「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 女装少年と愉快な都市伝説-13

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匿名ユーザー

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vs≪鎌男≫


 将門様からの招待状に大興奮した、その夜。
 こっちは昔通っていた、とある中学校に来ていた。
 学校町からはだいぶ離れているので明日の学校は絶望的なのだが、友人とその妹の頼みなのだからしかたない。
 時間的にもう来ててもいいはずなんだけどなー、とキョロキョロしていると、

「あれ、友兄…だよね?」

という声が聞こえてきた。
 おお来たか、とそちらを見ると、こんな田舎にまで来ることになった元凶の、その片割れの姿があった。
 なぜか目をぱちくりさせている彼女に若干の疑問を感じつつも、再会の挨拶をすることにする。

「や、妹ちゃん。久しぶり」
「…うん、やっぱり友兄だ。いい加減妹ちゃんって呼ぶのやめてよ、あたしにも名前あるんだしさー」
「いや、それはそっちもだろー? だいたいなんなんさ友兄って」
「だーかーら、兄貴の"友"達のお"兄"さんだから友兄なの!」

 なんども言ってるじゃん、と彼女は元気よく笑う。…が、すぐにその笑顔は真面目なものへととって変わった。
 ところでさ、と一旦言葉を切り、

「…その格好なんなの、友兄?」

 その言葉に、ん? と首をかしげながら視線を下にやり、

「―――あ」

……自分の迂闊さを呪ってやりたい。

「あのさ、友兄さ―――なんで、女装してるの?」

 ……だれかお願いだからこの状況なんとかして。




 ―――この女装は罰ゲームの産物だということ、自分の意思でやったことではないこと、断じてそういう趣味はない(←ここ重要)ことを伝え終わったのは、それから十分後のことだった。
 ……「友に……友姉、そういう趣味あるの?」という言葉に対して「天地神明に誓ってそんな趣味はない! ていうか友姉やめて!」と
叫んだときに妹ちゃんが残念そうにしていたのは、気のせいだと信じたい。

「まあそんなことはどうでもいくて! あのアホのっぽはどこにいるんさ? 人のこと呼び出しといて、まったく」
「うん、仕方ないから誘導されてあげようじゃないですか、友姉。兄貴は途中まで一緒だったんだけど…どうせ何かくだらないことでも企んでるんじゃないの?」
「お願いだから友姉はやめて。言われる度に心がゴリゴリ削れてくから。…あいつがなんか企むとろくなことがないんだよなあ」
「えー、大丈夫でしょ? 前、兄貴が『あいつの心はダイヤモンド・ハートだからな。金槌使って全力で叩き潰すくらいでちょうどいいんだ』って言ってたし」

 本当ろくなことを言わんなあのバカは!

「…あのね、知ってる? ダイヤモンドってね、傷こそ付きにくいけど、金槌で叩くと簡単に粉々になるんだよ?」

 そーなの? そーなの! と言い合う妹ちゃんとこっち。
 そんなこっちの耳に、ジャリ、という土を踏みしめる音が聞こえてきた。
振り向くと、そこには懐かしい友人の姿が。
 …懐かしいけど、確かに会えて嬉しいけど、なんだかなあ……と複雑な気分になる。

「よー、おひさー」

 軽く手をあげて挨拶。
 が、返事はない。よく見ると、友はその190センチオーバーの巨体を小刻みに震わせていた。

「………う」
「う?」

 意味不明な呟きに首をかしげる。う、ってなんだ。鵜か?

「生まれる前から好きでしたー!!」
「な、にゃあああああ!?」

 このアホのっぽ、いきなり抱きついてきやがった!

「ちょ、な、なんぞー!?」
「大丈夫、怖がらないで! 優しくシテあげるからハァハァ」

 巨体から発せられる猫撫で声を聞いて、全身にぞくり、と鳥肌が立つ。
 なんだなんなのこの状況!?
 なにが悲しくて同性の友人に押し倒されにゃあかんのだ!

「こ、んの…っ!!」

 上に乗っかっているアホの首に腕を絡めると、力を込めて全身が密着するようにその身体を引き寄せる。
 体勢の都合上ほっぺとほっぺがくっついていて、そこからアホが息を呑む気配も伝わってくるのだが、そんなことは些細なことだ。
 身体をくるり、と回転させ上下を逆にすると、密着したままノーガードな鳩尾へと小刻みに拳をズボズボズボ、と突き刺した。
 30秒ほど続けていると、がぶあぐうぐえほ、とうめく声がしたので、「この辺にしといてやる」と耳元で囁いてアホごと身を起こす。
 どことなくやりきった感を感じつつ兄妹の様子を窺うと、なぜか二人とも顔が赤くなっていた。
 アホな友人はともかく妹ちゃんはなんでだろ? と考え込んでいると、

「よお、久しぶりだな」

なのに会った途端急所抉ってきやがって、と軽く咳き込みつつアホが言う。
 …久しぶりに会うなりいきなり押し倒してくるやつにそんなこと言われたくない、というこっちの思いは、きっと間違っていないはずだ。
 こっちの冷たい視線に耐えかねたのか、言い訳を始めるアホ一人。

「…いやさ、だって。可愛い女装少年とか襲わずにはいられないだろう常考。男として、むしろ人として。つまり何が言いたいかというとお前が女装なんかしてるのが悪い!」
「……うん、お前が変態なのはよーくわかった。だからこっちくんなボケ」

 言い訳のくせにこっちの穴を正確に突いてきたのはなかなかやる。
…が、そんな変態理論を聞いてお前の味方になるやつなんて、うちの父親以外にいるものか!
 そう思いながら、変態だった実の兄にドン引きしているであろう、妹ちゃんの方を向く。
 すると、そこには……あろうことか、その変態の言葉にうんうんと頷いて共感している妹ちゃんの姿があった。
 ……なんなんだろうこの兄妹。
 もしかして、こっちの方がおかしいのだろうか。自信がなくなってくる。
 新たなる兄妹の(なくてもいい)絆を確かめあっている変態たち。
 その内のでかい方がこちらを振り向き、訊いてきた。

「時に、我が友よ。下着はどうなっているのかね?」
「……………………………、」

 …………いや、ね?

「…え? まさか、友姉…ホントに!?」
「訊かないで! お願いだから訊かないで後生だから! あと友姉ゆーのやめてくれる!?」
「……いや、まさか本当に女物の下着を着けていたとは…この変態さんめ」
「言うなーっ!? っていうかお前に変態とか言われたくない!」

 いや、違うのよ! なんでか知らんけど、トバさんたちが取り出してくる女物の服、上から下までほんとサイズぴったしなの!
 そのうえ男物の服はいつのまにか全部捨てられてたし!
 そりゃ、女物の下着なんて穿きたくなんかないし、着けたくもなかったさ!
 でも、でもさあ、「下着、穿いて着けてくれるまで口利いてあげませんよ? ……勿論、クイちゃんも」なんて言われたら、言われたら………!

「穿いて着けるしかないじゃないかちくしょう!!」

 そんな、涙を流しながらの絶叫が心に響いたのか、変態兄妹が「うん、なんというかその、ごめん」「そ、そうそう、きっといいことあるって!」などと慰めてきてくれた。




「―――で、どこに出るの、その《鎌男》って」

 こっちは、女装について触れなくなった(おそらく同情された。…気にしないもん)兄妹とともに、深夜の中学校の中に侵入していた。
 懐かしさを感じるが、今はそんな話をしているときではない、はずだ。

 ―――《鎌男》。

 あまり聞かないところからして、おそらくこのあたりでしか伝わっていないマイナーな都市伝説なのだろう。
 深夜の学校を徘徊し、出会った者を目にも止まらぬ速さで切り刻むという都市伝説である。
 今日こっちが色々と辛い思いをしてまでここに来たのは、兄妹からこの都市伝説が実体化した、と聞いたからだ。
 もちろん、都市伝説について知らないこの兄妹からそうと聞いたわけではない。
だが、その土地に伝わっている都市伝説と全く同じ手口で人が殺されたとなると…《鎌男》が実体化したと、そう考えるしかないだろう。
 ……そう、そうなのだ。
 人が死んでいる。それも、何人も。
 被害にあったのは、深夜に学校に忍び込んでいた不良グループだったらしい。
 七人ほどで集まって校内を探検していたその少年達は、その翌日にはその半数以上、
四人もが体中を切り裂かれ、血の海の中に沈んでいたという。
 そして生き残った三人は、口をそろえて言ったそうだ―――あれは、間違いなく《鎌男》だった、と。
 現在学校は休校中らしい。
 そんな状況を不安に思った妹ちゃんが、「ああ、そういえば友兄がゴーストバスターズ的なことやってたなあ…」と思い出し、そしてお呼びがかかったという訳だ。

「うーん、徘徊っていうくらいだし、そのへんをぐるぐる回ってるんじゃないかなあ…?」
「まあ、適当にうろついていれば勝手に寄ってくるんじゃね? 多分」

 ……ちなみになぜこいつらがついてきているのかだが。
 危ないから一人でいい、とはっきりいったこっちに対して二人して、それはもっと危険だの、自分達にはお前を呼んだ責任があるだの言い募ってくれたのだ。
 そのあまりの剣幕に、こっちは譲歩するしかなかった。
 ぶっちゃけ、やりあう段になると本気で足手まとい以外の何者でもないので、そうなったらさっさと避難してもらうことにしよう。

「…そうだ、ところで友よ」
「なんだ、変態。手短に喋りやがれ」
「お前、怖いの基本的に苦手じゃなかったっけ?」

 邪険に扱ってもまったく応えた様子がない。ホント無駄に根性あるなあ……。

「まあ、今回は正体の予想がついてるからね」
「はー。前から思ってたんだけど、友姉ってなんでそんなこと知ってんの?」
「だから友姉っていうのやめい。そのへんは企業秘密ってことで」

 そんなふうに他愛もない会話を続ける。
 緊張感の欠片もなく、廊下の曲がり角に差し掛かった、その時だった。

 ―――ざわり、と。
 周囲の気配が、一気に変わったのは。
 角を曲がった先、長い廊下の向こうに、闇に溶け込んでいるような、ぼんやりとした人影が見えた。

「……っ!!」

 背筋が粟立つような嫌な感じに、咄嗟にそばで固まっていた兄妹を突き飛ばす。
 その瞬間、人影は消え。
 兄妹を突き飛ばしたために伸びきった腕から、鮮血が迸った。



 ―――あたしは、バカだ。
 ―――どうしようもない、大バカだ。
 兄貴に手を引かれて夜の学校を走りながら、あたしは自分を罵る。
 昔から、友兄と兄貴は凄い人たちだった。
 勉強はできるし、運動だってもちろんできる。
 性格も―――ちょっとアレなところはあるものの―――優しくて、いい人だ。
 兄貴はいつも変なことを声高に主張して変人変態と言われているし、
友兄なんて「あれ、これもはや苛めじゃね?」ってレベルでいじられて、それでもアハハーと笑っているドMだけれど。
 それでもあたしは、二人のことを尊敬していたし、その気になればなんでもできる、スーパーマンのように思っていた。
 ―――二人とも、誰かのことに、一生懸命になって助けてあげられる人だから。
 なぜそうも問題事に関われるのか―――以前、友兄にそう訊いてみたことがある。

 ―――ねえ、なんで友兄は、そんないっつもあたしたちのこと助けてくれるの?
 ―――なにさ、いきなり。
 ―――だってさ。この前だって不良に絡まれてたの助けてくれたし、いっつもご飯作りに来てくれるし。友兄、お母さんになんて呼ばれてると思う? "通い妻"だよ、"通い妻"。
 ―――それは頼むから勘弁して…。……まあ、なんとなく、かな?
 ―――なんとなく?
 ―――うん、なんとなく。"なんとなくやりたい"から、"なんとなく関わりたい"から。その程度だよ、こっちの持ってる理由なんてのは。
 ―――ん……でもさ、危ない目とかにもあってんじゃん? もうこりごりだー、とか思わないの?
 ―――……『本当に無くしたくない、大切な物を護れない。それ以外に、敗北と呼べるものがあるか』ってね。映画とかマンガとか小説とか、まあそんなよくあるよくあるようなセリフだけど……その通りだと思うんだ。
 ―――………それが?
 ―――いや、ね。………こっちは一回"敗け"たから、もう無くしたくないんだよ。…うん。さっきは"なんとなく"なんて言ったけど、こっちのが正しい気がする。
 ―――えーと…つまり?
 ―――つまり、こっちが色々巻き込まれてるのは、自分のためだってこと。"誰かを助けたい"なんて大層な理由なんかじゃなくて、ただ自分が"誰かがいなくなる"のが嫌なだけ。これに関しては、君のバカ兄貴も一緒だと思うよ?
 ―――え、それって…。
 ―――うん。こっちもあいつも、君が大切だから、無くしたくないからこそ、無茶もするんだよ。まあ、あのバカは照れて言わないだろうけどね。その代わりも兼ねて言っとくと―――君が君である限り、自分の手の届く範囲だけだけど、君を護り続けることを誓う、って感じかな?
 ―――………バカみたい。そんな芝居がかったこと言って、恥ずかしくないの?
 ―――………うん。正直、超恥ずい。ってちょ、ニヤニヤ笑いながら眺めるの止めて、マジで恥ずいから! や、やーめーてー!

 今でも、思い出すことができる、その会話。
 彼は真っ赤になっていたけれど……恥ずかしかったのは、友兄だけではない。
 当然だ、当時小学生だったとしても、乙女は乙女。
 あんな「君を護る」みたいなことを言われて、恥ずかしいわけがない。
 …けれど嬉しかった、そう言われて―――自分が自分であることを、認めてもらえた気がしたから。


 ―――だというのに、自分は何をしているんだろう?兄貴に手を引かれて、友兄を置いて逃げている。
 兄貴が迷いも無く逃げているのだから、きっとこれは間違いじゃないんだろう。
 そうわかってはいても、最後に見た友兄の姿を思い返してしまう―――右腕から血を流しながらもあたしたちを護るように立つ、その後ろ姿を。
 ………結局、彼をそうさせたのは、あたしのせいだ。
 あたしが彼を呼んだから、だから彼は危険な目にあっている。
 今友兄が前に立ち塞がっているのは、少なくとも四人を殺した化け物だ。
 ―――もしかしたら、友兄が死んでしまうかもしれない―――。
 そう思うと全身がガクガクと震えてきて、校舎を出たところで思わずしゃがみこんでしまう。

「ちょ、おい! どうしたんだ?」

 兄貴が訊いてくるけれど、それに答えることすらできない。

「う……ひっ、うぐ、ひぐっ……」
「な!? 一体なんで泣いてんだお前!?」
「ひぅ、だって、と、友兄、が、ひっく…死んじゃうかも、…あ、あたしの……せ、いで、」

 体が震え、涙が目から溢れてくる。
 止めようと思っても、全く止めることができない。
 と、その時。
 滅多に見せない真面目な顔で、兄貴があたしの顔を覗きこんだ。

「……お前、今更そんなこと言ってんのか」
「そ、そんなことって、ひぐ…なによ」
「もう起こっちまったもんはしょうがないだろ、んなもんはあとで謝りゃいい。そんなことより、今はやることがあるだろ」
「うぐ、ひっ…なによ、それ…ひっく」
「悔いるのなんざ後からでもできる。あいつが一人で残ったんだ、何もできない俺たちは、そんなあいつを信じることくらいしかできないだろうが」

 …………そうだ。
 本当に、その通りだ。
 あたしは本当に何もできない。
 特に頭がいいわけでも、運動ができるわけでもない。
 それでも、そんなあたしでも、友兄は護ると言ってくれた。
 だったら―――そんなあたしが彼を信じないで、どうするというのだ。
 友兄が未だ戦っているであろう、校舎を振り返る。

 ―――絶対、帰ってきてくれる。

 そう信じて、兄貴と一緒に、彼を待つ。



 ―――やっと、外に出たか。
 校舎内に反響する足音が聴こえなくなりこっちはそう判断する。
 …今こっちは全身から血を流してこそいるものの、その傷自体は深くはない。
 精々が皮膚の表面を軽く切られたくらいのものだ―――最初の一太刀を除いては。
 ざっくりと斬られたその傷から溢れる血を止めるために、そこには服の袖を引きちぎって巻いてある。

「ヒヒヒヒヒ、い~い感じに弱ってきたなあ!」

 身体は―――動く。
 昨日一昨日と色々あったせいで、だせる力は全力には程遠い。

「ヒヒヒ、もっともっと嬲ってやりたいが……あの逃げた二人も切り刻んでやらんといけないからなあ!」

 そう《鎌男》が言った瞬間、その身体がかき消えた。
 《鎌男》の都市伝説としての特性―――"目にも止まらぬスピードで移動する"という、その力だ。
 それは確かに厄介で、強力ではある。
 だが―――敗ける気は、しない。
 ドン!! という、巨大な太鼓を叩いたような轟音が、夜の校舎に響き渡る。
 その瞬間。
 超スピードで突っ込んできた《鎌男》は―――その勢いのまま、校舎の壁に叩きつけられた。

「ぐッ、ご…!?」

 敵があげる悲鳴なんて、気にするものではない。
 そのまま床にその頭を押し付け、右手で両手を捻りあげる。

「動かれても面倒だから―――腕、もらうよ」
「な、がっ!? ちょっ、やめ……!」

 やめる義理なんか、一つもない。
 ぐっ、と右手に力を込める。
 ぐちゃ、と。
 聞く者に鳥肌を立てさせるような嫌な音を立てて、《鎌男》の両腕は破裂した。

「っっっっっ、ぎゃああああああああアアアアアアアアアァぐッ!?」

 悲鳴がうるさかったので、頭を床に擦りつけて黙らせる。

「ぐ、あぐっ、あ、うう…」

 腕を失った痛みのせいだろうか、嗚咽を漏らす《鎌男》。
 よく聴くと嗚咽の合間に、まるで呪詛のような、ドス黒い感情を孕んだ呟きが聞こえる。

「……なんでだよ、俺を生み出したのはお前らだろ、お前らが全部悪いんだ、なんで俺がこんな目に遭う、おかしいだろおかしいだろおかしいだろッ!」

 感情が昂ぶったのか、最期には血を吐くような叫びとなったその言葉。
 それを聞いて、こっちが言った言葉は。

「………だから、それが罰なんだろうよ」
「なん、だと?」

 意味がわかっていない、《鎌男》の怪訝そうな顔。

「だから、罰だよ。お前がやったことへの、これが罰だ」
「ッッッ、ふざけるなよ、お前らが全部悪いんだろうがッ! 俺を生み出したお前らが俺に罰を下すなんて、そんなの納得できるわけが―――」
「―――だから、だよ。お前は自分のやった事を悪いと思っていない。それでも罰を受ける。もちろん納得なんて出来るはずがない。だからこそ―――それは罰なんだ」

 呆然としている《鎌男》に向けて、なおも言葉を放つ。

「罰を受けるのを覚悟してるとか、そんなものはお笑い草だよ。覚悟してるってことは、本当にそれがやってきたとき、それによって受ける傷はいくらかでも小さくなるんだ―――そんなものは、罰とは呼ばない」

 えらそうに喋っているが、別にこれが世界の真理だとか、そんなことはいうつもりはない。

「本当の罰っていうのは、それは―――無理も余裕も躊躇も論理も説明も容赦も情けも無く、このうえなく不条理で理不尽でどうしようもなくて、絶対に納得なんてできない―――そういうもののことをいうんだよ」

 それでもこっちは、これを真実だと思っている。そう信じている。
 ついさっきまで両腕があった部分から血を流してうつむいている《鎌男》に、最後の声をかけた。

「っとまあ、そういうことで、ね。今からこっちはお前を殺す。だから―――せめて、最期の言葉くらいは聞いてあげる」
「……………ね」
「ん? なんだって?」
「……お前も、罰を受けて、死ね」
「…わかった。じゃあ、さよならだ」

 《鎌男》の頭に右手を乗せて、力を発動させる。
 ―――ぐちゃり、と。
 夜の校舎に、赤く紅い鮮花が咲いた。



 ほんの数秒前まで《鎌男》だったものの前に、こっちは立っている。
 その血に濡れた右手に、ぺろり、と舌を這わせた。
 感じるのは、どろりと生臭い鉄の味―――人間と同じ、血の味だ。
 たった今殺した《鎌男》の、最期の言葉が思い出される。

「…………………ねるもんか」

 小さく、呟く。

「………死ねるもんか、絶対に」



 校舎から出てきた友兄をみて、一度はほっとしたものの―――すぐに彼は倒れてしまい、兄貴がおぶって運ぶ事になった。
 すぐとなりを歩く兄貴に話し掛ける。

「……ね、兄貴ー」
「なんだ?」
「あのさ、……友兄に、色々訊かないの? 気になってるでしょ、兄貴なら」
「…ま、そりゃ気になるけどな。訊きはせんよ」
「なんで? 親友なのに、知りたくないの?」
「逆だ逆、親友だからこそ―――訊かないんだよ。こいつが教えないってことは、単純に教えられないか―――それとも教えたくないか、の二つだからな」
「…だから、訊かないの? 兄貴らしくない…」
「なんだそりゃ。―――まあ、安心しろ。俺もこのままで済ます気なんかない」
「え、それって、どういう……?」
「なんにも知らないって顔をしておいて、土壇場で一気にこいつの横っ面を張り倒す。秘密になんかさせてたまるか、こいつが意地でも巻き込まないんなら、強制的に巻き込ませてやる!」

 そういう兄貴の横顔は、いつものどこから沸いてくるのか謎な自信に満ちていて。
 あたしは思わず微笑んで、家へと帰っていったのだった。




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