【天狗(てんぐ)】

天狗の足跡が残るとされる岩石は各地にみられる。岩石の表面にくぼみがあり、そこに溜まった水は療治の効果や、筋力増大につながるなどと語られることが多い。一本歯の下駄が連想されることが多いが、素足や鳥の足跡のようなくぼみが大半を占める。

天狗の鼻

天狗の鼻は、古来から非常に長く大きいものであると語られる。これは天狗たちが慢心から生まれることに由来しており、「鼻が高い」などの慣用句もここから出ている。江戸時代の心学(しんがく)の書物にもしばしばこのことは説かれている。

天狗の体

戦国時代まで天狗は鳶や鷹そのままの姿で語られる場合が多い。しかし、人間に近い姿として語られる天狗たちも、羽根の多くは鳶や鷹のままであり、根本的な差異は特に無い。

虎の巻

牛若丸(源義経)は、鞍馬山の天狗から剣術を習い、「虎の巻」という兵法書を授かったとされる。この天狗は僧正坊とも鬼一法眼とも称される。

天狗たちの門葉

天狗たちは大きく分けて四つの門葉に分けられる。勝軍地蔵の星に属する愛宕山太郎坊たちの「日羅星」(愛宕法)、荼枳尼天に属する富士太郎たちの「荼枳尼」(陀羅尼法)、飯綱権現の星に属する智羅永寿たちの「智羅星」(飯綱法)、大禍津日(オオマガツヒ)に属する鞍馬山僧正坊たちの「魔王」(天魔法)がある。しかし、これらに属さない天狗も多い、それらは山の精霊が天狗とされているような例である。


【天狗関(てんぐかん)】

人間の人生には三十の「関」という通過点があり、その十八番目は「天狗関」と呼ばれ、その後の生命に関わる大きな厄年であるとされている。*1

【天狗の呪文(てんぐのじゅもん)】

天狗を配下に置いていた僧や山伏たちは、天狗たちに対し「嵐吹く戸山の風にしこりなす向かう悪魔を吹き返しけり」という呪文を唱える事で「天狗風」を起こさせて、邪魔をする禍や妖怪を吹き祓ったりしていた。


【増上慢の天狗】

増上慢の無道心なる智者が、天魔や天狗となるとされる。五大魔縁を参照。

【烏天狗(からすてんぐ)】

大天狗の手下として数多く従っている天狗たち。
カラスは太陽を示す鳥類として知られる。天狗がカラスであるという説は見ることは出来ず、熊野信仰などの影響からカラスが天狗にも用いられたものと見られる。

【天狐(てんぐ)】

「てんぐ」を「天狐」と表記する例は飯綱法の天狗たちの文献に見られる。天狗を狛犬の呼称に用いている例もあり、使い分けを持つ流派がいくつかあったと見られる。

【狗賓(ぐひん)】

天狗を「グヒン」と称する事も多い。五通七郎(ヤマオトコ)*2と称する例も見られる。

【天狗の膝跡(てんぐのひざあと)】

太郎坊*3や僧正坊*4など、名高い天狗には足跡ではなく、座って膝をついただけで岩肌がくぼんだといういわれをもつ岩石の伝説が存在している。力の強さを示したものと見られる。

【天狗隠れ蓑(てんぐかくれみの)】

天狗の所有している特殊なミノ。これを着ると体は透明になり他者からは不可視となる。

【天狗の捨斧(てんぐのすてよき)】

福井県石徹白村では、山で天狗が引き起こす現象と遭遇した時は、その場に持っているヨキ(斧)などの道具を捨てて、すぐに山を下りないといけないと言われていた*5

【天狗と相撲】

河童も相撲を好むと語られるが、天狗たちも相撲が好きで山に修行に来た新米の山伏に投げ技をかけて転がす事が、天狗の多い山坊ではしばしば起こったと言う。

最終更新:2024年04月19日 21:53

*1 広瀬南雄『民間信仰の話』法蔵館、1926年

*2 『雜説囊話』には天狗たちと「山𤢖・五通七郎」(ヤマオトコ)たちが同類だとある。

*3 京都府愛宕山の天狗

*4 京都府鞍馬山の天狗

*5 宮本常一『越前石徹白民俗誌』三省堂出版、1949年