【祓除(ばつじょ)】
鬼・妖怪をはじめとした悪しきもの、よろしからぬものを祓う行為。
祓除の呪言
寺院では大般若経(だいはんにゃきょう)般若心経(はんにゃしんきょう)や尊勝陀羅尼(そんしょうだらに)などが用いられる。邪気や妖気を祓除するためのまじないの言葉としては「火も水も吹き寄す風も清ければ元も苅り断ち末も苅り断ち」と唱えるのも良いとされる。
悔過(けか)
人間自身が自己の身体や精神に発してしまった悪心を祓う行為。
不浄の悪心(黒気)を宿した状態では、いくら清浄に祈りや祓除を試みたところで、邪気や妖力を却って増させるに過ぎないとされる。
七仏薬師法を使った薬師悔過(やくしけか)は、病魔疫神を祓ったり防いだりすることにも用いられた。
【柏手(かしわで)】
柏手は霊や神を呼ぶため、産霊を働かせるためのものである。八回柏手をうつことを八開手(やひらで)と呼び、八開手を四段(合計三十二回)うつことを最高のものと考えていた。
【西解(にしのなごし)】
鬼・妖怪をはじめとした目に見えぬ禍たちを国土(明界)から排する行為。西という方角は「西へさして追はんば筑紫、鎮西、外の濱へと追ふべし」などの祓の言葉に由来する。
川や海、山や道など
端境を通じて外部へと祓われ、最終的には西の海、常夜国へと排されて行く。
和西(なごし)
水無月(六月)に行われる夏越の祓(なごしのはらい)の「なごし」は、邪なるものをなごす(和す)ことから言われるとも伝えられている。
麻(あさ)
麻の葉は魔除け、鬼除けの植物として古来から人間たちは装身に用いていた。夏には麻の葉を川に流し、禍を西へ流す西解が行なわれていた。
茅(ち)
茅の葉で造られた輪をくぐり歩く「茅の輪くぐり」も、禍を排する西解の一つとして行なわれていた。日々の暮らしの中で知らず知らずのうちに犯したであろう罪や過ち、心身の穢れも共に祓い清め、無病息災を祈る。
茅の輪は八の字状にくぐり歩く。西という字にも八の字は含まれる。「ち」は大蛇(おろち)蛟(みづち)野槌(のづち)などにも見られる「ち」から来ており「霊」や「蛇」を意味すると考えられている。いっぽう「血の輪」であるともいい、禍や鬼による疫病の増す夏に向け、人間たちの精血(赤気)を増すことで無病息災をもたらすとも言える。
大祓(おおはらい)
極月(十二月)に行われる大規模な西解である。
大祓は、伊邪那岐(いざなぎ)が橘小門の阿波岐原でみそぎをしたことになぞらえられているとされる。
【大般若】
大般若経の経本を転読させ、その風を送って禍たちを祓う習わしも、正月や水無月(六月)を中心として各地で行われつづけている。「お経開き」「おではんにゃ」「般若さん」「辻祈祷」「村祈祷」などとも呼ばれる。
- 頭の上で転読をしてもらうと疫病や災害をまぬがれることが出来る。憑物も落ちる。(愛媛県)
- 転読で起こった大般若の梵風(ぼんぷう)にあたると一年間病気をしない。(大分県)
- 転読の風にあたると夏負けをしない。
大般若経の入った櫃(経箱)を担いで地域内をまわり、住人たちがその櫃の下をくぐるといった習わしは「夏祈祷」とも呼ばれ、茅の輪くぐりを変形させた和西である。このようにもともと和西が行われていた日に大般若を行っている地域もあれば、旧来から農耕行事に関わって来た四月八日や七月七日にあわせて大般若を設定している土地もある。
各地で内容や日付が一定しない部分はあるものの、古くから市街村落の衢境や辻(
端境)で行われているこのような習わしは、西解・悔過・祓除の行為に「大般若経」という西土から渡来した経典が形式として加えられることによって普及をしていった。
唱えごと
転読の際に「降伏一切大魔最勝成就」と唱える。このような魔除けに発される唱えごとの声を般若声(はんにゃごえ)と言う。声だけではなく経本で経机などを大きな音で叩いたり、太鼓を鳴らしたりするなど、音によって禍を祓う。
雷神
大般若経の転読が日東で用いられるようになったきっかけは、大安寺を建立する際に雷神を祀った社の木を伐採してしまったことによって怒った雷神を鎮めるため、道慈律師が用いたのがはじめだとされる。
【菖蒲蘰(あやめのかつら)】
菖蒲の挿頭 (かざし)とも称される。五月五日に菖蒲から造られる邪気を祓うための装飾品。
最終更新:2023年12月16日 21:39