あー……はい、どうもどうも、こちら〝カノッサ機関麾下遊撃軍〟『カエルレウム・ナーウィス』――。
……そして僕は、最高指揮官のヴェンツェルだ。
本日は、みんなももう知ってるとは思うけど、〝碧〟を届けに来た。
まあ、要するに――〝宣戦布告〟だ。
……実はね、水の国中に、時限爆弾を仕掛けたんだ。
その時限爆弾ってのが中々面白い代物で……「起爆トリガー」に指定された人物を倒さないと、解除されないのさ。
大戦争の火蓋を切るにはうってつけの機能だろ? 精々、頑張って「起爆トリガー」を探し出して、倒すことだ。
――平和や秩序なんてものが、愛おしいなら、さ。
っと、そうだそうだ、僕達がなぜ、こんな真似をするか――疑問に思う者もいるだろう。争いを起こし、血を流して、何が目的なのだ……とね。
まず言っておくけど、僕達がこうして戦争を挑むのは、何も崇高な理想や信念を世界に押しつけたいからじゃない。
「戦争の先にある絶対幸福」とか「世界の天秤の逆転」とか「戦乱に満ち溢れた桃源郷」――なんて革命染みた野望は企んでいない、と断言しよう。
言うなれば僕達は――――っと、ごめんごめん、時間みたいだ。続きは……〝戦争〟の中で、語らいあおう。
……今、『カエルレウム・ナーウィス』は、水の国並びに〝全世界〟へ告ぐ。
この瞬間より、僕達は、世界を、〝碧〟で〝塗り潰す〟。
ああ、そうさ、互いの存在意義を、塗り潰し合おう。
消えな、世界。
【 ... 】
――諸君、聞くがいい! 先程の宣戦の続きだ!!
そう、僕達の目指す先は、決して誰かの喜ぶ理想郷なんかじゃない!!
言うなれば、僕達は、〝世界のリセッター〟!
僕達の望みは、世界をゼロよりも更なる原始……すなわち「〝負≪マイナス≫〟に還す」こと!!
それは、この世に数多存在するしがらみを全て消失させた、平穏の世界!!
それは深海のようにッ!! 絶望のようにッ!! 静かで冷たくて、暗くて深い、〝碧〟の世界だッ!!
僕は、これまで、どんな仕事をしても、どんなにお金を稼いでも、どんなに正義ぶろうとも、もしくは悪人ぶろうとも、そして誰と何を話そうと……。
たった一つだけ、得られないでいたものがある。
……ああ、それこそ、〝碧〟……いわば、深海のような静けさ……平穏だ。
――幾多の血の川を越えて、僕は考えた。
なぜ殺し合う必要があるんだろう。
なぜ血を流し合う必要があるんだろう。
なぜ抉り合う必要があるんだろう。
考えれば考えるほど、僕は、平穏を、手に入れたくなった。
考えれば考えるほど、平穏というモノは〝現実社会〟では手に入らないものだと、実感した。
……この戦争は、それを見つけるための、分の悪い、最初で最後かもしれない〝賭け〟だ。
傭兵をしたのも、カノッサ機関に入ってナンバーズになったのも、ナーウィスを組織したのも、わざわざ二年前から海賊なんかを仕込んだのも、全ては〝水先案内人〟の誘い通り。
そうとも、僕は敢えて〝絶望の水先案内人〟の口車に乗って、世界に挑戦するんだ。
絶望が!! ウェル子ちゃんの宿す〝碧色の絶望〟が!! この世に残された唯一の平穏ならば!!
僕はいくらだって世界を絶望させてやる!! その存在意義を否定し、塗り潰してやる!!
さあ、戦おう!!
或いは、塗り潰されたくなければ、僕達の船に乗るが良い!! 悪意を乗せて血の海を渡る船に!!
去る者は追わず! 来る者も決して拒まず!! 絶望とは斯くあるべきだ!!
いざ征こう!! 〝絶望の碧色〟を世界に流し込むために!!
いざ目指せ!! 〝完全無欠の平穏〟で世を満たすために!!
――戦争だ! 戦争だ! 戦争だッ!! 全ての希望を抉り取って、開いた孔に絶望という名の碧を流し込んでやれッ!!
――――――――全ては、平穏のために。