アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-54

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
            ●


 Tさんが協力者を連れ帰ってから2日が経った。オルコットは≪ピリ・レイスの地図≫の能力を使用して徹心の異界の入り口を割り出す事に全力を傾けていた。
「これで永取市の南半分は捜査しきった事になるか」
 海側から捜査の手を伸ばすオルコットの手元には、≪ピリ・レイスの地図≫が作成した永取市の都市伝説の所在地を反映させた地図が何枚も層を為している。その最上部にある地図には街を東西に割く川と、川によって離れた陸地同士を結ぶ大鉄橋が大きく描かれていた。
「もう少し縮尺を小さくして調べる事ができればいいのだがな……」
 徐々にしか進まない調査にため息が漏れるが、現在調査をかけているより小さい縮尺で捜査しようとすれば確実に入り口を掴む事は出来ないだろう。入口を掴むためには地道に精査していくしかないのだ。
 ……あまり時間をかけると徹心達に準備の期間を与える事になってしまうのだがな。
 それはできるだけ避けたい所だった。
 この極東、日本に来てから初めて対峙したTさんが≪冬将軍≫の冬に的確に対処していたという報告を受けた。勘が良いととる事もできるが、それ以上に≪冬将軍≫の能力を正確に把握している千勢の影響も大きいだろう。
 千勢は≪神智学協会≫の内紛においてオルコットの手の者の内の幾人かと矛を交えている。戦闘方法や行動傾向、能力の内容や癖に至るまで掴まれているのかもしれない。
 それは不利な要素ではあるが、内紛の時から既に≪冬将軍≫や≪テンプル騎士団≫の対策は講じられてきた。今更こちらの都市伝説の能力に対して対抗策が練られる事自体を大きな脅威だとは思わない。
 ……それにこちらにはまだ彼等に正体を知られていない都市伝説がある。
 都市伝説の正体を知られていないという事はそれだけでアドバンテージとなる。彼等自身の戦闘能力とも考え合わせると、このアドバンテージは大きく働く事になるだろう。
 加えて、
 ……ウィリアムが用意した施設への強襲メンバーの中には非戦闘員も紛れていたと聞く。
 純粋な戦力の数が足りない証拠だろう。徹心の指示に従って行動していた≪組織≫の構成員はほとんど消耗し、あの戦いの後に徹心は彼等を手放したという情報がある。その後にモニカを本格的に手元に置いて護るように動いた徹心がモニカの情報が拡散するリスクを考えずに動くとは考えづらい。その後、大量の戦力の補充はしていないものと見て問題ないだろう。
 ……こちらもここに至るまでに多くの戦力を使いはしたが、現状でもあの内紛を勝ち、生き残るには十分な者が残っている。兵力の単純な数として考えても徹心の禁軍以上のものを≪冬将軍≫とユーグは保持している。数で上回り質も申し分ない。こちらの有利を意味する安心材料ではある――が、油断はできない。
 そうオルコットは自分の思考に穴ができないように釘を刺す。
 ……徹心は策士だ。それに≪神智学協会≫の皆が鬼神と畏れた千勢の存在や、日本に来てから戦列に加わった鬼神の教え子――Tさんの事もある。
 この戦いにおいて真に安心できる材料など何もない。その事を忘れないようにしなければならないと思考したオルコットに声をかける者があった。
「オルコット様?」
「エレナか……どうした?」
 エレナは問いに対してどう答えようかと迷うそぶりを見せ、やがて遠慮がちに口を開いた。
「いえ……少し嬉しそうな顔をしながら考え事をしてらっしゃったので、どうしたのかなと」
 どうやら知らないうちに笑みを浮かべていたらしい。自覚していなかった事を指摘されてオルコットは苦笑した。
「戦いが近いとどうもな。今回のような決戦の時は日に日に戦いの気配が濃厚になっていくのが感じとれて高揚する」
 ≪拝上帝会≫において戦う事を専門とする役に長く就いていた事が原因だろう。体に染みついた癖というものだ。そう思っていると、エレナが思い出したように言う。
「そういえば、アキヅキも同じような事を以前言っていたのを聞いた事があります」
「あれは≪冬将軍≫やユーグ以上に戦いの気配に対する嗅覚が鋭いからな、強さを求める生き方故の能力だろう。きっと弘蔵は今も私以上に戦いの気配を感じているはずだ」
「焦れているかもしれないな」と冗談を飛ばしながらオルコットはエレナを見る。
 彼女はオルコットの手によって施された≪聖痕≫の解放に伴う負荷に耐えきった。解放された力に飲まれる事もなく、今もこうしてオルコットの補佐をやり遂げている。
 強い娘だと思う。だからもう、彼女が自分を追いかけてきた当初のように、危険を示唆する言葉を用いて共に来る事を止めさせようとする事はしない。
「エレナ、この戦に勝てば世界の理は書きかえられる。そしてその中心点では≪杞憂≫が発動するだろう。ただの人間である私達も、≪杞憂≫が行うリセットに巻き込まれて滅ぶ公算も高いのだが、それでも私に力を貸してくれるか?」
 この言葉は依頼だ。例え勝利を掴んだとしても滅びを被る可能性が高い決戦の場に共に出てくれるかと頼むものだ。
 エレナはその言葉に心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「はい、喜んで!」
 ……不思議なものだ。
 心なしか上機嫌になったエレナを眺めながらオルコットはそう思う。戦いの経験では他の誰よりも劣っている筈のエレナが、いつの間にかその誰とも同列になっているような錯覚をおぼえるのだ。
 ……意志の強さか……。
「頼りにしている」
 無言で頭を下げるエレナ。そこに部屋の入り口をノックする音がした。
「誰だ?」
「儂だ。オルコット」
「弘蔵か、入れ」
 扉を空けて入って来た弘蔵はオルコットの眼前に山と積まれている≪ピリ・レイスの地図≫に目を細める。
「入り口は見つかったか?」
「いや、まだだ」
 弘蔵は少し期待が外れたかのような顔をした。
「ふむ、妙にざわめくので来てみたのだが、まだなのか」
「アキヅキが勘を外すなんて珍しいわね。やっぱり戦いを待ちきれないのかしら?」
 先程の会話の流れから出たからかいの言葉に弘蔵は浅く頷く。
「そうだな、これほどの争いの気配はめったに無い。少し気が急いているのやもしれん」
 精悍な顔に獰猛な笑みを浮かべた弘蔵にオルコットは釘を刺す。
「だからといってユーグを挑発するような真似はひかえてもらいたいところだがな」
「おや、オルコットにはばれていたか」
 参った参ったと呟きながら弘蔵は続ける。
「しかし、あれであの騎士もなかなか歪な生き方をしているな。そこすらも含めて彼は面白いのだが」
「そう言ってくれるな。ユーグがああなったのには私の責任もある」
 ユーグやエルマー、レニーやトリシア、そしてモニカ。ユーグの周囲には犠牲を強いてばかりいる。ユーグが最終的に目的を達成した後にまだ生き残っている事ができたのならばモニカの守護をすると言っているのも、最後には自分自身も殉じる覚悟があるという事だ。
 ……≪テンプル騎士団≫……彼等が力を持つに至った話もそうだが、このようにして現世に存在を得て尚、ここまでの重苦を背負わねばならない道を付けたのは私の責任でもある。ユーグ自身がその道を歩むと決めたとはいえ、なんとも度し難い話だ。
 そう思い、苦く口を歪めたオルコットの目の前で、唐突に一枚の紙片が光を放った。
「――!?」
「どうした?」
 エレナと弘蔵がそれぞれに警戒の目を紙片に向ける。それらの視線を手で制し、オルコットは失笑した。
 ……これは――、
「徹心……そうきたか」
 光を放っているのは≪ピリ・レイスの地図≫の内の一枚だった。
 今まで街の南端からしらみつぶしに地形を精査していた≪ピリ・レイスの地図≫は、その体系だった調査方式を完全に放り出して、街を流れる川の上流のある一点を光点によって示していた。
「オルコット様、それは……?」
「徹心が管理する異界への入り口だ」
 エレナが目を見開き、弘蔵が笑みを濃くする。
「戦の時が熟したか」
「やはり弘蔵の勘は無下にはできないな」
「でも一体何故いきなり場所を掴む事が出来たのですか? いままで発見できなかったものなのに……」
「徹心が自ら異界の入り口の隠蔽を解いたのだ」
 ほう、と弘蔵が唸る。彼は地図の光点を睨みつけながら小さく呟く。
「罠……か?」
「見極める事も含めて皆の意見を取り入れる必要がある――エレナ、皆を集めてくれ」
「はい」
 指示を受けたエレナが艦内の通信装置を使用する為に部屋を出て行く。それを見送りながら、オルコットは弘蔵の浮かべるものと同等の獰猛な笑みをうかべ、重々しく呟いた。
「やっと終わる……いや、始まるのか」
 新たな理を世界に刻みつける為の戦いが。そして、その後の世界が――。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー