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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-45

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 徹心はかつてを思い出しながら、話を始める。
「高坂君が言った通り、≪杞憂≫はもともと≪拝上帝会≫の天帝が巨大な国に対抗するために血眼になって探して、見つけ出した都市伝説だ。杞国の民が符に封じた憂いの呪いそのものだから、力は申し分が無かったのだけど、問題が1つ発生した」
「問題?」
 小首を傾げる舞に、徹心は答えを示す。
「契約できる人間が存在しなかったんだ。無理に契約をしようとしても≪杞憂≫の札はその者を拒絶した。結局契約できる者が誰もいなかったそれは≪拝上帝会≫の倉庫に再び封印されることになったんだよ」
 当然といえば当然だ。≪杞憂≫が説話通りに再現された場合、それは世界規模の災厄になる。そのような強大な力と契約できる人間など、よほど特殊な境遇の者でなければ不可能だろう。
「≪杞憂≫は持っていてもしょうがない、無用の長物になったのね」
「それでも牽制には利用できたんだけどね」
 曖昧に笑って徹心は続ける。
「そして、≪拝上帝会≫は≪太平天国≫へと名を改め、徐々に倨傲し、腐敗していった……」
 徹心は目を固く閉じ、過去を、≪太平天国≫の落日の日を語る。


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 時の中国王朝、清を打倒し理想を目指す為に立ったはずの≪太平天国≫は、その主、天帝の腐敗に伴う組織全体の劣化と内紛、外国の勢力を味方に引き入れた清朝側の巻き返しに直面していた。
 そのような情勢の中、徹心やオルコット、それにエルマーは、離反者として≪太平天国≫最大の脅威になっていた。
「民の心が離れ、理想を見失って……最後はこんなものか」
 崖の上から≪太平天国≫の兵士達を見下ろして白髪の白人――現在よりも幾分か若く見えるオルコットが呟く。
「表向きの軍備にも、僕たちのような特殊な軍備にも、もう≪太平天国≫は耐えることはできないよ。――それとオルコット、あまり酒を飲み過ぎないように」
 徹心が忠告混じりに言う。こちらも、現在とそう変わらない姿をしている。
 当時から契約都市伝説の影響を受けて老化が止まっていたのだ。
 オルコットは手にしていた酒瓶を干すと、分かった分かったと言って空の瓶を徹心へと放る。
「お前のところの酒は美味だな。つい手が出てしまう」
「僕の作った果実酒ばかり飲んでいないで日本酒でも飲んでみるといい。あちらが僕の祖国の本式だ」
「あれは……度数が足らん」
「…………」
 心底呆れた顔の徹心の表情を見てオルコットは破顔した。
「冗談だ。この酒は材料が良いのもあるのでな。つい進む」
「お褒めにあずかって光栄だよ」
 徹心はそう答えて、背後に控えている≪太平天国≫の離反者達の中、そこだけ目立つ西洋の甲冑の群れを率いる二人に目をやった。
「≪太平天国≫鎮圧用部隊――常勝軍から抜けて僕達と共に行動するということだけど、いいのかい? ユーグ、エルマー」
 声をかけられた、時代錯誤にも見える騎士とそれと並び立っている若い兵士は、双方共に頷いた。
 まず兵士が口を開く。
「かまわない。こちらの方が常勝軍より≪太平天国≫と戦う理由としては正当なものがある。それにユーグのような妖異の存在を知らない者もあの軍には多いのでな」
「私達≪テンプル騎士団≫は故国では禁忌の存在、あまり表立って動くわけにもいかないのだ」
 ロシア出身のオルコットがエルマーとユーグに頷いた。
「≪テンプル騎士団≫の話は知っている。逸話に引きずられて荒れた存在に身を窶していると思ったが、文句の無い騎士の集団だ」
「契約者、エルマーが我々を纏め上げてくれた。今の私達があるのは彼のおかげだ」
「彼等に向けられるいわれの無い迫害も、いつの日か退けてしまいたいものだ」
「長く時間をかけて改めていけばいいさ、エルマー」
 そう言ってユーグは崖の下へと視線をやる。そこには大量の兵員が展開していた。
 ≪太平天国≫の者達だ。
 ただ、ユーグの目に映る彼等は明らかに浮足立っている。これから戦闘を始めようという集団にはとても見えなかった。
 それらを正確に評してユーグは断じる。
「≪太平天国≫の滅びも近いな」
 エルマーが憂いを含んだ調子で言う。
「理想を掲げても人はやはり崩れていくものなのか」
「外的内的、様々な要因に直面してしまえば人の意思は負荷を受ける。人間では無理なのかもしれないな。天帝が掲げていたような世界の実現は」
「オルコットの言う通りなのかもしれない……それでも人が成し遂げて、営まなければならないんだ……妖異達に――僕らの想念が生み出した彼らに人の世の運営を委ねるのは間違っている」
 オルコットと徹心の間に僅かに緊張が走る。しかしその緊張は徹心に吐き出した一息で霧散してしまった。
 仕切り直すように彼は言う。
「おそらくこの戦いで大勢は決することになるだろう」
 呟き、徹心は手を振り上げた。
 背後に控えた兵士達が立ち、徹心自身が保持する能力で現れた兵士達も武器を手にして控える。
「これ以上無益な抵抗を続けさせて犠牲を徒に増やさない為に、今回の戦いは負けられないよ」
「天帝の禁軍と呼ばれたお前が敵に回ったのだ。そも、彼らには勝つ見込みなど無い」
「買いかぶりはやめてくれオルコット。戦場を運営する能力は君の方が遥かに上なんだから」
「そうだな」
 苦笑の雰囲気が零れ、オルコットが訂正する。
「私達のように≪太平天国≫にあって腐敗を憂いた者達、ユーグやエルマーのような頼もしい協力者。皆があってこその勝利の確信か」
「そうだね」
 答え、徹心は声を張り上げる。
「さあ皆、≪太平天国≫を、――堕ちた天帝を滅ぼしに行こう」
 そう皆に告げ、士気を高める為の演説を打つ。
「多くの犠牲を出すだろう。それは妖魔伝承の類と契約した僕達のような存在ばかりでなく、そのような存在を知らない人々も含めてだ。そして犠牲はこの戦いの後もまだまだ出ることになる。特に天帝の庇護を失った≪太平天国≫の者達の末路は悲惨なものになるだろう」
 オルコットが引き継ぐ。
「それでも進む意志を持つ者は私達に続け! 今生じる血と屍をもって未来の犠牲を贖う。それがこの戦の意義と心得ろ!」
 大地を揺るがさんばかりの鬨の響きを持って兵士達が応える。
 かくして、≪太平天国≫の滅びを定めた戦の火蓋は歴史に記されることなく、しかし確かに切って落とされた。


            ●


「――結局、≪太平天国≫が起こした争いの犠牲者の規模は、表に出ているだけでも世界最大クラスになってしまった」
 そう言って、徹心はモニカへと視線をやる。
「≪杞憂≫の存在は確かに知られてはいた。でもそれを封じた符はあの戦いの中で行方知れずになってたんだけど……どうやら実際にはオルコットが持っていたようだね。そして今、モニカ君が契約している……」
 やるせなく息を吐き、
「当時から、やがて道を違える事になるだろう事はお互いに分かっていたから、情報は正しく共有されてはいなかったみたいだ。まさかこんな事になっていようとはね」
 舞が神妙に言う。
「昔は一緒に戦った仲なのに、今はこうして敵対しちまってるんだよな」
「そうだね、オルコットは≪聖槍≫なんていう、恐ろしい力を秘めた都市伝説まで見つけ出してきている」
 舞は考え込み、
「オルコットってのがその≪杞憂≫と≪聖槍≫を使ってなんか世界をいじるとか、そんな感じの事をウィリアムが言ってたけど」
「オルコットは都市伝説を世界を運営する新しいシステムとして、新たな理を刻みこもうとしている。理想――太平な世界の為にね」
 リカちゃんが舞の頭上で首を傾げる。
「いいことに聞こえるの」
「そうだね、決して悪事を働こうというわけではないんだよ。特にこういう戦争はね、それぞれの信じるものや正義がぶつかる事になるんだ」
 Tさんが舞やリカちゃん、モニカに分かりやすいように説明する。
「オルコットが成そうとしている事は都市伝説に人を支配させようという事に他ならん。確かに人に世界を支配させた場合と比較すれば一貫した統治が実施されはするだろうが、融通が利かない場合もあるだろうし、暴走しないとも限らない。
 それに、彼等が刻もうとする理はあの戦闘の会話を拾い上げてみるに、文明のリセット装置をつくろうと言う事に他ならん。≪聖槍≫の契約が完成し、オルコットの本懐が果たされた場合、おそらく今あるこの文明は消滅してしまうだろうな。俺から見ても今のこの世は太平とは言い難い」
 しばらく考える間を置き、リカちゃんが不安げに訊く。
「こわされちゃうの?」
「うん、まず間違いなくそうなるだろうね」
 優しく応じた徹心。更に彼は言葉を重ねる。
「僕は反対だ。僕はこの先の未来に、人間がより佳い未来を築いていくものと信じているから」
「ではしんみりするのはそこまでにして、そろそろ次の行動を決めるとしよう。おそらく私達にはあまり時間はない」
 千勢の言葉に由実が頷いた。
「そうね、≪ピリ・レイスの地図≫がある以上、あまり私達に余裕はないのかもしれないわ」
「この異界って入り口を見つけられたら誰でも入っちまえるもんなのか?」
「そういうわけでもないよ。基本的に入り口を発見される事がまず無い都市伝説ではあるけど、見つかった場合でも僕の一存で拒む事は出来る。
 けど、たぶんオルコットは結界を貫く都市伝説を抑えているはずだ。彼等は幽霊船系の都市伝説を所持しているらしいしね」
 それも改造を施されているものだと以前千勢は言っていた。
 ならば、と内心で思い、
「たぶんそれが結界貫きも兼ねているんだろう。そう遠く無い日に、この異界は侵攻を許す事になる」
「……異界の入り口を移動させるというのはどうなの?」
「可能だけど、移動していると腰を落ちつけている状態よりも隠蔽能力は落ちてしまうから、悟られてしまう可能性が高いね。得策じゃあない」
「じゃあさ、≪神智学協会≫がなんかヤバい事しそうだぜってモニカの事は上手いこと黙りつつ言って回るのはどうなんだ? 他の組織とかが手伝ってくれたりするんじゃね? 前とは違って今は≪聖槍≫なんていう危険な都市伝説を≪神智学協会≫が持ってるのがわかってんだからさ。それなりに強い人達が協力してくれるかも」
「それは危険だ」
 舞の発言に蓋をする形でTさんが口を開いた。
「無理だ。ではなく、危険?」
 由実の言葉にああ、と頷くTさん。徹心も「そうだね」と答え、
「モニカ君の中に移して使用される≪聖槍≫は最大の世界宗教に出てくる聖遺物だ。その情報が触れまわられれば、聖遺物を持つ≪神智学協会≫を正義として敵に回る者も出てくるだろう。そしてモニカ君の事をどこかで知られてしまえば全てが破局に至る事になる。モニカ君の利用価値は大きい。現状でも世界最大人口を誇る国の故事の名を持つ都市伝説が彼女の中にはあるんだ。仮に事態を外部の者達の手を借りて収拾出来たとして、≪聖槍≫が残った場合、そしてモニカ君の都市伝説がばれてしまった場合。その後にモニカ君に待っているのは……まあ明るくはない未来だろう」
 それは、モニカの価値を利用しようとする輩が必ず現れる事になるという事だ。
 その言外の言葉を受けてTさんが話を繋げる。
「信頼できる者に頼ろうとするのも、組織単位では駄目だ。複数の組織が絡む戦争は多くの人目を引く。今回の争いの争点に≪聖槍≫と≪杞憂≫が深く関わっている事を知られるのも良くない。あれらは先程の高部徹心の言葉を借りれば世界最大宗教と世界最大人口に由来する都市伝説だ。その気になれば、誰もが大義名分を掲げる事が出来る程の危険な火種となる。今回の事はあくまでオルコットと高部徹心の、そうだな……≪太平天国≫の内乱として扱うのが一番外部の介入を阻止出来る」
「馬鹿弟子の言う通りだな。≪太平天国≫などそれこそ忌むべき過去の遺物だ。これの内部紛争など関わっても何の得にもなるまいよ」
 千勢が付言し、結論を述べる。
 無駄な戦火の拡大と、犠牲にさせられようとしている少女の未来の為に――
「外部の力を借りる事は出来ない」
「うん、高坂君が言う通りという事になるかな」
「おおむねそんな感じだろう。俺は元々高部徹心の下に居た人間と言う事ができる。その点では俺はこの件に対して助力できるだろう。元より載りかかった船だ、最後まで付き合おう」
「俺も」
「わたしもなの」
「私も、最後までいさせてもらうわ」
 Tさん、舞、リカちゃん、由実の宣言に徹心は頭を下げた。
「正直戦う事が出来る信頼できる人間はいくらでも欲しいからね、助かるよ」
「気にしなくていい……それと高部徹心、いくつか決めていきたい事がある。その決定如何によってはもう何人か協力を頼める人間が居るかもしれん」
 Tさんがそこまで言った時、舞が怪訝そうな声を上げた。
「あれ……? モニカは?」
「え?」
 由実が呟き、周囲を見回してさっと顔色を変えた。
 モニカがいつの間にか部屋から居なくなっていたのだ。
 皆が一巡り視線を回していつ居なくなったのか知らないかとそれぞれに問う。
 どこにもモニカの姿は見つけられなかった。
 ケウが短く吠えて、その意志を正確に読みとった千勢が舌打ちする。
「しまった。デリカシーの無い馬鹿弟子や徹心の発言のせいでモニカが家出をしてしまったか……!」
「さも自分がデリカシーのなんたるかを知っているような発言はやめておけ師匠。一応この内部ならば安全だとは思うが……」
 そう言いながらTさんも表情を曇らせる。
「ともかく、モニカを追いかけようぜ!」
 舞が立ちあがって駆けだす。
 モニカ捜索が急遽始まった。






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