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東方杜月抄 2

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shinatuki

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stage.2「岸辺露伴は神様が好き」

豊かの海。一切の生命の無い月の海。だが、今ここには幾つかの生命があった。
飛沫を上げて四つの人影が海に沈む。彼らはもがく様に水面までたどり着く。
「しょっぺぇッ!?海だ畜生ッ!」
「落ち着いて皆ッ!早くッ!ぼくに捕まるんだッ!」
康一の意図を汲み少年達は必死に小柄な康一にしがみ付く。不思議なことに少年の身体は一向に沈む気配が無い。
浮き輪の様に水に浮く少年にしがみ付く三人の男性。滑稽ではあるが準備をせず着衣での水泳である。
水は容赦無く服に染み、その重さと動き辛さにより彼らを水底に引きずりこもうとする。抗う少年の能力。
僅かにできた余裕から康一は暗闇の海原に進むべき道を模索する。しかしそこまでが康一の限界だった。

「ダ、ダメだッ!仗助君ッ!周り中海でどっちが陸だかッ!」
地平線の彼方まで青い海と青い空で大地の色はどこにも見当たらない。
呼ばれた少年の横に力を持つ人型のビジョンが現れる。人型は目を細め四方を見渡すと彼方の彼方に小さな緑色を見つける。生い茂る木々の色。生命をつなぐ希望の緑色である。
「いいやッ!!見えた!お前の右手側だッ!」
康一は無言で頷くと強く念じる。すると彼の前方にもビジョンが現れる。
「act2!『プカプカ』を『ドヒュウゥー』に変えろォーッ!」
丸いは虫類の様なビジョンが康一から何かを剥がす。その瞬間、今まで安定していた康一の身体が一度沈みそして――
 “ドヒュウゥーー!!”
仗助と彼のスタンドに抱え上げられた康一は勢い良く宙に浮く。そして風に飛ばされる衣類の様に、マンガ的な擬音をなぞる様に遥か陸まで飛んでいく。

康一たちが陸まで吹き飛ばされ必然的に残る二人。しばらくして我に返った億泰が吠える。
「オ、オレたちはどーすんだよォー!置いてけ堀かよォ!」
「フン!それで上手いこと言ったつもりか?……ん?もしかして素で言ったのかい?」
「訳ワカンねーこと言ってんじゃねェー!何とか出来るなら早くしろォーッ!!」
「本当に煩い奴だな。もう何とかしたさ」
露伴が億泰の私服の襟を掴むと今度は億泰の身体が宙に浮く。康一たちをなぞる様に彼らも勢い良く飛んでいく。
「うおッ、く、首が、絞まッ……」
「『康一君の所まで吹き飛ぶ』 フゥー、康一君のお陰で何とかなったって所かな。」
彼らも陸に向かい飛んでいく。間もなく陸に着くだろう。

「ウぇー……ベタベタして気持ち悪いなぁ」
豊かの海の砂浜に四つの人影があった。彼らである。疲れた表情をしているが、絶えず周りを警戒している。
砂浜から少し離れた所には森がある。果樹園なのだろう、瑞々しい香りがあたりに漂っている
「こりゃ脱いだ方が良さそうだぜぇー」
海水を含んだ服は甘酸っぱい香りをかき消すように磯の臭いを撒き散らす。
「いや問題ないぜ。クレイジーダイヤモンド!」
仗助の傍らに再び現れたビジョンが凄まじい速さで、かつ羽毛の様に柔らかく友人たちの服に触れる。
「問題なく海水だけを戻す」
彼らの服から海水が染み出し、海へと還っていく。乾燥した服は彼らの動きを邪魔せず、本来の働きを取り戻していた。
「オー、もう乾いたぜぇ~」
服が乾きが場の空気を落ち着け、自然手持ちの情報の整理になる。

「康一君、やられた時のことを覚えているかい?」
「いえ、はっきりとは。多分最後まで残ったのは――」
「最後はオレだった」
仗助が苦々しげに語る。自分たちの体験。明らかに性質の違う複数の能力。スタンドは見えてない様であったこと。
不気味な笑顔。外見から窺えない年齢。未知への恐怖。ピラミッドの上位。生物として初めて味わう捕食者の気分。
「なるほど。話に聞く吸血鬼に近いのかな。いや……『妖怪』か?すごく興味がわいてきたぞ。もう一度特徴を教えてくれ」
「一人が能力をいくつも使えるなんてズリぃーなァ~……」
「そうだ。お前を本にすればもっと詳しく解るじゃあないか」
「マジかよぉ~勘弁してくれよー」

だんだん話がズレていく。康一は何とか話題をこれからの事にもっていこうとする。
「それよりこれからどうしよう?ここが何処かもわかんないし……」
「とりあえず攻撃が無いところをみると敵は近くにはいないようだな」
完全にリラックスしきった露伴は辺りを素早くスケッチしながら歩きまわっている。放っておけばフラフラと何処かへ行ってしまいそうである。
「桃ってイタリア料理につかえんのかな~」
生っている桃を幾つももぎ取っていた億泰は、手に抱えきれなくなった桃をからっぽの学生カバンに詰めていた。
桃を詰め終えた億泰は財布から抜いた札を木の根元におく。風で飛ばないようにと重石を置きながらも今度はポケットにまで桃を詰め始める。
康一は友人達に呆れながらも頼もしさを感じていた。

「あー……それと一つ言っとくことがあるんだけどよー……」
気まずげな仗助が何かを語ろうとし、自然仗助に注目が集まる。しかし仗助の話は続かない。
「また来たの?本当に懲りないわね」
空から降りてきた少女が話を断ち切る。

会話を遮った少女はゆっくりと仗助達に近づいていく。
どうやら彼女はリーダー格であるらしく、後ろには歩兵銃で武装した少女達が控えている。武装少女達は夏用の学生服に兎耳ヘルメットという何とも不思議なセンスである。
リーダー格の彼女はえんじ色のロングスカートを肩紐で右肩にだけ架けている。紫がかった髪はポニーテイルに纏められていて、白い半袖のカッターシャツ等全体的に飾り気のないファッションは清楚な印象を与える。
数少ない装飾品は髪を束ねた黄色いリボンと左手にはめられた二つのブレスレットぐらいであろうか。
だが彼女の最も目立つパーツはファッションでもスレンダーな肢体でもない。
長い、明らかに彼女の背を上回る日本刀である。その長さをどうやって抜刀したのか。そもそも鞘が見当たらない。
「この前は女の子、今度は男の人ばかりなんてバランスが悪いのね」

彼女の出現に反応して、億泰の横に彼のスタンドが現れる。無機質でありながら何処か愛嬌がある顔をしている。
少女に反応が無いことも織り込み済みだったのか彼らの横には次々とスタンドが現れ、スタンド同士で会話を始める。
 “おー?本当に何の反応もねーな”
 “やっぱりスタンドは見えてねーみたいだな”
 “普通の人……なのかな?どうにかして刀を収めてもらおうよ”
 “さっさと帰り道を教えてもらおーぜー。ついでにお近付きになれたら良ぃーなー”
 “誰がやるんだ?お前か康一?露伴がやるのか?” 
 “いや、ぼくに任せてくれ。『日本刀を持つ少女』というのも読んでおきたいからね”

露伴が自信満々に前に進む。対してリーダー格の少女は顔をしかめ刀を露伴に向ける。
「おいおい勘弁してくれよ。見ての通りの丸腰さ。実は道に迷ってしまってね、早いところ家に帰りたいんだ。ここら辺なら最寄の駅はどこになるのかな?」
「駅?そんなものは月には無いわ」
「月?話が噛み合わないな。何を言ってるんだ?」
「あなた……『また地上人が現れた』とお姉様に連絡を」
学生服の少女は急に名を呼ばれた事に驚きながらももう一人の主人の近くに居るであろう新入りの同僚に連絡を試みる。その間も露伴は足を止めずに前に出続ける。

「そこで止まりなさい。大人しくしてればそれほど痛い目に会わないわよ」
「おいおいそんな冷たいこと言うなよ。漫画家の岸辺露伴って知らないかい?サインぐらいなら構わないよ」
少女の姿がぶれて、次の瞬間露伴の首に刀が添えられる。露伴のどの動きよりも速く、彼女は行動できるであろう。
「止まれと言うのに。地上の人間はみな根性が曲がってるわね。これで止まるかしら」
「いいや止まってしまうのは君の方さ」
少女が膝から崩れる。依姫は露伴のどの動きよりも速く動けただろう。だが不可視の不意討ちに対応できる人間は多くはいない。露伴は倒れいく少女を抱きとめるとゆっくりと横たえ、ページをめくる様に、いや事実彼女は本となりページをめくる露伴に何の反応も返せない。
仗助達が露伴の盾になる様に前に出て夏服の少女達に睨みを利かせる。
武装した少女達も上司の救出を試みるが、日頃の訓練不足がたたり思うように行かない。

「いいぞ。そのままそいつらがぼくの方に来ない様にしてくれよ。さて、まずは『露伴とその仲間に攻撃できない』ってところか」
露伴は素早く右手を動かすと、自らの優位を確信した笑みを浮かべ少女の『朗読』を始める。
「ふんふん、『私の名前は綿月依姫だ。穢れなき月の民である。地上の監視と玉兎の教育を主な仕事としている』月の民?地上?何のことだ?」
「露伴先生よぉー……どうやらマジにここは月みてーだぜー……」
露伴が仗助の視線を追い空を見上げる。空には太陽と地球が共に浮かんでいる。
「……あの地球が本物にしろ何かの能力にしろ取り敢えず読んでから考えればいいさ。『また地上から来たのだろう。穢れが蔓延する前に地上に還さなくては。お姉様に連絡を』姉が居る様だな。それにしてもとんでもなく分厚い人生だな。この子も妖怪なのか?」

act3が少女達の散発的な攻撃を捌く。玉兎達は見えない相手に苦戦して倒れ伏す主人までたどり着けない。
「露伴先生、時間も無いですしあまりプライベートな部分は……」
「本当に固いな君は。続きを読むぞ。『私は自分の身体に八百万の神を降ろし、その御力を使うことができる』……おいおい記紀神話か?とんでもない能力だな。もう少し深く読んでおくか」
「もういいだろマンガ家ァ!帰り方をさがせよぉ!」
「五月蝿いぞ!今やってるだろッ!なになに?『目の前の男は漫画家らしい。念の為にあの方を降ろしておこう』どうやらすでに降ろしていたみたいだな。まっ 何の問題も無いがね」
当初の目的も忘れ、露伴は嬉々として降ろした神について読み進めようとするが

  『露伴とその仲間に攻撃できない』

  『露伴とその仲間に攻撃でき  』スッ

  『露伴とその仲間に攻撃できる 』バァン!

依姫の『ページ』に書き込まれた文字が薄れ、新たに結ばれた文末により文章の意味が真逆になる。
「何ィぃぃーーッ!?」
先程まで弛緩させていた身体に力がみなぎり、依姫は自らの足で立ち上がる。

「ぼくは能力を解除してないぞッ!能力だって奪われてもいない!」
「八百万の神とは」
依姫は落とした刀を拾い上げるとそこに居る全てのものに語り掛ける。
「いわゆる記紀神話の神だけを指すものではありません」
ただ歩く姿に仗助達は思わず道を譲ってしまう。
「地上の人間でありながら死後に神格化され祀り上げられた方もいるわ」
上司の無事な姿に玉兎達がわらわらと集まってくる。
「それは例えばこのお方」
依姫の姿がぶれる。いや重なる様にもう一人の人物がいる。その姿に露伴が自然一歩歩み寄る。
「まさか!!まさかあなたは……!?」
ベレー帽に丸眼鏡。穏やかな表情の老紳士。ガラス越しの瞳が露伴を見据えている。
「漫画の神、手塚様よ」

「ほ、本当に神様を呼べるんだ……」「……どーすんだよ露伴よぉ。本物の手塚先生だぜ」「サイン書いてくれねーかなぁ~」
露伴は依姫の力に困惑する仲間達に目をやることも無い。
「どうするかだって?」
露伴も真っ直ぐ神を見つめる。その瞳は好奇心一色であった。
「後は任せたよ」
「えぇ!?そんなあっさりでいいんですか?」
「ああ。ヘブンズ・ドアーが効かなければ今のぼくじゃ勝ち目は薄いさ。」
露伴は視線を依姫に移すと話しかける。
「聞こえていただろ?この後ぼくらはどうなるんだ?」
露伴のやる気の消失を感じたのか依姫は神降ろしを解く。神は宙に溶け消えるまで露伴を見つめていた。

「取り敢えず拘束させてもらうわ。お姉様が来るまでの間だけど」
「ちょっと待てってよぉ。こっちはまだ三人いるんだぜー。抵抗しちまうぞぉ」
「一人も三人も変わらないわ。でも……そうね」
依姫は先程の玉兎を呼び寄せると何事か話あっている。
「お姉様が来るまでにまだ少し時間があるわ。その間の暇つぶしの提案なのだけど、一対一の模擬戦はどうかしら」
「オレらのメリットが見当たらねーんスけどねー」
「戦っている間は捕まえられずに済むじゃない。うろちょろされなければ何でも良いんだけど」
仗助の顔から笑みが消え彼の横にはクレイジー・ダイヤモンドが現れる。完全に戦闘態勢に入る仗助に康一と億泰も彼らのスタンドを発現させる。一触即発の空気にしかし、ヘブンズ・ドアーが横槍を入れる。

 “提案に乗れよ東方仗助”
 “あー?何でだ?全員で暴れたほうが良いんじゃねーのか”
 “彼女の能力がまだ完全に分からないから様子を見た方が良いだろ。それに――”
 “それに?”
 “あれ程の能力なんだから消耗も激しいはずだ。仗助の能力もあるし全員で暴れるのはその後でいいんじゃあないかな”
 “おぉ、凄ェ頭良いぜ露伴!”
 “倒されるべき邪悪!って感じの顔だぜ”
 “回復してから疲れている相手を倒すなんてちょっとズルくないかなぁ”
 “いや、それも戦略だよ。それこそ神話の神々もしてる事さ”
康一も渋々納得したのかエコーズを引っ込める。仗助は改めて依姫に向き直ると一つ頷き了承の意思を伝えた。










stage.2´「暗く青い月の海」

「あー……それと一つ言っとくことがあんだけどよー……」
仗助が再び何かを語ろうとし、自然仗助に注目が集まる。しかし
「そこまでだぜ!おにいちゃんら!!」
豊かの海に声が響き渡る。砂浜を大柄の人影が駆ける。
「誰スかあんた?オレら道を尋ねてーんだがよー」
「シブくないねェおたくら……水浸しじゃあないか」
鍛え上げられた筋肉が服を押し上げはちきれんばかりである。
「すいません。ここから最寄の駅を教えていただけたらなーって……」
「トボけてんじゃねーぜ、おにいちゃん。此処が何処かって?知りたきゃついて来な!」
生命の無い海に飛び込んだ巨体が大きな飛沫をあげ沖まで泳いでいく。
「地獄までの道を教えてやるぜおにいちゃん達よォーー!!」
海に轟音と共に巨大な渦潮が発生する。渦は周辺の海を侵食しながらなおも勢力を拡大させる。
「触れればッ!切り裂くウロコはすでにッ!渦の中に配置してあるぜ!」
渦潮の大きさはすでに尋常のものでは無い。ウロコが光を反射しキラキラと輝く。
「来やがれッ!刺身にしてやるぜーッ!」

「ビビってんのかおにいちゃん達よォー!は、早く来やがれー」
巨大な渦潮はしかし、徐々に小さくなっていく。目に見えて衰えていく渦。
「い、今のうちに来た方がいぃぜぇぇ。ちょっとホラ、なにしてんの早く」
今となっては壊れかけの洗濯機の水流の様になってしまった渦から男が叫ぶ。
遂に渦は掻き消えて、海からは息を切らしたウロコまみれで水浸しの男があがってくる。
「学生諸君。君達がシブくないから私のやる気も無くなってしまった……見逃してやる。もう行きたまえ……」

「ドララララーーーッ!!」
「ウボァーーー!」

 綿月テニール→再起不能(リタイヤ)

EndingNo.2「勝ったッ!杜月抄完ッ!!」

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