医者が、死亡したはずの患者の元に駆け付けた、その時
その病室のベッドは、もぬけの殻だった
その病室のベッドは、もぬけの殻だった
「…何か、変な感じだな」
「何がだ?少年よ」
「いや、自分の体が歩いてる様子を見る、って言うのは」
「何がだ?少年よ」
「いや、自分の体が歩いてる様子を見る、って言うのは」
ふらふらと、町中を歩く少年の姿
……桐島 優雨
確かに死亡したはずのその少年が、ふらふらと町中を歩いていた
……桐島 優雨
確かに死亡したはずのその少年が、ふらふらと町中を歩いていた
死霊術を得意とする悪魔、ブネの能力で死体を操っているのだ
優雨の願いを聞き届ける事にしたアモン達
その前に、と、優雨の死体を操りだしたのだ
優雨の願いを聞き届ける事にしたアモン達
その前に、と、優雨の死体を操りだしたのだ
「どこに向かっているんだ?」
「お前の、弟の元だ」
「………小春の?」
「お前の、弟の元だ」
「………小春の?」
何故、とでも言いたげな優雨
質問されるよりも前に、アモンは答える
質問されるよりも前に、アモンは答える
「お前の弟が、寂しい思いをしないよう。しばし姿を消す事実を、伝えるべきだろう」
「だが、俺は死んで…」
「なぁに、ブネがうまく死体を操って、死んだ事を気づかせないようにする。言葉自体は、お前が喋れば伝わるようにしておこう」
「だが、俺は死んで…」
「なぁに、ブネがうまく死体を操って、死んだ事を気づかせないようにする。言葉自体は、お前が喋れば伝わるようにしておこう」
そして、さて、と
アモンは何やら思案するように、蛇の尾をゆらゆらと揺らす
アモンは何やら思案するように、蛇の尾をゆらゆらと揺らす
「……時に、少年よ。少年の双子の弟は、臆病か?」
「え?…まぁ、どちらかと言うと」
「ふむ、ならば、この姿では行かんな」
「え?…まぁ、どちらかと言うと」
「ふむ、ならば、この姿では行かんな」
呟き、直後、アモンの姿が変わる
…それは、犬の姿…
……ではなく、オオカミの姿
小柄な姿からして、子供の狼の姿か
…それは、犬の姿…
……ではなく、オオカミの姿
小柄な姿からして、子供の狼の姿か
「これならば、問題ないか?」
「大丈夫、だと思う」
「うむ、わかった」
「大丈夫、だと思う」
「うむ、わかった」
ぱたぱた
尻尾を振りながら、優雨の死体の隣を歩くアモン
………何だろう、威厳とかが総崩れな感じがするのだが
尻尾を振りながら、優雨の死体の隣を歩くアモン
………何だろう、威厳とかが総崩れな感じがするのだが
「少年よ、先に、説明しておく」
く、とアモンが優雨の魂を見上げてくる
……あぁ、つぶらな瞳
威厳がガラガラと音を立てて崩れていく
……あぁ、つぶらな瞳
威厳がガラガラと音を立てて崩れていく
「少年の弟には、今、ビフロンスが呼び出しに行っている、とある悪魔を護衛につけよう。お前の弟が、兎とやらに害されないように。少年の弟には、少年がいない間寂しい思いをしないように、と言う理由をつければよかろうて。お前の口から話してくれるか?」
「……わかった」
「そして。少年の死体を持ち出したのには、意味がある。少年が人外の存在になりかけていることは伝えたな?」
「……わかった」
「そして。少年の死体を持ち出したのには、意味がある。少年が人外の存在になりかけていることは伝えたな?」
あぁ、と頷く優雨
く、とアモンが顎をしゃくると………ブネが優雨の死体を動かし、く、と彼自身の髪を、軽くかき分けさせた
く、とアモンが顎をしゃくると………ブネが優雨の死体を動かし、く、と彼自身の髪を、軽くかき分けさせた
………優雨は、息をのむ
己の肉体の、頭に………小さな小さな、角が生え始めている様子
それを、見てしまったのだから
己の肉体の、頭に………小さな小さな、角が生え始めている様子
それを、見てしまったのだから
「少年の死体は、少年の魂とは別に、人外の存在へとなりかけている。このままでは、少年の意思に反して動きかねない」
「っなら、どうすれば…」
「落ち着け、少年が弟にしばしの別れを告げた後、少年の魂を我らの集いの場所へと連れて行く。その場所にて、我の可愛い可愛い弟子が、お前の魂を肉体に戻そう」
「っなら、どうすれば…」
「落ち着け、少年が弟にしばしの別れを告げた後、少年の魂を我らの集いの場所へと連れて行く。その場所にて、我の可愛い可愛い弟子が、お前の魂を肉体に戻そう」
肉体に、魂を戻す
それは、つまり
それは、つまり
「…俺は、また生きられる、って事か?」
「その通り。もっとも、その身が、魂が、人の理から外れかけている状態には変わりはないが」
「その通り。もっとも、その身が、魂が、人の理から外れかけている状態には変わりはないが」
それでも
生きられる
存在していられる
……意思を保ったまま、小春の傍にいられるのなら、それでいい
優雨は、そう考えた
生きられる
存在していられる
……意思を保ったまま、小春の傍にいられるのなら、それでいい
優雨は、そう考えた
「……何から何まで、すまない」
「何、気にするな。我ら悪魔は、神や天使などより心広く慈悲深い存在なのだからな」
「何、気にするな。我ら悪魔は、神や天使などより心広く慈悲深い存在なのだからな」
ぱたぱた、ぴょこぴょこ
尻尾をふりふり、耳をぴくぴくさせながら答えてくるアモン
……あぁ……子供の狼の姿のせいで、セリフの威厳もすべて台無しだ
尻尾をふりふり、耳をぴくぴくさせながら答えてくるアモン
……あぁ……子供の狼の姿のせいで、セリフの威厳もすべて台無しだ
………と、そうしている内に……優雨達は、家の前にたどり着いた
小春がいるはずの、家の前に
小春がいるはずの、家の前に
「さて、少年よ、心の準備は良いか?」
「…あぁ」
「承知。少年の弟の目に映るは、少年の死体と、我の姿のみ。少年の死体は、ブネが生きているかのように操作する。言葉は、少年が伝えるのだ」
「……わかった」
「…あぁ」
「承知。少年の弟の目に映るは、少年の死体と、我の姿のみ。少年の死体は、ブネが生きているかのように操作する。言葉は、少年が伝えるのだ」
「……わかった」
さぁ、扉を開こう
復讐の、始まりの前に
大切な弟に、しばしの別れを
復讐の、始まりの前に
大切な弟に、しばしの別れを
(………待ってろよ)
必ず
必ず、お前の元に戻ってきて
お前を、護ってやるから
助けてやるから
必ず、お前の元に戻ってきて
お前を、護ってやるから
助けてやるから
そして
あの小さき白き兎に、復讐を
あの小さき白き兎に、復讐を
「…うむ、少年の弟以外に気配なし。ブネよ」
「承知、承知。アモン卿のご命令のままに」
「承知、承知。アモン卿のご命令のままに」
ブネが、優雨の死体を操る
がちゃり、玄関を開けた
がちゃり、玄関を開けた
「……小春」
優雨は、家の中に声をかけた
大切な弟に、呼び掛ける
やがて、ぱたぱたと、足音が聞こえて
大切な弟に、呼び掛ける
やがて、ぱたぱたと、足音が聞こえて
「…え………お兄、ちゃん?」
病院にいるはずの兄が、そこにいる
まだ、優雨の死を知らされていないのだろう
驚いたような表情をしていて
まだ、優雨の死を知らされていないのだろう
驚いたような表情をしていて
さぁ、伝えよう
自分の意思を、お前に、決してさみしい思いはさせないという誓いを
自分の意思を、お前に、決してさみしい思いはさせないという誓いを
優雨は、意を決して…………口を、開いた
「ただいま~、契約者サマ~!」
ぴょこり、ぴょこぴょこ
優雨を殺した後、ちょっぴり人に不幸をプレゼント帰ってきた因幡の白兎こと、シロ
優雨を殺した後、ちょっぴり人に不幸をプレゼント帰ってきた因幡の白兎こと、シロ
「あ、お帰り、シロ」
そのシロを、何も知らない小春は笑顔で浮かべた
……その、小春の膝の上に
……その、小春の膝の上に
「…あれ?あれれ?契約者サマ、それ、何?」
ちまん、と
「あ、この子?グラだよ」
小さくて、ふわふわで、真っ白な
愛らしい、マルチーズが乗っていた
小春に撫でられ、ちょん、とその膝の上に座っている
愛らしい、マルチーズが乗っていた
小春に撫でられ、ちょん、とその膝の上に座っている
「グラ?」
「うん。本当は、グラシャ……なんだかって、もっと長い名前みたいなんだけど。覚えきれないって言ったら、「グラ」でいいって」
「うん。本当は、グラシャ……なんだかって、もっと長い名前みたいなんだけど。覚えきれないって言ったら、「グラ」でいいって」
笑顔を浮かべている小春
優しく、グラをなでる
優しく、グラをなでる
じ、と
グラが顔を上げて、シロを見つめてきた
まっすぐに、まっすぐに
グラが顔を上げて、シロを見つめてきた
まっすぐに、まっすぐに
刹那
シロは、ゾクリと悪寒を感じたような気がして
シロは、ゾクリと悪寒を感じたような気がして
しかし、それはすぐに消え失せてしまう
グラと呼ばれたそのマルチーズは、ぽふん、と小春の膝の上に顎を置く
グラと呼ばれたそのマルチーズは、ぽふん、と小春の膝の上に顎を置く
「仲良くしてあげてね、すっごくいい子だから」
にこにこと微笑んでいる小春
小春の膝の上でのんびりとしているグラ
その首元には、首輪がはめられていて
その首元には、首輪がはめられていて
その、銀色に輝く首輪には
「Giasyaiaboias」、と、そんな文字が彫られていたのだった
「Giasyaiaboias」、と、そんな文字が彫られていたのだった
to be … ?