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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-42

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「あ、ああ……まったく、これも業という奴かね……?」
 左脇から深く切り裂かれた、息が続いているのが異常な状態で、ウィリアムは苦笑を浮かべた。
「そうだろう」
 弘蔵は切断されて転がったウィリアムの左腕に視線をやる。
 これでウィリアムはその両腕を失った。今となってはもう≪グラス・ハーモニカ≫を演奏する事は出来ないだろう。
「儂もそのうち業で滅ぶのだろうな」
 力を求めてここまで至った自分がまともに死ぬ事が出来るとは思っていない。そう思いながらの弘蔵の発言をウィリアムは首肯した。
「そうだねぇ、アキヅキ、君も貪欲な男だよ……その貪欲さ故にワタシの実験を生き残ったのだろうけど……」
 刀身が蛍の光のような小さな光の塊に包みこまれて新品同様になった大太刀を振って、弘蔵は≪グラス・ハーモニカ≫を破壊した。
「念入りな事だね……」
「最後の最後に足掻かれても困る」
 そう答えながら、これで万に一つの可能性も途絶えた事を確信し、転瞬。弘蔵はウィリアムから離れてモニカ達がいる方へと駆けた。
 Tさんとチトセがそれぞれ身構えたのを確認しながら彼は仲間へと目をやる。エレナの負傷の度合いが戦闘を任せるには危険なレベルと判断し、
「ユーグ! 回収して脱出するぞ!」
「承知!」
 ユーグが応じて身を翻し――背後に向けて剣を打ち振るった。
 轟音が響く。
「お嬢様を渡してもらう……!」
「そうはいかんさ……!」
 舞達のもとへ向かおうとしたユーグを、千勢が≪壇ノ浦に没した宝剣≫と共に止めに入った。


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 一撃をユーグに受け止められた千勢は、十字を模した剣と≪壇ノ浦に没した宝剣≫を互いにつばぜり合いさせながら、周囲に目配せした。
 舞達のもとに≪テンプル騎士団≫の騎兵が迫り、Tさんの動きは弘蔵が止めている。
 ……っち、早い……。
 バフォメットの加護のせいか、ユーグの剣は何度≪壇ノ浦に没した宝剣≫と打ち合わせても折れる気配を見せない。内紛の間、幾度か剣を交えた経験から加護を受けた武器は簡単に破壊できる代物ではない事を千勢は既に理解している。
 武器破壊によるこちらの有利は得られないものと千勢は判断し、
「馬鹿弟子、脱出するぞ! 一か所に集まれるか!?」
「大丈夫だ! 問題はタイミングだが――」
 呼びかけに答えたTさんが弘蔵の大太刀をすんでの所で回避する。
 ……っ、逃走したくとも大人しく許してくれる者達でもないか……!
 由実が瀕死、モニカが意識不明で舞とリカちゃんも万全とは言い難い。千勢たちにはあまり余裕はなかった。
 その上、そこかしこに穴を穿たれたこの地下施設、先程から瓦礫の落下する勢いが激しくなってきている。この施設自体にもあまり余裕はないようだった。
 舞達の所に向かって騎士はケウの接近戦と、リカちゃんの投石がなんとか防いでいるといった風情だ。しかし彼女らのそれでは騎士を退ける決定打にはならない。
 騎士達と直接戦っているケウの体からは一挙動のたびに毛と共に血が飛沫いている。状況が長引けば騎士達にケウが討ち取られてしまう事だろう。
 叢雲を動かす事が出来れば話はまた変わって来るんだが……ッ。
 その叢雲は支えを失って崩落してくる天井から舞達を守っているため、下手に動かす事が出来ない。
「余所を気にする余裕はないと思うが?」
「――ッ!」
 ユーグによる剣の一撃。辛うじて防いだ千勢は跳躍して距離をとる。
 その動きに対し、ユーグは影の中から短剣を引き抜いて投擲して追撃した。
 迫るそれを宝剣の腹で叩き落としたところへ、今度はユーグ自身がそれぞれの手に握られた、剣と戦槌を振るって来る。
 上段から振り下ろされる剣と、体の右側から横薙ぎに振るわれてくる戦槌。短剣の処理によって宝剣が泳いだ隙を狙った一撃だ。
 無傷で対応することは不可能。
 そう直感した千勢は、宝剣で上段からの剣を受ける構えをとった。そしてもう一つ、胴めがけて振るわれる戦槌に対しては、
 ――――ッ!!
 己の腕を盾として対応した。
 剣同士がぶつかり合う硬質な衝突音と、人体と戦槌が打ち合わされる異音が同時に響く。
 骨に響く嫌な音が千勢の内部で響き、打撃の衝撃が体を貫いていく。
「――ッ!」
 しかし千勢は体勢を崩さない。床に左足を突き刺して体が吹き飛ばないように支柱とし、残った右足でユーグの甲冑を蹴り飛ばす。
 僅かに開いた距離。千勢はユーグの剣を受け、上段に掲げられていた宝剣を強く握り込み、
「ご心配痛み入るよ、ユーグ」
 凄烈な勢いで振り下ろした。
 縦一閃。
 草薙の斬撃がユーグを間近で捕らえる。
 絶大な切断力を秘めた斬撃波は、壁際、ウィリアムが作成した都市伝説が入っていた培養器の所までユーグを吹き飛ばしていく。
 それを視界の端に捉えながら千勢は喉にせり上がって来た血を吐きだした。
 ……ッくそ、いいのを、もらった……。
 受けたのは斬撃ではなく打撃。自身が持つ肉体の加護をもってしても強烈な打撃は衝撃を伴い、千勢の全身を蝕んでいた。
 草薙も完全な状態で放つ事が出来たわけではない。決定打の手応えは無かった……。
 おそらくそう時を置かずにユーグは復帰してくるだろう。今後戦闘を続ける場合、彼が今の一撃で受けたダメージの度合いにもよるが、苦戦を強いられるのは確実。
 ……その前に、逃げ切る。
 そう思考しながら千勢は周囲に気を配り、タイミングを見計らう。


            ●


「舞が世話になったと聞いた」
 弘蔵を正面に見据えながら、Tさんはまずそう言った。
「そちらの人形の手を借りる必要があったのでな」
「それでもありがたかったと、そう言っておこう」
「言葉は受け取っておこう。――参る!」
 言うが早いか、弘蔵はTさんに向かって大太刀の切っ先を突き込んだ。
 Tさんは半歩身を引いて切っ先を避け、光弾を弘蔵本人へと射撃する。
「破ぁ!」
 弘蔵は重心を落として光弾を回避、更にTさんへと踏み込んで太刀を振るった。
 低い位置から伸びあがって来る斬撃を、Tさんは上体を反らして避け、加護を纏った蹴足を繰り出す。
 弘蔵は跳ねるように下がって攻撃を回避。距離を開ける。
 再び弘蔵とTさんは睨み合う形になった。
 上段に大太刀を構えて、顔に強敵に相対した事による獰猛な笑みを浮かべ、弘蔵は言う。
「舞と言ったな。このような場に連れて来るには不相応な娘だ」
 Tさんは、光を弘蔵に向けて構えながら答える。
「モニカを助けに行くと言って聞かなくてな」
「ユーグや≪冬将軍≫が言っていたが、それは君のあからさまな弱点ではないか?」
 弘蔵は大太刀に小さな蛍光を幾つも灯して刀身を修復させていく。
「例えば――」
 そして、その切っ先を舞達の方へと向けた。
「今、ユーグ麾下の騎士とエレナがモニカ嬢を奪取に行っている。どうやら由実は我等が姫君の精神の均衡に必要な人材らしいが、君の大事な契約者の方はどう扱われるかわからん」
「……脅しのつもりか?」
「いや」
 視線を外さぬまま小さく首を振って、弘蔵は笑む。
「いらぬ世話焼きだ。儂としては全力で戦うだけ戦って死ぬ事ができればそれで満足なのでな。Tさん、君のような実力者がその力を動揺で減じてしまっては儂としてはあまりに惜しい」
「わざわざ気にかけてもらって悪いな……が」
 Tさんの携帯が鳴りだした。地下施設の崩壊による不気味な鳴動によってほとんど聞き取れないそれは、Tさんの顔に笑みを浮かべさせるもので、
「うちの蓮っ葉な姫はなかなかに強かなんだ」
 携帯の着信は続く。


            ●


 ケウとリカちゃん頑張って騎士を追い払ってくれてるけどあまり長く保ちそうもなかった。またケウの悲鳴が上がって長い毛と血が飛沫いた。
 俺の投げる石じゃあ騎士達相手にはなんの役にも立ちはしねえし、リカちゃんの腕力での投石でも少し迷惑そうにしながら盾なり武器なりで払われちまう。
 ケウがその巨体で体当たりをかまして騎士を吹き飛ばす。そのケウの体に他の騎士の槍が突き刺さった。
 ケウが痛々しい悲鳴を上げて体をよろめかせる。
「ケウ! もういいからこっち戻ってこい!」
「もどってくるの!」
 呼びかけながら手の届く範囲に石を全て投げつける勢いでケウの手助けをする。ケウは後ずさるようにして戻ってきた。
 ケウが戦えなくなって、俺達は瞬時に囲まれた。
 Tさんの所に電話をかけてもらっているリカちゃんに小声で確認する。
「リカちゃん、どうよ?」
「まだなの、ふつうの電波で通じないのっ!」
 ああくそ、いろいろ光ったり柱が立ってたりしたからか!? それともこの地下に通じてた電波の中継点を壊されたか!?
 参ったと顔を引き攣らせながら思う。ケウが危なっかしい足取りでフィラちゃんとモニカが倒れてる所まで移動して周りを威嚇するように唸り声を上げる。とても戦えるようには見えねえけど、それでも俺とリカちゃんよりかは恐い存在なんだろう、騎士達も馬を喚び出して万全の態勢を敷いてくる。
「手負いの獣は恐ろしいものですものね」
「鉄柱の姉ちゃんか……」
 鉄柱の姉ちゃんが騎士達の戦闘に立って棒の先っぽを向けてきた。
 姉ちゃんは上半身がほとんど裸の状態だ。それ以上に目を引くのがその上半身、長い服で隠されてて見えなかった腹や胸の辺りに無茶苦茶にある傷痕と、それを上書きするようにしている傷にも刺青にも見える光る模様。それが強く光を放って、
「モニカを渡してもらうわ」
 突っ込んできた。数秒もあれば距離は詰められちまう。ヤバいヤバいどうする――
「お姉ちゃん繋がったの!」
「愛してるぜリカちゃん!」
 モニカにフィラちゃん、血で白い毛を赤く染めてるケウの体を握る。
「もしもし、わたしリカちゃん。今、お兄ちゃんの頭の上にいるの!」


            ●


 リカちゃんの叫びに近い宣言が聞こえた瞬間、Tさんの頭上に舞達が出現した。
 彼女等は空中に留まる術を持たない。そのまま落下してくる彼女等に弘蔵が大太刀を振るおうとして、
「モニカを斬っちまってもいいのか!?」
「ッ、」
 落ちながらの舞の叫びで弘蔵の動きが一瞬止まった。
 直後、舞達がケウを下にして床に落ちる。
 ケウは地面に半ば寝そべるようにして地面に立ち、その長い毛の上を舞達が転がる。
 Tさんは一瞬停滞した弘蔵の動きの隙を突くように祈祷した。
 ――壁を起こせるならば幸せだ!
「破ぁ!」
 叫びと共に、幸せは光の結界の形で顕現した。
「師匠!」
 ユーグを吹き飛ばして己の負傷の具合を手早く確認していた千勢が、即座に反応を寄越す。
 片手が振りあげられ、
「――来い」
 その言葉に地面が呼応した。
 聞こえるのは地響き、感じられるのは震動。
「これは……?」
 舞達を追って反転してきていたエレナが何事かと周囲を見回して油断なく構える。
 千勢は大きく息を吸った。
 叫ぶ。
「叢雲!」
 舞達を守っていた八岐の雲竜の残り、合計4本の首が、結界が張られていない床を割って現れた。


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 床を砕いた四本の叢雲は、結界の内部に居たTさん達を全員包みこんで天井へと駆け昇った。
 叢雲は崩れかかっていた地下施設の天井を下から突き上げて砕き、彼等を地上へと帰還させた。
 雲竜の体に立ったTさんは、同じく一本の頭に立った千勢と視線を交わす。地下ではTさん達を追おうと≪神智学協会≫の一行が身構えているのが見えていた。
 即座に次の行動を決め、千勢はTさんに叫びかける。
「潰すぞ馬鹿弟子!」
「ああ!」
 Tさんの手に光が、千勢の宝剣に剣気が渦巻く。
 師弟の攻撃準備が完了する僅かな間に、地下で天井の崩落を防いでいた四体の叢雲がその身を水蒸気へと還元した。
 地面と天井、その両方に衝撃を受けて脆くなっていた大部屋を支えていた雲製の柱が消失し、崩落が加速する。
 師弟はその崩壊を大人しく待つ気は無かった。
 裂帛の気合が響く。
「破あああああああああ――ッ!!」
 二人分の咆哮が、それぞれ光柱と草薙の斬撃となって眼下、崩れ落ちようとする地上に炸裂する。
 ≪杞憂≫によって出現していた柱に穴を空けられ、脆くなっていた地盤はその衝撃を受けとめ切る事が出来なかった。
 破滅的な轟音を響かせて製薬会社の敷地全体が崩れ落ちていく。
 地上から立ち昇って来る土埃から逃れるように、雲竜は高く高く空へと昇っていった。




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