「プリン、プリン~~♪」
「姉さん、やっぱ明日にしない?プリンは」
「何言ってんだ、プリンは待っちゃくれないってのに!」
「待つよ…プリンはいつまでも姉さんを待ってるよ……」
「じゃあ賞味期限が今日のプリンは?あたし達の手が届く前に捨てられるかもなんだぜ!?」
「……あぁ、今回はそういう理屈なのか…」
月明かりが空に輝く、深夜11時。両価姉弟は、近くのコンビニへプリンを買いに出かけていた。
ちょうど仲間グループの治癒能力を持っている少女が出かけていたため、お互いの回復に手間取ってしまったのだ。
そして今日も姉・矛美のメチャクチャ理論が炸裂し、毎回のようにそれに付き合わされる弟・盾夫だった。
あまり自発的に動かない盾夫にしてみればたまにはこういう事があってもいいのだが、何せ今日が今日だ。
ちゃんと仲直りが出来たとはいえ、体の疲れはいつにもましてあった。
「姉さんは疲れとかないの?」
「…何、盾夫。あんたまさかあの程度でへばったなんて言う気?」
「ホラ、僕はさ、あんま攻撃をうける事がないからさ。っていうか攻撃を受ける事がある日常が日常と呼べるか怪しいところではあるけど…
そもそも姉さんの体力が異常なんだよ。一日が48時間でも余裕なんじゃない?」
「48時間かぁ…48時間もあれば、カラオケで500曲くらい歌えるかな?」
「……姉さんには寝るという選択肢すらないのか」
「ところで盾夫、前々からあんたに聞いておきたい事があったんだけど」
先行していた矛美は後ろへ振り向き、質問を続ける。
「最近あんたと治癒能力持ってるあの子が付き合って……ってアレ?盾夫?
まさか…面倒になって帰りやがったか!?アイツめ!!」
質問しようとした相手はなぜか背後から消え、月明かりに照らされた道に一人、矛美は取り残されていた。
「……え~と…誰、ですか?」
「……」
シュボ!…ジジジ
盾夫が質問を投げかけた男は、返答せず、かわりに咥えていた煙草に火をつけた。
綺麗な金髪を後ろにまとめた、外国の男であった。そのような男をこの街で見かけた事はない。
(ハァ…面倒だな。姉さん、怒ってるんだろうな…
それにしてもこのコード、やっぱりスタンド能力による代物かな?)
盾夫は現在、知りもしない男に縛られ、表通りから裏道に連れ出されていた。
何重にも巻かれたコードの先は、男が手に持っている。
(ここまで巻かれると『ニコ・タッチ・ザ・ウォールズ』で破れるか怪しいけれど…)
「お前、両価の弟だよな?」
一通り煙草を吸い終えた男が盾夫を正面から見下ろした。目元にピアスをしたその顔は、なかなかの凄みがある。
「まぁ、そうですが…」
「この街の奴らにな、強い奴は誰だ?って聞いてそいつらを倒して回ってたら両価姉弟ってのに辿り着いたのよ」
(随分安価な理由だな…あぁ、治癒のあの子の用事ってものそれだったのかもな……)
「…で、みんな『両価姉弟』としか言わないから、どっちかわからないんだ。それで、まずは弟の方から倒そうと思ってな」
「そうですか…ハァ……」
「随分と余裕そうなんだな。やっぱ弟クンのが強い?」
「疲れてるんですよ、コッチは。まぁ戦うのはいいですけど、戦うんだったらこのコードを解いてくれません?」
「いや、ダメだね。そっちの油断が招いた事態だろう?」
「…この人もメチャクチャ理論の使い手かい……」
「だからこのまま始めるぜ、『デス・フロント』ッ!」
男はスタンドを出した。体の所々に迷彩柄があるそのスタンドは、彼が軍人である事を盾夫に感じさせる。
(まずはこのコードを解かないと…)
「『ニコ・タッチ・ザ・ウォールズ』ッ!!」
盾夫がそう叫ぶと、男と同様に体の内側から彼のスタンドが出現した。
そしてそのまま、巻かれているコードを力任せに破ろうとしたのだが___
「_痛ッ!コ、コイツは…」
盾夫がコードを引っ張った瞬間、コードの内側から棘が飛び出し、盾夫の肌を刺した。
「ただのコードじゃない…まさか、有刺鉄線!?」
「いつ俺がお前に能力を教えた?勝手な想像してると、痛い目に合うぜ!!」
そのまま男は彼のスタンドで殴りかかろうとする。見たところ、そこまでのスピードはない。
自身の能力に絶対の自身を持っていた盾夫にしてみれば、拍子抜けであった。
(なんだ、有刺鉄線の能力があるとはいえ、普通に殴ってくるのか。じゃあいつも通り、NICOの能力で…)
「ハッ!余裕かましてやがる!!こっちはお前の能力を知ってるってのによ!!」
「!? …知ったところで、それでどうなる…!」
「こうすんだよぉ!!」
男は盾夫と繋がっているコードにスタンドの拳を這わせた。そしてそのまま、盾夫へと向かう。
しだいに距離は詰まっていく。しかし、盾夫には能力の予兆が感じられなかった。
「お前と俺はこのコードで『繋がって』いるッ!繋がっているもの同士の『距離』は初めから無い!!」
それが意味する事はつまり盾夫の能力の封印であった。接点の移動であれば、距離の縮めようがない。
遅れてそれに気が付いた盾夫も拳を突き出し、素のカウンターを狙おうとする。しかし…
「甘いな…ウラッ!!」
男は這わせていたコードを揺さぶり、盾夫の体勢を崩す。相手に主導権を文字通り握られた盾夫は、
そのまま成す術もなく、体にデス・フロントの一撃を喰らってしまった。その体は後ろに飛ぶ事はなく、皮肉にも相手のコードによって支えられた。
「グッ……」
(この野郎…スピードが遅いのを自覚して、能力の扱いを極めてやがる…このままだと、マズ
「てめぇゴラァァアアアア!!かわいい弟に何してくれてんだよ!!?」
「!?」
「!?」
男が後ろを振り向くと、そこには両価姉弟の姉・矛美がいた。手には、プリンが二つ入ったビニール袋を持っている。
「先に帰ったのかと思ったら…随分と面白そうな事やってんじゃねーの」
「お、姉の方か。一度にやるのは流石にマズいと思ってたが、弟がこの調子だと楽勝かもな」
「………」ピクリ
(あ、…マズ。姉さん切れちゃったよ…)
「ブッ殺す!!『シルバー・アンド・ホワイトスター』ッ!!」
矛美がスタンドを出し、全速力で男の元へと向かっていく。
しかし激怒している矛美に対し、盾夫が側でみた男の表情は余裕のままであった。
その表情に疑問を持った盾夫は姉の方へと顔を向けると、コッチへ向かってくる間に『何か』がセットされているのが見えた。
月の光に反射して、一本の線が輝いている…
「まさか…姉さん!!腕でガード!!!」
「ッ!!」
盾夫が言い、矛美がそれに応じると同時に、矛美の身体に衝撃が走った。そのまま倒れてしまう。
見れば、ガードした腕に有刺鉄線が食い込んでいる。篭手越しだったから良かったものの、そのまま首に当たっていればどうなっていたかわからない。
その光景を想像しゾッとしたが、すぐさまそれも怒りに変わった。
「テメェ…卑怯なマネを…!」
「生きるための戦略だと、呼んでもらいたい」
「!?」
気付けば男は正面から消え、いつの間にか矛美の背後に移動していた。
そしてそのままデス・フロントが出した大量の有刺鉄線で巻かれてしまう。
「あぐっ…」
「姉の方のシルバー・アンド・ホワイトスターは少々暴れ馬らしいからな、こいつをお見舞いするぜッ!!」
男が叫ぶと同時に、有刺鉄線に電気が流れた。何重にも巻かれる事によって、
威力が増し、盾夫の耳にまでバリバリと電流の音が聞こえる程の物になった。
「姉さん!!!!」
「う…ん……」ガクッ
「…気絶、したか。これで、あとは弟の方だけだな。コードは手放しちまったが、まだ巻き付いt
「黙れ」
「…あ?」
視線を向けると、盾夫は両の腕を体の内側に入れていた。
その意味のないと思える行動に、思わず男は見入ってしまう。
「お、お、おおおおおお…」
ブチ…ブチ……
(引っ張ると棘が出て突き刺さるってのに…何だアイツは!?)
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ブチブチブチィ!!
盾夫はコードから解き放たれ、自由になった体を伸ばした。
棘が深く食い込んだせいで全身に傷が付き、血が流れていたが、その闘志はまるで別人にも思えた。
「本気になったってヤツか…?まぁまた縛ってやればそれで終
「だから、さっき『黙れ』って言ったよな?」
その視線は男を見ず、ポケットから取り出した携帯の時計を見ていた。時刻は、23時59分。
「生きるための戦略だってのはわかったけどよ、タイマン張るなら正々堂々ってモンじゃねぇのか?普通はよ」
針の音を刻まぬ電子パネルの表示は、刻一刻と明日へと向かっている。
理解できない盾夫の行動に、男は再び見入ってしまった。
「さっき俺達の能力を知ってるとか言ってたけどよ、そういうのも気に入らねぇ…とりあえず勝てればいいのかよ?」
…49、50、51、52、53____
盾夫は手に持っていた携帯を放り投げ、最後に男を見据えた。
「ま、この能力について誰かにちゃんと教えた事もないし、知られたところでどうってコトないんだけどね…
そういうの好きなんだろ?お前にだけは教えてやるよ。___________その身を持って知りな」
__55、56、57、58、59
盾夫に放り投げられ、今にも地面に落下しようとしていた携帯が空中で止まった。
いや、そろどころか盾夫以外の世界の全てが、23時59分59秒で『停止』している。
「___時の『到達点』を無くした。お前も、姉さんも、この世界も。今まさに時間は9を刻み続け、その永遠を俺は支配する」
正確に言えば、23時59分59秒999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999____
……いや、正確に言えるモノではなかった。なぜなら、そういった能力なのだから。
男がセットしようとしていた有刺鉄線をゆっくりどけ、男に近づく。
「わかってるか?懇切丁寧に説明してやってるんだぜ?今。__いや時間の概念が歪んでいるのに『今』ってのはおかしいか。
まぁ、いいや。とにかく『今』だ。……疲れてきたし、そろそろ御仕舞にしよう」
盾夫は男の目の前に立ち、深く深呼吸をした。そして____
「ダラララララララララララララララララララララララララララララララララ
ララララララララララララララララララララララララララララララララララ
ララララララララララララララララララララララララララララララララララ___!!!!」
盾夫は後ろを振り向き、落ちている途中の携帯を取り上げた。すると携帯の表示が00時00分00秒に変わり、世界も正常に動き始める。
再び男がいる方を見ると、フッ飛ばされ、壁に突き刺さった男がいた___
「ハァ……姉さんって筋肉質だから、結構重いんだよね…」
矛美を背中に抱えながら、盾夫は一人呟く。目指すは再び、治癒能力を持つ少女の元へ。
一歩ずつフラフラと歩くと、盾夫の足に形が崩れてしまったプリンが入った袋が当たる。
気絶しているにもかかわらず、矛美はそれを掴んで離さなかった。
「姉さんらしいや…食い意地はってるっていうか、最早そういう星の元に生まれてきたのかもね…」
「んぅう…あれ盾夫…?」
「あ、起きたか。プリンは買ったし、もう帰ろ?」
「あぁ…うん…」
「…」
「…」
二人の間に沈黙が流れた。それはとても心地のいいもので、傷の痛みなどどこかへ行ってしまった。
「そういえば…久しぶりだ」
「?」
「あんたにおぶってもらうの」
「そうだね…10年ぶりくらいかも。僕がいつまでたっても姉さんの背を抜けないから、頼りがいないんだもんね。
昔おぶった時だって、ただ騎馬役をやらされてただけだった気もするし…」
「なつかしいなぁ…ねぇ盾夫、今身長どれくらいだっけ?」
「盛って175くらい」
「そっか。 …今年からヒールでも履こっかな?」
「ははっ。多分、姉さんには、似合わない」
「うるさい、この愚弟め!」
to be continued?
使用させていただいたスタンド
No.4862 | |
【スタンド名】 | シルバー・アンド・ホワイトスター |
【本体】 | 両価矛美(りょうか・ほこみ) |
【能力】 | 相手の状態にかかわらず「殴る」 |
No.4863 | |
【スタンド名】 | ニコ・タッチ・ザ・ウォールズ |
【本体】 | 両価盾夫(りょうか・たてお) |
【能力】 | 到達点をなくす |
No.4782 | |
【スタンド名】 | デス・フロント |
【本体】 | 金髪男 |
【能力】 | 有刺鉄線を作り出す |
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