巡りゆく星たちの中で > 道中の交錯

―――多国籍部隊(TB)旗艦「ソルヴィエント」ブリッジ、エレス・ニア星系

警告音が静まり、ブリッジに緊張感と好奇心が漂う。メインスクリーンに、ピースギア所属ポータル艦「エルニウス」からの新たな通信が映し出される。クルーの視線が一斉に集まる。

『こちらピースギア所属ポータル艦アリス級エルニウスの最上イズモ三佐、貴艦の対応に心から感謝する。状況等に関してはエレス・ニア第3軌道基地に到着後共有する』

アリシア・レムナント中将はスクリーンを見据え、口元に微かな笑みを浮かべる。

「最上イズモ三佐、か。素直に従う姿勢を見せつつ、核心は隠す。ピースギアの連中、交渉慣れしてるな」

副官のセイラ・ヴィエント少佐がタブレットを手に、データを確認しながら報告する。

「中将、エルニウスは提案した誘導軌道に沿って移動開始。エネルギーシグネチャは安定、攻撃意図は見られません。シュテファーン級3隻の三角フォーメーションに追従中です。センサー解析では、空間干渉波に未知の技術要素が含まれ、共立機構の標準技術とは異なる変調が観測されます」

アリシアは腕を組み、艦長席から立ち上がる。

「パラレルワールド管理を名乗る組織の生き残り、か。共立英語とモールス符号を使いこなす点は興味深い。地球由来の言語体系をどこで手に入れた? エレス・ニアでその謎を解く必要があるな」

通信士が報告を上げる。

「中将、中央総隊からのデータベース照合結果、『ピースギア』および『アリス級』の記録は皆無。空間干渉波の解析にはさらに時間が必要で、基地到着まで詳細は不明です。到着予定は約3時間後です」

アリシアは頷き、セイラに指示を出す。

「エレス・ニア第3軌道基地に連絡。エルニウス到着時の歓迎プロトコルを準備しろ。情報収集チームを配置し、ピースギアの背景と技術を徹底的に洗う。だが、対話は友好的に進める。最上三佐はこちらを試してる可能性が高い。一枚上手でいかねばな」

「了解!基地に通達します」セイラが迅速に応答し、通信コンソールを操作する。

―――シュテファーン級「アルヴァート」ブリッジ

エラン・クレイス大佐は、戦術モニターに映るエルニウスの航跡を注視する。
エルニウスはシュテファーン級3隻の三角フォーメーションに囲まれ、提案された軌道に沿って進んでいる。
副艦長のミラ・ソーニス中尉がセンサーデータを解析し、報告する。

「艦長、エルニウスのエネルギー出力は安定、転移後の不安定さは収束。空間干渉波には共立機構の技術とは異なる未知の変調が含まれます。ピースギアの転移技術は独自の進化を遂げている可能性が高いです」

エランは顎を撫で、呟く。

「パラレルワールド管理…崩壊した組織の生き残りが単艦でこの宙域にたどり着く。ピースギアはただの漂流者じゃないな。最上イズモ三佐の返信も、情報を小出しにする計算高いものだ」

ミラが通信ログを確認し、言う。「艦長、相手は基地到着まで情報を保留する姿勢です。交渉慣れしてる印象ですね。どう対応しますか?」

エランは一瞬考え、通信士に指示を出す。「非敵対姿勢を維持。エルニウスに次のメッセージを送信—『エルニウス、こちらアルヴァート。誘導に従い感謝。エレス・ニア第3軌道基地到着まで護衛を継続。安全な航行を保証する。』共立英語とモールスで送れ」

「了解!送信準備完了!」ミラがコンソールを操作し、信号が発信される。

エランはミラに目をやり、続ける。

「センサーでエネルギーコアと推進系のスキャンを続けろ。ピースギアの転移技術の核心を掴みたい。だが、相手にスキャンが悟られないよう、出力は検知限界以下に抑えろ」

ミラが頷く。「了解。スキャン継続、出力は最小限に設定します。…艦長、ピースギアが技術共有を渋った場合、どうします?」

エランは小さく笑う。「渋るのは想定内だ。共立機構の理念は対話と協力。エレス・ニアで相手の事情を聞き出し、信頼を築く。シアップの教訓を忘れず、準備は怠らない」

―――「ソルヴィエント」ブリッジ

アリシアは戦術スクリーンに映るエルニウスの航跡を追う。3隻のシュテファーン級がエルニウスを緩やかに囲み、エレス・ニア第3軌道基地への航路を確保している。彼女はセイラに指示を出す。

「セイラ、基地の歓迎プロトコルに技術解析チームを追加。ピースギアの転移技術が共立機構の次世代計画に役立つ可能性がある。だが、相手を刺激しないよう、対話は友好的に。最上三佐がどこまで本音を出すか、試す価値はある」

セイラが頷き、通信を準備。「了解。基地に技術解析チームの配置を指示します。中将、もしピースギアが技術共有を拒否した場合、強硬策は?」

アリシアは目を細め、低く答える。「我々は盗賊ではないんだ。よほどのことがない限り力の行使はご法度だよ」

「ただ一言だけ述べるなら、拒否が齎すデメリットを説いて聞かせることにはなるだろうが。いずれにせよ、今は対話が優先だ。ピースギアが何者か、エレス・ニアで全てが明らかになる」

「了解しました。……現時刻をもって最高評議会の承認を受諾。それでは、彼らには道中、文明共立機構の概略を送ります」

ブリッジには、未知の来訪者との接触に対する期待と、プロフェッショナルな警戒心が交錯していた。エルニウスがエレス・ニア第3軌道基地に到着するまでの数時間、H.L.F多国籍部隊は慎重かつ大胆にこの初接触を進めていくのだった……

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最終更新:2025年06月14日 12:55