早朝の住宅街。
1人の教師が、ある家を訪れる。
玄関から、うつむいた中学生の少年と、不安げな母親が現れる。
教師「おはよう!」
母親「先生、今日はありがとうございます」
教師「いえいえ。さぁ、みんな心配して待ってるぞ。じゃ、行きます」
母親「よろしくお願いします」
教師が生徒を連れ、通学路を行く。
生徒「今さら学校行ったところで、しょうがないよ」
教師が地面に両手を突き、逆立ちしてみせる。
教師「こうしていると、地球を支えている気分になるんだ!」
生徒「!?」
教師「地球を、しょって立つ! へへっ、先生も登校拒否したことあってな」
生徒「先生も!?」
教師「あぁ。そのとき迎えに来てくれた先生が、こうして教えてくれたんだ。はぁ、はぁ…… そんなに難しいことじゃない。ほんの少し、勇気を出せばいいことなんだ」
学校に着く。
生徒たち「おはようございます!」
教師「おはよう」
男女2人の生徒が、先の教師と生徒を迎える。
生徒2人「先生!」
教師「お前たち!」
生徒2人「クラスを代表して迎えに来ました」「カイくん、早く教室行こ」「皆、待ってるよ」「さぁ、行こう」
うつむいていたその生徒が、かすかな笑顔で応える。
校門には学校の名、「
桜ヶ岡中学校」──
宇宙の彼方から、円盤生物ロベルガー2世が飛来し、とある島に降り立つ。
それを追って来たウルトラマンも、地上に降り立ち、ロベルガーに立ち向かう。
思い出の先生
硫酸怪獣 ホー 円盤生物 ロベルガー二世 登場
|
エイティとロベルガーの戦いが始まる。
ウルトラマンメビウスも飛来し、エイティに加勢する。
エイティの放つ光の槍、ウルトラレイランスが、ロベルガーを貫く。
さらにエイティのサクシウム光線、メビウスのメビュームシュート、2大必殺光線を受け、ロベルガーが爆散する。
CREW GUYS基地・フェニックスネストの、ミライ、リュウ、ジョージ、テッペイ、コノミたち。
テッペイ「マイナスエネルギー?」
ミライ「はい。再び地球に発生する可能性があるそうです」
ジョージ「その調査をしていたところ、円盤生物が出現して──」
リュウ「ウルトラマンエイティが駆けつけた、ということか」
コノミ「マイナスエネルギー、ドキュメントUGMに記録を確認」
テッペイ「マイナスエネルギーは、人間の心の暗い波動と言われていて、それが邪悪な怪獣を呼び寄せると言われています。ただ……」
マリナ「ただ?」
テッペイ「現在に至っても、未だに研究過程にあるもので、うぅん…… はっきりとした結論が出てないんだよなぁ~」
コノミ「人間の心ほど、難しいものはないですもんね」
再び、桜ヶ丘中学校。
1人の男性が自転車で校門に通りかかり、感慨深く校舎を見つめる。
スーパーマーケットのワゴン車が通りかかり、運転手がクラクションを鳴らす。
「おい、落語!」
ウルトラマンエイティこと矢的 猛が、桜ヶ丘中学校で教師として勤めていたときの教え子、落語とスーパー(共に仇名)。
当時は中学1年生だった彼らも、現在ではすっかり中年男性である。
落語「この学校、無くなるんだってな」
スーパー「あぁ。隣町の学校と、統廃合されるそうだ」
落語「寂しいよなぁ……」
校庭を歩く2人のもとへ、冒頭の教師が駆けて来る。
教師「すいません! あの、部外者の方は立入禁止なんですが」
スーパー「部外者なんて言われても。俺たちは卒業生だよ?」
教師「いやぁ、そうは言っても……」
落語「ん!?」
落語が、教師の顔を凝視する。
教師「……な、何ですか?」
落語「お前、塚本じゃねぇか!?」
教師「はい、そうですが? ……あぁっ! お前、落語!? あっ、スーパー!?」
一同「アッハハハハ!」「何やってるんだよ!?」「懐かしいなぁ!」「びっくりしたなぁ、おい!」
その教師は、やはり猛のかつての教え子、塚本。
25年ぶりの再会であった。
放課後。
かつての一同が学んだ1年E組の教室で、3人が語らう。
塚本「先月、赴任したばかりなんだよ。そしたら早速、登校拒否に出くわしてな」
スーパー「バチが当たったんだよ。矢的先生を困らせた」
塚本「そうだな」
落語「懐かしいなぁ~! ハカセ、ファッション、真一はどうしてるかな?」
25年前の学園生活の記憶が、一同の脳裏をよぎる。
スーパー「早いもんだよなぁ…… 時が過ぎるのは」
落語「すっかりオジサンだよなぁ、俺たち」
塚本「矢的先生、どうしてるかなぁ……」
スーパー「ある日突然、俺たちの前から、いなくなっちまってな」
落語「なのに、どの先生よりも思い出に残ってるよ」
塚本「矢的先生は…… ウルトラマンエイティだったんだ」
落語「プッ! ハハハハハ!」
スーパー「ハハハ、何言ってんだよ」
落語「お前さぁ、まだそんなこと言ってんのかよ?」
塚本「笑われたっていい! 俺は、確信している」
スーパー「──よし! この学校が壊されちまう前に、皆でクラス会やろうぜ!」
落語「おっ! いいなぁ、クラス会!」
スーパー「できる限り人数、集めてな。この教室、貸してくれるだろ?」
塚本「あぁ、掛け合ってみるよ」
落語「よし、決まりだ! ハハハ!」
塚本「矢的先生、来てくれるといいな」
教室の外を見ると、ミライが調査を行っている。
フェニックスネスト。
リュウが、ウルトラマンエイティのフィギュアを持って現れる。
リュウ「ミライ。お前のお兄さんの人形、持って来てやったぞ! あれ、ミライは?」
マリナ「さっき、都内でマイナスエネルギーに似た波動が観測されたの」
テッペイ「とは言っても、本っ当に微量なんで、『怪獣なんて呼ぶ力は無い』って言ったんですけど」
サコミズ「それだけ、お兄さんからの忠告が重たいものなんだよ。彼にとって」
塚本「あなた、GUYSの?」
ミライ「はい。何か、変わったことはありませんか?」
落語「いや、別に」
ミライ「そうですか…… 失礼します」
塚本「あっ、待ってください! あの、かつてUGMの隊員として働いていた、矢的 猛さんをご存じじゃないでしょうか?」
落語「えっ!? おい! お前、UGMって?」
塚本「先生は教師をやりながら、UGMの隊員としても働いてたんだよ」
スーパー「そんな…… 本当か!?」
塚本「あぁ。前の学校で、元UGM隊員の子供がいたんだ。そうですよね!? 今、矢的先生がどこにいらっしゃるか、教えていただけないでしょうか!?」
ミライ「いや、それは……」
その夜。
ミライが、星空を見上げる。
ミライ (ウルトラマンとしてだけでなく、教師としても慕われていたんですね。25年も経った今でも、まだ…… 桜ヶ丘中学で、最後のクラス会をしようとしています。出席してあげてください。矢的 猛先生として)
夜空にウルトラマンエイティの姿が浮かび、声が響く。
エイティ『それは、できない──』
ミライ (どうしてですか!?)
エイティ『元々私は、地球にはマイナスエネルギーの調査のために訪れた。そして人間と触れ合う内に、人間の持つ限りない可能性を感じた。それはメビウス、君も同じだろう?』
ミライ (……はい)
エイティ『しかし、人間はその可能性を、間違った方向にも向けかねないこともわかった。そのことによって生まれるのが──』
ミライ (マイナスエネルギー)
エイティ『そうだ。そして私は考えたのだ。教育という見地から、マイナスエネルギーの発生を抑えられるのではないかと。私は勉強を重ね、思春期といわれる不安定な時期の、中学生の教師になった。しかし、マイナスエネルギーの発生を食い止めることは、できなかった── 私は、次々と出現する怪獣に立ち向かうため、教師であることを捨てねばならなかったのだ』
ミライ (……)
エイティ『遠く離れたとは言え、私の心には常に、彼らがいる。メビウス、君の口から皆に伝えてほしい。矢的 猛が謝っていたと──』
翌朝の、桜ヶ丘中学校。
校門の前の塚元の前に、落語が自転車で駆けて来る。
落語「塚本、塚本──っ!」
塚本「危ないなぁ! 何だよ、登校中なんだぞ!?」
落語「それより、これ! これ見てくれよ!」
落語が興奮して、新聞記事を示す。
ウルトラマンエイティと円盤生物との戦いが報じられている。
塚本「ウルトラマンエイティ!?」
スーパーも、自分の店のスーパーマーケットの前で、新聞記事を読んでいる。
スーパー「ウルトラマンエイティ!? 塚本の言葉が正しければ──」
落語「矢的先生は、地球に来ているのかもしれない!」
塚本「……あぁ!」
スーパーが、店の客の目も構わずに、空に向かって大声を張り上げる。
スーパー「先生──! 明日、クラス会なんだ! 桜ヶ丘中学で、最後のクラス会なんだ──!!」
落語も塚本も、生徒たちの視線に構わず、大空に呼びかける。
塚本「絶対、絶対来てくださ──い!!」
落語「俺たちや、スーパー、ハカセ、ファッションに真一も、とにかく皆、来るから!!」
塚本「皆、逢いたがってます! 必ず来てくださ──い!!」
ミライが2人の様子を、陰から見ている。
ミライ「ごめんなさい…… 僕には、伝えられません」
フェニックスネスト。
テッペイ「まただ」
マリナ「例のマイナスエネルギー?」
テッペイ「本当に微量なんですけど、時々現れては消えちゃうんですよね」
リュウ「また、あの中学校か?」
テッペイ「はい」
ジョージ「聞けば、もうすぐ廃校になるっていうじゃないか、その学校」
コノミ「少子化ですもんね…… もしかして学校が、取り壊されることを悲しんで、マイナスエネルギーを発生させてるんじゃないですか?」
テッペイ「そんな、無生物がマイナスエネルギーを発生させるなんて、考えられませんよ」
ミライは一同をよそに、エイティのフィギュアを手にして、ため息をついている。
リュウ「ミライ?」
ミライ「板挟みって、辛いですね……」
ミライがサコミズと語らう。
サコミズ「なるほど、そういうことか」
ミライ「はい、どうしていいやら……」
サコミズ「でも、君が何かしなきゃいけないことじゃ、ないんじゃない?」
ミライ「そうなんですけど」
サコミズ「出逢い、別れ、喜び、悲しみ。人間って、面倒くさい生き物なんだ。でもね、時が来ればそれが、思い出というものに変わる」
ミライ「思い出?」
サコミズ「そう。その思い出が何も無いことが一番、人間にとって悲しいことかな」
桜ヶ丘中学校の、クラス会の日がやって来る。
玄関で、背広姿の男性と、洒落た服装の女性が、目が合う。
「あなた、もしかして……」
「あっ! ファッション!?」
「ハカセ!?」
猛の元教え子、ハカセとファッション。
ハカセ「懐かしいなぁ!」
ファッション「元気だった?」
そこへ、スーパーも顔を出す。
スーパー「おっ、来たな、みんな」
ハカセ「おぉ、スーパー!」
ファッション「わぁ、懐かしい!」
スーパー「会場は上だ。上がってくれ」
ハカセ「おぉ、行こう行こう!」
階段を上がると、かつて失恋から怪獣を生み出した元教え子、真一に出くわす。
スーパー「おい、お前…… 真一じゃないか!?」
真一「スーパー!?」
スーパー「わぁ、やっぱりそうだぁ! ほら、失恋して怪獣呼び出した」
ハカセ「あぁ、覚えてる! 懐かしいからって今日は、怪獣呼び出さないでくれよ」
ファッション「それがね、最近、若い奥さん貰ったらしいのよ。だから大丈夫」
真一「もう、勘弁してくれよ~!」
一同が屋上に上がる。
クラス会のテーブルが広げられ、元教え子たち一同で賑わっている。
スーパー「みんな集まってるぞ」
真一「わぁ、屋上でやるのかぁ!」
ハカセ「だけど、なんでわざわざ屋上で?」
スーパー「矢的先生に、メッセージを送るためさ」
ファッション「えっ、矢的先生、いらっしゃるの!?」
スーパー「まだ、わからないけどな」
ミライが校門の前に立つ。
ミライ (やはり伝えなくてはならない、エイティ兄さんの言葉を)
校舎に、不気味な光が漲る。
ミライ「この光は!?」
テッペイ「これは!? 桜ヶ丘中学校のマイナスエネルギーが、急激に上昇してます!」
校舎から不気味な光があふれ、実体化して巨大な怪獣となる。
かつて真一が呼び出した怪獣、硫酸怪獣ホーが出現する。
一同「か、怪獣だ!」「怪獣だ!」
ミライ「あれは!?」
スーパー「真一! お前、また!?」
真一「知らん! 俺は怪獣など呼んでいない!」
ホーは暴れるでもなく、町を破壊するでもなく、何かを呼ぶように、空へ咆哮を上げる。
ミライがウルトラマンメビウスに変身し、ホーに立ち向かう。
怪獣ホーは、戦うべき相手を捜すように、あちこちを見渡す。
ようやくホーがメビウスの姿を認め、戦いの形となる。
リュウの乗るガンフェニックスも飛来し、ビームを放つ。
しかしビームはホーの体を透過し、まったくダメージが無い。
リュウ「どういうことだ?」
ホーはメビウスに馬乗りになり、まるで駄々を捏ねるように、殴り続ける。
その目から硫酸の涙があふれ、メビウスの体から煙が上がる。
ホーが涙を流し続け、その姿に、取り壊されようとしている学校の光景がだぶる。
学校の廊下。時間割の貼られた廊下。
手洗い場の蛇口、静かに滴る水滴……
ホーが空を見上げる。
轟音と共にウルトラマンエイティが飛来し、地上に降り立つ。
ハカセ「あっ、あれは!」
ファッション「ウルトラマン──」
真一「エイティ!」
スーパー「俺たちの!」
落語「ウルトラマンだぁ!」
塚本「矢的先生……! 矢的先生ぇ──!!」
ホーが、心なしか嬉しそうに、エイティに対峙する。
エイティ「マイナスエネルギーによって出現した怪獣ならば、私が倒す」
ホーは抵抗するでもなく、まるで倒してくれとでも言わんばかりに、棒立ちのまま両手を広げる。
エイティが必殺のバックルビームを放つ。
ホーが空中に溶け込むように、跡形もなく消滅する。
「先生──!!」
塚本が屋上から、エイティに向かって大声で呼びかける。
塚本「先生に憧れて、僕は、教師になりました──!!」
ファッション「私は結婚して、3人の子供のお母さんで──す!!」
落語「僕は、地元の信用金庫に就職しました──!!」
ハカセ「大学で、研究する日々を送ってま──す!!」
スーパー「親父のスーパー継いで、がんばってるぜ──!!」
教え子たちが「矢的先生 思い出をありがとう」の横断幕を、大きく広げる。
塚本「みんな、先生には感謝しています!! 本当にありがとうございました!!」
エイティが静かに頷く。
教え子たちが一斉に、『仰げば尊し』を合唱する。
エイティは静かに、それに聞き入っている。
やがて合唱が終わると共に、エイティが空へ飛び立つ。
教え子たちは、エイティの姿が見えなくなるまで、空を見上げ続ける。
ミライが校舎を見上げる。
その隣に、矢的 猛が並ぶ。
猛「教え子たちに、逆に教えられてしまったな」
ミライ「兄さん……」
猛「感謝しているのは、私の方だ。彼らと一緒に過ごせた時間は、私にとってもかけがえのない思い出だからなぁ」
ミライ「さぁ、皆が待っています!」
猛「メビウス。私は、自分の言葉で謝ってみるよ。大切な、私の生徒たちだからね」
猛が校舎へ向かう。
一同「あっ、矢的先生!」「矢的先生────っ!!」
教え子たちが歓喜して手を振り、猛は手を振って応える。
ミライのもとに、GUYS一同が並ぶ。
ミライ「きっとあの怪獣は、桜ヶ丘中学が呼び出したんです」
ジョージ「コノミが言ってたようにか?」
ミライ「はい。でもちょっと違うのは、桜ヶ丘中学が壊されてしまうから、悲しいからじゃなくて、エイティ兄さんと生徒さんたちを逢わせてあげたくて、怪獣を出現させたんです」
マリナ「思い出の人! と言うか──」
ジョージ 「思い出の、ウルトラマンか」
ミライ「思い出って、ほんとに大切なものなんですね……」
屋上で、笑い合う者、感涙にむせぶ者、感激のあまり猛に抱きつく者。
猛が教え子たちの輪に囲まれてゆく。
最終更新:2021年03月19日 22:05