製薬会社から飛び立った雲竜は、途中でその身で抱え上げたTさん達を地面に下ろすと、霧に変じてその姿を大気中に還元した。
その足で徹心が契約している異界へと帰還したTさん達は、高部徹心の労いともてなしをうけた。
永取市の南、海沿いの倉庫街を警戒していた彼は、製薬会社での戦闘の間中、倉庫街には異変が無かったとだけ報告すると、自分達も報告を始めようとするTさん達に向かってひとまず休むようにと指示を出した。
「モニカ君がこうして連れて来られていると言う事は、最悪の事態は避けられたと言う事なんだろう? 今晩はとりあえず休むんだ。明日、君達が起きた頃には盛大に潰してくれた廃工場に対する色々な組織の判断の結果も知らせる事が出来るだろうと思うからね」
由実とケウ、千勢は本格的な治療が必要な状態だった事もあり、他の者にも程度の違いはあれ、治療が必要な状態だった。
徹心の言葉に従ってそれぞれに体を休めた翌日。
徹心の部屋へと集まり、昨日の戦闘を受けての状況の流れを報告する時間が訪れようとしていた。
その足で徹心が契約している異界へと帰還したTさん達は、高部徹心の労いともてなしをうけた。
永取市の南、海沿いの倉庫街を警戒していた彼は、製薬会社での戦闘の間中、倉庫街には異変が無かったとだけ報告すると、自分達も報告を始めようとするTさん達に向かってひとまず休むようにと指示を出した。
「モニカ君がこうして連れて来られていると言う事は、最悪の事態は避けられたと言う事なんだろう? 今晩はとりあえず休むんだ。明日、君達が起きた頃には盛大に潰してくれた廃工場に対する色々な組織の判断の結果も知らせる事が出来るだろうと思うからね」
由実とケウ、千勢は本格的な治療が必要な状態だった事もあり、他の者にも程度の違いはあれ、治療が必要な状態だった。
徹心の言葉に従ってそれぞれに体を休めた翌日。
徹心の部屋へと集まり、昨日の戦闘を受けての状況の流れを報告する時間が訪れようとしていた。
●
皆がだんだん集まってくる中で、俺はどうも抜けきらない疲れに欠伸を一つして、顔を出し始めたメンバーを観察する。
昨日はいつの間にか落ちるように寝ていたらしい。
俺は昨日ウィリアムの所に殴り込みに行った時、ケウからふり落されたりして細かい傷を負ってた筈なんだけど、起きたら打撲も切り傷も綺麗に治ってちまっていた。どうも徹心のおっちゃんの所にあった治療に使える都市伝説が効果を発揮したらしい。備えあれば憂い無しだな。
撃たれたフィラちゃんが凄く心配だったけど、フィラちゃんの脇腹の銃創は治って、足りない血を補給する為になんか肝臓系料理のフルコースを朝から食べさせられてた。フィラちゃんは朝からの思いメニューに嫌そうな顔をしてたけど、……うん、頑張れ!
そんな感じで万事オーケーかと思いきや、いくつかの問題が残ってもいた。
ケウと千勢姉ちゃん、それにTさんの傷の治りが悪いみたいだったのだ。俺やリカちゃんが新種のウイルス的な何かか!? と慌てるのを尻目に、Tさん達は普段通り冷静に説明してくれた。
「≪テンプル騎士団≫の加護――バフォメットのせいだな。あれは彼等以外からしてみれば強力な呪詛に他ならない」
「馬鹿弟子は幸運の因子を含む治療を自己でかけられるからずるいな。私もそんな素敵パワーが欲しい」
そう言って千勢姉ちゃんは昨日から徹心のおっちゃんの所の酒を飲みながら、Tさんの治療を受けていた。
ぶっちゃけ二人ともいろいろと素敵パワー持ちすぎだと思うんだ、俺……。
Tさんの話によれば、どうも治療には呪いを祓う事も一緒にしなけりゃならないみたいで、Tさんの≪ケサランパサラン≫の幸運と徹心のおっちゃんのとこのお酒の、モニカに憑いていた死霊を祓った力を体の内外から千勢姉ちゃんは補給しているらしい。酒が燃料になる辺りなんか色々と駄目だと思う。
「Tさんは大丈夫なのか?」
「俺は自分自身の力で十分治した。もとよりそれほどひどい傷を負ったわけではないしな。問題は師匠とケウだ」
そう言ってTさんは千勢姉ちゃんと、床に伸びているケウに光を浴びせ続けていた。
ケウは俺達を庇う為に無理に戦って傷付いて、千勢姉ちゃんの方はあの地下施設での戦闘で最後、騎士のおっちゃんに手痛い攻撃を喰らったらしい。
昨日帰って来る時に『内臓が愉快な事になっているな』って言ってたから相当ヤバかったんじゃないかと思う。痛み分けだったらしいけど、無茶するぜ。
「そこまで心配されるほどにはやられていないよ」
千勢姉ちゃんはそう言ってケウを労わっていた。ケウは小さく鼻を鳴らして臥せっている。ケウの方は強がりもできないくらいに消耗しているみたいだ。
「師匠はともかく、ケウはしばらく動かない方がいい。相当参っている筈だ」
「やっぱりか……あんま無理すんなよ? ケウ」
「ゆっくりするの」
ケウは若干不服そうに顔を上げて、やがて観念したのか顔を伏せた。よぉしいい子だ。あんまり無茶はしちゃいかんからな。
素直なケウの反応に満足していると、入口から挨拶が聞こえてきた。
「Tさん、それに皆も、おはよう」
「おお、フィラちゃん! 大丈夫か?」
「心配をかけたわね舞ちゃん。私は大丈夫よ。撃たれたすぐ後にTさんに最低限の治療は施してもらえていたから」
Tさんはフィラちゃんに笑いかけた。
「持ち直したようで何よりだ」
「こっちは良いけど、そっちの怪我の方が厄介な事になってるんですって?」
「俺達は問題ない。少し時間を置けばこの程度の呪詛なら抜けるさ」
「≪テンプル騎士団≫の呪い相手にそんな事を言えるんだから、あなた達も相当規格外よね」
「褒めても何も出ないぞフィラちゃん」
そう言って千勢姉ちゃんは辺りを見回した。
「……モニカは?」
「大丈夫よ。今顔を洗って、すぐに来ると思うわ」
フィラちゃんがそう言った時、ちょうど扉を空けてモニカが部屋の中に入ってきた。
「おはよう……ございます」
かわいい顔に少し暗い表情を浮かべている。けど、長い綺麗なハニーブロンドは健在で、ざっと見た感じ怪我もしてねえみたいだ。
攫われてから昨日まで色々あったんだろうし、昨日はあんな事があったんだ。いきなり完全復活は無理だろう。早く元通りになってくれると良いな。
「おはよ、モニカ」
「おはよーなの」
皆がそろった。それぞれ席に座る。そして昨日の戦いで負った傷の状態を皆で確認し合って、千勢姉ちゃんが総括した。
「このような感じで、こちらの被害は……まあ、あのような場に突入したにしては軽微、そしてモニカは無事こうして奴らの手から解放できたわけだ」
そう、あれだけ無茶苦茶な戦いの中でも誰一人欠ける事無く戻ってこれた。それはすごく有りがたい事だ。
勝つ事が出来たと、少なくともあの戦いでは勝てたって事で良いんじゃないかなと思う。
千勢姉ちゃんは話を続ける。
「そしてこれからの話になるわけだが……徹心」
うん、と頷いて、徹心のおっちゃんは部屋の奥の大きなデスクの上で手を組んだ。
「それでは、昨日の一連の戦闘を受けての廃工場――製薬会社のあった土地の現状。そしてそれを視察した公権力やマスコミ、僕らのような社会の陰にある組織の判断を報せよう」
そう前置きして、徹心のおっちゃんは説明を始めた。
昨日はいつの間にか落ちるように寝ていたらしい。
俺は昨日ウィリアムの所に殴り込みに行った時、ケウからふり落されたりして細かい傷を負ってた筈なんだけど、起きたら打撲も切り傷も綺麗に治ってちまっていた。どうも徹心のおっちゃんの所にあった治療に使える都市伝説が効果を発揮したらしい。備えあれば憂い無しだな。
撃たれたフィラちゃんが凄く心配だったけど、フィラちゃんの脇腹の銃創は治って、足りない血を補給する為になんか肝臓系料理のフルコースを朝から食べさせられてた。フィラちゃんは朝からの思いメニューに嫌そうな顔をしてたけど、……うん、頑張れ!
そんな感じで万事オーケーかと思いきや、いくつかの問題が残ってもいた。
ケウと千勢姉ちゃん、それにTさんの傷の治りが悪いみたいだったのだ。俺やリカちゃんが新種のウイルス的な何かか!? と慌てるのを尻目に、Tさん達は普段通り冷静に説明してくれた。
「≪テンプル騎士団≫の加護――バフォメットのせいだな。あれは彼等以外からしてみれば強力な呪詛に他ならない」
「馬鹿弟子は幸運の因子を含む治療を自己でかけられるからずるいな。私もそんな素敵パワーが欲しい」
そう言って千勢姉ちゃんは昨日から徹心のおっちゃんの所の酒を飲みながら、Tさんの治療を受けていた。
ぶっちゃけ二人ともいろいろと素敵パワー持ちすぎだと思うんだ、俺……。
Tさんの話によれば、どうも治療には呪いを祓う事も一緒にしなけりゃならないみたいで、Tさんの≪ケサランパサラン≫の幸運と徹心のおっちゃんのとこのお酒の、モニカに憑いていた死霊を祓った力を体の内外から千勢姉ちゃんは補給しているらしい。酒が燃料になる辺りなんか色々と駄目だと思う。
「Tさんは大丈夫なのか?」
「俺は自分自身の力で十分治した。もとよりそれほどひどい傷を負ったわけではないしな。問題は師匠とケウだ」
そう言ってTさんは千勢姉ちゃんと、床に伸びているケウに光を浴びせ続けていた。
ケウは俺達を庇う為に無理に戦って傷付いて、千勢姉ちゃんの方はあの地下施設での戦闘で最後、騎士のおっちゃんに手痛い攻撃を喰らったらしい。
昨日帰って来る時に『内臓が愉快な事になっているな』って言ってたから相当ヤバかったんじゃないかと思う。痛み分けだったらしいけど、無茶するぜ。
「そこまで心配されるほどにはやられていないよ」
千勢姉ちゃんはそう言ってケウを労わっていた。ケウは小さく鼻を鳴らして臥せっている。ケウの方は強がりもできないくらいに消耗しているみたいだ。
「師匠はともかく、ケウはしばらく動かない方がいい。相当参っている筈だ」
「やっぱりか……あんま無理すんなよ? ケウ」
「ゆっくりするの」
ケウは若干不服そうに顔を上げて、やがて観念したのか顔を伏せた。よぉしいい子だ。あんまり無茶はしちゃいかんからな。
素直なケウの反応に満足していると、入口から挨拶が聞こえてきた。
「Tさん、それに皆も、おはよう」
「おお、フィラちゃん! 大丈夫か?」
「心配をかけたわね舞ちゃん。私は大丈夫よ。撃たれたすぐ後にTさんに最低限の治療は施してもらえていたから」
Tさんはフィラちゃんに笑いかけた。
「持ち直したようで何よりだ」
「こっちは良いけど、そっちの怪我の方が厄介な事になってるんですって?」
「俺達は問題ない。少し時間を置けばこの程度の呪詛なら抜けるさ」
「≪テンプル騎士団≫の呪い相手にそんな事を言えるんだから、あなた達も相当規格外よね」
「褒めても何も出ないぞフィラちゃん」
そう言って千勢姉ちゃんは辺りを見回した。
「……モニカは?」
「大丈夫よ。今顔を洗って、すぐに来ると思うわ」
フィラちゃんがそう言った時、ちょうど扉を空けてモニカが部屋の中に入ってきた。
「おはよう……ございます」
かわいい顔に少し暗い表情を浮かべている。けど、長い綺麗なハニーブロンドは健在で、ざっと見た感じ怪我もしてねえみたいだ。
攫われてから昨日まで色々あったんだろうし、昨日はあんな事があったんだ。いきなり完全復活は無理だろう。早く元通りになってくれると良いな。
「おはよ、モニカ」
「おはよーなの」
皆がそろった。それぞれ席に座る。そして昨日の戦いで負った傷の状態を皆で確認し合って、千勢姉ちゃんが総括した。
「このような感じで、こちらの被害は……まあ、あのような場に突入したにしては軽微、そしてモニカは無事こうして奴らの手から解放できたわけだ」
そう、あれだけ無茶苦茶な戦いの中でも誰一人欠ける事無く戻ってこれた。それはすごく有りがたい事だ。
勝つ事が出来たと、少なくともあの戦いでは勝てたって事で良いんじゃないかなと思う。
千勢姉ちゃんは話を続ける。
「そしてこれからの話になるわけだが……徹心」
うん、と頷いて、徹心のおっちゃんは部屋の奥の大きなデスクの上で手を組んだ。
「それでは、昨日の一連の戦闘を受けての廃工場――製薬会社のあった土地の現状。そしてそれを視察した公権力やマスコミ、僕らのような社会の陰にある組織の判断を報せよう」
そう前置きして、徹心のおっちゃんは説明を始めた。
●
「まず、製薬会社のあったあの土地だけど、地盤が完全に崩壊、沈下し、その時の衝撃による薬品や燃料の爆発が最終的に爆発を引き起こし、最終的にあのような状態になった。そう表には発表してもらったよ」
そう言って徹心のおっちゃん今朝の新聞の記事を見せてくれた。小さく書かれたその記事には製薬会社があった土地は地盤が緩んでいるかもしれないから近付かないようにと注意書きがされている。
「この記事にもあるけど、あそこから都市伝説や怪しげな実験の痕跡が完全に拭い去られるまでは一般的な侵入は禁止される扱いだ。その間に≪組織≫には頑張ってもらう」
「≪組織≫の側の手配はしたのか?」
「うん、僕の権限で指示するまでも無く、既に動き始めていたよ。
あそこは対都市伝説用に防護がなされていたから、現場の痕跡からあの戦闘の本来の目的を気付かれる事はないだろう。彼らには、僕らは≪神智学協会≫の研究者が設立していた研究施設での戦闘を行ったと説明してある。≪神智学協会≫の長オルコットと僕は≪太平天国≫や≪拝上帝会≫の頃から因縁のある相手だということを≪組織≫の古い人間は知っているから、特に怪しまれる事もないだろう。個人名は一切だしてはいないから、モニカ君の事は僅かも注目されることは無いよ」
そう言って徹心のおっちゃんは新聞を畳んだ。
「表の方には、この件での被害者は幸いにして0、元々廃工場であったのと永取市の郊外に位置していたという立地が功を奏したという事になっている」
「実際の死者はどういう運びになった?」
Tさんの疑問。確かにかなりの数の死体があったけど、どうなったんだろう? あんなのが放置されてたら被害者0なんて言い張れないと思うんだけど。
「死体のほとんどは僕や≪組織≫の者達が行った時には残されていなかった。状況から鑑みて≪冬将軍≫が冬の中に取り込んでしまったのではないかと思う。それでも残っていた肉片の類や都市伝説の力を帯びた武器は全て回収したよ」
「ユーグや弘蔵、エレナに……ウィリアムはどうなった?」
千勢姉ちゃんが訊ねる。
「彼等の死体も死の痕跡も発見できなかった。≪冬将軍≫が彼等の死体を連れて行っている可能性もあるけど、十中八九逃げおおせているだろうね」
ただ、と言って、徹心のおっちゃんは補足した。
「≪神智学協会≫研究班の長、ウィリアム・ウェッブ。彼の死体だけは残されていたよ。残留思念を読み取る能力がある者の報告では、ただ歓喜と満足の感情を読みとれただけで、そのほかの事は何も読みとれなかったらしい」
「歓喜と満足……」
あれだけモニカにひどい事をしてたんだ。そりゃ満足もするだろうさ。
どうしようもねえ奴だと思って、でも死んだ人を悪く言う事も出来ない。ため息が漏れた。
「かくして昨日の戦闘はその焦点をぼやけさせたまま、誰にも真実は伝わらずに幕を閉じたわけだな?」
「そうなる」
受け答えた徹心のおっちゃんは、返す刀で千勢姉ちゃんに言う。
「では、今度は僕が話を聞く番だね。教えてくれ。君達が得た真実を」
そう言って徹心のおっちゃん今朝の新聞の記事を見せてくれた。小さく書かれたその記事には製薬会社があった土地は地盤が緩んでいるかもしれないから近付かないようにと注意書きがされている。
「この記事にもあるけど、あそこから都市伝説や怪しげな実験の痕跡が完全に拭い去られるまでは一般的な侵入は禁止される扱いだ。その間に≪組織≫には頑張ってもらう」
「≪組織≫の側の手配はしたのか?」
「うん、僕の権限で指示するまでも無く、既に動き始めていたよ。
あそこは対都市伝説用に防護がなされていたから、現場の痕跡からあの戦闘の本来の目的を気付かれる事はないだろう。彼らには、僕らは≪神智学協会≫の研究者が設立していた研究施設での戦闘を行ったと説明してある。≪神智学協会≫の長オルコットと僕は≪太平天国≫や≪拝上帝会≫の頃から因縁のある相手だということを≪組織≫の古い人間は知っているから、特に怪しまれる事もないだろう。個人名は一切だしてはいないから、モニカ君の事は僅かも注目されることは無いよ」
そう言って徹心のおっちゃんは新聞を畳んだ。
「表の方には、この件での被害者は幸いにして0、元々廃工場であったのと永取市の郊外に位置していたという立地が功を奏したという事になっている」
「実際の死者はどういう運びになった?」
Tさんの疑問。確かにかなりの数の死体があったけど、どうなったんだろう? あんなのが放置されてたら被害者0なんて言い張れないと思うんだけど。
「死体のほとんどは僕や≪組織≫の者達が行った時には残されていなかった。状況から鑑みて≪冬将軍≫が冬の中に取り込んでしまったのではないかと思う。それでも残っていた肉片の類や都市伝説の力を帯びた武器は全て回収したよ」
「ユーグや弘蔵、エレナに……ウィリアムはどうなった?」
千勢姉ちゃんが訊ねる。
「彼等の死体も死の痕跡も発見できなかった。≪冬将軍≫が彼等の死体を連れて行っている可能性もあるけど、十中八九逃げおおせているだろうね」
ただ、と言って、徹心のおっちゃんは補足した。
「≪神智学協会≫研究班の長、ウィリアム・ウェッブ。彼の死体だけは残されていたよ。残留思念を読み取る能力がある者の報告では、ただ歓喜と満足の感情を読みとれただけで、そのほかの事は何も読みとれなかったらしい」
「歓喜と満足……」
あれだけモニカにひどい事をしてたんだ。そりゃ満足もするだろうさ。
どうしようもねえ奴だと思って、でも死んだ人を悪く言う事も出来ない。ため息が漏れた。
「かくして昨日の戦闘はその焦点をぼやけさせたまま、誰にも真実は伝わらずに幕を閉じたわけだな?」
「そうなる」
受け答えた徹心のおっちゃんは、返す刀で千勢姉ちゃんに言う。
「では、今度は僕が話を聞く番だね。教えてくれ。君達が得た真実を」
●
「……………そうか」
徹心のおっちゃんは、あの製薬会社での戦いで何があったのかを聞いてから何度目かのそうか、を呟いて重苦しいため息を吐いた。
俺も千勢姉ちゃんが戦った鉄柱の姉ちゃんの話には驚いた。
オルコットって奴はなんだかんだで血も涙も無いクソ野郎ってわけでもないらしく、昔鉄柱の姉ちゃんを助けて、それであの姉ちゃんに慕われているらしい。あんなボロボロになってもモニカを手に入れようとしてた姉ちゃんの姿は思い出すだけで背筋が寒くなる。
よくあんな人から上手く逃げ切る事ができたもんだ。そんな事を考えてると、徹心のおっちゃんが口を開いた。
「≪ピリ・レイスの地図≫……。モニカ君の居場所を突き止めたのも、ケウの人避けの能力を使用しての移動を悟られたのもその能力のせいか」
「私が≪神智学協会≫の内紛に介入した時、たびたび位置が筒抜けになっているような対応をされたのもその地図のせいだろうな。厄介な代物を手に入れたものだ」
≪ピリ・レイスの地図≫の事を始めて知った二人が苦く言う。
たしか≪ピリ・レイスの地図≫はウィリアムに改造を受けて引き出される能力が強化されてるって話だった筈だ。なんとなく居場所が分かるくらいなんでも無いと思ってたけど、隠れてても強制的に見つけだしてくるんだもんなぁ……とんでもねえもんを作ってくれやがったんだな、あいつ。
「≪ピリ・レイスの地図≫の能力がそこまで強化されているのなら、この異界も絶対安全という事は無いね。ただでさえ最近は外に繋げていることが多い。今回の戦闘の後、君達が帰還する道程を監視されていたら、きっと入り口を類推されてしまうだろう」
「その地図の前では、この異界でも絶対安全というわけではないのね……」
フィラちゃんが不安そうに眉を寄せる。
「残念ながら、オルコットは僕がモニカ君を匿う事を前提に動いていた筈だしね」
徹心のおっちゃんが難しそうに唸って、追加でもう一つ問題を示す。
「そしてモニカ君が契約させられようとしている都市伝説も問題だ」
「≪杞憂≫と≪聖槍≫か」
「それらと契約し、使いこなす事が可能な存在。それがモニカが狙われる理由だな」
Tさんと千勢姉ちゃんが呟く。
「確かに、この二つの都市伝説を全能力を解放した上で制御できればオルコットの理想も十分に実現できるだろうね」
徹心のおっちゃんが言ったところで、俺は一つ自分の疑問をぶつけてみる事にした。
「でもなんでまたモニカはそんな無茶苦茶な契約ができるんだ?」
≪聖槍≫の方はよく分かんねえけど、≪杞憂≫の方は昨日まざまざと見せつけられた。あんなのが最大限に発動すれば世界規模で発生するんだって話だ。そんなものと、更に≪杞憂≫と引きあいに出されるくらいに強力な都市伝説と契約してモニカが壊れないのは一体どういう事なんだ?
「モニカには都市伝説に対する特殊な許容能力があるとウィリアムが言っていたな。覚えているか? 舞」
「んー、なんとなくは……」
そういえばそんな話も聞いた気がする。騎士のおっちゃんも言っていたなと思っていると、モニカが遠慮がちに手を挙げた。
「あ、あの……わたし、その許容能力、の理由も……知ってる」
「知ってるって?」
あの時意識を失ってた筈のモニカが知ってるというんで驚いて訊いてみると、モニカは俯きがちに口を開いた。
「捕まってる時に、あの、ウィリアムって人に……聞いた」
「……話してもらえるかい?」
「うん……」
徹心のおっちゃんに促されて、モニカは難しい話の内容を頭の中から探るように、たっぷりと間を置いてから話しだした。
徹心のおっちゃんは、あの製薬会社での戦いで何があったのかを聞いてから何度目かのそうか、を呟いて重苦しいため息を吐いた。
俺も千勢姉ちゃんが戦った鉄柱の姉ちゃんの話には驚いた。
オルコットって奴はなんだかんだで血も涙も無いクソ野郎ってわけでもないらしく、昔鉄柱の姉ちゃんを助けて、それであの姉ちゃんに慕われているらしい。あんなボロボロになってもモニカを手に入れようとしてた姉ちゃんの姿は思い出すだけで背筋が寒くなる。
よくあんな人から上手く逃げ切る事ができたもんだ。そんな事を考えてると、徹心のおっちゃんが口を開いた。
「≪ピリ・レイスの地図≫……。モニカ君の居場所を突き止めたのも、ケウの人避けの能力を使用しての移動を悟られたのもその能力のせいか」
「私が≪神智学協会≫の内紛に介入した時、たびたび位置が筒抜けになっているような対応をされたのもその地図のせいだろうな。厄介な代物を手に入れたものだ」
≪ピリ・レイスの地図≫の事を始めて知った二人が苦く言う。
たしか≪ピリ・レイスの地図≫はウィリアムに改造を受けて引き出される能力が強化されてるって話だった筈だ。なんとなく居場所が分かるくらいなんでも無いと思ってたけど、隠れてても強制的に見つけだしてくるんだもんなぁ……とんでもねえもんを作ってくれやがったんだな、あいつ。
「≪ピリ・レイスの地図≫の能力がそこまで強化されているのなら、この異界も絶対安全という事は無いね。ただでさえ最近は外に繋げていることが多い。今回の戦闘の後、君達が帰還する道程を監視されていたら、きっと入り口を類推されてしまうだろう」
「その地図の前では、この異界でも絶対安全というわけではないのね……」
フィラちゃんが不安そうに眉を寄せる。
「残念ながら、オルコットは僕がモニカ君を匿う事を前提に動いていた筈だしね」
徹心のおっちゃんが難しそうに唸って、追加でもう一つ問題を示す。
「そしてモニカ君が契約させられようとしている都市伝説も問題だ」
「≪杞憂≫と≪聖槍≫か」
「それらと契約し、使いこなす事が可能な存在。それがモニカが狙われる理由だな」
Tさんと千勢姉ちゃんが呟く。
「確かに、この二つの都市伝説を全能力を解放した上で制御できればオルコットの理想も十分に実現できるだろうね」
徹心のおっちゃんが言ったところで、俺は一つ自分の疑問をぶつけてみる事にした。
「でもなんでまたモニカはそんな無茶苦茶な契約ができるんだ?」
≪聖槍≫の方はよく分かんねえけど、≪杞憂≫の方は昨日まざまざと見せつけられた。あんなのが最大限に発動すれば世界規模で発生するんだって話だ。そんなものと、更に≪杞憂≫と引きあいに出されるくらいに強力な都市伝説と契約してモニカが壊れないのは一体どういう事なんだ?
「モニカには都市伝説に対する特殊な許容能力があるとウィリアムが言っていたな。覚えているか? 舞」
「んー、なんとなくは……」
そういえばそんな話も聞いた気がする。騎士のおっちゃんも言っていたなと思っていると、モニカが遠慮がちに手を挙げた。
「あ、あの……わたし、その許容能力、の理由も……知ってる」
「知ってるって?」
あの時意識を失ってた筈のモニカが知ってるというんで驚いて訊いてみると、モニカは俯きがちに口を開いた。
「捕まってる時に、あの、ウィリアムって人に……聞いた」
「……話してもらえるかい?」
「うん……」
徹心のおっちゃんに促されて、モニカは難しい話の内容を頭の中から探るように、たっぷりと間を置いてから話しだした。
●
「わたしは、テンプル騎士団、ユーグおじさんたちみたいな都市伝説じゃなくて、本物のテンプル騎士団の血……っていうのをひきついでるの」
「本物の……?」
「史実に現れるテンプル騎士団、その血統に連なっているという事だな」
Tさんの説明になるほど。と納得する。
更にモニカの話を補足するように、徹心のおっちゃんが言葉を添えてくれた。
「エルマーもそんな事を言っていたね。テンプル騎士団の血は、都市伝説≪テンプル騎士団≫の話の影響を受け、普通の血では無くなったという話だった。だからこそ200騎にもおよぶ騎士達との契約が出来たと彼も言っていたけど……」
「それだと同じ話が元になってる≪テンプル騎士団≫との契約には超有利そうだけど……他の都市伝説にもその血ってのは有効なのか?」
俺の質問にモニカは首を振る。
「それは、よくわかんない……ウィリアムは、わたしがお母さんのおなかにいる時に調整をしたって言ってたから、わたしは大丈夫なんだと思う……」
そう言ってモニカは自分の胸に手を当てる。
「わたしの中にある≪杞憂≫と……もうひとつの、≪聖槍≫に対しては」
調整。ウィリアムの野郎も確か言ってた事だ。
でも、お腹の中に居る時ってなんだよ。胎児の時からモニカは契約の為に使われる事が決まってたってことなのか?
「そんな……、誰も止めなかったのかよ?」
「止めないからこそ、今のモニカがあるんでしょうね」
「一番成功する確率が高いのが、わたしだったから選ばれたって、そう聞いた」
フィラちゃんが励ますようにモニカの頭を撫でる。もう話は聞いてるのか、フィラちゃんは結構落ち付いているみたいだ。
「ユーグからあの場で聞いた話とほぼ同じ内容。それが真実と見て間違いないだろうな……」
「なるほどな」
Tさんと千勢姉ちゃんが納得を宣言した。
「強大すぎる都市伝説二つを身に宿す事が出来る器。都市伝説が噂に捻じ曲げられないようにするためと二つの大きな力を組み合わせて扱う契約者という立場。この為にオルコット達≪神智学協会≫はモニカを狙っているのだな」
「そうなるんでしょうね。そして昨日の戦いでウィリアムは死んだわ。モニカのような存在を調整出来る人はもういない……本格的にモニカが狙われてしまう」
千勢姉ちゃんとフィラちゃんの言葉に、まだ危険は去っていない事を俺は自覚する。
その思いを口に出して確認する。
「それこそ、向こうも必死になってだよな」
皆が無言で肯定する。重い雰囲気の中、千勢姉ちゃんが非難するような目を徹心のおっちゃんに向けた。
「徹心、≪杞憂≫は元々≪太平天国≫の天帝が所持しているという話をあの時代の者に聞いた事があるぞ。お前は知っていたのではないのか?」
「そこまではっきりと知っていたわけじゃないさ」
そう言って、だけど徹心のおっちゃんは話を継いだ。
「でも、可能性はあるかもしれないと、確かにそう思ってはいた…………そうだね、少し昔の話をしよう。オルコットという人間が何故こんな行動を起こしているのかを理解する材料にもなるだろうし、≪杞憂≫の出自にもつながるだろうから……ね」
「本物の……?」
「史実に現れるテンプル騎士団、その血統に連なっているという事だな」
Tさんの説明になるほど。と納得する。
更にモニカの話を補足するように、徹心のおっちゃんが言葉を添えてくれた。
「エルマーもそんな事を言っていたね。テンプル騎士団の血は、都市伝説≪テンプル騎士団≫の話の影響を受け、普通の血では無くなったという話だった。だからこそ200騎にもおよぶ騎士達との契約が出来たと彼も言っていたけど……」
「それだと同じ話が元になってる≪テンプル騎士団≫との契約には超有利そうだけど……他の都市伝説にもその血ってのは有効なのか?」
俺の質問にモニカは首を振る。
「それは、よくわかんない……ウィリアムは、わたしがお母さんのおなかにいる時に調整をしたって言ってたから、わたしは大丈夫なんだと思う……」
そう言ってモニカは自分の胸に手を当てる。
「わたしの中にある≪杞憂≫と……もうひとつの、≪聖槍≫に対しては」
調整。ウィリアムの野郎も確か言ってた事だ。
でも、お腹の中に居る時ってなんだよ。胎児の時からモニカは契約の為に使われる事が決まってたってことなのか?
「そんな……、誰も止めなかったのかよ?」
「止めないからこそ、今のモニカがあるんでしょうね」
「一番成功する確率が高いのが、わたしだったから選ばれたって、そう聞いた」
フィラちゃんが励ますようにモニカの頭を撫でる。もう話は聞いてるのか、フィラちゃんは結構落ち付いているみたいだ。
「ユーグからあの場で聞いた話とほぼ同じ内容。それが真実と見て間違いないだろうな……」
「なるほどな」
Tさんと千勢姉ちゃんが納得を宣言した。
「強大すぎる都市伝説二つを身に宿す事が出来る器。都市伝説が噂に捻じ曲げられないようにするためと二つの大きな力を組み合わせて扱う契約者という立場。この為にオルコット達≪神智学協会≫はモニカを狙っているのだな」
「そうなるんでしょうね。そして昨日の戦いでウィリアムは死んだわ。モニカのような存在を調整出来る人はもういない……本格的にモニカが狙われてしまう」
千勢姉ちゃんとフィラちゃんの言葉に、まだ危険は去っていない事を俺は自覚する。
その思いを口に出して確認する。
「それこそ、向こうも必死になってだよな」
皆が無言で肯定する。重い雰囲気の中、千勢姉ちゃんが非難するような目を徹心のおっちゃんに向けた。
「徹心、≪杞憂≫は元々≪太平天国≫の天帝が所持しているという話をあの時代の者に聞いた事があるぞ。お前は知っていたのではないのか?」
「そこまではっきりと知っていたわけじゃないさ」
そう言って、だけど徹心のおっちゃんは話を継いだ。
「でも、可能性はあるかもしれないと、確かにそう思ってはいた…………そうだね、少し昔の話をしよう。オルコットという人間が何故こんな行動を起こしているのかを理解する材料にもなるだろうし、≪杞憂≫の出自にもつながるだろうから……ね」