【陛下と僕と獣の数字 第五話】
夜刀浦市立第一高等学校。
どこにでもある普通の公立高校。
治安は良く、進学実績もそこそこのまあまあ良い感じの高校だ。
どこにでもある普通の公立高校。
治安は良く、進学実績もそこそこのまあまあ良い感じの高校だ。
「今年の二年B組の出し物は……筋肉喫茶だ
男子は全員上半身裸で筋肉をアピール、女子は裏方に回って料理を作れ」
男子は全員上半身裸で筋肉をアピール、女子は裏方に回って料理を作れ」
担任が少々筋肉フェチでしかも男なことを除けば
「先生よ、それには反対だ!」
陛下が手を上げて異義を唱える。
「女子だからといって誇れぬ肉体を持っていないというのは偏見でしょう!
女子が筋肉を誇ってはいけないという理由があるのか!?」
女子が筋肉を誇ってはいけないという理由があるのか!?」
駄目だこいつ。
「ほう……クラウディア君、そう言うからには君とてそれ相応の筋肉は持っているのだろうな」
「無論、私は幼少の頃よりレスリングを習わされてきています
鍛えあげられた肉体は殿方にも劣らぬ強度と筋肉を誇っている!」
鍛えあげられた肉体は殿方にも劣らぬ強度と筋肉を誇っている!」
ドヤ顔するなよ陛下……
そして羨望の眼差しで見つめるなよお前ら……
陛下はゲーム風に言うと特殊技能「カリスマ」を所持しているせいか何故か何をやっても人の尊敬を集めてしまう。
生まれながらにして王の器を持つということなのだろうか
そして羨望の眼差しで見つめるなよお前ら……
陛下はゲーム風に言うと特殊技能「カリスマ」を所持しているせいか何故か何をやっても人の尊敬を集めてしまう。
生まれながらにして王の器を持つということなのだろうか
「良かろう!良い筋肉だ!女子も筋肉に自信がある物は給仕の大役を認めようではないか!」
いつの間にか陛下は脱いでらっしゃった。
うわすげえ腹筋六つに割れてる。
ミラ・ジョヴォヴィッチかよ、ララ・クロフトかよ。
お前吹き替えは絶対田中敦子さんにやってもらえよな。
うわすげえ腹筋六つに割れてる。
ミラ・ジョヴォヴィッチかよ、ララ・クロフトかよ。
お前吹き替えは絶対田中敦子さんにやってもらえよな。
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
謎のテンションである。
完全に陛下のテンションが皆に伝染している。
後で皆「なんであの時は調子に乗っちゃったんだろう……」って後悔するのに
完全に陛下のテンションが皆に伝染している。
後で皆「なんであの時は調子に乗っちゃったんだろう……」って後悔するのに
「じゃあ二年B組は筋肉喫茶で良いな?」
「YEAHHHHHHHHHHHHHH!」
「レッツ、パーリィ!」
「YEAHHHHHHHHHHHH!」
「という訳で書記の鷲山君、頼んだ」
「あいあいさー」
と、そこで違和感を感じる。
書記の須山九郎、彼一人だけがこの異常な狂奔の中で冷静を保っている。
彼はしれっと提出する書類に【喫茶店・軽食】と書いて生徒会対策兼賢者モード時の為の保険までかけている。
ホームルームが終わった後、体育の授業の為に体育館に向かう僕は鷲山くんに話しかけてみることにした。
書記の須山九郎、彼一人だけがこの異常な狂奔の中で冷静を保っている。
彼はしれっと提出する書類に【喫茶店・軽食】と書いて生徒会対策兼賢者モード時の為の保険までかけている。
ホームルームが終わった後、体育の授業の為に体育館に向かう僕は鷲山くんに話しかけてみることにした。
「須山、筋肉喫茶って書かなかったな」
「当たり前だろう、あんなものを真面目にやるなんていかれている」
まったくだ、お前が正しい。
「そう思うよ、筋肉喫茶なんてやってられないからな」
「ラーメン屋なら頑張るんだけどなあ」
鷲山君の実家はラーメン屋である。
なかなか繁盛しているようで高校を卒業したら彼は家を継ぐのだそうだ。
なかなか繁盛しているようで高校を卒業したら彼は家を継ぐのだそうだ。
「ところで金子」
「なんだ」
「お前さ……生きてるってなんだと思う?」
「分からない」
「迷える衆生に道を示すのが僧の役目じゃないのか?」
「俺は僧じゃない、兄貴と親父だけだ」
「じゃあなんなんだ、お前のジョブは」
「スチューデント?」
「だーよなー……」
「急にどうしたんだ、生きていることの定義を問うなんて」
「いや、最近身近な人が死んでねえ」
「それはご愁傷様だったな」
手をあわせておくとしよう。
「生きてるとか死んでるとか、存在するとかしないとか
なんだか正直良くわからなくなってきたよ」
なんだか正直良くわからなくなってきたよ」
「そうだなあ……」
それが簡単に解ったら宗教何て要らないよ。
と僕はニヒルに答えようかと思ったがそれもあんまりだ。
と僕はニヒルに答えようかと思ったがそれもあんまりだ。
「仏様が言っていた
空即是色、色即是空、とな」
空即是色、色即是空、とな」
「なんだそりゃあ」
「有るものは無いし、無いものは有る」
「訳わからん」
「解ったら仏だよ
あともう一ついい言葉を教えてやろう」
あともう一ついい言葉を教えてやろう」
「なんだ?」
「本来無一物」
「意味は?」
「零から生まれた生き物が還る処もまた零でしかない」
「……つまりあれか、生にも死にも違いなんて無いんだと」
「違うけど今はそんなもんでいいよ」
「ふーん」
「ただね」
僕はね
「無一物中無尽蔵
なんもないけどそれゆえになんとでもなる
ZERO=ALL」
なんもないけどそれゆえになんとでもなる
ZERO=ALL」
「……成程」
じゃあこれでいいのか、と鷲山は呟く。
「今目の前にあるものを否定するなんて辛いだけだからな
どんなことが有ったとしても、自分の目で見たことは事実なんだし、それを飲み込んで受け止めて生きていくしかない」
どんなことが有ったとしても、自分の目で見たことは事実なんだし、それを飲み込んで受け止めて生きていくしかない」
「解った、そうだな。死んだ人は死んだ、生きている人を大切にしていよう」
「それで良いんじゃないか、死んだ人に感謝して、生きている人を大切にする
だってほら、お前は生きているんだから」
だってほら、お前は生きているんだから」
「死んだら?」
「零さ、今そこにいるお前は零でない。だから生きている
零を思考することなど不可能だ、零は観測することしかできない」
零を思考することなど不可能だ、零は観測することしかできない」
「そっか……、少し気持ちが軽くなったよ」
「それは重畳」
「ところでお前の従妹さんが次は体育の授業ということでハッスルなさってるが」
「おぉのう……」
クラウディアがダンク決めていた。
お前本当にこのクラスに馴染んでるなおい。
体育の授業が終わり、放課後。
下校する途中は商店街を通り抜けながらクラウディアとの雑談が僕の日常である。
お前本当にこのクラスに馴染んでるなおい。
体育の授業が終わり、放課後。
下校する途中は商店街を通り抜けながらクラウディアとの雑談が僕の日常である。
「なあセージ」
「どうしたクラウディア」
「あの鷲山という男」
珍しい、他人のことなど気にしない陛下が僕との雑談で他人の話題を出すなんて。
「本当に生きているのか?」
「は?」
「うん、生気がしないんだ。やつから」
「何言っているんだ?」
「心臓も動いている、顔色も良い、しかしヤツには生者の気配が無い」
「親戚の人が死んだらしい、それが原因だろう?」
「ふむ……まあそういうことにしてお……」
一瞬だけ、閃光が走る。
次の瞬間に爆炎が。
そして最後に暴風が。
次の瞬間に爆炎が。
そして最後に暴風が。
「うっ……つぅ……」
僕はといえば何とか助かっていた。
「大丈夫だったかセージ?」
路地裏に蹴り飛ばされていたおかげで直撃を免れた僕は路地裏から顔を出す。
クラウディアは平気な顔をして立っていた。
服が黒焦げになっているが爆心地と思しき方向を見てニヤニヤと笑っている。
クラウディアは平気な顔をして立っていた。
服が黒焦げになっているが爆心地と思しき方向を見てニヤニヤと笑っている。
「俺は助かったがお前は?」
「私に人間の兵器は効かぬ」
「他の人は?」
「あ、しまった」
路地裏から出て辺りを見回すとちょうど夕刻で買い物に来ていた人々が炎に焼かれ、爆風を叩きつけられてうめいていた。
地獄絵図である。
地獄絵図である。
「すまぬセージ、うっかりしておった」
クラウディアはその情景を見ても眉ひとつ動かさず、ただ僕にだけ“約束をうっかり忘れた子供のような”顔をして謝った
「……仕方ない、救急車に連絡するぞ」
「お、怒ってるのかセージ?すまなかった、特に気にしていなかったからつい守るのを忘れてしまったんだ
なんなら今から能力を使ってでもここの人達を……」
なんなら今から能力を使ってでもここの人達を……」
「いやいい、能力は使うな」
僕が怒っていると勘違いされてしまった。
陛下が少し涙目であらせられる。
この人は他人のことが本当にどうでもいいのだ。
陛下が少し涙目であらせられる。
この人は他人のことが本当にどうでもいいのだ。
「お前を狙った攻撃ならばそれは相手の思うつぼだ、クラウディアは辺りを警戒していて」
「ならば任せよ!この私に奇襲の類は無意味だからな!」
さすが幼少時より暗殺者に狙われ続けただけはある。
未来予知じみた直感を持つ彼女に任せていればその心配はないだろう。
未来予知じみた直感を持つ彼女に任せていればその心配はないだろう。
「ごきげんうるわしゅう異国の皇帝よ」
なに?
「何者だ貴様!」
「強いて言えば這い寄る混沌、あるいは無貌の……まあ良い」
声が響く。
透き通る刃のような美しい声。
透き通る刃のような美しい声。
「夜刀浦の街に少々縁があって罷り越しました、今宵は偉大なる皇帝陛下に多少の土産物を持って挨拶に伺ったところです」
陛下の見ている方向に、男は居た。
漆黒のスーツに身を包み、ステッキをついてキザにポーズまで決める長身の男。
浅黒い肌に黒い髪、瞳は見ているだけで吐き気を催すような暗い光を湛えていた。
漆黒のスーツに身を包み、ステッキをついてキザにポーズまで決める長身の男。
浅黒い肌に黒い髪、瞳は見ているだけで吐き気を催すような暗い光を湛えていた。
「言いたいことが解らんな?」
「貴女ともあろう方が理解なさらないとは……残念至極
貴女ならばきっと喜んでいただけると思ったのですがね、このような大殺戮は」
貴女ならばきっと喜んでいただけると思ったのですがね、このような大殺戮は」
男はマッチを擦り、足元のポリタンクを蹴り倒す。
きつい匂いの液体が溢れてピタゴラスイッチのように蹴り飛ばされたポリタンクが別の仕掛けとぶつかって各所にガソリンが飛び散る。
きつい匂いの液体が溢れてピタゴラスイッチのように蹴り飛ばされたポリタンクが別の仕掛けとぶつかって各所にガソリンが飛び散る。
「僅かな火であってもこうしてしまえば炎が炎を呼んでこの商店街程度は火の海にできるでしょうねえ
貴方も私も人間の兵器では傷がつきませんから、まあそこそこ特等席で地獄が見られるカト
貴方はこういうの大好きでしょう、暴君?」
貴方も私も人間の兵器では傷がつきませんから、まあそこそこ特等席で地獄が見られるカト
貴方はこういうの大好きでしょう、暴君?」
「やめろ!」
「悪いね少年、君には聞いてない」
男が指をパチンと弾くと僕の身体はひとりでに地面へと叩きつけられる。
「貴様良くもセージを……!」
そう言ってクラウディアは一足に男に飛びかかる。
「ひえー怖い怖い」
男は大げさに驚く振りをしながらマッチをポロリと落とす。
「あ、びっくりして落としちゃった」
「――――――――!?」
男の足元のガソリン溜りにマッチが落下していく。
陛下の足では間に合わない。
絶体絶命か、そう思われた瞬間だった。
陛下の足では間に合わない。
絶体絶命か、そう思われた瞬間だった。
「鴉、限定解除」
白刃が二回、宙を舞う。
黒翼が二度、軌跡を描く。
マッチの火は、剣の閃きによって消し去られていた。
「来ましたか鴉!」
「這い寄る混沌、貴方の好きにはさせない」
「ククク、私の庇護下から逃げるとは愚かな真似をしたものだ
死体に都市伝説としての貴方の力を埋め込んだ所で私を討伐できるとでも?
大人しく我が下に還るのです!」
死体に都市伝説としての貴方の力を埋め込んだ所で私を討伐できるとでも?
大人しく我が下に還るのです!」
怯え惑う人並みを分けて白髪の少女が現れる。
そして鴉のような甲冑を纏った漆黒の騎士が彼女を守るようにして寄り添う。
そして鴉のような甲冑を纏った漆黒の騎士が彼女を守るようにして寄り添う。
「獣の数字の契約者様、本来関係ない貴方様を我々の戦いに巻き込んでしまい、申し訳ありません」
少女はクラウディアに深く頭を下げる。
「構わん、それよりそこの男だ」
クラウディアの瞳孔が収縮してまるで獲物を見つけた鰐や獅子のようになっている。
「あの男、至極不快である。貴様らが何者かは知らぬが私の手伝いをする許可を与えよう」
「ありがたき幸せ」
少女は再び深く一礼して一歩下がる。
「おーっと、ストップストップ!二対一なんて面白くないよー!?
今回は挨拶に来ただけなんだ、今日からこの街を死ぬほど面白い俺のおもちゃ箱にするからよろしくねって」
今回は挨拶に来ただけなんだ、今日からこの街を死ぬほど面白い俺のおもちゃ箱にするからよろしくねって」
「そのような戯言、聞く耳持たぬわ!
我が獣の数字を以て命ずる!貴様は座して死を待て!」
我が獣の数字を以て命ずる!貴様は座して死を待て!」
獣の数字が紅く輝く。
赤光が目にも留まらぬ疾さで男を幾重にも拘束して動きを封じる。
赤光が目にも留まらぬ疾さで男を幾重にも拘束して動きを封じる。
「なっ!?あれ?時間跳躍ができない……!」
「肉片も残らぬほどに切り刻みなさい、鴉」
「御意」
鎧の剣士が剣を男に投げつける。
剣士が幾つもの印を結ぶとあっという間に剣は無数に増え、数え切れない程の物量で男を串刺しにする。
剣士が幾つもの印を結ぶとあっという間に剣は無数に増え、数え切れない程の物量で男を串刺しにする。
「がァっ!?」
「ダストザダスト、混沌もまた混沌に帰りなさい」
「く……裏切り者、め
俺が死んだ所で第二第三の俺がお前の所に現れるぞ!」
俺が死んだ所で第二第三の俺がお前の所に現れるぞ!」
散り際に、男は吼える。
「相克こそ混沌の証なれば」
少女はそう答えていた気がする、しかし風が吹いてよく分からなかった。
わずかに残ったケシ粒のような肉塊を、クラウディアの呼び出した龍が焼き払って男は完全に消滅した。
遠くから救急車のサイレンの音色が聞こえてきたので、僕と陛下、そして謎の二人組はそそくさとその場を退散した。
わずかに残ったケシ粒のような肉塊を、クラウディアの呼び出した龍が焼き払って男は完全に消滅した。
遠くから救急車のサイレンの音色が聞こえてきたので、僕と陛下、そして謎の二人組はそそくさとその場を退散した。
「やはりそうか」
「え?」
陛下は納得が行ったというような顔つきで頷いている。
「あの鷲山という男、死人だ!何かの能力で無理矢理魂を身体に縛り付けられている!」
何故そのように嬉しそうな顔で話すのか、僕には分からなかった。
分からなかったのではなくて、分かろうとしなかったのだけど。
それが怖かっただけなのだけど。
分からなかったのではなくて、分かろうとしなかったのだけど。
それが怖かっただけなのだけど。
【陛下と僕と獣の数字 第五話 続】