徹心のおっちゃんから今の地位には興味が無いっていう答えをもらったTさんは満足そうに頷いて、フィラちゃんと一緒にどこかに行っちまった。
Tさんはおっちゃんに「見込んだ通りだ」と言って、おっちゃんは「光栄だよ」と答えていた。
あの返事にどれだけの重みがあるのかが分からない自分が少し悔しいなあ……。
それにしてもTさん、まずはすぐに協力を取り付けられそうな人の所に行ってくるって言ってたけど、どこなんだろうか?
Tさんとフィラちゃんは意外にすぐに帰って来た。出て行ってから二時間も経ってない。
「どうだったんだ?」
「了承してくれた。世話をかけてしまう事になるが、最も頼りになってくれるだろう」
そう答えて、Tさんは徹心のおっちゃんに声をかける。
「高部徹心、地位を放り捨てる事に対する証拠のような物が欲しいのだが、準備はできただろうか?」
「うん、ここにあるよ」
そう言って徹心のおっちゃんは磁気カードみたいなものをTさんに差し出した。不思議な、今まで見た事のない形のカードだ。
「すまないな」
受け取ろうとしたTさんに割り込む形で千勢姉ちゃんがカードを掠め取っていった。
「師匠……」
「そう非難がましい目をするな。≪首塚≫に行くのだろう? 私も連れて行け。お前がそのカードを示すよりも私が赴いた方が説得力が増す」
Tさんは少し考え、「確かにそうか」と納得した。
「本当は僕が直々に行きたい所なんだけどね、僕がここから離れてしまうと発見される確率が跳ねあがってしまうから」
「それは仕方ないだろう。高部徹心にはこの隠れ蓑たる異界をしっかり保持してもらいたい。――藤宮由実、連続で済まないがまた跳んでもらいたいが構わないか?」
「ええ、良いわよ」
フィラちゃんの≪フィラデルフィア計画≫も絶好調だ。フィラちゃんとしてもこういう移動手段としての使いかたの方が好みらしい。
それにしても皆、どうもこれから≪首塚≫に行くっぽいな。
そう思った時には俺とリカちゃんは口を開いていた。
「Tさん、俺も≪首塚≫までお供するぜ!」
「わたしもなの!」
発言した瞬間にTさんが俺から微妙に目を逸らした。
「……しかしな」
何か言おうとしている口を押さえつけて千勢姉ちゃんが言う。
「いいじゃないか馬鹿弟子。今度は戦闘をしに行くというわけでもないのだろう?」
Tさんは顔を顰める。
「交渉の流れが面倒になりそうでな……まあ師匠が来てしまうのだからもうスムーズに進行するなどという幻想は捨てているが」
「む、全く失礼な奴だな」
「まったくだぜ。なあ、リカちゃん、フィラちゃん」
「そうなの」
「……どうでしょうね」
何故かフィラちゃんからよろしい同意がもらえなかった気がするけどそんな事は些細な事だ。重要なのは、
「連れてってくれんのか?」
「くれないの?」
「……藤宮由実、≪フィラデルフィア計画≫に舞達は乗せられるのか?」
「ええ、大丈夫よ」
Tさんは諦めたように頷いた。
「一応、一組織の主の所に赴くのだからある程度は気を配っておくように」
「分かってるって」
笑顔で頷いてやった。何故かTさんはため息を吐く。
「まあいい……何かあれば師匠にでもフォローしてもらおう。
さて、≪首塚≫に少なからず仇なす存在に制裁を与えてもらいに行くとしようか」
Tさんはおっちゃんに「見込んだ通りだ」と言って、おっちゃんは「光栄だよ」と答えていた。
あの返事にどれだけの重みがあるのかが分からない自分が少し悔しいなあ……。
それにしてもTさん、まずはすぐに協力を取り付けられそうな人の所に行ってくるって言ってたけど、どこなんだろうか?
Tさんとフィラちゃんは意外にすぐに帰って来た。出て行ってから二時間も経ってない。
「どうだったんだ?」
「了承してくれた。世話をかけてしまう事になるが、最も頼りになってくれるだろう」
そう答えて、Tさんは徹心のおっちゃんに声をかける。
「高部徹心、地位を放り捨てる事に対する証拠のような物が欲しいのだが、準備はできただろうか?」
「うん、ここにあるよ」
そう言って徹心のおっちゃんは磁気カードみたいなものをTさんに差し出した。不思議な、今まで見た事のない形のカードだ。
「すまないな」
受け取ろうとしたTさんに割り込む形で千勢姉ちゃんがカードを掠め取っていった。
「師匠……」
「そう非難がましい目をするな。≪首塚≫に行くのだろう? 私も連れて行け。お前がそのカードを示すよりも私が赴いた方が説得力が増す」
Tさんは少し考え、「確かにそうか」と納得した。
「本当は僕が直々に行きたい所なんだけどね、僕がここから離れてしまうと発見される確率が跳ねあがってしまうから」
「それは仕方ないだろう。高部徹心にはこの隠れ蓑たる異界をしっかり保持してもらいたい。――藤宮由実、連続で済まないがまた跳んでもらいたいが構わないか?」
「ええ、良いわよ」
フィラちゃんの≪フィラデルフィア計画≫も絶好調だ。フィラちゃんとしてもこういう移動手段としての使いかたの方が好みらしい。
それにしても皆、どうもこれから≪首塚≫に行くっぽいな。
そう思った時には俺とリカちゃんは口を開いていた。
「Tさん、俺も≪首塚≫までお供するぜ!」
「わたしもなの!」
発言した瞬間にTさんが俺から微妙に目を逸らした。
「……しかしな」
何か言おうとしている口を押さえつけて千勢姉ちゃんが言う。
「いいじゃないか馬鹿弟子。今度は戦闘をしに行くというわけでもないのだろう?」
Tさんは顔を顰める。
「交渉の流れが面倒になりそうでな……まあ師匠が来てしまうのだからもうスムーズに進行するなどという幻想は捨てているが」
「む、全く失礼な奴だな」
「まったくだぜ。なあ、リカちゃん、フィラちゃん」
「そうなの」
「……どうでしょうね」
何故かフィラちゃんからよろしい同意がもらえなかった気がするけどそんな事は些細な事だ。重要なのは、
「連れてってくれんのか?」
「くれないの?」
「……藤宮由実、≪フィラデルフィア計画≫に舞達は乗せられるのか?」
「ええ、大丈夫よ」
Tさんは諦めたように頷いた。
「一応、一組織の主の所に赴くのだからある程度は気を配っておくように」
「分かってるって」
笑顔で頷いてやった。何故かTさんはため息を吐く。
「まあいい……何かあれば師匠にでもフォローしてもらおう。
さて、≪首塚≫に少なからず仇なす存在に制裁を与えてもらいに行くとしようか」
●
永取市から前行ったこともある平将門の首塚がある所までは結構距離がある筈だけど、≪フィラデルフィア計画≫にかかればひとっ飛びだ。
うーん、何度体験してもこういうのはすげえとしか言いようが無い……。
そう思いながら首塚を眺める。
「懐かしいな……夢子ちゃんと一緒に前来た時もここで呼びかけたんだよな」
「お姉ちゃんごあいさつとても元気よかったの」
「舞ちゃん、私にはあれは呼びかけというよりも罵倒のように感じられたのだけれど」
「舞のあれはむしろ悪口とかそんなレベルだったな」
いやぁ、本当に懐かしい! 懐かしすぎて周りの声も聞こえねえぜ! そういえばここでフィラちゃんとは出会ったんだよな。
「ってかなんで一気に≪首塚≫の中まで行かねえんだ? フィラちゃんならできるだろ?」
「そういうわけにもいかないのよ」
そう言ってフィラちゃんは千勢姉ちゃんを一瞥する。
「一応、≪組織≫所属の人間がいるのですからね、≪首塚≫からの迎撃の心配がないとも言いきれないわ」
「あーそういや≪組織≫と≪首塚≫って仲悪いんだっけ? でもそんなに物騒なのか? 黒服さんとチャラい兄ちゃんなんてもう恋人もかくやの仲良し具合じゃねえか」
もうすっかり仲直りとかしてるもんだと思ったんだけど。
「個人レベルだとそうなのだけれど、流石に組織全体をそれで信頼しろというのは難しいわね」
「あの黒服さんのような人がいる一方で、髪の伸びる黒服さんの件であったような事もあるんだろう」
「あー、なるほどなぁ」
そういやルーモアのマスターを殺したというのは≪首塚≫の人だっけか……大きな組織は扱いが大変なわけだ。だからオルコットも≪神智学協会≫を自分の意思で動かせる信頼できる人達だけを残して残りを組織ごと自分で潰すような内紛を起こしたんだって話だったよな……。
「それでフィラちゃん、私はこのまま入っても大丈夫なのか? 一応徹心の意思が記録されているカードは私が所持しているのだが……」
「ええ、≪首塚≫の前で私と一緒に居る姿をこれだけ晒したのだから、問答無用で迎撃される事もないと思うわ」
フィラちゃんからゴーサインが出た。
そこで俺は一歩前にでて、息を吸い込む――と、肩を叩かれた。振り返ると千勢姉ちゃんが居る。
俺と千勢姉ちゃんはしばらく互いに見つめ合って頷いた。隣に千勢姉ちゃんが立つ。両手を口に添えてメガホンにして、二人で改めて息を吸い込み、元気よく、
「まっさかーどくーん! あっそびーましょ――――!!」
声をかけると、瞬間的に景色が歪んで違う場所に移動していた。
数年前、夢子ちゃんとも一緒に来た巨大な日本家屋の中、板張りの道場のような部屋の中だ。
一瞬にして切り変わった景色に感心していると、隣から鈍い音がした。間違いない、拳骨の音だ。
「こら馬鹿弟子何をする、痛いじゃあないか」
千勢姉ちゃんが不満たらたらにTさんに文句を言う。
対するTさんはスルーして、この部屋の奥、一段高くなってて更に御簾までかけてある場所に視線をやっていた。フィラちゃんは床に膝をついてかしこまっている。――ってことはあの奥に将門が居るんだろうか?
俺がそう思うのを見透かしたように御簾が上げられた。中からはこの前も将門のとこで御世話役をやってたキャリアウーマンっぽい姉ちゃんと甲冑を着た若武者がいる。
間違いねえ、平将門だ。
「これはこれは……また女連れ、しかも以前とは違った顔ぶれとは、豪胆だなぁTさん」
妙に威圧感を感じる声だ。相変わらず元気そうだなぁこのおっちゃん。
Tさんは「縁があってな」と軽く返して話を切り出す。
「将門公、突然来てしまってすまないな。が、危急の用だ。とりあってもらう」
「その前にだ。舞も一緒に言っていたというのになぜ私だけ殴るのか説明を求めるぞ馬鹿弟子」
将門の返事のタイミングを完全に奪って千勢姉ちゃんがTさんに詰め寄った。
Tさんは非常に迷惑そうな顔をして数秒、
「……年を考えろ」
「うわ、Tさんひでえ」
「ふはははは、このピチピチガールを捕まえて何を言う。まずは馬鹿弟子、貴様から斬ってやろうか? というか馬鹿弟子、お前先程の質問、考えている振りをしてその実ほとんど考えていなかったな?」
「熟慮の末の結論だ。いいからリカちゃんを見習って少し師匠と舞は黙っていろ」
「ほめられたの」
「あなた達、相変わらずね……」
にわかに雑談に花が咲き始めてきた所で将門が参入してきた。
「面白い女が周りに多いなぁ?」
「ええ、本当に」
将門の横のキャリアウーマンっぽい姉ちゃんがそう言って笑っている所から見るに、受けはとれてるらしい。……なんか勝った気分だ。
「言わんでくれ、少々悩みの種なんだ……本題に入ろう」
ため息をつきながらそう言って、Tさんは将門と、その横のキャリアウーマンっぽい姉ちゃんに目をやった。
「無闇に聞かせて回るには繊細な事態なのでな、将門公以外の者には席を外してもらいたい」
「ほぅ……まあよかろう」
将門が指示を出してキャリアウーマンっぽい姉ちゃんが席を外した。Tさんはそれを見送った上で更に床に手を付けて、呟く。
「結界を張ることができれば幸せだ」
光の壁が立ちあがって結界が築かれた。部屋の奥でそれを眺めた将門が興味深げに訊く。
「随分と用心深い事ではないか?」
「なるべく、内密に事を運びたいのでな」
手を床から離してTさんは話し始める。
「≪首塚≫の構成員である藤宮由実、そして≪首塚≫で保護されていたモニカ・リデルはこの数日の間≪組織≫のT№の許に匿われていた。――将門公、≪組織≫のT№と≪神智学協会≫の間で戦争が行われる旨の布告は届いているか?」
「確か≪太平天国≫などという滅びた国の王位を巡る、自己満足以外に実の無い戦の話だったと記憶しておるなぁ」
Tさんは頷く。
「藤宮由実とモニカ・リデルの二人はその戦いに深く関わっている」
「ほう、つまびらかにしてくれるのだろうなぁ?」
「ああ、概要については――藤宮由実」
「ええ」
Tさんに答えてフィラちゃんが一歩前に出た。深々とお辞儀をする。
「将門様、このたびは無断で長い間連絡をする事が出来ずに申し訳ありませんでした。故あってTさん達、そして≪組織≫のT№に助けられ、お世話になっていました。その後行動を共にする事になった事件で明らかになった私達――特にモニカが深く関わっている件について報告したく思います」
うーん、何度体験してもこういうのはすげえとしか言いようが無い……。
そう思いながら首塚を眺める。
「懐かしいな……夢子ちゃんと一緒に前来た時もここで呼びかけたんだよな」
「お姉ちゃんごあいさつとても元気よかったの」
「舞ちゃん、私にはあれは呼びかけというよりも罵倒のように感じられたのだけれど」
「舞のあれはむしろ悪口とかそんなレベルだったな」
いやぁ、本当に懐かしい! 懐かしすぎて周りの声も聞こえねえぜ! そういえばここでフィラちゃんとは出会ったんだよな。
「ってかなんで一気に≪首塚≫の中まで行かねえんだ? フィラちゃんならできるだろ?」
「そういうわけにもいかないのよ」
そう言ってフィラちゃんは千勢姉ちゃんを一瞥する。
「一応、≪組織≫所属の人間がいるのですからね、≪首塚≫からの迎撃の心配がないとも言いきれないわ」
「あーそういや≪組織≫と≪首塚≫って仲悪いんだっけ? でもそんなに物騒なのか? 黒服さんとチャラい兄ちゃんなんてもう恋人もかくやの仲良し具合じゃねえか」
もうすっかり仲直りとかしてるもんだと思ったんだけど。
「個人レベルだとそうなのだけれど、流石に組織全体をそれで信頼しろというのは難しいわね」
「あの黒服さんのような人がいる一方で、髪の伸びる黒服さんの件であったような事もあるんだろう」
「あー、なるほどなぁ」
そういやルーモアのマスターを殺したというのは≪首塚≫の人だっけか……大きな組織は扱いが大変なわけだ。だからオルコットも≪神智学協会≫を自分の意思で動かせる信頼できる人達だけを残して残りを組織ごと自分で潰すような内紛を起こしたんだって話だったよな……。
「それでフィラちゃん、私はこのまま入っても大丈夫なのか? 一応徹心の意思が記録されているカードは私が所持しているのだが……」
「ええ、≪首塚≫の前で私と一緒に居る姿をこれだけ晒したのだから、問答無用で迎撃される事もないと思うわ」
フィラちゃんからゴーサインが出た。
そこで俺は一歩前にでて、息を吸い込む――と、肩を叩かれた。振り返ると千勢姉ちゃんが居る。
俺と千勢姉ちゃんはしばらく互いに見つめ合って頷いた。隣に千勢姉ちゃんが立つ。両手を口に添えてメガホンにして、二人で改めて息を吸い込み、元気よく、
「まっさかーどくーん! あっそびーましょ――――!!」
声をかけると、瞬間的に景色が歪んで違う場所に移動していた。
数年前、夢子ちゃんとも一緒に来た巨大な日本家屋の中、板張りの道場のような部屋の中だ。
一瞬にして切り変わった景色に感心していると、隣から鈍い音がした。間違いない、拳骨の音だ。
「こら馬鹿弟子何をする、痛いじゃあないか」
千勢姉ちゃんが不満たらたらにTさんに文句を言う。
対するTさんはスルーして、この部屋の奥、一段高くなってて更に御簾までかけてある場所に視線をやっていた。フィラちゃんは床に膝をついてかしこまっている。――ってことはあの奥に将門が居るんだろうか?
俺がそう思うのを見透かしたように御簾が上げられた。中からはこの前も将門のとこで御世話役をやってたキャリアウーマンっぽい姉ちゃんと甲冑を着た若武者がいる。
間違いねえ、平将門だ。
「これはこれは……また女連れ、しかも以前とは違った顔ぶれとは、豪胆だなぁTさん」
妙に威圧感を感じる声だ。相変わらず元気そうだなぁこのおっちゃん。
Tさんは「縁があってな」と軽く返して話を切り出す。
「将門公、突然来てしまってすまないな。が、危急の用だ。とりあってもらう」
「その前にだ。舞も一緒に言っていたというのになぜ私だけ殴るのか説明を求めるぞ馬鹿弟子」
将門の返事のタイミングを完全に奪って千勢姉ちゃんがTさんに詰め寄った。
Tさんは非常に迷惑そうな顔をして数秒、
「……年を考えろ」
「うわ、Tさんひでえ」
「ふはははは、このピチピチガールを捕まえて何を言う。まずは馬鹿弟子、貴様から斬ってやろうか? というか馬鹿弟子、お前先程の質問、考えている振りをしてその実ほとんど考えていなかったな?」
「熟慮の末の結論だ。いいからリカちゃんを見習って少し師匠と舞は黙っていろ」
「ほめられたの」
「あなた達、相変わらずね……」
にわかに雑談に花が咲き始めてきた所で将門が参入してきた。
「面白い女が周りに多いなぁ?」
「ええ、本当に」
将門の横のキャリアウーマンっぽい姉ちゃんがそう言って笑っている所から見るに、受けはとれてるらしい。……なんか勝った気分だ。
「言わんでくれ、少々悩みの種なんだ……本題に入ろう」
ため息をつきながらそう言って、Tさんは将門と、その横のキャリアウーマンっぽい姉ちゃんに目をやった。
「無闇に聞かせて回るには繊細な事態なのでな、将門公以外の者には席を外してもらいたい」
「ほぅ……まあよかろう」
将門が指示を出してキャリアウーマンっぽい姉ちゃんが席を外した。Tさんはそれを見送った上で更に床に手を付けて、呟く。
「結界を張ることができれば幸せだ」
光の壁が立ちあがって結界が築かれた。部屋の奥でそれを眺めた将門が興味深げに訊く。
「随分と用心深い事ではないか?」
「なるべく、内密に事を運びたいのでな」
手を床から離してTさんは話し始める。
「≪首塚≫の構成員である藤宮由実、そして≪首塚≫で保護されていたモニカ・リデルはこの数日の間≪組織≫のT№の許に匿われていた。――将門公、≪組織≫のT№と≪神智学協会≫の間で戦争が行われる旨の布告は届いているか?」
「確か≪太平天国≫などという滅びた国の王位を巡る、自己満足以外に実の無い戦の話だったと記憶しておるなぁ」
Tさんは頷く。
「藤宮由実とモニカ・リデルの二人はその戦いに深く関わっている」
「ほう、つまびらかにしてくれるのだろうなぁ?」
「ああ、概要については――藤宮由実」
「ええ」
Tさんに答えてフィラちゃんが一歩前に出た。深々とお辞儀をする。
「将門様、このたびは無断で長い間連絡をする事が出来ずに申し訳ありませんでした。故あってTさん達、そして≪組織≫のT№に助けられ、お世話になっていました。その後行動を共にする事になった事件で明らかになった私達――特にモニカが深く関わっている件について報告したく思います」
●
流暢にこの十日あまりで起こった事を語っていく由実の話に時折補足を入れながら、Tさんは内心で舌を巻いていた。
……随分と肝が据わっているじゃないか。
この話し合いの場に至るまでのやり取りに対しても、由実は呆れた表情をするだけだった。彼女が以前≪首塚≫で会った時のままであったならば、仮にも己の上役に対してあのような態度を取られれば色を失っていただろう。どうも精神的にタフになっているようだ。そうTさんは思う。
……この数日の間に何度も極限状態を経験しているからか……。
命を失うような経験も何度もするはめになったのだ。嫌でも鍛えられた事だろう。Tさんとしては由実の将門に対する物怖じがほとんどなく話が進んでいくので、効率的でいい感じだ。
一通りの話が終わったのを見て取ったTさんは、由実の話の尾を引き継ぐ形で口を開く。
「いま藤宮由実が話した事が、彼女たちが≪首塚≫から姿を消さねばならなかった理由、そして、T№と≪神智学協会≫の間で起こる戦の真相という事になる」
話を聞き終えて無言で佇んでいた将門は重々しく口を開く。
「それで?」
「単刀直入に言わせてもらおう」
Tさんは将門の目を見据えた。
「共に戦ってもらいたい」
一呼吸の間。そして――笑いが爆発した。
「クックククク、カ、カカカカッ!! 神たるこの我にたかが一都市伝説に過ぎぬ貴様の配下になれと?」
「配下ではない。共に戦う仲間だ、将門公。――貴公の言い方に合わせるならば同志、だろうか」
「同志とはまた面白い論法よ。しかしせっかく偽の理由を担ぎだしたというのに我の参戦のせいで此度の戦には何か裏があると言っているようなものではないか」
「その通りだ将門公。≪首塚≫の大義を掲げて――モニカや藤宮由実に対する仕打ちへの報復という理由で貴公に動かれるとモニカにまで目が向いてしまう。それは避けたい。その点は彼女等を保護する立場にある将門公も同じ意見だと思う。どうしようもない理由であの少女の将来が食い物にされる事は貴公の望むところではないだろう……そこで、だ。貴公の参戦に対しての大義名分はこうしてもらいたい」
将門は顎をしゃくった。
「言うてみい」
軽く点頭してTさんは告げる。
「俺ないし、師匠か高部徹心の友人として、その求めに応じた助力であると声明してもらいたい」
それはつまり、
「俺達は≪首塚≫という組織に助力を乞いに来たのでは無い。兵士を求めてはいないんだ。ただの兵士は数を揃えても逆効果にしかならん。≪神智学協会≫の陣営に属する者達はそういう厄介な存在だ」
だから、
「俺達は将をこなせる強者、将門公個人の男気を見せてもらいに来た」
将門の目が細まる。それを気に留めずにTさんは話を続ける。
「兵の当てはある。≪冬将軍≫の能力に抗することのできる兵だ。多少癖はあるが、錬度の方もある程度は保証しよう。あとは指揮を執り、同時に前線で相手の指揮官級を相手に出来る者が欲しい」
「要するに指揮もできる上に殺しても死ななそうで、その上砲台役までこなせる将門は買いだなと――」
打撃音が響いて千勢が後方にふっとんでいった。彼女が結界の壁に激突する音が響くまで間を置き、将門はふむ、と頷く。
「上下の関係ではなく、対等な存在として≪神智学協会≫という敵と共に戦えと?」
「然り」
いらえ、Tさんは千勢を殴った拳を軽く振りながら言葉を重ねる。
「当然≪組織≫に与する者に手を貸すという形になる事態は面白くなかろうと思い、少しばかり条件を整えた――師匠」
「了解だ馬鹿弟子」
千勢は殴られたダメージも無さそうに懐から磁気カードのような物を取り出した。出発に際して徹心が持たせたものだ。
「これは一種の記録媒体になっていてな、この中に高部徹心の直々のメッセージが入っている」
千勢がカードを放り投げる。するとカードが発光して薄い立体映像が現れた。その立体映像は、
「徹心おじちゃんなの……」
リカちゃんの言葉通り、高部徹心の姿になった。
彼の映像は語る。
『――初めまして。僕は≪組織≫、T№の長を名乗っている高部徹心だ。直接に姿を見せる事が出来無くて申し訳ない将門公。しかし彼等から話を聞いた以上は今僕がこの異界を離れるわけにはいかない理由は分かってもらえると思う。……今回の件、貴公の御助力を賜る上で≪組織≫の名は厄介なものだ。≪首塚≫が≪組織≫を好ましく思っていない事は周知の事実だからね』
そう言って映像の徹心は力の抜けた笑みを浮かべた。
『故に、我々T№は今この時をもって≪組織≫から離脱する。そのための書類の写しも高坂君に持たせた。御照覧頂きたい』
それを最後い映像が消えた。
「これがその書類だ」
千勢が書類を取り出して放り投げた。Tさんが付言する。
「今の高部徹心の発言の証拠として形がしっかりしたものを見せようという事だが、信用は頂けるだろうか?」
「血判が捺印されているなぁ……信用に値すると、そう言っておこう」
徹心の映像が消えたカードをしまって千勢が言う。
「直裁な判断と犀利な思慮に感謝する。平将門」
クク、と喉を震わせて将門が応じた。
「よう言うものだ。先の話を聴いている限りでは組織間の抗争という構図を作らぬよう立ち回らねばモニカの未来が凶兆にまみれるのだろう? そして組織間抗争の構図を作らぬためには我が居ようと居なかろうと≪組織≫の看板を掲げて戦う事は出来ないように思うがなぁ?」
つまり将門が力を貸そうが貸さなかろうがどちらにせよ≪組織≫からの離脱は為されるのだろう。そう将門は言ってきている。その言葉を汲んでTさんはしれっと答えた。
「譲歩を示すという形を示すことで少しでも有利に話を進めたかったのだがな……見抜かれるとは、お見それした、将門公」
「阿諛するふりなどいらぬ、腹芸をしたいわけではなかろう?」
「ああ、先程の事はこちらの仕掛けた遊びのような物だと考えて流してくれるとありがたい」
言って、Tさんは表情を改めた。近くに歩み寄って来ていた平将門へと改まった言葉をかける。
「貴公の力をお借りしたい。――英雄、平将門」
「クックククク、以前我を祟り神と呼びおった貴様が今度は英雄と称するか」
「神など人の意志一つでその威徳を変えるものだろう。このような場で過去を漁るのは貴公の流儀では無いと思うが?」
「クク、そうさなぁ……」
笑み、そのまま舐るように視線をTさん達へと向け、その末に将門は頷いた。
「まあいい、お前達に乗せられてやるとしよう。――久方振りの前線も悪くは無い」
「感謝する」
「構わぬ、更に詳しく話は聞かせてもらえるのだろうなぁ?」
「高部徹心のもとでこちらの得ている情報の全てを報せよう。すぐに≪フィラデルフィア計画≫でご足労願いたいが差し支えはないか?」
「ふむ、少しここを空けると側近には伝えておくとしようか――もちろん、真相は隠した上でな」
愉快そうな笑みを浮かべる将門を見やりながらTさんは内心で息を吐いた。
……これでこちらが揃える事が出来る信用に足る駒は全て揃った……か。
≪神智学協会≫がどこまで準備を整えて来るのか、それが分からない今は目の前の英雄の参戦という朗報を受けても安心はできない。そう思いながらもひとまずの安堵を得て、Tさんはぼやいた。
「帰ったら少し休ませてもらおう。流石に疲れた」
……随分と肝が据わっているじゃないか。
この話し合いの場に至るまでのやり取りに対しても、由実は呆れた表情をするだけだった。彼女が以前≪首塚≫で会った時のままであったならば、仮にも己の上役に対してあのような態度を取られれば色を失っていただろう。どうも精神的にタフになっているようだ。そうTさんは思う。
……この数日の間に何度も極限状態を経験しているからか……。
命を失うような経験も何度もするはめになったのだ。嫌でも鍛えられた事だろう。Tさんとしては由実の将門に対する物怖じがほとんどなく話が進んでいくので、効率的でいい感じだ。
一通りの話が終わったのを見て取ったTさんは、由実の話の尾を引き継ぐ形で口を開く。
「いま藤宮由実が話した事が、彼女たちが≪首塚≫から姿を消さねばならなかった理由、そして、T№と≪神智学協会≫の間で起こる戦の真相という事になる」
話を聞き終えて無言で佇んでいた将門は重々しく口を開く。
「それで?」
「単刀直入に言わせてもらおう」
Tさんは将門の目を見据えた。
「共に戦ってもらいたい」
一呼吸の間。そして――笑いが爆発した。
「クックククク、カ、カカカカッ!! 神たるこの我にたかが一都市伝説に過ぎぬ貴様の配下になれと?」
「配下ではない。共に戦う仲間だ、将門公。――貴公の言い方に合わせるならば同志、だろうか」
「同志とはまた面白い論法よ。しかしせっかく偽の理由を担ぎだしたというのに我の参戦のせいで此度の戦には何か裏があると言っているようなものではないか」
「その通りだ将門公。≪首塚≫の大義を掲げて――モニカや藤宮由実に対する仕打ちへの報復という理由で貴公に動かれるとモニカにまで目が向いてしまう。それは避けたい。その点は彼女等を保護する立場にある将門公も同じ意見だと思う。どうしようもない理由であの少女の将来が食い物にされる事は貴公の望むところではないだろう……そこで、だ。貴公の参戦に対しての大義名分はこうしてもらいたい」
将門は顎をしゃくった。
「言うてみい」
軽く点頭してTさんは告げる。
「俺ないし、師匠か高部徹心の友人として、その求めに応じた助力であると声明してもらいたい」
それはつまり、
「俺達は≪首塚≫という組織に助力を乞いに来たのでは無い。兵士を求めてはいないんだ。ただの兵士は数を揃えても逆効果にしかならん。≪神智学協会≫の陣営に属する者達はそういう厄介な存在だ」
だから、
「俺達は将をこなせる強者、将門公個人の男気を見せてもらいに来た」
将門の目が細まる。それを気に留めずにTさんは話を続ける。
「兵の当てはある。≪冬将軍≫の能力に抗することのできる兵だ。多少癖はあるが、錬度の方もある程度は保証しよう。あとは指揮を執り、同時に前線で相手の指揮官級を相手に出来る者が欲しい」
「要するに指揮もできる上に殺しても死ななそうで、その上砲台役までこなせる将門は買いだなと――」
打撃音が響いて千勢が後方にふっとんでいった。彼女が結界の壁に激突する音が響くまで間を置き、将門はふむ、と頷く。
「上下の関係ではなく、対等な存在として≪神智学協会≫という敵と共に戦えと?」
「然り」
いらえ、Tさんは千勢を殴った拳を軽く振りながら言葉を重ねる。
「当然≪組織≫に与する者に手を貸すという形になる事態は面白くなかろうと思い、少しばかり条件を整えた――師匠」
「了解だ馬鹿弟子」
千勢は殴られたダメージも無さそうに懐から磁気カードのような物を取り出した。出発に際して徹心が持たせたものだ。
「これは一種の記録媒体になっていてな、この中に高部徹心の直々のメッセージが入っている」
千勢がカードを放り投げる。するとカードが発光して薄い立体映像が現れた。その立体映像は、
「徹心おじちゃんなの……」
リカちゃんの言葉通り、高部徹心の姿になった。
彼の映像は語る。
『――初めまして。僕は≪組織≫、T№の長を名乗っている高部徹心だ。直接に姿を見せる事が出来無くて申し訳ない将門公。しかし彼等から話を聞いた以上は今僕がこの異界を離れるわけにはいかない理由は分かってもらえると思う。……今回の件、貴公の御助力を賜る上で≪組織≫の名は厄介なものだ。≪首塚≫が≪組織≫を好ましく思っていない事は周知の事実だからね』
そう言って映像の徹心は力の抜けた笑みを浮かべた。
『故に、我々T№は今この時をもって≪組織≫から離脱する。そのための書類の写しも高坂君に持たせた。御照覧頂きたい』
それを最後い映像が消えた。
「これがその書類だ」
千勢が書類を取り出して放り投げた。Tさんが付言する。
「今の高部徹心の発言の証拠として形がしっかりしたものを見せようという事だが、信用は頂けるだろうか?」
「血判が捺印されているなぁ……信用に値すると、そう言っておこう」
徹心の映像が消えたカードをしまって千勢が言う。
「直裁な判断と犀利な思慮に感謝する。平将門」
クク、と喉を震わせて将門が応じた。
「よう言うものだ。先の話を聴いている限りでは組織間の抗争という構図を作らぬよう立ち回らねばモニカの未来が凶兆にまみれるのだろう? そして組織間抗争の構図を作らぬためには我が居ようと居なかろうと≪組織≫の看板を掲げて戦う事は出来ないように思うがなぁ?」
つまり将門が力を貸そうが貸さなかろうがどちらにせよ≪組織≫からの離脱は為されるのだろう。そう将門は言ってきている。その言葉を汲んでTさんはしれっと答えた。
「譲歩を示すという形を示すことで少しでも有利に話を進めたかったのだがな……見抜かれるとは、お見それした、将門公」
「阿諛するふりなどいらぬ、腹芸をしたいわけではなかろう?」
「ああ、先程の事はこちらの仕掛けた遊びのような物だと考えて流してくれるとありがたい」
言って、Tさんは表情を改めた。近くに歩み寄って来ていた平将門へと改まった言葉をかける。
「貴公の力をお借りしたい。――英雄、平将門」
「クックククク、以前我を祟り神と呼びおった貴様が今度は英雄と称するか」
「神など人の意志一つでその威徳を変えるものだろう。このような場で過去を漁るのは貴公の流儀では無いと思うが?」
「クク、そうさなぁ……」
笑み、そのまま舐るように視線をTさん達へと向け、その末に将門は頷いた。
「まあいい、お前達に乗せられてやるとしよう。――久方振りの前線も悪くは無い」
「感謝する」
「構わぬ、更に詳しく話は聞かせてもらえるのだろうなぁ?」
「高部徹心のもとでこちらの得ている情報の全てを報せよう。すぐに≪フィラデルフィア計画≫でご足労願いたいが差し支えはないか?」
「ふむ、少しここを空けると側近には伝えておくとしようか――もちろん、真相は隠した上でな」
愉快そうな笑みを浮かべる将門を見やりながらTさんは内心で息を吐いた。
……これでこちらが揃える事が出来る信用に足る駒は全て揃った……か。
≪神智学協会≫がどこまで準備を整えて来るのか、それが分からない今は目の前の英雄の参戦という朗報を受けても安心はできない。そう思いながらもひとまずの安堵を得て、Tさんはぼやいた。
「帰ったら少し休ませてもらおう。流石に疲れた」