歪な金属を木槌で打つような音が耳に残る。
固められた血液の盾は生半可な攻撃ではびくともせず、777の魔法を容易く弾き返す。
しかしさしものバルテーリエといえど無敵ではない。ウェーニバルの強烈な蹴りが炸裂するたびにパキリとへし折れる。
固められた血液の盾は生半可な攻撃ではびくともせず、777の魔法を容易く弾き返す。
しかしさしものバルテーリエといえど無敵ではない。ウェーニバルの強烈な蹴りが炸裂するたびにパキリとへし折れる。
「懲りないな」
「それはこっちの台詞だヨっ!」
「それはこっちの台詞だヨっ!」
しかしすぐさま再生する盾はリュグナーを護るため的確な位置へ枝を伸ばす。
隙間を狙おうと777が狙撃したところで臨機応変に変形するそれの防御は崩せない。返される血の刃がウェーニバルに襲いかかるも、ネモの声に合わせた回避が実を結んだ。
隙間を狙おうと777が狙撃したところで臨機応変に変形するそれの防御は崩せない。返される血の刃がウェーニバルに襲いかかるも、ネモの声に合わせた回避が実を結んだ。
「ねぇ、あなた! 防御ばっかでつまらないよ、もっと攻めてきて!」
「なにを馬鹿な。片腕を負傷して数の利はそちらにあるんだ、馬鹿正直に付き合ってやるつもりはない」
「……たしかニ! ネモ、ちょっとカワイソウだヨ!」
「言われてみれば……! ごめん、今のナシ!」
「なにを馬鹿な。片腕を負傷して数の利はそちらにあるんだ、馬鹿正直に付き合ってやるつもりはない」
「……たしかニ! ネモ、ちょっとカワイソウだヨ!」
「言われてみれば……! ごめん、今のナシ!」
調子が狂う。
この戦いを一言で表すのならばこれだ。
既に述べたようにリュグナーは条件で見れば不利に立たされている。クロノに受けた片腕の傷は自然治癒では治りそうもないし、予想よりもこの二人の実力は高い。
特にネモの使役するウェーニバルの攻撃は直撃すればタダでは済まないだろう。なのになぜリュグナーが毅然とした余裕を見せているのか。
この戦いを一言で表すのならばこれだ。
既に述べたようにリュグナーは条件で見れば不利に立たされている。クロノに受けた片腕の傷は自然治癒では治りそうもないし、予想よりもこの二人の実力は高い。
特にネモの使役するウェーニバルの攻撃は直撃すればタダでは済まないだろう。なのになぜリュグナーが毅然とした余裕を見せているのか。
(さて、どのくらい時間を稼げばいいか。五分もあれば終わるとは思うが……)
それこそがソリテールの存在。
リュグナーはソリテールの力を信じている。そう言えば聞こえはいいが、その実態は盲信に近い。
リュグナーはソリテールの力を信じている。そう言えば聞こえはいいが、その実態は盲信に近い。
彼女ほどの大魔族が勇者一行でもない人間程度に遅れを取るはずがない。すぐに片付けてこちらの加勢に赴いてくれることだろう。
それまでの時間稼ぎに徹すればいいのだから、この戦いでの勝利は重要ではない。むしろ下手に殺してしまうとソリテールの機嫌を損ねかねない。
それまでの時間稼ぎに徹すればいいのだから、この戦いでの勝利は重要ではない。むしろ下手に殺してしまうとソリテールの機嫌を損ねかねない。
「君たちはなぜ戦う? 我々は考え方こそ違えど志は同じだと思っているのだが」
ゆえにリュグナーは〝会話〟という手段を選んだ。
「どーいうこと?」
「我々はあの古砂夢という女に巻き込まれた被害者だ。そしてこの催しを破壊しようと考えている、そこに相違はないはずだ」
「ソーイ?」
「……この殺し合いに反対する気持ちは一緒だと、そう言いたいんだよ」
「我々はあの古砂夢という女に巻き込まれた被害者だ。そしてこの催しを破壊しようと考えている、そこに相違はないはずだ」
「ソーイ?」
「……この殺し合いに反対する気持ちは一緒だと、そう言いたいんだよ」
元を辿ればこの戦い、意味などないのだ。
リュグナーもソリテールも主催側への怒りをいの一番とし反逆の道を辿らんと歩を進めたのだから、ここは互いに手を取るのが道理。
そうなっていない理由は魔族と人間の考え方の違いにある。777という少女はリュグナーからしても人間ではないように見えたが、人に靡く時点で同類だ。
リュグナーもソリテールも主催側への怒りをいの一番とし反逆の道を辿らんと歩を進めたのだから、ここは互いに手を取るのが道理。
そうなっていない理由は魔族と人間の考え方の違いにある。777という少女はリュグナーからしても人間ではないように見えたが、人に靡く時点で同類だ。
「君たちの理想はわかる。誰も死なないのならばそれに越したことはない、が……ここまで大規模な殺し合いである以上血が流れるのは必然だろう。我々は多少手を汚してでも脱出の手掛かりを掴み、大多数を救いたい。その気持ちに偽りはないんだ」
「……じゃあ、殺し合いに反対するのは一緒なの?」
「ああ、私にも守りたいものがある。それを守るためなら心を鬼にするさ」
「……じゃあ、殺し合いに反対するのは一緒なの?」
「ああ、私にも守りたいものがある。それを守るためなら心を鬼にするさ」
そう、こう言えば人は攻撃できない。
現に777もネモも戦う手をやめている。
現に777もネモも戦う手をやめている。
「でも…………」
「我々には言葉がある。こうして戦いに身を投じるなど、それこそあの古砂夢の思惑通りじゃないか?」
「我々には言葉がある。こうして戦いに身を投じるなど、それこそあの古砂夢の思惑通りじゃないか?」
手応えはある。
口淀む777はどうすればいいのかわからないといった様子だ。ネモを言いくるめるのもそう時間はかからないだろう。
実際のところこの二人の命などどうでもいい。主催打倒の手がかりとして利用出来るかもしれないという、ただそれだけの理由だ。
口淀む777はどうすればいいのかわからないといった様子だ。ネモを言いくるめるのもそう時間はかからないだろう。
実際のところこの二人の命などどうでもいい。主催打倒の手がかりとして利用出来るかもしれないという、ただそれだけの理由だ。
(言葉とは便利なものだ)
心からそう思う。
幾らでも取り繕えば都合のいいように受け取ってくれる。それが殺し合いという状況下でならば尚更、不安という心理を突いてしまえばどうとでもなるだろう。
考え込む777はもう篭絡したも同然。ならばネモの方は──と、視線を移した途端燃え上がる瞳に射抜かれた。
幾らでも取り繕えば都合のいいように受け取ってくれる。それが殺し合いという状況下でならば尚更、不安という心理を突いてしまえばどうとでもなるだろう。
考え込む777はもう篭絡したも同然。ならばネモの方は──と、視線を移した途端燃え上がる瞳に射抜かれた。
「悪いけど、そういう大人な考え方はあんまりできないんだ。私さ、自分が正しい! って思った道を歩くのが正解だと思ってるからね」
「なに…………?」
「なに…………?」
耳を疑う。
この女、正気か?
そんなつまらない理想論で乗り越えられるほどこの殺し合いは甘くはない。あの会場で二人の死者が出ている以上理解しているはずだ。
なのになぜ、この女の瞳はこんなにも強く輝いているんだ。
そんなつまらない理想論で乗り越えられるほどこの殺し合いは甘くはない。あの会場で二人の死者が出ている以上理解しているはずだ。
なのになぜ、この女の瞳はこんなにも強く輝いているんだ。
「クラベル校長ならきっとこう言うと思う。後悔のないように生きてください、ってね! 私は貴方の言う賢い生き方をするより、どんなに無謀でも理想を掲げたまま生きたい! じゃないときっと後悔することになるから!」
「な、777もっ! もし誰かをギセイにしたラ、零たちが悲しむヨ!」
「な、777もっ! もし誰かをギセイにしたラ、零たちが悲しむヨ!」
拳を握るネモに釣られて777も声を高らかに宣言する。その顔にもう迷いはない。
面倒だと心中辟易する。言葉で時間を稼ぐ手は悪手だったらしい、結果を見ればより二人の行動から迷いを取り去っただけに終わった。
面倒だと心中辟易する。言葉で時間を稼ぐ手は悪手だったらしい、結果を見ればより二人の行動から迷いを取り去っただけに終わった。
「それに────」
もはやロクな答えが返ってくるとは思っていないが、やはり二人の表情を見るに自分が望む返答ではないらしい。
血の盾を展開しながら様子を伺うが、予想以上の衝撃がそれを打ち破った。
血の盾を展開しながら様子を伺うが、予想以上の衝撃がそれを打ち破った。
「バトルするの、楽しいから!」
「戦うの、楽しいかラ!」
「戦うの、楽しいかラ!」
──イカれている。
砕け散る盾を再展開し、反撃の赤刃をネモの元へと飛来させる。
ポケモンの方を攻撃するのは難しいが本体であるトレーナーを狙えば話は別だ。隻腕といえど、放たれたそれはただの人間が容易に回避できるような甘い斬撃ではない。
が、ネモは回避する素振りすら見せていない。彼女の頭部が串刺しになる数刻先の未来を確信するが、二つの意味でその的は外れることとなった。
ポケモンの方を攻撃するのは難しいが本体であるトレーナーを狙えば話は別だ。隻腕といえど、放たれたそれはただの人間が容易に回避できるような甘い斬撃ではない。
が、ネモは回避する素振りすら見せていない。彼女の頭部が串刺しになる数刻先の未来を確信するが、二つの意味でその的は外れることとなった。
「エピクロスッ!」
突如、777という少女の姿が白い異形へと変貌を遂げた。
白銀を思わせる甲殻に黒い蛇を模した下半身。なによりも目立つのは身の丈程もある巨大な鎌。
月光裂く勢いで振り下ろされた大鎌はバルテーリエの薄刃とかち合い、それを粉砕する。舞い落ちる赤い結晶がキラキラと乱反射する中で、ネモの視線はリュグナーだけに注がれていた。
白銀を思わせる甲殻に黒い蛇を模した下半身。なによりも目立つのは身の丈程もある巨大な鎌。
月光裂く勢いで振り下ろされた大鎌はバルテーリエの薄刃とかち合い、それを粉砕する。舞い落ちる赤い結晶がキラキラと乱反射する中で、ネモの視線はリュグナーだけに注がれていた。
(まずい、)
よもや姿が変わるとは予想外だった。次の一手に僅かばかり影響が出る。
ウェーニバルを相手しながらあの大鎌を突破するのは至難の業だ。司令塔を叩くのは一度後回しにした方がいいだろう。
いや、よく考えればなにも反撃をする必要はない。もうじきソリテールたちの戦いも決着がつく頃だろう。守りに徹していればいい話だ。
ウェーニバルを相手しながらあの大鎌を突破するのは至難の業だ。司令塔を叩くのは一度後回しにした方がいいだろう。
いや、よく考えればなにも反撃をする必要はない。もうじきソリテールたちの戦いも決着がつく頃だろう。守りに徹していればいい話だ。
「ウェーニバル、アクアステップ!」
馬鹿の一つ覚えとはよく言ったものだ。
その技はもう見切っている。盾の展開は十分に間に合うだろう。
リュグナーは冷静にバルテーリエを守護に回し──常識外の衝撃が脳を揺さぶった。
その技はもう見切っている。盾の展開は十分に間に合うだろう。
リュグナーは冷静にバルテーリエを守護に回し──常識外の衝撃が脳を揺さぶった。
(────は?)
持ち前の悠揚迫らぬ態度は音を立てて崩れ去る。
気持ちの悪い浮遊感がより頭を疑問符で埋めつくしてゆく。頬を蹴り抜かれたのだと、その時初めて気がついた。
バルテーリエは確かに展開したはず。まさか、それを上回る速度で攻撃されたのか。
フェルンという熟練の魔法使いが放つ最速のゾルトラークにも対応したこの魔法が、速度で上回られたというのか。
気持ちの悪い浮遊感がより頭を疑問符で埋めつくしてゆく。頬を蹴り抜かれたのだと、その時初めて気がついた。
バルテーリエは確かに展開したはず。まさか、それを上回る速度で攻撃されたのか。
フェルンという熟練の魔法使いが放つ最速のゾルトラークにも対応したこの魔法が、速度で上回られたというのか。
「よし、決まった! ウェーニバル、もう一発!」
「777も援護するよ! どり~み~っ!」
「777も援護するよ! どり~み~っ!」
転がる身体を血のクッションで受け止め体勢を立て直す。側面から襲いかかる777の波状攻撃を防ぎつつ、ウェーニバルの舞踏に備える。
魔力消費が激しい分全面展開は難しい。さきほど視界に捉えた時には前方向にいたはずだ、前の守りさえ固めていれば────
魔力消費が激しい分全面展開は難しい。さきほど視界に捉えた時には前方向にいたはずだ、前の守りさえ固めていれば────
瞬間、視界が反転する。
今度は背後から脇腹に突き刺さった。メキリという嫌な音が聞こえたかと思えば二度、三度と地面をバウンドしようやく止まる。
顔を見上げた先には既にあの魔物の姿はない。ここにきてリュグナーは先に抱いた危惧が事実であったことを思い知らされた。
今度は背後から脇腹に突き刺さった。メキリという嫌な音が聞こえたかと思えば二度、三度と地面をバウンドしようやく止まる。
顔を見上げた先には既にあの魔物の姿はない。ここにきてリュグナーは先に抱いた危惧が事実であったことを思い知らされた。
(間違いない……こいつ、加速している……!)
ウェーニバルのアクアステップは直接攻撃に加え、自身のすばやさを一段階上昇させる効果を持つ。
ネモはなにも無策でこの技を連発していたわけではない。バルテーリエの鉄壁を突破するため、その展開が追いつかないほど速度を上げる必要があると判断したのだ。
現状ウェーニバルは三段階の恩恵を受けている。もはやリュグナーの魔法が追いつけるような土俵ではない。
ネモはなにも無策でこの技を連発していたわけではない。バルテーリエの鉄壁を突破するため、その展開が追いつかないほど速度を上げる必要があると判断したのだ。
現状ウェーニバルは三段階の恩恵を受けている。もはやリュグナーの魔法が追いつけるような土俵ではない。
「バルテーリエ」
「うわわっ!?」
「うわわっ!?」
この際魔力消費など気にしていられない。
盾を全方位に展開し、針の穴ほどの攻め入る隙も与えない作戦。加えて全体に生えた棘が攻撃を躊躇わせる。
777の魔法が懸命にそれを壊さんとするも、守りに徹したバルテーリエを破壊するには威力不足だ。
どうしよう、と777が嘆く。しかしネモは既に活路を見出しているようで、持ち前の自信満々な笑顔で応えた。
盾を全方位に展開し、針の穴ほどの攻め入る隙も与えない作戦。加えて全体に生えた棘が攻撃を躊躇わせる。
777の魔法が懸命にそれを壊さんとするも、守りに徹したバルテーリエを破壊するには威力不足だ。
どうしよう、と777が嘆く。しかしネモは既に活路を見出しているようで、持ち前の自信満々な笑顔で応えた。
「ウェーニバル、アクロバット!」
「…………な、……」
「…………な、……」
確かに、地上での戦いであれば攻める手立てはないかもしれない。
しかし生憎、ウェーニバルの翼は伊達ではない。白鳥の如く飛び立った彼は無敵の盾の唯一の穴──上方からリュグナーへと襲いかかる。
見上げた頃にはもう遅い。邪魔な道具を持ち合わせていない分身軽さを前面に出したその技は、驚異的な威力を発揮する。
しかし生憎、ウェーニバルの翼は伊達ではない。白鳥の如く飛び立った彼は無敵の盾の唯一の穴──上方からリュグナーへと襲いかかる。
見上げた頃にはもう遅い。邪魔な道具を持ち合わせていない分身軽さを前面に出したその技は、驚異的な威力を発揮する。
「…………随分、見下ろしてくれるじゃないか」
強烈な踵落としがリュグナーの脳に炸裂。
必殺の威力を持つそれをモロに喰らったせいで急激に意識が遠のいていく。
少女たちの歓声を聞き届ける間もなく、魔族の知覚は深い闇へと沈んでいった。
必殺の威力を持つそれをモロに喰らったせいで急激に意識が遠のいていく。
少女たちの歓声を聞き届ける間もなく、魔族の知覚は深い闇へと沈んでいった。
◾︎
着地を決めるクロノが見据える先。
巻き上がる塵煙が行く末を隠す暖簾の如く、彼の警戒を未だ解こうとしてくれない。
完全に仕留めるつもりで放った最上級魔法だ。むしろこれで倒れてくれていなかったら困る。
巻き上がる塵煙が行く末を隠す暖簾の如く、彼の警戒を未だ解こうとしてくれない。
完全に仕留めるつもりで放った最上級魔法だ。むしろこれで倒れてくれていなかったら困る。
「人を殺す魔法(ゾルトラーク)」
瞬間、黒い閃光が煙を晴らした。
速い──! 気を弛めたつもりのないクロノから見てもそう言わしめるそれは完全な回避を許さず、その右脇腹を灼く。
苦悶の声を上げるまもなくクロノは体勢を立て直し、徐々に浮かび上がる影へと睥睨を注いだ。
速い──! 気を弛めたつもりのないクロノから見てもそう言わしめるそれは完全な回避を許さず、その右脇腹を灼く。
苦悶の声を上げるまもなくクロノは体勢を立て直し、徐々に浮かび上がる影へと睥睨を注いだ。
「ふふ、うふふふ……! 今の魔法、一体なあに? 私でも知らない魔法があるなんて、本当におもしろい……!」
ようやく煙が晴れ、全貌が明らかとなる。
両の頬に自身の手を添え恍惚とした笑顔を浮かべる女の姿は誰が見ても〝異常〟と捉えるだろう。
その表情とは不釣り合いなまでに、その左半身の皮膚は大きく焼け爛れていたのだから。
両の頬に自身の手を添え恍惚とした笑顔を浮かべる女の姿は誰が見ても〝異常〟と捉えるだろう。
その表情とは不釣り合いなまでに、その左半身の皮膚は大きく焼け爛れていたのだから。
「参ったね、倒れてくれりゃ楽だったんだが」
「ええ…………ふふ、私も死ぬかと思ったわ。……命の危機を覚えるなんて、いつぶりかしら?」
「ええ…………ふふ、私も死ぬかと思ったわ。……命の危機を覚えるなんて、いつぶりかしら?」
あの瞬間、ソリテールは防御魔法を捨てた。
理由は単純、防御魔法如きで防げる威力ではなかったからだ。ならばソリテールはなんの抵抗もなく受け入れたのかと問われれば、それは違う。
彼女はフリーレンにも匹敵するほどの膨大な魔力がある。その魔力を凝縮して放出すれば、高圧縮のゾルトラークさえ無傷で防ぎ切るほどの盾となる。
無論それは人類の歴史と共に進化を遂げた防御魔法と比べれば不安定で、かつ局所的。掌からしか生成できない分どうしても防げる範囲には限界がある。
それでもあのシャイニングをこれだけの被害でやり過ごせたのだから御の字と言えよう。
理由は単純、防御魔法如きで防げる威力ではなかったからだ。ならばソリテールはなんの抵抗もなく受け入れたのかと問われれば、それは違う。
彼女はフリーレンにも匹敵するほどの膨大な魔力がある。その魔力を凝縮して放出すれば、高圧縮のゾルトラークさえ無傷で防ぎ切るほどの盾となる。
無論それは人類の歴史と共に進化を遂げた防御魔法と比べれば不安定で、かつ局所的。掌からしか生成できない分どうしても防げる範囲には限界がある。
それでもあのシャイニングをこれだけの被害でやり過ごせたのだから御の字と言えよう。
──それに、戦果はそれだけではない。
「けれどもう終わり。〝それ〟じゃもう戦えないでしょう?」
妖艶な瞳が射抜くのはクロノが持つまぞく寝かせ棒。
その先端は大きく欠け、バラバラと破片を撒き散らしていく。如何に頑丈といえど所詮は木の棒、この規模の戦いについてこれるほどの業物ではない。
武器をなくした戦士に出来ることなど限られている。無論クロノに限ってはさきほどの魔法という手段もあるが、ソリテール相手に魔法の撃ち合いなど分が悪いだろう。
その先端は大きく欠け、バラバラと破片を撒き散らしていく。如何に頑丈といえど所詮は木の棒、この規模の戦いについてこれるほどの業物ではない。
武器をなくした戦士に出来ることなど限られている。無論クロノに限ってはさきほどの魔法という手段もあるが、ソリテール相手に魔法の撃ち合いなど分が悪いだろう。
「はやんなよ、こっちはまだ戦えるぜ?」
「さっきの光の魔法を見る限り、君の詠唱よりもこちらの方が早い。……一度見せた魔法が私に通用すると思う?」
「さっきの光の魔法を見る限り、君の詠唱よりもこちらの方が早い。……一度見せた魔法が私に通用すると思う?」
クロノは舌打ちを鳴らす。
シャイニングはその威力こそ絶大ではあるものの発動までの隙が大きい。本来それをカバー出来る味方あってこそのものだ。あの場で撃てたのは意表を突けたからに他ならない。
すなわち、もう二度とソリテールには通用しない。
シャイニングはその威力こそ絶大ではあるものの発動までの隙が大きい。本来それをカバー出来る味方あってこそのものだ。あの場で撃てたのは意表を突けたからに他ならない。
すなわち、もう二度とソリテールには通用しない。
「ねぇ、今からでも遅くないわ。手を組まない? 私と君の力があればこの殺し合いを打破することも可能だと思うけれど」
「レディのお誘いは断りたくないんだけどな、あいにく先約があるんでね。……それに、おたくのお仲間が嫉妬しちまうぜ?」
「何言ってるの? 私に仲間なんていないわ」
「…………なんだって?」
「レディのお誘いは断りたくないんだけどな、あいにく先約があるんでね。……それに、おたくのお仲間が嫉妬しちまうぜ?」
「何言ってるの? 私に仲間なんていないわ」
「…………なんだって?」
勝利を確信しているからこそソリテールは饒舌になる。
体力を回復するためそれに付き合ってやるクロノだったが、予想外のひとことに思わず聞き返すこととなった。
首を傾げ、純真とも言える仕草で考え込むソリテールは暫しあとに合点がいったように頷いた。
体力を回復するためそれに付き合ってやるクロノだったが、予想外のひとことに思わず聞き返すこととなった。
首を傾げ、純真とも言える仕草で考え込むソリテールは暫しあとに合点がいったように頷いた。
「ああ、リュグナーのことかしら。〝アレ〟はそういうのじゃないよ。……そうね、よく働いてくれるとは思っているけど」
「…………、やっぱりあんたとは反りが合わねぇみたいだ」
「あら、なにが気に障ったのかしら。……けれど、いいの? ここで手を組めばこの悪趣味な遊戯を終わらせる大きな一歩になるのに」
「…………、やっぱりあんたとは反りが合わねぇみたいだ」
「あら、なにが気に障ったのかしら。……けれど、いいの? ここで手を組めばこの悪趣味な遊戯を終わらせる大きな一歩になるのに」
たしかに、彼女たちと同盟を組む事は主催側への大きな反逆になるかもしれない。
単純に頭数が増えるのもそうだが、ソリテールは上澄みの戦力を有していると言っていいだろう。アリスドームの情報を持っている可能性もある。
単純に頭数が増えるのもそうだが、ソリテールは上澄みの戦力を有していると言っていいだろう。アリスドームの情報を持っている可能性もある。
けれど、
それでも、
それでも、
クロノには譲れないものがあった。
「この殺し合いが終わるまでに、一体何人殺すんだ?」
きっとこの女は躊躇いなく人を殺す。
悪人は勿論、善人であろうとそれが情報のためならばと喜んで殺すだろう。
リュグナーを捨て駒として見ているのがその証拠だ。この女にとって自分以外のものは利用価値のあるか否かの判断基準で存在している。
そんな道を共に歩むくらいなら、ここで相討ちになった方がマシだ。
悪人は勿論、善人であろうとそれが情報のためならばと喜んで殺すだろう。
リュグナーを捨て駒として見ているのがその証拠だ。この女にとって自分以外のものは利用価値のあるか否かの判断基準で存在している。
そんな道を共に歩むくらいなら、ここで相討ちになった方がマシだ。
「だれも殺さないよ、安心して」
────嘘だ。
漂う死臭が答えを裏付ける。
漂う死臭が答えを裏付ける。
「これは会話じゃねぇな」
もはや問答は不要。
無手であるにも関わらず闘志を燃やすクロノに対し、ソリテールは心底残念そうに眉尻を下げれば「そう」と一言。
次いで魔力を練り上げて、次の算段を打つ。
無手であるにも関わらず闘志を燃やすクロノに対し、ソリテールは心底残念そうに眉尻を下げれば「そう」と一言。
次いで魔力を練り上げて、次の算段を打つ。
もうクロノは戦えない。
彼の武力は武器ありきのものだ。先程の魔法も十分対処出来る。
さっきのように空中に避難して一方的に大剣を降らせ、ゾルトラークを連発しているだけで問題なく勝てるだろう。
回避しようにもあの脇腹の傷ではそう機敏には動けまい。これ以上ない消化試合だ。
口惜しく思いながらもクロノの処刑のため飛行魔法を行おうとして────踏みとどまった。
彼の武力は武器ありきのものだ。先程の魔法も十分対処出来る。
さっきのように空中に避難して一方的に大剣を降らせ、ゾルトラークを連発しているだけで問題なく勝てるだろう。
回避しようにもあの脇腹の傷ではそう機敏には動けまい。これ以上ない消化試合だ。
口惜しく思いながらもクロノの処刑のため飛行魔法を行おうとして────踏みとどまった。
(────……ダメね。まだ私は心のどこかで彼を侮っている)
魔族の死因の九割が油断と驕りによるもの。
今まさにソリテールが抱いたものがそれだ。クロノが手の内を見せたという前提で皮算用を進めてしまっていた。
もしもクロノがまだ奥の手を隠し持っていたら。もしもクロノの支給品に別の武器が渡されていたら。
それに、ネモたちが駆け付けてくるのも時間の問題だ。彼女らの実力から推察するにリュグナーが敗北する可能性は高いだろう。
今まさにソリテールが抱いたものがそれだ。クロノが手の内を見せたという前提で皮算用を進めてしまっていた。
もしもクロノがまだ奥の手を隠し持っていたら。もしもクロノの支給品に別の武器が渡されていたら。
それに、ネモたちが駆け付けてくるのも時間の問題だ。彼女らの実力から推察するにリュグナーが敗北する可能性は高いだろう。
出し惜しみをしていい相手ではない。
リスクを冒してでもこの戦いには勝たなければならない。下手を打てば狩られるのは自分なのかもしれないのだから。
リスクを冒してでもこの戦いには勝たなければならない。下手を打てば狩られるのは自分なのかもしれないのだから。
長期戦は不利。短期決戦で仕留める。
ソリテールの取るべき行動は決まっていた。
ソリテールの取るべき行動は決まっていた。
「…………な、っ……!?」
飛行魔法を駆使してクロノの元へ急接近するソリテール。
距離を取られることを想定していたクロノは僅か一瞬動揺する。
無防備となった彼の胸元へ翳される掌。力を込めれば手折れてしまいそうなほど華奢なそれはしかし、この瞬間においては砲弾にも勝る凶器となる。
距離を取られることを想定していたクロノは僅か一瞬動揺する。
無防備となった彼の胸元へ翳される掌。力を込めれば手折れてしまいそうなほど華奢なそれはしかし、この瞬間においては砲弾にも勝る凶器となる。
「──────か゛、……っ……!!」
衝撃、次いで激痛。
堅牢な筋肉を貫通し、骨を軋ませ、内蔵が千切れるような地獄を見た。自分の身体がどうなったのかなんて考える間もなく意識が白飛びする。
突如重力の向きが変わったかのように肉体が水平に吹き飛ぶ。急速に移り変わる景色に目が追いつかず、廃墟の壁に半円状のクレーターを残してようやく止まった。
ガラガラと崩れ落ちる瓦礫とそれが起こす砂埃。惨状の前に降り立つソリテールの口元は歪な三日月を描いていた。
堅牢な筋肉を貫通し、骨を軋ませ、内蔵が千切れるような地獄を見た。自分の身体がどうなったのかなんて考える間もなく意識が白飛びする。
突如重力の向きが変わったかのように肉体が水平に吹き飛ぶ。急速に移り変わる景色に目が追いつかず、廃墟の壁に半円状のクレーターを残してようやく止まった。
ガラガラと崩れ落ちる瓦礫とそれが起こす砂埃。惨状の前に降り立つソリテールの口元は歪な三日月を描いていた。
(なに、が…………おきた、……んだ…………?)
血混じりの咳を吐き、辛うじて繋ぎ止められていた意識を気合いで取り戻す。
状況確認のために辺りを見渡すが色彩感覚が麻痺してよく見えない。数秒か、数十秒か。曖昧な時間を経てようやく視界が回復した。
揺れ動く瞳孔が捉えたのは、意外そうな顔でこちらを見やる大魔族の姿。
状況確認のために辺りを見渡すが色彩感覚が麻痺してよく見えない。数秒か、数十秒か。曖昧な時間を経てようやく視界が回復した。
揺れ動く瞳孔が捉えたのは、意外そうな顔でこちらを見やる大魔族の姿。
「あら、すごく丈夫なのね。殺す気で撃ったのに」
────魔力をぶつける魔法。
いや、それはもう魔法と呼べるものではない。
気が遠くなるほどの年月を掛けて研究され、解析され、今に至るまで語り継がれてきた魔法の歴史を嘲笑うかのような原始的な攻撃。
言うなれば、武術が磨き上げられた世界においての噛みつきとなんら変わりない。
しかし悲しいかな、ソリテールほどの膨大な魔力を持ち、それを自在にコントロールできる者が行なえばどんな魔法にも勝る破壊力を発揮〝してしまう〟。
それは、魔法の探求に生涯を捧げてきたソリテールにとってはひどく皮肉な話だった。
気が遠くなるほどの年月を掛けて研究され、解析され、今に至るまで語り継がれてきた魔法の歴史を嘲笑うかのような原始的な攻撃。
言うなれば、武術が磨き上げられた世界においての噛みつきとなんら変わりない。
しかし悲しいかな、ソリテールほどの膨大な魔力を持ち、それを自在にコントロールできる者が行なえばどんな魔法にも勝る破壊力を発揮〝してしまう〟。
それは、魔法の探求に生涯を捧げてきたソリテールにとってはひどく皮肉な話だった。
「どう? 痛いでしょう? ふふ、あははは! その顔、とっても素敵っ! 私たち殺し合いをしているのだもの、それくらい必死にならないと!」
感覚のない四肢に無理やり力を込めて立ち上がる。壁に叩きつけられた際に頭を打ったのか、頭部から垂れる血液が右目を覆った。
直撃を受けてもなお立っていられるのは一重にクロノの頑丈さあってのもの。逆を言えばクロノでさえこんな状態になるのだから、モロに喰らって耐えられる者など一握りに限られる。
直撃を受けてもなお立っていられるのは一重にクロノの頑丈さあってのもの。逆を言えばクロノでさえこんな状態になるのだから、モロに喰らって耐えられる者など一握りに限られる。
「ふふ、大丈夫。大丈夫よ。苦しいでしょう? 今解放してあげるから、安心して眠ってね」
武器を失い、ふらふらと覚束無い足取りで立っていられるのもやっとの青年。そこに先程まで見せた英雄の面影は見えない。
次は仕留め損なわないように慎重に。逃げ場を無くすため彼の左右、後方の空中に大剣を出現させる。
魔力をぶつける魔法の欠点は著しい距離減衰。少しでも距離を取られてしまえば威力は大幅に落ちるが、大剣を生成する魔法と組み合わせれば相手の自由を奪えるためそれも無いに等しい。
次は仕留め損なわないように慎重に。逃げ場を無くすため彼の左右、後方の空中に大剣を出現させる。
魔力をぶつける魔法の欠点は著しい距離減衰。少しでも距離を取られてしまえば威力は大幅に落ちるが、大剣を生成する魔法と組み合わせれば相手の自由を奪えるためそれも無いに等しい。
「さようなら、クロノ」
再度接近し、彼の胸元へ手を伸ばす。
その瞬間。
ソリテールの身体から朱い華が咲いた。
ソリテールの身体から朱い華が咲いた。
「──────え?」
遅れて右肩から左脇にかけて感じる熱、そして痛み。
噴き出す血飛沫に疑問の声を洩らす。何が起きた、と。奇しくもさきほどクロノが抱いたそれと全く同じ感情に囚われることとなった。
視線を僅かにずらせば、そこには見惚れるほど洗練された袈裟斬りの構えを取るクロノの姿。しかしおかしい、彼に武器はないはず。
その疑問はさらに視線を落とすことで晴れることとなった。
噴き出す血飛沫に疑問の声を洩らす。何が起きた、と。奇しくもさきほどクロノが抱いたそれと全く同じ感情に囚われることとなった。
視線を僅かにずらせば、そこには見惚れるほど洗練された袈裟斬りの構えを取るクロノの姿。しかしおかしい、彼に武器はないはず。
その疑問はさらに視線を落とすことで晴れることとなった。
(まさか、こいつ…………! 私の大剣をっ!?)
そう、そのまさか。
クロノはあの一瞬で自身の傍に落ちる大剣を〝空中で〟掴み取り、あろうことかそれで反撃して見せた。
驚愕に値するのはその機転も勿論ある。が、最もソリテールの動揺を誘うのはその並外れた胆力だ。
クロノはあの一瞬で自身の傍に落ちる大剣を〝空中で〟掴み取り、あろうことかそれで反撃して見せた。
驚愕に値するのはその機転も勿論ある。が、最もソリテールの動揺を誘うのはその並外れた胆力だ。
魔力をぶつける魔法の脅威は間違いなくその身で味わったはず。あの想像を絶する苦痛を前にすれば、どんな屈強な者であろうと逃れようとするはずなのに。
なのにこの男は──クロノという英雄はそれを覚悟の上で反撃の刃を振るってみせたのだ。
それが如何に凄まじく、規格外のことなのか。この世で最もそれを理解しているソリテールは痛みも忘れて震え上がる。
なのにこの男は──クロノという英雄はそれを覚悟の上で反撃の刃を振るってみせたのだ。
それが如何に凄まじく、規格外のことなのか。この世で最もそれを理解しているソリテールは痛みも忘れて震え上がる。
「ぐ、…………が、……っ!」
クロノが第二の斬撃を振るわんとするのが見えて、ソリテールは無理やり体勢を戻して魔力を放出する。
一撃目と比べて浅い。が、だとしても威力は十分。意志に関係なく吹き飛ぶクロノの肉体はもう限界に近いだろう。
しかし、それはソリテールも同様。焼け爛れた左半身、そして今しがた受けた撫で斬りのダメージに片膝をつく。
一撃目と比べて浅い。が、だとしても威力は十分。意志に関係なく吹き飛ぶクロノの肉体はもう限界に近いだろう。
しかし、それはソリテールも同様。焼け爛れた左半身、そして今しがた受けた撫で斬りのダメージに片膝をつく。
「その、力……一朝一夕で、身につくものじゃない…………きっと、……私では考えもつかないほどの経験を、糧にしてきたのね」
「…………はっ、お褒めに預かり……光栄だぜ」
「…………はっ、お褒めに預かり……光栄だぜ」
辛うじて立ち上がるクロノを支えているのはもはや意地でしかない。武器である大剣はソリテールの意思によって消失し、今度こそ無手となる。
対するソリテールも疲労と肉体的な損傷によって魔力の練り上げが上手くいかない。互いに戦える状態ではないが、それを感じさせない風格が二人にはあった。
対するソリテールも疲労と肉体的な損傷によって魔力の練り上げが上手くいかない。互いに戦える状態ではないが、それを感じさせない風格が二人にはあった。
「私もそう。この領域に至るまで、数百年以上の時を要した……。ねぇ、ゾクゾクしない? そうして積み重ねてきた努力が、功績が、名誉が! たった数分後には全て終わっているのかもしれないのだからッ!!」
両腕を広げ、さぞ愉快とばかりに口角を釣り上げるソリテール。狂った者は幾度と見てきたが、ここまでのものはいなかったとクロノは汗を滲ませる。
睨み合いが続く。魔力と体力どちらが先に回復するかの勝負────かと思われたが、それは思わぬ声によって中断させられた。
睨み合いが続く。魔力と体力どちらが先に回復するかの勝負────かと思われたが、それは思わぬ声によって中断させられた。
「クロノーーーっ! 加勢に来たよ!!」
「うわっ!? な、なんかすごいことになってるヨ……!」
「うわっ!? な、なんかすごいことになってるヨ……!」
リュグナーとの戦闘を終え駆けつけるネモと777。ここに来る最中にも激戦の様子が伺えたのだろうか、相当焦っているように見えた。
ソリテールは残念そうに息を吐く。不気味な薄ら笑いを浮かべ、右手をひらひらと踊らせた。
ソリテールは残念そうに息を吐く。不気味な薄ら笑いを浮かべ、右手をひらひらと踊らせた。
「あら残念、邪魔が入ったわね。……今回はここで退かせてもらおうかな」
「あっ! おい、待──ぐっ!」
「あっ! おい、待──ぐっ!」
拙い動きの飛行魔法でその場を去らんとするソリテール。追いかけようと踏み出すも、体力の限界を迎えたクロノは遂に片膝を地におろす。
慌てて彼の元へ近寄る二人の姿を横目に、ソリテールは好奇の欲求を抑え込んでアリスドームの方角へと引き返してゆく。
慌てて彼の元へ近寄る二人の姿を横目に、ソリテールは好奇の欲求を抑え込んでアリスドームの方角へと引き返してゆく。
「くそ、……! あいつを、あのままにしたら…………」
「ダメだよクロノ! その傷じゃ無茶だって! ほら、今は安静にして。えーっと、なにか手当出来るものあったかな……」
「な、777も探してみるヨ! クロノ、死んじゃヤダーっ!」
「はは、……縁起でもねぇこと、言うなって……」
「ダメだよクロノ! その傷じゃ無茶だって! ほら、今は安静にして。えーっと、なにか手当出来るものあったかな……」
「な、777も探してみるヨ! クロノ、死んじゃヤダーっ!」
「はは、……縁起でもねぇこと、言うなって……」
血を流しすぎたらしく、朦朧とする意識の中でクロノはどこか安心感に包まれる。
ぼやける視界の中で懸命に自分を気遣ってくれる少女たちの顔が見れたからだろうか。やはり仲間というのは心強い。
これを守れただけでも無茶をした甲斐はあった。勝利の味とも言えぬ奇妙な達成感を噛み締めながら、クロノは意識を手放した。
ぼやける視界の中で懸命に自分を気遣ってくれる少女たちの顔が見れたからだろうか。やはり仲間というのは心強い。
これを守れただけでも無茶をした甲斐はあった。勝利の味とも言えぬ奇妙な達成感を噛み締めながら、クロノは意識を手放した。
【全体備考】
※まぞく寝かせ棒は粉々に砕け散りました。
※F-5廃墟街の一部がクロノとソリテールの戦闘の影響で所々崩壊しました。
※まぞく寝かせ棒は粉々に砕け散りました。
※F-5廃墟街の一部がクロノとソリテールの戦闘の影響で所々崩壊しました。
【F-5(西側)/廃墟街/一日目 黎明】
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:気絶中、ダメージ(大)、全身に切り傷、右脇腹に火傷、疲労(大)、MP消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:英雄として殺し合いをぶっ壊す。
0.────。
1.アリスドームを探索後、テーブルシティへ向かう。
2.ソリテールを野放しにするわけにはいかない。
3.ネモ、777の知り合いを探さないとな。
【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:気絶中、ダメージ(大)、全身に切り傷、右脇腹に火傷、疲労(大)、MP消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(武器の類ではない)
[思考・状況]
基本行動方針:英雄として殺し合いをぶっ壊す。
0.────。
1.アリスドームを探索後、テーブルシティへ向かう。
2.ソリテールを野放しにするわけにはいかない。
3.ネモ、777の知り合いを探さないとな。
※ED1、「時の向こうへ」終了後からの参戦です。
【ネモ@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ウェーニバル)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:打倒古砂夢! でもバトルはしたい。
1.クロノを手当てする。なにか手当出来るものあったっけ……。
2.アリスドームに向かった後、テーブルシティへ向かう。
3.機会があれば777と決着をつけたい。
4.アオイ、ペパー、ボタン……強いからきっと大丈夫だよね。
5.タロやスグリ、ゼイユたちも心配。
6.クラベル先生……。
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、モンスターボール(ウェーニバル)&テラスタルオーブ@ポケットモンスター バイオレット、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:打倒古砂夢! でもバトルはしたい。
1.クロノを手当てする。なにか手当出来るものあったっけ……。
2.アリスドームに向かった後、テーブルシティへ向かう。
3.機会があれば777と決着をつけたい。
4.アオイ、ペパー、ボタン……強いからきっと大丈夫だよね。
5.タロやスグリ、ゼイユたちも心配。
6.クラベル先生……。
※蒼の円盤終了後からの参戦です。
【777@Crystar】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、水を操る魔法(リームシュトロア)の魔導書@葬送のフリーレン、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いなんてえんじょいじゃないヨ!
1.クロノを助けないト!!
2.零に会いたいナー、あと千と小衣にも。
3.みらいに会ったら保護してあげるヨ!
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、水を操る魔法(リームシュトロア)の魔導書@葬送のフリーレン、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いなんてえんじょいじゃないヨ!
1.クロノを助けないト!!
2.零に会いたいナー、あと千と小衣にも。
3.みらいに会ったら保護してあげるヨ!
※三週目七章【想起ノ森 不和】からの参戦です。
【ポケモン状態表】
【ウェーニバル@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:ダメージ(小)、左肩に切創
[特性]:じしんかじょう
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ネモについていくグワ。
1.グワッ、グワワッ!
【ウェーニバル@ポケットモンスター バイオレット】
[状態]:ダメージ(小)、左肩に切創
[特性]:じしんかじょう
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ネモについていくグワ。
1.グワッ、グワワッ!
◾︎
「申し訳ありません、ソリテール様」
「いいわリュグナー。辛い役目を任せてしまったかな」
「いいわリュグナー。辛い役目を任せてしまったかな」
アリスドーム近辺、倒れているリュグナーを見かけたソリテールは彼を無理やり起こして人目に付かぬ家屋を探し歩いていた。
ソリテールとしてはリュグナーの生死などどちらでも構わなかったが、生き延びたならば駒として働いてもらう。そういう誓約だ。
ソリテールとしてはリュグナーの生死などどちらでも構わなかったが、生き延びたならば駒として働いてもらう。そういう誓約だ。
「それよりリュグナー、休める場所が見つかったら君の魔法で止血してほしいわ。それに、あのネモっていう魔物使いの情報も貰えると嬉しいな」
「はい、かしこまりました」
「はい、かしこまりました」
ぽたぽたと血痕を残しながらも嬉々とした声色で語りかけるソリテール。後方を歩くリュグナーからは見えないが、その顔は笑みに満ちているだろう。
事実ソリテールの胸はまだ見ぬ力への探究心で溢れていた。当初の目的である〝情報〟は満足に得られたとは言い難いが、貴重な体験が出来た。
クロノという高度な魔法を扱う剣士。777という魔族とも人類とも異なる種族。ネモという優れた魔物使い。そのどれもが自分の世界には居なかった存在。
始まって間もなくして少し傷を負いすぎたが、その価値は十分あるといえる戦いだった。あのシャイニングという魔法も、見よう見まねであれば形にできるかもしれない。
事実ソリテールの胸はまだ見ぬ力への探究心で溢れていた。当初の目的である〝情報〟は満足に得られたとは言い難いが、貴重な体験が出来た。
クロノという高度な魔法を扱う剣士。777という魔族とも人類とも異なる種族。ネモという優れた魔物使い。そのどれもが自分の世界には居なかった存在。
始まって間もなくして少し傷を負いすぎたが、その価値は十分あるといえる戦いだった。あのシャイニングという魔法も、見よう見まねであれば形にできるかもしれない。
「ふふ、あははは! 楽しい、こんなに楽しいのは生まれて初めてっ! ……まだまだ足りないわ、もっともっと知りたい。ここでは私の知らないことを沢山教えてくれる……!」
ああ、想像するだけで目眩がする。
あれほどの激動もこれから起きることに比べれば始まりに過ぎない。こんな経験をしてしまったら、今まで生きてきた数百年がひどく退屈に思えてしまう。
あれほどの激動もこれから起きることに比べれば始まりに過ぎない。こんな経験をしてしまったら、今まで生きてきた数百年がひどく退屈に思えてしまう。
この首輪はどうやって作られたのか。
異世界での常識とはどういうものなのか。
願いを叶えるというのは本当なのか。
異世界での常識とはどういうものなのか。
願いを叶えるというのは本当なのか。
痛みも忘れて浮き足立つ。
ゆくゆくは古砂夢が持つ〝時間跳躍〟の力も手にしたい。仕えるべき魔王を蘇らせれば、きっと今とは違う歴史を見ることが出来る。
いや、もしも時間を操るなどという芸当が出来るのならば自分が魔王となることも可能かもしれない。甘く心地いい希望が胸に膨らむのを感じて、ソリテールは笑みを絶やせなかった。
ゆくゆくは古砂夢が持つ〝時間跳躍〟の力も手にしたい。仕えるべき魔王を蘇らせれば、きっと今とは違う歴史を見ることが出来る。
いや、もしも時間を操るなどという芸当が出来るのならば自分が魔王となることも可能かもしれない。甘く心地いい希望が胸に膨らむのを感じて、ソリテールは笑みを絶やせなかった。
「ソリテール様」
と、背後からリュグナーの声がかかる。
折角の夢心地を邪魔された気分に少し不機嫌が差さる。が、仮にも同族。邪険に扱うような真似はせず穏やかな笑みを返した。
折角の夢心地を邪魔された気分に少し不機嫌が差さる。が、仮にも同族。邪険に扱うような真似はせず穏やかな笑みを返した。
「なあに? リュグ────」
ザンッ。
心地いい音が喉元を通り過ぎる。
上下反転する地面。それが無名の大魔族の最期に見た光景だった。
上下反転する地面。それが無名の大魔族の最期に見た光景だった。
【ソリテール@葬送のフリーレン 死亡】
【残り 47人】
【残り 47人】
◾︎
「ソリテール様、私はこの殺し合いに対する考えを改めました。どうやら単純な武力での解決は難しいようです」
パラパラと音を立てて消滅する生首を見下ろし、表情ひとつ変えずにリュグナーは淡々と語る。その相手はもう居ないというのに、言葉が溢れて止まらなかった。
「私は最初、マハト様やソリテール様……それにアウラ様がいる以上この殺し合いは大魔族による蹂躙で片がつくと思っていました。しかし現実を見れば、たった一人の人間相手にソリテール様は重傷の身。私が思うほど大魔族とは絶対の存在ではなかったのです」
そう、リュグナーはこの殺し合いの全貌が見えていなかった。自分の世界での価値観を基準にして考えを進めてしまっていたのだ。
最初に出会ったのがソリテールという己の世界の住人で、かつその世界でも上位の力の持ち主であったからこそ視野が狭まっていたと言えよう。
最初に出会ったのがソリテールという己の世界の住人で、かつその世界でも上位の力の持ち主であったからこそ視野が狭まっていたと言えよう。
未知なる異世界の力を思考から外していたため、ソリテールという既知なる絶大な力に過剰な信頼を置いてしまっていた。
だからこそ満身創痍の大魔族の姿を見て、まるで夢から醒めたような感覚に陥った。
本来であれば彼女の身に纏う鉄壁の魔力によってバルテーリエなど弾かれていたはずなのに。呆気なく散る様がその消耗を物語り、余計に虚しく思う。
だからこそ満身創痍の大魔族の姿を見て、まるで夢から醒めたような感覚に陥った。
本来であれば彼女の身に纏う鉄壁の魔力によってバルテーリエなど弾かれていたはずなのに。呆気なく散る様がその消耗を物語り、余計に虚しく思う。
「確率的に見て、先の戦いがこの殺し合いでの最大規模の戦闘と考えるのは無理がある。私が思うに、あのクロノやフリーレンを筆頭に大魔族に匹敵する力を持った者は何人か存在するでしょう。……ならばそんな者たちを拉致できる存在など、歯向かうだけ馬鹿馬鹿しい」
大魔族に比肩する力の持ち主を多数集め、首輪を嵌め、その命を握ることができる存在など自分の知る限り魔王でも出来るかわからない芸当だ。
仮にソリテールとマハト、アウラが徒党を組んだところで解決出来るとは思えない。首輪の電流を流されてしまえばそれだけで大魔族も子供も等しく命が潰えるのだから。
仮にソリテールとマハト、アウラが徒党を組んだところで解決出来るとは思えない。首輪の電流を流されてしまえばそれだけで大魔族も子供も等しく命が潰えるのだから。
「それに、だ。仮に反旗を翻すとしても、あなたの存在は邪魔になる。血の臭いを隠し切れず、探究心に満ち溢れたあなたは……あまりにも危険すぎる」
ソリテールの力が絶対ではないとわかった以上、リュグナーにとって彼女の存在は枷でしかなかった。
彼女が無名である理由は出会ってきた人類全てを皆殺しにしてきたことにある。それ相応の猛者や魔法使いであれば彼女の死臭に気が付き、話し合いどころではなくなるだろう。
さらに厄介なことに、ソリテールは自ら率先して人と関わろうとする。放っておけばまたクロノ達のような対主催の集団と衝突するのが目に見えていた。
そうなれば、所詮捨て駒である自分の命など幾つあっても足りないだろう。
彼女が無名である理由は出会ってきた人類全てを皆殺しにしてきたことにある。それ相応の猛者や魔法使いであれば彼女の死臭に気が付き、話し合いどころではなくなるだろう。
さらに厄介なことに、ソリテールは自ら率先して人と関わろうとする。放っておけばまたクロノ達のような対主催の集団と衝突するのが目に見えていた。
そうなれば、所詮捨て駒である自分の命など幾つあっても足りないだろう。
「どうせ私のことも切り捨てるつもりだったのでしょう? お互い様、というものです」
これは合理的思考に基づく選択。
この場でソリテールを始末することは自分の身を守ることに繋がり、そして勝利にも繋がる。
仮にもしも、万が一にでも主催に反逆出来る可能性が見い出せたのならばそれに乗じることも自分一人だけならば出来る。その為にソリテールの首輪も回収した。
この場でソリテールを始末することは自分の身を守ることに繋がり、そして勝利にも繋がる。
仮にもしも、万が一にでも主催に反逆出来る可能性が見い出せたのならばそれに乗じることも自分一人だけならば出来る。その為にソリテールの首輪も回収した。
実力で勝ち進めるなど不可能。
二人かがりとはいえ大敗を喫したばかりなのだ。参加者の大半は自分と同等以上の力を持っているとみていいだろう。
ならば知恵を、言葉を活かそう。まずはクロノたちのような殺し合いに乗っていない者たちの集団に紛れ込む。
幸いにもこの負傷は人間の同情を買うにはうってつけだ。
二人かがりとはいえ大敗を喫したばかりなのだ。参加者の大半は自分と同等以上の力を持っているとみていいだろう。
ならば知恵を、言葉を活かそう。まずはクロノたちのような殺し合いに乗っていない者たちの集団に紛れ込む。
幸いにもこの負傷は人間の同情を買うにはうってつけだ。
(中央ならば恐らく人が集まるだろう。ここからであればアレクサンドリアに向かうのが無難か)
ぶらりと垂れ下がる左腕を摩り、北を目指す。
揺るぎない精悍な顔付きは、つい今しがた大魔族を殺したばかりだというのにまるでなんの感慨もない。
胸が空くような晴れやかな気持ちも、同族を殺めた罪悪感も、何も湧かない。
揺るぎない精悍な顔付きは、つい今しがた大魔族を殺したばかりだというのにまるでなんの感慨もない。
胸が空くような晴れやかな気持ちも、同族を殺めた罪悪感も、何も湧かない。
魔族とはそういう生き物なのだ。
【F-5/アリスドーム近辺/一日目 黎明】
【リュグナー@葬送のフリーレン】
[状態]:ダメージ(中)、左腕骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ソリテールの首輪、不明支給品1~3、ソリテールの不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。その為には乗っていないフリをした方が賢明か。
1.アレクサンドリアを中心に探索し、対主催のグループに潜り込む。
2.フリーレンの弟子(フェルン)に限らず、自分を知る者は早めに始末したい。
3.自分に不都合でなければアウラ様やリーニエと合流したい。マハト様は保留。
4.ネモのような『魔物使い』の情報を探す。魔物を使い、此方の戦力増強を図る。
5.名簿の『魔王』様は別人、グラオザーム様が主催陣にいるのか?
【リュグナー@葬送のフリーレン】
[状態]:ダメージ(中)、左腕骨折
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ソリテールの首輪、不明支給品1~3、ソリテールの不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残る。その為には乗っていないフリをした方が賢明か。
1.アレクサンドリアを中心に探索し、対主催のグループに潜り込む。
2.フリーレンの弟子(フェルン)に限らず、自分を知る者は早めに始末したい。
3.自分に不都合でなければアウラ様やリーニエと合流したい。マハト様は保留。
4.ネモのような『魔物使い』の情報を探す。魔物を使い、此方の戦力増強を図る。
5.名簿の『魔王』様は別人、グラオザーム様が主催陣にいるのか?
※参戦時期は身体に大穴を開けられ、フェルンにトドメを刺される前です。(魔力の欺きの話をした後。)
※会場は全て幻覚で、主催陣に【七崩賢】の一人、《奇跡》のグラオザームがいると予想しています。
※アリスドームを探索しました。どのような情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※会場は全て幻覚で、主催陣に【七崩賢】の一人、《奇跡》のグラオザームがいると予想しています。
※アリスドームを探索しました。どのような情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
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| 016:かわいそうな王さまと《二体の嘘つき》 | ソリテール | 死亡 |
| リュグナー | ||
| 021:導きの英雄たち | 777 | |
| クロノ |