焦ってしまったよ?」
「私なの!」
リカちゃんが舞の頭の上で手を上げる。
あまりそういう事はばらさない方が良いのだが……。
内心で苦笑しながらTさんはさりげなく場所を移動して背に舞とリカちゃんを庇うように移動した。興味深そうにウィリアムは頷く。
「ほう、人形……チャッキーのようなものかな?」
「リカちゃんはそれほど趣味の悪い存在ではない」
ウィリアムが挙げたアメリカ製の殺人人形に対してTさんはそう言い返し、彼からも問いを投げかけた。
「この施設に唐突に起こっている柱の出現、この現象の大元はモニカか?」
ウィリアムはどこか嬉し気に答える。
「流石に分かるかね? そう、モニカの≪杞憂≫がこの現象の原因だ!」
「≪杞憂≫……?」
舞が訝しげに首を傾げた。
「杞憂ってーと……ほら、あれだ。国語の授業で出てくる、お空が落っこちてくるっていう噂が広がったけど、結局空は落ちてきませんでしたよーっていう、アレ?」
「故事の説明としてはそのような感じだね。もっともこの≪杞憂≫は杞国で噂されたその憂いを実際のものとして呼び起こすのだが」
ウィリアムはそう言って天へと絶叫を上げ続けるモニカを示す。
「モニカ嬢は都市伝説に飲まれる事のないよう調整された個体だ。その彼女に世界を崩壊させる都市伝説を契約させて暴走させる。その結果はどんなものなのか。楽しみにならないかね?」
都市伝説に飲まれないよう調整だと……?
Tさんは都市伝説達の軍団と向き合っているユーグへと目線を向ける。騎兵を喚んでウィリアムがモニカを放す機会を窺っているユーグは小さく首肯した。
「本当だ。お嬢様はテンプル騎士団の血筋、我々のような≪テンプル騎士団≫の都市伝説に引きずられて都市伝説に飲まれづらい体質をお持ちだ。ウィリアムはそれをどうあっても飲まれない段階にまで調整した。
オルコット様の目的ではモニカお嬢様には二つの都市伝説を契約させる予定だった。その内のもう一つは調整が別に必要なため、先に一つ、≪杞憂≫を契約させておられたのだ」
「その契約の記憶も、契約されていた≪杞憂≫も、レニーとトリシアがモニカの奥深くへと封印してしまっていたけれどね」
ウィリアムは決してモニカの傍から離れようとしない。それがユーグと秋月に行動を躊躇わせる事を把握しているのだ。彼はその気になればすぐさまモニカの首を絞められる位置で語り続ける。
「≪杞憂≫の契約にしても半ばモルモットに対する投薬実験のようなものだったのだけれどね。この目的の為に調整を受け続けてきたモニカ嬢という器が、≪太平天国≫の天帝が後生大事に抱えていた、≪杞憂≫の都市伝説を封じた契約用の術式を封じた符。これによる契約をモニカ嬢が受け容れられなければ、モニカ嬢も数ある実験体と同じく廃棄される運びだったのだよ」
ひどいものだね? と楽しそうにウィリアムは言う。
「そう言えばその頃だったかな? リデル夫妻がワタシ達に叛意を見せるようになったのは」
「モニカの両親が?」
由実が反応した。
「元々あの二人は過激な実験には賛同しない人間だったのだがね、それが顕著になった。モニカ嬢の安全を確保する為にとエルマー・リデルがモニカ嬢に仕込もうとした発信機の件も反対していたね。ワタシの≪心霊手術≫の腕前は分かっているだろうに、あらゆる実験にまず自分達の身体を検体として差し出してきてね。ワタシとしてはテンプル騎士団の血筋の者のデータが増えて嬉しい限りだったが、どうにも理解できないね?」
ともあれ、とモニカの首筋を撫でる。
「これこそモニカ嬢の本分! ≪神智学協会≫、オルコットの目的の為に振るわれる力の一端だ。この力の為の器であったモニカ嬢も見事に力を発現できて満足だろう」
「器ですって?」
由実が低く呟いた。
「そう、それこそがモニカ嬢の存在理由だというやつだね。彼女は人ではなく器だよ。実験動物として、そして壊してはならない至高の器として、ずっとそのように扱われて来た娘だ」
●
「それは違う!」
ユーグはウィリアムの言葉に反駁した。
意図しない、反射的なものだ。それを自覚した上で彼は言葉を連ねる。
「レニーもトリシアも、モニカお嬢様を娘として心配していた」
……そしてそれはおそらく、最期の瞬間のエルマーも。
己の心に浮かんだ情景に彼はそう思う。
「間違いなくモニカお嬢様にとって彼等に一人の人間として愛されていた。自らを破壊するような真似はやめるんだ」
「少なくともその情をモニカ嬢は感じてはいなかったようだよ。今となってはモニカ嬢に対してユーグ、君の声が届いているのか、それも怪しいものだ」
ウィリアムは叫び続けるモニカを撫でる。と、時を同じくして部屋の内部に突き出ていた幾本もの柱に亀裂が生じた。≪杞憂≫が憂いを満たして崩壊しようとしているのだ。モニカの叫びは、すなわち憂いで悲嘆で絶望だ。それが彼女ごと世界を滅ぼそうとする。
……私が言えた口ではないが……しかし、
このままモニカに壊れてほしくはない。モニカの両親をこの手で殺し、彼女の憂いの最たるものとなっておきながら今更だとは思うが、ユーグもこのような結末は望んでいない。
……なんとかしてモニカ嬢をこちらの手元に……。そして精神の破壊ではなく永遠の安楽な眠りを――
そうユーグが方策を練り始めた時、少女の問いかけが聞こえた。
舞だ。
ユーグはウィリアムの言葉に反駁した。
意図しない、反射的なものだ。それを自覚した上で彼は言葉を連ねる。
「レニーもトリシアも、モニカお嬢様を娘として心配していた」
……そしてそれはおそらく、最期の瞬間のエルマーも。
己の心に浮かんだ情景に彼はそう思う。
「間違いなくモニカお嬢様にとって彼等に一人の人間として愛されていた。自らを破壊するような真似はやめるんだ」
「少なくともその情をモニカ嬢は感じてはいなかったようだよ。今となってはモニカ嬢に対してユーグ、君の声が届いているのか、それも怪しいものだ」
ウィリアムは叫び続けるモニカを撫でる。と、時を同じくして部屋の内部に突き出ていた幾本もの柱に亀裂が生じた。≪杞憂≫が憂いを満たして崩壊しようとしているのだ。モニカの叫びは、すなわち憂いで悲嘆で絶望だ。それが彼女ごと世界を滅ぼそうとする。
……私が言えた口ではないが……しかし、
このままモニカに壊れてほしくはない。モニカの両親をこの手で殺し、彼女の憂いの最たるものとなっておきながら今更だとは思うが、ユーグもこのような結末は望んでいない。
……なんとかしてモニカ嬢をこちらの手元に……。そして精神の破壊ではなく永遠の安楽な眠りを――
そうユーグが方策を練り始めた時、少女の問いかけが聞こえた。
舞だ。
●
舞は挑みかかるような口調でウィリアムにその目的を問いかける。
「ウィリアム、あんたモニカをそのまま暴走させてさ、何すんのが目的なんだ? ≪杞憂≫で世界でもぶっ壊そうって腹か?」
そうだね、とウィリアムが舞に答える。
「モニカの憂いが暴走するままに任せておけばそれも可能かもしれないけど、残念ながら力の発現のしかたが歪んでいるようでね、このままでは≪杞憂≫がその力を及ぼす範囲を広げていく過程で、天を支える柱の方が耐えきれずに自壊してしまうだろうねぇ。
元々もう一つの都市伝説と組み合わせてバランスをとるような代物だったのだからこの状態は仕方の無い事なのだけど、まあ残念と言えば残念だ」
そうどこか達成感に浸っているような口調で語るウィリアム。
「そのもう一つの都市伝説って何なんだよ?」
それは、とウィリアムが話しかけたところ、亀裂が入っていた幾本かの柱が限界を迎えた。
ガラスの破砕音にも似た個体が粉々に飛沫く音が室内に響いて、モニカの上げる悲鳴と不協和音を奏でる。
「え、なんだ!?」
「舞、こっちに来い!」
突然の異音に驚愕する舞の手をTさんがとる。そのすぐ近くへと破砕した半透明の柱の残骸が落下し、床を穿つ。
「まずいな、ユーグ」
「ああ……奴の時間稼ぎが成功している今の状況、あまり長引かせられん」
微かに焦りの色を浮かべながら秋月へとユーグは頷きを返す。
彼等にはこの現象の意味が分かっていた。それゆえに歯噛みをする。
「このままでは、憂いが現実となる……」
≪杞憂≫の、天を支える柱の崩壊が起こり始めたのだ。このままではやがて柱に支えられていた天蓋が落下する事になるだろう。
「ウィリアム、あんたモニカをそのまま暴走させてさ、何すんのが目的なんだ? ≪杞憂≫で世界でもぶっ壊そうって腹か?」
そうだね、とウィリアムが舞に答える。
「モニカの憂いが暴走するままに任せておけばそれも可能かもしれないけど、残念ながら力の発現のしかたが歪んでいるようでね、このままでは≪杞憂≫がその力を及ぼす範囲を広げていく過程で、天を支える柱の方が耐えきれずに自壊してしまうだろうねぇ。
元々もう一つの都市伝説と組み合わせてバランスをとるような代物だったのだからこの状態は仕方の無い事なのだけど、まあ残念と言えば残念だ」
そうどこか達成感に浸っているような口調で語るウィリアム。
「そのもう一つの都市伝説って何なんだよ?」
それは、とウィリアムが話しかけたところ、亀裂が入っていた幾本かの柱が限界を迎えた。
ガラスの破砕音にも似た個体が粉々に飛沫く音が室内に響いて、モニカの上げる悲鳴と不協和音を奏でる。
「え、なんだ!?」
「舞、こっちに来い!」
突然の異音に驚愕する舞の手をTさんがとる。そのすぐ近くへと破砕した半透明の柱の残骸が落下し、床を穿つ。
「まずいな、ユーグ」
「ああ……奴の時間稼ぎが成功している今の状況、あまり長引かせられん」
微かに焦りの色を浮かべながら秋月へとユーグは頷きを返す。
彼等にはこの現象の意味が分かっていた。それゆえに歯噛みをする。
「このままでは、憂いが現実となる……」
≪杞憂≫の、天を支える柱の崩壊が起こり始めたのだ。このままではやがて柱に支えられていた天蓋が落下する事になるだろう。