「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 人面犬と不良JK-03

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人面犬と不良JK 03 「エピソード0」


私の世界は、何もかもが灰色にくすんでいた。

朝起きて、
学校に行って、
帰ってきて、
寝る。
いつも同じことの繰り返し。

私の周りには、いつもたくさんの人がいた。
みんな私を慕ってくれた。
でも……
私はその笑顔の輪の中心に居ながら、
正体不明の寂しさと虚しさを常に感じていた。

小学校を卒業するまでは、
真面目で勤勉な剣道少女だった私だが、
中学校に進学し、少し大人になり、
そして世界が必ずしも美しくなく、
そして世界が必ずしも自分の思うようにいかない事に気付いた。
学校内で横行する陰湿ないじめ、
そしてそれに気付かない、あるいは気付かないふりをする愚鈍な教員。
滅茶苦茶な暴論を振りかざして保身に走る馬鹿な親達。
そしてそれらの問題に対して何ら有効な解決策を見出せない社会と、私。
まだ子供だった頃、私に出来ないことなんて何も無いと思っていた。
だけど私は、気付いてしまったのだ。
この世には、どうにもならないことがあるのだと。

やがて私も高校生になる。
中学までの「貯金」があったことが幸いしてか、
特に受験勉強もせずに、そこそこのレベルの高校に入学することが出来た。
でももう、
真面目に剣道に打ち込む、これまでのような純粋な私は、そこには居なかった。
私は髪を茶色に染めた。
自慢の長い髪にパーマをかけた。
ピアスも空けて、それまでしたことのなかったメイクも頑張った。
体制や体裁というものにどこまでも固執するこの澱んだ社会に対する、
この上ない反抗だと思った。
それでも……
『こんなことして何になんの?』
心の中に響く空虚な叫びが消えることはなかった。

人生の転機は突然訪れる。
それは学校からの帰り道、突然鳴り響いたケータイの着信音。
液晶画面には、見慣れない番号が表示されていた。

564219

え?なにこれ?
私は首を傾げた。
非通知だった。いや、非通知云々よりも、
こんな番号から電話がかかってくること自体有り得ない。
これは一体――?
わけのわからない、不気味な感覚が私を襲った。
その日はそれだけった。
しかし"非日常"は確実に"日常"を侵食していった。

その後もことあるごとに鳴り続けた私のケータイ。
液晶に浮かぶのは、やはりあの番号。

564219

「これは一体何なのだろう」などと考える余裕はなかった。
1週間ほどひっきりなしにかかってくるので、
私は軽いノイローゼになっていたのだ。
親や警察に相談はしなかった。というより出来なかった。
だって、
存在するはずもない、
そして着信履歴にすら残らない番号からの発信なんて、
一体誰が信じてくれるだろう?
そして言い知れぬ不安に怯える私の元に、静かに死の影は迫ってくる。

学校からの帰りだった。
私の運命を永遠に変えることになったその日も、世界は灰色にくすんでいた。
私はいつも通り、出来合いの話題の提供と薄っぺらな愛想笑いでもって、
クラスメイト達との心地よい友情ごっこをやり過ごした。
『私、何をしてんだろ』
そんな思いをかき消すように響く、あの着信音。

もう……好い加減にしろ!

苛立ちに任せて、私はケータイを地面に叩き付けた。
哀れケータイは液晶を粉々に砕かれ、着信音を止めて昇天する。
なんだ、最初からこうすればよかったんだ。
そう安堵して胸を撫で下ろす私は、すぐに地獄へと突き落とされた。

ぴりりりりりりりりりっ。

死んだはずのケータイから、着信音が鳴り響く。
まるで断末魔のように。
え?どうして?
わけもわからず混乱する私の耳に届く、受話器からの声。

「殺シニ来タ」

ぞっとするような、闇の底から唸るような声だった。
それは受話器からも、
そして私の背後からも聞こえてきた。

564219。
殺シニ行ク。

黒い影があった。
それ以上は何とも形容できない。
ただそれが人の形をしていること、
そしてその右手に握った包丁が、
明らかに私を殺そうとしているということだけがわかった。

「殺シニ来タ」

もう一度、影が言う。
と同時に一瞬で間合いを詰められた私は、
恐怖に竦む足をなんとか動かした。
剣道を習っていて良かった。
あのまま呆けていたら、確実にお腹に風穴が開いていただろう。
しかし致命傷は免れたものの、その傷は浅くは無かった。

「うっ……」
血の噴出すわき腹を押さえ、その場にうずくまる。
黒い死の影が、一歩一歩私の所へと近付いてくるのがわかった。

「なんだなんだぁ、騒がしい」

どこか近くから、中年男性と思しき野太い声が聞こえてきた。
やった!これで助かる!
そう思った私は、喜びと安堵に満ちた声で叫んだ。

「ここです!襲われているんです!助けてください!」

だが返ってきた返事は、まったく私の予想を裏切るものだった。

「ああ?くっだらねえな。この俺様が?人間を?
ハッ!舐められたもんだな!」

え?何言ってるの、この人?
女子高生がわけもわからず死にそうになっているのに!
私の混乱をよそに、声は続ける。

「なるほど、"都市伝説"『564219』か。
ポケベルが流行らなくなって消滅したかと思っていたが……
まさかケータイの中にテリトリーを移しやがるとは、したたかな奴だねえ」

中年男性の声がくつくつと嗤う。
そこで初めて、私は声の主がどこにも見えないことに気付いた。

「ちょっと!お願いです!相手は包丁を持っているんです!
どこにいるんですか!?助けて……」

「ずっとここに居ただろうが!よく周り見ろゆとり!」

はっとして、声のするほうに視線を向ける。
私の隣に、犬が居た。
どこにでも居そうな、ありふれた雑種の犬だった。
ただひとつ、その顔が中年男性のものであることを除いては。

「ひっ……」

恐怖から、また私は悲鳴を漏らしそうになる。
するとその中年男性の顔をした犬は、

「まあ落ち着けや。俺はおめーを捕って喰おうなんざ考えてねえ。
それよりおめー、この状況わかってるよな?
おめーは今から死ぬんだ。気分はどうだ?」

もう、絶望で言葉も出ない。
そんな血と涙にまみれた私を見て、その不気味な犬は続ける。
影が包丁を力強く握り締め、構え直した。

「まあ、まだうら若いJKだ。この世に積もる未練もあるだろうさ。
どうだ、生きたいだろ?ここはひとつ、利害の一致ということで、
この俺様と契約しろや」

「けい……やく……?」

「そう。契約。もしくは死。どーすんだ?」

どーもこーもない。
私は死にたくない。
死にたくない!
どうしようもないと思っていたこの世界に、
死の淵に立って初めて執着の念を抱いた。
そしてその世界と私を分断する刃が、すぐそこまで迫る。
私は弱弱しく、だけどはっきりと、呟いた。

「けいやく……する」

するとその不気味な犬は、厭らしい顔をニヤァと歪めた。

「よっしゃあ!そうこなくちゃな!」

犬が、私のわき腹から溢れ出る血を舐める。
すると、途端に犬の両眼が色めいた。

「ああ……戻ってくるぜ。知識と勘と、俺のハナがよぉッ!」

そのときだった。
黒い影が、鈍色に光る刃を振り下ろした。
もうだめだ。
そう思って、ぎゅっと目を閉じる。
しかし、いつまで経っても、予想していた痛みはない。
私が静かに目を開けると、
あの不気味な犬が、あの影の右腕を銜えて立っていた。

「ああ……いいぜ。長い夢から目覚めた気分だ!
最高にハイってヤツだッ!」

犬が右腕を噛み砕く。その手から包丁が落ちる。
からん、という音共に黒い影が断末魔の叫びを上げた。

「これで終わりじゃねえだろう?
……てめーの力の『拠り代』……
俺に寄越しな!」

そう叫ぶと、今度は左手にかぶりつく。
その左手には、やはり真っ黒なケータイが握られていた。

「この"都市伝説"はよお、元々ポケベルを拠り代、テリトリーにしてた。
"564219"って送信してな、数日後本当に殺しに来るってハナシ。
時代を反映して、"都市伝説"は進化する。
こいつの弱点は、こいつの最大の武器にして最後の砦たるこのケータイだ。
ま、今回は"契約者"捕まえて気分が良いから――」

俺様が、ぶっ壊してやんよ。

ケータイが、噛み砕かれた。
と、同時に、黒い影も消滅した。
例の、おっさんの顔した不気味な犬
――人面犬によると、
最近、このような"都市伝説"が、
明確なかたちと邪悪な意思を持って、
表の世の人間たちに猛威を振るい始めたのだという。
そしてその目的も、裏で何が起こっているのかも、
彼のハナを持ってしても未だよく掴みきれていないのが現状であると。

――ともかく、
今回の一件で私は、
救われた命と、そして流した血を以って"人面犬"と契約し、
この都市伝説の戦いに巻き込まれていくこととなった。
だけど、不思議と怖くなかった。
それどころか……
今の私には、新しい力がある。
世界に対するやり場のないフラストレーションを爆発させるには、
もってこいのシチュエーションだ。

灰色にくすんだ世界が、急に鮮烈な赤に染まる。
それはさながら、逢魔ヶ時の、不気味な夕陽。

……押入れで埃を被っている竹刀を、再び振るう時が来たようだ。

fin


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