【陛下と僕と獣の数字 第十一話】
「陛下、よろしかったのですか?」
「なにがだ?」
「こんな急にセージ君と別れることになって……」
「構わんよ」
「辛くはないのですか?」
「辛くないといえば嘘になるが……仕方あるまい」
「そうですか」
車の後部座席で二人の黒服に挟まれて座るクラウディア。
助手席でため息を吐くサンジェルミ伯爵。
もはや隠す意味もあるまい、彼こそ組織F-No.0“黄金伯爵”サンジェルマン。
今回のこと――日本の一般人の家に一国の皇女を匿う――は全て彼の案であった。
王とは、民のために力を尽くすもの。
それは確かに正しい。
しかしそれ以前に王とて人だ。
ならば人らしい感情、たとえば執着や愛情を知って欲しかった。
それを知らずして王になればその先に待ってるのは摩耗であり破滅。
王の破滅とはすなわち民の破滅。
セージという少年がクラウディアに愛を教えてくれれば……
サンジェルマンはそう思っていた。
それを引き離そうとして反抗されたとしても彼は甘んじて受け入れてその上で何がしかの時間稼ぎを行う予定でさえあったのだ。
サンジェルマンという男は人の業や人の気持ちというものを重んじる。
それが人一倍強い異才の持ち主に心惹かれるのもそれによる部分が少なくない。
助手席でため息を吐くサンジェルミ伯爵。
もはや隠す意味もあるまい、彼こそ組織F-No.0“黄金伯爵”サンジェルマン。
今回のこと――日本の一般人の家に一国の皇女を匿う――は全て彼の案であった。
王とは、民のために力を尽くすもの。
それは確かに正しい。
しかしそれ以前に王とて人だ。
ならば人らしい感情、たとえば執着や愛情を知って欲しかった。
それを知らずして王になればその先に待ってるのは摩耗であり破滅。
王の破滅とはすなわち民の破滅。
セージという少年がクラウディアに愛を教えてくれれば……
サンジェルマンはそう思っていた。
それを引き離そうとして反抗されたとしても彼は甘んじて受け入れてその上で何がしかの時間稼ぎを行う予定でさえあったのだ。
サンジェルマンという男は人の業や人の気持ちというものを重んじる。
それが人一倍強い異才の持ち主に心惹かれるのもそれによる部分が少なくない。
「……はぁ」
「どうしたのだ?」
「いえ、なんでもありません」
それ故に、サンジェルマンは深く落胆していた。
せめて妙な邪魔さえ入らなければ……と。
突然車が停止する。
せめて妙な邪魔さえ入らなければ……と。
突然車が停止する。
「一体どうしたんですか?」
「いえそれが目の前に人が……」
割れた。
その言葉と同時に運転手の黒服の頭が。
裂けた。
助手席に座っていたサンジェルマンの胴が。
クラウディアは防弾ガラスを楽々叩き割って車を脱出、次の刹那には社内が紅く染まる。
その言葉と同時に運転手の黒服の頭が。
裂けた。
助手席に座っていたサンジェルマンの胴が。
クラウディアは防弾ガラスを楽々叩き割って車を脱出、次の刹那には社内が紅く染まる。
「ヒュー、あの女の言うとおり来てみるもんだなあ
ほんとうに強いじゃねえか、俺の初撃を躱すなんて」
ほんとうに強いじゃねえか、俺の初撃を躱すなんて」
車だったものの残骸の前には日本刀を携えた男が立っていた。
「えーっと、クラウディアちゃんだっけ?
俺と戦ってくれない?」
俺と戦ってくれない?」
「……誰だ貴様」
「俺?俺はここのところこの街で起きてた強盗殺人の犯人かな」
「ふん、狂犬か……私の道を妨げた罪は大きいぞ?」
クラウディアが指を鳴らす。
それと同時に獣の数字の能力により呼び出された赤い龍が火を吐きながら男に接近する。
しかし、男の目の前で炎は掻き消されて龍の動きも停止する。
まるで彫像のような姿。
薄ら笑いを浮かべて男は龍に刀を振り下ろす。
ゴトン、音を立てて龍の首が落ちた。
それと同時に獣の数字の能力により呼び出された赤い龍が火を吐きながら男に接近する。
しかし、男の目の前で炎は掻き消されて龍の動きも停止する。
まるで彫像のような姿。
薄ら笑いを浮かべて男は龍に刀を振り下ろす。
ゴトン、音を立てて龍の首が落ちた。
「絶対零度って知っているか?
そこでは全てが停止する、例え都市伝説であっても逆らえない」
そこでは全てが停止する、例え都市伝説であっても逆らえない」
男は龍の亡骸を踏み台にしてクラウディアに飛びかかる。
裂帛の気合、縦の斬撃を紙一重で躱したクラウディアはカウンター気味に男の横っ腹を殴りつける。
男はあっさりと吹き飛ぶが空中で姿勢を立てなおして塀を踏み台にして再びクラウディアに斬りかかる。
消力、という中国拳法の技法だ。
自らの身体から完全に力を抜いて相手の攻撃の勢いに身を任せることでダメージを0にする。
危機において身体を硬直させる人間の本能を超えた武技の精華。
裂帛の気合、縦の斬撃を紙一重で躱したクラウディアはカウンター気味に男の横っ腹を殴りつける。
男はあっさりと吹き飛ぶが空中で姿勢を立てなおして塀を踏み台にして再びクラウディアに斬りかかる。
消力、という中国拳法の技法だ。
自らの身体から完全に力を抜いて相手の攻撃の勢いに身を任せることでダメージを0にする。
危機において身体を硬直させる人間の本能を超えた武技の精華。
「え!?」
彼女の人生においては出会ったことがないタイプ。
戦士。
戦うために生まれ戦うために生き戦うために生(シ)ぬ。
全てが戦闘と闘争の為に練り上げられた人間。
彼女を襲ったのは常に暗殺者であり、聖職者や殉教者の類であった。
男は剣を彼女に向けて薙ぎ払う、クラウディアはすかさず獣の数字の力で武術を体得、剣筋を見切って回避する。
が、そこに置かれているのは丸太のような足。
腹部に食い込んで今度はクラウディアが軽々吹き飛んだ。
戦士。
戦うために生まれ戦うために生き戦うために生(シ)ぬ。
全てが戦闘と闘争の為に練り上げられた人間。
彼女を襲ったのは常に暗殺者であり、聖職者や殉教者の類であった。
男は剣を彼女に向けて薙ぎ払う、クラウディアはすかさず獣の数字の力で武術を体得、剣筋を見切って回避する。
が、そこに置かれているのは丸太のような足。
腹部に食い込んで今度はクラウディアが軽々吹き飛んだ。
「おいおいそんなもんかぁ!?」
「―――――――その言葉、そのまま貴方に返しましょう」
直後、クラウディアに飛びかかろうとした男に無数の都市伝説が降り注ぐ。
何れもがコピーとはいえ一撃必殺の武装系都市伝説。
サンジェルマンのコレクション達である。
彼は不死身の能力を持つ都市伝説、只の刀で切られた程度で死ぬ筈が無い。
あまりの威力に土埃が舞い上がり、男の姿を隠す。
何れもがコピーとはいえ一撃必殺の武装系都市伝説。
サンジェルマンのコレクション達である。
彼は不死身の能力を持つ都市伝説、只の刀で切られた程度で死ぬ筈が無い。
あまりの威力に土埃が舞い上がり、男の姿を隠す。
「……なんたる不運、こんな所でこの前逃した辻斬りに会うとは
陛下、今治療致しま……」
陛下、今治療致しま……」
「あ、これいいな。借りるぜ」
高速で飛来する鎌。
不死殺しの鎌“ハルペー”
それが復活したてのサンジェルマンの首を寸断した。
不死殺しの鎌“ハルペー”
それが復活したてのサンジェルマンの首を寸断した。
「いやー驚いた驚いた、F-No.0も来てくれるなんて嬉しいぜえ?」
男はサンジェルマンの首を踏みつけて笑う。
「なんせ俺の親父の仇だからさあ」
「……なんだ、仇討ちに来たとでも言うのか?」
「まさかだぜ。ちょうどいい、お前弱いし俺の話を聞いてから死ねや」
「――――動けない!?」
いつの間にかクラウディアの手足が凍りづけになっていた。
彼女はいつの間にそれが行われたか分からなかった。
眼の前の男からは都市伝説の気配は無い。
彼女はいつの間にそれが行われたか分からなかった。
眼の前の男からは都市伝説の気配は無い。
「俺の親父って分からず屋でさあ、俺を街から出してくれなかったの
俺としてはこんな感じで全国武者修業に出たかったのに
出ようとしたら叩き切られるしもうやんなっちゃうっていうか
ところが数年前、その親父がサンジェルマンの部下っていう示現流?だかのの剣豪ぶった切られてさあ
いやー喜んだね、おっ死んだ親父なんて放っておいて全国一周旅行さ
でも強者も弱者も切って切ってぶった斬りまくる内にどーしてもその示現流の剣豪ってのが気になってさあ
サンジェルマンを切れば多分出てくるかなーって思ってさ
そしたら知らねえお姉ちゃんがサンジェルマンがむちゃくちゃ強い悪魔の王様と一緒に車で移動しているって聞いたから
こうやってわざわざぶった切りに来たの
オッケー?」
俺としてはこんな感じで全国武者修業に出たかったのに
出ようとしたら叩き切られるしもうやんなっちゃうっていうか
ところが数年前、その親父がサンジェルマンの部下っていう示現流?だかのの剣豪ぶった切られてさあ
いやー喜んだね、おっ死んだ親父なんて放っておいて全国一周旅行さ
でも強者も弱者も切って切ってぶった斬りまくる内にどーしてもその示現流の剣豪ってのが気になってさあ
サンジェルマンを切れば多分出てくるかなーって思ってさ
そしたら知らねえお姉ちゃんがサンジェルマンがむちゃくちゃ強い悪魔の王様と一緒に車で移動しているって聞いたから
こうやってわざわざぶった切りに来たの
オッケー?」
そんな馬鹿な
クラウディアはあっけに取られていた。
そんな奴に私は殺されるのか?
あっさりと死ぬのか?
――――そんなの嫌だ
クラウディアはあっけに取られていた。
そんな奴に私は殺されるのか?
あっさりと死ぬのか?
――――そんなの嫌だ
助けて
そんな言葉が口から出せない。
思えば自分が誰かに助けを求めたことがあっただろうか?
彼女は思う。
そんなことはなかった。
完璧だったから。
いや違うんだ。
誰にも助けを求めない人間なんて……
それって
思えば自分が誰かに助けを求めたことがあっただろうか?
彼女は思う。
そんなことはなかった。
完璧だったから。
いや違うんだ。
誰にも助けを求めない人間なんて……
それって
ああそうか
自分はおかしい。
人間じゃない。
だから助けなんて求められなかったんだ。
人間じゃない。
だから助けなんて求められなかったんだ。
男は刀を振り上げる。
そして振り下ろそうとした時。
そして振り下ろそうとした時。
「待て!」
「……あん?」
「その子を殺す前に俺の相手をしてもらうぜ」
「誰だお前」
「金子セージ、そいつの……友達だ」
日本人離れした美術品のような顔立ち。
スラリとした肢体。
間違いない、それはクラウディアの友人金子セージだった。
スラリとした肢体。
間違いない、それはクラウディアの友人金子セージだった。
「ふぅん……」
「それともなんだ?あんたは快楽殺人者って奴なの?
戦うより殺す方が大好きーみたいな?」
戦うより殺す方が大好きーみたいな?」
男は刀をクラウディアの隣に突き立ててからつかつかとセージに歩み寄る。
「おいお前、俺を一発殴ってみ?」
その言葉が終わると同時にセージの拳が男の頬に突き刺さる。
それを受けたまま戸惑ったような顔をする男。
それを受けたまま戸惑ったような顔をする男。
「……いやぁ、違うわこれ」
指をチョキの形に変えて握りこみ、男はそれを突き出す。
それでセージは簡単に吹き飛んで倒れた。
それでセージは簡単に吹き飛んで倒れた。
「きさまあああああああああああああ!」
クラウディアが狂ったように叫ぶ。
それと同時に手足の氷は簡単に割れてしまった。
近くに突き刺さっていた刀を拾い上げて男に斬りかかる。
無論、獣の数字の力で今の彼女は剣術の達人を相手にしても遜色の無い技術を得ていた。
しかしそれでも―――――
それと同時に手足の氷は簡単に割れてしまった。
近くに突き刺さっていた刀を拾い上げて男に斬りかかる。
無論、獣の数字の力で今の彼女は剣術の達人を相手にしても遜色の無い技術を得ていた。
しかしそれでも―――――
「ただの格好付けたがりの、普通の少年だったか。つまらん」
片手、それどころか指ニ本での真剣白刃取り。
クラウディアの方向を見てすら居ない。
クラウディアの方向を見てすら居ない。
「刀には呼吸がある、いくら技術を真似しても呼吸が合わなきゃ無意味なんだよ」
クラウディアの視界が反転した。
顔面から地面にたたきつけられる感触。
初めてだった。
顔面から地面にたたきつけられる感触。
初めてだった。
「はい、おしまい」
肉と骨の断ち切られる音。
しかしそれは彼女のものではない。
恐る恐る目を開いたクラウディアの目に映ったものは。
しかしそれは彼女のものではない。
恐る恐る目を開いたクラウディアの目に映ったものは。
「……あーあ、なんだよそれ。萎えたわ」
「―――――――――!」
胸から血を吹き出して倒れる金子セージであった。
無論、即死。
クラウディアはセージを抱きしめて叫ぶ。
無論、即死。
クラウディアはセージを抱きしめて叫ぶ。
「もー……なんだよこれ俺悪者じゃん」
馬鹿な奴だと思っていた。
おせっかいだと思っていた。
でもよく考えてみれば私を助けてくれる人って。
私に使えているわけでなく私を助けてくれた人って。
おせっかいだと思っていた。
でもよく考えてみれば私を助けてくれる人って。
私に使えているわけでなく私を助けてくれた人って。
私にも居たんだ。
私を助けようとしてくれる人が。
ただただ善意で何かを与えてくれる人が。
愚かなのは自分だった。
なんでもっと大切にしようと思わなかったのだろう。
嘆いても答えなんてでない。
今はただ――――――――――――
クラウディアの意識はそこで途絶えた。
ただただ善意で何かを与えてくれる人が。
愚かなのは自分だった。
なんでもっと大切にしようと思わなかったのだろう。
嘆いても答えなんてでない。
今はただ――――――――――――
クラウディアの意識はそこで途絶えた。
「ははっ……こいつは本物のバケモノじゃねえか」
それを見た男はただ嬉しそうに呟いた。
【陛下と僕と獣の数字 第十一話 続】
