Night of Knights

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Night of Knights ◆rNn3lLuznA


「――どうなってんのよ、コレは?」

 海風が程良く吹きつける深夜の冬木大橋。
 その入り口で、一人の少女が支給された参加者名簿を手に驚愕の表情を浮かべていた。

 彼女の名はアリス。アッシュフォード学園中等部に通う一人の女子生徒――というのは仮の姿。
 その正体は、ブリタニア軍の『特殊名誉外人部隊(イレギュラーズ)』に所属する人造ギアスユーザーの一人、アリス・ザ・スピード。
 プロの軍人にして、ヒトの摂理から外れた能力を与えられた少女――

 そんなアリスが、先ほどのような表情を見せた原因は当然、彼女の手にある参加者名簿に載っていた名前にあった。


 ――『ナナリー・ランペルージ』。
 アリスのクラスメイトにして、たった一人の親友。
 そして、アリスが自らの力で、何としてでも守ると誓った存在――
 そんなナナリーの名前が、名簿の中にハッキリと載せられていた。


 ――だが、アリスを驚かせたのは、それだけではなかった。


 『ルルーシュ・ランペルージ』、『篠崎咲世子』、『枢木スザク』、『ユーフェミア・リ・ブリタニア』――
 そして、『ゼロ』、『C.C.』、『マオ』と、どういうわけか、参加者名簿にはナナリーや自身に関係する者の名前が多く載っていたのである。

 特に、マオの名を見た時は、アリスも己が目を疑った。
 なぜなら、彼女は――

「死んだ……」

 自分に言い聞かせるかのように、思わずそう呟くアリス。

 彼女の記憶の中では、マオはつい先日シンジュクで死んだ。
 いや、むしろアリス自身が彼女を殺したと言っても過言ではない。

 数年ぶりに再開したかつての同僚にして、アリスと同じく人造ギアスユーザーであったマオ。
 そんなのマオの目の前で、アリスは彼女の命そのものとも言える『C.C.細胞抑制剤』が入ったアタッシュケースを完膚なきまでに破壊した。
 結果、マオはその身に宿した『C.C.細胞』の反作用を止めることができなくなり、その肉体を消滅させた――


『忘れるなアリス、これが“ボクたち”イレギュラーズの末路だ……!』


 最期に自身に向けた呪詛ともとれるその言葉と、その際に見せた不気味な笑顔は、未だにアリスの脳裏から焼き付いて離れない。

 ――無論、同名の別人というケースも十分考えられる。
 だが、考えて見れば、アリスはマオが自身の目の前で消滅するまでギアスユーザーの最期というものを見たことがなかった。

 ギアスユーザーの力の根源とも言える『ブリタニアの魔女』ことC.C.は不老不死だ。
 ならば、いくら造られたまがいものとはいえ、その力の一片を授かっている人造ギアスユーザーも実は不死で、マオもあの後、知らずうちに蘇っていたという可能性は十分ありえる。

 ――あくまでも本当に可能性、それも0に限りなく近いほどの低確率の可能性の話だが。

「……でも、よく考えてみたら、あのマオの一件で私は改めてナナリーを守ろうって決心が――! そうよ、ナナリー!」

 はっと思い出したように、アリスは顔を上げる。


 アリスの知るナナリー・ランペルージという少女は、目が見えず、足も不自由なか弱い女の子である。
 そんな彼女が、自身と同じくこの『儀式』なるデスゲームの舞台に放りこまれている――
 それはつまり、殺し合いに乗った者たちからすれば、恰好の標的に他ならないではないか!

「くっ……! 本当に何やってんのよ、私は!
 ナナリーを守るって決心したのなら、名簿でナナリーの名前確認した時点で行動起こしなさいよッ!」

 自分をそう叱咤しながらアリスは大急ぎで名簿をデイパックに戻すと、代わりに長いヒモを中から取り出した。

 ――『あなぬけのヒモ』。それがアリスに与えられた支給品であった。
 付属していた説明書によると、『洞窟や建物などの内部で使うと、一瞬で外までワープできる道具』らしい。
 正直胡散臭かったが、何も無いよりはマシだと、アリスはそれを強引にスカートのポケットに突っ込んだ。


「しかし、あのアカギとかいう男、本当に殺し合いをさせる気があるのかしら?
 何も同じ道具を3つもよこすことないでしょうに……」

 そう愚痴をこぼしながら、アリスはデイパックの中をチラリと覗き込む。
 デイパックの中には、たった今アリスがポケットに突っ込んだものと同じ『あなぬけのヒモ』があと2つ入っていた。

「まぁ、ヒモだって使い方次第じゃ十分武器にもなるけど……」

 はぁ、と一度軽くため息をつくと、アリスはデイパックの口を閉める。
 それと同時に、『女子中学生としての自分』から、本来の姿とも言える『軍人としての自分』にスイッチを切り替えた。

「――待ってて、ナナリー。絶対に私が見つけ出して守ってあげるから!」

 言葉と共に、アリスの額に刻印のようなものが瞬時に浮かび上がった。
 アリスが自身の『本質』を形とした能力――ギアスを発現した証だ。

「ザ・スピード!」

 自身の能力であると同時に、自身の名前でもあるその言葉を叫んだ瞬間、アリスの姿はその場から消え去った。


 『ザ・スピード』――かつて最愛の妹を守りきれなかった少女が得た、加重力によって相対的に超高速を得る能力。
 それは、過去の悲劇より生じた重圧に無意識下に苦しめられ続けているアリスにとって、皮肉過ぎる彼女の本質であった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「どうなっているのかしら、本当に――」

 輝き続ける星の下、老舗クリーニング店『西洋洗濯舗菊池』の屋根の上で、一人の少女が支給された参加者名簿を手に険しい表情を浮かべていた。

 彼女の名は暁美ほむら。見滝原中学校に通う一人の女子生徒――というのは仮の姿。
 その正体は、人知れず世界に災いの源である呪いをばら撒く存在『魔女』を狩る『魔法少女』。
 奇跡の体現者にして、ヒトの摂理から外れた存在とされてしまった少女――

 そんなほむらが、先ほどのような表情を見せた原因は当然、彼女の手にある参加者名簿に載っていた名前にあった。

 ――『鹿目まどか』。
 ほむらのクラスメイトにして、たった一人の親友。
 そして、ほむらが自らの力で、何としてでも守ると誓った存在――
 そんなまどかの名前が、名簿の中にハッキリと載せられていた。


 ――だが、名簿に載っていた名前は、それだけではなかった。


 『巴マミ』、『美樹さやか』、『佐倉杏子』――
 そして、『美国織莉子』、『呉キリカ』、『千歳ゆま』と、どういうわけか、参加者名簿にはまどかや自身に関係する者の名前が多く載っていたのである。

 特に、前者三名の名を見た時は、ほむらも己が目を疑った。
 なぜなら、彼女たちは――

「死んだはずよね……」

 自分に言い聞かせるかのように、思わずそう呟くほむら。

 彼女の記憶の中では、巴マミは『お菓子の魔女』に食われ、美樹さやかは魔女となり、佐倉杏子は“つい先ほど”魔女となった美樹さやか相手に捨て身の一撃を放って消滅したばかりだ。


「…………」


 あさっての方向に目を向けながら、黙って思考するほむら。
 佐倉杏子が消滅してから現在までに起きた出来事を振り返ってみる。


 ――まず、気を失っていたまどかを家まで送り届けた。

 そして、自宅へと戻る途中にあの一面黒い謎の空間に迷い込んだ。

 やがて、謎の空間から見知らぬ者たちが大勢いたホールへと場所は移り、アカギという男が自分たちの前に姿を現した。


『まずは、『おめでとう』と言わせてもらおう。君たちは選ばれたのだ』

『そうだ。君たちはこれから行われる『儀式』を完遂するために、数多の時間、空間という可能性宇宙のひとつひとつから選び出された戦士たちなのだ……!』

『これから君たちには、己が魂の存在を賭け、最後の一人になるまで戦ってもらいたい!』


 アカギが自己紹介の後に言った話の内容が脳内で再生される。

 ここでほむらは、ひとつ気になる言葉があったことを思い出した。


 ――『可能性宇宙』。

 合わせ鏡に映し出される光景のように、無限に存在すると言われるif――
 フィクションなどの世界においては、俗に『パラレルワールド』とも呼ばれるもの――

 あのアカギという男は、ほむらたちをそんなifのひとつひとつから選出した者だと言っていた。

 それはつまり――

「あの男は、時間軸と空間軸の両方に干渉できる力を――平行世界に干渉する能力を持っている?」

 それがほむらが最初に思い至った結論であった。
 というより、そうとしか考える他なかった。

 自分がいた時間軸においては既に死んでいる者たちの名前が名簿に載っている。
 そして、ホールで見た自らを『オルフェノク』と名乗り、灰色の異形に姿を変えた男の存在。
 これが何よりの証拠だ。
 特に、後者は明らかに自分の世界に存在した『魔法少女』や『魔女』とは性質が違って見えたし、何より変身したのが男だった。

 また、思い返してみると、アカギはこうも言っていたではないか。

 ――この『儀式』なる殺し合いの『勝者』となった者は、『どのような願いでもひとつだけ叶えることができる』、と。

 確かに、無限に存在する並行世界のひとつひとつに干渉することが可能ならば、その程度のことは造作も無いことだろう。


 ――だが、ひとつだけ気になることもある。

 それは、『何故アカギはこのようなことをするのか』という点だ。

 ただ己の力を知らしめたいだけならば、わざわざ別世界の者たちにまで干渉する意味は正直薄いとほむらは考える。
 それこそ、よくある正義のヒーローやヒロインもののアニメや漫画に登場する悪の親玉が掲げる『全世界・全宇宙の制服』並に無駄な行為だ。最終的に徒労に終わる。

 では、本当に何が目的なのか?


「……そういえば」

 あの時――あのホールでアカギが姿を現した時、誰かがアカギに対して「お前は!?」と言っていたのを思い出す。

 それはつまり、この場には『アカギのことを知っている者』か『アカギと同じ世界出身の者』が存在するということ。

 もし、上記のような者たちと接触できれば、アカギが何故この『儀式』を開催したのか理由がわかるかもしれない。


「……まず必要なのは情報ね」

 ほむらはそう決定づけると、名簿をデイパックに戻し、人がいないかと辺りを見回し始める。

 現時点において、ほむらが最優先でやるべきことと判断したのは、先ほど自身が口にしたとおり『情報(特にアカギに関するもの)を集めること』であった。

 無論、彼女が守りたい存在である鹿目まどかの捜索も優先すべきことだが、アカギが言っていた『可能性宇宙のひとつひとつから選び出された』という点が、これを最優先とすべきか否かを左右することになった。

 ――要するに、ほむらは今この『儀式』の舞台に放りこまれている鹿目まどかが、『魔法少女である鹿目まどか』という可能性もあると考えているのである。
 暁美ほむらが守りたい『鹿目まどか』という少女は、あくまでも『人間である鹿目まどか』であり、『魔法少女である鹿目まどか』は守ったところで意味が無いからである。

 故に、ほむらの最終的な目的は、『自身のいた時間軸(もしくは世界)に帰還すること』となるのだが、かといって殺し合いに乗るつもりもない。

 先述したとおり、アカギがこの『儀式』を行う理由――目的が判明しておらず、かつ「『儀式』の『勝者』となったところで、本当に自身いた時間軸(世界)に帰ることができるのか?」という疑問もあるからだ。
 ――(いくら違う可能性宇宙の存在とはいえ)たった一人の親友を自らの手にかけたくないという思いもある。



 ――さて、何故、暁美ほむらがこうも慎重なのかというと、実は彼女も『可能性宇宙』『パラレルワールド』という概念に、ある程度関わりがある存在だからである。

 彼女は『時間遡行』――時間軸に干渉する能力を持った魔法少女であった。
 親友である鹿目まどかを守るために、未来から過去の世界へと戻り、失敗してはまた戻るというループを延々と繰り返しているのである。

 ――言ってしまえば、それは、親友を守るために願い得た力でありながら、逆に最期は親友を守れずに終わるという皮肉過ぎる力であった。


 最初は、親友であると同時に、『魔法少女』として憧れの存在でもあったまどかを死なせないために行っていた行為であった。
 しかし、時間遡行によるリセットを何度も繰り返していくうちに、『魔法少女』という存在と、その裏に隠された真実を知ってしまったのである。


 ひとつ、『魔法少女』は厳密には人間ではなく、魂を『ソウルジェム』と呼ばれる宝石に変換され、それによって肉体を維持、操作されている一種のゾンビであること。
 (おまけに、ソウルジェムと肉体がおよそ100メートル以上離れると肉体は活動できなくなる。要は死ぬ)

 ひとつ、ソウルジェムが破壊されない限り、肉体はどのような損傷をしても(それこそ全ての血を失おうが、心臓を抉り取られようが)魔力を消費すれば修復できるということ。
 (ただし、本体であり命そのものであるソウルジェムが、攻撃を受けると簡単に破壊されてしまうため『無敵』『不死身』とは程遠い)

 そして、最後のひとつが、ソウルジェムが黒く濁り、浄化しきれなくなると、『グリーフシード』と呼ばれるものに姿を変え、『魔女』を生み出すということだ。


 ――そう。魔法少女が狩っていた『魔女』とは、かつては自分たちと同じ魔法少女だった者の成れの果てだったのである。


 何故こんな恐ろしい事実が隠されていたかというと、魔法少女を生み出す存在・キュゥべえことインキュベーターが『聞かれなかったから黙っていた』ことにある。

 彼(?)らは、人類よりも遥かに高度な文明を持つ地球外生命体が生み出した一種の生態端末兼プログラムであり、宇宙の寿命を延ばすため、魔法少女が絶望して魔女になる際に発する莫大な感情エネルギーを回収することを目的に地球へとやって来た。
 要は、彼らにとって地球人の少女とは『魔法少女の素材』であると同時に『消耗品』であり、エネルギーを搾取すること以外に対する配慮などというものは基本的に持ち合わない。
 ――そもそも、彼らは『倫理感』や『価値感』というものはおろか、『感情』というもの自体を持っていないのだ。

 これは人間からすれば『騙す』という行為に当たるが、上記のとおり、彼らは感情を持たぬため、ソレを全く理解していないし、しようとも思わない。
 彼らからすれば『騙す』という行為は『認識の相違により生じた判断ミス』であり、それを一方的に憎悪する人間の方が理不尽な存在なのだ。


 ――キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を助けてほしい。


 それが、ほむらが繰り返したある時間軸においてまどかから託された願いであり、決して忘れてはならない親友との約束であった。
 故に、暁美ほむらという存在は、『人間である鹿目まどか』を守り続けるのである。

 ――それが結果的に、守るべき対象から拒絶されることになったとしてもだ。



「……ん?」

 ほむらの左手の中指にはめられた指輪――形を変えたソウルジェムが僅かに反応した。

 ソウルジェムには魔法少女や魔女の持つ『魔力』を感知する、一種の探知機としての役割も持っている。
 それが反応したということは――

「近くに魔法少女がいる?」

 そう判断すると、ほむらは瞬時に見滝原中学校の制服姿から、白と紫を中心とした色合いの魔法少女のコスチュームへと姿を変えた。
 同時に、左腕に出現する円形の盾――
 盾であると同時に、ほむらの持つ『時間遡行』を発動するための装置であり、自身の持つ様々な武器の収納スペースであるソレの裏側へとほむらは手を伸ばす。

(――!? 武器がない!?)

 『儀式』の舞台に送り込まれてから初となる魔法少女への変身。
 いつもどおり、武器を取り出そうとしたほむらの顔が一瞬だけ驚愕の色に染る。

 ――盾の中に収納されていたはずの銃火器や爆弾といった武器が一切無くなっていたのだ。

「何故――!? まさか……あの男!?」

 瞬時に脳裏に浮かぶアカギの顔。
 おそらく、自身と似た力を持つほむらに対して、アカギが仕組んだ一種の嫌がらせだとほむらは判断した。

「……覚えておきなさい……!」

 ほむらは、今はこの場にいない『儀式』の主催者に対して、捨て台詞ともとれる言葉を呟くと、屋根の上から地上へと飛び降りた。
 只人ならば大怪我をしてもおかしくはない高さだが、魔法少女であるほむらにとっては地上数階建ての建物程度の高さから飛び降りるなどなど全く問題はない。

 そして、華麗にクリーニング屋の玄関前に着地すると、そこに駐車してあった一台のバイクへと目を向ける。

 黒と黄色を中心としたメタリックなカラーリング。
 バイク横に取り付けられた同色のサイドカー。
 そして、バイク、サイドカー双方の車体横にプリントされた『スマートブレインモーターズ』のロゴマーク――

 ――『サイドバッシャー』。
 スマートブレインモーターズ製の可変型バリアブルビークルにして、暁美ほむらに与えられた支給品のひとつである。

 当然、コレはデイパックに入った状態で支給されたものではない。
 ほむらがホールから彼女のスタート地点である、この『西洋洗濯舗菊池』の前に転移させられた際、彼女の横に説明書と共にでんと放置されていたのである。

 バイクを支給されるということ自体、驚きたくもなることであったが、ほむらを驚かせたのは付属の説明書に載っていたその機体スペックであった。

 『ビークルモード』と呼ばれる通常形態に加え、『バトルモード』と呼ばれる大型二足歩行型戦闘メカに変形――
 変形後は、左腕に6連装ミサイル砲『エクザップバスター』、右腕に4連装バルカン砲『フォトンバルカン』を搭載。おまけに、格闘戦も可能――

 これを支給されたのが、ほむらではなくまどかであったら――中学生にバイクを支給するということも含んで――「こんなの絶対おかしいよ!」と突っ込みを入れていたに違いないブッ飛んだ代物であった。

 ――ちなみに、支給されたほむらはというと、当初こそ驚きもしたが、「コレ、『ワルプルギスの夜』戦の切り札として私の世界に持って帰れないかしら?」などと気に入ったかのような反応をしていたと追記しておく。


 反応があった魔力の持ち主が、魔法少女――それも『魔法少女となってしまった鹿目まどか』だったらどうしようか、などと思いながら、ほむらはサイドバッシャーを夜の街へと走らせた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ど、どうなっているの? 『ザ・スピード』が強制的に打ち切られるなんて……!?」

 肩で息をしながら、アリスは自身の身に起きた奇妙な事実に、頭を悩ませていた。

 話は数十秒ほど前に遡る。
 『ザ・スピード』を発動したアリスは、ナナリーを見つけ出すために夜の街を超高速で全力疾走していた。
 だが、発動していたギアスが突然ぷっつりとその効果を止めてしまったのである。

 何かの間違いだろうと思い、もう一度『ザ・スピード』を発動する。
 ――ギアスは問題なく発動した。

 気をとり直して、再びかけ出す。
 ――特に問題はない。

 だが、またしても、ある程度走った――現実時間では10秒ほど経過した――ところで『ザ・スピード』の効果が強制的に止まってしまった。

 どうしたんだと、三度ギアスを発動。
 やはり、発動までは問題なかったが、結局は過去二回と同じ結果になった。

 そして、今に至る。

「な、なに? ギアスの不調? それとも、移植されたC.C.細胞がおかしくなった? いや、抑制剤なら、ちゃんと定期的に投与しているハズだし……」

 自身のギアスに起きた突然の異常――
 それが一部の参加者に科せられた『能力制限』であることに、アリスはまだ気がついていない。


 ――そんな彼女の耳に、バイクのエンジン音が聞こえてきたのは、それから間もなくのことであった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「な、なによ、あんた……?」

 突然、自身の目の前に飛び出してきたサイドカー付きバイク。
 それを操る、どこか可愛らしくもあり地味でもある装いをした長い黒髪の少女――肌の色や顔つきからして、おそらくは日本人だ――に対して、アリスは思わず声をかける。

 それに対して、相手側はというと――

「……誰?」

 と、投げかけられた質問と似た問いをアリスに返してきた。

「質問を質問で返すな!」

 思わずそう言い返してしまう。

「……それは失礼したわね」

 目の前の少女はそう言いながら、左手で自身の長い髪をふぁさりと一回掻き上げた。

「まぁ、いいケド……。あんた、こんな夜中にそんなモノに乗って何やってんのよ?」

「別に――貴女には関係ないわ」


 ――ちょっとカチンときた。


 ブリタニア帝国の属領出身の戦災孤児であるアリスは、その経緯からブリタニア貴族のように、上から目線で偉そうな物言いをする者を嫌う。
 特に、クラスメイトのエカテリーナのように、親の家柄や地位にすがり付く典型的な『貴族様』な輩が特に嫌いだった。

 ――目の前にいる少女の物言いからも、そういった者たちと似た『嫌な感じ』をアリスは感じ取った。

 だからだろうか、「エカテリーナたちのように、ギアスの力でちょっと目の前の生意気な奴を懲らしめてやろう」と思いたったのは――


(――ザ・スピード!)

 瞬時にギアスを発動させる。
 自身と少女との間の距離は僅か数メートル。
 先ほどから何故かギアスの調子が悪いが、これくらいの距離感での行動なら別に今までどおり、何の問題もないだろう。

 アリスはまず、超高速で少女の背後に回り込んだ。

 次に、両腕を少女のフリル付きのスカートへと伸ばす。

 ――ちなみに、ここまで現実で経過した時間はまだ一秒代の領域である。

(スカートひん剥いてやる!)

 さすがに現時点の『ザ・スピード』では、少女のタイツまでひん剥いてパンツ丸見えにさせてやるほどの余裕はない。
 それに、これはあくまでも驚かせるだけだ。
 アリスはSでもなければ、ソッチ系の趣味を持ち合わせてもいない。


 ――だが、アリスの手が少女のスカートに触れる直前、異変は起こった。


「えっ!?」


 ――一瞬にして、少女がアリスの目の前から文字どおり『姿を消した』のである。


「消えた――!?」

「後ろよ」

「!?」

 声がした方に振り返る。

 そこには――

「……ヒモが二本だけ? 貴女、ろくな物貰ってないわね」

「な――!?」

 『二つ』のデイパックを手にした少女が立っていた。
 しかも、その内のひとつ――彼女が今中を物色しているデイパックは、間違いなくアリスの物だった。


(そんなバカな……!? デイパックはついさっきまで確かに肩に提げていたのに……!?)

「返すわ。勝手に中を見て悪かったわね」

 そう言いながら、少女はアリスのデイパックを彼女に向かって放り投げた。


「――それと、貴女、『自身にかかる重力を操作する能力』を持っているわね?
 それを応用してとんでもないスピードを得たみたいだけど――」

「!?」

 少女の口から出た言葉に、思わずデイパックを落としてしまうアリス。
 デイパックの中身が少しだけ外に顔を出した。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 暁美ほむらには『時間遡行』の他に、そこから派生した『もうひとつの時間操作能力』がある。

 それは『時間停止』。

 盾に内蔵された、現実の時間に換算すると一ヶ月分に相当する砂が入った砂時計。
 その砂の流れを遮断することによって、その名のとおり『世界の時間を止める』力だ。


「……少し凹んでいる」

 いつの間にか自身の後ろに回り込んでいた外国人の少女の肩からデイパックをひったくりながら、ほむらは先程まで少女が立っていた場所を見た。

 アスファルトにはっきりと残っている少女の足跡。
 そこを中心に、周囲が――本当に数ミリ程度であるが――若干凹んでいた。

(――『重力操作』。それがこの子の魔法……)

 少女から奪ったデイパックの口を開けながら、ほむらは少女の持つ『魔法』をそう予測する。

(でもおかしい。魔力は確かに感じるのに、ソウルジェムと思える宝石がどこにも見当たらない……。これは一体……)

 どういうことなの、と言いかけたところで、ほむらの左腕からカチリと何か仕掛けが動き出したかのような音がした。

(!?)

 これには、ほむら自身も驚いた。
 少女が自身の視界から消えた瞬間とほぼ同時に発動していた『時間停止』――それが勝手に解除されたのである。

(そんな……! まだ砂は全然残っているのに、どうして……!?)

 内心驚くほむらを前に、外国人の少女が驚きの声を上げた。
 まぁ、自身が超スピードで後ろをとったはずの相手が、向こうから見たらいきなり消えたのだから、そりゃあ驚くだろう。
 その様子から、スピードによっぽどの自信があったようだ。

「後ろよ」

 実際は自分も別の理由で驚いてはいるのだが、それを悟られぬよう、内心注意をはらいながらほむらは目の前の少女に声をかけた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ギアスユーザー・アリスは思考する。

(私の『ザ・スピード』よりも早く動ける!?
 おまけに、こちらのギアスの性能を当ててみせた――!)


 魔法少女・暁美ほむらは思考する。

(自身にかかる重力を操作する――
 魔力も感じたし、これは間違いなく魔法の力に間違いはない――)


(まさかコイツ――!)
(だけどこの子――)


「ギアスユーザーか!?」
「本当に魔法少女なの?」


「――え?」
「……?」


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「……えっと、つまり、あんたと私はそれぞれ違う世界の住人で――」

「この『儀式』の舞台に放りこまれた者たちは一人一人が違う世界から来た可能性がある。そういうコトよ……」

 深夜の市街を二人の少女が乗ったバイクが疾走していた。

 少女の名は暁美ほむら、そしてアリス。
 互いが違う世界の存在でありながらも、年齢をはじめ、どこか色々なところが似た二人組。
 そんな二人が、この『儀式』の舞台で出会ったのも、それは単なる偶然なのか、それは何者かによって仕組まれたものなのか――

「……でもさ、本当にありえるの?
 さっきあんたが言ってた『ここにいるナナリーやゼロたちは私が知っているナナリーたちじゃないかもしれない』っていうのは?」

「あのアカギって男が実際に言っていたでしょう? 私たちは『可能性宇宙のひとつひとつから集められた存在』だと。
 だから、ここにいるナナリー・ランペルージは貴女の言う『目と足が不自由な少女』ではない可能性だってある」

「……それでも、私はナナリーを見つけ出して守りたい。
 例え、ここにいるナナリーが私の知っているナナリーではないとしても、その子はナナリーであることに代わりはないでしょう?」

「――そうね。確かにそれは貴女の言うとおりだわ」

 そう呟きながら、ほむらは一度サイドバッシャーのブレーキをかけてスピードを落とす。

「でもね――」

 やがて、サイドバッシャーがゆっくりと停車した。

「私たちが本当に守りたい人は、『私たちの世界』にしかいないの。
 ここで私たちが死んでしまったら、『私たちの世界』にいるその子は誰が守るの?」

「あ――」

 その言葉を聞いて、アリスもほむらが何を言いたいのかは大体理解した。


 仮に、この『儀式』で『守りたい人』を最後まで守り、かつ自分たちの世界に戻る方法が見つかったとしても、それぞれが『自分たちの世界』に戻ってしまったら、結局それは『他人』でしかなくなる。
 おまけに、『自分の世界』に戻っても、自分たちの世界にいる『守りたい人』は『違う世界の自分が助けられた』なんて事実を知るわけもないし、知る術もない。

 ――言ってしまえば、この『儀式』の舞台で行う『献身』は、どのような形であっても最終的に見返りは得られないし、求められないのだ。


「……じゃあ、私たちどうすればいいっていうのよ?」

「そんなの決まっているわ。『自分たちの世界』に帰る方法を見つけるのよ。
 アカギの言うとおり、この『儀式』に最後まで勝ち残るというのも方法のひとつではあるけれど、あの男の目的が判明していない以上、これは得策ではないわ。
 第一、『勝者』となったところで、本当に『自分の世界』に帰れるかどうかの保証はされていないわけだし……」

 そう言いながら、ほむらは再びサイドバッシャーにアクセルを入れ走らせる。

「ともかく、今は情報を集めるしかない。
 あのアカギという男が何者なのか、アカギがこの『儀式』を開催した目的は何なのか、あの最初のホールでアカギに殺された自身を『オルフェノク』と言っていた男が何者であったのか……
 ここで知るべきことは山ほどあるわ」

「…………」

「それに、情報を集めているうちに、ここにいるナナリー・ランペルージや鹿目まどかとも出会えるかもしれない……
 もし出会えることがあれば、その時はその時で考えて行動すればいい」

「うん……
 ところでさ、このバイク何処へ向かっているの?」

「警視庁よ」

「ケーシチョー?」

 思わず言われた名前を復唱するアリス。
 別にアリスは『警視庁』という建物がどのような場所か知らないわけではない。
 確かブリタニアの属領となる以前の日本の警察組織の本部となっていた建物の名前だとアリスは思い出していた。

「万が一のことも考えて、護身用の武器とかは必要でしょう?」

「ああ成程。確かに、ここなら銃や武器の一つや二つは見つかるかも知れないわね」


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 時間遡行者・暁美ほむら。
 人造ギアスユーザー・アリス。


 片や幾多の平行世界を経験し、自身が望む結末を求めて戦い続けてきた少女。
 片や無限に存在する可能性宇宙のひとつにおいて、守りたい者を守るために戦うことを決心した少女。


 そんな二人が突然放りこまれた、無限に存在する並行世界をまたにかけた『儀式』という名の殺し合い――


 はたしてそれは、彼女たちという存在にとっては、『一時的なイレギュラー』に過ぎないのか―― 


 それとも、彼女らの戦いに何らかの形で終わりを迎えさせるものなのか――



 その問に、答えを出せるものは――今はまだいない。



【G-3/市街(北部)/一日目-深夜】
【『あの子』の最高のともだちーズ結成】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:魔法少女変身中、ソウルジェムの濁り(極少)、サイドバッシャー(ビークルモード)運転中
[装備]:盾(砂時計の砂残量:中)、サイドバッシャー@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本:『儀式』から脱出し、『自身の世界(時間軸)』へ帰る。そして、『自身の世界』のまどかを守る
1:警視庁に行き、武器になりそうなものを集める
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい。ただし、自身が「信用できない」と判断した者は除く
4:余裕があったら鹿目まどかを探す。もし出会えたら、その時の状況次第でその後どうするか考える
5:まどか以外の他の魔法少女や知人と遭遇した時は、その時の状況次第で対応
6:可能ならサイドバッシャーを『自身の世界』に持って帰りたい
7:『オルフェノク』という言葉が少々気になる
[備考]
※参戦時期は第9話・杏子死亡後、ラストに自宅でキュゥべえと会話する前
※アリスとは互いの世界について詳細な情報を提供しあってはいません。互いの名前と互いの知人を確認した程度です
※アリスを『違う世界の魔法少女』だと考えています
※ギアスについてはまだアリスから説明を聞いていません
※『ギアスユーザー』とは、アリスの世界における『魔法少女』のことだと考えています
※後述する考察をアリスに話しています
※『時間停止』で止められる時間は最長でも5秒程度までに制限されています
※ランダム支給品0~2の中身は確認済みです(詳細は後続の書き手に任せます。少なくとも銃火器や爆弾の類ではありません)
※ソウルジェムは近くでギアスユーザーがギアスを発動しても反応することを知りました


【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:服装はアッシュフォード学園中等部の女子制服、疲労(少)、サイドバッシャーのサイドカーに乗車中
[装備]:あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式、あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)×2
[思考・状況]
基本:『儀式』から脱出し、『自身の世界(時間軸)』へ帰る。そして、『自身の世界』のナナリーを守る
1:暁美ほむらと行動を共にする
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい
4:余裕があったらナナリーを探す。もし出会えたら、その時の状況次第でその後どうするか考える
5:暁美ほむらのギアスが気になる
6:ナナリー以外の知人と遭遇した時は、その時の状況次第で対応
7:名簿に載っていた『マオ』『ゼロ』『C.C.』が気になる
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※暁美ほむらとは互いの世界について詳細な情報を提供しあってはいません。互いの名前と互いの知人を確認した程度です
※暁美ほむらを『違う世界のギアスユーザー』だと考えています
※魔法についてはまだほむらから説明を聞いていません
※『魔法少女』とは、ほむらの世界における『ギアスユーザー』のことだと考えています
※後述する考察を暁美ほむらから聞きました
※『ザ・スピード』の一度の効果持続時間は最長でも10秒前後に制限されています。また、連続して使用すると体力を消耗します



【暁美ほむらの考察】
1:アカギは『時間軸と空間軸(パラレルワールド)に干渉する能力』を持っている
2:『儀式』に参加している『プレイヤー』は、アカギの能力によって一人一人違う世界から集められている
3:上記のため、この『儀式』の舞台にいる知人は『自分の知っている知人』ではない可能性が高い
4:アカギが『儀式』を開催した裏には何か明確な理由か目的がある
5:『儀式』の『勝者』になったとしても、『自身の世界』に帰ることができるという保証はない



【支給品解説】

【サイドバッシャー@仮面ライダー555】
 スマートブレインモーターズ製の可変型バリアブルビークル。
 通常はサイドカー付きバイクの『ビークルモード』であるが、『バトルモード』と呼ばれる大型二足歩行型戦闘メカに変形できる。
 『バトルモード』時は、左腕の6連装ミサイル砲『エクザップバスター』と、右腕の4連装バルカン砲『フォトンバルカン』による砲撃戦、両腕を用いた格闘戦が可能。
 本ロワでは、制限によりAIによる自律行動はできず、『ビークルモード』時、『バトルモード』時共に全て搭乗者による操縦が必要。ただし、変形はオートで行われる。

【あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)】
 洞窟や建物、ダンジョン内で使用すると、入り口(入ってきた場所)まで瞬時にワープできる、長くて丈夫なヒモ。
 消耗品で、一度使用するとなくなってしまう。


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初登場 暁美ほむら


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