【麒麟(きりん)】

聖代に出現するとされる霊獣。王者が優れた政治を行うとその得を慕い出現する。その図象は慶事や福徳の象徴として重んじられて来た。
頭頂に一角を持ち、胴は鹿、首は狼、尾は牛、脚は馬に似ているとされる。野を駆け回ったとしても決して一匹の虫も踏まず、一本の草を荒らすこともない殺生と無縁の仁徳を持つ獣であるとされる。

麒麟の「麒」は雄、「麟」は雌をそれぞれ示しているとされる。このように雌雄の名称を重ねている形式の名称は、鳳凰も同様である。

麒麟は殺生をしないと言われ、何も口にせずに生きているとされる。

麒麟と毛の色

麒麟の体毛や鱗毛は五彩を帯びているとされるが、その毛色によって異なる呼称も持っている。

  • 青 聳孤(しょうこ) 
  • 赤 炎駒(えんく)
  • 白 索冥(さくめい) 
  • 黒 角端(かくたん)

麒麟は羊のような頭であるとも伝えられており*1、毛足の長い体毛やたてがみであるとされる。龍や龍馬と見分ける際の目安ともなる。

【五虫と五虫王】

麒麟は毛虫(体毛につつまれた獣たち)の王であるとされている。羽虫(翼を持つ鳥たち)は鳳凰、鱗虫(魚や蛇たち)は神龍、甲虫(亀や蟹たち)は霊亀が王であるとされる。また、人間たちは裸虫と称される。

 五虫   毛虫   羽虫   鱗虫   甲虫   裸虫 
 王   麒麟   鳳凰   神龍   霊亀   人 

神龍は「龍」(りゅう)、霊亀は「亀」(き)とのみ表記される文献もある。

【麒麟の出現】

孔子が生まれた時にも、麒麟は現れたと語られる。しかし、その麒麟は死んでしまったとされる。『春秋公羊伝』では麒麟の遺骸を見た孔子は「我が道、窮まれり」と嘆き泣いたと記されている。
『日本書紀』には天武天皇九年、大和の葛城山で肉に覆われた鹿の角が見つかり、麟角(麒麟の角)ではなかろうかと朝廷へ献上されたことがあるとも記されている。

【麒麟と獅子】

どちらも獣たちの王であるとされる「麒麟」と「獅子」は、共に魑魅魍魎を撃ち祓う霊獣と考えられている。霊獣としての本体は同一であり、「麒麟」はその和魂、「獅子」はその荒魂を示している関係性であるとも言える。
直接に魑魅魍魎を撃つのが「獅子」であり、その威光で祓うのが「麒麟」である。
麒麟が他の存在を直接に傷つけぬことは、その角の先が薄い肉で覆われており、相手を突き貫く事が出来ないとされている点でも知られている。

最終更新:2022年05月27日 16:00

*1 『延喜式』巻二十一、祥瑞には「麟 仁獣ナリ。麕身ニシテ羊頭。牛尾一角。端ニ肉アリ。」とある。