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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-43

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 地上部が崩れ、敷地全体が地盤沈下に巻き込まれたかのような有様になった製薬会社跡。その土砂に半ば埋まった地下の中、施設の崩壊を確定したTさんと千勢の攻撃の中心点であったウィリアムの研究室、そこでいくつかの人影が蠢いた。
 まず初めに瓦礫の山を押しのけて月光に照らされたのは黒い悪魔の影の群――バフォメットの群れだった。
 それに続くようにして≪テンプル騎士団≫の影が瓦礫を弾き飛ばす。
 展開している騎士団のうち、半ば程が自身で体を支える事も不可能な状態になっていた。中には既に活動停止状態に追い込まれている騎士もいる。千勢とTさんの攻撃を真正面から受け止めた者達だ。
「よくやってくれた。ひとまず戻ってくれ」
 騎士達と共に千勢とTさんの攻撃、そして地上からの落下物を防いだユーグが、額から垂れて来る血を拭いながら声をかけると、行動不能の騎士達は次々と彼の影に溶け込んでいった。
「無事か?」
 展開していた残りのバフォメットと騎士達を収めながらユーグが言う。
「無事だ」
「……ええ」
 折れてしまった刀剣を修復させながら力強く返答してくる弘蔵と違い、エレナの声には疲労の色が濃い。
 どうやら衣服がひどく傷んでいるのと同様、彼女自身もそれなりの怪我を負っているようだ。
 ……千勢を相手取るには役者不足か……。
 そもそもあの女傑は一人で相手をしていいような生き物ではない。この結果はさもありなんといったところか、とユーグは先程の交戦で喰らった千勢の斬撃痕を押さえながら思う。
 上方は天井が無くなり、土埃混じりに夜空が吹きぬけて見えている。
 その空を睨みつけてユーグは問う。
「弘蔵、追えそうか?」
「いや、無理だ。探知用の刀剣を失っている。この〝蛍丸〟も修復は難しいな」
 そう言って弘蔵は柄の部分を残して完全に失われた大太刀を懐へと収めた。
「そうか……では一度事の顛末を伝えに≪ベイチモ号≫に戻った方がいいか」
 ユーグ自身も疲労している。ここで深追いするのは得策ではないだろう。
 二人が同意したのに頷き返し、武器を己の影に収めたユーグは瓦礫の一隅へと目を向けた。
「ウィリアム、お前はどうする?」
「――、そうだね……」
 瓦礫の山に背を預けるようにしてウィリアムが横たわっていた。
 両腕は無く、身体中傷だらけで、白衣は赤に染まり、腹には鉄骨が刺さっている。
 その状態で、しかし彼は口許に円弧の笑みをその面に飾った。
「薬が効いているおかげで……痛みも無いし、このまま、のんびりと死を待つ事にでも……するよ」
 そう言う声は小さく掠れ切っていて、聞きとるのにも集中を要するものだった。
 ……死が近いな……。
 そう思いながら、ユーグはウィリアムに問いかける。
「……必要なら連れ帰っても構わないが」
「せっかく崩落から助けてもらったところ、悪いけど……遠慮……っ、しておこうかな」
 口端を歪めてウィリアムは言う。
「ワタシが生き残ってしまっては、この先、も、君達は背後をに気を取られなければならなくなるだろう? これからまんまとモニカ嬢を攫われたオルコットはテッシン相手に決戦を仕掛ける事になるだろう……ワタシのような不穏分子は早急に去らせて、もらうよ」
 喘鳴混じりに苦しそうに笑うウィリアムに弘蔵が問いかける。
「……介錯は必要か?」
「それは、望んだら贅沢に過ぎるんじゃないかな……アキヅキ、君たちにしていたような仕打ちも考えるとそんなまともな死にかたはきっと贅沢というものさ……十分に楽しませてもらったこの世界にも、そんな急いで去るような事をしては申し訳がないね?」
 そう返答して、何が楽しいのかウィリアムは愉快気に笑う。
「分かった。では、さらばだ。ウィリアム」
 弘蔵が背を向ける。ユーグも無言で背を向けた。
 その背に向けてウィリアムはああそうだ、と言葉をなげる。
「ユーグ総長。モニカ嬢だがね、彼女には≪聖槍≫も問題無く組み込む事ができるだろうけど、眠りは深い深いものだ……いつか世界がモニカ嬢を核とするシステムを必要としなくなった時、都市伝説の契約を強制解除させる手段を用いたとしても、彼女の意識は眠りの揺り籠から醒める事は無い」
「……もとより承知の上だ」
 そう答えてユーグが瓦礫を地上へと昇って行く。エレナが最後に、無表情に近い顔で言葉をかけてくる。
「オルコット様にはしっかりと報告しておくわ。他に、何か言う事があったら言いなさい」
「そうだね……開発はした。それをどう使うのか――使わないのかも含めて、その結末を開発者としては楽しみにしているよと、そう伝えおいてくれるかね?」
「分かったわ」
 ≪神智学協会≫の三人はこうして地上へと去っていった。


            ●


 三人が去り、生者が一人を除いて居なくなった製薬会社跡において、最後の生者たるウィリアムもその命の火を消そうとしていた。
「薬、が……切れた、ね……くく、これはきつい…………」
 鉄骨が腹を縫いとめて動く事ができず、両腕も無いために傷口を抑えて気を紛らわす事すらできない状態のウィリアムは、一つするごとに弱くなっていく呼吸を繰り返しながら上を見上げる。
 彼の周囲に瓦礫が転がり落ちて来る。ユーグ達によって押しのけられた瓦礫が再び崩れ始めてきたのだ。
 どうあっても死を逃れる事は出来ない状態。それでもウィリアムは笑みを浮かべた。
「ああ……ああ、十分だとも。実験は成功、ワタシが思索した人体の可能性は十分に堪能できた……っ」
 うわごとは既に音をなしていない。そしてその僅かな余喘も尽きかけていた。
「さあ、どのように君達が生き抜こうとするのか……見物だね」
 尽きかけの息をもって、ウィリアムは嬉しくて嬉しくてしょうがないとでもいうような愉悦を全面に現して哄笑する。
 彼の小さな、しかし妙に響くその音は、彼の命が失われるまで延々と響き続けた。


            ●


 多くの戦死者と狂気の残り香を下敷きに、製薬会社がその敷地ごと崩壊した。
 帰還する者達は近く迫るであろう次の戦いを思い、それぞれに考えを巡らせる。

 夜明けは未だ遠い――。





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