香霖堂――この狭い幻想郷において外の世界からの物品が手に入る数少ない場所。
だが、そこは妖怪の潜む魔法の森の近くに建っているため、そこを訪れる人は数えるほどしかない。
そんな閑古鳥の鳴く香霖堂の主が、森近霖之助。
彼は本のページをめくると、大あくびをした。
「脳に酸素が足りていない証拠かな……」
あくびをするついでに背伸びをした彼は、再び視線を手元の本に移す。
読んでいる本のページが残り少なくなる頃、今まで続いていた静寂がドアの開く音で遮られた。
どうせ魔理沙か霊夢だろうと思い、再び視線を本に落とす。
だが……
「来客が来たというのに、ずいぶん無愛想なんだな」
ドアを開いた者は魔利沙のものでもなく、霊夢のものでもなかった。
まだ八月の暑さが残る九月の風が店の中を吹き抜けた。
急いで本にしおりを挟み、その端正な顔立ちを珍しく訪れてきたまともな客に向ける。
「よう」
ドアの前には、くるぶしまで伸びた銀色の髪をはためかせる少女が立っていた。
所々に札が貼られた赤いもんぺ。
男子学生を髣髴とさせる純白のシャツ。
そして一番の特徴となるサスペンダー。
まだ幼さの残る顔には、それに似合わない刺すような雰囲気が漂っている。
「なんだ。妹紅じゃないか。こんな所まで、何を買いに来たんだい?」
眼鏡越しに金色の瞳を細めて、霖之助は立ち上がる。
「いや、近くを通りがかったから少し寄ってみただけだ。ココには時々珍しい物があるからな」
「そうかい。でも、商品を持って行くならちゃんとお代は払ってくれよ」
「もしかしたら冷やかしだけかもしれないぞ?」
「だったら、なるべく店のものを傷つけないでくれよ」
そう言うと霖之助は再び腰を下ろして、本を再び読み始める。
「じゃあ、存分に見ていくとするよ」
妹紅は微笑んで、炎のように赤い瞳を店に並ぶガラクタに向ける。
しばらくすると、一枚の紙片が妹紅の目に留まった。
「……? これは……」
妹紅はその紙片を慎重に指でつまみあげる。
小さな物音が、静寂に包まれる店内に生まれた。
「妹紅、外の世界の新聞なんて取り出して、どうしたんだい?」
物音に気付いた霖之助が、妹紅に目を向ける。
妹紅の白い指先には、英語で書かれた新聞が摘まれている。
それに視線を向けると、
「いや、なんだか懐かしくなってな……」
感慨深げな表情を浮かべた。
新聞には大きな英字で、こう書かれていた。
『スティールボールラン ついに開催』
と。
その大文字の下には、白黒の写真がでかでかと貼られている。
写真の中には、モノクロの青空が広がり、モノクロの砂浜がルナティック弾幕をも凌ぐほどの馬と、人の群れで埋め尽くされている。
「ちょっと見せてくれないか?」
霖之助は本に栞を挟んで、立ち上がると、妹紅の横まで歩み寄る。
「ああ。いいぞ」
妹紅の許しを得て、霖之助は新聞を覗き込む。
自分の物なのに、妹紅の許可を得ないといけないというのはどういう事だろうかという考えが、浮かび上がる。
「ちょっと、この辺りを見てくれ」
だがその考えは、視界の中に飛び込んできた妹紅の指で遮られた。
思わず妹紅の指先を見ると、そこには、
「……これは、君じゃないのか?」
馬に乗っている妹紅の姿が。
「そうさ。ああ、あの日から百二十年近く経った今でも覚えている……忘れることなんてできやしない」
妹紅は、遠いどこかを見るような表情を浮かべる。
「あれは、ちょうど今日みたいな暑い日のことだったな――」
だが、そこは妖怪の潜む魔法の森の近くに建っているため、そこを訪れる人は数えるほどしかない。
そんな閑古鳥の鳴く香霖堂の主が、森近霖之助。
彼は本のページをめくると、大あくびをした。
「脳に酸素が足りていない証拠かな……」
あくびをするついでに背伸びをした彼は、再び視線を手元の本に移す。
読んでいる本のページが残り少なくなる頃、今まで続いていた静寂がドアの開く音で遮られた。
どうせ魔理沙か霊夢だろうと思い、再び視線を本に落とす。
だが……
「来客が来たというのに、ずいぶん無愛想なんだな」
ドアを開いた者は魔利沙のものでもなく、霊夢のものでもなかった。
まだ八月の暑さが残る九月の風が店の中を吹き抜けた。
急いで本にしおりを挟み、その端正な顔立ちを珍しく訪れてきたまともな客に向ける。
「よう」
ドアの前には、くるぶしまで伸びた銀色の髪をはためかせる少女が立っていた。
所々に札が貼られた赤いもんぺ。
男子学生を髣髴とさせる純白のシャツ。
そして一番の特徴となるサスペンダー。
まだ幼さの残る顔には、それに似合わない刺すような雰囲気が漂っている。
「なんだ。妹紅じゃないか。こんな所まで、何を買いに来たんだい?」
眼鏡越しに金色の瞳を細めて、霖之助は立ち上がる。
「いや、近くを通りがかったから少し寄ってみただけだ。ココには時々珍しい物があるからな」
「そうかい。でも、商品を持って行くならちゃんとお代は払ってくれよ」
「もしかしたら冷やかしだけかもしれないぞ?」
「だったら、なるべく店のものを傷つけないでくれよ」
そう言うと霖之助は再び腰を下ろして、本を再び読み始める。
「じゃあ、存分に見ていくとするよ」
妹紅は微笑んで、炎のように赤い瞳を店に並ぶガラクタに向ける。
しばらくすると、一枚の紙片が妹紅の目に留まった。
「……? これは……」
妹紅はその紙片を慎重に指でつまみあげる。
小さな物音が、静寂に包まれる店内に生まれた。
「妹紅、外の世界の新聞なんて取り出して、どうしたんだい?」
物音に気付いた霖之助が、妹紅に目を向ける。
妹紅の白い指先には、英語で書かれた新聞が摘まれている。
それに視線を向けると、
「いや、なんだか懐かしくなってな……」
感慨深げな表情を浮かべた。
新聞には大きな英字で、こう書かれていた。
『スティールボールラン ついに開催』
と。
その大文字の下には、白黒の写真がでかでかと貼られている。
写真の中には、モノクロの青空が広がり、モノクロの砂浜がルナティック弾幕をも凌ぐほどの馬と、人の群れで埋め尽くされている。
「ちょっと見せてくれないか?」
霖之助は本に栞を挟んで、立ち上がると、妹紅の横まで歩み寄る。
「ああ。いいぞ」
妹紅の許しを得て、霖之助は新聞を覗き込む。
自分の物なのに、妹紅の許可を得ないといけないというのはどういう事だろうかという考えが、浮かび上がる。
「ちょっと、この辺りを見てくれ」
だがその考えは、視界の中に飛び込んできた妹紅の指で遮られた。
思わず妹紅の指先を見ると、そこには、
「……これは、君じゃないのか?」
馬に乗っている妹紅の姿が。
「そうさ。ああ、あの日から百二十年近く経った今でも覚えている……忘れることなんてできやしない」
妹紅は、遠いどこかを見るような表情を浮かべる。
「あれは、ちょうど今日みたいな暑い日のことだったな――」
STEEL BALL RUN~不死鳥は失敗を恐れない
物語は約百五十年前――1854年まで遡る。
1854年、幕末の黒船来航であると共に、妹紅が輝夜と全力で殺しあっていた年代でもある。
だが、毎日毎日殺しあっていたという訳ではない。
輝夜を探して野を走り回った事もあるし、崖を飛んだこともあった。
とにかく、日本中を駆けずり回ったのだ。
そんな彼女にも、好奇心というものはあった。
いや、好奇心は平均以上だった。
好奇心猫を殺すという諺があるが、もともと殺しても生き返る妹紅にとっては意味のない諺だ。
故に、半径二メートル圏内に輝夜がいるというのに『てれすこ』なる物を見に行ったり、出島でオランダ語を読んでみようと思ったりした。
この年に起きた黒船来航も、妹紅の気を引いた物の一つだった。
1854年、幕末の黒船来航であると共に、妹紅が輝夜と全力で殺しあっていた年代でもある。
だが、毎日毎日殺しあっていたという訳ではない。
輝夜を探して野を走り回った事もあるし、崖を飛んだこともあった。
とにかく、日本中を駆けずり回ったのだ。
そんな彼女にも、好奇心というものはあった。
いや、好奇心は平均以上だった。
好奇心猫を殺すという諺があるが、もともと殺しても生き返る妹紅にとっては意味のない諺だ。
故に、半径二メートル圏内に輝夜がいるというのに『てれすこ』なる物を見に行ったり、出島でオランダ語を読んでみようと思ったりした。
この年に起きた黒船来航も、妹紅の気を引いた物の一つだった。
人ごみを掻き分けて、妹紅は海岸へと出た。
「おお……アレが……」
青い海には、黒煙を吐き続ける黒船が四つ。
「海の向こうからやってきた黒船か……」
その黒い艶を放つ黒船の船体を、妹紅は瞳を輝かせて見つめる。
こっそり乗ってみようか。そんな考えが、頭の中に浮かんだ。
「よし!」
思ったら即実行。
大丈夫。何があってもこの不死身の体と長年培った妖術があればなんとかなると踏んだ妹紅は、早速海に飛び込んだのであった。
大騒ぎをする見物客を尻目に、妹紅は波を掻き分ける。
持前のタフさをフル活用し、黒船に近づくと、妹紅は改めて驚いた。
なんて、なんて大きいんだろう! これが黒船なのかッ!
あまりもの大きさに、妹紅は泳ぐことを忘れ、呆けた顔で黒船の外壁を見つめる。
「これに乗れば、きっと見たこともない場所にたどり着ける筈……新しい、世界が待っている……ッ!」
改めて乗る決意を決めた妹紅は、気合を入れ、呪いを唱える。
フワリ……と体が音もなく浮かび上がると、ガッシン、と船のふちを掴む。
再び呪いを唱えると、妹紅の体はまるで風に溶けてしまったかのように消えて無くなる。
両方とも、我流で編み出した妖術だ。
といったものの、今のところすぐに使える術といえば姿を見えなくする術と、空を飛ぶ術、そして炎を操る術しか使えない。
ほかにも術はあるにはあるのだが、面倒な準備が必要だったり、自分自身の魔力を激しく消耗するものしかない。
ともあれ、姿を隠し、黒船に乗り込むことに成功した妹紅は、まだ見ぬ新世界へ胸をときめかせるのであった。
「おお……アレが……」
青い海には、黒煙を吐き続ける黒船が四つ。
「海の向こうからやってきた黒船か……」
その黒い艶を放つ黒船の船体を、妹紅は瞳を輝かせて見つめる。
こっそり乗ってみようか。そんな考えが、頭の中に浮かんだ。
「よし!」
思ったら即実行。
大丈夫。何があってもこの不死身の体と長年培った妖術があればなんとかなると踏んだ妹紅は、早速海に飛び込んだのであった。
大騒ぎをする見物客を尻目に、妹紅は波を掻き分ける。
持前のタフさをフル活用し、黒船に近づくと、妹紅は改めて驚いた。
なんて、なんて大きいんだろう! これが黒船なのかッ!
あまりもの大きさに、妹紅は泳ぐことを忘れ、呆けた顔で黒船の外壁を見つめる。
「これに乗れば、きっと見たこともない場所にたどり着ける筈……新しい、世界が待っている……ッ!」
改めて乗る決意を決めた妹紅は、気合を入れ、呪いを唱える。
フワリ……と体が音もなく浮かび上がると、ガッシン、と船のふちを掴む。
再び呪いを唱えると、妹紅の体はまるで風に溶けてしまったかのように消えて無くなる。
両方とも、我流で編み出した妖術だ。
といったものの、今のところすぐに使える術といえば姿を見えなくする術と、空を飛ぶ術、そして炎を操る術しか使えない。
ほかにも術はあるにはあるのだが、面倒な準備が必要だったり、自分自身の魔力を激しく消耗するものしかない。
ともあれ、姿を隠し、黒船に乗り込むことに成功した妹紅は、まだ見ぬ新世界へ胸をときめかせるのであった。
続く
次回予告
魔理沙「魔理沙だぜ☆」
霖之助「霖之助だ」
魔理沙「いや~妹紅の奴にあんな過去があったとはね」
霖之助「僕は英語読めないからよくわからないんだが……」
魔理沙「簡単だぜ? 妹紅が百年位前にあったレースに参加した。それだけだぜ」
霖之助「百年位前か……博麗大結界が出来上がる前の時代だな」
魔理沙「所で、これって次回予告なんだよな? ぜんぜん予告してないぜ?」
霖之助「メタ発言は止めてくれよ……読者が困る」
魔理沙「香霖もメタ発言しているじゃん」
次回ッ! 不死鳥は失敗を恐れない第一話『妹紅ビーチに立つ』お楽しみに!
霖之助「ってこれプロローグだったの?」
魔理沙「見てくれないと……マスタースパークだぜ!」
魔理沙「魔理沙だぜ☆」
霖之助「霖之助だ」
魔理沙「いや~妹紅の奴にあんな過去があったとはね」
霖之助「僕は英語読めないからよくわからないんだが……」
魔理沙「簡単だぜ? 妹紅が百年位前にあったレースに参加した。それだけだぜ」
霖之助「百年位前か……博麗大結界が出来上がる前の時代だな」
魔理沙「所で、これって次回予告なんだよな? ぜんぜん予告してないぜ?」
霖之助「メタ発言は止めてくれよ……読者が困る」
魔理沙「香霖もメタ発言しているじゃん」
次回ッ! 不死鳥は失敗を恐れない第一話『妹紅ビーチに立つ』お楽しみに!
霖之助「ってこれプロローグだったの?」
魔理沙「見てくれないと……マスタースパークだぜ!」