●
飯を食い終った俺達は、本格的に徹心のおっちゃんの部屋で作戦会議を開始した。
毒気とかに中てられていたらしい俺の身体も、今じゃすこぶる調子がいい。当然、会議には出席する構えだ。
部屋の隅っこではケウが寝ている。戦う事はしばらくできないだろうって話だったから、やっぱりしんどいんだろう。
そっちを気にしていると、ケウが気にするなとでも言うように欠伸をした。うーん、よくできた犬(?)だなぁ……。
「さて、でははじめようか」
部屋の奥にある大きなデスクじゃなく、応接用ソファに腰をおろして、長机の一角に肘をついた徹心のおっちゃんが切りだす。
「まずは状況の確認から入ろう。製薬会社での戦闘跡を調べた結果、ユーグ、エレナ、秋月の死体が出なかった事は話したね。この事から、彼等の実力も勘案した上で、彼等は無事にあの製薬会社から脱出しただろうと僕は考える」
確認を取るような間。誰からも異議は出ない。徹心のおっちゃんは頷き、
「――そして、≪神智学協会≫には≪ピリ・レイスの地図≫という探知都市伝説が用意されている。モニカ君を匿っているのが僕だという事、そして現在永取市内に異界の入り口を設けている事は今や完全にばれてしまっている以上、僕の異界の正体を知っているオルコットはある程度的を絞って探索をかけてくるだろう」
「発見されるまでにかかる大体の時間は割り出せそうか?」
「正確には分からないけど……しかし一週間はかからない筈だ」
Tさんにそう答えて、おっちゃんは続ける。
「こちら側の戦力は相応のものをそろえる必要があるけど、それを外部に求めようとする場合、詳しい状況説明をした上で相応の戦力を借りなければ≪冬将軍≫が居る以上意味は無い。しかし、そうした場合はモニカ君の持つ価値やオルコットが所有するだろう≪聖槍≫を巡って外部の戦力、それも強力な力を持つ者達が裏切ってくる事が高確率で予想される。そのため、外部戦力の協力を取り付ける事はしない方がいい」
さっきも説明された事だ。じっくりと考える時間があったから今ではその内容も意味も理解できる。
まあ確かにそうだよな。せっかく味方として呼んだ筈の人に裏切られちまったら元も子もありゃしねえ。でもろくな説明もしないで呼んだ味方はきっと冬のじいちゃんあたりに取り込まれて終わりだ。
そう考えながら、俺は手を挙げた。意見有りの構えだ。
「なんだい? 伏見君」
「あの冬のじいちゃんがいる場所に俺達が居るのは危険じゃねえか? おっちゃんが契約してるこの異界で戦うにしてもさ、あの冬をばら撒かれたらTさんとか千勢姉ちゃんはともかく、モニカや俺やフィラちゃんみたいなのは耐えらんねえぞ?」
「それならば大丈夫だ」
千勢姉ちゃんがそう言って、俺に説明してくる。
「徹心のこの異界はその手の干渉に対してはそれなりに強い。≪ピリ・レイスの地図≫に居場所を突きとめられて侵入を許す事になったとしても、ここが侵入してきた≪冬将軍≫の冬に侵略され、囚われる事はないだろう」
「つまり、この異界で迎え撃つということでいいのね?」
「うん、藤宮君の言う通り、そうなるね」
「あそこでか……いたしかたない事ではあるが、業が深いな。高部徹心」
Tさんが苦笑するのに徹心のおっちゃんも「今更だけどね」と似たような顔で答えた。
「――まあ、この異界が戦闘用の用途にも適しているのもまた事実だからね。だけどこの異界内では≪冬将軍≫の冬は防げても使役する兵の顕現までは止められない。どうしても争いは激しいものになるだろう。そうなる事は予想できているのに君達を外で好き勝手に暴れさせると天変地異がばら撒かれる事になる。それは何が何でも避けたい。そうなると、どうあっても異界内で戦うしかないんだ」
「あー……」
俺やフィラちゃん。それにモニカとリカちゃんが千勢姉ちゃんやTさんを見て、そんな納得の感想を漏らす。
「そのようなわけで、モニカ君の今後の人生に面倒な虫が湧いてこない為にも事は公にはできない。この異界内で僕の兵を用いて陣を敷き、迎え撃つ」
「徹心のおっちゃんの兵?」
そういや今まで姿を見た事がねえな。
「その時になったらお披露目するよ。あまり見て気持ちの良い外見とは言い難いから……ね」
そう言って少し自嘲じみた笑みを浮かべて徹心のおっちゃんは話を続けた。
「この戦い自体は昨日の製薬会社の件もある。耳目の利く者なら何かあると感づいていることだろう。だから下手に全てを隠す事はしない。代わりに架空の開戦事由をでっちあげる」
「戦う理由を作り上げるの?」
「なるほど、モニカの存在や≪神智学協会≫が掲げる理由を隠蔽するのか」
「それは構わないにしても、万人が納得する理由をでっち上げられなければ逆に怪しまれるぞ?」
「その点は大丈夫だ」
徹心のおっちゃんは妙に自身ありげに答えた。
「でっちあげる開戦事由は簡単だ。朝にも少し話に出たけど、≪太平天国≫の生き残りたちが組織の長、天帝の位の正統性を巡って争いを始めたと、そういう事にする」
そう言えば言ってたような気もする。あの時からおっちゃん達にはこれからの流れに対する考えがあったんだな……。
「その理由で相手は納得するのか?」
「大丈夫だ。≪神智学協会≫としてもモニカの安全は重要な勝利条件だし、外部からの介入を避けたいのは向こうも同じだろう。この開戦事由を≪組織≫の情報網を通じて開示する。理由が不明瞭な≪組織≫≪神智学協会≫二組織間の争いではなく、≪太平天国≫という今は滅びた組織の内部紛争という体裁にするんだ」
「そうする事でモニカの名は一切出て来る事無く、そして争いの焦点をごまかす事が出来るわけか」
「それに今となっては≪太平天国≫の天帝の座など大した価値を持ちはしない。好きに争って好きに潰し合えというのが外部の判断になるだろう」
「ただし自分達に危害が及ばないように。という注釈が入りそうね。……でもそれなら確かに誰も真相には近付けない。いえ、真相に興味を示す事は無いでしょうね」
フィラちゃんが感心したように頷く。
なるほどなるほど。皆戦うにもいちいち考えなきゃなんねえわけだ。
「めんどうで……んでもってばからしいな」
「それが戦争というものだ」
Tさんが言って、徹心のおっちゃんと千勢姉ちゃんが微苦笑で頷いた。
「戦う大義名分や条件はそれで良しとして、あとは実際にこちらが≪神智学協会≫に対して抗しきれるか、だな」
千勢姉ちゃんの言う通りだ。向こうは騎士のおっちゃんが喚ぶ≪テンプル騎士団≫や冬のじいちゃんの兵隊、それに人じゃない動きをしまくる鉄柱の姉ちゃんや秋月のおっちゃんがいるんだ。簡単に払いのける事は出来ないと思うけど。
「将クラスの相手を千勢やTさんがやってくれるとして、徹心さんが持っている兵隊の数は≪冬将軍≫や≪テンプル騎士団≫の兵数に比べてどうなのかしら?」
「兵の数はそれなり、錬度という所なら、兵一人でウィリアムが用意していた超能力部隊十人を相手にできるくらい、かな。≪冬将軍≫の兵には互角以上に渡り合えるけど、≪テンプル騎士団≫の相手は荷が重い……とはいっても文句は言っていられないのだけど」
「いっそこちらから打って出るか? ≪神智学協会≫が保持する幽霊船も本腰を入れて探れば発見できるだろう。海上で戦闘を行えば…………たぶんきっと誰にも迷惑はかけないような気がしないでもないような気がするが」
「自分で信じられない事は口にしない方がいいぞ、師匠」
「まったくだ。君はどちらにしろ天災規模の破壊を行うだろう……≪神智学協会≫の内紛に介入していた時に自分がどんな渾名を付けられてのか忘れたのかい?」
Tさんが深く深く頷く。
「鬼神とはまた言い得て妙だと思ったものだ」
「あーもー分かった。私が悪かったよ。理屈っぽい人間二人相手に舌戦はしたくない」
手を投げやりに振って千勢姉ちゃんはため息を吐く。撫でやすそうな位置にあったモニカの頭に手を置いて、
「とはいってもいつ来るともしれない相手を待ち続けるだけというのも精神衛生上よろしくはないな」
「心理的な面において不利な状況に陥っているというわけだが、まあこの点は今更言ってもしょうがないだろうな。≪神智学協会≫側も今すぐにやって来るというわけでもないだろう。向こうにも傷を癒す時間が必要だろうし、≪ピリ・レイスの地図≫の索敵だって使用して即見つける事が出来るような代物でもない。
それにおそらく≪神智学協会≫側も開戦事由の偽装を考えてはいるだろうから、その点ではこちらから先に開戦事由をでっちあげるのは一種の牽制にもなるだろう。今少し時間はある。――今の内に打てる手は打っておこうか」
そう言ってTさんは徹心のおっちゃんに告げる。
「先にも言ったが、俺に考えがある。上手くすれば戦闘自体を有利に運ぶ事が出来るだろう」
「え?」
Tさんに何か考えがあるのか? なんだろう? 徹心のおっちゃんも興味深そうに目線で先を促す。
「知り合いを当たる。≪太平天国≫内の紛争という名目のまま、要は他の組織の名を用いずに友人の手を借りてくればいいんだ。詭弁だが、対外的には通じるだろう。政治とはそんなものだ」
「……それは、外部から協力者を招くと言う事かい?」
「そうなる」
「でもその人が裏切る可能性だってあるんじゃないの?」
「そうでなくても、その協力者の上の者が、協力者に圧力をかけて内偵させないとも限らんだろう。秘密裏に協力者を招くにしても、協力者が所属する組織に対して完全に協力依頼の隠蔽を行う事は不可能に近いぞ?」
フィラちゃんと千勢姉ちゃんが反論する。
その二人に対してTさんは余裕のある笑みを浮かべた。
「師匠、その者達には上の者なんて居ないんだ」
「なに……?」
「藤宮由実。≪フィラデルフィア計画≫は?」
「え? ――ええ、大丈夫、昨日使っているうちにいつの間にか完全に復帰していたわ」
それは重畳、とTさんは頷き、
「では藤宮由実には俺達の輸送と、そして口添えを頼みたい。――その前に、高部徹心」
「なんだい?」
「協力を取り付ける上で、交渉に使えるカードを増やしたい。一つ決断してくれ」
「決断とは……一体なんなのかな?」
「なに、簡単な事だ」
Tさんはそう前置きして、こう訊ねた。
「高部徹心、お前は今のその地位に執着があるか?」
毒気とかに中てられていたらしい俺の身体も、今じゃすこぶる調子がいい。当然、会議には出席する構えだ。
部屋の隅っこではケウが寝ている。戦う事はしばらくできないだろうって話だったから、やっぱりしんどいんだろう。
そっちを気にしていると、ケウが気にするなとでも言うように欠伸をした。うーん、よくできた犬(?)だなぁ……。
「さて、でははじめようか」
部屋の奥にある大きなデスクじゃなく、応接用ソファに腰をおろして、長机の一角に肘をついた徹心のおっちゃんが切りだす。
「まずは状況の確認から入ろう。製薬会社での戦闘跡を調べた結果、ユーグ、エレナ、秋月の死体が出なかった事は話したね。この事から、彼等の実力も勘案した上で、彼等は無事にあの製薬会社から脱出しただろうと僕は考える」
確認を取るような間。誰からも異議は出ない。徹心のおっちゃんは頷き、
「――そして、≪神智学協会≫には≪ピリ・レイスの地図≫という探知都市伝説が用意されている。モニカ君を匿っているのが僕だという事、そして現在永取市内に異界の入り口を設けている事は今や完全にばれてしまっている以上、僕の異界の正体を知っているオルコットはある程度的を絞って探索をかけてくるだろう」
「発見されるまでにかかる大体の時間は割り出せそうか?」
「正確には分からないけど……しかし一週間はかからない筈だ」
Tさんにそう答えて、おっちゃんは続ける。
「こちら側の戦力は相応のものをそろえる必要があるけど、それを外部に求めようとする場合、詳しい状況説明をした上で相応の戦力を借りなければ≪冬将軍≫が居る以上意味は無い。しかし、そうした場合はモニカ君の持つ価値やオルコットが所有するだろう≪聖槍≫を巡って外部の戦力、それも強力な力を持つ者達が裏切ってくる事が高確率で予想される。そのため、外部戦力の協力を取り付ける事はしない方がいい」
さっきも説明された事だ。じっくりと考える時間があったから今ではその内容も意味も理解できる。
まあ確かにそうだよな。せっかく味方として呼んだ筈の人に裏切られちまったら元も子もありゃしねえ。でもろくな説明もしないで呼んだ味方はきっと冬のじいちゃんあたりに取り込まれて終わりだ。
そう考えながら、俺は手を挙げた。意見有りの構えだ。
「なんだい? 伏見君」
「あの冬のじいちゃんがいる場所に俺達が居るのは危険じゃねえか? おっちゃんが契約してるこの異界で戦うにしてもさ、あの冬をばら撒かれたらTさんとか千勢姉ちゃんはともかく、モニカや俺やフィラちゃんみたいなのは耐えらんねえぞ?」
「それならば大丈夫だ」
千勢姉ちゃんがそう言って、俺に説明してくる。
「徹心のこの異界はその手の干渉に対してはそれなりに強い。≪ピリ・レイスの地図≫に居場所を突きとめられて侵入を許す事になったとしても、ここが侵入してきた≪冬将軍≫の冬に侵略され、囚われる事はないだろう」
「つまり、この異界で迎え撃つということでいいのね?」
「うん、藤宮君の言う通り、そうなるね」
「あそこでか……いたしかたない事ではあるが、業が深いな。高部徹心」
Tさんが苦笑するのに徹心のおっちゃんも「今更だけどね」と似たような顔で答えた。
「――まあ、この異界が戦闘用の用途にも適しているのもまた事実だからね。だけどこの異界内では≪冬将軍≫の冬は防げても使役する兵の顕現までは止められない。どうしても争いは激しいものになるだろう。そうなる事は予想できているのに君達を外で好き勝手に暴れさせると天変地異がばら撒かれる事になる。それは何が何でも避けたい。そうなると、どうあっても異界内で戦うしかないんだ」
「あー……」
俺やフィラちゃん。それにモニカとリカちゃんが千勢姉ちゃんやTさんを見て、そんな納得の感想を漏らす。
「そのようなわけで、モニカ君の今後の人生に面倒な虫が湧いてこない為にも事は公にはできない。この異界内で僕の兵を用いて陣を敷き、迎え撃つ」
「徹心のおっちゃんの兵?」
そういや今まで姿を見た事がねえな。
「その時になったらお披露目するよ。あまり見て気持ちの良い外見とは言い難いから……ね」
そう言って少し自嘲じみた笑みを浮かべて徹心のおっちゃんは話を続けた。
「この戦い自体は昨日の製薬会社の件もある。耳目の利く者なら何かあると感づいていることだろう。だから下手に全てを隠す事はしない。代わりに架空の開戦事由をでっちあげる」
「戦う理由を作り上げるの?」
「なるほど、モニカの存在や≪神智学協会≫が掲げる理由を隠蔽するのか」
「それは構わないにしても、万人が納得する理由をでっち上げられなければ逆に怪しまれるぞ?」
「その点は大丈夫だ」
徹心のおっちゃんは妙に自身ありげに答えた。
「でっちあげる開戦事由は簡単だ。朝にも少し話に出たけど、≪太平天国≫の生き残りたちが組織の長、天帝の位の正統性を巡って争いを始めたと、そういう事にする」
そう言えば言ってたような気もする。あの時からおっちゃん達にはこれからの流れに対する考えがあったんだな……。
「その理由で相手は納得するのか?」
「大丈夫だ。≪神智学協会≫としてもモニカの安全は重要な勝利条件だし、外部からの介入を避けたいのは向こうも同じだろう。この開戦事由を≪組織≫の情報網を通じて開示する。理由が不明瞭な≪組織≫≪神智学協会≫二組織間の争いではなく、≪太平天国≫という今は滅びた組織の内部紛争という体裁にするんだ」
「そうする事でモニカの名は一切出て来る事無く、そして争いの焦点をごまかす事が出来るわけか」
「それに今となっては≪太平天国≫の天帝の座など大した価値を持ちはしない。好きに争って好きに潰し合えというのが外部の判断になるだろう」
「ただし自分達に危害が及ばないように。という注釈が入りそうね。……でもそれなら確かに誰も真相には近付けない。いえ、真相に興味を示す事は無いでしょうね」
フィラちゃんが感心したように頷く。
なるほどなるほど。皆戦うにもいちいち考えなきゃなんねえわけだ。
「めんどうで……んでもってばからしいな」
「それが戦争というものだ」
Tさんが言って、徹心のおっちゃんと千勢姉ちゃんが微苦笑で頷いた。
「戦う大義名分や条件はそれで良しとして、あとは実際にこちらが≪神智学協会≫に対して抗しきれるか、だな」
千勢姉ちゃんの言う通りだ。向こうは騎士のおっちゃんが喚ぶ≪テンプル騎士団≫や冬のじいちゃんの兵隊、それに人じゃない動きをしまくる鉄柱の姉ちゃんや秋月のおっちゃんがいるんだ。簡単に払いのける事は出来ないと思うけど。
「将クラスの相手を千勢やTさんがやってくれるとして、徹心さんが持っている兵隊の数は≪冬将軍≫や≪テンプル騎士団≫の兵数に比べてどうなのかしら?」
「兵の数はそれなり、錬度という所なら、兵一人でウィリアムが用意していた超能力部隊十人を相手にできるくらい、かな。≪冬将軍≫の兵には互角以上に渡り合えるけど、≪テンプル騎士団≫の相手は荷が重い……とはいっても文句は言っていられないのだけど」
「いっそこちらから打って出るか? ≪神智学協会≫が保持する幽霊船も本腰を入れて探れば発見できるだろう。海上で戦闘を行えば…………たぶんきっと誰にも迷惑はかけないような気がしないでもないような気がするが」
「自分で信じられない事は口にしない方がいいぞ、師匠」
「まったくだ。君はどちらにしろ天災規模の破壊を行うだろう……≪神智学協会≫の内紛に介入していた時に自分がどんな渾名を付けられてのか忘れたのかい?」
Tさんが深く深く頷く。
「鬼神とはまた言い得て妙だと思ったものだ」
「あーもー分かった。私が悪かったよ。理屈っぽい人間二人相手に舌戦はしたくない」
手を投げやりに振って千勢姉ちゃんはため息を吐く。撫でやすそうな位置にあったモニカの頭に手を置いて、
「とはいってもいつ来るともしれない相手を待ち続けるだけというのも精神衛生上よろしくはないな」
「心理的な面において不利な状況に陥っているというわけだが、まあこの点は今更言ってもしょうがないだろうな。≪神智学協会≫側も今すぐにやって来るというわけでもないだろう。向こうにも傷を癒す時間が必要だろうし、≪ピリ・レイスの地図≫の索敵だって使用して即見つける事が出来るような代物でもない。
それにおそらく≪神智学協会≫側も開戦事由の偽装を考えてはいるだろうから、その点ではこちらから先に開戦事由をでっちあげるのは一種の牽制にもなるだろう。今少し時間はある。――今の内に打てる手は打っておこうか」
そう言ってTさんは徹心のおっちゃんに告げる。
「先にも言ったが、俺に考えがある。上手くすれば戦闘自体を有利に運ぶ事が出来るだろう」
「え?」
Tさんに何か考えがあるのか? なんだろう? 徹心のおっちゃんも興味深そうに目線で先を促す。
「知り合いを当たる。≪太平天国≫内の紛争という名目のまま、要は他の組織の名を用いずに友人の手を借りてくればいいんだ。詭弁だが、対外的には通じるだろう。政治とはそんなものだ」
「……それは、外部から協力者を招くと言う事かい?」
「そうなる」
「でもその人が裏切る可能性だってあるんじゃないの?」
「そうでなくても、その協力者の上の者が、協力者に圧力をかけて内偵させないとも限らんだろう。秘密裏に協力者を招くにしても、協力者が所属する組織に対して完全に協力依頼の隠蔽を行う事は不可能に近いぞ?」
フィラちゃんと千勢姉ちゃんが反論する。
その二人に対してTさんは余裕のある笑みを浮かべた。
「師匠、その者達には上の者なんて居ないんだ」
「なに……?」
「藤宮由実。≪フィラデルフィア計画≫は?」
「え? ――ええ、大丈夫、昨日使っているうちにいつの間にか完全に復帰していたわ」
それは重畳、とTさんは頷き、
「では藤宮由実には俺達の輸送と、そして口添えを頼みたい。――その前に、高部徹心」
「なんだい?」
「協力を取り付ける上で、交渉に使えるカードを増やしたい。一つ決断してくれ」
「決断とは……一体なんなのかな?」
「なに、簡単な事だ」
Tさんはそう前置きして、こう訊ねた。
「高部徹心、お前は今のその地位に執着があるか?」