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オリスタトナメ 外伝④

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加賀「私がここから出る必要はないわ。敵がもし私と戦いたいのなら、そこのドアを開けて中に入ってくればいい。

   そうしないのであれば……あとは桐生助手次第ね」

加賀が見つめるモニターでは、今まさに桐生が六郎に掴みかかろうとしている瞬間が映し出されていた。


――5F、エレベーターホール


桐生「何をわけのわからねえこと言ってるんだ。そっちから攻撃を仕掛けておいて、『協力して欲しい』だと?」

六郎は両手で桐生をなだめる仕草をしつつ、言葉を選びながら答えた。

六郎「ま、ま、まあ待てって。悪かった、悪かったからよ。いろいろと……事情があってだな、そもそも俺たちにとってはおまえが来ること自体が想定外だったんだから」

桐生「そのいろいろな事情に俺はただ巻き込まれただけなんだぜぇーッ? クッソ、いったん冷静になってたのによ……おまえの言い訳聞いてたらまたムカついてきやがった!」

六郎「は、話を聞けえぇ!!」

桐生「うるせェッ!! はじめから俺の行動要因は無関係の俺に攻撃しかけてきた、てめえにあるんだぜェッ!『コスモ・スピード』!!」

桐生のスタンドは片手で六郎の胸ぐらを掴んだまま、もう一方の拳をひいた。

桐生「おらァッ!!」

六郎「く、『クレセント・ロック』!! ガードだ!」

六郎のスタンドが発現し、かろうじてコスモ・スピードのパンチをガードした。
しかし、桐生はすでに胸ぐらを放していた拳で追撃を図る。

C・S「ホホホホホホホホホォォ――――――――――ッ!!!!!!!」

桐生はさらに続けざまにパンチを放っていった。
クレセント・ロックはコスモ・スピードのラッシュを防御し続けている。

桐生「ちっとだけ冷静になりゃあ、てめえの話も聞いてやれるぜ? そんときゃてめえは動けなくなってるかもしれねえけどなァ!!」

六郎「……ッ、動けなくなるのは……おまえのほうだッ!!」

コスモ・スピードが左のフックを放った瞬間、六郎は身を屈めてかわした。
突然の回避にコスモ・スピードは勢い余って体勢をくずし、攻撃が止まってしまった。

六郎「コスモ・スピード――――と言っておきながら、素早さはたいしたことないな?」

桐生「ヤベエ、『コスモ・スピード』、攻撃をガードするんだ!」

六郎「ガードなんかムダだぜ!!」

身をかがめた六郎の次の行動は、スタンドの直接攻撃ではなく……スタンドの能力発動だった。

六郎「ロケットを生み出せ、『クレセント・ロォォォック』!!」

六郎は床からロケットを生み出すと同時に後退した。

桐生「く…………!」

バン、と桐生の目の前で破裂音が響き、ロケットは爆発した。
その衝撃は爆弾、ほどまではいかないものの、六郎が桐生から距離をおくことには成功した。
桐生はロケットが爆発した場所からわずかに後退していた。

桐生「ッチ、腕がいてえ……ガードしようとしてた分、反応が遅れたな」

六郎「コイツが協力してくれないのなら……ヤるしかねえのかなあ……?」

桐生「だが、たいしたダメージじゃあない、いくぜ!」

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距離をおいた六郎に向かって桐生が駆け出した。
15mほどの距離をおいていた六郎は桐生に対し、複数のロケットを生み出して攻撃する。

桐生「あいも変わらず、この攻撃か! こんな攻撃、見切るのはたやすいことだ!」

六郎(コイツ、攻撃のスピードに対し、回避のスピードが段違いに速い。それがコイツの能力なのか……?)

桐生「もはやこの攻撃に対し、恐怖は微塵も感じない!」

桐生は迫り来る2本のロケットをかわし、さらに六郎に近づこうとする。

六郎「だが、回避できない攻撃ではどうだッ!?」

桐生「!!」

2本のロケットをかわした直後、桐生の目の前にはすぐにもう2本のロケットが迫っていた。

桐生「コ、『コスモ・スピード』!!」

六郎「『クレセント・ロック』、着火だッ!!」

さきほどよりも大きな、けたたましい爆発音が響いた。
桐生が2本避けたあとの、目前の2本、都合4本のロケットに囲まれた状況で爆発した。
煙が貼れると、全面をスタンドにガードさせた桐生の姿があった。

桐生「ゲホッゲホッ!!」

正面からは目に見えた傷はないものの、ダメージは負っていた。
爆風に直接晒した背中は爆発による焦げ目が服についている。

桐生(四方からの爆発じゃあ、抜け道を見つけられなかったな……ヤバいぜ)

六郎「やっぱ、急造のロケットじゃあ破壊力がイマイチだな。かといって強すぎてバラバラになられても気が引けるんだけど」

桐生は膝に手をつき、肩で息をしていた。焼けた空気と煙を吸い込み、呼吸もままならないでいる。

六郎「だが、もういっぺんやれば、動けなくするのにちょうどいいだろ! 『クレセント・ロック』!!」

拳を床に打ちつけ、再びロケットを生み出す。
カーペットごと床が盛り上がってロケットの形をなし、火花を吐きながら発射されていった。
六郎はロケット弾を先に2本、間をおいてもう2本、発射した。先ほどと同じように桐生を囲って爆破させる狙いだ。

桐生「同じ手が……通用すると思うな!!」

桐生はスタンドを発現させ、ロケットに向かっていった。
深いダメージと、これまでの長い防戦のため、桐生に残された気力はわずかしかない。
そのわずかな気力を、最後の攻撃に費やした。

六郎「まだ……あきらめてねぇのか!?」

桐生(コイツのロケット……自在に操り、自在に爆発させることができるが……たったひとつ、盲点がある。

   エントランスで放たれたロケットのうち1つは……壁にぶつかって爆発した。)

桐生「コイツの意思でロケットを爆発させない唯一の方法は……」

桐生は目前に迫るロケットに向かって跳び上がった。

桐生「弾頭の信管を押して、先に爆破させることだッ!!」

ロケットに飛び乗るようにして、ロケットを床に向けて蹴った。
弾頭が床に向けられ、先端が床に着くと同時に桐生は叫ぶ。

桐生「『コスモ・スピーーーーーーード』ッ!!」

爆音と、巻き上がる爆風に包まれたかに見えた。
爆風は他の3本のロケット弾をも巻き込み、誘爆して爆風はさらに大きくなる。
だが、桐生はそれよりも速く、その爆風を背にして猛スピードで六郎に飛びかかっていった!

六郎「うぉぉおおおおおおおおっっ!!?」

桐生「ウラァァァァァッッ!!!」

桐生はそのまま六郎を押し倒し、マウントポジションの体勢に持ち込んだ。

桐生「ホットな時間だったぜ……体も、魂もな!」

C・S「ホォ――――――――――ッッ!!!!」


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六郎「『クレセント・ロック』、ガードしろォォッ!」

六郎は危険を察知し、すぐさまスタンドの両腕で上半身を防御した。
桐生のスタンド、コスモ・スピードは目下の六郎に対し、パンチのラッシュを打ち始めた。

桐生「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラァァーーーーッ!!!」

六郎「うあああああああああああああああッッ!!」

桐生のスタンド、『コスモ・スピード』の能力は5m内で動いているものと同じ速度で動くことである。
1度目の攻撃のときは、能力を発動したところで、四方から同じ速度の爆風が迫り、逃げようがなかった。
しかし2回目はあえて1つのロケットを先に爆破させることで、その爆風を背に能力を発動し、
その後誘爆する他のロケットの爆風から逃げて六郎に向かっていった。

C・S「ホホホホホホホホホォォ――――――――――ッ!!!!!!!」

六郎のスタンド、『クレセント・ロック』は降りかかるパンチの雨をほとんど腕で受けてはいるものの、
先ほどとは状況が違って逃れることが出来ない。
ロケットを生み出そうとすればガードを開くことになるし、ロケットの爆風が自分にも襲い掛かってしまう。
為す術もなく、桐生が打ち疲れるのを待つほか無かった。
しかし、昂った桐生にその気配はない……


ジャン「『ドッグ・マン・スターッッ』!!」

桐生「!?」


突如迫ってきた者の叫び声と同時に、桐生の身体が六郎の上から弾き飛ばされた。
1階の従業員通路にいたジャンが六郎の加勢に来たのだ。

ジャン「無事か、六郎」

六郎「ぐ……助かったよ。情けねえが、あんたが来てくれなきゃいつまで殴られ続けてたか……」

弾き飛ばされた桐生はすぐに起き上がった。攻撃自体のダメージはほとんどないといっていい。

桐生「クソッもうひとりの敵か。2対1じゃキツすぎるぜ……」

ジャン「そうだ、君に勝ち目はない」

ジャンは犬に「待て」というように桐生に手を向けた。
「すぐに攻める気はない」という意思の表れでもあった。

ジャン「だからこそ、もう一度君に頼みたい。『我々に協力してくれ』」

桐生「な……?」

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ジャン「もともと、我々の標的は君ではなかったんだ」

桐生「眼中に無い、って言いたいのか?」

ジャン「そうじゃない! 我々の目的は『ここから出ること』、『あの女を倒すこと』だったんだ!

    君を攻撃したのは、君があの女の仲間か、洗脳でもされているのか懸念があったからだ」

桐生(あの女に洗脳……考えたくもないな)

桐生「ってちょっと待て、『ここから出る』ってどういうことだ? おまえら、ここにはトーナメントの試合で来たんじゃなかったのか?」

ジャン「はじめはそうだと思っていた。だが、違っていたんだ」

ジャンは懐から封筒を取り出し、桐生の足元に投げ落とした。
桐生はそれを拾い上げて中身を見た。
かつて自分のもとに届いたものとも加賀に届けられたものとも同じように、高級そうな紙にトーナメント運営の捺印があり、
その下にこの場所と、1週間前の日時が記されていた。

桐生「おいおい、どういうことだ? なんで1週間前なんだよ。加賀に届けられた手紙にはきょうの日付が書かれたぞ?」

六郎「俺に届けられた手紙も、ジャンのものと同じ内容だった」

壁に寄りかかって座っていた六郎が話し出した。
その語気には一方的に攻撃された桐生への怒りは表れていない。

六郎「俺もジャンも、トーナメントの優勝者だ。1週間前にここでジャンと顔を合わせて、コイツと戦うんだなって思ったとき、突然『あの女が現れた』んだ」

桐生「あの女?」

六郎「きょう、おまえと一緒にここに入ってきたあの女だよ。さっき加賀って言ったっけ?」

桐生「…………?」

六郎「んで俺とジャンの前で、『私と戦え、勝って見せろ。トーナメントを勝ち抜いたその実力、見せてみろ』って言ってよ。

   二人同時での戦いを挑んできたんだ。」

桐生「加賀がか?」

ジャン「そうだ」

桐生にとっては二人の言っていることがなにがなんだかわけがわからなかった。

自分が加賀に聞いたのと辻褄があわないが、とりあえずは聞いてみることにした。

六郎「だが、俺たち二人がかりでもまったく歯がたたなかったんだ。長時間、何度かの戦いに及んでも勝つことが出来なかった。

   そしてあの女は『つまらない』と言った後、ここを離れて今日再び戻ってくるに至るわけだ」

ジャン「この1週間弱の間……俺と六郎はあの女を倒すための策を練り、訓練を重ねた。ここはホテルだから、食う寝るには困らないしな。

    そして今日、再戦の時を迎えたのだが、我々の策は看破されてしまった。君の介入もあってな」

桐生「…………」

ジャン「だからこそ、我々に残されている策はもはや、君の力に頼ることだけなのだ。……少しは理解してもらえたか?」

桐生「……さっぱり、わからねえ。俺にはおまえらが薄っぺらいウソついてるようにしか思えねえ」

六郎「まあ初対面でこんな話されりゃあそう思うのも道理だけどよ、ホントなんだって」

桐生「何度も何度も俺をナメやがって……いい加減にしろよ?」

ジャン「…………攻撃するのはよせ」

桐生「聞くかッ!!」

ジャン「君の手の甲を見てみろ」

桐生「…………?」

桐生の手の甲には、ジャンの『ドッグ・マン・スター』の能力の証である黒い星が描かれていた。

ジャン「さきほどの攻撃のとき、君に対し私のスタンド能力を発動させてもらった。」

ジャンはポケットからハンカチと小瓶を取り出した。

そのハンカチには桐生の手の甲に描かれているのと同じ黒い星のマークがある。

ジャン「私のスタンド能力は、黒い星を描いたもの同士を『同期』する能力だ」

ジャンは小瓶のフタを開け、中の液体をハンカチに染みこませた。

ジャン「ハンカチに『灯油』を染みこませた。私がハンカチに火をつければ、君は一瞬で火ダルマになる」

桐生「な……」

ジャンはポケットからライターを取り出し、点火した。

ジャン「そこから一歩でも近づけば、ハンカチに火をつける。君が我々に協力する、というのなら能力は解除しよう」

桐生「てめェっ!!」

ジャン「君への『要請』はすでに『脅迫』に変わっている!」

桐生「く…………」

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ジャン「私が不思議なのは……どうして君があの女の肩を持つのかだ。私と六郎が話したことに偽りは無い、君はあの女に騙されているんだッ!!」

桐生「そんなはずはない……あいつはロンドンに住んでるんだ。ずっと空港で待ち続けたが、1週間前には現れなかった……」

ジャン「国際空港ならこの国にはいくつもあるし、韓国からの船舶経由という方法もあるだろう」

桐生「加賀は、おまえら二人の能力を知らないぜ」

ジャン「君の前では知らぬフリをしていたのだろう。それに、今日の監視カメラを使っての策を破ったのはあの女だぞ?」

桐生「あいつの持っていた手紙は確かにトーナメント運営から届けられた手紙だった! 捺印がなけりゃあ偽造は不可能だ!」

ジャン「……それこそが、あの女が君を騙していた確かな証拠ではないか。あの女の能力は……何だ?」

桐生「…………『インクを操る能力』……」


桐生は加賀に手紙を見せられたときのことを思い出す。

<桐生「……なんだこれは? これは! まさか、あのトーナメントのか?」>

<加賀「ええ、きっとそうね。その手紙には以前、私達が戦ったあのときと同じように、今日の日時と、この場所が記載されていた」>



桐生「加賀が、トーナメントのときに届いた手紙を……『書きかえた』というのか?」

六郎「あの女もトーナメントの優勝者だったのなら、届いた手紙は初戦から決勝まで3枚はあるはずだ。

   俺とジャンに届けられた手紙、自身で持つ手紙を書きかえるには足りる数だろう?」

桐生「そんな…………バカな」

ジャン「君が我々の言うことを信じられないのはわかる。だがそれと同じくらい、君があの女を信じる根拠も疑わしいんだ」

桐生「………………」

六郎「どのみち、あの女を倒さにゃここから出られない。……信じてくれよ」


桐生(……この戦いははじめからあのトーナメントとは関係がなかった。1人のはずの対戦相手が、2人だったことを考えれば確かなことだ。

   このベストの男の持っている手紙……おそらくこのロケット野郎の手紙も、偽造できたのは加賀だけ。

   あの女が、加賀がこの2人の男の強さを見るために、ここへおびき寄せ、閉じ込めた……? そして…………)


桐生「この俺も……騙していたのか?」


ジャン「我々を君に信用させることは、難しいかもしれない。だが、我々2人ではあの女に勝つことはできないのだ。

    …………聞かせてくれ、君の答えを」

桐生「俺は…………」

桐生はジャンの目を見た。彼が自分を騙しているとはあまり思えなかった。
自分を能力によって脅迫しているとはいえ、彼は嘘を言っていない。

自分を攻撃してきた六郎。返り討ちにはしたが、今のような命を握られている状況でも、彼は仕返しをしようとはしない。
彼は決して悪人ではないのだろう……。

加賀は……以前戦ったときよりもさらに飄々としているように思えた。
もし、それが、自分を取り繕っていたものだったとしたら……

桐生「俺は……おまえらに…………協…」

そう、言いだした瞬間だった。

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<言っただろ? 俺はおまえに勝つためにずっと待っていたんだ>

突然聞こえた自分の声。
勿論自分で発したものではない。だが、少しノイズがかかるその声は確かに聞こえた。


<気にするな、俺はこのホテルというステージに紛れ込んだ野ウサギだとでも思えばいい。

 野ウサギが駆け回り、何をしようがそれはホテルで起こりうる事象のひとつにすぎないのさ>


桐生「…………?」

再び聞こえた自分の声。
しかも聞こえたのは桐生だけではない。
ジャンと六郎も、その声を聞いて上を見上げている。

声は、天井につけられた丸いスピーカーから発せられていた。


加賀<自分の恥ずかしいセリフを聞いて、少しは頭をスッキリさせられたかしら?>

桐生「ぎゃああああああああああっっ!! また録ってたのかああああああああああっっ!!」

ジャン「……館内放送かッ!」

桐生「なにやってんだ加賀ァッ!!」

加賀<いい加減待ちくたびれたわ。ここからじゃそっちで何話してるかよくわかんないけど、戦うのやめたんならその二人をこっちに連れてきてくれないかしら?

   ピョンピョン跳ねて誘ってきてよ、野ウサギのように>

六郎「野ウサギ?」

<俺はただの野ウサギなんだからよ>
<俺はただの野ウサギなんだからよ>
<俺はただの野ウサギなんだからよ>

六郎「うわあ」

桐生「や、やめろお」

ジャン「何のつもりだ? 館内放送はフロント裏の監守室でしかできない。わざわざ居場所がバレるようなことを……」

加賀<私のために戦ってくれるのはあなたの勝手だけど、死なれちゃ困るのよね>

桐生「え……?」

加賀<私がここから帰れなくなるじゃない。今度は日本海側を通って帰りたいしね>

桐生「……またアシに使うのかよ」

六郎「ヘンなヤツだなあ」


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桐生「ちっくしょ~~~こんな時でもあの女はよ~~……」


<桐生「俺はてめーに用があるんだ……」>

<加賀「私に……? 私の体を求めているのかしら?」>

<N・C「心ハ『イギリス』ニ置イテキタカラナ、クソワロタ」>

<桐生「ッチ…………この人をバカにしたような口調、あのときと変わんねーぜ……」>


そうだよ、コッチが本気でリベンジしようと思ってんのに、
あいつは前と同じようにくだらないこと言って、女らしい可愛らしさも皆無で……



<桐生「な、なんてモン持ってんだテメエ!!」>

<加賀「警察官の七ツ道具のひとつ、ICレコーダー……!! 私はずっとあなたとの会話を録音していたのよ。

    かつてはネゴシエーターをしていたこともあってね。相手の弱みを握ることは交渉の基本よ」>

<桐生「それは交渉じゃねえ、イジメだ!!」>

<<言っただろ? 俺はおまえに勝つためにずっと待っていたんだ>>
<<言っただろ? 俺はおまえに勝つためにずっと待っていたんだ>>

<桐生「や、やめろお」>


しかも、そのくだらないことをガチでやってきやがるんだ。
あいつの生きがいは誰かが赤面するのを見て楽しむことなんだろう。


<加賀「あなたは私の戦いに手を出さないんじゃなかったの? やっぱりアレかしら、一夜を共にした私に情が湧いたとか……」>

<桐生「違うッ! いつまでふざけてるんだおまえは!」>

<加賀「ふざけてないわ、からかってるのよ」>


あいつが、加賀が俺のことを騙していただって?
そりゃあそのとおりだぜ。あいつは俺があわてふためく姿を見て笑うんだ。
腕組んで見下して、ニヤッと笑うんだ。ああ、ちくしょうめ……。


そんなあいつが、この2人をだましてここに閉じ込め、
トーナメントを勝ち抜いたその強さを味わい、楽しもうとした……?
それがあいつの目的……? あいつの目的は……

<加賀「『21世紀の切り裂きジャック』なんつーバケモンを追ってるからねえ。だてに鍛えてないわ」>



ふと思い出したのは、桐生が加賀にはじめて会った時、
人のいない小さな空港で戦っていたとき、加賀がつぶやいた一言だった。

<加賀「私が求めていたもの……それは『21世紀の切り裂きジャック』の情報よ」>

そして次に思い出したのはこのホテルに入る前、トーナメントに参加した加賀が求めていたことについて話した時のことだった。

<桐生「『切り裂きジャック』?」>

<加賀「日本でニュースになったかわからないけど……私が警部に昇進したばかりの頃、ロンドンを騒がせた殺人鬼よ。

    大胆な殺人を何度も犯しておきながら、その行方をまったくつかめないでいたの。

    この私のプライドを傷つけた唯一の人間よ」>

<桐生「……警察官としてのプライドか。昇進したばっかりじゃあその傷もいっそう大きかったんだろうな」>

<加賀「この私が他人にからわかわれることなんて決してあってはいけないことなのに……!」>

<桐生「そっちかよ」>


加賀は今も『切り裂きジャック』の足取りを追っている。
トーナメントに参加したのも、そして今日招待状に従ってここに来たのも、殺人鬼の情報を得るためだと言っていた。
『切り裂きジャック』について話しているときの加賀の目は、いつもと違い真剣だった。

彼女が殺人鬼を捕まえることは、だれかをからかって楽しむことよりも……ずっと大事なことだった。


桐生「そんな加賀が……おまえたち2人を騙して戦おうとした?」


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六郎「…………?」

桐生「あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」

ジャン「!?」

桐生「くだらねえ、くだらねえぜ!! あいつがそんなことしてなんの得がある? どうして楽しめる??」

ジャン「まだ我々を信じないか! 我々は確かに見たんだぞ? 1週間前、あの女の姿を確かにここで!!」

桐生「ああ、どうも信じられねえさ! おまえらの言うような大掛かりなことして、純粋に戦いを楽しんでいる加賀の姿なんて想像もできねえ!」

六郎「うわー、気でも違ったか?」

桐生「仮に万が一、おまえらの言うようなことをしていたとしてもよ……あんな高い志を持った人間に騙されても、悪かねェ」

ジャン「問答は……もはや無用か」

桐生「そこまで言うなら……あいつに直接会って確かめてみろ。この俺を……倒してからなァ! 『コスモ・スピード』ッ!!」

六郎「ジャンッ!!」

ジャン「く……『ドッグ・マン・スター』ッッ!!」


ジャンに向かって桐生が突進を図る。
だが、それと同時にジャンは灯油のしみこんだハンカチに火をつけ、
『同期』のスタンド能力により、桐生の体は炎に包まれた。
桐生は言葉も発さずにその場に倒れこんだ。

六郎「バ、バカ野郎!!」

六郎はとっさに起き上がり、近くにあった消火器をとって桐生に吹きつけた。
ジャンはあわてて火のついたハンカチを落とし、六郎はその火を消した。

桐生を包んでいた炎は消えたが、彼の服がところどころ焦げており、
自身も身動きがとれないでいた。
ただ、火傷を負ってはいるものの意識はかろうじて保っていた。

六郎「コロシはカンベンだぜ、コロシは」

ジャン「……すまない」

六郎「あんたは慣れたモンかもしれないけどよ。俺は一般人、コイツもそうさ」

ジャン「…………」

六郎「だが、決着はつけなくちゃいけねえ。俺はコイツが死なないよう看とくから、あとは頼んだぜ」

ジャン「ああ……」

ジャンは六郎と桐生を残し、ジャンは歩き出した。


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ジャン「………………」

ジャンは自身の敵が加賀であると本気で思っている。
ホテルのエントランスに姿を現した瞬間、たしかに加賀に対し憎悪の念が沸き起こった。
偽の手紙を送り、自分と六郎をここに閉じ込めた張本人であると……。


ジャンは廊下の端の扉を開けて従業員通路へ出た。
表の通路では監視カメラが見張っているからだ。

ジャン(とはいえ、あの女が今も監守室にいるかどうかはわからない。

    あの館内放送をしていたときはたしかにそこにいたのであろうが、館内放送が止んでからは少し時間が経っている。

    ハンディカメラを壊されてからは監守室の様子を見ることも出来なくなっている。

    今、考えられる策としてはホテルのどこかに移動し待ち伏せるか……そのまま監守室で待ち伏せるか……『待ち伏せる』?)


ジャンはここで初めて加賀に対し違和感を抱いた。

ジャン(あの女……加賀といったか、そもそも『待ち伏せる』必要などないはずだ。なぜならば……1週間前、『私と六郎2人を相手取って戦い、勝っているからだ』。

    1週間のうちに私と六郎が練った策はすでに看破されており、あの男も戦闘不能となった今、『状況は1週間前と同じ』なのだ。

    隠れる必要など無い、1週間前と同じく待ち伏せなどせずに正面から戦えばいいはずなのに……)


ジャンは1階に降り、フロントの裏、監守室の扉の前に立った。
ここに降りてくるまで、人のいる気配も、通った形跡も見られなかった。
可能性としては、ここにいるのが一番高いだろう。

ジャンがドアノブに手をかけて、この扉を開いたあと、どう行動すればよいか少し考えたとき……もうひとつの違和感を抱いた。

ジャン(私と六郎は……あの女にどうやって倒されたのだった?)

ジャンの記憶には、確かに地面に這いつくばる自分と六郎の姿、それを見下す加賀の姿がある場面が残っていた。
ただし、どうやって攻撃され、どうやって負けたか……はっきりと思い出せなかった。
そして次にジャンの頭に浮かんだのは……前提を疑うことだった。

ジャン(私と六郎が……たった1人の女に負けたのか?)

ジャンは決して性差別意識を持っているわけではない。
だが、どうもおかしいと感じ始めていた。大の男2人が、スタンド使いとはいえ女1人に負けたことが……

ジャンの手はまだドアノブを握り締めたままだ。
握り締めたまま、動かしていない。


ジャン(だが……いまさらそのようなことを考えてどうなるというのだ。このまま立ち止まって考えていても、状況は変わらない!)

ジャン「我々は……勝たなければならないんだ」

ジャンは、ドアを開きすぐさま中へ入った。


窓の無い監守室は真っ暗だった。


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ジャン「……!!」

ジャンの通ってきた従業員通路は、加賀と桐生が入ってきた時と同様に非常用出口を示す緑色のランプくらいしか明かりは点いておらず、薄暗かった。
そのため扉を開いても監守室に差し込む光はわずかで、監守室の中はほとんど真っ暗闇だった。

ジャン(監視カメラのモニターも切り、操作パネルのランプも点いていない。電源を落としているのか……)

この監守室のモニターは一度電源を切ると、再起動してすべてのモニターが点くのには時間がかかる。
それはジャン自身が1週間の間に実践して知っていた。

ジャン(電源を入れれば、再びすべてのモニターが見られるまでには3分近くかかる。たいした時間ではないが……ここから出たのかもしれない)

ジャンは監守室の天井を見上げた。照明の蛍光灯はわずかに薄く光っていた。

ジャン(消えた蛍光灯がまだ滞光している。まだほとんど時間は経っていないようだ。……もし照明を消して、監守室から出たのならば、私は1階であの女に遭遇していたはずだ。

    つまり……『この監守室に潜んでいる可能性は大いにある』)

ジャンは監守室の中……扉の横につけられた照明スイッチに手をのばした。

ジャン(私がスイッチを入れた瞬間に、奇襲を仕掛けることも考えられる。ここで、机のカゲにでも待ち伏せていたならば……『待ち伏せて』……)

再び、ジャンの頭の中にこの言葉がひっかかった。2人掛りで対峙して勝てなかったのに、今は待ち伏せているという違和感……

ジャン(いや、よけいなことは考えるな。今できるベストを尽くすんだ。照明をつけるのはこっちのタイミングだ。

    つけた直後、方向さえわかれば、こちらが先手を取れる可能性は十分にある……)

ジャンはタイミングを悟られぬよう、静かに息を整え、しばらく待った後……


パチリ、とスイッチを押した。

ジャン「!?」

その直後、ジャンの予想していた逆の事態が起きた。

明かりに照らされるはずの部屋は……『真の暗闇』と化したのだ。

天井の、ぼんやりと光っていた蛍光灯の明かりはスイッチを入れたとたん、パッと消えて部屋の明かりは失われた。

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バタン!!

ジャン「なッ!!?」

ジャンの開いた扉が、勝手に閉まった。

従業員通路から差し込む淡い緑色の光さえ、失われた。

ジャン「な……なんだ、どういうことだ!!」

加賀「決着、よ」

暗闇のいずこから加賀の声が聞こえた。

加賀「私のスタンド『ニール・コドリング』はインクのスタンド。私の万年筆からインクはいくらでも膨張し、拡散できる。

   すでにこの監守室は……『私のインク』で包囲している。今扉を閉めたのも私のスタンドよ」

N・C「絶対絶命ダゼ」

N・C「イワユル『四面楚歌』ダ。歌ッテヤロウカ? London Bridge is falling down, Falling down...」

N・C「ドウスル、優男ォ」

ジャンの周り四方八方からニール・コドリングの声が聞こえる。
ただし周囲は一面真っ黒で、ジャンは加賀の姿を捉えられない。

加賀「私からはあなたの姿がハッキリと見えるわ。暗闇に目を慣らしていたからね。ドアの隙間からほんのちょっとだけ差し込む光だけで、あわてふためくあなたが見えるわ」

ジャン「な……何故だ! 私は照明のスイッチをいれたんだぞ、なぜ照明が点かないんだ!?」

加賀「いいえ、すべては『逆』なのよ。あなたはスイッチを入れたんじゃない、消したのよ。

   トリックに気づくヒントはあるはずだけど? 私がエントランスで、インクでカメラを黒く塗りつぶした時のこととかね」

ジャン(エントランスのカメラ……そうだ、あの天井のカメラがインクで染められたとき、

    私はロケットとこの女の位置がわからなくなって、六郎に指示が送れなかった…………『天井』だと?)

ジャン「天井を染めた……まさか今も!」

加賀「そう、あなたが入ってきたとき、天井はすでに『ニール・コドリング』で塗りつぶしていた。

   蛍光灯が薄く光っていたのは滞光していたからじゃあない、点灯された蛍光灯が、インクを透かしていただけなの」

ジャン「――――――ッ、『ドッグ・マン・スター』ッッ!!」

加賀「無駄よ、無駄無駄。パワーだけならあなたのスタンドは勝るかもしれない。しかし数では……いや、もはや数の問題ではないわね。

  『ニール・コドリング』は、あなたを包んでいるようなものだから……」

N・C「ウァリャァァアアアーーーーーーーーーーーッッ!!」

ジャン「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!!」


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部屋の照明が再びつけられた。蛍光灯の明るい光が監守室を照らしだす。
床にはジャンが横たわり、両手を縄で縛られている。

ジャン「……かつてない屈辱だ。だが……敗因は自分にある」

加賀「…………」

監守室の扉を開いた加賀は立ち止まり、背後のジャンの声に耳を傾けた。

ジャン「君が一緒に連れてきた男……彼のおかげで、よけいなことを考えてしまったのだ。

    君は真の敵であるはずだと……そう思っていたことを、疑いだしてしまった。挙句、天井を染め上げたことに気づけなかった」

加賀「……そうじゃなかったら、もっと戦いは長引いていたかもね」

ジャン「『負けていたかも』……とは言ってはくれないか」

加賀「こんなところで、私が負けるはずは無いわ」

ジャン「ひとつ、質問していいか?」

加賀「何かしら? 交際の申し出なら聞かないわよ」



ジャン「…………私の名前は、知っているか?」

加賀「…………」

ジャン「私のもとに届いた手紙には、宛名に私の名前、その下にこの場所が記されていたのだ」

加賀「知らないわ」

ジャン「……そうか、なら彼の言うとおりだったのかもな。何故か我々は……おかしな思い違いをしていたのかもしれない」

加賀「何のこと?」

ジャン「君も含め……我々をここに誘い入れた者のことさ」

加賀「…………」

ジャン「きっともう外に出られるだろう……加賀、といったか」

加賀「あなたのお名前はなんというの?」

ジャン「脚蛮醤。ロケットの男は藤島六郎だ」

加賀「ギャバン・ジャン、六郎……ね」

加賀は手持ちの手帳にメモをすると、それをポケットにしまって監守室の外へ出た。



加賀は満身創痍の桐生のもとへは行かず、真っ直ぐエントランスに向かって歩いていた。
両腕を伸ばし、腰を回しながら扉へ向かって歩く。
彼女にはわかっていた。今日の戦いは……まだ終わっていないことを。


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ガラス戸を押し開け、ホテルの外へ出た。
空には厚い雲がかかり、薄暗くなっている。
加賀の視線の先には……一人の奇妙な男が立っていた。


体をくねらせ、微妙にアンバランスな姿勢で立っている。
なにより奇妙なのは、その長身と体格に見合わぬ容姿だった。
坊ちゃん刈りの頭に丸眼鏡、黄色いセーターに半ズボン。
子どものような服装ではあったが、その眼光と表情は中学生、高校生とも思えぬ大人の風格を漂わせていた。


加賀「こんなふざけた格好のあなたが……すべての元凶だったわけね」

???「元凶だって……? 僕は『何も悪くない』」

男は姿勢を変え、背後からスタンドと思しきヴィジョンが姿を現す。
人型だが、頭には猫耳が、腹部に洗面器大の半円のポケットがついている。

信田「自己紹介が遅れたね。……名乗らせていただこう、信田信夫(ノブタ ノブオ)。そして我がスタンド『アリウム・セパ=エイト・ハンドレッド』だ」

加賀「…………はじめからこの一件は、トーナメントとは何の関係もなかったということね」

信田「Exactly, 僕がこの舞台を用意し、君やあの2人の男に招待状を送ったのさ。……もう1人の男は予想外だったがね」

加賀「あのトーナメントの優勝者をどうやって調べたのかしら。ロンドン市警でもあのトーナメントのことは何一つ情報を得られなかったのに」

信田「……僕には信頼できる友達がいるんだ。『未来から来たお友達』がね。彼の『シークレット・アーツ(ひみつ道具)』を使えば、わけないことさ」

加賀「コ○助?」

信田「違う」

加賀「……あなたの言っていることは答えにはなっていないけれど……それじゃあ、トーナメント運営と同じ捺印の押された手紙を作ったのは?」

信田「それも『未来から来たお友達』に協力してもらった。あの手紙は僕のもとにも届いていたからね、複製は容易いことさ。報酬はドラ焼き1個だった」

加賀「……それじゃあ、ホテルを奇妙な力で封鎖したのは?」

信田「それも『未来から来たお友達』に」

加賀「もういいわ……何を聞いてもそう返すのでしょうね。彼ら2人を私と戦うように仕向けたのも、お友達の力とでも言うのかしら?」

信田「……それだけは、この僕自身の力さ」

加賀「え?」

信田「僕は1週間前に彼ら2人をホテルに閉じ込めた後、2人を相手に戦った。彼らに僕を恨ませるために、彼らを閉じ込めた『責任』は僕にあると……理解させるためにね」

加賀「……『責任』?」

信田「『アリウム・セパ=エイト・ハンドレッド』の能力は、『責任』を『転嫁』する能力……君はコレに見覚えはあるかな?」

そう言って信田がポケットから取り出したのは、ひとつの『財布』だった。

加賀「それは……! 空港でスられた『私の財布』じゃない!!」

信田「そのとおり。ああ、財布はあとでお返しするよ。僕の目的はこんなはした金じゃない。君に触れることにあったのだから……!」

加賀「……フ、そういう理屈だったのね。なぜ彼らが突然私を襲ってきたのか……理解できたわ」

信田「察しがいいね。そう、君に触れたとき『責任』を『転嫁』したのさ。僕が彼らを騙し、ここへ招いたこと、彼らを打ちのめし、閉じ込めたこと……

   それらすべては『君がやったこと』だとこじつけられ、彼らにそう思わせた!」

加賀「こんなことをして……何が目的なの?」

信田「これは僕の『リベンジ』なのさ。先のトーナメントで僕は初戦で苦汁を嘗めた。だが『僕は悪くない』。悪かったのは組み合わせのせいだったんだ。

   僕が強いことを証明するには……そのトーナメントの優勝者に勝つことが一番だと考えた」

加賀「……勝ち進んだばっかりに、くだらないことに巻き込まれてしまったわ」

信田「ただ優勝しただけの者に勝つのでは足りない……その優勝者の中でもさらに強い者、それを倒すことで僕の汚名は返上できる。

   加賀御守道、僕が負けたときのトーナメントの優勝者である君なら……さらにうってつけだな」

加賀「さっきからずっと負けフラグビンビンにおっ立ててるわよ」

信田「負けはしないさ……僕はあれから成長したからね。能力には頼らず、自らのスタンドのパワーを信じる。

   『アリウム・セパ=エイト・ハンドレッド』の比類なきパワーをね」

加賀「……たったひとつ、許せないことがあるわ」

信田「聞こうじゃないか」

加賀「空港で、私は財布をお尻のポケットに入れていた……」

信田「…………」



加賀「あなた、私のお尻に触れたのね?」

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信田「……いかにも。あえて言わなかったがそのとおりだ」

加賀「仮にも女子としては許せないことだわ」

信田「だからどうだと言うんだ? ……正直、触っても何も感じなかったね」

加賀「……ふん、男レベルが低いわね。やはりまだ子どもというところかしら」

信田「どういうことかな?」

加賀「この鍛え抜かれた体の、引き締まったお尻の魅力がわからないとはね……」

信田「だから、それがたいしたことないというのだ」

加賀「何ですって?」



信田「あのトーナメントの時に触れた……あの巨乳の柔らかさ、心地よさに比べたらな」

加賀「……巨乳ですって!?」


その言葉を聞いた瞬間、加賀の表情が変わった。
驚いたわけでも、軽蔑したわけでもない。
それは……かつてないほどの憤怒。

加賀「惑火ちゃんのことかァァァァァアアアアアアアアッッッ!!!」

信田「……フン、そういえば出会っていたのだったな」

加賀「『ニール・コドリング』!!」

N・C「ホイサァ! ……ウワッ! 髪ガ逆立ッテル!!」

加賀「これほど怒りを感じたことはないわ……私でさえ下着姿を見ただけで、触れることはできなかったのに……!」

N・C「何ニ怒ッテルンダ?」

加賀「コイツをブチのめすわよ。こいつをコテンパンにするか、惑火ちゃんのおっぱいを揉まなければ、こいつの上に立つことはできないわ」

N・C「イヤ、素直ニコイツヲ倒ソウゼ」

信田「果たしてできるかな……忘れたのか? 私はあの2人の男と同時に戦って勝っているのだぞ!!」

加賀「そんなの関係あるかァッ!!」

加賀が万年筆を前にかざすと、その先からは『ニール・コドリング』のインクが高波のように勢いよく、高く、広がった。

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N・C「ウオッ! スゴイパワーガミナギッテクルゼ!! コレガ怒リノパワーカ……!!」

ニール・コドリングは巨人のごとく大きくなり、信田の前に立ちふさがった。

N・C「ウォリャーーーーーーッ!!」

信田に向かって振り下ろすパンチは軽やかに避けられてしまうが、地面に突き立てられた拳はアスファルトを割った。

信田「こ、これは……なんという精神力! だが、『アリウム・セパ=エイト・ハンドレッド』の敵ではないッ!!」

「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラーーーーーーーーッッ!!」

目にも留まらぬ速さのラッシュをニール・コドリングの巨体に打ちつけていく。

無数のパンチはインクの体を何度も弾けさせ、ニール・コドリングの体は縮んでいく。

信田「所詮はインク……耐久性など無いに等しいッ! まもなく打ち消し尽くしてくれる!!」

「ド~~ラドラドラドラドラドラドラドラドララララーーーーーーーーッッ!!」

ラッシュの最中にもニール・コドリングは岩石ほどの拳を打ち下ろすが、スピードはアリウム・セパ=エイト・ハンドレッドが上回っている。

ニール・コドリングのパンチはスルリと避けられ、アリウム・セパ=エイト・ハンドレッドのラッシュはニール・コドリングを削っていった。

信田(姿を現せ、加賀御守道ッ! そのときこそ貴様を吹き飛ばし、王者の名誉を奪ってやる!)

信田「…………ハッ!」

アリウム・セパ=エイト・ハンドレッドがニール・コドリングの体を人の大きさほどまで縮めたとき、加賀の姿はその背後には無かった。


加賀「スタンドのパワーがいくら強くとも、『あなた自身』が強くならない限り私には勝てないわ」

信田「……! 後ろだ、アリウム・セパ=エイト・ハンドレッド……」

加賀「無駄ァ!!」


信田がニール・コドリングに気を取られている間に背後に回った加賀は、信田が振り向く前に渾身の蹴りを股間に放った。


信田「なぁっ!?」

悶絶するほどの衝撃が下半身から脊椎、脳に走った。

視界がまたたき、信田は内股になって地面に崩れ落ちた。

加賀「惑火ちゃんがあなたに勝ったということは、すでに制裁は加えられたのだろうけど……

   私の怒りも晴らさせてもらうわ……『ニール・コドリング』!!」

加賀の号令でニール・コドリングは再び巨体に膨れ上がった。
そして拳をおおきく振りかぶり……

加賀「ぶっ飛べ、エロ小僧ッ!」


地面に突っ伏した信田に対し、さらに下から突き上げるようなアッパーは、
ちょうど膝をついて尻が持ち上がったところへ下から腹に命中し、体が持ち上げられた。

信田「あがっ、あじゃはぁぁぁぁぁぁっ!?」

かつて自分が図書館で惑火にされたように、
人間砲弾かのように空へ向かって撃ちだされた。
吹き飛ばされた体ははるか遠く、ホテルそばのスキー場のゲレンデの林の中へ突っ込んだ。

加賀「信田信夫……てめーの敗因はたったひとつ……この言葉がとてもふさわしいわね」

加賀は信田の突っ込んでった林に向かって万年筆を向けて言い放った。

加賀「『てめーは俺を怒らせた』」

ドォ―――――――――z___________ン







信田信夫……『未来から来たお友達』が家に連れ帰る。
      その道中、何度も何度も叱責を受けた。しかし、まだ懲りている様子はないようだ。

脚蛮醤……桐生を六郎に任せ、姿を消す。スタンドの修行をやり直すようだ。

藤島六郎……桐生を近くの病院に連れ、しばらく見舞いに通った。

桐生麗……全治2ヶ月の傷を負い、入院した。加賀にリベンジするという目的をすっかり忘れてしまっていた。
     本来関係がなかったのに一番ケガの多かった不幸な男。

加賀御守道……秋田市から日本海側を沿う電車の旅に出たが、一人旅がつまらなかったのか一日でさっさとイギリスへ帰国してしまった。




【ニール・コドリング & コスモ・スピード
                  vs
                クレセント・ロック & ドッグ・マン・スター】
STAGE:スキー場のホテル

勝者……ニール・コドリング/加賀御守道
     コスモ・スピード/桐生麗

【ニール・コドリング vs アリウム・セパ=エイト・ハンドレッド】
STAGE:ホテルの外

★勝者:
本体名 加賀御守道
スタンド名『ニール・コドリング』










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