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連載 - 神隠しのご先祖様-02

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―死に逝く者達の物語―


京介が宗太と契約してから、特に変わった事も無く時間は流れていた。
いつも通り学校へ行き、今まで通りの生活は今まで通り繰り返されていた。

宗太はあの日神社で言っていた通り、京介以外には見えていない様だった。
父親も母親も姉も、学校の友達も先生も、通りすがりの人も、宗太については全く触れていない。
流石、天狗、と言ったところか。

宗太は現代社会に恐ろしいまでの速度で慣れていた。
最初、京介の家に来たときはテレビを点けただけで飛び退いていたが、今ではPCでサイト巡りまでしている。
現代語も少しずつ覚えてきている。呆れるほどの適応力の高さ。これも天狗の力なのだろうか。

そして、肝心の「俺と一緒に動く」だが、特に何をしたという訳ではない。
宗太との契約で、某週間漫画雑誌のようなハチャメチャが押し寄せてくると思っていた京介は肩透かしを食らった気分だった。
宗太は基本的に京介と一緒に動いているが、不定期に2~3日姿を消すことがある。
自分なりにやりたい事があるのだろうか。特に聞いたことはないが、何やら色々と忙しいらしい。
不意に帰ってきては「疲れた」と言って寝てしまう。そして、またしばらく京介と共にいる。そんな感じだった。
天狗も寝るんだなぁ、とか思いながら、京介は京介で平和な毎日を謳歌していた。

それは夏も過ぎて、そろそろ半袖では肌寒くなってきた頃
京介は、いつものように昼休みに学校の非常階段で隠れて煙草をふかしていた

「おい」
「ん?」

宗太の声に反応して、煙草の火を消し排水溝に隠す京介。宗太が先生が近づくのを感じ取ったら、京介に知らせる手筈になっている。
京介が頼み込んで宗太に協力してもらっている唯一の事だ。これで、煙草で停学などという事態にはならない。
宗太も別に「…まぁ、暇だし」といった感じで受けてくれた。学校にいる時はこれが日常に為りつつある。

「あぁ…、いや、誰かが来たわけではない」
「なんだよ。一本無駄にしたわ」
「すまんな」
「で?なに?」
「あぁ、今日の夜、お前も俺と一緒に来い」
「今日の夜?まぁ、明日は学校も無いからいいけど…、なんかするのか?」
「行ってからのお楽しみだ」
「要領を得ないな。まぁ、いいけどさ…」

京介はめんどくせぇと思う半分、ワクワクしていた。ついに、自分も大冒険の中に身を投じるのだと。
海○王か、ハン○ー試験か、謎のテレホンカードか、忍術か、死神か、黒猫か、何が起こるのか。
ぶっちゃけ「To L○VEる」的な展開もありだ。作者的にはプリティ○ェイスやエム○ロの方が好きだが。
そんな不良少年の淡い妄想は、その日の夜、恐怖という現実によって叩き潰されることになる。

時は夕暮れ。京介は宗太と共に帰宅の途についていた。一旦、帰ってから日付が変わる頃に動くらしい。
若干、悪寒を覚えながらも京介はまだ幸せな妄想に耽っている。
ニヤニヤが止まらない玄孫を可哀想な目で見る曽祖父。既に十分奇妙な二人組みは家路を急ぐ。

時計の針の音だけが聞こえる室内で、宗太は座禅を組み瞑想をしている。京介はというと目を瞑り雑念塗れの瞑想の真似事を。
時刻は深夜0時を回った頃。宗太が音も無く立ち上がった。

「行くぞ」
「ん…?おぉ…、了解」

半分寝ていた京介は、頭を振り無理矢理覚醒する。家族に気取られぬようにそろりそろりと家を抜け出す。
人通りは無いが、まだ明かりの点いている家は多い。

現代人は電気という自由な明かりを手に入れて闇を恐れなくなってきた。
それこそが、闇にとっては都合のいい事だとも気づかずに。

「…」
「どうした?」

宗太は家々の明かりを無言で見つめている。

「今の人間は夜になっても寝ないんだな」
「ん?まぁ、な。昼夜逆転してる奴もいるし」
「…」
「…なんだよ」
「…。そうだ、お前に渡しておく物がある」

そう言って、宗太は一つの箱を手渡した。
京介は手に取り、箱を開けると葉を紙で巻いたらしき物が30十本程入っていた。

「煙草?葉巻?両切りじゃん。洋モクか?…吸えるかなぁ」
「吸えるようになれ。洋モクと言うよりは妖モクだな」
「タール数は?」
「知らん」
「知らんって…。まぁ、貰っておくわ」
「それは『神依木』の葉を巻いた物だ。どうしようもない時はそれを吸え」
「かみよりぎ?」
「神木の一つだ。それから出る煙自体が結界の役割を果たすだろう」
「だろう、って…、っていうか、どうしようもない時って何だよ」
「どうしようもない時だ」
「あ…。どこ行くんだよー…」

そう言い切ると、宗太はさっさと歩き出してしまった。腑に落ちない表情のまま京介も歩き出す。
神依木の煙草を見ながら京介は、少しずつ後悔していた。もしかして、ロクでもない事が待っているんじゃないかと。
今更、帰るとも言えない京介は宗太の後を追うしかない。

宗太はさっきから黙って歩き続けている。なんだかピリピリとした緊張感を保っていて話しかけ辛い。
歩き始めてどれくらい経っただろうか。携帯電話で時刻を確認すると、午前1時。
もう随分と歩いている。道は宗太に任せていたので京介はここが何処かも分からない。
いつの間にか人家も消えて、京介はなんだか不思議な感覚を感じていた。
周りの景色がぐるぐると回るような、ぼやけて霞んでいくような…。
その内に何も考えられていられなくなり、宗太の小さな背中を見つめながら、ただボーっと歩き続ける。
だんだんと気温が下がっていくのを京介は感じていた。視力が急激に落ちていく。
周りの景色は、黒くなったり、青くなったり、赤くなったり。京介の意識はだんだんと薄くなっていき、ついには…、
…………。
………。
……。
…。

遠くから声が聞こえる。

「………!………!」
「……ぉぃ!……おい!京介!」

「!!」

宗太の怒号で京介は我に帰った。空には月が綺麗に見える。

「…宗太?」
「ようやく気づいたか…。全く、どうしようもない時は神依木の煙草を吸えと言ったはずだ」

京介はいつの間にか砂利道の真ん中で寝ていて、宗太は京介の横に座り例の神依木の煙草を吸っている。
宗太が紫煙を吐き出すと、煙は霧散せずに二人を取り囲むように周りを漂う。その煙に包まれていると、不思議な安心感があった。

「ここは?…俺は、…何を…?」

まだぼやけた頭でそう呟く京介。頭痛でもするのか辛そうな顔で頭を抱える。

「ここは「再思の道」でお前は「近藤京介」だ」
「誰かは聞いてねぇよ…。…あぁ、クソッ…!」

起き上がり、何かを振り払うように頭を二度振って、京介は煙の向こうを目を凝らして見渡した。
そこは、人二人が並んでる歩ける程の小道だった。暗くてよく見えないが、前も後ろも地平線まで道が続いているようだった。
道がある以外は見渡す限り真っ赤な彼岸花が咲き乱れているようだった。赤い絨毯の真ん中に一本道が続いているだけの景色。

「…ここは?」
「再思の道。二回目だ」
「さいおんの道?」
「…。道に迷った人間がふらりと迷いこむ、この世とあの世を結ぶ道だ」
「道に迷った人間が…」
「道と言っても、こういう道ではなく人生だ。つまりは自殺者か自殺志願者。生きるか死ぬかに迷った人間が迷いこむ」
「なんで俺達こんな所に?」
「この先に目的地があるんだよ」
「目的地?そろそろ教えてくれよ。その目的ってやつを」
「…いいだろう。(会話が成り立ってきたな、もう大丈夫か)」
「…」
「目的地は「無縁塚」。「無縁墳墓」ともいう。目的は「桜の木」だ」
「無縁塚って、身寄りの無い仏さんが入れられる場所か…?」
「あぁ。その通りだが今回はただの無縁塚じゃない。自殺者が辿り着く場所で、さっきも言った通り直接あの世と繋がっている」
「直接…、あの世と?」
「つまり、そこに入った時点で、死を望んでいなくても即死する可能性がある」

京介は血の気が引くというのを初めて感じた。

「即死…」
「運が悪ければな。無縁塚は魂の迷いを解き放ち、死者を在るべき世へと送り出す為の場所。
 もし、送り出すその瞬間に出くわせば、俺達も他の魂とまとめて一緒にあの世逝きだ」
「マジかよ…。天狗パワーでどうにかなんないの?」
「一介の天狗如きが世の法則に抗える訳がないだろう。
 どうにかするとすれば、それは生と死を概念として操る行為。そんな事が出来たら「神」を名乗れる」
「じゃあ…、もし、俺達が無縁塚にいる時にその送り出しが始まったら…」
「死ぬ気で無縁塚から逃げる」
「間に合わなかったら…」
「死ぬ」
「………」

京介は此処に来たことを心底後悔した。

「さぁ、休憩は終わりだ。行くぞ」
「ん?…。お、おう!」

気づけば、気分も大分良くなっていた。これも、神依木の力だろうか。

「歩く前に、神依木の煙草に火をつけて咥えておけ」
「なんでさ?」
「この辺は、彼岸花の毒が常に充満している。死ぬ気の無いお前にとってはただの毒だ。煙がお前を毒から守ってくれる。
 死にかけの人間にとってはこの彼岸花の毒は生を再び思い起こす活力剤となるがな。故に、再思の道」
「なるほど…。彼岸花に毒なんてあったのか」
「此処のは少し違ってな、毒は風に乗り飛ぶ。一輪の毒は極微量だが、ここまで大量に群生していると、俺でも咽る」
「そうなのか…」

言われたとおりに神依木の煙草に火をつける京介。興味本位で吸ってみる。

「!?苦!?…これ、煙草じゃないだろ!葉巻よりキツいぞ!ただの煙…、おぅえ!ゲホッ!」
「その苦味で目が覚めるだろう。天狗はこれを嗜む」
「マジかよ。俺、天狗にはなれないわ…」
「行くぞ」
「あ、待って…、うぉえ!」

京介と宗太は再思の道を進む。京介だけが煙と毒に四苦八苦しながらも月明かりを頼りに再思の道をひたすら無縁塚へと進む。

「なぁ、…おぇ」
「なんだ」
「目的が桜の木ってのはなんだ?」
「無縁塚には十本の桜の木がある。その桜が散る時、死者の魂はこの世界から解放される」
「ってことは今は秋だし大丈夫だな」
「いや、季節は関係ない。無縁塚の桜の開花は無縁塚に眠る死者の数で決まる」
「無縁塚に眠る死者?」
「桜の木の下には死体がある」
「は?そんな噂話…」
「あるんだよ」
「…」
「あるんだy」
「分かったよ!」
「…」
「どうした?」
「あそこが無縁塚だ」

京介は煙に包まれていたので気づかなかったが、いつの間にか地平線には広大な森が広がっていた。
道の続くその中心。ぽっかりと開いた空間には、後ろの漆黒とは違う紫色が見える。少し光っている…?

「桜ってピンクだと思ってたぜ…」
「無縁塚の桜は紫色だ」

「もう神依木の煙草はいいぞ」

宗太がそういうと、京介は火を消した。元々が中身も巻紙も神木の葉でフィルターも無いのでポイ捨てでもいいらしい。
だんだんと紫色の光が大きくなっていく。
途中からは、なだらかな下り坂となり桜の木もよく見えるようになってきた。
煙が完全に晴れると京介の目の前には十本の桜が見事なまでに咲き誇っていた。

「すげぇ…」

思わず京介は感嘆の声を上げる。今まで、こんな見事な桜は見たことがなかった。
よく見れば桜は、幹も枝も花もうっすらと光を放っている。無縁塚自体が淡く輝いているようだった。

「まー…ずいなー…」
「え?」
「桜が輝いているだろう?」
「あぁ…。うっすら光ってる」
「そろそろ無縁塚に留まれる魂の量が限界だ」
「それって…」
「桜が散り魂の解放が始まる直前だ。夜明けと共に桜は散るだろうな」
「…隊長殿。本日は一時、戦略的撤退とし、後日、改めて出陣という案が」
「却下だ」
「ですよねー」

宗太は一人でずんずんと無縁塚の中へと入っていく。京介も慌てて追いかけた。
無縁塚は再思の道に開け、桜の木が九本周りを等間隔で囲むようにあった。その中心に一際大きな桜の大木が鎮座している。
宗太は周りの木に目もくれず、大木に真っ直ぐ向かっている。

京介も続いて無縁塚に入り桜の大木へと向かう途中、何かに足を捕まれたような違和感が。
何かと見てみると、白骨化した手が足首を掴んでいた。

「た!た!た!た!た!た!た!た!た!た!た!た!隊長!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「なんだ。うるさい」
「私の足元に今日一番の怪異が!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「死者の亡骸だ。害は無い。振り払っとけ。解放されるってんで嬉しくて出てきたんだろう。此処は死者には優しくない場所だからな
 それにお前は生きた人間だ。無縁塚には存在しないはずのな。無縁塚にとって一番の怪異はお前の存在だよ」

宗太は、それがどうしたという風に言い捨てると、大木の周りを回り何かを確認しているようだった。
京介は涙目で必死に手を振り払う。振り払った時に掴んでいた手の人差し指の骨が飛んだ気がしたが、見なかったことにした。
京介も大木へ近づくと一層大木が輝いた気がした。

「触るなよ」

京介が手を伸ばそうと思った瞬間、宗太から注意が飛ぶ。

「一瞬で持っていかれるぞ」

何を持っていかれるのかは分からなかったが、十分危険であることは分かった。

「ここで何をするんだ?」
「この木を切り倒す」
「はぁ?そんなことしていいのかよ?必要なんじゃないのか?」
「木を殺す訳ではない。この木は力を持ちすぎた。現代人が自殺し過ぎたせいでな」
「自殺したせいで?」
「あぁ。このまま放っておけば、危険だ。間伐ではないが、力の調整をしてやらねばならん。手入れだな」
「手入れ、か…」
「もう無縁塚は限界なんだよ」

宗太は何やら難しい顔をしながら、色々な角度で大木とにらめっこしている。

「俺は何をしたらいい?」
「特に無いな。こんな見事な桜はそう見れん。花見でもしているといい」

じゃあ、なんで連れて来たんだよ。とは思ったが、宗太は何も答えなかった。
仕方なく周りの木を見ようと歩く。しかし、見事な桜だった。
最初は違和感しかなかったが、今となっては紫色というのも、なんだか高貴な色のように良く見えてくるから不思議である。
桜には触れないように、一本、また一本と見て回る。

五本目に移動した時、桜の木の後ろ側で何かが動いた気がした。
桜に見惚れて油断していたのか、不意に覗き込んでしまった。

そこに居た少女と目が合った。

何故…。
それだけが頭を駆け巡った。少女は目を合わせたまま動かない。京介は目を合わせたまま動けない。

『どうしようもない時は…』、神からのお告げが言葉が頭を過ぎった。

「…(今だ!)」

京介は、少女から目を放さず、自分でも驚く速さでポケットから神依木の煙草を取り出した。…これで勝てる。
一応、少女に見せ付けるようにしてみるが、特に反応は無い。目を合わせたまま動かない。瞬きすらしない。なんなんだこの子。
見つめ合うと素直にお喋りできないので、京介は煙草を盾にして、ずりずりと後ろへと下がる。
油断したところをバクッ!と一口でやられるかもしれない。
心臓はさっきから、お前こんなに早く動けたんだ、っていうくらいの高速で脈を打ち続け、脳内の警鐘は鳴らし過ぎて既に壊れている。
冷や汗は滝の如く流れ、京介は身体的にも精神的にも色々とクライマックスだった。

「ふふ、ふフフふふフふふふ…」

何故か笑いながら、後ずさる京介。少女は目を合わせ続けたいのか木の裏側から出てきた。少女との距離は2m程。
静かに箱から一本取り出し、震えすぎている手でライターを少女に見せつけた時、少女は突然、京介に向かって歩き出した。

…嗚呼、お父さん、お母さん。先立つ息子の不幸をお許し下さい。

京介が自分の未来を諦めると、少女はそのまま京介に近づき、そのまま京介を無視して京介の横を通り過ぎていく。

「………は!?」

事態が全く飲み込めない京介は、反射的に振り返る。少女はトコトコと歩き、真っ直ぐに大木へ向かっている。
大木の傍には宗太が。しかも、運悪く後ろを向いている。
しまった…!奴の狙いは宗太だったか!あのジジイ、肝心な時に!…京介は叫ぶ。

「宗太!!そっちに行ったぞ!!!」

即座に振り返る宗太。少女と向き合う形となった。
さぁ!そのスーパー天狗パワーで謎の少女に引導を渡してやるんだ!

宗太は少女を見るも何かをする様子は無い。無防備に少女の接近を許してしまう。
少女は宗太の目の前まで来ると宗太を見つめたまま立っている。宗太と同じくらいの身長だ。

「………ダメ」

少女は宗太にも聞こえるか聞こえないかの小さな声でそう呟いた。

「邪魔をするな」

間髪入れずに宗太は冷たく言い放つ。少女は暫らく俯いて黙っていたが、踵を返すと桜の向こうへ走り去ってしまった。
二人は無言で少女を見送る。少女の姿が完全に消えると、実況に徹していた京介は宗太に駆け寄る。

「いまのは…!」
「死んでからも自らの姿を保っているということは亡霊…、か?、自殺者でもない霊がなぜこんな所に…」
「亡霊…って、幽霊か?」
「いや、幽霊とはまた違う。死んでも自分が死んだ事に気づいていないか、生への未練が強すぎると亡霊となる。」
「じゃあ、さっきのも」
「あぁ…。…一旦、亡霊になってしまうと、その目的を成就させるか、死体が供養されるまでは永遠に救われない」
「救われないってのは」
「成仏できないんだよ。未来永劫、在るべき世にも行けず、この世を彷徨い続ける哀れな存在だ」
「…なんか…、可哀想だな」
「ところでお前大丈夫だったのか?」
「何が?」
「亡霊は言ってしまえば、精神体だ。強靭な精神力だけで存在し、肉体すら‘自分は死んでいない’という思い込みだけで作っている。
 だから、生身の人間が亡霊に会うと、それだけで精神を侵される。声なんて聞いたら一発で発狂だな」
「あー…、…会った時は、まぁ…、色々とヤバかったが今は大丈夫だ」
「そうか。良かった」

宗太は準備が整ったのか

「そろそろ始める。俺の後ろにいろ」

そう言って、大木の正面に立った。
京介も移動し、再思の道を背に宗太を挟んで大木を見据える。

「…(切るって言っても、触れもしない木をどうやって…)」

京介がふと目をそらした僅かな間に、宗太はどこから取り出したのかよくある真っ赤な鼻の長い天狗の面を持っていた。
その面を付け、京介が見上げる程高く飛び上がり空中で後方へ宙返りする。
着地した宗太は、これも真っ赤な一本下駄を履き、鳥の羽を編んだのか顔の二倍ほどの大きな羽扇を右手に持っていた。

「伏せていろ。飛ばされるなよ」

天狗の面で表情は窺い知れないが、真剣な声に京介は黙って伏せる。

宗太はまた飛び上がると下駄の足と足を打ちつけ、カンカンと二度、音を立てて
右足で着地し、左足を添える。左手を前に出し、羽扇は頭上に掲げて。

「落鳳羽(らくほうは)の舞」

そう言って、羽扇を薙いだ。
その瞬間。無縁塚に猛烈な突風が吹き荒れる。
宗太は右腕を頭の上で一回、二回、三回、と計四回、回した。
一回薙ぐごとに風は激しさを増し、京介も身体が半分浮き風に攫われそうになりながら必死に耐える。
桜の幹もしなるほどの風だが不思議と花が散る事はない。

「(飛ばされるな、ってこういうことかよ…!)」

吹き荒れる風の中、宗太は右足に体重を乗せ、左足を前に出し、身体ごと捻り羽扇を頭の後ろへ構えてそこに左手を添えた。
風は宗太を中心に竜巻のようにうねり回転し、羽扇に向かって収束していく。
静寂が場を包み、宗太は狙いを定めるように左手をかざす。

その時、さっきの少女が物陰から現れ宗太と大木の間に走って割って入ってきた。
少女は宗太を涙目で睨み歯を食いしばって、両腕を広げ大木を庇う様に立ちはだかる。怖いのだろうか、膝が震えている。

京介は突然の事に驚きを隠せない。宗太は少女が見えていない、気にしていないという感じだ。
まさか、このまま…。京介が最悪の事態を予感した時

「…おい、そうt」
「一…、閃!!」

宗太は力いっぱい右腕を横に振るった。爆風を伴なった風の刃が少女に向かう。少女が何か叫ぶ。猛烈な風の壁に遮られ聞こえない。
少女は先行する爆風に吹き飛ばされ、後ろへと転がり大木の根元に打ちつけられる。
そのすぐ上を凶器と化した風が通過し、大木を真っ二つに切り裂いた。

大木は重力に従い、後方へと轟音をたてて倒れた。瞬間、周りの桜が一斉にざわめき、一際鮮やかに輝く。
宗太は瞬時に後方へ跳躍すると、京介を左手一本で軽々と担ぎ上げ無縁塚から離れるように上空へ飛んだ。

「なん…!…っ!…うお!」

京介は強烈な重力加速に息を詰まらせたが、風を感じて目を開けると
眼下には地平線まで続く彼岸花畑、前方には光り輝く無縁塚、右手側には今まさに登ろうとしている太陽の頭が見える。
宗太は京介を抱えたまま下り坂の手前に、ゆっくりと着地する。
京介を降ろすと宗太は歩き出した。京介も追う。無縁塚を見下ろせる所まで来ると、そこには神秘的な光景が広がっていた。

暫らく無言でその光景を見つめる二人。

「…あの女の子は!?」
「知らん」

京介は目を凝らして、大木の根元を見るが少女の姿はどこにも無かった。

「…自殺者の末路を知ってるか?」

いつの間にか宗太は天狗の面も外れて、いつもの宗太だった。

「いや。…地獄行きとか?」
「地獄に行けるならまだ良いんだがな…」
「どういうこった?」
「自殺者は、天界に行くことや輪廻転生は勿論、地獄にすら行けない」
「…じゃあ、何処に行くんだよ」
「何処にも行けないんだよ。その場で消滅だ」
「マジ…?」
「自殺は大罪中の大罪とされる。自殺者は死後の審判すら受けられない。罪を償う機会さえ与えられないんだ」
「じゃあ、此処に眠ってる死者達は…」
「あの世へ送られて、消える。」
「あんまりじゃないか…?更生の余地くらい…」
「そんなものは無い。今日、生きる事を放棄した人間に、明日を生きる権利など無い」
「それは…、そうかも知れないけどさ」
「閻魔王が決めたことだ。俺達に逆らうことは出来ん」
「閻魔様が…。なんか…、勝手だな」
「閻魔王が自殺を嫌い、裁けないのにも理由はある」
「…なんでなんだ?」
「この世で一番最初に死んだ人間で、しかもその死んだ理由が自殺だからだ」
「え…」
「この世に死という概念を生み自殺という死に方を生み出した閻魔王の罪は重く、永遠に彼岸で死者を裁き続けるという罰を受けている」
「閻魔様も…、咎人だったのか」
「だから、閻魔王は自殺を嫌う。死そのものが罪である上に自ら命を絶ったとなれば、その魂に価値は無いとな」
「苦渋の決断で自殺するしかなかった人とかもいるだろうに…」
「例え、どのような人生であれ、与えられた生を全うし、その命尽きるまで生き抜いたという功績に勝る善行は無いんだよ」
「…あれだ。お前がなんとなく過ごした今日は、昨日死んだ奴らが死んでも生きたかった明日だ、とかなんとかいうやつ」
「それは、生き方を問いているのだろう。自殺に他人は関係無いさ、自身の問題だ。
 自殺者を裁けない。それは閻魔王の自身への罰でもある。死者を裁くために罰を受けているのに裁けない死者がいることがな。
 潔い死の美徳なんてものは生き物の傲慢な考え方だ。死んだあとは通用しない」
「…(なら、この魂も…。自殺者も亡霊も救われない。救われない奴ばっかじゃん…。なんだよ…)」
「…生とは死の幻想であり、死は生の幻想だ。どちらが本質ではなく、どちらも真実だ。死ぬ為に生きるのではない。
 あるがままに生き、あるがままに死ぬ。人はいつから自然に生きられなくなったのか…。俺を含めてな」

宗太は自傷気味に笑った。京介は何か言いたかったが、上手くまとまらなかった。

桜は散り続ける。その姿に華やかさなど一切無く、それはまるで無縁塚全体が泣いているような錯覚を覚える。
いくつもの自殺者の魂は輝きゆっくりと天へと昇っていく。向こう側で消される為に。未来の無い未来に向かって。
魂は笑っているようにも泣いているようにも見え、京介は桜吹雪の中、雪が天に向かって降っていくようだと思った。

「どうして躊躇わずに切った?」
「あれは生き物ではないからだ」
「それは、正しい事なのか?」
「さぁな。死者を殺したことは無いから分からん」
「…あの木はあのままでいいのか?」
「あぁ。自然に浄化される」
「そうか…。あの子も逝っちまったのかなぁ…」
「それならそれで本望だろう。…もうここに用は無い。帰るぞ」
「…。あぁ…」
「お前を連れてきて正解だった」
「?。どういう…、あっ!おい!」

宗太は京介の返事も待たずに無縁塚に背を向け歩き出す。
京介が振り返ると朝日に照らされた広大な彼岸花畑だけが広がっている。

「またここを歩くのか…」

京介は軽い眩暈を覚えながら神依木の煙草に火をつけた。

…。

京介達が去った後。

桜舞い、無縁塚が自らを浄化する中、一人の少女が現れた。悲しそうな顔で大木だった切り株を白く細い指で撫でる。
無縁塚の力をもってしても救われない少女は、無言のまま切り株に腰掛け、たった一つだけ知っている歌を歌った。


神隠しのご先祖様』―死に逝く者達の物語―



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