Over Kaleidscope(後)

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「イリヤちゃん!!」
「ママ!?」

どこからともなく飛び出してきたベンツから出てきた母に驚くイリヤ。

「良かった、無事だったのね…」

落ち着いた母から話を聞く。
魔術協会に属するある勢力の人間が、イリヤを狙って刺客を放ってきたのだという。
動きが急すぎて察知するのが遅れ、帰ってくるのが間に合わなかったと。

父はそれに関連して別の場所で動いているためこの場にいないとのことだった。

「それで、あなたは誰かしら?」

イリヤの隣にいた男に警戒する目を向けるアイリ。

「名前なら門矢士だ。…おいおい、娘を助けたって相手に対して随分な目を向けるんだな」

名乗りながらも警戒されすぎていると見た士は手を上げて抗議するような声をあげる。

「当たり前じゃない。このタイミングでイリヤちゃんを助けた正体不明の男の人なんて、母親の立場からしたら信用できるわけないじゃない」
「ま、待ってママ!この人はたぶんそういうのじゃないと思うの!」

険悪な雰囲気が収まらないところでイリヤが声を上げる。

「私が危なかったところを助けてくれたのはホントのことだし、それにこう、何ていうか!
 根拠ははっきりとは言えないんだけど!この人たぶん大丈夫だと思うの!!」

うまく説明できない、というか、言えない。あの殺し合いの儀式の経験を通して得てきた直感的なものだったから。
しかしそう力説するイリヤを見て、アイリはため息を一つついて警戒を下げる。

「イリヤちゃんがそういうのなら、私が同じ立場だったなら同じことを思うのでしょうね…。
 それで、イリヤちゃんはどうする?家に帰る?それとももう遅刻になっちゃうけど、このまま学校に行く? 
 ただママはパパと合流しないといけないから、その後になっちゃうんだけど…」
「私は…、学校に行こうと思う。というか行きたいの」
「そう…。でも今からだとかなり遅刻しちゃうことになるけど、それでも――」
「なら俺が送ろうか?」

士がそう提案する。

「今から直接行けば始業式には間に合えるだろ。
 それに、こいつ自身俺に話があるみたいだしな」
「それは…、ううん、だったら、お願いしようと思う。
 ママ、それでお願い!」

その後は少しの悶着を通した結果、万が一の時はルビーの力を持って対応するということで、アイリ側が折れることで決着がつき。

アイリは車を走らせて去っていき、通学路に沿ってイリヤと門矢士は歩き始めた。

「さて、まずはお前の状況からだが」
「うん」

士の話すところでは。
自分が帰ってきた時の空間の歪み。協会にも観測されたそれは魔術師的には見過ごせないほどに貴重なもので。
そこから帰ってきたイリヤは、根源に到達するために重要な手掛かりにもなり得る可能性を秘めているのではないかという意見があるとのこと。

「それじゃ…、向こうに帰った桜さんも同じ目に…?」
「さあな。そこまでは俺には分からない。
 ただ聞くところによるとこの街を管轄としていた魔術師がいなくなって、協会が手を出しやすくなったとかいうのがあるらしい」
『ああ、そういえばこの街には以前なら凛さんとルヴィアさんがいましたからねぇ』

協会としても一枚岩ではなく、そのようなことを言う勢力は力を抑えられ気味であり。
ならばと起死回生の一手を狙ってイリヤに直に手を出してきたというのが顛末らしい。

「なんか、詳しいですね」
「まあ、少しだけ情報を集めたからな」
「じゃあ、またあんな人が来る可能性があるってことですか?」
『いえ、おそらくは今回の失敗を通じて責任追及とかがされるでしょうね。
 首謀者はおそらく弱体化も免れないでしょうし、今の所は派手な動きはなくなると思いますよ』

胸を撫で下ろすイリヤ。
あのようなことはそうそうあって欲しくない。警戒しながら日常を過ごすのはもう嫌だ。

そうして本題に戻る。今イリヤが最も聞きたかったこと。

「それで、士さんですっけ。
 あなたは誰なんですか?」
「言っただろう。俺は仮面ライダーディケイド。
 お前の出会った男、乾巧――仮面ライダーファイズの世界の平行世界の人間だ」

そうしてイリヤは士から、乾巧の、ファイズの世界についてのあらましを聞いた。
仮面ライダーという、人々を怪人の驚異から守る戦士が存在する世界。
ファイズの世界において怪人とはオルフェノクが該当し、それらと戦うその世界固有の存在がファイズであるのだと。

「ま、あの世界は仮面ライダーって名称がなかったからな。知らないのも無理はない」

それぞれが独立して歴史を刻んでいく。交わることは基本的にはない。
言いつつも交わってしまう歴史もたまによく見つかるらしいが。

士が変身した姿はディケイド、そして他の姿であるウィザードやゴーストは他の世界の仮面ライダーの姿。
ディケイドの能力は多くの世界の仮面ライダーに変身できるというものらしい。ファイズもその中の一つだと。

「で、俺の役割は世界の破壊だ」
「は、破壊…?!」
「ああ。ライダーの存在する世界を、時と場合によっては破壊する。
 そのために俺の、ディケイドの中には時空を越えられる力がある。
 だから基本的にはライダーのいない世界にパスをつなげることはできないんだが、全く行けないってわけじゃない」

何故そんな彼がこの世界に来たのか。
イリヤには一つの心当たりがあった。

「もしかして、私が持ってるファイズのベルトが…」
「当たりだ。あれは本来この世界に存在しないもの。もしここにあれば、万が一にもファイズが生まれる可能性がある。
 あるいは誰かに奪われ解析されれば、この世界特有の仮面ライダーが誕生する可能性もある。
 そうなれば、この世界はライダーの世界の一つとして数えられ、本来相容れない世界観がぶつかり合うことになる」
『そんなことが…。恐ろしすぎないですか、仮面ライダーって』

想像がつかずぽけーっと聞いているイリヤに対し、その有り方から話の大きさを理解して絶句するルビー。

「じゃあ、あのベルトを持っていくってことですよね…?」
「まあ、当初はそのつもりだったんだが」

と、恐る恐る問うイリヤに対し、士は言い直す。

「この世界の仕組み、内部に対する自分の世界の驚異に対してはそれなりに強固なものがあるっぽくてな。
 もしお前がベルトを持っていることが問題なら、その力が働いて何かしらのアクションを起こしてくるはずだ。
 だがこの一ヶ月、特に何もなかっただろう?」
「そう、ですね」
「それにお前を見て考えを改めた。乾巧自身が選んで、託したお前なら大丈夫だろうってな。
 危険はゼロではないが、無視しても構わないって程度だ。
 ちなみにどういう管理だ?」
『それなら私が管理しています。他の方の手には絶対届かない場所に』
「なら直ちに問題はないだろうさ」
「持ってはいかないってことですか?」
「何だ、持っていってほしいのか?」
「………」
「何か悩んでいるみたいだな。ことのついでだ、話してみろ。助言できるかは分からないが」

色々と複雑なものが入り混じった心中を見抜かれたイリヤ。
少し迷った後ポツリと話し始めた。

「あの殺し合いの中で、美遊もクロも、凛さん達もいなくなって。
 そしたらルビーと出会う前の、いつもどおりの日常が戻ってきて。
 みんながいなくなっても時間はずっと過ぎていく。いなくなったみんなが何だか忘れられていくみたいで」

この夏休み、亡くした人達へのジレンマで苦しんでいたイリヤ。
忘れたい記憶。忘れたくない人達。悪夢であってほしかった時間。今のこの現実で流れる時間。

この時間の中で、大事だったみんなのことも忘れていくのか。

答えは出ない。ルビーにも答えられない。

「なるほど。ファイズギアをどうするか話してる時の戸惑いはそういうことか」

あのベルトが、今のイリヤには唯一手元に残ったあの殺し合いの記録だから。
本当なら返すべきであるのに、返したくない、返すと全てを忘れてしまうと思う自分がいた。

「―――人ってのは変わっていくものだ。時間が経つ中で、出会いがあれば別れもある。
 楽しいことも、辛いことも、色んなものを積み重ねて成長していく」
「………」
「辛いことは忘れていくし、楽しいことは記憶の中で積み重なっていく。
 それでも忘れたことだって生きる中では確かに糧になってるものだ」


「それでも、もしその中に忘れたくない記憶がある、手放したくない思い出があるっていうなら。
 そいつらをお前の生き方に刻み込んだらいい」
「生き方に刻み込む…?」
「ああ」

遠くを見ながら士は言う。

「お前はまだ幼い。答えを出すには早すぎるかもしれないが。
 それでも刻みたいというのなら、そのファイズギアはお前に預けておこう。
 いつか、お前の手でそれを返しに来い。そのベルトを持つべきやつのところに渡しにな」
『えっ?』

視線を動かしてイリヤの隣を浮遊するルビーに目をやる士。
言った言葉の意味、そして意味ありげな目を向けられたことへの戸惑いだろう。

「簡単な道じゃないだろうさ。平行世界どころか世界そのものを越えてこないといけないんだからな。俺だって簡単じゃなかった。
 だがお前のところにあるそいつは多少の無理を可能にしてくれる存在だろう?」
『いやぁ、ちょっと無茶振りがすぎるというか…』
「それにそのベルトがお前を繋ぐ縁にもなる。現に俺がこの世界に来られたのもそいつを辿ってきたからだ。
 強く願って進み続けるなら、いつかはできるようになるかもしれないぜ?」
「――…いいんですか?」
「ああ。俺が許す。
 で、どうするんだ?たぶんお前が踏み入れるところは見たことないような酷い世界かもしれない。
 もしかしたら殺し合いの方がマシっていうような出来事だってあるかもしれない。それでも行く気はあるか?」

最後に問われた覚悟。

きっと言っていることは、魔術の世界に足を踏み入れろということでもある。
クロを封印した世界、間桐桜を苦しめた世界、両親が逃げてきた世界。どんなものかは想像もつかない。

言えば考える時間もくれるだろう。
だけど答えはとうに決まっている。

「――はい。行きます」
「フ、いい返事だ。気に入ったぞ。
 さて、そのためには色々やらなきゃいけないこともあるがな」

そう言って空を示す。
一羽の白い鳥、いや、白いワイヤーで編まれた鳥型の使い魔が飛んでいた。

「警戒は当然か。話は聞いてただろうから説明の手間は省けただろうが。
 あとはお前の仕事だな」

学校が見えてきた。
この会話ももうすぐで終わりだ。

「そういえば、士さん。一つだけ聞かせてください」
「何だ?」
「あなたが私を助けてくれたのって、ファイズギアを持ってたからですか?」

自分を助けた理由。
合理的に考えればそういうことになる。ベルトを守るために、それを持っていた人を助けた。
だけどこの人はそんな人ではないはずだと。

「子供が目の前で襲われてるんだ。助けるのに理由がいるか?」

答えは、イリヤの期待したものだった。
巧もきっと、同じ状況なら迷わずそうするのだろうと。

「何だか、仮面ライダーってのがどういう人なのか、少し分かった気がします」

そう言って笑った。

学校の正門に、白衣を着た一人の女性が立っていた。

「遅いわ。遅刻よ。ホームルームには間に合わないでしょうね」
「カレン先生…」

保健医として学校に赴任している先生。
何故保健医が校門で挨拶をしているのかと疑問に感じるイリヤ。

「暇だったのよ」
「そうですか…」
「早く教室に行きなさい。みんな普通に過ごしているわ。あなたがいないことにも気付かないくらいに」
「……?」

含みのあるような言葉。

「気になりますか、付き添いのお方」
「まあ、気になることはあるが」
「大丈夫よ。私がいる限り、学校に不審者を入れることなんて有り得ませんので」

ニコリと笑った笑顔の中には、保健医ではない別の顔が映ったように見えた。

「なるほど、大体分かった。
 じゃあ、俺の役目もここまでだ」

そう言って士はイリヤを学校に促しつつ来た道を戻るように歩いていく。

「士さんっ!」

その背中に呼びかけるイリヤ。

「その、また会うことはできますか?!」
「………。
 この世界にライダーが生まれない限りは来ることはない。
 だけど、お前の進む道次第では、いつかその道中ですれ違うことくらいはあるかもな!」

そう言って手を上げる。

「――それなら、また、いつか!!」

最後に別れ、いや、いつかの日の再会を信じる言葉を告げて。
イリヤは校舎に向けて走っていった。




去っていく士は、カメラから出てきた一枚の写真に目をやる。
走るイリヤの後ろ姿を密かに収めたもの。
まるで士の存在を世界が排斥しようとしているかのように周囲の風景はぐちゃぐちゃに乱れている。
その中で少女の背中、未来に向けて進もうとしているイリヤの姿と、それをどこか見守るような周囲に溢れる温かい光が輝いている。

それを見て、彼女の未来を信じるように笑いながら。
門矢士はオーロラの壁の中に消えていった。


美遊、クロ。遅くなっちゃったね。

帰ってこられなかった二人のお墓は、カレン先生がかけあって街のはずれの教会に作ってもらいました。
戸籍で揉めてたのもあって色々複雑で手続きとかで止まっちゃって時間がかかったけど、ようやく二人のいる場所が作れた気がする。
凛さんやルヴィアさんは後見人の人達で対応したらしいから、この後向かおうと思う。

士さんと会ってから、ママやセラ達と話したの。
魔術について勉強したいと。
当然いい顔はされなかった。だけど「イリヤさんの目を見たら、反対をしても無駄だというのは分かります」と言って、最後には許してくれたよ。

学校が終わってから基礎的なことをするようになったんだ。
色々と複雑でわけの分からないことも多かったです。少しずつ二人の見てた世界がどんなものだったのかも見えるような気がするよ。

それで、ある時決めたんだ。
小学校を卒業したら、留学しようって。

家だけじゃない、外の世界にいけばもっと知識が広げられる気がする。
それにどこかに所属すれば、あの時襲ってきたような人達も手を出せないんじゃないかってのも聞いたし。

たぶん美遊もクロも、凛さん達もいたら反対しただろうなってのは分かる。
勉強していくと、これがどれだけ危険な世界なのかが身を以て分かってきた。

だけど私はそれでもこの道を行こうと思う。
みんなのことを忘れないために。
あの殺し合いの1日の中で起こったことを刻むために。
あの人との約束を果たすために。


美遊、クロ。
凛さん、ルヴィアさん、バゼットさん、サファイア。

士郎さん。

バーサーカー、セイバーさん、シロナさん、Lさん、さやかさん、スザクさん。
巧さん。

まどかさん、Nさん、桜さん。

みんなことを絶対に忘れないために。
みんなの想いを背負って。だけど前を向いて。

『イリヤさん、そろそろ出ないと、時間に間に合いませんよ!』
「うん、今から出るから」

私は、走り続けるから!

「――行ってきます!」



【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ エピローグ 了】



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