「そうか、菊はそうやって、本家様の力になりたいのか」
「…はい、兄様」
「…はい、兄様」
兄の龍鬼は、こちらの話を黙って聞いてくれた
その上で、しばし考え込み……告げてくる
その上で、しばし考え込み……告げてくる
「わかった。ただ、それだけでは、若を支え続けるには難しいだろう。表の仕事も、見つけるように」
「……表の、仕事?」
「あぁ。表立ってやっているのは、本家様。だが、我ら分家の人間は、表立ってはそちらを行ってはいけない」
「……表の、仕事?」
「あぁ。表立ってやっているのは、本家様。だが、我ら分家の人間は、表立ってはそちらを行ってはいけない」
だから
表向きの仕事も用意すべきだ
兄は、そう言ってきた
表向きの仕事も用意すべきだ
兄は、そう言ってきた
「…表向き…」
「伯父はセメント工場を経営しているし、叔母はお好み焼き屋をやっているだろう?何でもいいんだ。裏の仕事に感づかれぬよう、振舞っていられれば」
「……わかりました」
「伯父はセメント工場を経営しているし、叔母はお好み焼き屋をやっているだろう?何でもいいんだ。裏の仕事に感づかれぬよう、振舞っていられれば」
「……わかりました」
こくり、頷く
……そうか、表向きの仕事を考えておかないと駄目か
それも、考えておかなければ
……そうか、表向きの仕事を考えておかないと駄目か
それも、考えておかなければ
分家に生まれた者としての役割
自分は、それを果たすのだ
その為ならば、どんな努力でも重ねていこうではないか
自分は、それを果たすのだ
その為ならば、どんな努力でも重ねていこうではないか
ちょこん、と
店の奥に用意してもらった椅子に腰掛ける紫苑
じっと、働いている菊の様子を眺める
店の奥に用意してもらった椅子に腰掛ける紫苑
じっと、働いている菊の様子を眺める
「ねーねー、店長さ~ん!」
…………
「…ん…?何、か…?」
「こないだ、お気に入りのスカートが風で飛んでちゃってさ~。見つけられなくて…何か、いいスカートない?」
「こないだ、お気に入りのスカートが風で飛んでちゃってさ~。見つけられなくて…何か、いいスカートない?」
何て、言うか……
「……じゃ、これ……」
「きゃー、かっわいー!試着してみるね~!」
「きゃー、かっわいー!試着してみるね~!」
……その
「どう?似合ってる?似合ってるよね?」
「………ん」
「やっぱりぃ?じゃ、これ買っちゃうね~!」
「…お買い上げ、感謝」
「………ん」
「やっぱりぃ?じゃ、これ買っちゃうね~!」
「…お買い上げ、感謝」
…え~と
どこからコメントすればいいのか、突っ込めばいいのか
その光景に、紫苑は悩む
どこからコメントすればいいのか、突っ込めばいいのか
その光景に、紫苑は悩む
「店長さ~ん!此間、通りすがりの紳士っぽい人が「あなたのソックスは、このソックスハンターが頂いたあぁあ!!」とか言って、靴下スられちゃって……新しいの買いたいんだけど」
「それ、通報、した方がいい………色、赤、好き?」
「わぁ、赤い花柄で可愛い!じゃ、これと……せっかくだから、靴も新しいの買いたくなったかも。お勧めある?」
「…ん……それに、合わせるなら……」
「それ、通報、した方がいい………色、赤、好き?」
「わぁ、赤い花柄で可愛い!じゃ、これと……せっかくだから、靴も新しいの買いたくなったかも。お勧めある?」
「…ん……それに、合わせるなら……」
先ほどから、てきぱきと接客をこなしている菊
前髪で目元が見えないほの暗い印象にも関わらず、女性客達は遠慮なく、菊に声をかけている
そして、その客らに、菊はごく普通に対応していて
まるで、一人一人の好みを全て把握しているかのように、無駄なく、スムーズに要望に答えていっていた
前髪で目元が見えないほの暗い印象にも関わらず、女性客達は遠慮なく、菊に声をかけている
そして、その客らに、菊はごく普通に対応していて
まるで、一人一人の好みを全て把握しているかのように、無駄なく、スムーズに要望に答えていっていた
「紫苑ちゃんだっけ?ビックリした?」
声をかけられ、一瞬、びくりとする紫苑
顔をあげれば、店のバイトらしい女性が、にこにことこちらを覗き込んできていた
確か……花房 御幸とか言っていたか
菊と同じか、それより若干年上に見える
顔をあげれば、店のバイトらしい女性が、にこにことこちらを覗き込んできていた
確か……花房 御幸とか言っていたか
菊と同じか、それより若干年上に見える
「…そうね。正直根暗な印象してたから。こんな店やってるなんて、想像もつかなかったわ」
「あはは、そうだよね~。私も、最初会った時は、こんな素的なブティックやってるなんて想像できなかったし」
「あはは、そうだよね~。私も、最初会った時は、こんな素的なブティックやってるなんて想像できなかったし」
ブティック「カナリア」
ここが、菊の職場だった
女性向けの衣料品を扱っている店
……しかも、そこの店長らしい
ここが、菊の職場だった
女性向けの衣料品を扱っている店
……しかも、そこの店長らしい
そう言えば、あの大量の女物の服
菊は、「サンプル」と言っていた
…あぁ、なるほど
服を仕入れる際にでも、業者からもらった物だったのか、とようやく納得した
菊は、「サンプル」と言っていた
…あぁ、なるほど
服を仕入れる際にでも、業者からもらった物だったのか、とようやく納得した
「…繁盛してるのね」
「此間、また雑誌に載せてもらったから、そのせいもあるんじゃないかな~。その分、菊っちが忙しくなるんだけどね」
「……あんたは、忙しくないの?」
「誰も、私に「服見繕って」とかって言ってくれないんだもの」
「此間、また雑誌に載せてもらったから、そのせいもあるんじゃないかな~。その分、菊っちが忙しくなるんだけどね」
「……あんたは、忙しくないの?」
「誰も、私に「服見繕って」とかって言ってくれないんだもの」
御幸の言葉に頷きつつ、視線を菊へと戻す紫苑
「ねー、ジャケット欲しいのジャケット!いかしたデザインのない?」
「……ミナ、には……黒が似合うから、これ…」
「てんちょー!このスカートに合うカーディガンとかないかな?」
「…ん……英国風デザイン………同じく、英国風デザインの物を……」
「私さー、ロリータファッションに挑戦したいの!で、頭の天辺からつま先まで、フルコーディネートよろ!」
「…了解……予算、は?」
「……ミナ、には……黒が似合うから、これ…」
「てんちょー!このスカートに合うカーディガンとかないかな?」
「…ん……英国風デザイン………同じく、英国風デザインの物を……」
「私さー、ロリータファッションに挑戦したいの!で、頭の天辺からつま先まで、フルコーディネートよろ!」
「…了解……予算、は?」
…忙しく、女性客の要望に答えている菊
本当、恐ろしく手際がいい
客の要望に合っていて、なおかつ、その客によく似合った物を、予算以内に収めて見繕ってやっている
これは、経験故なのか、それとも、一種の才能なのか
菊と出会ったばかりの紫苑には、ピンと来ない
本当、恐ろしく手際がいい
客の要望に合っていて、なおかつ、その客によく似合った物を、予算以内に収めて見繕ってやっている
これは、経験故なのか、それとも、一種の才能なのか
菊と出会ったばかりの紫苑には、ピンと来ない
「あ、あの………その。み、店先のマネキンのコーディネート…気に入っちゃって…あ、あれと同じ物、ありますか?」
「…ん……どれ…?」
「あ、あの、ま、真ん中の」
「……ん、まだ、ある……御幸、お願い……」
「はいは~い、今行きま~す……じゃ、紫苑ちゃん、また後で話そうね~」
「…ん……どれ…?」
「あ、あの、ま、真ん中の」
「……ん、まだ、ある……御幸、お願い……」
「はいは~い、今行きま~す……じゃ、紫苑ちゃん、また後で話そうね~」
菊に呼ばれ、ぱたぱたとそちらに向かう御幸
入れ替わりに、菊がふらふら、紫苑に近づいてくる
入れ替わりに、菊がふらふら、紫苑に近づいてくる
「…退屈?」
「いえ、退屈はしてないわ」
「……なら、いいが」
「いえ、退屈はしてないわ」
「……なら、いいが」
本音だ、退屈はしていない
よくもまぁ、あれだけ我侭な要望にも答えられるものだ、と心底感心してるから
よくもまぁ、あれだけ我侭な要望にも答えられるものだ、と心底感心してるから
「ま、とりあえず。「ブティックの人攫い」には注意しとくのね。こう言う店が、あいつらのテリトリーだろうし」
「……試着室で、人をさらう、あれ?」
「そう、あれ」
「……試着室で、人をさらう、あれ?」
「そう、あれ」
なるほど
こう言う職種だから、その都市伝説くらいは聞いていたか
こう言う職種だから、その都市伝説くらいは聞いていたか
「…あれ、も、都市伝説?」
「そうよ。人攫い系都市伝説だけで揃った人攫い組織なんかもあるって聞くしね」
「そうよ。人攫い系都市伝説だけで揃った人攫い組織なんかもあるって聞くしね」
紫苑は、菊と出会ったあの場所からあまり動いた事がない為、詳しくは知らないが
それでも、近年語られる都市伝説繋がりで、知識だけはある
…奴らにとって、こう言う店は格好の狩場だ
それでも、近年語られる都市伝説繋がりで、知識だけはある
…奴らにとって、こう言う店は格好の狩場だ
「……大丈夫」
「?」
「もう、そう言う被害者は出さない」
「?」
「もう、そう言う被害者は出さない」
え?と
思わず、菊を見つめる紫苑
思わず、菊を見つめる紫苑
「もう」、と、菊はそう言った
それは、つまり
この店で、かつて、「そう言う事件」があった、と言う事で
この店で、かつて、「そう言う事件」があった、と言う事で
「……また、若に迷惑かける訳にはいかないから」
淡々と、続ける菊
それは、小さな後悔と
同じ事は繰り返さないという、決意
それは、小さな後悔と
同じ事は繰り返さないという、決意
「…今度、気配を感じたら……先に、沈める」
ぼそぼそ、そう口にした、瞬間
前髪が、ゆらりと揺れて……菊の目が、見えて
前髪が、ゆらりと揺れて……菊の目が、見えて
その奥にある、深い闇に
けれど、その更に奥にある、光に
ぞくり、と、悪寒すら、感じた
けれど、その更に奥にある、光に
ぞくり、と、悪寒すら、感じた
まるで、その瞬間だけ
雰囲気が、ガラリと変わったような……
雰囲気が、ガラリと変わったような……
「店長さ~ん!ワンピース!ワンピースが欲しい!合コンで彼氏ゲットの為に!!目立てる奴を!!」
「……ん…なら、この金ラメミニスカートのを……」
「……ん…なら、この金ラメミニスカートのを……」
ふら、と
また元の根暗な雰囲気に戻り、客に呼ばれてそちらに向かう菊
また元の根暗な雰囲気に戻り、客に呼ばれてそちらに向かう菊
一瞬の、あの雰囲気に
紫苑は、菊の中の、底知れない闇を見たような錯覚を覚えて
紫苑は、菊の中の、底知れない闇を見たような錯覚を覚えて
「……まったく。どうして、普通の契約者を見つけられなかったかしらね、私は」
と
小さく、誰にも気付かれぬよう、ため息をついたのだった
小さく、誰にも気付かれぬよう、ため息をついたのだった
to be … ?