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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会決戦-13

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 オルコットは≪夢の国≫内を奥へ奥へと進んで行く。それは道の両脇を流れる水路を遡る動きだ。その水路を流れて行く花弁が目にとまる。
 花弁の色は白から紅まで様々なバリエーションをもっている。それらの花弁の色合いにオルコットは見覚えがあった。
 ……徹心の異界から零れ落ちてきたものか……上流に向かうにつれて枚数が増えている。そろそろ異界の境界に至る頃だな。
 そう思った時、オルコットは体に微かな違和感を覚えた。決して存在する場所を悟られる事はないという徹心の契約した異界が、異分子の侵入を拒もうとしているためだろうとオルコットは判断して、いく先から感じる異界に対する忌避感を押し殺して進軍を続けた。
 そして、
 ……見えた。異界同士の境界だ。
 オルコットが見つけたそこは、これまで辿って来た道の行き止まりだった。これまで道の左右を固めていた建物群が道の真ん中まで張り出し、完全に道を封じている。進軍に対して壁となっている建物の手前、そこに≪夢の国≫と徹心が保有する異界の境界がある。
 道に沿って流れていた水路の始点、大きな噴水がそれだった。
「異界の入り口は水路・河川に接していなければならない……そうだったな徹心」
 オルコットは小さく呟き、自分の後方をついてきた凍死兵達に進軍先を手ぶりで示した。
「往くぞ」
 花弁が浮かぶ噴水内へと彼等は足を踏み入れる。


            ●


 噴水の縁へと踏み込んだ瞬間、世界の薄膜が一枚はがれるかのような錯覚と共に視界がガラリと切り替わった。オルコットは視覚の急変で引き起こされた軽いめまいを振り払い、周囲を見渡した。
 足元はカラフルな石畳から若草色がまぶしい草原へと変化し、その傍らを≪夢の国≫と繋がっていたのであろう川がやはり花弁を浮かべて流れている。
 周囲には幾多もの木々がひしめいていた。それらは品種こそ違えど、全て同じ種の植物――桃だ。
 桃の花々が咲き誇る異界、理想郷とすら語られることもあるその土地の名を、オルコットは呟いた。
「≪桃源郷≫……」


            ●


 戦いが始まるとTさんから告げられてからもうだいぶ時間が経った。夢子ちゃんが≪神智学協会≫に対抗するために≪夢の国≫に流れるカラス避けの特殊電波を全開にしているせいで無効の様子を聞く事も、向こうの様子を知らされる事もできない。
 なんともモヤモヤする時間だ。皆も不安そうにコテージの中から出て来ていて、≪夢の国≫とこの≪桃源郷≫が繋がっている川の先を見つめている。
「……来た」
 突然徹心のおっちゃんが口を開いた。その顔はどうしたものか、とでも言いたげな感じに歪んじまってる。
「来たって、≪神智学協会≫がか?」
「うん、間違いない。多くの者が≪夢の国≫からこちらに乗り込んできた気配を感じる」
 Tさん達なら多くの≪夢の国≫の住人と一緒にこっちに来る理由も今はない。徹心のおっちゃんが言ってる事が本当なら、≪桃源郷≫にやって来たのは≪神智学協会≫ってことになるんだろう。
「お兄ちゃんたちは?」
 リカちゃんが俺の頭の上から徹心のおっちゃんに訊ねる。足元で休んでたケウも千勢姉ちゃんの事を知りたげに体を起こした。
「抜けて来られた、という事だろうね」
 そう言って徹心のおっちゃんは桃の木で作られた剣――木剣をとりだした。フィラちゃんが緊張した顔をしてモニカを浅く抱きしめる。
「来た……オルコットだ」
 低く徹心のおっちゃんが言う。おっちゃんの目の向く先には、桃の木がたくさん生えている景色の中にあって明らかに違和感を感じるかっこうの集団がいた。公園で冬のじいちゃんが喚び出していた凍死体の軍隊だ。
 それをこの目で見て、本当に攻め込まれちまったんだとやっと自覚が出て来て、嫌な汗が出て来る。凍死兵の集団の一番前、そこにはなんか虹みたいな変なオーラに包まれた男がいた。凍死兵共々こっちに近付いて来るその顔をはっきり目で見ることができるようになって、そいつがオルコットだと分かる。
 ウィリアムの所で映像で見たのと同じ、妙に若々しい雰囲気のおっちゃんだ。
 全身の派手なオーラと同じような違うような、判断がつかない複雑な色合いをした剣を手に提げて、オルコットは俺達が居る――モニカが居る場所へと近付いてくる。
「≪ジュワユーズ≫か……」
 徹心のおっちゃんが唸るように言う。俺は言葉の意味がさっぱり分からずに聞き返した。
「なんだって? ジュワ、ユーズ……?」
「オルコットが持っている剣の名だよ。柄に≪聖槍≫の穂先を仕込み、剣身は30の色彩を煌めかせたという伝説の剣だ。彼が纏う加護も剣からのものだろう。……≪夢の国≫を、高坂君たちを抜けて来られたのも納得だ、まさかあそこまでの代物を持ちだしているとは……」
 なんかよく分かんねえけど、伝説の剣なんて敵が持ってるとものすごく不気味な響きだ。Tさん達は大丈夫なんだろうか?
 徹心のおっちゃんは俺の顔を見て、「大丈夫だよ」と微かに笑った。
「ざっと見た限り、凍死兵達はそれなりに損耗しているみたいだ。体の一部が失くなっている者が目立つ。それにオルコット自身もいくらか傷があるようだね。そしてオルコット以外の≪神智学協会≫の主要メンバーが居ない。たぶんオルコット一人をここに辿りつかせるために他の者がこちらの戦力の足止めをしているんだろう。Tさん達は大丈夫だよ」
「そ、そうか……」
 よかったと思う反面、本当にそうなのかと疑いの心が出て来るのはこういう状況に慣れてないからなんだろうな、どうにもTさんが隣に居ないのが落ち着かない。弱気になっているみたいだ。いけねえと思い、頬を張って気合いを入れ直してオルコットを睨みつける。
 オルコットは俺達がしっかりと全身を確認できる位置にまでくると、次々と集結してくる凍死兵達に陣形を組ませて、徹心のおっちゃんにこう告げた。
「徹心、私はここまで至ったぞ! これだけの兵力にここを荒らされたくなくばモニカを差し出してもらおう!」
「聞きいれることはできない。分かっているだろう? オルコット」
 徹心のおっちゃんの低いけどよく通る声が返された。普段の押しの弱そうな調子が消えて威圧されそうな凄みが滲み出ている。
 おっちゃんの様子に少し驚きながら、俺は二人の会話のやりとりを見守った。
「世界に目を向けてみるといい徹心。モニカのような境遇の者は掃いて捨てるほど存在する。モニカ一人がその身体を器として差し出せばそれで他の者達をもが救われるのだ。モニカも死ぬというわけではない。眠りにつくだけだ」
「醒める事がない永久の眠りは死と同義だよオルコット。そして君が語る世界の改変はこれまでどれだけの屍を築き上げてきた。これから行われる改変の過程でいったいどれ程の犠牲を生み出すつもりだ。≪杞憂≫による世界のリセットは今の世界を破壊する。そしてその後の世界に生きる事になる人間は≪聖槍≫の制圧・管理によって自由意思を砕かれる。君は人という種そのものを破壊し尽くすつもりか?」
「それこそがより良い世界の為になるのならば、私は敢えて行おう!」
「……っ、馬鹿者……!」
 拳を握り締める徹心のおっちゃんから視線を外して、オルコットはモニカに目を向けた。威圧的だけどそこまで嫌な感じはしない声音で言う。
「モニカはどう思うかね? 私の理想は少なくとも君が受けたような理不尽な仕打ちを他の者が被ることが決してないような、もし行おうとすれば天罰という形でその実行者が裁かれるようなシステムを世界の理として作り上げる。それは約束しよう。そのために、その身体を差し出す気はないか?」
 言われたモニカは少しの間うつむいて、きっ、と顔を上げた。
 何かを強く決めたような表情だ。
 フィラちゃんが抱きしめていた腕を離してモニカに言う。
「モニカ、あなたが思っている事を言ってあげなさい」
「そうだぜ、言っちまえ」
 フィラちゃんと二人、背を叩いてやる。モニカは頷いてオルコットを正面から見返して答えた。
「前は、そういうのもいいんじゃないかとおもってた。けど、今はもう、じぶんがいなくなっちゃえばいいなんて考えない。それに、生きて、大変だけど、でもとってもやさしいこの世界で、みんなで生きたいっておもったの。この世界と、人がすきだから。ごめんなさい。あなたの計画にはわたしは反対、です」
 前から用意してた言葉なのか、この場の雰囲気に呑まれないでモニカはしっかりと言い切った。
 モニカの背をよくやったと叩いて、俺はオルコットに言ってやった。
「ふられちまったな、おっちゃん」
「お前は、Tさんの契約者か……どうやらそのようだ」
 オルコットは苦笑して剣を振り上げた。
「ならば力づくで行かせてもらおう」
 オルコットの後ろにずらりと並んだ凍死兵達がそれぞれの武器を構えた。
 ケウが俺達を庇うように前に立って唸り始める。
 凍死兵達の先頭に立ったオルコットが俺達の方へと一歩足を進める。
 来やがった! そう思う俺や身構えるフィラちゃん、唸るケウの更に前に立って徹心のおっちゃんがオルコットと軍隊に向きあった。その手には木剣だけが握られている。
「ちょ、おっちゃん、そんな武器じゃ死ぬぞ!?」
「大丈夫だよ」
 徹心のおっちゃんは木剣で桃の木の一本を示して、俺達に小声で説明を始めた。
「僕の契約都市伝説≪桃源郷≫、この異界の中に生えている木々はそのほとんど全てが桃の木なわけだけど、桃の枝は畑に刺す事によって虫を除けるとか、桃が魔を祓うという伝承はたくさんあるんだ。桃という植物に秘められた聖性がその桃の所有者が大切にするものに対して害を為そうとするモノを祓うんだね。以前高坂君が僕が桃から作ったお酒で死霊を祓ったように」
「あ……へいたいさんが……」
 リカちゃんが敵の変化に気付いて声をもらす。オルコットの後ろに付いて来ていた凍死兵のうちの何人かの体が崩れてる。なんだ、これ?
「――桃で作った酒でも霊を祓う力を示すんだ。木そのものでは、そしてこの桃園においてはその力はどれほどのものだろうか?」
 徹心のおっちゃんが言った途端、桃の木が淡い光を発し始めた。Tさんが撃つ光にどこか似てる。たぶん浄化とかの種類の光の色だ。徹心のおっちゃんは自分の前には出ないようにと俺達に言って、オルコット達を見据える。
「≪魔除けの桃≫、ひとまずは時間稼ぎといったところだろう」


            ●


「かつて≪拝上帝会≫最硬と言われた異界の力、桃園の結界……」
 オルコットは桃の木々が編む結界の影響を受けて体を次々に崩していく凍死兵達に目をやり、しかし、と続ける。
「これだけで私達を止める事ができるなどとは思わない事だ」
 体を締めつけ、体力を削り取るような桃の結界の中にあって、オルコットは≪ジュワユーズ≫を腰だめに構えた。
 一閃する。
 ≪ジュワユーズ≫の剣身から伸びた色彩の刃が周囲の桃の木を伐採する。結界の支柱ともなっている木が切り裂かれる事で、結界もまた斬り裂かれていった。
 切り拓いた分桃園を前へと進みながら、オルコットは更に刃を振るう。
 ≪ジュワユーズ≫の色彩の刃と桃の結界の淡い光が干渉しあい、放電現象にも似た破裂を空間に幾つも生み出す。
 止まらない進軍は確実に徹心達を押し潰そうとしていた。


            ●


「≪ジュワユーズ≫、良い切れ味だ」
 桃の結界に干渉し、また干渉され、それでも止まらずに進んでくるオルコットに徹心は彼の執念の強さを改めて思い知らされる。
 ……まったく、≪ジュワユーズ≫の加護があるとはいえ、この結界に入るなんて苦行以上に自殺行為だろうに……。
 オルコットは強引に道を切り拓きながら言葉を寄越してくる。
「千勢の雲竜も切り裂いたのだ。桃園の樹木一つ斬れないわけがなかろう」
「おっちゃん、これもしかしてやばいんじゃね?」
「そうだね……」
 舞がオルコットの鬼気に身を震わせながら言う間にも距離は徐々に縮まっている。既に先頭との距離は200メートルも無いだろう。
 ……やっぱり≪魔除けの桃≫だけでは彼等を止める事はできないか……。
 予想はしていた事だ。だから、と徹心は口を開く。
「僕の兵を起こそう」
 由実がどういうこと? という表情を浮かべ、次いで得心したような顔になる。
「――あ、モニカを見つけてくれた……」
 それに頷いて徹心は手を振り上げた。
「皆、起きてくれ」
 応答は土の中から返って来た。


            ●


 桃の花咲き乱れる理想郷、その地面に変化が起きた。オルコット達と徹心達の間にある地面が盛り上がったのだ。
「僕は君たちの力をもう一度借りよう」
 盛り上がりは複数生じ、やがて地面を突き抜けて、あるモノが現れた。
「あれは……?」
 舞がそれを見て目を見開き、オルコットが地面の動きに気付いて警戒を滲ませる。
「天帝の禁軍……異名の本分か」
 現れたものはひどく青白い、しかしその姿形は確かに人間の手のようだった。
 地表へと貫手の形で現れた手の群れ、徹心はそれらを見て頷き、
「僕たちを護って欲しい。崩壊を厭わぬ者は前に出てくれ」
 反応は迅速だった。青白い手の群れは五指を開いて地面を掴むと続く動作で身体を引き上げ、土に埋もれていたその全身を現す。
 ――――!
 空へと駆け昇る大量の土の瀑布と共に≪桃源郷≫の地表へと現れたそれらは、正しく人の姿形をしていた。ただし、顔を半ばまで隠すようにして額から垂れ下げた符をそのどれもが身に付けている。
「ありゃぁ……」
 地表へと現れたそれらの正体を、舞はテレビや漫画によって見知っていた知識から掴んだ。死体に術を施す事によって使役する、中国由来の動死体。すなわち――
「≪キョンシー≫……か?」
「僕のかつての仲間たち、僕に死後も仕えると誓ってくれた馬鹿者達だ」
 地表に現れた≪キョンシー≫の群れに囲まれた徹心は舞に答えた。
 ≪キョンシー≫の群れは土に埋もれていたためかそのどれもが泥に汚れた弊衣を纏い、土のこびりつく木製の剣や棍を携えていた。死者の群れであるはずの彼等から確かな戦意を感じる。その事に徹心は眉尻を下げて薄く笑むと、
「さて、勅令だ。――大馬鹿者達よ、終わらせる為にその身を削ってくれ」
 よく通るその言葉に≪キョンシー≫の群れは武器を構えて応える。続く動作で彼等の武器がその矛先を敵に向けたのを確認し、徹心は≪キョンシー≫達の額に張り付けられた札に書かれた文字を、そこに込められた意味を朗々と号した。
「――急々如律令(急々にして律令の如く成せ)!」
 戦乱を避け、俗世との関わりを断絶した事によって築かれたといわれる平和を約した理想郷は、戦場の最前線へと変貌した。






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