セッション間シーン 5.2 ユリウス
「魔族の死体?」
ユリウスはヘルミングの言葉に問い返す。
「そう。弓を持った上級魔族の死体が、近くの村の側でみつかった。ゲートの残骸もあったんで、市街への出入り口はそこだろうと…」
深夜の当直室での話し合いは、彼女が想定していた以上の展開になっていた。
騒ぎの首謀者となっていた魔族の死。
その姿を見てはいなかったとはいえ、その企みを阻止する上でユリウスは自慢のキャリバーを壊す事態となった。
一体何があったというのだろうか・・
ヘルミングは、黙りこむ彼女に不審を感じ、
「君がやったんじゃないのか?」
と控え目に聞いた。
「まさか。私が上級魔族とサシで戦えると思う?」
さも無理だと肩をすくめて、ユリウスは笑った。
「君の実力はわかっているつもりだが?是非に我が警備局に抜擢したいくらいだ。チームとはいえ、レライエを倒せる人間は、滅多にいないさ」
まじめに褒めるものだから、ユリウスは視線を外す。こうもお人好しだから、この人は閑職なのだ、と思う。
勿論、閑職というのは実際は見かけだけなのだが。
「で…上級魔族を仕留めたのはどこの誰なんです?目星くらいついているんでしょ?」
「それが…」
ヘルミングの言葉が濁る。可哀相に、しょげて目をとじて天を仰ぐので、視線だけでも戻してやると、
「刀傷ではなく打撲痕だったので、おそらくは拳か棍棒でやられたと推測できる。失敗故の粛正か、はたまた偶然どこかの冒険者に倒されたか…うちの仕事でないことは確かだ」
偶然に上級魔族とであって、それが倒せるレベルの冒険者が、大都市の近場であるとはいえ、いる可能性があるだろうか。
「ウォルフは何もつかまなかったのか?裏で散々働いていると聞いたが」
「俺がなにか?」
唐突な声に振り返って短剣を構えた。
「おっかねーなユリウス。危ないものは閉まってくれよ。せっかくの祝いの日なんだし」
困ったように笑う彼に、ユリウスはさらに顔をしかめた。
ウォルフ・ジェーズン。7番目の枝の筆頭シーフ。正確にはエクスプローラーなのだが。
「いい情報かどうかは知らないが、その件に関してひとつ新鮮なネタがあるっちゃある」
「もったいぶらないでもらえます?ウォルフ」
不快だと眉をよせ短剣をしまうと、彼はユリウスの座る安物の長椅子の背もたれに肘をかけて話にまざった。
「さっき跳ね橋で、六つ花のレディを見た。誰かと会って話をしていた。たぶん相手はドゥアンだなレディより背が高かった」
「さっき跳ね橋で、六つ花のレディを見た。誰かと会って話をしていた。たぶん相手はドゥアンだなレディより背が高かった」
「レディ…シヴィリア?」
「間違いないな。前にファル=アウレアの公式行事で見てるから間違いない」
レディ・シヴィリア。アザン同盟都市の一つ、ゲインスの伝説的密偵。
裏の世界で彼女を知らないものはいない。
裏の世界で彼女を知らないものはいない。
百年以上魔族と戦う恐ろしい腕の持ち主。白銀の野に落ちた一滴の葡萄酒。
彼女に震えが走ったのはいうまでもない。
「彼女がやったと?」
「可能性のひとつって奴だが、俺の勘は違うな」
ウォルフは冷めた態度で、溜め息をついた。
「レディ・シヴィリアが直に手を下すような大物とは思えないしな。第一、あたふたしてんのは俺らで、ゲインスじゃない。あれが動くとは思えないね。ショアベルツが適度に弱対してくれたほうが、アザンとしてはいいだろ?」
ゲインスもショアベルツも、ともに魔族と敵対している国ではある。しかし、かの国はショアベルツのように自由に動ける環境にはない。
ゲインスは魔族の侵攻の最前線ともいえるし、背後には同盟関係にあるアザンの諸都市が控えている。
パワーバランス上重要な地位にある自負のあるかの国は、強国としての自身を誇っている。
そのプライドを知っていて、わざわざ他国の、しかも大国ショアベルツの利益を守ってくれたとは素直には思えない。
「じゃあ別の誰かがやったと?」
「そう結論を急ぐなよ。やったのは俺の勘では十中八九奴の手駒の誰かだ。なにもないなら、桟橋なんてあからさまに怪しい場所に出向いて会うなんてまねするか?」
「勘の根拠は?」
「インプが大量に出没してるような聞危険な場所にいて普通の人間は平気でいられるとは思えないだろ?単に五月蝿いから追い払っただけだと思ってるけどな」
ヘルミングの問いに、彼は微妙な根拠をさらす。正直、当たり前すぎて困る勘だ。勘ですらない。
「レライエだの上級魔族だの、物騒になったもんだな」
「まったくです」
「魔族による大規模侵攻の前触れではないか、と市長は危惧されているそうです。コロシアムが実際に爆破されていたら、市長をはじめとした要人はもちろん、集まった人々も無事ではなかったでしょう。市長の指示と、実力冒険者を欠いたとしたら、さすがのこの街も魔族から自衛できるとは思えませんね」
沈黙がおちる。
一人は本気の深刻さだったが、一人は楽観的で、もう一人は割と無関心だった。
「まぁ祭りも済んだし、俺らが自由に行動できるようになったわけだしな。魔族に好きにはさせないさ」
「市長の事情もわかってくださいよ。祭典が表向きだけでも無事に済ませないと、回らないとまずいものとかが回らなくなって困るので」
ヘルミングが真面目に慌てるものだから、二人して顔を見合わせてしまった。
「しばらくギルドで見なかったが、どこで何してた?」
帰り道の人混みで、半歩前を行くウォルフが低い声で聞いてきた。
「ギルドに黙って仕事すんのは勝手だが、あんまり一人で無理するんじゃねーぞ。ギルドに名前を置く以上、“仲間”なんだから」
「ご心配には及びませんよ」
「なかなか最近きな臭いからな。魔族だけじゃない、最近入ってきた連中にも…」
言いかけて、ウォルフが口をつぐむ。なにか、まずいことだったのか、ちがうのか。
一瞬だけ足を速めて追い抜き、前から視線を顔に向けると気まずそうな表情が読めた。
「エレオノーラさんに言われてませんでしたっけ、顔で話ができてるって。シーフとしてそれはどうなんです?」
「それはな…ってあいつ!フォローにすらなってねぇ…」
そういいながら、乱暴な足取りで彼女を振り払うように雑踏へと消えていく。
おそらくはギルドハウスに向かったのだ。しかし、優勝騒ぎのギルドハウスに出向く気にはなれず、ねぐらにしている宿へときびすを返した。
新人のなかに…きな臭い人間がいる。
それは、彼女の探す人物と関係があるのか。ないのか。
はたまた、新しい彼女との因縁が生まれるのか。
彼女の中に小さな波紋が投げかけられていた。
誰も知らない夜。
祝いの宴の夜。
運命が、どこかで動き出していた…
★ユリウスPLに送ったメールの一部改変。
オープンにしないのもなんだ~と思い、公開。
クローヴサイドの話を一部載せていたので、ユリウスサイドもオープンにしたほうがいいかな~と。
クローヴサイドの話を一部載せていたので、ユリウスサイドもオープンにしたほうがいいかな~と。
いや、でも色々と葛藤もあって、詳しいところはb( ̄¬ ̄) ノーコメント♪