「今日はは一日中、こんな様子でしょうな」
天野秤が扉を閉めて出ていった後、オリガ・ヴァイスマンは肩を竦めて呟いた。
室内の空気は、未だ揺れていた。
交尾紗奈の刑務を即時終了する事を要請し、素気無く却下された天野が、力を込めて閉めた扉の余韻は、彼の怒りを示すかの様に残っている。
第二回放送を終えブラックペンタゴン内部の戦いは、最後の幕が開かれようとしている頃。乃木平天及び、オリガ・ヴァイスマンの両名は、再度所長室で向かい合っていた。
刑務内容は看守達に逐一モニタリングされている。その為に刑務者達の状況で一喜一憂する者が、看守の中に当然出て来る。
壮馬誠二およびサッズ・マルティンが、過去に銀鈴とルクレツィア・ファルネーゼ、この両名を拷問し、その手腕を鼻で嗤われた事の恨みが晴れたと、祝杯を上げる勢いで嬉んでいたり。
Dr. リヴン・レイナードが過去にトラウマを負う原因となった亜人を思わせる、ドラゴンへ変身する超力を持つ北鈴安理の無事に胸を撫で下ろしていたり。
天野秤が、再度所長室に乗り込んで、ヴァイスマンと乃木平に宥めすかされて、虚しく引き下ったり。
刑務が終わるまでは、看守達はずっとこうなのだろうと、ヴァイスマンと乃木平は、顔を合わせて苦笑した。
「交尾紗奈は、確かに収監される理由が無くなったかも知れません。直ちに検査をし、結果次第では出獄の手続きをする事にばるでしょう」
ヴァイスマンは、紗奈が生き残る事が出来た場合の処理を考えながら、言葉を紡ぐ。
交尾紗奈は、超力による犠牲者を出さない為に保護を兼ねて収監されている。
ならば、刑務内で超力が変化すれば?交尾紗奈をアビスに収監する理由は無くなる。
当然の事だが、速やかに出獄の手続きをするべきなのだ。
「現状では、彼女は此処にいる方が良いと思いますがね」
乃木平の言葉はもっともだ。
ルーサー・キングと敵対した紗奈を、単独でアビスの外へと放り出す。それは無責任と言える行為だろう。
「彼女が自らの手で未来を切り拓けるかどうか、それ位の機会は与えてやっても良いと思いますよ」
「…実際のところ、彼女はこの事実に気付いてくれるでしょうか」
「どうでしょうね。気付いて仕舞えば、葉月りんかと離れる事になる事実に行き着きます。その様な事を交尾紗奈は望まない」
天野秤には告げなかったが、この事こそが、交尾紗奈を未だに刑務に従事させる理由である。
ルーサー・キングを動かして、ブラックペンタゴン内に最後の混沌を生じさせた聡明な少女が、“刑務とは関係無く出獄出来る”という事実を認識した時に、どう動くのか。
りんかを外に出す為に、死に物狂いで400pの獲得を目指すだろう。
火種も少なくなって来た現在、日月と並んで期待が出来る存在である。
「本庄清彦の死亡は僥倖でした。これで、厄介事が一つ減りましたな」
交尾紗奈の事よりも、彼等の関心が向いていたのは、本庄清彦の死だった。
人格の交代により、中身(ソフト)と肉体(ハード)を入れ替わる本庄清彦は、厄介さという点ではサリヤよりも遥かに上、というより比較にならない。
「貴方のタグ付けが無いと、彼を捕捉するのは不可能でしょうね」
逃亡者が、他者の戸籍やパスポートを手に入れて、他人になり済ますというのは良くある事だが、本庄清彦に限って言えば、そんな次元では無い。
姿も記憶も技能も経験も思考も何もかもが、そっくりそのまま文字通りに他人と化す。
三人も殺して入れ替わられれば、もはや足跡を辿ることすら不可能だろう。
「サリヤが逃亡を図ったとしても、どうにでもなります」
プレシードといったところで、所詮は一人。組織の数の力に対抗知る術などない。
「彼女も不幸ではありますが…親がシエンシアだった為に、自身の超力を使いこなせない。本庄清彦を以って、はじめて真価を発揮できた」
第一席に座った者が持つ、家族という概念に弾倉が左右される“我喰い”に於いて、真っ当な家族というものを知らないサリヤは、その真価を発揮する事は能わない。
乃木平はサリヤの育った環境を思うと、流石に同情の念が湧いて来るのを感じる、
「本条を一席に座らせて、逃亡していれば良かったものを、まぁ此方としても助かりましたが」
もし仮に、本庄清彦が健在のままで、ディビット・マルティーニを散り込み、“家族”としたディビットの頭脳を以ってルーサー・キングの傘下に下れば、再度捕らえること不可能に近いだろう。
刑務内に於いても、トビ・トンプソンを“家族”としてしまえば、戦闘能力に欠ける為に制御し易かったトビが、強大な戦力を有する事となってしまい、刑務の遂行に支障が出る可能性も有った。
これらの懸念が現実と為り得なくなっただけでも、本庄清彦の死は大きい。
「超力を測る要素は三つ。レアリティと強度と練度。シエンシアはこの内の練度を顧みなかった。
彼女の信念からすれば、当然と言えますが、結果として、サリヤの可能性は摘まれてしまった」
“誰にでも等しく使える”という事を目標としたシエンシアにとって、鍛錬や才能に左右される練度というものは、考慮するにも値しない代物だったのだろう。
努力すれば必ず結果に繋がる。などと言うカルト宗教よりも害悪な思想を持ち合わせなかったのは結構な事だが、それにしても限度は有る。
「例えば、ハヤト=ミナセ。彼の超力はレアリティは大した事は無く、強度も優れているとは言えませんが、練度次第では“化ける”超力だった。
彼の超力を無銘が使用すれば、大根卸呪魂にすら勝利し得たかも知れません」
無論、彼女が超力を使用しなかった場合に限りますが。そう付け加えて、乃木平は続ける。
「確かに戦闘に於いては超力の強度が最重要です。レアリティで勝るドミニカ・マリノフスキが、ネイ・ローマンに一蹴された様に」
アメリカ最大のヤマオリ・カルトを壊滅させ、“炎帝”フレゼア・フランベルジェに次ぐ悪名を轟かせた少女。
ドミニカが虐殺したヤマオリ・カルトは、ブランチ・ダヴィディアンを上回る武装と、多数の戦闘向けの超力を有する信者を多数擁し。更には建物は鉄筋コンクリート製の堅牢極まりない作りであり。
もはや警察の手に負える存在では無く、制圧には州軍の動員を要するとされた程だ。
それを単身で壊滅させたドミニカは、行為のみならず、戦力に於いてもフレゼアに匹敵すると評された。
信者達が散弾銃や自動小銃に火炎放射器、果ては重機関銃や対戦車ミサイルを持ち出して、周辺被害を考える事なく抵抗し。
身体能力を強化した、或いは獣人に姿を変えた現役軍人や、現代兵器に比肩若しくは凌駕する超力現象が、襲い掛かる。
凡そ一個人を殺害するには過剰という言葉ですら遥かに足りない威力をぶつけられ。
その全てを重力場で捉えて、“落下”する事で防御し、或いは重力場を用いた立体的な機動により回復し、放たれる重力場により、信者達は全身が圧潰し、身体の一部が消滅して倒れ。
乱れ飛ぶ拳脚を、己に身体の原子間結合を高める事で、鋼鉄以上に質量と硬度を増して受け止めて。反撃の拳は文字通りの“鉄槌”となって、攻撃者達の身体を穿ち、砕いた。
そのドミニカ・マリノフスキを、鎧袖一触してのけたネイ・ローマンの超力『破壊の衝動(Sons of Liberty)』 の威力の凄まじさは、乃木平ですら背筋に冷たいものを感じた程だ。
ローマンの執拗な挑発でドミニカが冷静さを欠いて、超力の制御が粗くなっていたという事を差し引いても、ああまで一方的に終わるとは予想していなかった。
「流石はネイ・ローマンと言ったところでしょうか…。キングス・デイから掛けられた一千万ユーロの懸賞金は伊達では無いという事ですか」
遅くとも半世紀後には、第二のルーサー・キングが出現するだろうと言われる、犯罪の温床にして坩堝である欧州ストリートの絶対者ネイ・ローマン。
キングス・デイへと熾烈な攻撃を加え、傘下にあるストリート・ギャングを多数壊滅させ、下部組織する潰した怪物。
暴力の切符を手に、刹那的に殺し合い、破滅的に罪を重ねる少年少女達は、或る者は羨望の目を向け、或る者は崇拝し、残りの大多数はキングス・デイに敵対する行為と、ネイ・ローマンの強さに恐怖した。
そして極々僅かな少年少女はこう考えた。
ネイ・ローマンを殺せば名を上げる事ができる。キングス・デイで幹部待遇だって受けられる。
ネイ・ローマンの実力を知って、尚且つ挑む様な者達だ。皆が皆、犯罪の蠱毒である欧州ストリートで名を知られた強者達。中には王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)候補も複数名存在した。
その全てを返り討ちにし、更には王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)に名を連ねた者すらも殺してのけたネイ・ローマンは、一部のストリート・チルドレンから英雄視すらされた程だ。
ローマンと複数回殺し合って、決着を見なかったスプリング・ローズを、ルーサー・キングが態々引見したのは、単にローマンと殺し合って“五体満足で生きている”という一点に尽きた。
キングス・デイ懸けた懸賞金も鰻登りに上がり続け、遂には一千万ユーロの大台に到達したのが去年の事である。
「だが、それでも、練度というものは無視出来ない。己の超力を理解し、己の超力で何が出来るかを考え、実行に移せる能力。それが練度です。
エネリット・サンス・ハルトナが銀鈴を討った様に。ジェイ・ハリックが銀鈴に引導を渡せた様に」
超力戦闘に於いて、最後に生死勝敗を制するものは、やはり練度となるのだろう。
欧州ストリートで、誰もが敵になり、僅かな隙を見せれば背中を刺される中で、血みどろの死闘を日夜行い、超力の練度を極限まで鍛え上げたキングス・デイの精鋭達。王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)の様に。
「それで、我喰いですが、やはり次の被験体に?」
「ええ、アレは単体で運用する事を想定した場合はには最適の超力ですからね。次はドンを使うと息巻いていた研究者が居たそうです。カリブの海賊、バッカニアだから丁度良いと」
「居た…ですか」
「ええ、佐谷聖と言うのですが、趣味の登山中に熊に遭遇して」
何とも気まずい話が出て、ヴァイスマンは早急に話題を変える必要性を感じた。
乃木平の言葉に、ヴァイスマンは少しの間、目を閉じて話を誤魔化す話題を考える。
「……成程。しかし所長、ドン・エルグランド。Dの字を持ちますが、カリブの海賊とバッカニアは別物ですよ」
「……貴方が日本の文化にお詳しいとは思いませんでしたが」
開闢の日を超えて10年後に、漸く最終回を迎えた日本の国民的漫画を知っている事を、乃木平が意外そうに質問し、ヴァイスマンの表情が沈む。
「………娘が好きなんですよ」
何処か遠い目をして呟いたヴァイスマンからは、哀愁が漂っていた。
「サンプルの回収はどうなりましたか?」
両者共に気不味くなって、そそくさと雑談を打ち切り、仕事の話に入る。
この刑務は、ただ囚人を殺し合わせて済むものでは無い。
研究に用立てる為に、刑務者の骸を回収しなければならない。
遺伝子や超力のサンプルなどでは無い。そんなものは、アビスに収容された時点で採取されている。
必要なのは、生きている間には調べようの無い部分。聴力の発動に於いて重要な役割を果たす箇所。つまりは脳だ。
「宮本麻衣、内藤四葉の両名は肉体が残っていませんので回収は不可能でした。メアリー・エバンス及び銀鈴は回収済みです。銀鈴が首輪の仕様に気付いたのは幸いでしたね。
刑務中に変異を起こしたルクレツィア・ファルネーゼの残骸及び、第二段階に到達した可能性の有るドミニカ・マリノフスキの頭部もも回収しました。
それと…蒼光君が気にかけていた様ですので、ソフィア・チェリー・ブロッサムの遺体を収容致しました」
乃木平の眉が眉が僅かに動いたのは、先刻のやらかしを補おうとするヴァイスマンのゴマスリに気づいた為か。
「現在の刑務状況を鑑みれば、彼女は良くやってくれました。アビスに収監される事になった原因を鑑み、遺体を回収して弔う事位は許可しましょう」
ルクレツィアの魔手から交尾紗奈と葉月りんかを救った事が、ルーサー・キングのブラックペンタゴン入り及び、ジャンヌ・ストラスブールが第二段階へ到りつつあるという現状に至った事を鑑みれば、確かに良くやったと言えるだろう。
「それに、ルクレツィアをブラックペンタゴンへと誘導してくれたお陰で、良いデータが取れました。Oの超力は、充分に実戦で通用すると」
刑務者達の中でも、ルクレツィア・ファルネーゼ及び大根卸呪魂の両名には、刑務以外にも被験体Oの実戦投入を前にしたシミュレーションという用途が有った。
肉体を駆使した戦闘でOに比肩し得る大根卸。再生能力でOの比較対象となるルクレツィア。
この両名の戦闘データを検証した上で、Oの実戦投入が最終決定されたのだが、刑務に放り込めば、勝手に強者を求め闘う大根卸と異なり、ルクレツィアが刑務に取り組むかは定かでは無い。
恩赦の有無を疑う程度の頭は有り、尚且つ生死に恬淡としている精神性は、適当な刑務者を見繕って、刑務時間が終わるまで拷問し続けるという行動に走りかねない。
仮に単独行動であったのならば、葉月りんかと交尾紗奈の両名を、現在もそうやって愉しみ尽くしているだろう。
その様な事態を阻止し、ルクレツィアをブラックペンタゴンへと連れて行ったソフィアは、刑務に多大な貢献をしたと言える。
更に二人揃って────。
そこまで考えて、ヴァイスマン声に思考を遮られた。
「内藤四葉の脳が入手できなかったのは、惜しかったですね。単騎運用が前提の被験体にとって、マルチタスクに特化した彼女の脳は有用だったのですが」
ヴァイスマンと異なり、戦闘に従事する身である乃木平は、四葉の能力について正当に評価している。被験体Oと正面から単騎で当たっても、そう直ぐには倒れないだろうと。
元より脱獄狂のトビ・トンプソンと共鳴するだろうと、トビが期待された役割を果たすまでの間の護衛として、戦闘狂の四葉を選抜したのだが、第二回放送を越える辺りで死ぬだろうとは予想していた。
それでも、その四葉が死体すら残らなかったと言うのは、乃木平にしても予想外の事ではあった。
「比較対象となるであろう宮本麻衣の脳も失われました。ですが、銀鈴とメアリー・エバンスの脳が入手できた為に、補う事が出来たと思われます」
ヴァイスマンの言葉に、乃木平は僅かに頷く。
自律行動する五体の眷属を繰り出す宮本麻衣は、能力の希少性という天ではズバ抜けていた。当人の練度の低さを眷属達が補える為に、そう死ぬ事は無いだろうと予想していたが。
この刑務に関しては、予想が外れる事が多い。アビスは正しく蠱毒の壺であり、刑務者たちが猛毒を持つ妖虫である事を、改めて思い知らされる。
「アインシュタインの脳よりも、銀鈴の脳は、常人とは異なっているでしょうね」
凡そ最も神に近づいたと言っても良い銀鈴の脳は、内藤四葉及び宮本麻衣の脳の喪失を補って余り有る。
既に頭部どころか原型を留めている肉体の全てが解剖台に乗せられている。
「ルクレツィアの残骸は、各研究機関に配布され、様々な研究に使われる事になるのでしょうか?」
「新時代のヘンリエッタ・ラックス…。あのような殺人狂と並べるのはラックス氏に失礼でしたね」
“ネイティブ”ですら比較にならない再生能力を発揮して、文字通りの怪物と化したルクレツィア・ファルネーゼは、生物的には死んでいるが、細胞は未だ幾らか生きている。
それら生き残った細胞は賦活処理を施された上で培養され、各国の研究機関に配布される事となる。
「生前に多くの人々を殺した贖罪を、死んだ後に行うと言うのも、因果なことです」
感慨深く呟いた乃木平は、短く溜息を吐いた。
「交尾紗奈及び北鈴安理、この二名は少し揉めそうですね」
刑務中に超力を変質させたこの両名が死亡した場合には、速やかに検体となる事が決まっているが、Dr. リヴン・レイナードおよび天野秤の反発は必至だろう。
と言うものの、両名共に生き延びる事も充分に有り得る。
全てはこれからの結果次第という事だ。
ジャンヌ・ストラスブールも、第二段階に至れば、遺体を回収される事となる。此方もまた、天野秤が難色を示すだろうが。
「何にせよ、今日一日のことです」
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冷たい空気が満ちる一室に、悍ましい光景が広がっていた。
幼女の頭部。
女性の頭部。
原型を留めない程に損壊した、元は人体と思しき肉の集積。
乾燥血漿を思わせる、赤黒い粉末。
これらが乗せられた台が整然と並べられている空間に、女性の遺体が一つ。
共に並んでいるものが、皆全て破損した人体や、人体の成れの果てである事を鑑みると、五体満足というだけで、異質極まり無い存在感を放っている。
「…………」
女性────ソフィア・チェリー・ブロッサムの遺体の側に立つ、GPA職員天原蒼光の表情は、陰鬱そのものだった。
この刑務に従事した者達は、死んで仕舞えば死体はそのままで、回収される事など無い。
収監時に遺伝子と超力のサンプルを採取しているいう以上、死体となった刑務者に用は無い。
社会の害悪が、死んでからも人の手を煩わせるなという事だろう。
例外は“サンプル”として、回収する権利があると判断された者達だけだ。
それを思えば、ソフィアの遺体が此処に在る事は、明らかに異常だった。
「ソフィアさん…」
かつての同僚の死体と対面した事は、過去に幾度も有る。葬儀に参列した回数は、それ以上だ。
同輩の死には慣れている蒼光が、陰鬱そのものの顔をしているのは、ソフィアの死顔が原因だった。
恐怖、憎悪、絶望、呪詛。凄まじい負の感情を塗り込めた死顔は、蒼光の体の芯から冷たいものを生じさせる。
一体、死に際して何を見たのか?
一体、死に際して何を思ったのか?
何を見、何を思い、何を呪えば、この様な凄まじい死顔となるのか。
弾き歪んだソフィアの顔を見て、蒼光はソフィアの罪を思い起こす。
悪徳政治家に故郷を焼かれ、親しい人達を殺し尽くされ、指示を下した悪徳政治家を惨殺した。
元はと言えば、ソフィアの失態ではある。同情は出来るが、惨劇の大元はソフィアに有る。当人の知らぬ事だが。
GPAのエージェントとして、ソフィアと蒼光が関わった一国を、EUを揺るがした大事件。
治安対策────特に反キングス・デイ対策を掲げて、選挙に当選したルーマニアの政治家が居た。
圧倒的な支持を集めて当選し、キングス・デイによる暗殺を幾度と無く切り抜けたその女は、何れは大統領になると目されていた。
誰知ろう。その女は当の昔に殺されていた死人だったとは。
高い学歴を持つが、家族も親しい友人もいないその女は、キングス・デイにより目を付けられて拉致殺害され、経歴と姿形をそっくりそのまま奪われた。
女と入れ替わったのは。“王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)”の一人、マルギド・ヴェンツェル。
顔だけで無く、全身を骨格レベルで、医学の粋と超力を用いて別人へと変え、“信用(メグビズニ)”の二つ名を得るに至った超力と、キングス・デイの弁護士として辣腕を振るった経験を活かしに活かし、大衆の心を掴んだのだ。
キングス・デイの暗殺を幾度も切り抜けられたのも当然ではある、要は“キングス・デイに決して屈しない”というイメージを植え付ける為の演出だったのだから。
キングス・デイ────つまりはルーサー・キングによる国家掌握計画は。その計画は蒼光とソフィアにより、マルギド・ヴェンツェルが捕縛された事で潰える事となった。
超力を用いた医療に対する法規制の施行や、政治家や弁護士は職務に際してはシステムAを仕込んだ腕輪を嵌めることが義務付けられるといった、事後の影響も大きい事件だった。
「確かに貴女は失態を犯した。けれど、それは、こんな死に方をする程の……」
ルーサー・キング始めとする凶悪犯罪者達と、最前線で対峙するGPAエージェント達は、個人情報を厳重に秘され、功績を称賛される事も無い。
素性がバレて仕舞えば、殺害される程度ならばまだしも、買収される、或いは拉致され拷問されて、GPAエージェントの情報を洗いざらい吐かされる。
キングス・デイや、キングス・デイに自分を売り込みたい野良犯罪者達が生命を狙って押し寄せてくる。
そんな事態にならない様に、厳重に厳重に、GPAエージェントの情報は秘されるのだ。
である以上、ソフィアがジェーン・マッドハッターに顔と名前を知られた事は、明白な失態である。
ジェーン・マッドハッターか、或いは偶々聞いていた誰かから情報が漏れ。その結果が、キングス・デイと繋がった政治家の指示による、ソフィアの故郷を襲った悲劇である。
ソフィアに無期懲役が下され、アビスへと送られたのは、ソフィアがキングス・デイに他の職員の情報を漏らさない様にする為、というのも、理由としては有ったのだ。
その懸念は奇しくもルーサー・キングが、ソフィアの首輪からポイントを取得した際に、無反応だった事から解消された。
王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)の中でも、キングス・デイに莫大な金を齎し、政敵を“合法的”に葬り去って、キングス・デイへの貢献が最も高いとされている。
そのマルギド・ヴェンツェルを捕縛したソフィアに対して、ルーサー・キングが何の反応もしなかったのは、既に死んでいたのもあるだろうが。
何よりもキングの元へと情報が上がっていなかった事を示していた。
この事により、ソフィアの失態は取り消しとなり、蒼光がソフィアの遺体を弔う事が出来る様になったのである。
「………?」
物思いに耽っていた蒼光の視界の端で、何かが蠢いた。
赤黒い粉が、ソフィアの遺体に群がり、這い上っている。
砂糖菓子に群がる蟻を連想した蒼光は、咄嗟に払い除けようとして。
「……何だ?」
ソフィアの死顔が、引き歪み、凄まじい表情を浮かべていたソフィアの死顔が。穏やかで安らいだものへと変わっていた。
蒼光が遺体を検めていれば、ジェーンによりつけられた傷口が、悉く赤黒い粉末に塞がれている事が確認出来ただろう。
ソフィアに群がるこの粉末は何なのか、蒼光は知らなかったが、引き離す事は、決して行ってはならないと思い、このままソフィアを故郷の地に埋葬する事を決めたのだった。
ーサリヤが別行動を取っている間に交わされた会話ー
「なぁメリリン。メルシニカってのは、どういうところだった?」
「……?妙な事を訊くね。他の組織の様に、キツイルールが有る訳では無し。皆が集まって意見や技術を交換して、請け負った案件は向いているメンバーが取り組む…みたいな感じかな」
「そうだろうな」
「……?」
道理でディビットとエネリットに、アッサリと主導権を奪われた訳だ。
そんな緩い集まりでは、メンバー同士の利害や意見の対立、その調整なんてものが殆ど発生しない。
一つの組織を率いる者として、余りにも粗雑な振る舞いにも納得が行く。
疑念が腫れたローマンは、
「……いや、惚れた女が昔居たところが気になってな」
唸りを立てて飛んで来た鉄拳を躱し、ネイ・ローマンは不敵に笑った。
~~~~
集団のトップに求められる資質とは何か?
人や物を動かす権限。税の徴収と集めた富の分配。ルール及び罰則の制定。ルールを破った者達がへの処分etc…。
サリヤ・K・レストマンは、子供の頃を銀鈴という、神にも準えられるべき絶対権力を持つ者の側で過ごした。
シエンシアという、凡そ人の親足り得ない女の元で、苦痛だけを与えられて育った。
その為に、サリヤにとっての権力とは、必然的に銀鈴の其れをなぞる事となった。
流石気紛れに人を殺傷したりはしないものの、銀鈴の振る舞いは無意識の内に影響を及ぼしていたらしい。
刑務の舞台に引き摺り出された途端に、力を背景に恫喝し、全員を従えようとしたのは、銀嶺の影響が顕著に現れた結果だろう。
もしも、もっと狡猾に、巧妙に立ち回っていれば。
周囲に喧嘩を吹っかけるような真似をせず。協調以って臨んでいれば、もう少し楽に事を運べたかも知れない。
ルクレツィアの超力を、負傷の治療の為に提供していれば、Oの情報を、出し惜しみせずに共有していれば。
あの場で主導権を奪われる事無く、全員を戦力として使えたかも知れなかったのに。
だが、そんな発想は出て来なかった。
第二段階へと到達して、舞い上がっていた事も有っただろう。
だが何よりも、銀鈴とシエンシアの両名からの影響が大き過ぎた。
他者とは、奪い、隷従させ、意思など省みる必要など存在しないもの。
ただのリソースでしか無いと、サリヤの奥底に刻みつけた者達(ビューティフル•ピープル)。
銀鈴とシエンシアがサリヤに刻んだ傷は、生涯に渡って消える事が無い。
銀鈴とシエンシア。美しい外面で悍ましい醜悪さを覆い隠した化け物達(ビューティフル•ピープル)。
たった三人で、Oと対峙する羽目になって、サリヤは改めてシエンシアと銀鈴への憎悪を燃やした。
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エントランスホールの中央。三つある侵入経路の何処から敵が来ても、即座に対応、殲滅できる様に、中央に被験体:Oは微動だにせず佇立していた。
その威容は、神工が心血を振り絞って彫刻した、一千年の時を経ても至高の芸術と称賛される武神像の様。
如何なる疫も魔も、この威容を前にすれば暁光に駆逐される夜闇の様に退散するだろう。
ならば此処に討ち入る者は、疫よりも悪質で、魔よりも凶悪な者であるのだろう。
先刻踏み入り、辛くも通過した欧州の邪王ルーサー・キングの様に。
壁が穿たれ、エントランスホール全体が震動する。
壁を破壊し、通路を造る。
奇襲としては完璧というべきだろう。
本来の予定であれば、存在し無い通路を通って現れた第三勢力。そのまま場を支配し、流れを掴み、一気に戦場を制する事も可能だった事だろう。
だが、諸々の偶発的な事態により、最後に乱入する筈の三人は、図図らずしも先陣を切ることになってしまった。
「huuuuuuu」
武神像が、動き出す。
生命無き武神の像が、荒ぶる武神と化す。
全身に力が漲り、三人へと向けて、必殺の意志が放たれる。
只、それだけで。意志を向けられたというそれだけで。
エントランスホールに踏み込んだ三人を、1人も逃す事無く確実に殺し尽くせる実力に裏打ちされた殺気を身に纏い、溢れた“気”がエントランスホールに満ちて広がってゆく。
欧州のストリート・ギャングの頂点。過去に繰り広げ、幾度の死闘の殆どを勝利で終わらせたネイ・ローマンをして竦ませる。
それ程の脅威が、動き出す。
凄まじい踏み込みに、床が耐えきれずに爆ぜる。
理外の踏み込みから生み出されるものは理外の速度。
1トンという重量を有しながらも、時速にして300kmを軽く超える速度で迫る武神の疾走。
開闢以降の人間といえども、この速度でこの重量の存在に激突されれば、原型を留めない程に肉体が損壊して千切れ飛ぶ。
予想外の事態に、戦闘経験の無い女二人が硬直する中で、只一人、ネイ・ローマンのみが行動する事ができた。
「オ、オオオオオオオオオ!!!!」
荒ぶる武神の突撃を止める為に、渾身の衝撃波を撃ち放つ。
齢十六の時に、大型トラックに撥ねられた経験を持つネイ・ローマンをして、確たる“死”を意識させる武神の突撃。
恐怖に支えられた一撃は、通常でさえ普通乗用車を木端の如くに舞い飛ばす衝撃波の威力を更に高めて、装甲車両ですら破壊する威力と化していた。
再度床が爆ぜ、武神の姿が消滅すると同時、奔った赤黒い破壊エネルギーが、四散する破片を原子レベルにまで分解した。
「殺った」
上空へ跳んだ事を察していたローマンが、上を振り仰ぐよりも早く。7mの高さに在るOへと、サリヤが十指を向けている。
放たれた弾丸の数は四。生物に対して過剰なまでの殺傷性を齎す、ジェーン・マッドハッターの超力を込めた不可視の弾丸が、虚空を舞うOへと殺到する。
赤い霧が虚空に散じた。サリヤの放った不可視の魔弾を、Oが右脚を振るって撃ち砕き、その代償として砕けたOの右脚から飛び散った血と肉片だ。
「予想よりも…頑丈ね」
攻撃を防ぎ、即座に右脚を再生させたOを見て、サリヤが舌打ちをする。
体躯から予想はしていたが、脚の筋密度と骨密度が異常に高い。
体長三メートル、体重1トンという体格は、動物でいえば近いものは大型馬か河馬。
何方も四本の脚で自重を支えているのに対し、Oは二本の脚で立っている。
これでは骨格の都合上、脚に────特に膝にかかる負担が巨大過ぎる。
運動するどころか、立っているだけで膝関節が壊れかねない。にも関わらず、二本の脚で立ち、優れた身体能力強化系の超力を持つネイティブを凌駕する運動能力を発揮するともなれば、この結果は当然と言えた。
寧ろ劣化しながらも、只の四発で彼処までOの破壊出来るジェーン・マッドハッターの超力をこそ讃えるべきか。
【まともに脚による攻撃を受ければ、装甲を纏っているメリリンでも即死する】
Oに対する評価を上方へと改めて、サリヤはOを打倒する方策を思案する。
ジェーン・マッドハッター本人ならいざ知らず、劣化した超力を用いるサリヤでは、急所に当てるか胴に全弾直撃させない限りは、有効打とは成り得ない。
それでも、Oに対して無力では無い。尽きる事無き再生など有り得ない。損傷を与え続ければ、限界が訪れる。追撃を見舞うべく、宙を舞うOへと、残りの六発を撃ち放つ。
狙うは頭、胴、両手足。
宙に在る身では回避は不可能。取りうる手段は防御のみ。どれかを防げても、どれかは当たる。そうしてダメージを蓄積させ、削っていく。
一撃必殺が狙えないと確認し、その上で削り殺す事を選択する。
正しく敵情を把握した上での最良の選択は、しかして己を知らぬが故に崩れ去る。
空気弾とOの全身を赤黒い衝撃波が呑み込んで、Oの巨躯を大きく後ろへと吹き飛ばした。
「ネイ!?」
サリヤの誤算は只一つ。
ネイ・ローマンは年齢不相応の戦闘経験を有するが、あまりの強さと超力の性質の為に共闘の経験が無いということ。
そしてネイ・ローマンと共に戦うのが、元より戦闘の経験そのものがロクに無いサリヤであるという事。
必然として足並みは揃わず。互いの考えを確認する事も、互いの動きを見る事もしない。
空中で隙を晒したOに対し、好機と放たれたネイ・ローマンの衝撃波は、サリヤの攻撃も粉砕してしまったのだ。
内に捕らえた魂の一つ、ソフィア・チェリー・ブロッサムにでも変われれば、まだ異なる展開も有ったろうが、サリヤには能わない。
ローマンとサリヤ、2人は同時に舌打ちし、20m以上離れた場所へと着地しようとしているOへと意識を向けた。
「邪魔すんな」
「それは此方の台詞」
ローマンが左拳を振り上げた後、思い直した様に後ろへ下がり、サリヤが再度十指を向ける。
Oが着地すると同時、床が爆ぜ、Oが再度の突撃を行う。
応じてサリヤが放つ十の魔弾。
四つはOへと向い、残りの六つはOの周囲へと放たれて、回避する為の空間を潰している。
ローマンは後ろで衝撃波を放つ構えに入っていた。Oの動きに合わせて、もしくはOが被弾すれば、即応して衝撃波を放つ構えである。
咄嗟の連携としては見事なものだが、その様な付け焼き刃でどうにかなる程、ヴァイスマンの肝煎りが脆いなど有り得ない。
猛進するOの姿が消え、床が爆ぜる。
踏み込みによる床の破損が、Oの動きより後に生じる。どれだけの速度があればこの様な現象が生じるのか。
瞬間移動じみた動きで左へと跳んだOは、床に両手を突くと両腕の力を使って再度の跳躍。
不可視の魔弾を躱すと、ローマンの放った衝撃波を回避する為に更に跳ぶ。
勝機だ。そう2人が思ったのも無理は無い。
近接戦闘で勝てずとも。このまま距離を散って削り殺せば良い。
そんな2人の思惑は、実にあっさりと崩れ去った。
Oが人の頭ほどのサイズの床の破片をサリヤへと投げつる。
手を用いた跳躍を行った時に抉り取ったのだろう、コンクリ塊は、直撃すれば人体など簡単に貫き、射出孔から盛大に血と肉を飛散させるだろう。
唸りを上げて飛来するコンクリ塊に、既にOへと照準を定めていたサリヤは冷静に対処。ジェーンの超力を乗せた空気弾で、Oの投擲したコンクリ塊を撃ち砕く。
「バカ……」
ローマンが叫んだ時には、既にサリヤの全身は鮮血を噴いていた。
剛速で迫るコンクリ塊を迂闊に砕いた為に、四散した破片が散弾となってサリヤを襲ったのだ。
サリヤの全身から黒煙が噴き上がる。サリヤは“我喰い”に取り込んだルクレツィアの超力で、即座に全身の傷を癒し、戦闘を継続する。
Oの意識が、サリヤへと向いたのを、ローマンは確かに感じ取った。
Oの頭脳には、全刑務者のデータが収められている。
エンダ・Y・カクレヤマの身体に在る土地神のデータも、本庄清彦を隠れ蓑にして潜むサリヤ・K・レストマンのデータも、Oは確と有している。
サリヤの有する超力についても、それは同じ。
今までの戦闘で、サリヤがジェーン・マッドハッターの超力を得ている事は確認出来た。
更にはルクレツィア・ファルネーゼの超力も、また。
既に刑務者を取り込んでいる以上、サリヤの能力はもはや未知数だ。早急に叩いておくべきだった。
サリヤの動きが停まった隙に、Oが加速する。
スプリング・ローズが姿を変えた、真紅の人狼を上回る耐久力と回復力に物を言わせた猛進。
ネイ・ローマンが迎撃に放った衝撃波を肉体の頑強さで撃ち砕いて、サリヤへと拳を放つ。
サリヤ・K・レストマンとネイ・ローマン。
戦力として比した場合。超力のレアリティと強度に於いてはサリヤが、練度と身体能力に於いてはローマンが勝る。
純粋に超力のみを見るならばサリヤが上回るが、凡そ戦闘に於いて超力が全てを決する事など殆ど無い。
鍛え抜いた五体と、極限にまで研ぎ澄まされた技で戦う無銘が、スプリング・ローズを破り、内藤四葉と紙一重の戦いを繰り広げた様に。
最大六つの超力の使用を可能とし、更には使用できる超力を変える事すら可能な我喰いは、厄介さという点では他の追随を許さない。
だが、練度や身体能力を鑑みれば、サリヤは刑務者全員の中でも低い部類に入る。第二段階に至らぬネイ・ローマンとの殺し合いが成立する程度には弱いのだ。
己の五体を駆使した肉弾戦を行うOにとって、何方が殺し易いのか、その答えはOの行動として現れていた。
移動に伴い押し出される空気だけで、人間を木端のように舞い上がらせられる程の速度で、Oがサリヤの身体を射程に捉え、左拳を繰り出す。
狙いは腹部。的が大きく動かし辛い部分であり、内部に内臓が詰まっている腹は、的とするには最適だ。
Oの巨躯から繰り出される巨拳は、向けられた者に等しく“死”を意識させる。
サリヤは僅かに動く事すら能わない。
己に向かって飛んでくる“死”に対し、何の反応も見せなかった。
否。出来なかった。
サリヤにはOの動きが見えている。だが、見えたところでどう対処すれば良いのか判らない。
対処方法が判ったとしても、あまりの速度に、脳からの指令を身体が実行に移す暇が無い。
実行できたとしても、身体能力が追い付かない。
これがネイ・ローマンであれば、Oの攻撃を躱す事が出来ただろう。
これがエルビス・エルブランデスであれば、Oを迎撃し、痛打を見舞う事が出来ただろう。
だが、サリヤには不可能だ。プレシードになったと言っても身体能力や戦闘の練度が向上する訳では無いのだから。
Oの剛打が、サリヤの腹部を捉え、拳がサリヤの腹部に埋没する。
口から大量の血を吐いたサリヤが、顔を僅かに歪めて、Oへと右手を向けた。
凄惨な過去に由来する苦痛に対する尋常では無い耐性。これを以ってOの一撃による内臓の破損を耐え、至近距離からOへとカウンターを見舞おうとする。
サリヤが瞬時に脳裏描いた勝利の道筋は、Oがサリヤへと拳打を放つ前に、既に脳内で思い描いたO自身の負け筋と一致した。
予測出来得る敗北に、無策でいる程Oは愚鈍では無く。
肉と骨が潰れる音の後に、鮮血が噴き出した。
指ごと握り潰され、原型を失ったサリヤの右手から噴き出る鮮血だ。
ローマン、メリリン、サリヤ。全員に共通するのは投射系の攻撃能力を持つという事だが、三人共に性質が異なる。
例えるならばローマンは爆薬であり、メリリンはドローン兵器の制御装置だ。
ならばサリヤは?回転式拳銃(リボルバー)に他ならない。
銃とは人を殺傷する飛び道具では無い。弾丸を発射する装置でしか無く、殺傷を担うのは撃ち放たれた弾丸だ。
徹甲弾、軟弾頭、焼夷徹甲弾、粘着榴弾…etc。弾丸の種類により、異なる効果を発揮するのが、銃という弾丸の発射装置。
取り込んだ魂が弾丸で、サリヤは銃身の役割を担う。
銃身の役割を担うサリヤ・K・レストマンは、必然か偶然か、銃と同じ弱点を有していた。
装填された弾丸がなんであれ、銃であるならば銃口を潰して仕舞えば、銃としての機能を喪失する。
極端な話、ローマンやメリリンが、達磨にされても戦闘を継続できるのに対して、サリヤは銃口である指を潰されれば、終わるのだ。
サリヤの顔に、苦痛と動揺が表れる。
腹部を穿たれ、右手を潰されて、サリヤの生殺与奪はOの手中に握られている。
未だに左手が残っているが、先ずOへと指先(銃口)を向けねばならない。そんな悠長な事をしていては、Oは容易くサリヤの左手も潰してしまうだろう。
このままでは殺される。その事を悟ったサリヤの動きは迅速だった。
手首から先が無くなった右腕を振り上げる。腕を覆うように咲き誇る無数の紫骸。
鮮やかな紫に覆われた右腕を、腹部に刺さったままのOの左腕へと全力で振り下ろす。
エルビス・エルブランデスの紫骸にジェーンの超力を纏わせて、更にルクレツィアの黒煙で強化された身体能力を以って右腕を叩きつけた。
硬いものが折れる音と、腐った肉を打ったような湿った音がした。
ジェーンの超力により強化されて、エルビスが使用していた時よりも更に毒性が強まった紫骸を受けて、Oの左腕が瞬時に腐り、潰れた音だ。
そして、身体能力を向上させるだけで、身体強度は据え置きのままのルクレツィアの黒煙を用いて行った打撃の為に、サリヤの右腕が折れた音だ。
エルビス・エルブランデスであったのならば、Oの左腕は腐った肉と血を撒き散らして千切れただろうが、サリヤでは自分の腕と引き換えに、肉を潰すだけで精一杯。
それでも、痛打を与えた事は事実。後一撃打ち込めば、骨が芯まで腐って砕け折れる。
Oの左拳から逃れるべく、再度右腕を振り上げたサリヤの顔を、Oの右手が掠めた。
サリヤの顔が弾ぜた。唇と鼻が無くなり、顔の皮膚が下の筋肉ごと引き剥がされて、潰れた眼球は赤黒い物体と化していた。散乱する白い物体は抜けた歯だ。
連続する肉体の損傷、何よりも視界の喪失に、サリヤがOから離れる事よりも肉体の回復を優先。全身から噴き出した黒煙が、サリヤの出血を止め、皮膚を再生させる。
潰れた眼球が復元し、視力を取り戻したサリヤが見たものは、大きく開いたOの口だった。
肉の食いちぎられる音が、空気を媒介する事無く、肉体を直接伝わってサリヤの耳朶に響く。
首筋を頸骨が露出する程に食い千切られ、凄まじい勢いで大量の鮮血が噴き出す。ホースで水を撒く時を思わせる勢いだった。
瞬く間に遠くなる意識の中で、ルクレツィアの超力を必死に励起。意識を失う前に止血に成功すると。
再度の肉が噛み咲かれる音。今度は骨が砕ける音が付いてきた。
左肩を噛み砕かれて、鎖骨と肩の骨が無くなった左腕が力無く垂れ下がる。
再度の再生。動く様になった左腕を用いて、Oを引き剥がそうとした矢先、左胸を食い千切られ、身体を宙へと放り上げられる。
そこからは地獄だった。食い千切られ、再生する度に別の箇所が食い千切られる。まるでピラニアの群れに襲われる犠牲者の様だった。
空中でサリヤの全身が食い千切られ、再生し、食い千切られる。
極短時間でサリヤの全身は鮮血に染まり、床に血溜まりが出来ていた。
ルクレツィアを取り込んだサリヤは、言わば無尽の肉だ。喰らい、再生する度にまた喰らわれる。サリヤの体力が尽きるか、Oの強化限界が訪れるまで、サリヤは無尽の肉として喰われ続ける。
「サリヤ!!」
メリリンの撃ち放ったパイルパンカーは、Oの僅かな身のこなしで回避される。
「ソフィアの超力を使え!!」
叫ぶのと同時、ローマンが放った特大の衝撃波が、サリヤごとOの全身を飲み込んだ。
鮮血に塗れたサリヤが20m程の放物線を描いて床に落ち、全身が黒煙に包まれる。
凡ゆる超力の無効化を可能とするソフィアの超力といえど、劣化していてはダメージを免れ得ない。それでも尚、Oに踊り喰いされ続けるよりはマシだと言えた。
「HUUUUUUUUUU……」
Oはサリヤとローマンの間に佇立していた。
全身の皮膚が焼け焦げているが、受けた損傷はその程度にしか見えない。
「随分と堪えた様だなぁ、デカブツ。雑魚ばっか狙って無いで、こっち来いや。図体はデカイが心臓は蚤か?ああ!?」
Oの損傷は一見、軽微なものとしか見えない。ローマンが挑発している間に、全身の焦げ跡は快復し、損傷を受けた事など夢幻であったかの様だが。
「随分と頑張ったな。認めざるを得ないが、テメェはローズより強い。彼奴なら、今のでくたばる事は無いが、ぶっ倒れてるだろうからなぁ」
万年もの間、凡ゆる災禍に耐え続けた巨樹の如く、床に両脚をついて立つ“被験体O”の威容。
その足元からローマンへと、二筋の炎が伸びていた。長さはおよそ7m。
ローマンの渾身の衝撃波を受けて、全力で両足を踏ん張って耐えた結果、床をOの両足が抉り、擦過熱で燃え上がったのだとは、Oとローマン以外は知る由のない事象だった。
「なぁメリリン。腹括れよ。これからが本番だ」
ネイ・ローマンは正しく理解している。サリヤがどれだけOにやられても、救助に動く者など居ないと。
サリヤが最初に力を誇示して恫喝するのでは無く、取り込んだルクレツィアの超力と、自らの知識を以って、己の齎す利益をあの場に居た全員に認識させ。
更には取り込んだエルビス・エルブランデスの存在を以って威圧すれば、ディビットといえども、主導権を握る事は不可能だった筈だ。
だが、サリヤはそうしなかった。結果として、傷を治せるというこの刑務に於ける絶対の優位を、どれだけ不信を買ったとしても、この一点だけで救助に動かざるを得ない優位を。サリヤはエネリットに徴収されてしまったのだ。
他の連中からすれば、サリヤにとってのルクレツィアがそうである様に、サリヤはエネリットのパワーソースでしか無い。
傷が治せるといったところで、先ずエネリット在りきなのだ。
長年の友人であるメリリンに対し、殺害を仄めかして威圧する様な真似をしてサリヤは、不信と反感を買ってしまっている。
助けるメリットがエネリット在りきの有様で、Oに喰われる事のデメリットは、そもそも他の刑務者達と共有していない。
利と害の双方に於いてサリヤを救援する意味は無く、心情に於いても積極的に動く理由が無いとなれば、Oを探る為の捨て石にされるのがオチだろう。
だが、己とメリリンは違うと、ネイ・ローマンは確信している。
ルーサー・キングを殺す為に、ネイ・ローマンの戦力は不可欠だ。ならばローマンが窮地に陥れば、ディビット達が動く。
メリリンの超力は脱獄を目指すエンダ達には欠かせない。ならばメリリンが窮地に陥れば、エンダ達がやって来る。
つまりは、これから先に於いて、東西両面で高みの見物を決め込んでいた連中も、本腰入れて動き出す。
「デカブツ。本番はこれからだ」
ローマンの破壊の意志が、赤黒いスパークとなってローマンを彩り、無音の振動となって周囲の大気を震わせる。
対するOは、自然体。
しかして、一度動けば迅雷の速度と暴嵐の威力を以って、敵性存在を殲滅すると。見るもの全てに悟らせる。
二人の間の空間が、曲がり、軋み、歪んでいくかの様な感覚。
ネイ・ローマン。超力犯罪の坩堝にして蠱毒というべき欧州ストリートの絶対者。
被験体“O”。大根卸呪魂と同じく、人として産まれながら人の域を逸脱した絶対者を起源とする怪物。
共に破格の存在である両者が必殺の意志を持って対峙している。
ネイ・ローマンは、東西から侵入してくるだろう七人の事を意識の端に留めてはいるが、それだけだ、当てにはしていない。
ネイ・ローマンの自負と覇気は、此処で被験体“O”という怪物を、単騎で撃破するという気概を全身に滾らせている。
放たれる渾身の衝撃波。
敵対した者達に、苦痛と、敗北と、恐怖とを植え付けた、ネイ・ローマンの“洗礼”。
凄絶な威力は防御を許さず。
破壊の及ぶ範囲があまりにも広い為に回避は出来ず。
耐えるか、何とかして凌ぐより他に無い、ネイ・ローマンの破壊衝動。
“魔女の鉄槌”ドミニカ・マリノフスキ。“カラミティ”・ジェーンの両名ですらが、一撃で敗れ去った。
受けてなお戦えた者は極僅か。それこそ、スプリング・ローズの様な、破格の強者に限られる。
大気を押し除け、床に複数の亀裂を刻んで、赤黒い衝撃波が奔る。
Oの背後で倒れたままのサリヤの事など、全く意に介していない一撃。
ソフィアとルクレツィアの超力が有るのなら、何とでもするだろうという突き放した考えと、どうせ後で殺すのだからという醒めた思考に基づいて、ネイ・ローマンは渾身の攻撃を撃ち放つ。
赤黒い衝撃波が奔る直前、Oが動いた。
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死闘が繰り広げられるエントランスホール。その東側の扉に開いた僅かな隙間から、エントランスホールを覗き込む一対の眼。
人類最高峰の隠形の技を用いて、内部を覗き込んでいるのは、只野仁成。
“ヤナオリ”への妄執を抱くOに対して、エンダの黒蠅は察知されてしまう為に、超力に依らず偵察が出来る仁成が、内部の様子を観察しているのだった。
ディビッド達が突入しているのであれば、彼らが生存している間にエンダ達も突入しなければならない。
願わくば、誰も死なずにいて欲しい。心情的な意味でも、肉盾的な意味でも。
そうして中の様子を観察した仁成は、予想外の結果を見る事となった。
「ローマン達が先陣を切った」
気配を殺して、扉の隙間からエントランスホールを覗いていた仁成の言葉は、無音の衝撃を引き起こした。
「其れは困ったな。“メカーニカ”とネイ・ローマン、彼等に今死なれるのは大いに困る」
忌々し気腕を組んで、エンダが呟く。
「“メカーニカ”はまだしも、ネイ・ローマンも?」
「そうさ。欧州のヤマオリ・カルトへの迫害や弾圧を根回ししていた“奴”が居る。“エンダ”も何度か生命を狙われたよ。だから、“エンダ”の夢を叶える為にも其奴を殺しておきたい」
「……成る程」
仁成声が重くなる。欧州のヤマオリ・カルトへの弾圧迫害を行わせられる人物。殺す為にネイ・ローマンに生きていて貰いたい。
となれば、該当するのは只一人。
相手が相手なだけに、仁成の顔は浮かないものだった。
「…嫌かい?」
「困難だとは思ったさ」
エンダの問いに、仁成は軽く返した。
つきあうと決めたのだ。相手が悪いから降りるなんて出来る筈も無い。
「内部の状況はどうなっているんだ?」
逸れた話を戻したのは、ジョニー。
戦況については、今までの仁成の様子から推察出来ていたが、推察は推察に過ぎない。仁成の口から、聞いておく必要があった。
「サリヤが喰われてた。再生できるから当分死にはしないだろうが」
「……は?…え?」
仁成の説明に、安理が頓狂な声を出した。
「助けに行こうなんて言い出さないでくれよ。あの女を助けに行って、得られる利益が私達には無いのだから」
ローマンの推測の通りだった。エンダ達にはサリヤを救う為に命を張る理由が無い。
「利益って……」
安理の全身が怒りに震える。
利害で結託する者達の中にあって、明らかに異質。
「安理。此処で君がサリヤの為に死んでも、あの女が助かるだけだ。君はもっと沢山の人を救える。あんな女の為に死ぬ必要なんて無い」
「沢山の人…ボクが?」
「君の力で、一人の無実の人間を救うことが出来る。そうすれば、きっと大勢の人が救われる。
…まぁ、其奴は、人の目を灼いて、奈落に落とす魔女でもあるが」
ジャンヌ・ストラスブールが無実であるという事など、僅か三十分の邂逅で、エンダは当に理解している。その事実を、安理を繋ぐ鎖として用いる。
無実の人間を救い出す。それが更に多くの人を救えるというのは、常人の感性を持つ安理にとって、振り払う事ができない言葉だろう。
ジャンヌが人々を惑わし焼き殺す、誘蛾の焔だと理解しながら。
「エネリットが居れば、彼女の超力で回復できるだろう?」
仁成の取りなしに、エンダは右の拳を突き出した。
「三つ。言っておくことがある」
右の人差し指が立てられる。
「先ず一つ。アレは彼奴の超力じゃ無い。殺して取り込んだものだ。彼奴が誰を殺そうが知ったことじゃ無いけど、魂を捕らえて自分の為に使うというのが気に食わない。
それに、昔馴染みすら取り込もうとした奴だ、下手に隙を見せると私や安理を取り込もうとするだろうよ」
仁成は無言。エンダの過去を鑑みれば、他者を捕らえて自分の為に使うという超力は、受け入れ難いものだろう。
それは同じ過去を持つ仁成も理解出来る。だからこそ、返せる言葉が無い。
更に言うなら、エネリットとサリヤ。二人は共に他者の存在を前提とする能力を持つが。
エネリットが生者の信頼を前提とするのに対して、サリヤは殺して取り込むという違いが有る。
エネリットとがこの場に居る誰かをパワーソースとするならば、生存が大前提だが、サリヤは殺害が前提となる。
必然として、サリヤへと隙を晒す事など、出来はし無い。
人差し指に次いで、中指が立てられた
「二つ目、彼奴は“血塗れの令嬢(エリザベート・バートリ)”────ルクレツィア・ファルネーゼを取り込んでいる。あの女は大勢の孤児や難民を遊び殺した殺人狂だ…。
逮捕された時のニュースを聞いて、“エンダ”がどれだけ心を痛めたと思う?
“エンダ”が関わった者達の縁者が、あの女が殺した人達の中に居るかもしれないってね。
サリヤが殺していなくとも、私が殺していたよ」
エンダとルクレツィア。共に服役期間は一年だが、捕縛されて直ぐにアビスへ送られたエンダと異なり、ルクレツィアは逮捕拘禁され、裁判を受けている。
つまりエンダが囚われるよりも早くに逮捕されている。
必然として、エンダがルクレツィアを知る機会は充分に有る。
怒りと殺意を漲らせる時間も、また。
最後に右の薬指が立つ。
「三つ目。エネリット達にこっそり黒蠅を付けておいて良かったよ。予想外の最悪の事態だ。エネリットは期待出来ない。ルーサー・キングが此処の中に居て、エネリット達と殺し合ってる」
「はあ!?」
エンダと関わるのを避けて、沈黙を保っていたジョニーが頓狂な声を上げた。
欧州の“裏”に詳しいジョニーは、この四人の中で最もルーサー・キングについて識っている。
だからこそ驚いたのだ。ジョニーの知識の内にあるルーサー・キングは、今この時にブラックペンタゴン内部に踏み込んでくる軽挙や蛮勇の類とは無縁の男である。
「ケンザキが飛ばしたのか!?」
「流石にいくら何でもそれは無い」
「…何故居るのかは重要じゃ無い。重要な事は、此処にルーサー・キングが居て、エネリット達は確実に、無傷でエントランスホールへ侵入出来ないという事だ」
ジョニーと仁成の何処かズレた会話を、エンダが締める。
重要なのは、ルーサー・キングが此処に居て、エネリット達がエントランスホールを突破する戦力として期待出来ないという事。
取るべき道は二つ。
キングを先に殺して、改めてOの突破を試みるか。
ローマン達と協力してOを突破。外でルーサー・キングに備えるか。
「いまはどうなってる?」
「奴が撃ちまくった砲弾が黒蠅を潰した…。もうこれ以上は分からない」
「……………」
「私はOを突破した方が良いと思う。キングは怪物の様な姿に変身した。大きくて黒い…鉄の怪物だ。今から向かっても、エネリット達が全滅しているかも知れない」
「確かに今から戻ってキングと戦ってからだと、時間が足りなくなるな」
「大将には悪いが、門番を始末して自由通行にしてやるのが、俺たちに出来る事だな」
サリヤの言葉に、仁成が同意し、仁成の言葉を受けてジョニーが頷く。
「先ず私の黒蠅を飛ばす。奴が気を取られたら、その隙に突入しよう」
「同時に僕が外に向かって走れば、奴の行動をバグらせられるかも知れ無い」
「動きが止まった場合、最初にやるのは俺か」
エンダ、仁成、ジョニー。三人は短い会話で手筈を決め役割を分担する。あとは突入のタイミングのみ。
「ボクも…やります。遠距離攻撃が出来るのは、ボクもですから」
「じゃあ俺とアンリで奴に一撃入れるとしよう」
作戦は決まった。後はタイミングを量るだけ。
~~~~~
~~~~~
Oが後方へ跳躍する。距離を取る事で、 ローマンの衝撃波が減衰する事を狙っているのか?
否、Oの取った行動はそんな生易しいものでは無い。
巨体に合わぬ、羽毛の様な身軽さで跳躍したOは、傷つき疲弊して、未だに動けないサリヤの側に着地する。
ローマンの表情が強張ったのは、Oの取る行動を読んだ為か。
気付いたサリヤが、行動はどころか思考をするよりも速く。
サリヤの背中に右の五指を打ち込んで、背骨を握りしめて、盾を掲げる様に持ち上げた。
衝撃波を放ったローマンと、Oに楯のように構えられたサリヤの視線が交差する。
刹那の間も置かずに放たれた赤黒い衝撃波が。両者の視線を遮断した。
迫る破壊の奔流に、サリヤはソフィアの超力を用いる以外の術は無く。
劣化したと言え、世界改変の影響からも“例外”だったソフィア・チェリー・ブロッサムの超力。
ネイ・ローマンの破壊の奔流に対しても、重傷のサリヤでも何とか意識を保っていられる程度に威力を減衰する。
赤黒い波濤が過ぎ去った後、ネイ・ローマンの姿は何処にも無く。
迅雷の速度で後方へと振り向いたOとサリヤを、上空から降り注いだ赤黒い破壊エネルギーが飲み込んだ。
サリヤを盾に接近するOに対し、衝撃波を放って視界を眩ませ、その隙に脚に衝撃波を纏わせて跳躍。
5mもの高さへと飛んで、そこから渾身の衝撃波を撃ち込んだのだ。
衝撃波を受けて、Oの足元の床が砕けて派手に爆煙を巻き上げ、熱を帯びた風が室内を荒れ狂う。
衝撃波の勢いで背骨が折れ砕けて、Oの手から離れサリヤの身体が床へ叩きつけられた。
ローマンが会心の笑みを浮かべた直後、床が爆散し、ローマンの上空へとO飛翔していた。
「直撃した筈なんだがなぁ!」
距離を取る事と迎撃とを兼ねた衝撃波を撃ち、瞬間的な加速をつけてOより離れる。
支えの無い空中で衝撃波の直撃を受けた巨体が揺らぎ、左の脇腹から右肩へと鉄杭が貫いた。
事前にサリヤから聞いたOの情報を元に、ドローンでは効果が無いと判断したメリリンが作成したパイルバンカーは、見事に功を奏し、Oの肉体を貫いた。
これがドローンであったのならば、Oの外皮を傷つけるに留まっただろう。
だが、この程度ではOは通用を感じることすら無い。刺さった鉄杭を無造作に引き抜くと、ローマンへと再度襲い掛かる。
繰り出される槍切先の速度は、秒速にして500m。音の域をすら超えた速度で奔る。
最早、眼で見る事さえせず、Oが迫った時点でローマンは後方へと跳躍していた。
回避された事を理解したOは、腕が伸び切る前に槍を引き戻し、再度ローマンへと跳躍する。
ローマンの耳に、Oの繰り出した鉄杭の切先が、剛体と化した空気の壁を突き破った時に生じた乾いた炸裂音が聴こえた。
「化け物が!」
王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)の予備軍達どころかスプリング・ローズにすら使わなかった罵声が、ローマンの口から出る。
ネイ・ローマンが識る、フィジカルモンスターの筆頭と言えば、刑務に従事する前はスプリング・ローズ。今では大根卸呪魂だが、Oはローズを優に超え、大根卸に匹敵する。
「あんな化け物が、複数形で存在するなんてよぉ!!!」
再度繰り出された鉄杭を、下から衝撃波を纏った拳で跳ね上げた。
異様な音と共に鉄杭は半ばから折れ、先端が宙を舞った。
「クソッタレが!!!」
鉄杭を折った所で、Oが止まる筈が無い。
当然の様にローマンへと近づいて、巨大な拳を繰り出す。
拳が押し出した空気が直撃し、未だに空中に在るローマンの姿勢が大きく蹌踉めいた。
咄嗟にローマンは衝撃波を放ち、Oの拳の威力を減衰させて、両腕で防御の構えを取り、再度渾身の衝撃波を撃ち放ちながら、何とか床に着いた足に即座に衝撃波を纏わせて後方へと跳躍する。
此処まで守りを固めながら、ローマンが感じた衝撃は大型トラックに跳ねられた時を上回るものだった。
大きく弧を描きながら、ローマンの身体が宙を舞う。
Oがクラウチングスタートの姿勢をとる。
最高速で肉体の質量全てを叩きつけて、ネイ・ローマンの五体を粉砕するつもりだと、その場にいる全員が理解した。
Oが走り出す。
見惚れる程に正しい構え(フォーム)からの全力疾走。
速度は瞬時に時速四百キロを超えて。
ネイ・ローマンへと絶対の死が迫る。
Oの周囲を黒い霞が覆い、人影が脱出口へと駆け抜けた。
~~~~
~~~~
出血と痛みとで意識が混濁し、五感が鈍くなっているのを感じる。
重力すらも感じ無い。全身に感じる浮遊感。
己の意識が夢と現の間にある事を、サリヤの冷徹な理性が理解する。
────あああああああ~~~~~~!!
閑静な図書室に場違いな声。
ソフィア・チェリー・ブロッサムも両拳で頭を圧されるルクレツィア・ファルネーゼの声だ。
苦痛に手足をバタつかせながら、何処と無く艶やかな表情を浮かべるルクレツィアに、躊躇無く力を加えていく。
嬌声を上げながら手足をバタつかせているルクレツィアと、憤怒の形相で頭を圧し続けるソフィアの姿に、醒めた思考が過ぎる。
────夢を見ている。
正確には取り込んだ弾丸の夢だ。
本庄清彦が第一席に座っていた時には起こり得なかった。あの時は記憶を共有する“家族”だったが、今では全てサリヤのパワーソースに過ぎ無い。
群体ですら無くなった我喰いは、取り込んだ全ての魂を第一席に従属させる。
超力も、記憶も、群体を構成する魂のものでは無く、サリヤの所有するものとして扱われるのだ。
だからだろうか、本庄清彦が第一席に座っていた時には起きなかった現象が生じるのは。
────ソフィア。友人として一つ忠告が有ります
────何でしょうか?ルクレツィア。
ソフィアの表情と声が僅かに硬くなる。
サリヤにとっては、嫌というほどに慣れた表情であり声だった。
化け物に話し掛けられた人間の表情だ。
理解不能の精神で、理不尽極まる暴虐を恣にする怪物と接した時、人間はあんな表情を浮かべる。
大方、自身の紫煙を盾に、ソフィアに隷属でも迫ろうというのだろう。
そう、言い聞かせる様に思考を巡らせても、
無意味で無価値で無益だ。この夢はサリヤの記憶なのだから。
これは死者の見る夢。終わってしまった物語の残響に過ぎないのだから。
真実は全て語られ、隠された秘事など存在し無い。
────フフン。
ルクレツィアが笑う。殺してやりたくなるくらいの鬱陶しいドヤ顔で。
────そんなに怒ってばかりだと、皺と白髪が増えますよ?綺麗な顔と髪をしているのです。もっと大事になさるべきです。
────……………………。
呆けた様な顔でソフィアが停止した。
────ソフィア?
たっぷり30秒以上停止状態を貫くソフィアに、ルクレツィアが呼びかけると同時。
どの口振りの凄まじさに呆然としていたソフィアが再始動。ルクレツィアの頭を抱え込むと、両腕で頭部を渾身の力で締め上げた。
フロントヘッドロックで、頭部全体を満遍なく痛めつける。
────ぬぅあああああああああ~~!!!。
先刻までとは比べ物にならない痛みに、ルクレツィアが淑女然とした佇まいをかなぐり捨てて絶叫する。
────一体!誰の!所為だと!思っているのですか!!!
────うあああああああああああああああああああ!!!
何故、貴女は、この怪物を相手にして、そんな態度が取れるの?
ルクレツィアをシバくソフィアの姿は、サリヤの心を深く静かに掻き乱す。
銀鈴と共にいた時、触る事はおろか、話し掛ける事さえ出来なかった。
少しでも関心が向くのが怖かったから。
気まぐれに殺されるのが怖かったから。
銀鈴の記憶にあるジェイの姿は、かつてのサリヤの姿だ、化け物に気に入られた不幸な人間の表情だ。
生殺与奪を握られ、意思も尊厳も踏み躙られた者の表情だ、
銀鈴とサリヤの関係とは異なり、ソフィアとルクレツィアが殺し合えば、ソフィアが確実にに勝利する。
だがしかし、ソフィアはルクレツィアを殺すどころか、逆らう事すら出来ない身だ。
二人の上下関係は銀鈴とサリヤの其れと同じく絶対で、覆し用が無い。
アビスに放り込まれる前と変わらない。ルクレツィアは奪う側であり、ソフィアが奪われる側であるという事は、此処でも変わらない筈だ。
ならば何故、こうも親しい友人の様な行為が出来るのか。
化け物相手に、友人の様に振る舞えるのか。
ルクレツィアの被虐嗜好に依るものだと、サリヤの思考は否定する。
それならば、葉月りんかと交尾紗奈が生存出来た理由が解らない。
銀鈴ならば、止めた所で聞き入れない。最悪止めた者に手を下させる、
ならばルクレツィアが、殺人という愉しみを妨げられて、平然と許した理由は何なのか?
友情?化け物にそんな感情なんて。
「ええ、ええ、そうして、みようかしら……じゃあね、ジェイ」
銀鈴の最期の言葉が否定する。
ジェイに殺されて、呪詛も憤怒も抱かずに、僅かな寂しさを抱いて死んだ化け物の言葉が。
そんなものは化け物の自己満足でしか無い。人間が化け物に抱く感情など、憎悪と恐怖の二つしか無い。
そう自分に言い聞かせてみた所で。
「あれの友人、なのですから」
ソフィアが示した友誼が否定する。
嘘でもなければ偽りでも無い、我喰いの性質は、取り込んだ魂に欺瞞や虚偽を許さない。
真実を、只々真実のみを、冷徹に非常に告げてくる。
化け物が人間と友誼を交えたという事実を。
化け物が人に情を向け、人が其れに応えるというのなら。
化け物風情が人と友誼を交えられるというのなら。
メリリンと決別し、もはや交わる事のない自分は一体何なのか。
何故、あんな化け物共が、私の喪ってしまったものを持っているのか。
奪い続けてきた癖に、奪われ続けた私は唯一得たものさえ喪くしたのに。
ああ、許せない。世界の理不尽が。運命の無情が。
嫉妬が意識を覚醒させ、羨望が五体を突き動かす。
サリヤ・K・レストマンは、束の間の夢から覚醒した。
~~~~
~~~~
Oが停止する。
時速にして400kmに到達していた速度を、瞬時に零とする脚力と肉体強度に、三人を除いて、その場に居た全員が戦慄した。
「アレの脚を砕くとは、カラミティの超力は大した威力だよ」
30mの距離を飛ばされながらも、衝撃波を用いる事で勢いを殺し切って着地を決めたのは、流石は年齢不相応な戦歴を誇るネイ・ローマンというべきか。
Oの脚が、制止時の運動エネルギーに耐え切れず、骨が砕け肉が裂けたにも関わらず、即座に再生したのを見てとったのだ。
「俺がこんな刑務に駆り出される訳だ」
ローマンの口元が、獰猛な笑みの形を作った。
王の子供達(チルドレン・オブ・ザ・キングス)の候補を複数殺害した事を始め、キングス・デイに多大な損害を与えたネイ・ローマンは、謂わばキングス・デイに対する抑止力だ。
キングス・デイ本体には届かずとも、その傘下には充分な脅威となっている。
にも関わらず、この様な殺し合いに駆り出される理由を今理解した。
こんな化け物が居て、しかも量産出来るなら。再現性の無い只々強い個などもはや不要だろう。
「アンリは撃つな。仁成に当たりかねん」
アンリを制止して、ジョニーが前に出る。
Oの速度と身体強度は予測を遥かに超えている。
夜上に回避を許さなかったと聞いて、ある程度の予測は立てていたものの、どうやら上方修正を行わなければならないらしい。
「化け物には事欠かないな。とんだホーンテッド・マンションだ」
ジョニーの異形の頭部が轟音と共に火を噴いた。
「これは…確かに」
一人も逃さず、エントランスホールに入ったものは、余さず鏖殺する。
安理の話や、ローマンとの戦いを観察して、Oが飛び道具の類を持たぬ事は把握していた。
ならば、Oに与えられた使命は、如何にして遂行されるのか。
例えば複数で突入して、バラバラに出口を目指した場合。どうやって対処するのか。
答えは単純だった。剛脚と超回復にものを言わせた速度と機動力。
百人で突入して、全員で出口を目指したとしても、あの速度と機動力の前では、誰一人辿り着けずに追いつかれて屠られる。
「キツイな…。掠っただけで死にかね無い」
Oの拳打と蹴りを肌で感じた仁成の声は、掠れていた。
人類の最高峰である仁成であっても、人類の域を超えた怪物は荷が重い。
ドン・エルグランド、エルビス・エルブランデス。Oはこの両名を以ってしなければ、秤に乗る事すら出来ない怪物だ。
「なら…何とかなるな」
仁成は怖じる事無くOと対峙する。
エルビス・エルブランデスと戦った経験が、仁成をOへと向かい合わせていた。
エルビスとO。受ければ死ぬのは何方も同じ事だ。
エルビスからも生き残れた。ならば何とかなる。
気力を奮い起こした仁成はアップライトに構えると、猛進してくるOを待ち受けた。
Oが奔る。
エンダの黒蠅を振り払い、出口へ向かって走った仁成へと。
Oの抱く“ヤマオリ”への妄執は、与えられた任務を上回る程では無い。
それは、先だって大根卸幻影と一戦交えた時、大根卸の幻影が消えるまで、エンダの黒蠅を放置していた事からも明らかだ。
まだ、抑制は効いている。
エンダの黒蠅に、体内を蝕まれていても、Oの敵愾心は、この場に居るすべてに等しく向いている。
待ち受ける仁成は、Oに触れた黒蠅が四散するのを見て背筋に冷たいものを感じた。
アレならば、夜上が言った、見えてはいるが動けなかったというのも納得が行く。
安理の言った、受ける事など出来はしないという事も。
大きく横に跳び、回避。
されどもOは即座に追随して向きを変えてくる。脚が砕け、即座に再生する。
頑強極まりない肉体と、凄まじい再生能力に物を言わせた方向転換。回避など、到底出来る筈も無く。
仁成は咄嗟にかがみ込むと、Oの足首へと肩を当てる。
Oの勢いが方向転換により減じていたとはいえ、凄まじい衝撃に仁成の食いしばった歯の間から苦鳴が漏れた。
それでも、仁成の狙いは功を奏し、Oは前のめりに宙を飛ぶ。
砲声と爆音が同時に響き、ジョニーの砲撃で勢いのついたOの巨躯が床に叩きつけられた。
「退がってろ!」
追撃として放たれる衝撃波。赤黒い破壊衝動がOの総身を呑み込んだ。
赤黒い破壊の奔流を突き破って出現したOが、漸く立ち上がった仁成へと巨拳を振るう。
再度仁成はしゃがみ込む事で回避。
Oの人の極峰に有る技術と、人の域を超えた速度と威力を以って繰り出される拳打といえど、所詮は人体と同じ構造が繰り出すもの。
だからこそ、人の攻撃を回避するのと同じやり方で躱すことが出来る。
ましてやOは3mの巨躯。しゃがんでしまえば、身長差も有ってOの拳は仁成に届か無い。
しゃがみ込んだ仁成は、素早く床を転がって、Oの蹴りを回避しながら距離を取る。
Oが仁成への追撃で片足立になった隙を見逃す事なく、再度爆炎がOの背中に咲き、殆ど同時に衝撃波がOを呑み込んだ。
巨躯が疾駆する。標的をジョニーへと変更し、Oが奔る。
30mは有った距離を、秒にも満たぬ時間でゼロとして、Oがジョニーへと衝突する寸前───前方へと派手にスッ飛んだ。
予め安理に床を凍らせておかせた事が功を奏し、Oは自身の猛進の勢いそのままに前方へと宙を舞う。
「走れ!仁成!!」
ジョニーに応じて仁成が外へと向かって走り出す。
Oの役割はブラックペンタゴン内に刑務者達を閉じ込める事。
どんな状況下であったとしても、Oの最優先事項は刑務者の逃亡阻止。
つまりは、外へ向かうという行動をするだけで、Oの行動を誘導する事が出来るのだ。
駆け出した仁成へと、立ち上がったOが迫る。
繰り出される巨拳は、先刻の様な回避を許さぬとばかりに、地を這う様な低い軌跡から繰り出されるアッパーだ。
しゃがめば拳に当たりに行くのと変わらない。転がれば、踏み潰される。
仁成は後ろに跳びながら掌打を繰り出す。
ストレートであれば、後ろに下がって躱すなど、到底出来ない。
アッパーカットは拳の描く軌跡の都合上、届く距離が短い、だからこそ出来る回避方法で、更には反撃も行える。
眼前を凄まじい風圧を巻きおこしながら上昇していく拳に、仁成はエルビス・エルブランデスを思い起こす。
あの戦王の振るう絶死の戦鎚に、Oの拳は比肩する。
背筋に冷たいものを走らせながら、仁成の放った掌打はOの肘へ直撃した。
仁成の掌に、高密度の鋼を殴った様な感触げ伝わってくる。
拳を撃ち込めば指が折れかね無い。それ程の肉体強度。
肘を圧し折るつもりだったが、そんな事は不可能だと一触で理解できる。
Oの右脚が動く。動きとしては下段回し蹴りではあるが、両者の身長差の為に仁成にしてみればミドルキックと同じ感覚だ。
仁成はガードを固めながら右側へと跳ぶ。エルビスの拳に匹敵する衝撃が仁成の全身の骨を震撼させた。
床と水平に飛ぶ仁成の身体を、黒蠅が覆い、運動エネルギーを殺す。
Oが跳躍する。
一飛びで5mも右に動いたのは、ネイティブを基準としても規格外の身体能力だ。
何を察したのか、ジョニーが安理を抱えて、大きく横っ飛びに跳ぶ。
目に見えない弾丸が、安理の居た位置を過ぎ去った。
意識を取り戻したサリヤの放った不可視の魔弾だ。
「この場で安理を取り込む気か?」
エンダの声は冷たい。
自分や安理を取り込もうとしかねないと言った矢先に、これだ。
過失にしろ意図的なものにせよ、サリヤの放つ確殺の魔弾に当たれば、取り込まれてパワーソースにされる。
何よりも、只でさえ射撃主体の戦闘をするサリヤは共闘に向かない。殺傷力過剰なジェーン・マッドハッターを取り込んだ今では尚更だ。
舌打ちしたローマンが、衝撃波を放ち、着地したばかりのOに直撃させる。
一トンの巨体が宙を飛び、再度着地するの寸前に、爆炎が顔面を覆い、氷の散弾が表皮で砕けた。
炎と氷の粉が舞う中を、Oが動き出す。再度横に跳ぶと、ローマンへと走り出す。
「光栄な事だ。この中でオレが一番だって認めるのか」
放たれる衝撃波。赤黒い奔流がOの手前の床を穿つ。できた穴をOが飛び越え、すかさず浴びせられる本命の一撃。
両腕で顔を覆ったOが、衝撃がの勢いを自らの運動エネルギーと重量で強引に突破。ローマンに接近するも、仁成とのやり取りを見ていたローマンはしゃがみ込む事で回避する。
「アホが!」
目標を見失ったOの巨体が、下からの衝撃波で上方へと打ち上げられる。
其処へ飛来するメリリンの放った鉄杭と、ジョニーが左腕に取り込んだ自動小銃の弾丸。
二本の鉄杭に腹と胸を穿たれ、ジョニーの放った“永遠”を帯びた銃弾がOの身体に五つの貫通痕を付けた。
「どうなってるの?」
見上げるサリヤの声は硬い。あの堅牢極まるOの肉体を、銃弾如きが穿つどころか貫くとは。
サリヤは知らぬ。ジョニーの放った銃弾が“永遠”を帯びている事を。
“永遠”とは不変にして不壊。壊れず変わらず在り続けるもの。
つまりは、如何なる矛でも貫けない盾と同じ。そして、決して壊れないという事は、如何なる盾に激突しても壊れる事無く貫く矛でもあるという事。
「撃てよ!アホが!!」
ローマンの怒声が飛ぶ。
1秒の逡巡が集団を壊滅させる抗争の現場で陣頭指揮を執ること数多く。秒単位での判断を要求され続け、失敗すれば死を招く殺し合いの場数を無数に潜った男である。
火急に際しては必然的に声は荒く、口調もキツく、指示は短くなる。
サリヤに殺し合いの経験が絶対的に不足しているなどという事実は関係無い。
Oは強敵だ。此処にいる全員が死力を尽くさないと殺される。
だからこそ、此処にいる全員に死力を尽くさせる。
ローマンの怒声を浴びて、サリヤが五指をOへと向けたその時には、既にOが鉄杭を引き抜いて、サリヤとローマン目掛けて投げつけていた。
ローマンが衝撃波で自身に向かった鉄杭を粉砕し、拳に赤黒い破壊の力を収束させる。
Oの足を床に着けさせてはならない。スプリング・ローズを上回るOの速度は、スプリング・ローズと複数回殺し合ったローマンですら、そうは捕捉できるものでは無い。
機動力を封じる。そうしなければ、まともにダメージを与える事も能わない。
渾身の衝撃波がOを捉え、吹き飛ばす。
普通乗用車程度であれば、容易く宙を舞わせるネイ・ローマンの超力。巨躯を誇るOといえど、1トンという重さは乗用車と変わらない。
吹っ飛んだOは、空中で体勢を整えて着地。ローマンの放った追撃の衝撃波に対し、身を屈めて防御。耐え切ると即座に、ローマン目掛けて走り出す。
敵が複数いる時は、まず弱い者から潰して数を減らすというのがセオリー那が、Oにはその様な常識は適用されない。
Oの頑強さは、生半可な攻撃を寄せ付けない。
Oの再生能力は、多少の傷なら全く行動に支障を来さない。
必然として、弱者では足止めどころか、ささやかな障害にすら成り得ない。
Oに対して“敵”と成り得る為には、相応の水準に達していなければならないのだ。
そしてこの場でOの“敵”と成り得るのは、ローマン、ジョニー、サリヤの三人。
メリリンとエンダは再生能力で、仁成と安理は肉体の強度で無力化出来る。
そして三人の内、最も攻撃範囲が広く、対処のし難いローマンを狙うのは、至極当然の流れだった。
接触すればそれだけで死ぬ速度で迫るOへと、ローマンは渾身の衝撃波を放つ。
己が質量と頑強さで突破したOに対して、衝撃波により速度が減じた事に乗じて、大きく横へと跳ぶ。
Oの突撃を空振りに終わらせたものの、ローマンの至近で停止したOが巨拳を放つ。
ローマンは身を屈めて回避、頭上を過ぎる拳の起こす風圧に肝を冷やしながら、追撃の前蹴りも衝撃波を足に纏い、渾身の力で後方へ下がる事で回避。
更なる追撃。蹴り足で踏み込んで、ローマンの胸へと渾身の正拳突き。
金属の塊同士が激突したかの様な音を残し、防御に使った左の義手がひしゃげたローマンが床と水平に飛んでいく。
咄嗟に衝撃波を放つ事で、拳打の威力を減衰させなければ、義手ごと心肺を潰されて致命傷を負っただろう。
ローマンに痛打を加えたOは、次の標的をサリヤへと定める。
安理とメリリンの攻撃を、高速で駆けることで回避。エンダの妨害も速度と耐久力で強引に突破して、左右に乱れ飛びながらサリヤへと走る。
高速で左右に乱れ飛びながら接近するOに対して、サリヤは狙いをつける事が能わない。
単純に速過ぎるというのもあるが、銃というものは、射手から見て左右に動く標的に狙いをつけづらいのだ。
ジョニーも、同じ様に狙いをつけられ無い。二人からの援護も望め無い。
ましてや現在のサリヤは右手が無い。左の五指でしか撃つことが出来ないのだ。
それでも、サリヤの冷静さは失われ無い。
左右に乱れ飛ぶOは確かに捉え難いが、直進してくるのとは異なり、時間に余裕が有る。
左の五指を拡げてサリヤは間合いを見極める。
引きつけてからの五方向への射撃。
これならば、左右いずれに動いても、必中を期せる。
Oが7mまで近づいたタイミングで発射。
床と水平に飛ぶ五つの魔弾。一つでも当たれば、それだけで痛撃となる。
再生する時間など与えない。撃って撃って撃ち続けて削り殺す、
勝利を確信したサリヤの視界から、Oの姿が唐突に消えた。
愕然としたサリヤは、突如として左肩に巨大な重さを感じ、それは極小の間に激痛へと変わった。
跳躍してサリヤの魔弾を回避したOが、サリヤの頭上を過ぎざまに、左肩を蹴り砕いたのだ。
骨が砕け、肉が千切れて、鮮血が噴き出す。
辛うじて皮一枚で繋がった左肩から退寮に出血して倒れたサリヤを他所に、Oはジョニーへと駆け出した。
Oの眼前を黒蠅が覆い、周囲の床ごと足が白く染まるが、Oは意にも介せずに前進。
「今までは…探りか!?」
ジョニーの叫びは、仁成の見解と一致していた。
今までの攻防で、此方の行動を把握していたのだろう。
自らの身を呈して、敵の行動パターンを把握する。理外の耐久力と再生能力あってこそのものだ。
理性ある怪物であるOを仕留めるには、削り殺すなどという方法では、対処されて死ぬだけだ。
再度、仁成が出口へと走り出す。
反応したOが方向を転換する隙に、ジョニーがOへと接近。背後から右腕に取り込んだ鉈を首筋へと叩き込む。
不壊の刃が、Oの皮膚を裂き肉を斬り裂いて骨を断つ。
Oの左の裏拳を、身を屈めて回避したジョニーが、更に左うでのハンドガンを背骨目掛けて発砲。Oの背骨を撃ち砕いた。
「GAAAAAAAA!!!」
咆哮したOが、振り返りながら左拳を繰り出す。ジョニーはスレッジハンマーで受け止めたが、勢いに押されて4mも後ろへと押し下げられた。
「グオ…」
全身を走る凄まじい衝撃に、ジョニーの口から苦鳴が漏れた。生身だったならば、全身の骨が砕けていただろう。それ程の威力だった。
ジョニーを砕き潰すべく。踏み込んだOが、組んだ両手を叩きつけてくる。
鉄の騎士たるジョニーですらが、一撃をまともに受ければ戦闘不能となる。そう確信させる猛撃は、半ばで力を失い、ジョニーに受け止められた。
「今だ!」
Oの膝裏に体重の乗った渾身の蹴りを入れて、Oの体勢を崩した仁成が絶叫した。
ジョニーが右腕の脇差を、Oの心臓へと突き立てた。
だが、その程度で易々と殺れるOでは無い。
左腕で脇差を握り締めて、切先が心臓へと到達する事を阻止。刃を止められたジョニーが次の行動へ移るよりも早く、空中へとジョニーを放り投げると、拳を振り上げた。
金属がひしゃげる甲高い音と共に、ジョニーの身体が上昇する。
ジョニーを打ち上げたOは高速旋回。背後への仁成へと裏拳を放ち、、振り向きながら背後の仁成へと裏拳を放つ。
屈んで回避した仁成へ、回転の勢いを利用した廻し蹴り。
仁成は更に身を低くすると、頭上を過ぎ去ったOの脚を、下方から掬い上げた。
転倒してもおかしくは無いこの一手を、Oは優れた体幹と平衡感覚で耐える。
並の使い手ならば、無益な行為に終わったと見えただろうが、人類の極峰たる仁成の眼は誤魔化せ無い。
自らの廻し蹴りの勢いに、仁成の力が加わった事で、Oは姿勢を崩さぬ様にする為に、相応の集中と認識を割いていた。
それが、一流レベルですら見破れ無い、極微の隙となって現れる。
仁成の渾身のローキックが、Oの軸足の膝裏を刈り、Oを転倒させた。
仰向けに倒れたOの顔面を、炎が覆う。
上空からの砲撃を見舞ったジョニーが、再度脇差でOの心臓を狙う。
「オオオオオッッ!!」
ジョニーを援護するべく、仁成が全力でOのコメカミにトゥーキックを叩き込む。
アレだけの猛攻を受けても、怯みもしなかった怪物の晒した隙だ。此処で仕留めなければ、次の好機は二度と訪れないかもしれないのだから。
岩を蹴った様な感覚と、確かに蹴り抜いたという手応えが、同時に爪先から伝わって来る。
足首を万力で締め付けられる様な感覚に、仁成の全身から冷たい汗が噴き出した。
蹴り足を掴まれた事を悟った仁成が行動に移るよりも早く、黒蠅がOの頭部七穴を覆い、身体の内部に潜り込もうとする。
ジョニーもまた、Oへとスナイパーライフル弾を、三発放っていた。
Oの顔面に三つの穴が空き、エンダの黒蠅が体内に潜り込む。
先に入れた黒蠅は、Oの再生能力前に封じられている。ならば、新たに追加投入して、再生能力を超えれば良い。
実に単純な発想で、エンダの放った黒蠅は、Oの口から纏めて吐きだされた。
「仁成!!」
エンダが叫ぶのと、Oの顔面にに複数の氷塊が直撃し、鉄杭が胸を穿ったのが同時。
それでも緩まぬOの手は、黒蠅を吐き出す為に開けた口に炸裂したグレネードランチャーにより緩んだ。
砕けた歯と、鮮血とが、開いた口から四散する。
死に物狂いで脚を引き抜いた仁成の顔からは、血の気が引いていた。
あと少し遅ければ、足首を握り潰されていたと、誰よりも仁成が理解している。
「グガアアアアッッ!!!」
高密度の金属塊同士が激突したかの様な音と、ジョニーの悲鳴が同時に響いた。
仁成を救う為に攻撃の機を逸したジョニーが、振り上げられたOの脚に蹴り飛ばされて、斜めに飛んで床に激突する。
「……コレは」
仁成の声は、苦鳴と呼ぶのが相応しかった。
ローマンとジョニーが極僅かな間に戦闘不能となり、サリヤは肩の出血こそ止まってはいるが、蓄積したダメージで動け無い。
もはや、Oを攻略する手段が無い。
「…………」
仁成は無言で構える。
兎に角時間を稼ぐ。時間を稼いでローマンとジョニーとサリヤの回復を待つ。
決死の覚悟で、Oへと向かい合う仁成だが、Oにとっては仁成の覚悟など、何の関係も無い事柄である。
仁成を放置して、ジョニーへと奔る。
ローマン、ジョニー、サリヤを殺せば、後は狩られるだけの有象無象の群れに過ぎ無い。
最も手近なジョニーへと走ったOは、両脚の間へと差し込まれた鉄杭に引っ掛かり、盛大にすっ転んだ。
「助かった…メカーニカ」
ジョニーがフラつきながら立ち上がる。
メリリンの放った鉄杭で、Oが転倒しなければ、今頃トドメを刺されていた事だろう。
「俺も礼を言うぜ…メリリン」
ローマンが漸く立ち上がる。
左腕の義手は砕けてへし折れ、辛うじて繋がっている有様だった。
「義手(コイツ)のお陰で……助かった」
ローマン、ジョニー、共に戦線復帰。だが、両者まともな戦闘能力が残ってい無いのは明白だった。
~~~~
~~~~
視界の端で、見慣れた顔が、光の無い虚な瞳を空へと向けて倒れている。
────上手くいって良かったわね。サリヤ。
銀の怪物(ビューティフル・ピープル)の声が聴こえる。
オキヅカイ、アリガトウゴザイマス。オジョウサマ。
自身の喉から出ているとは思えない虚な声。
失敗していても、同じ調子で嘆いて、次の瞬間には忘却の彼方だろう。
化け物の鳴き声を聞き流して、見慣れた顔を見下ろして、生命が有る不幸を呪う。
いきなり視界が半分になって、右眼を抉り出されたと知ったのは、右の眼窩に激痛が生じてから。
────嗚呼、これをあげないと。
右目に紫水晶の色をした瞳が嵌め込まれる。
────これで、その子の事は、決して忘れ無いでしょう?
とても良い事をしたと言いたげに、朗らかに笑う怪物(ビューティフル・ピープル)へと、冷え切った心と乾いた声で、返事をする。
アリガトウゴザイマス。オジョウサマ。
見慣れた顔が、虚な瞳で、私の事を見上げていた。
場面が変わる。
憂いを浮かべて語り掛けてくる男の顔は、見覚えはないが記憶に有る。
我喰いの最大の難点が、今此処に露呈している事を認識する。
この超力は、本庄清彦の様な博愛主義者か、銀鈴の様な平等主義者で無ければ扱え無い。
わたしには、到底耐えられない能力だ。
慈愛と、哀しみと、悲痛とを浮かべながら、人としての在り方を説く男の姿に、反吐が出るほどの嫌悪と、涙が出る程の哀しみを覚えた。
何故、私には痛みしか与えられなかったのか。
何故、この女には、痛み以外の全てが与えられたのか。
我喰いは、取り込んだ魂の持つ記憶を、強制的に共有させる。
強引に理解させて来る。
だが、理解したからといって、それが何になる?
シエンシアに対する憎悪。遥か過去に冷えた溶岩の様に固まったそれは、サリヤの精神に巌の様に在り続ける、サリヤの人格を構成する一部分。サリヤの精神を波立たせる事など永遠に無い。その筈だった。
その巌に罅を入れた恥知らず。
巌の割れた部分から、激情が噴出する。
ジェーンの記憶に有る、ドミニカ・マリノフスキが一蹴された記憶が、押さえなければならないと警告するが、一度生じた激情はそう簡単に消えはしない。
ネイ・ローマンとの決着を控えた現状。最も避けなければならないものが、胸中に沸々と湧き起こってくる。
本庄清彦を失った痛手が、最悪の形でやってきた。
誰をも家族とする本庄清彦であれば、この様な感情は抱く事は無かった。
反吐が出る様な相手でも、家族として受け入れられた。
サリヤには、それが出来ない。
家族に対して何の感情も抱いていないサリヤには、取り込んだ魂を超力のソースとすると事しか出来無い。
何処までも、何処までも、シエンシアはサリヤの人生に昏い陰を落とし続ける。
この世界からシエンシアを完全に消し去っても、サリヤの精神に在るシエンシアは消えはしない。
シエンシアの刻んだ傷が、銀鈴の残した毒が、サリヤの心を苛み続ける。
~~~~
~~~~
ダメだ。
意識を取り戻して最初に思ったのが、これだった。
ローマンとジョニーが満身創痍。仁成以下はまだ継戦できるが、O相手には時間稼ぎにしかならない。
此処が潮時だろう。被験体との戦闘経験を積むという目的は達した。やはり被験体は強過ぎるという結論と共に。
アレだけ被弾しても、耐久力と再生能力とで無傷に済ませ、此方は只の一撃を受けただけで戦闘不能に追い込まれる。
こんな化け物を殺せるとすれば、それこそ銀鈴か大根卸かキングくらいのものだろう。
目的の都合上、被験体と一対一で交戦する事も考え、肉盾と火力が期待出来るこの状況を利用したつもりが、こうまで無惨な結果に終わるとは思わなかった。
ケンザキの超力を考えれば、いつあの様な怪物が送り込まれるか分からないというのに。
だが、愚痴を言っていても始まらない。切りたくは無かったが、此処で切るより他に無い。
弾倉の中で、拳を振りかざして凍結されているエルビスを思う。
アンデスの山脈が、迫って来るかとすら思えたあの威容。
外からジェーン・マッドハッターが迫り、内からはエルビスが迫る。
本庄清彦を弾丸としてジェーンを殺し、サリヤが第一席に座る事で、全員を凍結するしか無かった。あの窮地。
本庄清彦の認識歪曲すら通じない、ただ一人の女とその子に捧げた、愛。
俺の家族はダリアとダリアの子だけだと、第一席を獲りに来た愛に生き、愛に殉じた男。
その在り方に、憧憬すら覚えてしまう。
此処までの愛を、自身の子では無いと知りながら、捧げられる男の姿に、実の娘に痛みと絶望しか与えなかった母を思い、反吐が出そうになった。
これから私は非道い事をするという自覚が有る。けれども、罪悪感が全く存在しない。
只々、己が罪を淡々と認識しながら、弾倉の弾丸を射出する。
弾丸の名は、エルビス・エルブランデス。
災厄(デザートストレ)の異名を持つ、大根卸呪魂に比肩する強者。
この男を、Oへと放つ。弾丸として限界以上に強化されたエルビスであれば、Oにも引けを取らないだろう。
エルビスをOへとぶつけて、その隙に外へと脱出する。
ローマン達も出来れば一緒に出ることが望ましい。外で誰かが待ち受けているだろうから。けrども、この状態では、それすらも能わないだろう。
メリリンを弾丸にして、一人で逃げるしか無いかもしれない。
ローマンとメリリンを置き去りにする事には心が痛むけれど、それでも、もう、私は、引き返せない。
────自己の行為を、後から正当化に励む様なら、最初からしなければ良いのです。
煩い。黙れ。
まだこの超力は必要だ。そしてこの弾丸ではOを止められない。
私はOへと照準を定めて────引き金を引いた。
~~~~
~~~~
立ち上がったローマンとジョニーは半死半生。
それでも戦う意志が些かも減じていないのは称賛に値するが、戦意が幾らあっても、この窮状は如何ともし難い。
仁成は打開策を考える。ジョニーもローマンも同じだろう。
考えたところで、結論は同じ。
優勢に見えた戦況が、ほんの僅かな時間で逆転された。
戦線は瞬時に崩壊し、Oは僅かな傷も負った様には見えない。
状況は絶望の一言。打開策など、何も無い。
此処で死ぬか。奥へと引っ込んで首輪を爆破されるか。何方かしか選べる道が無い。
一か八かで外へと逃げるという手も通用し無い。Oの機動力ならば、全員が万全の状態でも、全員を撲殺できる。
絶死の状況下でも、せめてエンダだけでも逃すべく、仁成は必死の決意で構える。
掴まれた足首と、全力で二度の蹴撃を見舞った足先が痛むが、そんな事は言っていられ無い。
ローマンもまた、メリリンだけでも逃がす為に、死力を振り絞ろうとして
その時、紫の風が疾った。
風の名はエルビス・エルブランデス。今は亡きネオシアン・ボクスの絶対王者。
放たれた銃弾の様にOへと突き進んだエルビスは、突如として静止した。
否、止められた、
「何だ!?」
「漢女?」
「大根卸さん!?」
仁成、ローマン、安理が揃って間の抜けた声を出し。
「何で…?未練が残るって…どうして?」
サリヤが戸惑いの声を上げる。
全員の眼にハッキリと見えた。紫色に輝くエルビスと、その眼前に立つ大根卸呪魂の姿を。
誰もが────Oですらが動けない中で、大根卸が動く。
拳を繰り出し、肘を撃ち込み、膝を入れ、蹴りを放つ。
エルビスも応じて動く。
大根卸の拳をパリィし、上段蹴りをダッキングで躱し、中断蹴りをブロックし、下段蹴りをスウェーで避ける。
瞬時に放たれる反撃の拳打は、雨霰という域を超えて、拳の嵐。
ストレート、フック、アッパー。
芸術の域に達した流麗なコンビネーションが、上半身の急所全てに乱れ飛ぶ。
肝臓、心臓、胃、臍、膀胱、眉間、人中、顎、こめかみ、喉。
ネイティブでさえ、身体の何処に当ろうと、当たれば決着となる拳が、嵐の様に全身の急所へと襲い掛かる。
一流の格闘家程度であるならば、ダース単位で生命が奪えるラッシュを悉く捌き躱しての蹴るのは、流石は大根卸呪魂と言ったところか。
“災厄”と“英雄”、二個の超絶の怪物同士の死闘は、白熱していく。
「成る程なぁ」
拳風轟く死闘を観ながら、ネイ・ローマンは笑っていた。
ああ、そうかと、確かに“あの時”チャンピオンに会っても未練しか残らない。
漢女が求めるのは闘争だ。鎖に繋がれ闘えないチャンピオンになど、合ったところで意味が無い。
ならば、どうするか?答えは単純。待てば良い。待って、サリヤがエルビスを弾丸にする時を待てば良い。
だからこそ、アクセサリに入ったのだ。隷属を強いられる弾倉の中では無く。
「ハハハッ」
ネイ・ローマンは心の底から納得し、心の底から感心し、心の底から笑った。
何処までも我欲のままに生きて、我道を往く女だったが、死んでもそれは変わらない。
こんな生き方を死んだ後まで貫き通せる女ならば、魂も人並外れて強いだろう。
「エルビス…」
仁成は解せなかった。
エルビスは確かに強かった。だが、それは、ダリアへの愛あってこそだ。
死んで取り込まれた時点で、ダリアとの再会は望めない。
ましてや、もうエルビスは消え去る定めだという事は、仁成にも理解出来る。
だからこそ、解せなかった。
もう二度とダリアとの再会が叶わぬ身で、何故此処まで戦えるのかいう事が。
思案に耽るうちに、ふと気づく。
エルビスの動きが、良く見える。
どんな動きをするのか、大根卸の攻撃にどう対処し、どう反撃するか。一挙手一投足が全て見える。
目が慣れたというものなどでは無い。エルビスが仁成に見えるように動いているのだ。
「伝えて欲しいのか?」
仁成は悟った。エルビスの遺志を。
ダリアに、ダリアの子に。エルビス・エルブランデスが無敗の王者であった事を、伝えて欲しいと。
エルビスがダリアに残せるものは、子に渡せるものは、常勝不敗の伝説だけでしか無いのだから。
仁成の頬を、熱いものが伝っていた。
「ああ…分かったよエルビス。必ず伝える」
生命のみならず、生命の残滓を燃やし尽くす男に、仁成は固く誓った。
~~~~
~~~~
サリヤ・K・レストマンは、ここに来て選択を迫られる。
エルビスが不発に終わった以上。Oをどうにか突破する手段は、もはや一つ。
己を弾丸として、Oの身体を奪うのみ。
試した事は無いが、生きている人間に使えば、弾丸とした己の魂と、標的の肉体に宿る魂が衝突して、己の魂が破損するだろうと推測している。
つまり、この手段が使えるとしたら、死んだ直後で損傷の無い綺麗な死体か、魂の収まっていない肉体のみ。
Oは魂無き肉体であり、条件が満たされている。
指先をOへと向ける。不安も恐れも無い。これで二度目なのだから。
────私から出来たモノを、私が貰って何が悪い。
~~~~
「蒼光君がいる前では、言えませんでしたが、ソフィアは彼処で死んだのは幸運でした」
しみじみと述懐する乃木平に、ヴァイスマンが怪訝な眼差しを向けた。
「と、仰られますと?」
「無効化超力を持つ者を捕食した時の結果を観察する為のサンプルが、ソフィアだったのですよ」
「成る程。ではOが執拗にサリヤ狙ったのは」
「ソフィアを取り込んでいる為、ですね。劣化していましたが、サンプルにはなってくれました。結果は……倍率は下がりますが、強化は可能と出ましたね。
これで彼女から取れるデータは残り一つだけです」
「では、そろそろ…」
「被験体がそれぞれ獲得した知識や経験を、“遣り取り”出来るかどうか。試してみましょう」
人には出来ない我喰いの使用法。弾丸を介しての情報の遣り取り。
これが可能となれば、被験体を運用する上で大きな効率化が見込める。
~~~~
視界の端で、見慣れた顔が虚な瞳をサリヤへ向けている。片方だけ。
弾丸が装填される。
────ねぇ、サリヤ。
撃鉄を上げる。
────貴女の超力は、ニンゲンの魂を取り込んで、弾丸にするんでしょう?
狙いを付ける。
────だったら、貴女の魂は、弾丸に出来るかしら?
弾丸の名は、サリヤ・K・レストマン。
────この子で試してみて。
引き金を引く。
────大丈夫よ。サリヤなら、きっと出来るわ。
撃鉄が落ちる。
この怪物(ビューティフル・ピープル)に逆らえる者など、この島には存在し無い。
只々サリヤの超力を試す為に殺された友人へと、震える指先を向ける。
どうなるのかは、分からない。
失敗すれば、死ぬ。そう思えば、気分が楽になった。
これで終われるかもしれない。そんな希望と共に撃ち放った弾丸は────。
撃針が弾底を叩き、弾丸が発射される。
その時、サリヤは見た。
Oの肉体に、先程までは無かった円筒が。
理解した事実に、思考と感情が塗り潰される。
このブラックペンタゴンがシステムCそのものではないかという推測は立てていた。
アビスが、遺伝情報と超力サンプルを取る為に受刑者をプールしている場所だと推測していた。
被験体Oに、超力が追加されるのではないかという推測もしていた。
それらが正しかった事が、今、証明された。
アレは我喰いの弾倉だと。
この段階で、よりにもよって、自分の超力が追加されたのだと。
止め様にも、どうしようも無い。
落ちた撃鉄を戻す事は、出来はしない。
撃鉄に撃たれ、銃弾が飛翔する。
銃弾の名は、サリヤ・K・レストマン。
魂無きOの弾倉へと、サリヤの魂は飛翔する。
何故、このタイミングで。
何故、こうまで上手くいかない。
弾丸が発射される。
上手くいか無いのは当然である。
ソフィア・チェリー・ブロッサムの魂を捕らえている事から、容易に推測できた事実。
『魂に作用する超力は、無効化能力を突破する』。
ソフィアの首輪もまた、他の刑務者達と変わら無いのだから。
全ては最初から、ヴァイスマンに把握されていた。
だからこそ、このタイミングで、超力が追加された。
認められない。認めるわけにはいかない事実。
この事実を認めてしまえば、本庄清彦を殺した意味が無くなってしまう。
だから目を逸らし続けた。
その結果が、今此処に。
────私は、一体、何の為に。
短い飛翔の間に、己が生を省みる。
怯え、恐れも、苦しみ。安息と平穏を友人諸共放り捨て。
愛した男を二度殺し。
────一体。何故、生まれてしまったのか。
間違いからは、間違いしか生まれない。
ならば間違い(シエンシア)から生まれた以上、私もまた────。
答えは出ない。
弾丸が弾倉へと収まる。
サリヤ・K・レストマンという個が潰され、銃弾へと加工される。
そこにあるものは、押し潰され、造り替えられていく苦痛と恐怖。
数多の人間を弾丸としてきたサリヤが、弾丸へと変えられていく。
そうして
サリヤ・K・レストマンは
シエンシアに、銀鈴に、脅かされ弄ばれ苛まれた女は。
復讐という全てを投げ打ってでも叶えたかった願いも叶わず。
最後はアビスに利用され尽くして。
弾丸となった
【サリヤ・K・レストマン 死亡】
~~~~
~~~~
サリヤが弾丸となるとほぼ同じくして、エルビスと大根卸の闘いも決着していた。
地に臥したのは大根卸。立っているのはエルビス・エルブランデス。
仁成、ローマン、ジョニーには理解出来ていたが、本来のエルビスの実力は大根卸には届か無い。
だが、エルビスは届かぬ実力を愛で埋めて、大根卸呪魂を撃ち倒したのだ。
満足そうな顔で消えて行く大根卸呪魂と、ローマンと仁成へ交互に視線を向けて消えて行くエルビス・エルブランデス。
二人を見送って、ローマンと仁成は、Oと対峙する。
Oが動かなかったのは、大根卸呪魂とエルビス・エルブランデスという偉大な闘士に敬意を表したのかも知れなかった。
「なんつ~か。今なら、負ける気がしねぇ」
何処までも不羈奔放な漢女の姿に、ネイ・ローマンは何かを掴んだ気がしていた。
もう少しで、己が劇的に変化するという、確信めいた予感が有った。
ネイ・ローマンは自身の状況を改めて認識した。
義手は砕けて使用不能。満身創痍である上にサリヤが死んで、回復も見込めない。
「だからどうした」
『破壊の衝動(Sons of Liberty)』 。自由の子供達の名を冠する己が超力。
こんな御大層な名を冠していながら、自由というものを分かっていなかった。
いや、自由であるという事を理解していなかったと言うべきか。
「ありがとよ。アンタは最高に良い女だったよ…。メリリンには劣るが」
ローマンの全身を赤黒い光が包む。周囲を身体を包む光と同じi色のスパークが走り、弾かれた空気が乾いた炸裂音を立てる。
「今なら分かる。絶望なんぞじゃ無かったって事だ」
サリヤが間違っていた訳では無い。
絶望しか与えなかった、シエンシア間違っていた。
絶望だけで良いのなら、欧州はプレシードのバーゲンセールなっている筈だ。
「何を以て、絶望を越えるかだ」
肝心なものは、絶望では無く。
絶望を越える、意志の力。
逸脱者という者が、何処までも前だけを見て進み続ける様に。
前に出ようとする意志。絶望すら振り切る心の力。
それこそが、第二段階へと至る道。
「ああ…間違っちゃいねえよ。サリヤ」
俺はルーサー・キングには勝てない。
キングがプレシードだというのならば、前へと突き進む意志に、明確な差異が存在する。
何処までも真っ直ぐに、囚われる事なく突き進むのが、ネイ・ローマンの超力、
であるならば、前へと進む心が劣る以上。己はルーサー・キングに及ば無い。
「漢女、エルビス、サリヤ……。有難うよ」
漢女が示した自由の在り方。
エルビスが示した至上の愛。
サリヤが教えた奴との差異。
その全てを呑み込み受け入れて、ネイ・ローマン前へと進む。
この一撃が、ネイ・ローマンの新たなる生の産声となる。
「くたばれや。化け物」
生涯を振り返っても、最大最強と断言出来る衝撃波が放たれた。
Oもまた、ローマンの衝撃波に応じる。
指先に光が灯る。
放たれる弾丸の名は、サリヤ・K・レストマン。
弾丸と化して飛来したサリヤを取り込んだ時に、サリヤの全てを理解した。Oに我喰いを与えて行った実験は成功に終わったということだ。
ネイ・ローマンを屠るには、サリヤの第二段階の超力を、弾丸として使うより他に無い。
迷う事無く、Oはサリヤを使い捨てる。
Oは我喰いと餓鬼・改の双方を駆使した戦い方を以って、エントランスホールの全員を殺す事にした。
死骸を喰らって、肉体を強化し。殺した敵を弾丸として、更なる死骸を作り出す。
我喰いと餓鬼・改の組み合わせによる肉と弾丸の無限供給。
戦場に満ちる敵兵全てを糧とした継戦能力。
此処にOは、兵士にして兵器である存在として、完成した。
赤黒い破壊の奔流と、蒼く輝く弾丸が激突する。
Oの起源である男の技量を反映し、射撃による補正はサリヤのそれを上回る。
ローマンの、仁成の、ジョニーの眉が寄った。
弾丸が衝撃波を突破しつつある────のでは無く、明らかに衝撃波の威力が減衰し、弾丸が強力になっている。
これこそがサリヤの第二段階。超力を喰らう“超力喰い(ネオスイーター)”。
超力を喰らって強力になる性質上、ローマンの衝撃波もキングの鋼鉄も、余さず残さず喰らい尽くすが、メリリンやジョニーの纏う鉄には意味が無い。
日本でGPAの追手に追い詰められた際に、打つ手が無かったのはこの為だ。
相手が超力を用いるのならいざ知らず。物理的な盾と、銃を用いるのであれば、サリヤの第二段階は無力化される。
「変身していないローズにも殺されそうな癖に、妙に自信有ったのはこれか」
成る程確かにこれならば、ネイ・ローマンに対する絶大な自負にも納得がいく。
打つ手は無い。この弾丸は回避不可能だ。
防御の手段は無い。この弾丸は防げない。
ならば此処で、死ぬのか。
ネイ・ローマンは此処で死ぬのか。
「そんな訳がある訳無いだろ」
ネイ・ローマンの総身を彩る赤黒い光が、更に苛烈に輝きを増す。
俺の前を阻むんじゃねえ。
俺の道を塞ぐんじゃえ。
There's no time to discriminate
(区別する時間なんて無ぇ)
Hate every motherfucker
(全てのクソどもを憎め、それがお前の道だ)
足を踏み出す。前に出る意志を形として現す。
脳の自認によって超力は変化し、強化される。
致命の窮地にあって、前へと踏み出すという行為が、第二段階へとローマンを押し上げる。
漢女と王者が示した在り方に、ネイ・ローマンの在り方を以て答える。
『破壊の衝動(Sons of Liberty)』 。自由を冠する超力を振るうネイ・ローマンの在り方は、やはり何処までも我意のままに突き進むものだろう。
衝撃波に更なる力が宿る。
発現した第二段階は、無効化であれ超力喰らいであれ、障害となるもの、道を阻むものを、余さず許さず撃ち砕く。
第二段階。“Liberty or Death”。
勢いを増した衝撃波が弾丸を呑み込み、次いでOの全身を覆い尽くした。
【E-5/ブラックペンタゴン エントランスホール/一日目・午後】
【メリリン・"メカーニカ"・ミリアン】
[状態]:全身にダメージ(小)、薄黄色のボイラースーツ、帽子とゴーグル
[道具]:デジタルウォッチ、フルプレートアーマー、銀鈴の首輪(使用済み)、ジェーンの首輪(未使用)、宮本麻衣の首輪(使用済)、ドンの首輪(使用済み)、工場エリアで集めた機材
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き延びる。サリヤとの決着をつける。
1.被験体:Oを攻略する。
2.ブラックペンタゴンを脱出する。
3.可能であれば被験体の首輪を解析する。
※ドミニカと知っている刑務者について情報を交換しました。
※ジェーンの首輪を手作業で解析中です。
首輪にはシステムAが仕込まれていると見られ、メリリンの超力だけでは解体できないようです。
【ネイ・ローマン】
[状態]:全身にダメージ(大) 、疲労(中)、右腕肘から先欠損
[道具]:デイパック(幾つかの食糧と酒)、鋼鉄の義手(メリリン作成)・破損)
[恩赦P]:99pt
[方針]
基本.やりたいようにやる。
1. ブラックペンタゴンを脱出する。
2. ルーサー・キングを殺す。ディビットの申し出を受けるのも悪くない。
3. オレに落とし前をつけさせるんじゃなかったのか。何くたばってんだよ、ハヤト=ミナセ。
※ルメス=ヘインヴェラート、ジョニー・ハイドアウトと情報交換しました。
※サリヤ・"キルショット"・レストマンから超力の第二段階(プレシード)について知らされました。
※超力の第二段階(プレシード)へ到達しました。
衝撃波の出力が向上し、無効化を始めとする防御や干渉を貫通する“Liberty or Death”。を使用可能になりました。
【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:疲労、(大)、破損(大)、ヤマオリ、永遠
[道具]:デイパック
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.東口から突入する(?)エンダとは出来る限り距離を取る
2.怪盗(チェシャキャット)の依頼を果たす。
3.夜上神一郎への強い不信感と敵意。
※ネイ・ローマンと情報交換しました。
※ルメス・ヘインヴェラートが掴んだ情報を全て伝えられています
※ヤマオリの遺物を取り込みました、永遠が付与されています
※右腕には脇差、剣ナタ、サバイバルナイフ、スレッジハンマーが取り込まれています
※左腕の銃器の弾数はグレネード(0発)、ハンドガン(5発)、アサルトライフル(20発)、スナイパーライフル(0発)
【只野 仁成】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、右足首と左足にダメージ(中)服の全面が溶けている、強い覚悟
[道具]:デジタルウォッチ、図書室の本数冊、紗奈のシステムAの手錠
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.生き残り、家族の安否を確かめたい。
1.協力してブラックペンタゴンの脱出を目指す。今のところはまだ、殺し合いに乗るつもりはない。
2.エンダに協力して脱出手段を探す。
3.ルーサー・キングとギャル・ギュネス・ギョローレンには警戒する。
4.生き延びて、エルビスの事をダリアに伝える。
※エンダが自分と似た境遇にいることを知りました。
※ヤミナの超力の影響を受け、彼女を侮っています。
※ルクレツィアの超力譲渡によって骨折がおおむね治癒しています。
【エンダ・Y・カクレヤマ】
[状態]:ダメージ(微小) 疲労(中)
[道具]:デジタルウォッチ、探偵風衣装、ドンのデジタルウォッチ、図書室の本数冊
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱出し、『エンダの願い』を果たす。
1.囚人共は勝手に殺し合っていればいいが、ブラックペンタゴン脱出までは協力する
2.仁成と共に首輪やケンザキ係官を無力化するための準備を整える。
3.ヤミナ・ハイドは、まあいいか。
4.今の世界も『ヤマオリ』も本当にどうしようもないな……。
5.“エンダ”を殺そうとしていたルーサー・キングを殺す
※エンダの超力は対象への〝恨み〟によって強化されます。
※エンダの肉体は既に死亡しており、カクレヤマの土地神の魂が宿っています。この状態でもう一度死亡した場合、カクレヤマの魂も消滅します。
※黒靄による超力干渉でエルビスの腐敗毒をある程度遮断できます。
ただし〝恨み〟による強化が発揮しない限り、完全な無効化は出来ないようです。
【北鈴 安理】
[状態]:上半身インナー姿、右腕に打撲、疲労(中)、気疲れ(中)、脳への負担(中)、手足に呪いの浸食(小)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:自分の罪滅ぼしになる行動がしたい。自分なりに、調査を進め弱い人を助ける探偵として動きたい。
1.自分の意思で、この刑務作業の真実を知りたい。
2.バルタザールがまだ破壊の限りを尽くすようなら、被害をできるだけ抑えたい。
3.本当に恩赦が必要な人間がいるなら、最後に殺されてポイントを渡してもいい。けれど、今はもう少し考えたい。
4.無実の人をボクが救えるというのなら……。
※イグナシオの過去、大金卸とのあらましについて断片的に知りました。少なくとも回想で書かれた全てを聞いているわけではありません。
まだ聞いていない部分について、今後間違った妄想や考察をする可能性もあります。
※超力が変化し、常時発動型の竜人となりました。
氷龍と比べ冷気の攻撃性能が著しく落ちる代わりに、安定した身体能力の向上を獲得しました。
※他人の記憶を追体験する力を得ました。
追体験出来るのは自身と直接会話をした事がある人物に限られます。
記憶の中では五感全てが再現されるため脳への負担が大きく、無茶な使用は精神の崩壊に繋がります。
また、記憶の持ち主が死亡する場面まで追体験を続けた場合、安理自身も廃人となります。
~~~~
「ネイ・ローマンが第二段階へと至りましたか」
「ドミニカ・マリノフスキ。ルクレツィア・ファルネーゼ。ネイ・ローマン。この短期間で第二段階へと至った者がこれ程出るとは」今後の第二段階(プレシード)研究に大いに活かせるでしょう」
「Oはどうなりました?」
「ああ…それでしたら」
~~~~
Gー4の侵入禁止エリアに、Oの巨体が横たわっていた。
第二段階(プレシード)へと到達したネイ・ローマンに吹き飛ばされて、此処まで飛ばされた被験体Oは、静かにダメージの回復を待っている。
「鬼ごっこの始まりですな」
刑務場から遠く離れた場所で、ヴァイスマンの愉し気な声は、当然の事ながら刑務者の誰にも伝わる事は無かった。
【G–4/立ち入り禁止エリア/一日目・午後】
【被験体:O(オーク)】
[状態]:ダメージ(大・修復中)
[道具]:なし
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本:受刑者の殲滅。
1.刑務場刑務者達を皆殺しにする
※夜上の右足とサリヤを捕食したことで身体能力が強化されました。
現在17倍まで倍率を引き上る事が可能です
最終更新:2026年01月14日 22:05