そこに空があるから

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ディアルガ、パルキアが吠える。
組み合ったレシラム、ゼクロムに対して、威嚇するように向かい合っている。

それだけで足元は揺れ、Nやポケモン達は立っているのもままならない。

互いの体を弾き飛ばし反動で離れる。

ディアルガが胸部にエネルギーを蓄積させ、時間を歪める光線となった一撃を放つ。
パルキアが爪を構え、空間に歪みを入れるほどの斬撃を放つ。

対してゼクロムが体に激しい音を轟かせる電気を纏い、その後ろでレシラムは巨大な火球を作り出す。
同時に放たれた技はやがて混じり合い、雷撃と火球を纏ったゼクロムが閃光となって二匹の攻撃を迎え撃つ。

時空を歪める時の咆哮、亜空切断。
合わせ技により威力を増したクロスサンダー、クロスフレイム。
それが共にぶつかり合い、時空間の止まっていた一帯に一瞬歪みが奔った。

閃光となっていたゼクロムの姿が戻ると共に4匹は共に離れ、体勢を立て直す。
直接攻撃を受けたことで多少ダメージを受けてしまったゼクロムだが、一方でディアルガもまた時の咆哮の反動で動きが止まっている。

ディアルガとパルキア。
時空神の力を持ったその能力はおそらくこちらの、イッシュの二竜よりも上だろう。
だが、Nにはその力が発揮しきれていないようにも思えた。おそらくアカギが自我を奪い操っていることで本来の力が出せずにいるのだろう。

とはいえ決して油断できる相手ではない。

戦ってくれている二匹に任せてばかりではいけない。
こちらが戦うべき相手は目の前にいる。

「アカギ!」

叫ぶと、リザードン、ゾロアークが駆け出す。
今のアカギの力であるディアルガ、パルキアはゼクロム、レシラムにかかりきりだ。
彼を取り押さえられるのは、今しかない。

リザードンとゾロアークの振るった腕が、アカギに迫る。

その時、アカギの懐から光が走る。
それは二匹の攻撃を受け止めていた。

「何…!?」

リザードンの攻撃を受け止めたものは龍のごとき青く長い体を持った姿を形取り。
ゾロアークの攻撃を受け止めたものは一回り小柄な黒い体を持った二足の獣となる。

ギャラドスとマニューラ。
アカギの、ポケモントレーナーとして所有していたポケモン達。

「伝説のポケモンだけが私の力だと思ったか?」

アカギがそう言うと同時に、追って現れた光が更に二匹のポケモンを呼び出す。

翼状の四肢を持った蝙蝠型のポケモン、クロバット。
恰幅のいい大きな漆黒の体を持った鴉型のポケモン、ドンカラス。


迫ってきたゾロアーク、リザードンを追い返した二匹と共に、現れた四匹は吠える。
まるで主を守るかのように、彼らは構えていた。

「…っ、サザンドラ、ポッチャマ、ピンプク!君たちも力を貸してくれ!」

リザードン、ゾロアークだけでは抑えきれない。
ゼクロム、レシラムはディアルガパルキアにかかりきりでこちらに気を配っている余裕がなさそうだ。


リザードンはギャラドスに、ゾロアークはマニューラに。
サザンドラはクロバットに、ポッチャマとピンプクは二匹がかりでドンカラスに。

それぞれが向かい合ってぶつかり合う。

リザードンの吐き出す火炎をかいくぐりながら、ギャラドスが滝を登る勢いで水を纏って突撃をかける。
ゾロアークとマニューラの辻切りがぶつかり合う。隻腕のハンデは中距離に離れての火炎放射や気合玉でカバーしている。
竜の波動とエアスラッシュがぶつかり合い、距離を取るサザンドラと逆に詰め寄るクロバットの空中戦が繰り広げられる。
ポッチャマのバブルこうせんとピンプクの秘密の力が、ドンカラスの放つサイコキネシスと衝突する。

全てを見通すのはNであっても難しく、多くの流れがポケモン任せとなってしまう。
しかし、アカギのポケモン達はまるでアカギから指示を受けているかのように統率のとれた的確な動きをしている。
どうやっているのか、アカギのポケモン達には口にせずともアカギの命令が分かる様子だった。

その行動の一つ一つの中には、ポケモン達のアカギに対する強い信頼を感じられた。
アカギの指示であれば間違いがないと、彼の言う通りにすれば勝てると。
ギンガ団、ポケモンを悪用する組織の首領であるトレーナー。自身のポケモンにもどこか嫌悪を感じられていたゲーチスとは対照的だった。
同時にそれは、力を利用されているディアルガ、パルキアからは感じられないものだ。

「ポケモン達のことは、よく育てているんだね」
「下らんことを。こいつらは自分の力だ、磨き上げるのは当然だろう」

アカギの口から出た言葉はあくまでも冷淡なものだった。

物理で戦うギャラドス相手に戦い切れなくなってきたリザードンの体が光る。
眩い輝きと共に全身を黒く染めたリザードンの拳がギャラドスを捉えその巨体を吹き飛ばす。

「メガシンカか。元来はポケモンとトレーナーの絆が発揮する力。
 だがそんなものがなくとも私の力には何の問題もない」

冷気を纏ったギャラドスの牙が、メガリザードンの爪とぶつかる。
その力は近接戦により強くなったリザードンをもってしても押し切ることができない。

それはアカギの執念が象ったかのようにも思えた。

「静寂の世界…、絆の力すらも否定するほどの力をこれほどまでに備えて。
 何があなたをそこまで駆り立てるんだ」

マニューラに弾き飛ばされたゾロアークが、周囲の景色を塗り替える。
アカギがパルキアを一瞥すると、パルキアが相手をしていたゼクロムを押し返しながら咆哮した。
塗り替えられていた景色が元に戻り、詰め寄ったマニューラの冷凍パンチを受けて吹き飛ばされる。

周囲を見回すが、アカギのポケモンは練度が高く皆追い詰められている。

ゼクロム、レシラムもまた互いに劣勢となっていた。
ディアルガの爪に切り裂かれ、パルキアの放つ大地の力に吹き飛ばされている。

アカギの一糸乱れぬ静寂の流れの中に、場の空気が取り込まれつつある。
危機的状況。にも関わらず、Nはどこかこの場の状態に感心しているところがあった。

ポケモン達の無駄のない動き。洗練された技。
無機質にも感じるがどこか論理に則った幾何学的にも思える。

思いかえせば、殺し合いの中でポケモン同士を戦わせる機会などなかった。
当然といえば当然の話であり、今目の前で繰り広げられている戦いも試合ではなく一歩間違えれば命を落とす戦い。
それでも、これまでの戦いとは違う、どこか新鮮な感覚を感じていた。

バトルを通して相手を知る気持ち。
もっと深く知りたいと思う気持ち。

現状においては間違いなく雑念だろう。
だが、この戦いにおいてはそれを捨ててはいけないという直感があった。
この戦いに勝つだけではダメだと。

マニューラのシザークロスを受けて吹き飛ばされたゾロアークが膝を付く。
ギャラドスのギガインパクトを受け止めたリザードンが地面に叩き付けられる。

サザンドラは怪しい光に惑わされ、ポッチャマとピンプクも熱風に押されて動けない。

「リザードン、ゾロアーク!」

走り寄るN。
まだいけるとばかりに、二匹は立ち上がる。

そんな様子を見て、飽いたかのようにアカギは言う。

「もういい、遊びは終わりだ」

ゼクロム、レシラムを押し込んだ二竜はアカギの後ろに下がる。
構えた体にエネルギーが集まり、周囲の空気を震わせる。
時の咆哮と亜空切断を同時に、合わせて放とうとしている。時空を揺るがす二つが合わさり周囲の風景すらも捻じ曲がっているような錯覚を覚える。

攻撃を止めさせようと構えたゼクロム、レシラム。しかしそこにマニューラとギャラドスの攻撃が割り込み逆に動きを止められる。

迎撃が間に合わない。
やがて放たれた、二つの攻撃の合わさった一撃は周囲の風景を、時間感覚を歪ませ。
その場にいたNの連れたポケモン達、そしてN自身の存在を消し飛ばさせた。




「僕は、死んだのか?」

平衡感覚も掴めぬ空間で、あれから過ぎた時間が一秒のようにも一時間のようにも感じられる場所で。
何が見えるわけでもなく、Nの意識が覚める。

ポケモン達はどこにもいない。
この場所にいるのは自分だけ。

ふと、誰かの話す声が聞こえた。

わけも分からぬ空間の中を、その声の元に向かうように泳いで進む。

小さな子供を含む親子が、なにもない空間を歩いていた。
大きな声で呼びかけるが反応はない。まるでこちらの声が聞こえていないかのように。

親子の話す声が聞こえた。

――バケモノ
――ポケモンの言葉が分かるなんて
――なんでこんな子供が私達から

息が止まるような感覚があった。
小さな子供に目を向ける。その顔はどこか自分の顔に似ているようにも思えた。

やがて親は森の中で子供、少年を捨てた。
少年は親を待ち続けているうちに、森に住むポケモン達と仲良くなっていった。

そんな少年に、一人の大人が近づいていく。

「―――ゲーチス」

確信する。
今見せられている光景は過去の光景。
自分の記憶ではない。知っていない情報もたくさん映っている。

僕を連れたゲーチスは小さな僕に一つの部屋を与える、いや、部屋に閉じ込めた。
そこに、色んなポケモン達を連れてきた。

例えば捨てられたポケモン。弱いから、使えないからとトレーナーに捨てられたポケモン。
例えば人間に居場所を奪われたポケモン。切り拓かれていく森に住み、巣を失い人を憎んだポケモン。
例えば無理やり捕まえられて奴隷のように働かされ、やがて働けなくなるほどボロボロになったポケモン。

「お前は、こんな世界を正しいと思うのか?」

背後から、まるで誘うような声が聞こえた。

「お前は人とポケモンを切り離すことで、ポケモンが傷つかぬ世界を作ろうとした。
 私は心に囚われることのない世界を作ることで、何も傷つかぬ世界を作ろうとした。
 何が違う?」
「違うさ」

誘う声を、一言で切り捨てた。

確かに一つ一つは許すことはできないものだ。
その一方で、例えば森を切り開くのに手を貸す格闘ポケモン達の姿があった。
ポケモンを奴隷のように働かせる一方でその主は自分の飼うポケモンには非常に優しかった。

また、ポケモン同士の戦いや営みでも似たようなことが起こらないわけではなかった。
山を切り崩し餌とするポケモンに棲家を追われるものもいたし、縄張り争いから戦い傷つくポケモンもいた。だがゲーチスはそんなポケモンには目もくれなかった。
結局、ただ利用する道具でしかなかったのだ。

やがて大きくなった僕は、大きな理想を胸に外の世界へと踏み出し。
彼と出会った。

ポケモンに好かれる、あの頃の僕にはとても不思議に思えたトレーナー。
理想への道から外れた出会いだと思っていたが、今にして思えばきっとこれが僕にとっての最初の一歩だったのかもしれない。

「あなたは世界を知っていて、だけどきっと世界から目を背けた。
 悲しいことばかりじゃない。その中には嬉しいことや楽しいことだってある。その事実から目を背けたまま進んだんだ」

それはあくまでも誘うような言葉に感じられた印象からのもの。
それだけの材料、だけどそれだけでアカギと僕は違うのだと思えた。

ある意味では昔の自分は同じだったのかもしれない。世界を見ず、ゲーチスから与えられた世界だけを全てだと思って自分を曲げることがなかった。

もしも、僕の中の迷いが吹っ切れていたなら、あの時ゲーチスに向き合うことができたかもしれない。
それができなかった結果、辛い役割を美樹さやかに押し付けてしまった。

海堂やルヴィアや大河、タケシや園田真理や乾巧、鹿目まどかやイリヤスフィール、ニャースに、リザードンやピカチュウのトレーナーだったサトシ。
多くの人がいてそこには一つの視点だけでは語れない混沌がある。中には闇があれば光もある。
どうあっても酷いことを行う人間がいれば、理想のために戦える人もいる。

真実の世界として、白か黒かをはっきりさせた世界を求めた。
だけどそうじゃない。両方が混ざり合っての世界なのだ。

「真実を求めた先にあった真実、確かに最初とは形は違ったかもしれない。
 だけど、僕にとっての真実は、あなたのものとは違う!」
「貴様っ…!」

焦るような声が聞こえる。

同時に、空間が割れて青い瞳がこちらを見つめる。
Nの心に満ちる真実を求める想い、それを感じ取ったレシラムが乱れた空間の中からNを探し当てたのだ。

亀裂が広がり、レシラムの片腕がNの体を掴み取る。

空間が安定していくような気がした。

その中で。
ほんの少しの間、一つの光景が見えた気がした。
電気を携えたポケモンと戯れる、一人の少年の姿が。

はっ、と意識が戻る。
ゾロアーク達は何が起こったのか分からず困惑しているようだったが、レシラム、そして皆を庇ってダメージを負ったゼクロムは安堵するような表情をしていた。

「何故帰ってこれた?」

アカギの無表情の中に困惑を感じ取れた。
今の攻撃に勝ちを確信していた、それが破れた故のものだろう。

「僕の心だ。例えどんな時間や空間の中に乱されても、今の僕の真実に向かう意志はなくならない。
 その想いがレシラム、トモダチとの強い絆だ」
「…夜神月といい、流石に儀式を生き残ったトレーナーといったところか。
 積み重ねられた因果は、時空の中のエントロピーに呑まれても耐えるということか」

アカギの周囲に控えたポケモン達が構える。

こちらのポケモン達も構えるが、皆息を切らせており一様に体が傷付いている。

足元にいる小さな体に視線をやる。

「ピンプク」
「プク?」
「タマゴうみを頼めるかい?」

ピンプクが頷くと同時に、アカギのポケモン達が一斉に動き出す。
それをリザードンが火炎放射で牽制し詰めてくる距離を保ち。

その間にピンプクは作り出した光のタマゴを、素早く皆の口に押し込んだ。
傷が少しだけ癒えてあがっていた呼吸も元に戻った。

ようやく炎をかいくぐってきたポケモン達を、皆がまた迎え撃った。





(やっぱりアカギのポケモン達は強い)

アカギの的確な指示がポケモン達を苦しめている。
よく育てられているし、トレーナーとしての命令も的確だ。

だが、ある種その指示は型に当てはめすぎていた。
ポケモントレーナーとしての一般則ではなく、アカギ自身の信念として。
まるで揺らぎも変化もなく、淡々とことを進めるように戦況を動かす。

そこにいくつかの変化が現れ始める。

ギャラドスに対する有効打を欠いたリザードンは、それでもぶつかり続けていくうちにその拳に電気を纏うようになる。
かつてのリザードンの友を思わせる電気を纏って放たれたメガリザードンXの雷パンチは、ギャラドスの巨体を大きく吹き飛ばす。

片腕でマニューラの攻撃を捌ききれないと見たゾロアークは距離をとっての攻撃に集中し始めた。
距離を詰めて追い込むマニューラだが、やがて中距離からの攻撃に慣れたゾロアークは暗黒の衝撃波を放つ技、ナイトバーストを習得し使い始めた。
衝撃波に視界を覆われたマニューラは攻撃を外すことが増え、逆にゾロアークの攻撃を捌ききれなくなりつつあった。

ポッチャマ、ピンプクはサザンドラと合流、その背中に乗ってドンカラス、クロバットと戦い始める。
空を飛ぶ機動力は落ちるが、飛行とは独立した対空手段を得たサザンドラは二匹を翻弄し始める。
渦潮が二匹の動きを閉じ込め、そこから追撃で放たれたバブル光線や竜の波動がじわじわと体力を削り始める。

淡々と動いていた戦況に荒立ち始めた不規則な波の動きに、アカギの心が少しずつ乱れ始める。
それは心を繋げ乗っ取っていたディアルガ、パルキアにも通じてしまう。
押していたはずの伝説の竜の戦いが逆に追い込まれ始める。

「アカギ、あなたは心を否定して変化しない世界を望んだ。
 だけど変わりたいと思う心は、前に進もうとする意志は、これだけの力を発揮することができるんだ。
 きっと、世界だって変えるくらいに」
「黙れっ!
 ただのトレーナーに敗北してからずっと、一人研究を続けて!
 人としての形を捨てて、神の、世界の理に近づいて、ようやくここまでできたのだ!
 またしても敗北するなど認められるものか!!」

パルキアの爪が空間を切り裂く。ディアルガの雄叫びが時間を歪ませる。
アカギの乱れぬ心で放たれていた時はそれは合わさり時空を乱れさせたが、心に動揺が生まれている今はその時ほどの精度を持たない。
ゼクロム、レシラムが同時に放ったクロスサンダー、クロスフレイムとぶつかり合う。
数秒の拮抗の後、火炎と電撃の合わさった攻撃は時空の歪みを打ち破って時空神へと命中する。

吹き飛ばされ、膝をつく二竜。
間髪入れずゼクロム、レシラムのエンジンのような尻尾に光が灯る。
起動した炉を思わせるように駆動音を放ちながら、二竜が咆哮。

全身にほとばしる高電圧の電気を纏ったゼクロムが、パルキアへと突撃をかける。
燃え盛る青い炎を口から放出したレシラムが、それをディアルガへと吹き付けた。


青い炎と電撃に包まれた時空神二竜は、絶叫の声を上げた後やがて地に倒れ込んだ。

同時にアカギのポケモン達もそれぞれが敗北し倒れていく。

「アカギ、もう止めよう。あなたの負けだ…」

アカギのポケモン達が敗れると同時に、ディアルガとパルキアの意志が感じ取れるようになってきた。
彼らを支配していたアカギの力が弱まり、本来の意識が戻りつつあるのだろう。

自由になった彼らは、アカギの意には従わないだろう。

「負け、か…。また敗北したというのか…。
 何故だ、そんなに世界は私の願いを否定するというのか!?」
「世界は、不安定で不規則だからこそ多くの可能性を生み出す。
 喜びも悲しみも、その不規則の中の一つ一つ、なくてはならないものなんだ」
「ならば、私の感じたこの怒りは、憎しみは、憤りは、どうすればいいというのだ!
 こんなものは、不完全な世界の生み出す不要物だ!」

アカギの言葉に答えを詰まらせるN。
多くを経験し自分の答えを持ってはいた、しかし今のアカギに言うべき言葉は分からなかった。

「ロトト、戦いは終わったロト?」

その時、Nの懐から飛び出してきたロトム図鑑。
それまでずっと隠れて沈黙を保っていた図鑑、それが突然飛び出してきたことに一瞬驚くN。

「ロトム、どうしたんだ」
「分からないけど、アクロマに言われたロト。
 アカギがもしみんなに負けたら、その時に姿を現せ、それまでは隠れているようにって」

意図を測りかねつつアカギの方を向く。
すると、その顔に驚くような困惑するような表情が浮かんでいた。

「お前は、何だ…?」
「ボクはロトム図鑑ロト。ポケモン図鑑としてトレーナー達をお助けするロト!」

そこにある表情は、戦いを通していく中で見ることのなかったものだった。
一瞬目を閉じて、何かを考えるような仕草をするアカギ。

「……お前は、その役割をどう思っている?」
「ロト?ポケモントレーナー達の手助けになって、色んなことを知っていくのは楽しいロト!とてもやりがいのあることロト!」
「そうか……、お前も、心を持つのだな…」

Nの脳裏に、亜空間の中で一瞬見えたロトムと戯れる少年の姿がよぎる。
小さな少年が、目を輝かせてロトムと共に過ごす姿。

あれはもしかして。

「あなたは、もしかしてある出来事をきっかけに深い悲しみを持って、そこから抜け出せなくて世界から心を否定したんですか?」
「ふん、言ってくれるな」
「N、あまりそういうことをはっきり口にするのは嫌われるロト」

小さな声でロトムに言われてそれ以上の言及を避けるN。

「だが、お前の言う通りだ。
 あるいは私もあの時から変わることがあれば、お前のようにあの時のロトムを探し出して心を通わせる、そんな世界もあったかもしれない」
「アカギ、今からでも遅くはない。省みることができたならやり直せるはずだ。
 野望を捨てて、もう一度僕たちの世界に帰ろう」

手を差し伸ばすN。
しかしアカギはそれを受け取ることはなかった。

「そうかもしれない。だが遅すぎたようだ。
 この全てが入り混じる時空の中で形を保つため、既に人としての体は捨てている。私の望みがこの体を繋ぎ止めていたが、諦めた以上もう長くはない」

アカギの体から光の粒子が漏れ始めた。

「この二匹は、お前に返そう。お前は、私のように道を誤るなよ」
「あなたは、どこに行くんですか?」
「私は居るべき場所に帰る。多少煩わしいところはあるが、現世よりは静寂な場所だ」

アカギはこちらに背を向けて、奥にある何も見えない闇の中に歩みを進めていく。
その姿は少しずつ闇に呑まれていき、やがてNの視界から消えていった。


歩を進んだ先に、一人の男が立っていた。

「気は済んだか?」
「さあな」
「出会った時と比べれば、どこか憑き物が落ちたような顔をしている」
「……」
「静寂を望むというが、一人で行くには静かすぎるだろう。
 私も付き合おう。お前の連れたその者達も付き合うと言っているぞ」

視界を後ろに向ける。
マニューラ、ギャラドス、ドンカラス、クロバット。
他にもあの場では出すことがなかったが自分の力として使役したことのあるポケモンもいた。

「…そうか。
 済まなかったな。これまでお前達のことはお前達として見てはこれなかった」

ポケモン達は、そんな自分を肯定するように笑い、吠え、翼を広げた。
こんな自分に、ポケモン達は敬愛する感情を持っていたのだ。
もっと早くそのことを意識していれば、あるいは何かが変わっただろうか。

「さて、行くか」
「ああ」

後ろにポケモン達を連れたアカギは、隣に共に目的のため協力した同士を伴い。
時間も空間も、己の生死すらもあやふやな空間に向けて歩んでいった。


「…そうか。君は君のいた世界に帰るんだね」
「グゥ」

目を覚ましたディアルガ、パルキア、そして自分を元の世界に送り出すために戻ってきたギラティナ。
彼らの導きの元で帰還するところで、リザードンは自分のいる世界に帰ると言った。
あくまでもNは仮のトレーナーであり、自分にとってのトレーナーは今でもサトシだけだと。
生き残った自分は、帰りを待つ皆に知らせなければいけないことがあると。

「分かった。それが君の意志なら止めることはできない。
 これまでありがとう、辛いことも色々あったけど、君たちと会えてよかった」

握手を交わした後、リザードンは翼を広げて空間の歪の光の中に消えていった。

残ったのは元々トモダチであったゾロアーク、クローンポケモンであるポッチャマ、ピンプク、サザンドラ、アクロマの残したロトム図鑑。
そして、ディアルガ、パルキア、ギラティナ、ゼクロム、レシラム。

ディアルガ、パルキア、ギラティナの三竜は着いてはこなかった。
今回のことで乱れてしまった時空を安定させる仕事が残っていた。

「行こうか」

ゾロアークはボールに戻し、ゼクロムがクローンポケモンを抱える。
レシラムの背に乗り、光を潜っていく。
僕たちの、帰る場所へ向けて。


やがて、どれほどの時間が経ったのかも分からない間の後。
サザンドラ、ピンプク、ポッチャマは初めて見る自然の中を駆け回っていた。
彼らを追って、先に帰ってきていたリザードンもやってきている。
走っていく先には、Nとレシラムの姿があった。
森の中、切り拓かれた一帯の中にその姿があった。

そして。

「やあ、心配をかけたね」

視線の先には一人の男の子の姿。その後ろにはゼクロムが控えている。
Nの心が踊っていた。

「君がレシラムとゼクロムを送ってくれたんだ。ずっと、探してくれていたんだね」

男の子はニィ、と笑う。

「いい顔をするようになったって?
 そうだね、向こうでも色々あったんだ。色々」

Nも笑い返す。

「積もる話も多いけど、その前に一ついいかな?
 君と、ポケモンバトルがしたいんだ」

ボールを構えるN。
彼もまた、了承するようにボールに手をやる。

それが、Nには嬉しかった。

「教えてくれ。ポケモンバトルを通して、もっともっと、君のことを!」

以前だったらきっとこれほど強くは思わなかった願い。
ただ自分の欲望でしかないものなのに、レシラムは応えてくれた。

青空、いつだって変わらぬ、全てを包み込む空の下で。

Nとそのトレーナーは、ボールを投げた。

【N@ポケットモンスター(ゲーム) 生還】
【N@ポケットモンスター(ゲーム) エピローグ 了】


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