魔動王グランゾート 冒険編の第1話


その昔、月は死の世界であった。
ところが突然、大気が形成され、以来、
多くの人々が訪れるようになったのである。

しかし…… 地球から来たのは、
良い人間だけではなかったのだ。



「オー・マイ・ゴッド! 月も住みにくくなったものじゃ。悪者は邪動族(じゃどうぞく)だけではなかったのだよ、まったく」

前作『魔動王グランゾート 最後のマジカル大戦』から1年後。
月面に出現した闇の塔で、発掘作業が行われている。

「博士、博士! 大変なものが出てきました。至急第22エリア、F23ブロックまでおいでください!」

塔内をエレベーターが昇ってゆく。

「もうちょっと早く動かんのかい! ハリアップ、ハリアップじゃ!」
「そんな、ムリですよ!」

発掘現場へ駆けつけたのは、テレビシリーズ『魔動王グランゾート』にも登場した考古学者、ニジンスキー博士。
助手のブリザードが発掘作業にあたっている。

ニジンスキー「おぉっ、これは!?」
ブリザード「あのぉ、ニンジン博士! この塔で発掘されたものの所有権は、すべて我がレゴリス社の有するところでありまして」

壁面の神像に、巨大な宝石が埋め込まれている。

ブリザード「これはすばらしい! 早速掘り出して、地球のレゴリス本社へ持ち帰らなければ!」
ニジンスキー「ならん! これは絶対、掘り出しちゃならん!」
ブリザード「そんなぁ、ニンジン博士!」
ニジンスキー「わしゃニジンスキー博士じゃ! 君にはこれの重要性がわかっとらんのじゃ! わしら地球人が、これに触れてはならん! まして地球に持って行くなど、もってのほかじゃ!」
ブリザード「しかし……」
ニジンスキー「しかしもカカシもないわい! よろしいか、これは耳長族(みみながぞく)の遺産、マジカルストーン…… 魔動石(まどうせき)じゃ!」


地球、遥大地の自宅。

「大地、大地!」

自室で寝ている大地の夢の中で、魔動王(マドーキング)グランゾートの声が響く。

(大地── 大地──)

「大地! ごはんですよ!」


遥家の朝食。テレビでニュースが流れている。

『凶悪無比の宇宙海賊の犯行は、年々増加の一途をたどり──』

大空(弟)「カッコいい~! ねぇ、お父さん。僕、大きくなったら宇宙海賊になりたい!」
大樹(父)「おぉ、どんどんやれ。ハッハッハ!」
美恵(母)「何、バカなこと言ってんの……」

大地が食卓にやって来る。

美恵「大地! 夏休みだからって、ゴロゴロしてばかりじゃダメでしょ?」
大地「へへへ。心配しなくたって、明日からは寝てなんかいられないよ」
大樹「おぉ、そうか。明日だっけなぁ」
大河(祖父)「山本くんも、一緒に来るんかい?」
大地「うん。月の空港で合流して来るってさ。いっただきまぁ~す!」
美恵「それはいいけど、大地、宿題は?」
大地「うぐっ! 大丈夫だって! 明日までにはなるだけ終わらしとくよ」
大空「去年の兄ちゃん、終わんなくて大騒ぎだったもんねぇ~」
大地「お前はうるさいの!」

『番組の途中ですが、月のムーンタワーから入ったニュースです』

一瞬、大地の脳裏を奇妙な感覚がよぎる。

グランゾートの声 (大地──)

『レゴリス社が発掘を続けていた月面で、大変なものが発掘されました』

大空「兄ちゃん! あれ、闇の塔!」

闇の塔から発掘された魔動石が報道されており、ニジンスキー博士が必死に発掘を止めようとしている。

『今世紀一ともいえる、巨大な宝石です』

大地「ニンジン博士!?」

ニジンスキー『いかん! これは絶対、持ち出しちゃいかん!』

大地「魔動石じゃないか!」


一方、月面のルナシティ。
ラビが公園でのんきに、女の子たちと遊んでいる。

ラビ「いけねぇ、そろそろ時間だ。行かなきゃ」
女の子「えっ、どこ行くの?」
ラビ「空港さ。友達と待ち合せ」
女の子「あ~ん、女の子でしょ?」
ラビ「残念でした! 男だよ。じゃあな! ──ふぅ、1年ぶりの月面か。やっぱ、こっちはいいぜ! ギャルは多い、空気はうまい!」

街を行くラビの脳裏を、奇妙な感覚がよぎる。

ラビ「はっ……! なんだ!?」

テレビのニュースの音声が流れている。

『さて、クイーンルナと名付けられたこの宝石ですが、厳重な警備のもと、地球のレゴリス本社へ輸送されることになりました』

ラビ「ありゃ、魔動石じゃねぇか!? 地球へ運ぶなんて、冗談じゃねぇぜ」

すぐそばの道路を、「クイーンルナ輸送中」と書かれたトレーラーが行く。

ラビ「──!? おい、こらぁ! まちやがれぇ!」


一方、月の空港では、ガスがラビを待ちわびている。

ガス「もう、遅いですねぇ~、ラビくん。一体どうしちゃったんでしょう?」

『正午発GSX航空602便をご利用のお客様は4番ゲートまでお急ぎください──』

ガス「えぇっ、そんなぁ!? 一体どうしましょう!? ……仕方ないですね。ラビくんがいけないんですよ。時間をきちんと守らないから」

突如、脳裏をよぎる感覚。
それは大地やラビたちと同様に魔動石の感覚かと思いきや、そばにあるハンバーガーを発見。

ガス「いただきます!」

ハンバーガーにかぶりつく。
それは偶然そばにいた、ニジンスキー博士に手にあったもの。

ニジンスキー「オー・マイ・ガット! 昼メシが!?」
ガス「あぁっ!?」
ニジンスキー「おぉっ、ガスくん! ガスくんじゃないか!」
ガス「ニンジン博士! お元気でしたか? いやぁ、お久しぶりですね!」
ニジンスキー「ここで君に逢えるとは、天の采配か!? 実はな、ゴニョゴニョ」
ガス「えぇっ、魔動石が!?」

発掘された魔動石は偶然にも、ガスとラビの乗る予定のシャトルに積み込まれようとしている。

ガス「あれは、私の乗るシャトルじゃありませんか!」
ニジンスキー「見ての通り、警備が厳重でな。近づくには同じシャトルに乗って、地球へ行くしかないんじゃ」
ガス「泥棒するわけですか?」
ニジンスキー「仕方あるまい。これも君たち、耳長族のためじゃ」
ガス「ですから私は、耳長族ではないんですったら」
ニジンスキー「四の五の言っとらんで、行くぞ! レッツゴーじゃ!」

ラビも魔動石を追い、空港に到着している。

ラビ「なんて厳重な警戒だ。これじゃ近よれねぇぜ」

『GSX航空602便をご利用のお客様は4番ゲートまでお急ぎください──』

ラビ「何ぃ!? ちょっと待ったぁ! 乗ります、乗りますぅ! ……わぁっ!?」

シャトルへ急ごうとしていたラビが、そばにいた老人の杖につまづいて転倒する。

ラビ「爺さん! 俺になんか怨みでもあんのか!?」
老人「おぉ、これは旅のお方」
ラビ「誰が旅のお方だよぉ!?」
老人「つかぬことをお聞きするが、この辺りに交番はござらぬかのぉ?」
ラビ「交番?」
老人「実は、落し物を拾いましてのぉ」
ラビ「落し物!? 財布かなんかなら、俺が預かるぜ!」
老人「実は、これですじゃ」

老人が取り出したものは、女物の下着。

ラビ「……!?」
老人「実はもう一つありましてな」
ラビ「そんなもんが落ちてるわけあるかぁ~っ!」

女性たちが駆けて来る。

女性たち「あそこよ!」「こらぁ、待ちなさぁい!」「下着泥棒~!」
老人「こりゃいかん、追手が来ましたじゃ! ここはひとまず逃げましょう~!」
ラビ「ちょ、ちょっと待て! 俺には関係ないっ! ……わ、わぁっ!?」

老人がラビの頭のターバンを掴んで駆け出し、その拍子にターバンが外れ、隠していたウサギ耳が露わになる。

通行人「あぁ~、ウサギ人間!?」
ラビ「あ……」

「何、ウサギ人間が出た!?」「それと下着泥棒よ!」
「えぇっ、ウサギ人間が下着泥棒!?」「なんと、変態ウサギ男が出た!?」

たちまちラビは、周囲の人々の好奇の目に囲まれる。

ラビ「……このジジイ! 待ちやがれぇ~~っ!!」


魔動石は、シャトルの貨物室へ積み込まれる。

乗務員「さぁ、これでロック完了です」
ブリザード「でも大丈夫でしょうか? 最近、物騒ですし」
乗務員「はやりの宇宙海賊でしたら、ご心配には及びませんよ。わが社としても、多大な保険金がかかっています。護衛のシャトルもチャーターして、万全の態勢で臨んでいますから」
ブリザード「はぁ、そうですねぇ……」
乗務員「さ、時間ですよ」

ガスとニジンスキー博士は客席に。

ガス「ラビくん…… 結局、間に合いませんでしたね」
ニジンスキー「彼のことじゃ、心配はいるまい」


老人は逃走の末に、滑走路まで逃げて来る。
ラビが必死に追いかける。

ラビ「クソジジイ! 俺のターバン返せぇ! ……あぁっ、俺の乗るシャトル!?」

老人が、走り出しているシャトルの車輪にしがみつく。

ラビ「お、おい! 何考えてんだぁ!? こら、離せ! 離さねぇか、ジジイ!」

老人の手からなびくターバンを、ラビがつかむ。
そのままシャトルが離陸し、ラビは宙吊りになってしまう。

ガス「もしや、ラビくんの身に何か……?」
ニジンスキー「ドント・ウォーリー。それより今は、魔動石じゃ」

ラビ「わぁ~っ、落ちる~っ!」

老人はターバンを車輪の軸に結び付け、自分は車輪の上に腰かけて一息ついている。

老人「ふぅ…… これで一安心ですじゃ」

車輪が機体ハッチの中へと収納されてゆき、老人はターバンの上を滑り落ち、ラビの上に乗っかってしまう。

ラビ「とと、お、重い!」

機長室に警報ランプが灯る。

「機長。車輪収納ハッチに、異常が認められます」
「ハハ、大方、野ウサギの死体でも引っ掛かってるんだろう」
「そいつはいいや」

車輪のハッチが完全に閉じ、ターバンがちぎれ、ラビは老人と共に真っ逆さまに落下。

ラビ「わああぁぁ~~っっ!?」

眼下の池に2人が落下する。

ラビ「わぁっ、水だ、水だぁ!」

水が苦手なラビは、老人を引き上げると共に、死にもの狂いでどうにか池から脱出する。

ラビ「はぁ、はぁ…… クソジジイ、てめぇ!」
老人「おぉ、ご無事じゃったか。何より、何より」
ラビ「無事じゃねぇ! お前のせいで、こっちはとんだ災難だぜ!」
声「ラビ! お前、ラビじゃねぇか!」
ラビ「あぁっ、お前は!?」

テレビシリーズでも登場した、かつてのラビの仲間、自称宇宙海賊のドミノ。

ドミノ「ラビ! お前、生きてたんだな!」
ラビ「ドミノ!」

ドミノはラビたちを、自分たちの宇宙戦艦のもとへ案内する。

ラビ「うひゃあ! これ、マジでお前らの船!?」
ドミノ「ガッテン。前のヒスパニオラ号を売っぱらって手に入れた宇宙戦艦だぜ」
ラビ「その割にはなんか、セコイ感じだな」
ドミノ「何、遠慮してんだ。お前も昇って来いよ」
老人「はい、すいませんですのぉ」
ラビ「爺さん、あんた関係ねぇだろぉ!?」

艦内には、ドミノの親分のオセロがいる。

オセロ「ラビ!? ラビじゃねぇか!」
ラビ「よぉ。久しぶり、船長」
オセロ「ラビ~っ! 心配してたんだぞぉ! 俺は、俺は……」
ラビ「まぁまぁ、湿っぽい挨拶は抜きにしてよ。この船、飛ぶんだろ?」
オセロ「そりゃまぁ、宇宙戦艦だからな」
ラビ「じゃ、特急で頼むぜ。追いかけてもらいたいシャトルがあるんだ」
オセロ「そりゃ構わねぇが、今はな、ドミノ……」
ドミノ「ガッテン…… もう3年8か月も修理してんだけど、ウンともスンとも言わねぇんだ、この船」
ラビ「おいおい! まだ整備中なのかよぉ!?」
オセロ「ちょっと買い叩きすぎたかなぁ……」

老人は勝手に荷物類を漁り、海賊旗を見つける。

老人「ひぇぇっ! あんたたち、海賊じゃったんか!?」
オセロ「あぁ~っ! こらぁ!」
老人「おぉい、助けてくれぇ! 海賊に捕まったぁ~!」
ラビたち「おい、何考えてんだぁ!」「何しやがんだ!」「やめろぉ!」
老人「殺されるぅ~」
オセロ「わぁ~、俺の旗がぁ!」

騒ぎの挙句、旗が窓の外へ舞い、それを掴もうとしたオセロが機械類を踏みつけ、計器類に光が灯る。

オセロ「何だぁ!?」
老人「ひぇぇ、命だけはご勘弁を……」
ラビ「う、動いた!?」

艦体が作動する。
巨大な艦艇本体は実は見せかけであり、一同の乗っている艦体一部だけが宙に浮く。

オセロ「やったぁ、飛んだぁ!」
ラビ「おいおい…… なんか、どんどんセコくなってねぇか? この船」
オセロ「うぅっ、俺は嬉しいぞ! ついに俺たちは、夢にまで見た宇宙海賊になれるんだ!」
ドミノ「はい、船長……」
2人「ドミノぉ!」「船長!」

2人が涙ながらに抱き合う。

老人「本当に良かったのぉ」
ラビ「ったく、何考えてんだ? このジジイはよぉ……」
オセロ「よぉし、旗を上げろぉ! 宇宙で大暴れだぁ~っ!」
ドミノ「ガッテ~ン!」
ラビ「取あえず窓閉めろ! 窓ぉ!!」


一方で大地は、軌道エレベーターでラビとガスを迎えに行っている。

『当エレベーターはあと1分少々で、軌道ステーションに到着します』

大地「ラビもガスも、シャトルに乗ってるかな? ニュースで見た魔動石のこと、2人に逢ったら相談しなきゃ」


そのガスは、シャトル機内で機内食にありついている。

ガス「ごちそうさまでした」
ニジンスキー「ありゃ! もう全部食っちまったのかい?」
ガス「はい、たいへんおいしかったです」

突如、機体が大きく揺れる。

ガスたち「わぁっ!?」「何です!?」

宇宙空間に爆炎があがり、シャトルを取り囲む。

機長「しまった、囲まれた!」

巨大な宇宙戦艦が出現し、通信の声が響く。

『航行中のシャトルに告ぐ! 我らはノーマンベイツ団である! おとなしく、当方の指示に従ってもらおう』

客たち「海賊だぁ!」「ノーマンベイツ団だってぇ!?」

ガス「ノーマンベイツ!?」
ニジンスキー「ジーザス! 今、一番凶悪な宇宙海賊じゃ!」
ガス「ということは、悪者の人たちなんですね?」

銃を手にした宇宙海賊たちが、客室内に突入して来る。

客たち「わぁっ!?」「きゃあぁっ!?」
ガス「乱暴なマネはおよしなさい! どうしても力づくとおっしゃるなら、この私がお相手いたします!」

海賊たちが、ガスに銃を向ける。

ガス「仕方ありませんね。では、参ります! でやぁ~っ!」

ガスが果敢に、海賊に立ち向かう。

ガス「頭の上を失礼いたします!」「心配ないですからね!」

ガスは客席の上を飛び回りつつ、素手対銃、1対数人のハンデをものともせず、たちまち海賊たちを叩きのめす。

ニジンスキー「へへっ、ブラボー、ブラボー! さすがはガスくんじゃ! 見たか、海賊ども!」

そこへブリザードと、数人の搭乗員が現れる。

ブリザード「なんですか、この有様は……」
ニジンスキー「おぉ、局長! ガスくんがシャトルのピンチを救ってくれたんじゃ!」
ブリザード「ほぉ~、それは勇ましいことです」

ブリザードがナイフを抜く。

ガス「あなたは!?」
ブリザード「こういうわけでして……」

ブリザードがニジンスキーにナイフを突きつける。
共に現れた搭乗員たちも、すでに背後から海賊たちに銃を突きつけられている。

ニジンスキー「あ、あんたは、海賊の手先だったんか!?」

ガスも海賊たちに取り囲まれ、銃を突きつけられる。

ブリザード「抵抗しないほうがいいですよ。フフフ……」


縛り上げられたガスが、必死に戒めを解こうとする。

海賊「動くな! こいつがどうなってもいいのか?」

海賊はニジンスキーに銃を突きつけてみせる。
座席の画面に、海賊の親玉が映し出される。

『シャトルの皆さん、迷惑をかけて申し訳ない。私がノーマンベイツ団の総帥、グレコ・ノーマンだ。今回私が欲しかったのは、皆さんも知っていると思うが、あの宝石だったのだが、ついでにあなたがたには人質になってもらう。ブリザードくん、後は頼んだぞ』

ブリザード「はい!」
ニジンスキー「えらいこっちゃ!」
ガス「あんな奴に魔動石を奪われるなんて……!」


大地は、軌道ステーションに到着している。
カウンターで、大勢の客たちが騒いでいる。

「欠航!? 欠航って、どういうことなんだ!?」
「ただ今、月面行きのルートは全面閉鎖されておりまして」
「そんなぁ、困りますよ!」

大地「遅いなぁ…… ラビとガス、何やってんだろう?」

「GSX航空602便が消息を絶って、海賊の仲間たちが空域にいるらしくて……」

大地「ん!? 602便が海賊に襲われたんですか!?」
係員「なんだい、君は?」
大地「そのシャトルに友達が乗ってるんです!」
係員「そうか…… でも、大丈夫だよ。きっと無事に助け出してくれるさ」
大地「宇宙便は、全部取りやめですか?」
係員「そりゃあ、荒っぽい仕事をする運び屋ならいるかもしれないが」
大地「運び屋……?」
係員「あ!? おい、君!」


大地「民間の運び屋っていったって……」

大地が運び屋を捜して格納庫を歩き回っていると、突然、巨漢の男が吹っ飛んで来て、大地にぶつかる。

大地「痛ぁ…… 気をつけてよ!」

そこへもう1人、巨漢の荒れくれ者が現れ、ケンカとなる。

「まだ勝負はついてねぇぜ! この臆病者がぁ!」
「何ぃ、臆病者だとぉ!?」
「海賊が怖くて、仕事を休みやがって!」
「ビビッてのは、おめぇのほうじゃねぇか!」

ケンカをよそに、大地が2人のかたわらにあるドアをくぐる。
薄暗い店内。人相の良くない男たちが酒を煽っている。

お、お…… お母さん……
ひょ、ひょっとして、ここは……
しかし、これは
ラビとガスを助け出すためなんです!

大地は意を決してカウンターへ。老いたマスターがグラスを磨いている。

マスター「どうした、若いの?」
大地「コ、ココ…… コーラをください!」

客たちが一斉にズッこける。

お母さん……
コーラは何かマズかったでしょうか?

マスター「あのね…… コーラだったら、ロビーの自販機でも売ってるから」
大地「違うんです!」
声「おい!」

先ほどケンカしていた男の1人が現れ、大地の首根っこを掴み上げる。

男「ここはガキの遊び場じゃねぇんだ。さぁ、とっとと母ちゃんのところへ帰りな」
大地「わぁっ!?」
男「こちとら海賊サギで、商売あがったりなんだ。ガキっちょがウロウロして、余計にムカつかせるんじゃねぇ」

そこへ、1人の女性が現れる。
宇宙の運び屋、ストーミィお(きょう)

お杏「よしな」
客たち「お杏!」「お杏だ……」「お杏!」
男「お、おめぇは…… ストーミィお杏!?」
大地「お杏……?」
お杏「ちょいと、お兄さん。みっともないマネしてくれるじゃないか。シャトルが出せないからって、子供にまで八つ当たりとは。運び屋の風上にも置けないね」
男「……」
お杏「運び屋仲間のメンツと、そこの坊やの名誉を賭けて、勝負してもらおうか!」


客たちに囲まれ、お杏と男が対峙する。
コーラを手にした大地も、固唾をのむ。

お杏「どうした、少年。飲まないのかい、コーラ?」

2人が同時に短刀を抜く。

お杏「ルールはわかってるね? 髪の毛1本、布一筋でも切られたら負け。途中で落ちても負け。立会人は皆の衆! いいね!?」

お母さん、大変なことになりました……

お杏の妹分のマリアが檄を飛ばす。

マリア「姉御! やっちまえ~っ!」

冷や汗を流しつつ、男が短刀で切りかかる。
お杏が軽々とかわし、短刀を一閃。
あっという間に男の髪が切り落とされ、着ていたシャツもズタズタになる。

男「あらぁ? やだぁ~っ!?」
お杏「男前が上がったよ!」
大地「すっごぉ~い!」
お杏「行くよ、マリア! 急がないと、出発に遅れちまうよ!」
マリア「あいよっ!」
客たち「出発!?」「まさか、シャトルを出そうっての!?」
マリア「へへっ! やったね、姉御!」
お杏「無駄な時間、食っちまった。まくるよ!」


マリアが小さな体で、お杏のシャトルに荷物を積み込み、出発準備を進めている。

お杏「トロトロ運んでんじゃないよ! 出発まで百万年かかっちまう!」
マリア「はぁ~い! ふぅ、ふぅ……」

大地まで荷物運びに加わる。

マリア「あぁっ!? なんだぁ、お前!?」
大地「へへ~ん。1人じゃ大変だろ? 手伝うよ」

お杏「時間だ、出すよ!」

シャトルが軌道ステーションを飛び立つ。
操縦席のお杏の背後で、ドアが開く。

お杏「なんだい? 妙に時間食ってたね」

マリアと共に、大地まで現れる。

お杏「なんだぁ!?」
マリア「出発のドサクサで、ヘンなのがついてきちゃった……」
お杏「ドライブに行くんじゃないんだよぉ!? ったく、しょうがないねぇ。ステーションへ逆戻りだ」
大地「お杏さん! お願いです。僕を月まで連れてってください!」
マリア「ちょっと、あんたぁ! そういうつもりだったわけぇ!?」
大地「友達が海賊に捕まったんです。僕、助けに行かなきゃ!」
お杏「助けるぅ? 海賊から? ハハハハ! んなこと、できるわけないじゃないか」
マリア「そうだよ! イカれてんじゃないの!?」
大地「やってみなきゃわかんないじゃないか!」

お杏の放った短刀が大地の頭をかすめ、壁面に突き刺さる。

お杏「そんなセリフは百万年早いよ。坊主になりたくなかったら、とっとと帰りな!!」
大地「ぼ、坊主……? さっきと同じ勝負、僕にもやらせてください!」
お杏「……!? あんた、さっきの坊やかい。名前は?」
大地「遥、大地……」

お杏が短刀を収める。

お杏「……ま、いっか。荷物が1個、増えるだけさね」
マリア「姉御ぉ!?」
大地「お杏さん!」
お杏「ただし! タダとはいかないよ。百万ムーンドル、頂くからね」
大地「ひゃ、百万~っっ!?」
お杏「ハハハ! キャッシュとはいかないさ。ローンでも結構、百万年ローンでね!」
マリア「姉御ぉ!?」
お杏「あんたも人のこと、言えないだろ? さ、飛ばしてくよ! とっととナビにつきな!」

通信機から声が響く。

『あ──、あ──、聞こえますか? こちら海賊、こちら海賊』

大地「海賊!?」

『そこの貨物船、速やかに停船しなさい』

マリア「あ、姉御……!?」
お杏「こりゃ、参ったね…… 大地。あんた、ひょっとしたら、ものすごくツイてるのかもよ……」



お母さん、いきなり海賊に遭遇してしまいました。
果たして、ラビとガスには逢えるのでしょうか?
グランゾートもいないし、ちょっぴり不安です……



(続く)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年06月16日 19:02