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幻想郷の奇妙な物語 第拾弐話

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shinatuki

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だれでも歓迎! 編集
「筍竹の子っと……えーと、土の中からこんにちはってなっているのは駄目なのよね。美味しい筍は土の中って確か蓮子が言っていたわ」

 メリーは薄暗く、そして薄っすらと霧の立ち込める竹林をフラフラと頼りない足取りで歩き回っていた。その腕には小さな子狐が抱かれているだけで筍は姿かたちも無い。
 それもその筈、彼女は確かに美味しい筍はどのような状態かを聞かされていた。だがその見つけ方は知らないのだ。
 いやそれだけではない。彼女は気付いたのだ。もっと大事なことを。その足を止めて思わずそれを口にしてしまった。

「土の中の筍ってどうやって掘ればいいの?」

 そう、彼女はスコップや鍬を持っていないのだ。それでは土の中にある筍を彼女のしなやかで美しい指で掘らなければいけないということだ。
 以前……そうかすかに覚えているあの時は地面の中から突き抜け、蓮子曰く最早筍でないそれを全体重をかけてへし折るかのようにしてとったのだ。地面をその手で掘るなんてメリーはしたことが無い。
 土を手で掘れば手を傷めてしまい兼ねない。それに何より、

「この子がいるのにそんなことが出来ないわ」

 土をいじれば当然汚れてしまう。そのような手で小さく可愛らしい子狐を抱きしめていられようか。メリーは悩んだ。彼女自身、筍など要らないのだが美鈴がそれを望んでいる。
 虚ろな意識の中でもそれを覚えていた。頭に巻かれている包帯。そこには痛みはない。その代わりに温もりが残っている。それは他でもない、美鈴の手の温もりだ。
 一体何をしてくれたのかは分からないが、それでも自身が負ったであろう傷を癒してくれたのは美鈴なのだ。彼女がメリーに筍を取ってくることを望んだのだ。
 恩を返したいという思いともう一つ、靄のかかった何かが彼女の心に引っ掛かる。
『※※※と一緒に筍を食べたい』
 名の分からぬ誰かの笑顔が脳裏を掠めた。
 一体誰だろうか。メリーはそれを考えることが出来ない。どこからか音が聞こえてくるのだ。

「人がいるのかしら?」

 それは金属が何かに打ち付けるかのような音。自然にはないその音は確かにその方向に人がいる事を伝えている。
 竹でも取っているのかしらと暢気な事考えながらメリーはその音のする方向へと足を向けた。

「こんにちは。ちょっと聞きたいのだけれども……」
「あん?」

 筍を掘りたい、スコップを借りたい……メリーは最後までその言葉を紡ぐ事が出来ない。彼女は知っている。そこにいる汚らしい男をッ!

「て、テメェはッ!」

 驚いたのは彼、アレッシーも同じ。まさかこのような場所で彼女に出会うとは思いもしない。
 二人は驚きのあまり動きが一瞬止まってしまった。それでも先に動き出したのはアレッシーだった。
 地面に落とした手斧を持ち、不敵に笑う。

「ククッ、折角逃げ出せたのにまたオレに出会うなんてついてないなぁ~、いや、オレがついているだけか?」

 じりじりとメリーに近付いていくアレッシー。彼女は驚きと恐怖のあまり動くことが出来ない。ただ口をパクパクと動かし、必死に声を絞り出そうとしていた。

「あ、あぁ……」
「あぁん? 何だぁ、聞こえねぇよッ!」

 アレッシーは怒鳴り声を上げ、さらにメリーを怖がらせる。そしてじりじりと彼女の方へとにじり寄るのだ。それが彼女によりいっそうの恐怖を感じさせる
 彼女に出来ることは一つだけ、腕に抱いた子狐をきつく抱きしめることだけだった。

「あばッ…よ?」

 足を大きく踏み込み、手斧を思いっきりよく彼女の頭に叩きつけようとしたのだ。
 メリーにとっては幸運にも、アレッシーにとっては不運にもそれが現実のものとなることはなかった。
 それは罠。落とし穴のような派手で分かり易いものではない。雑草を編んで作った足を引っ掛けるための小さな輪。幸運の素兎の作ったささやかな罠。
 アレッシーはそれに足を取られてしまい無残にも頭から地面に倒れこんでしまったのだ。
 一歩、また一歩と後ずさり、アレッシーに背を向けて走り出そうと試みたが、それを彼は許さなかった。

「何度も何度も舐めやがってッ!」

 別段彼女は何もしていないのだが、今まで彼が受けてきた苦痛は全てメリーが元凶だと云わんばかりの怨嗟の篭った目で彼女を睨み付けた。
 不運にも後ろを振り返ったメリーはその瞳を見てしまった。溢れんばかりの悪意の篭った目を。
 そんなものに慣れていない彼女は一瞬、ほんの一瞬だが立ちすくんでしまった。
 アレッシーはその隙を逃さなかった。地面を少し這いずり、その汚らしい手でメリーのきれいな素足を掴んだ。

「もう逃がさねぇぞ」
「ひッ!」

 メリーの全身に悪寒が走る。反射的にその場から逃げ出そうとするも、そのきれいな足は彼に掴まれていて逃げることは出来ず、先ほどのアレッシーのように地面に転げてしまう。

「マヌケッ! 逃がねぇって言っただろうがッ!」

 アレッシーはのっそりと立ち上がり、倒れたメリーを見下ろし、手斧を持った腕を振り上げ、彼女に向けて投げつけた。いやそれは違う。正確にはすっぽ抜けたのだ。
 もしそのまま彼が斧の柄を最後まで握り締めていたならば彼女の命はここで尽きていただろう。黒猫がアレッシーの手に飛び掛っていなければの話だ。

「い!?」

 その手斧は彼の手を離れてメリーめがけてクルクルと回りながら迫りくる。
 反射的に目を閉じてしまった彼女は痛みや衝撃を感じる代わりに手斧が地面に突き刺さる。
 手斧の行方を見届けた黒猫は、役目は済んだと言わんばかりに竹林の奥へと消えて行った。

「あ……」

 しまったとマヌケにも大きな口を開けて手斧の突き刺さった地面を眺めてしまったアレッシー。メリーもそれを見とめると素早く立ち上がりその場から逃げ出そうと走り出した。
 密生する竹の中ではそれほど素早く走る事はできない。それが女の足であり、慣れぬ土地であるならば尚更だ。アレッシーが慌てて彼女を追いながら拳銃を取り出しても彼女はその射程外に逃げ出すことは出来なかった。

「クソッ! 待てって言ってんだろうがッ!」

 自分も動きながら、標的も動きながらではまともに狙いを付けられない。アレッシーの腕では尚更だ。半ばヤケクソ気味に放たれた数発の弾丸は彼女に届くことは無かった。その行く手にあった竹に当たるだけであった。
 彼にとって不運なのは竹林と言うものに馴染みが無かったことだ。もし彼の身近にそのようなものがあればきっと知っていたはずだ。竹林で銃を撃ってはいけないと。
 竹に撃ち込まれた弾丸は竹の持つ反発性や弾力性によって思わぬところへ跳ね返される。所謂、跳弾である。跳弾により弾丸は思わぬところへ飛んでいくのだ。例えば……その射手に向かって。

「い、痛ぇ~ッ!」

 メリーは思わず立ち止まり、後ろを振り返ってしまった。彼女が見たのは片足を両手で抱えながらピョンピョン飛び跳ねる滑稽なアレッシーの姿だった。
 今がチャンスと再び駆け出そうとする彼女であったがそれよりも早く、もう一つの声が彼女の耳に飛び込んできたのだ。同じく痛いと絶叫する……違うのはその声が女性であることか。

「え?」

 メリーが彼女として最後に見た光景は、まるで銃弾の様に飛んで来る筍だった……。

 別段彼女は何もしていないのだが、今まで彼が受けてきた苦痛は全てメリーが元凶だと云わんばかりの怨嗟の篭った目で彼女を睨み付けた。
 不運にも後ろを振り返ったメリーはその瞳を見てしまった。溢れんばかりの悪意の篭った目を。
 そんなものに慣れていない彼女は一瞬、ほんの一瞬だが立ちすくんでしまった。
 アレッシーはその隙を逃さなかった。地面を少し這いずり、その汚らしい手でメリーのきれいな素足を掴んだ。

「もう逃がさねぇぞ」
「ひッ!」

 メリーの全身に悪寒が走る。反射的にその場から逃げ出そうとするも、そのきれいな足は彼に掴まれていて逃げることは出来ず、先ほどのアレッシーのように地面に転げてしまう。

「マヌケッ! 逃がねぇって言っただろうがッ!」

 アレッシーはのっそりと立ち上がり、倒れたメリーを見下ろし、手斧を持った腕を振り上げ、彼女に向けて投げつけた。いやそれは違う。正確にはすっぽ抜けたのだ。
 もしそのまま彼が斧の柄を最後まで握り締めていたならば彼女の命はここで尽きていただろう。黒猫がアレッシーの手に飛び掛っていなければの話だ。

「い!?」

 その手斧は彼の手を離れてメリーめがけてクルクルと回りながら迫りくる。
 反射的に目を閉じてしまった彼女は痛みや衝撃を感じる代わりに手斧が地面に突き刺さる。
 手斧の行方を見届けた黒猫は、役目は済んだと言わんばかりに竹林の奥へと消えて行った。

「あ……」

 しまったとマヌケにも大きな口を開けて手斧の突き刺さった地面を眺めてしまったアレッシー。メリーもそれを見とめると素早く立ち上がりその場から逃げ出そうと走り出した。
 密生する竹の中ではそれほど素早く走る事はできない。それが女の足であり、慣れぬ土地であるならば尚更だ。アレッシーが慌てて彼女を追いながら拳銃を取り出しても彼女はその射程外に逃げ出すことは出来なかった。

「クソッ! 待てって言ってんだろうがッ!」

 自分も動きながら、標的も動きながらではまともに狙いを付けられない。アレッシーの腕では尚更だ。半ばヤケクソ気味に放たれた数発の弾丸は彼女に届くことは無かった。その行く手にあった竹に当たるだけであった。
 彼にとって不運なのは竹林と言うものに馴染みが無かったことだ。もし彼の身近にそのようなものがあればきっと知っていたはずだ。竹林で銃を撃ってはいけないと。
 竹に撃ち込まれた弾丸は竹の持つ反発性や弾力性によって思わぬところへ跳ね返される。所謂、跳弾である。跳弾により弾丸は思わぬところへ飛んでいくのだ。例えば……その射手に向かって。

「い、痛ぇ~ッ!」

 メリーは思わず立ち止まり、後ろを振り返ってしまった。彼女が見たのは片足を両手で抱えながらピョンピョン飛び跳ねる滑稽なアレッシーの姿だった。
 今がチャンスと再び駆け出そうとする彼女であったがそれよりも早く、もう一つの声が彼女の耳に飛び込んできたのだ。同じく痛いと絶叫する……違うのはその声が女性であることか。

「え?」

 メリーが彼女として最後に見た光景は、まるで銃弾の様に飛んで来る筍だった……。

「い、痛ぁ~いッ!」

 妹紅は額を押さえて蹲る。突然何か石礫のようなものが彼女の額にぶつかったのだ。

「痛ッ……ちょっと鈴仙、どうなってる? 血でてる?」

「わたしのおめめみたいにまっかっかになってるよ」
「クソッ! 誰だよ!」

 妹紅はこの竹林で悲鳴を聞いてしまった。それが悪戯兎のような声だったが、もし違ったら寝覚めが悪いので様子を伺うためにその声がした辺りにやって来たのだ。
 鈴仙を置いていけるはずも無く、彼女の駆ける速さに合わせていった、するとどうだろうか唐突に目の前で何かが跳ねているではないか。妹紅は直感的に危険を感じ取り、鈴仙を守るかのようにその前に立ちはだかった。
 そしてそれと同時に何かがぶつかったのだ。

「おい、あれどっから飛んできた?」
「たぶんあっち」

 妹紅は怒りに任せ、鈴仙の指差す方角へ向け、掘りたての筍を思いっきり投げたのだ。

「あー痛かった。全く、こんな事をするのはどこのどいつだ」

 鈴仙が妹紅より先を歩き、筍を投げつけた方向へと小走りに走っていく。

「来て、お姉ちゃん」
「何だ、誰かいたのか?」

 鈴仙が指差す方向には倒れた少女の姿があった。そしてその奥には見るからに不審者といった様相の男が突っ立っているのだ。

「酷い、誰がこんなことを……あの男がこの娘を襲って……ハッ、駄目だ鈴仙!」

 妹紅が酷いといったのは目を回して気絶する少女。状況から考えればその近くにいる男の仕業と見て間違いが無い。
 心優しい小さな鈴仙は倒れているその少女が心配なのか駆け寄ってしまった。このままでは彼女まで襲われてしまうのではないか。

「テメェッ! その子に近付くんじゃないッ!」

 炎を纏い、臨戦態勢を整える妹紅。しかしそれは男に余計な刺激を与えるだけだった。

「おまッ! スタンド使いかッ!」

 己に敵意が向けられたのを察知した彼は周囲を見渡す。矮小な力を持つ彼は勝つ為の彼の頭の中での最善の策を採った。

「ち、近付くんじゃねぇッ!」

 鈴仙の首に腕を巻きつけその頭部に拳銃を突きつけた。そう、彼は鈴仙を人質にするという愚策に打って出たのだ。

「い、痛ぁ~いッ!」

 妹紅は額を押さえて蹲る。突然何か石礫のようなものが彼女の額にぶつかったのだ。

「痛ッ……ちょっと鈴仙、どうなってる? 血でてる?」

「わたしのおめめみたいにまっかっかになってるよ」
「クソッ! 誰だよ!」

 妹紅はこの竹林で悲鳴を聞いてしまった。それが悪戯兎のような声だったが、もし違ったら寝覚めが悪いので様子を伺うためにその声がした辺りにやって来たのだ。
 鈴仙を置いていけるはずも無く、彼女の駆ける速さに合わせていった、するとどうだろうか唐突に目の前で何かが跳ねているではないか。妹紅は直感的に危険を感じ取り、鈴仙を守るかのようにその前に立ちはだかった。
 そしてそれと同時に何かがぶつかったのだ。

「おい、あれどっから飛んできた?」
「たぶんあっち」

 妹紅は怒りに任せ、鈴仙の指差す方角へ向け、掘りたての筍を思いっきり投げたのだ。

「あー痛かった。全く、こんな事をするのはどこのどいつだ」

 鈴仙が妹紅より先を歩き、筍を投げつけた方向へと小走りに走っていく。

「来て、お姉ちゃん」
「何だ、誰かいたのか?」

 鈴仙が指差す方向には倒れた少女の姿があった。そしてその奥には見るからに不審者といった様相の男が突っ立っているのだ。

「酷い、誰がこんなことを……あの男がこの娘を襲って……ハッ、駄目だ鈴仙!」

 妹紅が酷いといったのは目を回して気絶する少女。状況から考えればその近くにいる男の仕業と見て間違いが無い。
 心優しい小さな鈴仙は倒れているその少女が心配なのか駆け寄ってしまった。このままでは彼女まで襲われてしまうのではないか。

「テメェッ! その子に近付くんじゃないッ!」

 炎を纏い、臨戦態勢を整える妹紅。しかしそれは男に余計な刺激を与えるだけだった。

「おまッ! スタンド使いかッ!」

 己に敵意が向けられたのを察知した彼は周囲を見渡す。矮小な力を持つ彼は勝つ為の彼の頭の中での最善の策を採った。

「ち、近付くんじゃねぇッ!」

 鈴仙の首に腕を巻きつけその頭部に拳銃を突きつけた。そう、彼は鈴仙を人質にするという愚策に打って出たのだ。

「なッ!? 鈴仙ッ! このクソ野郎ッ! 人質なんて汚いぞ!」
「ああん? 勝てば官軍って言葉を知らねぇのか? それってえらくないねッ!」

 不用意に攻撃すれば鈴仙が傷付けられるかも知れない。そう考えると不用意に手を出すことが出来ない。
 妹紅よりも圧倒的優位に立つことが出来た彼はいい事を思いついたとニヤニヤしながら妹紅に話しかけてきた。

「こいつを解放してやらない事もないぞ」
「何ぃ?」

「いいか、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ。そこの手斧でその女を殺せッ!」
「な、何だと!?」
「聞こえなかったのか。そんなのえらくないねッ。いいか、もう一度だけ言ってやる。そこの女を殺せと言ったんだよッ!」

 チラリと目線を男から横たわる少女に向ける。そしてすぐに彼女は結論を出した。

「ふ、ふざけるなッ!」
「いいや、ふざけてなんかいないねッ!」

 例えそこに横たわる少女が幼女でない蓬莱山輝夜であったとしても妹紅は首を縦に振ることは無かっただろう。そんなことは彼女の誇りが許さない。

「おぉい、どうしたんだぁ? 早くしねぇと死んじゃうぜぇ?」

 鈴仙の首に巻きつけられた腕に力を込めたのか、彼女は小さく苦悶の声をあげた。
 それを聞いてしまった以上彼に従わざるを得なかった。歯軋りをたてながら地面に突き刺さった手斧を取った。

「ククッ、そうだ。それでいいんだ。えらいねぇ~」
「ち、畜生ッ!」
「お、お姉ちゃんッ!」

 妹紅が自分を助けるために何をしようとしているのか、彼女の幼い心でもそれがいけない事だというのは分かっている。
 だったらどうすれば良いのかも。

「あ、テメェ暴れんなッ!」

 いつまでも王子様の助けを待つお姫様ではいられない。彼女はそんなお姫様ではない。だから……精一杯暴れて抵抗をするのだ。

「やめろッ!」

 妹紅は一段と大きい声で彼の行動を制止しようと試みた。暴れる鈴仙に、怒りで我を忘れたのか、その手に持つ拳銃を発砲しようと引き金に手をかけたのだ。
 消音機の付けられたそれからは大きな銃声などはしない。小さく張りのない発射音に妹紅は銃弾が発射されたことに気が付かないでいた。
 彼女がそれから弾丸が発せられたのを察したのは地面から土埃が舞うのを見てからであった。

「れ、鈴仙?」

 鈴仙の体には傷一つ無い。男の手を振りほどくと涙目になって妹紅の体に縋りついた。

「な、何が……」

 鈴仙を人質にとった男に目を遣れば彼はその顔に苦悶の表情を浮かべ、体を若干くの字に曲げながら、内股になりつつ股間を手で押さえ、全身に脂汗を浮かべていたのだ。
 そう、暴れた鈴仙は思いっきりよく勢いを付けたその足で、彼の、いや……全ての男性にとって大切なそれを後ろ蹴りにしたのだ。
 子供だから、いや子供だからこそ一切の躊躇なくそれを実行出来たのであろう。彼を襲ったその予想だにしない衝撃に拳銃の引き金は引かれはしたものの、幸いにも銃口は彼女を反れ、地面を穿つにとどまったのだ。

「グッ……テ、テメェ……」

 苦悶の声をあげる男に妹紅は我に返った。そして縋りつく鈴仙を振りほどき彼に向かって駆けて行く。

「よくもッ!」

 それは鈴仙を傷つけようとした事に対する怒りからか、全身に再び炎を纏い拳を握り締めながらその手を大きく振りかぶった。彼を打ち砕くための攻撃……だが男もこれ以上酷い目に合うのは御免だとその体から不自然な影を彼女に向けて伸ばしたのだ。
 『セト神』と呼ばれるアレッシーのスタンド。八雲紫に八雲藍、そして橙を打ち破ったそのスタンド。影は確かに妹紅に触れた。
 もし彼女がその外見通りの年齢だったならば、その攻撃は彼に届くことは無かっただろう。そう、彼女にはアレッシーのスタンドの効力が発しなかったのだ。
 その原因は二つ。彼女が外見通りではない、永き時を生きていたこと、そして彼女の動きが素早く、攻撃が回避出来るくらいまで若返らせることが出来なかったのだ。
 抵抗むなしく、妹紅の拳はアレッシーの顔面に衝突し、その顔を無残に変形させていた。それだけでは終わらない。終わらなかったのだ。

「ギャンッ!?」

 可愛くないアレッシーの奇妙な悲鳴。炎を纏った蹴りが再び彼の股間を襲ったのだ。

「あ……」

 妹紅とてそれを意識してやったわけではない。つい反射的に、出来心でやってしまったのだ。
 ブクブクと気味が悪いくらい泡を吹き、白目を剥いてその場に倒れたアレッシー。もしかしたら殺してしまったのかもしれないという疑念が薄っすら湧いてきた。

「ま、いっか」

 同情の余地のない卑怯な男だった。例えやりすぎたとはいえきっと慧音や鈴仙だって許してくれるだろう。

「なぁ、そうだ……ろ?」

 ふと鈴仙の方へと視線を向ければ何か様子がおかしい。気のせいだろうか。鈴仙の体が少し大きくなっているような気がするのだ。

「いぃ!?」

 目を見開いて驚くのも無理はない。

「ちょっ、何見てんのよッ!」
「いや、鈴仙、どうしたん……」

 妹紅に他意はない。急に大きくなったから心配だったのだ。小さな着物から覗く四肢や露になった下腹部辺りを眺めていたわけではない。

「何馴れ馴れしく話しかけてんのよッ!」
「いや、服が……うわぁ……」
「ッ!? このヘンタイヘンタイヘンタイ!」

 妹紅のよく知る姿になった鈴仙、子供の着物では胸部を隠すことが精一杯だった。いや反射的にそこしか隠すことしか出来なかったのだ。
 小さな布切れで胸だけを隠し、臍から下の大事なところが隠れず、ささやかな草原を目にしたら妖怪だって人間だって蓬莱人だってそこに目が行くのは当然である。両手で目を隠したりしても指の隙間からこっそりそれを覗いてしまう。それが世界の真理なのだ。
 だが見られる方としてはその視線の場所に気がついたらどうだろうか。短い着物の裾を引っ張りそれを隠そうとする。だが寸が足らない。ではどうするのか。見る奴を消せばいい。
 鈴仙は手が届くところにあった石や筍を罵倒と共に妹紅に投げつけ追い払おうとしたのだ。

「ちょ、やめ」

 手元に投げるものが無くなった鈴仙はその瞳に大粒の雫を携えながら逃げるように竹林の奥へと逃げ出した。
 妹紅も慌ててそれを追う。普段であれば放っておくのだが、小さな彼女の姿が記憶に新しい今では放っておけない。
 倒れ伏す少女のことなど忘れて妹紅も竹林の奥へと消えていったのだった。

 一方、永遠亭でも元の姿を取り戻した者がいた。


「おしめかえましょーね」
「はーい」

 粗相をしてしまった小さな輝夜に優しく話しかける小悪魔。その声に輝夜は素直に従って横になり、素直におしめを替えられるのを待った。
 そして偶然にもその瞬間、アレッシーの意識は喪失され、『セト神』の効力が喪失されたのだ。
 小悪魔が目を丸くして驚く中、輝夜はぐんぐんと幼女から少女の姿へと変貌していく……おしめを替えられる姿勢のままで。
 そして小悪魔とばっちり目が合った。
 小悪魔はそんな彼女に優しく微笑むと、帯を緩め、小さくなった着物でもそれなりになるように簡単に整えてやった。輝夜もされるがままである。いや硬直して動けないとでも言うべきか。
 彼女は脳内で『この人誰?』と小悪魔を見詰めることしかできず、現状を、おしめを替えられる姿勢のままと言うことまで頭が回っていないのだ。

「あら? 突然大きくなっちゃって……驚いたけどまぁいいわ。おしめ替えますね、はいそのまま動かないで……はいできた」

 小悪魔はマイペースで事を進める。輝夜は事態を把握することがまだ出来ず、一言呟いた。

「え? これなんてプレイ?」

 そんな輝夜に小悪魔は止めを刺さんと呟いた。

「元に戻っちゃたのは残念ですけどおしめ替えられたので満足です。それにしても生えてないんですねぇ~」

 そして輝夜は事態をようやく把握した。もう手遅れだが輝夜はお姫様らしく動揺したそぶりを小悪魔の前では微塵も見せようとはしなかった

「おk。現状把握。ありがとう。助かったわ」
「いえいえ、こちらこそ。それではまた……」

 輝夜は小悪魔に微笑みながら礼を言い、障子を開けて部屋から立ち去ろうとした。その姿を小悪魔は微笑みながら小さく手を振って見送った。
 トスンという小さな音を立てて障子を閉め、自室に向かって溜息と共にゆっくりと歩み始める。
 脳裏にこれまでの経緯が過ぎった。

永琳に何かされる→永琳に玩具にされる→知らない人におしめ替えられた→生えてないって言われた

 改めて考えるととんでもないものだ。永琳に玩具にされるというのはまだしも、知らない人におしめ替えられるなんてたまったものではない。
 生えてないと言われるなんて特にだ。もうトラウマになってもおかしくはない。
 輝夜は空を見上げ、大きく息を吸い込んだ。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 幻想郷全土に響くかと思わせるほどの絶叫をあげながら走り出した彼女を責めるものなどいまい。例え憤る者がいたとしても事実を知れば、きっと苦笑いを浮かべて許してくれるはずだ。
 しかし、いくら小悪魔が軽く服装を整えてくれたと言っても所詮は子供用の服。先の鈴仙のように、大事なところをしっかり隠してくれるとは限らない。そんな格好で走り出せば鴉天狗のファインダーにしっかり捉えられてしまっても仕方が無い話だ。
 その後一月ほど輝夜は自室から出てこなかった。部屋から出てきた彼女は文々。新聞を引き裂くとまた部屋に引き篭もったと八意永琳は嘆いていた。


第十弐話

筍符『タケノコブリット』~食べ物は粗末にしちゃいけないって慧音が言ってた~

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