届かない星だとしても ◆Z9iNYeY9a2
それは時間を遡った、斑鳩船内での出来事。
ニアとバゼットが別れてから、キリカの襲撃で彼が命を落とすところまでにあったこと。
ニアとバゼットが別れてから、キリカの襲撃で彼が命を落とすところまでにあったこと。
ニアは斑鳩の艦橋で機器を弄っていた。
得意分野ではないため専門的なこと、例えばどのキーやスイッチを押せばこの艦がどう動くかなどということは分からない。
しかし、コンピュータの操作程度なら何の事はない。
しかし、コンピュータの操作程度なら何の事はない。
バゼットとの情報交換時の彼女の様子からは、彼女の認識にはこのような巨大な艦が一般的なものではないということは受け取れた。
であれば少なくとも自分の周囲の人間にバゼット、そして彼女の知人にとっても一般的なものではないのだろう。
ならば低く見積もっても半数以上、あるいはこの艦を認知している者であってもごく一部の技術者のような人物にしか操縦できない可能性もある。
そうでなくとも少なくとも常日頃機械に触れていてこういった巨大な乗り物にも応用を効かせられるような者とか、動かせられそうな条件はかなり狭まる。
だが、そんな条件に当てはまる参加者が一体何人いるだろうか。
であれば少なくとも自分の周囲の人間にバゼット、そして彼女の知人にとっても一般的なものではないのだろう。
ならば低く見積もっても半数以上、あるいはこの艦を認知している者であってもごく一部の技術者のような人物にしか操縦できない可能性もある。
そうでなくとも少なくとも常日頃機械に触れていてこういった巨大な乗り物にも応用を効かせられるような者とか、動かせられそうな条件はかなり狭まる。
だが、そんな条件に当てはまる参加者が一体何人いるだろうか。
ニアの仮説として考えついたことは、その操縦法をどこかに示したもの、あるいは自動制御か何かを司るものがあるはずだということ。
その中で候補として考えついたものが、コンピュータ内のどこかなのではないかというものだった。
その中で候補として考えついたものが、コンピュータ内のどこかなのではないかというものだった。
そしてその甲斐あってこの艦の状態、飛行が可能という事実やしかし今それが制限されているということ、さらに武装の状態についても把握することができた。
バゼットに対して言った言葉、自らがこの艦を動かすという言葉は現状ではハッタリであったが、艦の操作方法が把握できたならば嘘ではなくなる。
彼女が去った後で再度見直していたのが、その動かし方だった。
彼女が去った後で再度見直していたのが、その動かし方だった。
結果、海上航行については大まかに把握することはできた。
だが一方で不可思議だったもの、それは。
「空中飛行の方法、そして各種武装の使用法ですね」
海上航行についてはすぐにどのような操作をすればいいのかは確認できたが、空中飛行と艦に搭載された武装の使用については説明にロックがかかっていた。
その存在に気付いた時にニアの思考に上がったものは、何故このようなものがデータの中に存在し、ロックまでかかっているのかということだった。
不要ならば入れて置かなければいい。ロックさえかかっていなければデータの中に使えない物がある、程度の認識で終わった可能性もあるものだ。
しかしロックがかかっているという事実は存在をあまりにも強調させていた。
不要ならば入れて置かなければいい。ロックさえかかっていなければデータの中に使えない物がある、程度の認識で終わった可能性もあるものだ。
しかしロックがかかっているという事実は存在をあまりにも強調させていた。
思うに、これはいずれ空中飛行と武装が何らかの形で解禁されるかもしれない事実を示唆しているのかもしれない。
であれば、この知識を得ておくことは今後危険人物と遭遇した時の取引材料にもなりうるものかもしれない。
ロックの内容を確認するニア。
ロックの内容を確認するニア。
そこにあったものは、何らかの問題らしき文章。
全部で6つ。
目を通すが、そもそも意味の分からない単語も多い。
全部で6つ。
目を通すが、そもそも意味の分からない単語も多い。
「…このポケモンという単語、ボールの説明にあったものですが、だとすれば載っているこれはそのポケモンという生き物の名前ですか。
しかし固有名詞は分からないですね…」
しかし固有名詞は分からないですね…」
例えば。
ガブリアス、ポッチャマ、ニドキング、グレッグル、リザードン。この中で最も基礎能力が高いポケモンは○○○○○である。
おそらく分かる人には分かるのだろうが、そもそもポケモンというものが分からない者にはただの文字列。自分には答えを知る術がない。
ガブリアス、ポッチャマ、ニドキング、グレッグル、リザードン。この中で最も基礎能力が高いポケモンは○○○○○である。
おそらく分かる人には分かるのだろうが、そもそもポケモンというものが分からない者にはただの文字列。自分には答えを知る術がない。
だがその一方。
えるしっているか死神は○○○しかたべない
えるしっているか死神は○○○しかたべない
この○の中に入る答えを示せというのであれば、答えはりんごになる。
これはかつてキラがLに対する挑戦として犯罪者を操って書かせた遺書の頭文字を繋げた言葉。
これはかつてキラがLに対する挑戦として犯罪者を操って書かせた遺書の頭文字を繋げた言葉。
Lはまず知っている。キラ、夜神月も言わずもがな。メロもこの情報は知っている。
松田桃太、夜神総一郎といった日本警察の面々だとどうだろうか。ノート、死神のことを知っておりLとも密接に関わっていた。答えは分かるだろうと思う。
弥海砂もまた直接の答えは分からずとも知識から推察はできるはず。南空ナオミが不明といったくらいか。
松田桃太、夜神総一郎といった日本警察の面々だとどうだろうか。ノート、死神のことを知っておりLとも密接に関わっていた。答えは分かるだろうと思う。
弥海砂もまた直接の答えは分からずとも知識から推察はできるはず。南空ナオミが不明といったくらいか。
これは自分や顔を知る者のほとんどが把握している一方で何かよほどのきっかけがなければ口にはしないだろうという情報だ。
もしここに並ぶ多くの設問が、そういった法則の問題ばかりなのだとしたら、今の自分には分からない。
もしここに並ぶ多くの設問が、そういった法則の問題ばかりなのだとしたら、今の自分には分からない。
もし外してしまえばどうなるのか。
記されていないが、最悪を想定すると首輪爆破、などということも考えられるものだ。
記されていないが、最悪を想定すると首輪爆破、などということも考えられるものだ。
そもそも、この問自体が罠である可能性も否定できない。
もしLであればどうしただろうか。
きっと万全の状態を整え、自身の手で集められる限りの参加者を揃えこの問題を解くだろう。
もしメロであればどうしただろうか。
罠だとしても臆することなく、虎穴に入るがごとくこの問を解くのだろう。分からない問題を解くまでの無茶はしないだろうが、あの一問を解くことに躊躇うことはない。
きっと万全の状態を整え、自身の手で集められる限りの参加者を揃えこの問題を解くだろう。
もしメロであればどうしただろうか。
罠だとしても臆することなく、虎穴に入るがごとくこの問を解くのだろう。分からない問題を解くまでの無茶はしないだろうが、あの一問を解くことに躊躇うことはない。
だが自分にはどうにもできなかった。
罠である可能性を考えてしまえば、どうしても安全を確保した後での行動となる。
ここで言うなら、外した時のリスクが分かるか、少なくとも4、5問ほどは答えが分かるようになってからという道を選んでしまう。
罠である可能性を考えてしまえば、どうしても安全を確保した後での行動となる。
ここで言うなら、外した時のリスクが分かるか、少なくとも4、5問ほどは答えが分かるようになってからという道を選んでしまう。
だが、現状でも幸いなことに動かすだけならば支障はない。
実際に動かした時にこの中の情報を求められた場合は分からないが。
実際に動かした時にこの中の情報を求められた場合は分からないが。
「保留、にするしかありませんね。あとはバゼットの手腕に期待するとしましょうか」
そうして基盤から離れ、思考整理のためジグソーパズルを弄り精神を落ち着かせ始めた。
結局、ニアがその問を答えることはなかった。
間もなく斑鳩へとやってきた黒き魔法少女にその身を引き裂かれ、ニアは命を終えたのだから。
間もなく斑鳩へとやってきた黒き魔法少女にその身を引き裂かれ、ニアは命を終えたのだから。
◇
「夜神総一郎が死んだ、か」
浅瀬の水平が見える砂地に僅かに整った道、その薄暗い空間を照らす灯り。
その灯りの元である静止した原付に跨ったメロは、終わった放送の内容を頭の中で整理しながら呟いた。
その灯りの元である静止した原付に跨ったメロは、終わった放送の内容を頭の中で整理しながら呟いた。
L、夜神月の命が無事であることに安心する、それだけでいいはずの放送だ。
それでも、呼ばれた既知の名にはどうしても反応してしまう。
それでも、呼ばれた既知の名にはどうしても反応してしまう。
今更その死自体に思うところはない。
ただ。
弥海砂や南空ナオミ、松田桃太、―――そしてニア。
自分の知る者は早期に脱落したか、未だに生き残っている、あるいはいたかといった者に分かれる。
そしてその者達には何の力もないことは知っている。オルフェノクや魔法少女、Lが見た狂戦士には無力な者達。
弥海砂や南空ナオミ、松田桃太、―――そしてニア。
自分の知る者は早期に脱落したか、未だに生き残っている、あるいはいたかといった者に分かれる。
そしてその者達には何の力もないことは知っている。オルフェノクや魔法少女、Lが見た狂戦士には無力な者達。
そんな中で生き残っている自分を含む残り半数は支給品に助けられたか、同行者に恵まれたかだろう。
夜神総一郎が後者だったのは知っている。しかしそんな者ですらもここまでが限界だったのだ。
夜神総一郎が後者だったのは知っている。しかしそんな者ですらもここまでが限界だったのだ。
北崎の名が呼ばれたことがLの知略による勝利ゆえのものかどうかは分からない。
だが、あの化け物が死んで尚もLはまだ生きている。夜神月も。
だが、あの化け物が死んで尚もLはまだ生きている。夜神月も。
自分が生きているのは、言ってしまえば運だろう。
最初に同行していたゆまが死んで以降は、情報交換程度はすることがあっても単独行動を続けてきた。
同行者もいない状態で、しかし危険人物に直面する機会も少なかった。
最初に同行していたゆまが死んで以降は、情報交換程度はすることがあっても単独行動を続けてきた。
同行者もいない状態で、しかし危険人物に直面する機会も少なかった。
自分の通ってきた道を地図で追う。
スマートブレインビル付近、間桐邸、穂群原学園、バークローバー。
主に南北に分けた場合の中心から南部にかけてを移動してきた。
しかし、スマートブレインで多数の人物に会い、間桐邸でLに会って以降は、ほぼ南部を東西に抜けても会ったのは美国織莉子だけだった。
スマートブレインビル付近、間桐邸、穂群原学園、バークローバー。
主に南北に分けた場合の中心から南部にかけてを移動してきた。
しかし、スマートブレインで多数の人物に会い、間桐邸でLに会って以降は、ほぼ南部を東西に抜けても会ったのは美国織莉子だけだった。
スマートブレイン本社でのあのビルが倒壊するほどの大規模な戦闘。確かバークローバー付近も周囲はなかなかに荒れていた。
初期の戦闘から、多くの参加者は北部へと移動した、ということなのだろうか。
初期の戦闘から、多くの参加者は北部へと移動した、ということなのだろうか。
正直行く道についての判断を誤ったかとも思ったが、目の前を浮遊しているあの巨大な要塞を見れば案外そうでもないのではないかもしれないとメロは考える。
南部に置かれた斑鳩なる文字。確か日本の地名だったはずだが、それが何を意味するのかは分からなかった。
どうやら固有名詞であり、その正体は飛行する巨大な戦艦だったのだ。
南部に置かれた斑鳩なる文字。確か日本の地名だったはずだが、それが何を意味するのかは分からなかった。
どうやら固有名詞であり、その正体は飛行する巨大な戦艦だったのだ。
何故これが今の段階で動いたのか。何か狙いがあるのか。一考の必要はあるだろうが今はあれを先んじて占領することが優先だろう。
何しろこちらには現状切れるカードがない。
何しろこちらには現状切れるカードがない。
あの戦艦自体が参加者そのものをおびき寄せるための主催者の罠、というのはここに至っては考えづらいだろう。
もしかすると既に何者かが入っている可能性もあるが、その時はその時だ。
味方になり得る者ならば協力できる。敵対する者ならば他の参加者、例えばLのような者達の邪魔になるならば排除する。
行く道は少し逸れてしまうが、あの戦艦の移動速度であればそう戻るのにも時間はかからないだろう。
方向を見るに、おそらく行き先はキラ対策本部。知らない建物というわけではない。
味方になり得る者ならば協力できる。敵対する者ならば他の参加者、例えばLのような者達の邪魔になるならば排除する。
行く道は少し逸れてしまうが、あの戦艦の移動速度であればそう戻るのにも時間はかからないだろう。
方向を見るに、おそらく行き先はキラ対策本部。知らない建物というわけではない。
原付の方向を転換し、浅瀬の中に細く続いた砂地を走らせ始めた。
◇
戦艦の停船時間はだいたい5分ほど。
前もって停まる施設に陣取っていなければ乗船するのは厳しいだろう。実際、かなりギリギリの時間だった。
前もって停まる施設に陣取っていなければ乗船するのは厳しいだろう。実際、かなりギリギリの時間だった。
メロは息を少し切らしながら、離れていく地面を、建物を見下ろす。
下には原付が乗り捨てられるように転がっているのが見える。何だかんだで移動手段として重宝していたがもう乗ることはないだろう。
下には原付が乗り捨てられるように転がっているのが見える。何だかんだで移動手段として重宝していたがもう乗ることはないだろう。
内部の構造はやはり戦艦というだけあって、自分の知る戦艦と構造は近い。いや、むしろ広いとも感じる。
だが、やはり本来であればいるのであろう人が全くいないこの静かさというのはやはり気になるものだ。
だが、やはり本来であればいるのであろう人が全くいないこの静かさというのはやはり気になるものだ。
これだけの規模の戦艦だ。本当ならば多くの操縦員や作業員がいるのだろう。
では、これを今動かしているのは何だ?
おそらくは自動操縦か、あるいは主催者の手のかかった何者かがいるか。
では、これを今動かしているのは何だ?
おそらくは自動操縦か、あるいは主催者の手のかかった何者かがいるか。
自動操縦であれば、その操縦系統をハッキングでもすればこちらでの制御も可能となるかもしれない。
別段得意というわけではないが、ゲーム好きなマットとある程度の付き合いがあったこともあり、電子機器の細工も不可能というわけではない。
それだけで簡単にできるとも思えないが、やってみる価値はある。
別段得意というわけではないが、ゲーム好きなマットとある程度の付き合いがあったこともあり、電子機器の細工も不可能というわけではない。
それだけで簡単にできるとも思えないが、やってみる価値はある。
もしそうでなかったとして、主催者の手のかかった者がいたとしてもこちらから手を出さない限りは積極的な戦闘状態になることはないはずだ。ならば退く暇くらいはある。
ところどころに貼り付けられた電子地図を頼りに歩みを進めていたメロ。
操縦室、戦艦であるなら艦橋だろうと思える一室の前にたどり着いた時、その嗅覚がある悪臭を捉えた。
操縦室、戦艦であるなら艦橋だろうと思える一室の前にたどり着いた時、その嗅覚がある悪臭を捉えた。
(…これは、血の臭い。それもそれなりに時間の経ったものだな)
裏社会ではありふれた、珍しくもない臭い。
中にはこれほどの悪臭を漂わせるほどの血と、その発生源の死骸が転がっているのだろう。
中にはこれほどの悪臭を漂わせるほどの血と、その発生源の死骸が転がっているのだろう。
死体であれば恐れることはない。
もし生きた人間がいるなら警戒すべきなのだろうが、この悪臭の中で平然といられるとすれば嗅覚異常者か血の臭いを好む精神異常者くらいだ。
もし生きた人間がいるなら警戒すべきなのだろうが、この悪臭の中で平然といられるとすれば嗅覚異常者か血の臭いを好む精神異常者くらいだ。
メロ自身どちら、というわけでもないが入る理由がある以上臆するものではない。
如何なるものであれ、乗り物である以上操縦系統があるであろう部屋は重要なものだ。ここを抑えずして他に手段などない。
如何なるものであれ、乗り物である以上操縦系統があるであろう部屋は重要なものだ。ここを抑えずして他に手段などない。
メロは自動ドアのスイッチを入れて、扉を開いた。
◇
マーフィーの法則というものがある。
「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例する」
転じて「失敗する余地があるなら、失敗する」というようなもの。
「落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は、カーペットの値段に比例する」
転じて「失敗する余地があるなら、失敗する」というようなもの。
類似する言葉は世界中にあるが、要するに失敗は記憶に残りやすいとでもいうことだろう。
もし99%の成功率がある何かを行ったとして、しかし運悪く残りの1%に引っかかってしまった時などは尚更だ。
特に成功率が高ければ高いほど、人は失敗した時のことを考えないのだから。
もし99%の成功率がある何かを行ったとして、しかし運悪く残りの1%に引っかかってしまった時などは尚更だ。
特に成功率が高ければ高いほど、人は失敗した時のことを考えないのだから。
この殺し合いにおいて死んだ人間の数はメロが認知している限りで既に36人。
その中で実際に死体を見た、あるいは死んだ場所をある程度把握しているといった者の数を除けばせいぜい25人ほどといったところだろうか。
その中で実際に死体を見た、あるいは死んだ場所をある程度把握しているといった者の数を除けばせいぜい25人ほどといったところだろうか。
あるいは、だが。その事実を意識下に置かないようにすることで心の平静を保っていたのかもしれない。
入ってすぐの場所には艦長辺りの人間が座るだろう席があり、そこから床が下がった所に複数の席と操縦機器らしき機械が並んでいる。
広い室内だが、そんな中にも腐敗した血の臭いは充満していた。
広い室内だが、そんな中にも腐敗した血の臭いは充満していた。
そしてその血の主、目の前にいた死体。
全身を細かく切り刻まれ、そこから飛び散った血に染まった室内はまるでスプラッタホラームービーのような有様だ。
その中で、ただ一つ形を明確に保った体の部位。
生気などもう感じられない真っ白な髪をしたその顔。
全身を細かく切り刻まれ、そこから飛び散った血に染まった室内はまるでスプラッタホラームービーのような有様だ。
その中で、ただ一つ形を明確に保った体の部位。
生気などもう感じられない真っ白な髪をしたその顔。
「ニア、お前」
ある意味最も会いたくなかった――いや、こうなっては見つけたくなかったものが、そこにあった。
ニア。
自分よりも優秀な頭脳を持ちながら、しかし自身の体で何かを行う行動力は壊滅的だった。
もしどこかにいるとすれば、きっとどこかの施設に陣取っていただろうと想定していた。
施設でない屋外であれば、そもそも他者との遭遇が起こりにくい。ニアは行動的ではないが、能動的な動きを行わないというだけ。他者との交流そのものを避けることはないのだから。
自分よりも優秀な頭脳を持ちながら、しかし自身の体で何かを行う行動力は壊滅的だった。
もしどこかにいるとすれば、きっとどこかの施設に陣取っていただろうと想定していた。
施設でない屋外であれば、そもそも他者との遭遇が起こりにくい。ニアは行動的ではないが、能動的な動きを行わないというだけ。他者との交流そのものを避けることはないのだから。
一方で、もし他者との協力がうまく取り付けられないうちに北崎のような危険人物に会えばどうなるかなど火を見るより明らかだ。
だが、それでもメロはニアの頭脳は買っていた。何だかんだでうまくやっていくはずだと思っていた。
だが、それでもメロはニアの頭脳は買っていた。何だかんだでうまくやっていくはずだと思っていた。
あの放送で名前を聞いた時の衝撃が改めてのしかかってきた。
どれだけそうしていたか分からない。
数分はじっとしていたと思うが、もしかしたら数十分だったかもしれない。
数分はじっとしていたと思うが、もしかしたら数十分だったかもしれない。
意識が戻ったのは、室内の一角にある機器にうっすら灯りがついたのを見た時だった。
ふと気づくと、戦艦の移動速度が落ちている。
どこか別の施設にたどり着いたということなのだろうか。
どこか別の施設にたどり着いたということなのだろうか。
端末に目をやると、到達したのは衛宮邸という施設。
どうやら数十分に近い時間を呆けてしまっていたらしい。
どうやら数十分に近い時間を呆けてしまっていたらしい。
意識を奮い立たせて操縦機器に向かおうとして。
踏み出した足が何かを踏んだ。
踏み出した足が何かを踏んだ。
下を見ると、そこにあったのはパズルのピース。
ニアにとっての好物であり、暇さえあればまるで習慣のように弄っていたもの。おそらく支給品に入っていたのだろう。
ニアの好みにあったものが入っていたことを幸運と思うか、このような場所で支給されたものがただのパズルだったことを不幸と思うか。
ニアにとっての好物であり、暇さえあればまるで習慣のように弄っていたもの。おそらく支給品に入っていたのだろう。
ニアの好みにあったものが入っていたことを幸運と思うか、このような場所で支給されたものがただのパズルだったことを不幸と思うか。
周囲を見回すと、いくつかのピースは確認できるが、それは全てのピースには程遠い数。かき集めたとして十数ピース程度だろう。
何気なく拾い上げたそれをひっくり返してみる。
何気なく拾い上げたそれをひっくり返してみる。
「…ん?」
裏面の灰色の紙地にうっすらと文字が見える。
筆跡はニアのものであることはすぐに分かった。おそらくニアがメモ代わりに何か書いたのだろう。
筆跡はニアのものであることはすぐに分かった。おそらくニアがメモ代わりに何か書いたのだろう。
パズルのピースをすぐさまかき集める。
血に染まったもの、汚れていないもの、状態は様々。
そのうちの幾つかには今しがた確認したような文字が書かれたものがあった。
血に染まったもの、汚れていないもの、状態は様々。
そのうちの幾つかには今しがた確認したような文字が書かれたものがあった。
おそらくこの場所でニアが一人で考察したものだろう。パズルのピース、つまりかき集めて情報になるものであるという概念に当てはめている辺り実にニアらしいが。
ポケモン城の隠匿。
操縦機器内のロック。
パスワード、6種類。
操縦機器内のロック。
パスワード、6種類。
ポケモン城の隠匿、それを言葉にされたらどうしても引っかかるものがあった。
放送ではこの艦はランダムで施設を巡ると言っていた。だが、本当にランダムなのか?
もし真にランダムならばいずれポケモン城に向かうこともあるのだろう。しかしもし向かわないような制御がされていれば?
放送ではこの艦はランダムで施設を巡ると言っていた。だが、本当にランダムなのか?
もし真にランダムならばいずれポケモン城に向かうこともあるのだろう。しかしもし向かわないような制御がされていれば?
もう一つ気になるのは、この戦艦は禁止エリアには引っかからないとも言っていた。
つまりは現状であればポケモン城にも向かうことはできる。あくまで理論上は、だが。
つまりは現状であればポケモン城にも向かうことはできる。あくまで理論上は、だが。
向かったところで参加者にはどうにかすることはできないだろう。外に出た時点でおそらくは刻印が発動する。
だが、もし刻印を持たないもの、織莉子に聞いたポケモンのようなものを送り込んだ上で外から無線か何かで支持を出す、というようなこともできなくはないはず。
そして、それに気付かぬほど愚かな主催者ではないだろう。
だが、もし刻印を持たないもの、織莉子に聞いたポケモンのようなものを送り込んだ上で外から無線か何かで支持を出す、というようなこともできなくはないはず。
そして、それに気付かぬほど愚かな主催者ではないだろう。
そして気になるのは操作にかかっているロック。
ニアには情報量もあり入力できなかったが、今は2つ3つくらいは開示できるのではないか。
ニアには情報量もあり入力できなかったが、今は2つ3つくらいは開示できるのではないか。
チラリ、と一瞬後ろを見たメロ。
「さて、俺の持ってる情報でどれだけのことができるようになるのか」
基盤の前に座り、キーボードに手をやる。
えるしっているか死神は○○○しかたべない
死神の好物。シドの言葉を思い出すにそれ自体が本当ではないだろうが、穴埋めとしての正解はりんごだ。
死神の好物。シドの言葉を思い出すにそれ自体が本当ではないだろうが、穴埋めとしての正解はりんごだ。
ピーという電子音が鳴り、文字列が表示される。
”迎撃装置を解禁しました”
すぐさま別の基盤に目を移し、斑鳩の武装状態を確認する。
先程までは残数が0であった単装砲、ミサイル、そして戦艦下部に備え付けられたリニアカノンの弾数が増加しているのを確認した。
先程までは残数が0であった単装砲、ミサイル、そして戦艦下部に備え付けられたリニアカノンの弾数が増加しているのを確認した。
「なるほどな。答えを入力する度に武装や操縦手段が解禁されていくってわけか」
表示枠の中に明らかにもう一つ何かがあると言わんばかりの空欄が残っていることが気がかりだったが。
ともあれ、本来なら戦闘機を撃ち落とすための戦艦の単装砲やミサイルなど、人間相手で考えれば普通に考えればそれだけでも十分すぎるほどだろう。
だがLはいわゆる重武装バイクによる砲撃を難なく捌いたオルフェノクと会っている。これでもまだ足りない参加者がいるのかもしれない。
ともあれ、本来なら戦闘機を撃ち落とすための戦艦の単装砲やミサイルなど、人間相手で考えれば普通に考えればそれだけでも十分すぎるほどだろう。
だがLはいわゆる重武装バイクによる砲撃を難なく捌いたオルフェノクと会っている。これでもまだ足りない参加者がいるのかもしれない。
緊張で頬に伝う汗を拭い、別の設問に目をやる。
魔法少女は魔力を回復するために○○の落とした○○○○○○○を用いる。
魔法少女は魔力を回復するために○○の落とした○○○○○○○を用いる。
織莉子との情報交換が助かった、と思った。
魔法少女が魔力回復にグリーフシードなるものを使うことは知っていた。おそらくそれ自体は魔法少女が求めていることから推測はできるだろう。
だが、それが魔法少女のソウルジェムが変貌したものという情報はきっかけでもなければつかめないものだろう。
魔法少女が魔力回復にグリーフシードなるものを使うことは知っていた。おそらくそれ自体は魔法少女が求めていることから推測はできるだろう。
だが、それが魔法少女のソウルジェムが変貌したものという情報はきっかけでもなければつかめないものだろう。
魔女、そしてグリーフシード。
入力したところで表示された文字。
”武装の操縦権を解禁しました”
明かされた画面には取扱説明書のようなファイル、そしてAuto ONという切り換えを行うかのような表記。
武装使用といえばかなり複雑そうな印象を受けたが、かなり簡略化されている。一人でも操作は可能のようだ。
入力したところで表示された文字。
”武装の操縦権を解禁しました”
明かされた画面には取扱説明書のようなファイル、そしてAuto ONという切り換えを行うかのような表記。
武装使用といえばかなり複雑そうな印象を受けたが、かなり簡略化されている。一人でも操作は可能のようだ。
「武装解除か…。チッ」
舌打ちしながらも別の画面を開く。
オルフェノクの中でも上の上に位置する存在、ラッキークローバー。そのメンバーは○人存在する。
これは知らない情報、と言いたいが実は推測する条件が揃っていた。
Lが言っていた。北崎はオルフェノクの中でも高い実力を持ち、ラッキークローバーなる集まりに数えられている存在だと。
そして自分が立ち寄ったクローバーという名のバー。
あそこに飾られたグラスの置き場に北崎の名があった。そして同列に並べられた場所に他に3つの名前。
うち一つは書き換えられたかのような形跡もあったものの、並んでいた数自体は4。
Lが言っていた。北崎はオルフェノクの中でも高い実力を持ち、ラッキークローバーなる集まりに数えられている存在だと。
そして自分が立ち寄ったクローバーという名のバー。
あそこに飾られたグラスの置き場に北崎の名があった。そして同列に並べられた場所に他に3つの名前。
うち一つは書き換えられたかのような形跡もあったものの、並んでいた数自体は4。
ついでに考えるなら、ラッキー(幸運の)クローバーと言われて思い浮かぶのは葉の枚数が多いクローバー。
中でもメジャーなものは4つ葉のクローバーだ。
もしかすると、その数に擬えたものなのかもしれない。
中でもメジャーなものは4つ葉のクローバーだ。
もしかすると、その数に擬えたものなのかもしれない。
だが、確証がない。
ニアも懸念していたらしい、これを外した場合どうなるのかということ。
刻印発動か、あるいは二度とこの問題を入れることができなくなるか。
ニアも懸念していたらしい、これを外した場合どうなるのかということ。
刻印発動か、あるいは二度とこの問題を入れることができなくなるか。
一か八かだが先に確認する必要はある。
ニアが止まったという選択問題を開く。
ガブリアス、ポッチャマ、ニドキング、グレッグル、リザードン。この中で最も基礎能力が高いポケモンは○○○○○である。
無論分からないものだ。
メロはこの中でポッチャマという選択肢を選ぶ。
理由は単純だ、名前の響きから強そうな気がしなかったというだけ。コガネムシとギラファノコギリクワガタのどちらが強そうかと言われて前者を選ぶ人は少ないだろう。
ガブリアス、ポッチャマ、ニドキング、グレッグル、リザードン。この中で最も基礎能力が高いポケモンは○○○○○である。
無論分からないものだ。
メロはこの中でポッチャマという選択肢を選ぶ。
理由は単純だ、名前の響きから強そうな気がしなかったというだけ。コガネムシとギラファノコギリクワガタのどちらが強そうかと言われて前者を選ぶ人は少ないだろう。
ビーッとエラーを示すような電子音が響く。
身構えたメロ。しかし何も起きない。
画面を再度開き問題を出そうとする。
「この問題は4時間後に入力可能です」
身構えたメロ。しかし何も起きない。
画面を再度開き問題を出そうとする。
「この問題は4時間後に入力可能です」
どうやら間違えた場合はタイムスパンが必要になるということらしい。
短いようでいて、この移動速度なら4時間もあれば会場のほとんどを回れる。その間多くの参加者とも出会うだろう。解禁された時に無事でいられる可能性も高くはない。
短いようでいて、この移動速度なら4時間もあれば会場のほとんどを回れる。その間多くの参加者とも出会うだろう。解禁された時に無事でいられる可能性も高くはない。
だが、これなら問題ない。
先程の問題。ラッキークローバーの構成員の人数。
数は、4。
数は、4。
正解だったらしく、画面に表示された情報。
”戦艦”アヴァロン”との連絡回線が解禁されました”
”戦艦”アヴァロン”との連絡回線が解禁されました”
どうやら、正反対の位置にあるもう一つの戦艦との通信が解除されたらしい。
内心で手を打つメロ。
キーボードをうち、連絡回線にメールとしてニアと自分の考察をまとめたものを打ち込む。
内容はポケモン城についてのもの。
キーボードをうち、連絡回線にメールとしてニアと自分の考察をまとめたものを打ち込む。
内容はポケモン城についてのもの。
メールにした理由は単純だ。今向こうに誰かが載っているかどうかが分からない。
通話であれば出る相手がいなければ終わりだが、メールならどのタイミングであれ送った情報が残る。
通話であれば出る相手がいなければ終わりだが、メールならどのタイミングであれ送った情報が残る。
送信を選択。メールが送られたことを確認する。
これでいい。最低限の仕事は果たせた。
アヴァロン側でも同じような機能はあるようだが、いずれ向こうに乗った何者かの目には届くだろう。
これでいい。最低限の仕事は果たせた。
アヴァロン側でも同じような機能はあるようだが、いずれ向こうに乗った何者かの目には届くだろう。
一息ついて、静かに背後の気配を伺うメロ。
「…俺の分かる情報は、ここまでだな」
静かに画面の光を落とし。
暗くなった画面に反射した室内の光景。
自分の背後に立つ、謎の全身スーツを身にまとった男の姿を確認。
自分の背後に立つ、謎の全身スーツを身にまとった男の姿を確認。
その手が振り上げられたのを見た瞬間、メロは体を低く下げ伸ばした足を地面を薙ぐかのように振り回した。
スーツを来た何者かは、足払いの直撃を受けて転倒。
そのままメロは後ろを振り返らず艦橋の手すりを乗り越えて出口に駆け寄る。
入り口に人影を確認したところで艦長席付近に置かれた小物入れを手に掴み投げつけた。
相手が怯んだ隙に、部屋を脱出し廊下を駆け抜けた。
そのままメロは後ろを振り返らず艦橋の手すりを乗り越えて出口に駆け寄る。
入り口に人影を確認したところで艦長席付近に置かれた小物入れを手に掴み投げつけた。
相手が怯んだ隙に、部屋を脱出し廊下を駆け抜けた。
走る途中で一発の銃声が響き、脇腹の表面が熱と痛みを発し始めても構うことなく駆け抜け続けた。
◇
後ろから迫った何者かがいることには、メロは最初から気付いていた。
足音は隠そうとしているようだが、気配まで隠せているわけではない。その辺りは素人といったところだろうか。
だが、気配を隠そうとしたままこちらに迫り、あまつさえ解析を進める途中の自分の背後を取ろうとする相手、信用などできるはずもない。
気付いていないかのように振る舞いながらも、敢えてやっていること、解析を口に出すことで今自分を殺せば不利益となるということをアピールして手を出させることを抑制していた。
そこまでの考えができない、必要ない相手だったら死んでいただろうから賭けではあったがそもそもこの閉所でそんな相手と遭遇すればその時点で詰んでいる。
足音は隠そうとしているようだが、気配まで隠せているわけではない。その辺りは素人といったところだろうか。
だが、気配を隠そうとしたままこちらに迫り、あまつさえ解析を進める途中の自分の背後を取ろうとする相手、信用などできるはずもない。
気付いていないかのように振る舞いながらも、敢えてやっていること、解析を口に出すことで今自分を殺せば不利益となるということをアピールして手を出させることを抑制していた。
そこまでの考えができない、必要ない相手だったら死んでいただろうから賭けではあったがそもそもこの閉所でそんな相手と遭遇すればその時点で詰んでいる。
だがずっとそのままで待機できるはずもない。もし利用価値がないと思われれば、気付いていることに気付かれればまた終わりだ。
行動を起こすまでに何かできることがないかを考え、運良くではあるが通信機能は回復させることができた。
できることだけは成した。ならこの場にリスクを抱えたまま残る意味はない。
どうせ危険人物の手に渡すくらいならせめてこの戦艦を利用できなくする、くらいまでできればよかったがそこまでする時間はないのだから。
行動を起こすまでに何かできることがないかを考え、運良くではあるが通信機能は回復させることができた。
できることだけは成した。ならこの場にリスクを抱えたまま残る意味はない。
どうせ危険人物の手に渡すくらいならせめてこの戦艦を利用できなくする、くらいまでできればよかったがそこまでする時間はないのだから。
そうして残された背後からの接近者、ゲーチスは地面にころんだ状態から起き上がったスーツ着用者、草加雅人を冷たい目で見下ろす。
「全く、もう少ししっかり働いてもらわないと困りますよ」
病院から離れたゲーチスは、しかし警戒と更なる戦力の安定も兼ねて戦艦の収集へと動いていた。
移動に用いたのは草加雅人の持っていたバイク。変形・飛行機能を持っていたのは尚役立つものだった。
移動に用いたのは草加雅人の持っていたバイク。変形・飛行機能を持っていたのは尚役立つものだった。
戦艦が視認できる場所まで移動したゲーチスは、一定速度で動くそれに対しサザンドラとバイク、オートバシンでの飛行で空中から取り付いた。
移動速度は決して遅くはなかったが、瞬間的な速度で追いつくことは不可能ではない。
最も、中に入ったのはそこから停船し内部への侵入口が開いてからだったが。
移動速度は決して遅くはなかったが、瞬間的な速度で追いつくことは不可能ではない。
最も、中に入ったのはそこから停船し内部への侵入口が開いてからだったが。
さっそく艦橋にたどり着いた時、扉は開いており人の気配があった。
相手は単独。特徴は以前夜神月に聞いたメロなる者に一致した。
すぐに殺そうと思ったが、何やら解析作業に取り掛かっている様子であったこともありしばらくの様子見に徹していた。
まさか気付かれていたとは思わなかったが。これはこちらの失敗だ。
相手は単独。特徴は以前夜神月に聞いたメロなる者に一致した。
すぐに殺そうと思ったが、何やら解析作業に取り掛かっている様子であったこともありしばらくの様子見に徹していた。
まさか気付かれていたとは思わなかったが。これはこちらの失敗だ。
「戦艦にかかったロックですか。なるほど、武装とその使用権が解除されている。私の力とするには十分ですね」
建造中のプラズマフリゲートにも劣らぬ戦艦。あとは操縦権だけどうにかできれば完璧だが。
逃げたメロのことは追うべきか。
戦艦が手に入った今あんな人間一人のことなど些事だが、もし放置して戦艦への破壊活動をされてはことだ。あとこの顔に僅かに残る痛みの礼もある。
戦艦が手に入った今あんな人間一人のことなど些事だが、もし放置して戦艦への破壊活動をされてはことだ。あとこの顔に僅かに残る痛みの礼もある。
ふと部屋の中央に転がる死体に目をやる。
こちらも夜神月から聞いた情報だが、彼と敵対していたニアという人物のそれと一致する。
こちらも夜神月から聞いた情報だが、彼と敵対していたニアという人物のそれと一致する。
ゲーチスの顔が、何かを思いついたようにニヤリ、とつり上がった。
◇
「…流石に幸運もここまで、か」
脇腹から流れ出る血を抑えながら曲がり角の端で座り込むメロ。
武器はない。現状同行者もいない。
一方で相手は一体どんな力を持っているのかも未知数。何の力もなかったとして、二人の人間を手負いかつ素手でどうにかできるなどと楽観できるはずもない。
武器はない。現状同行者もいない。
一方で相手は一体どんな力を持っているのかも未知数。何の力もなかったとして、二人の人間を手負いかつ素手でどうにかできるなどと楽観できるはずもない。
だが、これまでも何もない状況であろうとこの身一つでも切り抜けてきた。
ワイミーズハウスを出た時も、手を組んだマフィアが壊滅した時も。
ワイミーズハウスを出た時も、手を組んだマフィアが壊滅した時も。
せめて爆弾か何かでもあれば戦艦を破壊し、あるいはLに変な手間をかけさせることもなくせただろうが無いものは仕方ない。
次の施設まで潜むという選択肢もあったが、出口はほぼ一つ。抑えられたら終わりだ。
次の施設まで潜むという選択肢もあったが、出口はほぼ一つ。抑えられたら終わりだ。
血を拭い、最後に残った道具、例の宝石を取り出す。
せめてこれを相手にぶつけさえできれば、この場を乗り切る取引はできる。
せめてこれを相手にぶつけさえできれば、この場を乗り切る取引はできる。
宝石に血を塗りつけようとしたところで、ふと気配に気付く。
ゆったりとした足音。少なくとも今は一人の様子。
ゆったりとした足音。少なくとも今は一人の様子。
同じ手が通じるかは分からないが、まず今は張り倒して距離をあけるとしよう。
廊下の隅に備え付けられた消化器に手をやる。
廊下の隅に備え付けられた消化器に手をやる。
曲がり角へと顔を見せてきたところを思い切り殴り飛ばしてやろうと。
そう思っていたはずだったのに。
「――――――――!」
曲がり角から出てきた顔を見た瞬間、思考が停止していた。
白い髪。白い服。
気だるそうな顔と、姿勢の悪い立ち方。
その顔は。
気だるそうな顔と、姿勢の悪い立ち方。
その顔は。
「―――ニア…?」
もう放送で名前を呼ばれたことは知っていた。
もう生きていないことも知っていた。
だけども、ほんの少し。
心のどこかで願っていたのかもしれない。
もう生きていないことも知っていた。
だけども、ほんの少し。
心のどこかで願っていたのかもしれない。
ニアならば、主催者やこの自分すらも何らかの手段で欺いて生き延びているのではないかと。
そう願いたい想いがどこかにあったのかもしれない。
そう願いたい想いがどこかにあったのかもしれない。
それ故に見せてしまった、一瞬の、しかし大きすぎる隙。
Burst Mode
電子音と共にニアが手にした何かから光線が発され、メロの腹部を貫いた。
「がっ……!!」
足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちる。
先程銃で撃たれたそれとは比べ物にならない量の血が流れ出て足元を濡らしている。
先程銃で撃たれたそれとは比べ物にならない量の血が流れ出て足元を濡らしている。
視線を前に向けると、目の前にいたニアの姿が歪んでいき、先に突破した強化服を纏った誰かの姿があった。
「今度はよくやりました」
廊下の奥から姿を見せたのは、顔の半分を隠すような仮面を被った壮年の男。
一瞬見ただけだがおそらくさっき部屋の入り口に陣取っていた男だろう。
一瞬見ただけだがおそらくさっき部屋の入り口に陣取っていた男だろう。
「あなたのことはさる人物から聞いていたので少し遊ばせてもらいましたが、まさかここまでとは」
こちらの傷、そして絶望の表情を見るその顔からは愉悦から来る笑いが抑えられてはいない。
「おま、え…」
メロはその表情からこの男の狙いに気付く。
こいつはただ楽しむためだけにニアの姿を敢えて使って遊んだのだ。
ただ殺すのではなく、弄んで苦しめて殺すように。
こいつはただ楽しむためだけにニアの姿を敢えて使って遊んだのだ。
ただ殺すのではなく、弄んで苦しめて殺すように。
「その傷では長くは生きられないでしょうね。
最期の言葉くらいは聞いてあげましょうか?何か言い残すことはありますか?」
最期の言葉くらいは聞いてあげましょうか?何か言い残すことはありますか?」
と、こちらの顔をじっくり見るように髪を掴んで持ち上げた。
ここまでの激情に駆られたことはこれまでにあっただろうか。
ただの殺人鬼ならば、あの北崎のような化物であるだけだったらこんな感情を抱きはしなかっただろう。
目の前の男は、ただこちらの絶望を楽しむためにニアの姿を利用した。
あり得ないことだとしても、あまりに非合理的なものだったとしても。
空虚の中に一片だけ残そうとしていた希望を、見事に突いてきたのだ。
ただの殺人鬼ならば、あの北崎のような化物であるだけだったらこんな感情を抱きはしなかっただろう。
目の前の男は、ただこちらの絶望を楽しむためにニアの姿を利用した。
あり得ないことだとしても、あまりに非合理的なものだったとしても。
空虚の中に一片だけ残そうとしていた希望を、見事に突いてきたのだ。
それだけは許せなかった。
最後に力を振り絞って、男の首を掴み握り締める。
最期に見ることになる男の顔を、自分の力で見ていることを示すために。
最期に見ることになる男の顔を、自分の力で見ていることを示すために。
「……地獄に、落ちろ」
精一杯の、たっぷりの呪詛を込めるようにそう呟く。
「ふ、ハハハハハハハハハハ!!いい顔です!!その表情が見たかった!!
さて、もう用済みです。ここから私の城となるこの戦艦、ゴミを残しておくのも不本意だ。草加雅人、操縦室にあったあの死体の残骸もろとも捨ててきなさい」
さて、もう用済みです。ここから私の城となるこの戦艦、ゴミを残しておくのも不本意だ。草加雅人、操縦室にあったあの死体の残骸もろとも捨ててきなさい」
と、ひとしきり笑った後強化服の男、草加雅人に命じる。
すると草加雅人はこちらの腕を掴み、引きずりながら移動を始めた。
その一方の手には、何か真っ赤な何かが詰め込まれたかのような大きな袋。
すると草加雅人はこちらの腕を掴み、引きずりながら移動を始めた。
その一方の手には、何か真っ赤な何かが詰め込まれたかのような大きな袋。
だが、血が少しずつ失われていくメロにはそれに対して何かを感じるだけの力は残されていなかった。
戦艦内のダストシュートまでメロを引きずり、そのまま一片の迷いもなく放り込まれる。
本来ならばゴミは一旦どこかに溜め込まれて港かどこかで処理されるのだろうが、ここでは捨てられたものは直通で戦艦から放り出されるらしい。
本来ならばゴミは一旦どこかに溜め込まれて港かどこかで処理されるのだろうが、ここでは捨てられたものは直通で戦艦から放り出されるらしい。
体の支えの一切を失い宙へと放られたメロ。
横にはかつてニアだったものもまた、ゴミのように詰められて投げ出されている。
横にはかつてニアだったものもまた、ゴミのように詰められて投げ出されている。
(二人、なら、Lを越えられる…か…)
せめて生きている時に会うことができていれば、二人が揃っていれば、こんな無様なことにはならなかっただろう。
そうならなかったが故に、その死をずっと引きずったが故に、こんな情けない死を晒そうとしている。
そうならなかったが故に、その死をずっと引きずったが故に、こんな情けない死を晒そうとしている。
二人揃えばLを越えられる。
もし自分が死んでもニアが生きていたならまだ可能性はあったかもしれない。
だけどその逆。ニアが死んで自分だけが生き残っていた時点で、既にLの後継者としては欠陥だったのかもしれない。
もし自分が死んでもニアが生きていたならまだ可能性はあったかもしれない。
だけどその逆。ニアが死んで自分だけが生き残っていた時点で、既にLの後継者としては欠陥だったのかもしれない。
(…ああ、やっぱ)
脳裏に浮かぶ、本物のLの姿。
彼には一人で全てを担う力量があり、俺のような欠損することで欠陥となる何かを持っていなかった。
彼には一人で全てを担う力量があり、俺のような欠損することで欠陥となる何かを持っていなかった。
どうしても、一人では限界がある自分では。
(届かねえな……)
それが体が地に叩き付けられるまでに、メロが最後に思ったことだった。
【メロ@DEATH NOTE(漫画) 死亡】
◇
戦艦から放られて落ちていくメロを内部のカメラから見ながら、ゲーチスは艦長席に座る。
「それにしてもゾロアークの幻影だけでも十分かと思いましたが、スーツの変身機能だけでもなかなかのものですね。
合わせることができれば戦闘なら更なる撹乱に使えるでしょう」
合わせることができれば戦闘なら更なる撹乱に使えるでしょう」
ゲーチスは戦略家ではあるが、戦術家ではない。
策を練って行動することは得意だが、場の状況に合わせて最適な形で動くことはできないわけではないが彼自身の性格もあり若干劣ったものだ。
人を見下し、他者が苦しむ姿を楽しむ。そのような性根は隙を生み出す。
策を練って行動することは得意だが、場の状況に合わせて最適な形で動くことはできないわけではないが彼自身の性格もあり若干劣ったものだ。
人を見下し、他者が苦しむ姿を楽しむ。そのような性根は隙を生み出す。
かつてはゲーチスの側にはダークトリニティという優秀な側近がおり、実際の戦術面でもフォローすることはできたが、ここに彼らはいない。
「しかし、あの青年が首に触れた時何かが当たった気がしましたが、……ふむ、何ともないですね。気の所為ですか」
ゲーチスは気付かない。
メロが最後に叩きつけた呪詛の意味に。
その首の、主催者により与えられた刻印付近につけられた、また別の紋様の存在に。
メロが最後に叩きつけた呪詛の意味に。
その首の、主催者により与えられた刻印付近につけられた、また別の紋様の存在に。
メロの呪い、痛覚共有の刻印の存在に。
【E-7南部/斑鳩内/一日目 夜中】
【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(中)、肩に切り傷(処置済み)、精神不安定、強い怒りと憎悪と歓喜、痛覚共有の呪い発動(共有対象:なし)
[装備]:普段着、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ、サザンドラ(健康)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、病院で集めた道具(薬系少な目)
羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4@現実、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)
デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り1個)、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:この戦艦を完全に手中に収め、他の参加者の口減らしを行っていく。
2:草加雅人を利用する。
3:ゾロアーク、草加雅人の力をもってできるだけ他者への誤解を振りまき動きやすい状況を作り出す。
[備考]
※痛覚共有の呪いを首の刻印の近くに受けていますがまだ共有者はいません。次にこの刻印に触れた者と痛覚を共有することになります。また、その存在にゲーチスは気付いていません。
[状態]:疲労(中)、肩に切り傷(処置済み)、精神不安定、強い怒りと憎悪と歓喜、痛覚共有の呪い発動(共有対象:なし)
[装備]:普段着、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ、サザンドラ(健康)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品一式、病院で集めた道具(薬系少な目)
羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4@現実、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)
デザートイーグル@現実、流体サクラダイト@コードギアス 反逆のルルーシュ(残り1個)、デザートイーグルの弾、やけどなおし2個@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:この戦艦を完全に手中に収め、他の参加者の口減らしを行っていく。
2:草加雅人を利用する。
3:ゾロアーク、草加雅人の力をもってできるだけ他者への誤解を振りまき動きやすい状況を作り出す。
[備考]
※痛覚共有の呪いを首の刻印の近くに受けていますがまだ共有者はいません。次にこの刻印に触れた者と痛覚を共有することになります。また、その存在にゲーチスは気付いていません。
【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(大)、負傷(中)、胸に切り傷(処置済み)、頭に打撲、真理の死及びオルフェノク転生の事実に対する精神不安定、昏睡状態
[装備]:イクスパンションスーツ@ポケットモンスター(ゲーム)、カイザギア@仮面ライダー555、オートバシン@仮面ライダー555、ゾロアーク(健康、片腕欠損、ボールジャックにより人形状態)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:儀式からの脱出とオルフェノクの抹殺
1:???????
2:真理、俺は―――――
[備考]
※イクスパンションスーツの機能により昏睡状態です。そのままの状態では目を覚ますことは難しいですが、他者の呼びかけなど外部の刺激次第では意識を取り戻す可能性はあります。
※草加雅人はリモート操作によって操られています。
※オートバシンは斑鳩艦内にあります。あくまで所有者の意思(現在は草加雅人)の意図に沿って機動します。
[状態]:疲労(大)、負傷(中)、胸に切り傷(処置済み)、頭に打撲、真理の死及びオルフェノク転生の事実に対する精神不安定、昏睡状態
[装備]:イクスパンションスーツ@ポケットモンスター(ゲーム)、カイザギア@仮面ライダー555、オートバシン@仮面ライダー555、ゾロアーク(健康、片腕欠損、ボールジャックにより人形状態)@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:儀式からの脱出とオルフェノクの抹殺
1:???????
2:真理、俺は―――――
[備考]
※イクスパンションスーツの機能により昏睡状態です。そのままの状態では目を覚ますことは難しいですが、他者の呼びかけなど外部の刺激次第では意識を取り戻す可能性はあります。
※草加雅人はリモート操作によって操られています。
※オートバシンは斑鳩艦内にあります。あくまで所有者の意思(現在は草加雅人)の意図に沿って機動します。
※斑鳩について
陸地のホバー移動は操縦可能ですが、現状は飛行による制御になっているため実質飛行による移動のみ可能となっています。
操縦基盤には6つのロックが存在しており、それぞれ解除することで
陸地のホバー移動は操縦可能ですが、現状は飛行による制御になっているため実質飛行による移動のみ可能となっています。
操縦基盤には6つのロックが存在しており、それぞれ解除することで
- ハドロン砲以外の武装
- ハドロン砲
- 武器系統の制御
- 操縦系統の制御(飛行時)
- 格納庫のナイトメアフレーム
- 戦艦”アヴァロン”との連絡
が開放されます。現在はそのうちハドロン砲以外の武装、武器系統の制御、戦艦”アヴァロン”との連絡が解除されている状態です。
また、いずれか一つはロック解除のキー入力まで4時間待つ必要があります。
アヴァロンにこれと同じロックがあるかどうかは不明です。
また、いずれか一つはロック解除のキー入力まで4時間待つ必要があります。
アヴァロンにこれと同じロックがあるかどうかは不明です。
143:再起動 | 投下順に読む | 145:待ち人ダイアリー |
時系列順に読む | ||
132:虚の中の道標 | メロ | GAME OVER |
139:INVASION OF VENOM | ゲーチス | 154:立ち向かうべきもの |
草加雅人 |