不死鳥は失敗を恐れない 第一話「妹紅ビーチに立つ」
1890年。
妹紅が黒船にこっそりと乗り込んでアメリカに密航してから三十六年も経った。
異国の言葉に戸惑いながらもすごしたこの時間は素晴らしいものだった。
ただ……不満といえば三十六年間ずっと輝夜と殺し合いできなかったことぐらい。
アメリカ西部。
英語と、ステーキと、拳銃の国で過ごして三十六年。
妹紅は、黒く焦げた木片が散らばる空き地に立ち尽くしている。
「……もう日本に帰ろうかな」
ぶっちゃけ、日本に帰りたくなってきた。
この三十六年間、この町で酒場を開き、平穏に暮らしてきた。
時々ならず者が喧嘩を始めたりすることもあったが、平穏だった。
吉良吉影がのどから手を出してでも欲するほどの平穏だった。
そんな酒場がつぶれたのは一週間前……一本の火炎瓶によってもたらされた。
目を閉じると、今でも思い出す。
トランプを投げ出して、拳銃を抜こうとした二人の男。
そこに投げ込まれた火炎瓶。
爆音、飛び散る火、テーブルに引火し、火は炎へと進化し、そして棚の酒を飲み込んで爆炎へと究極進化を遂げたあの暑い日。
残ったのは、ちょっと奮発して買ったやたらめったら頑丈な(妹紅が全力で殴ってもへこまなかった!)金庫と、二歳の若い馬一匹のみ。
埃っぽい風が吹き、妹紅の銀色の髪を揺らす。
「へっへっへ……そこのお嬢ぶへぇ」
絡んできたバカを素手で叩きのめし、どうやって日本に帰ろうかと考える。
日本に帰るには船に乗る必要がある。
だが、船に乗るには金が必要だ。
今の金庫の中身では船に乗ることはままならない。
「金が無いんだよな……」
ジーンズのポケットに手を突っ込み、風に転がされるタンプルウィードの行く先を眺める。
それが転がる先に、一枚の紙が落ちている。
紙は風にさらわれて、妹紅への手元へと飛んでくる。
「何だろう?」
妹紅が手を伸ばすと、紙は引力に引き付けられるかのように手元に吸い込まれた。
妖術の基本、念動力だ。
しわくちゃの紙を伸ばすと、そこにはでかでかとした文字で、
「スティール・ボール・ラン、参加者募集中……」
と書かれていた。
更に妹紅は視線を進めて、
「優勝者には賞金五千万ドル……五千万ドル!?」
妹紅は仰天した。
「おいおいマジかよ。五千万ドルといったら日本に戻ってもまだお釣りが帰ってくるぞ」
五千万ドルという文字に惹かれて、更に読み進めていく。
「史上初、乗馬による全長六千キロにも及ぶ大陸横断レース……スタート地点サンディエゴビーチ……ゴールはニューヨーク……」
妹紅の血のように赤い瞳が小刻みに振動する。
「参加資格16歳以上」
クリアしている。自分は千歳以上だ。
「国籍、人種、性別、経歴、プロ・アマチュアなどは問わない」
好都合だ。
「参加量千二百ドルを支払うこと」
店の金で賄えるかもしれない。
「よし、行ってみるか……サンディエゴビーチ!」
こうなると妹紅は止まらない。
瓦礫の中を漁り、金庫を探し当てる。
中に入っているのは大量の硬貨と、銃身を大胆に切り詰めたウィンチェスターとその弾。
金庫を抱え上げて、瓦礫を再び漁り、使えそうなものを探す。
瓦礫の中から出てくるのは、包丁、フライパン、お玉といった金属製の調理器具ばかり。
「包丁だけでも持っていくか」
金庫を開き、乱暴に包丁を放り込むと、金庫を閉め、辛うじて無事だった店の裏にある厩舎へと駆け出す。
そこには馬が一匹だけ繋がれていた。
よく手入れされた赤色の毛並み。
その下には鍛え上げられて筋肉が見て取れる。
「イワカサ……今日から一緒に長い旅に出るぞ……」
鞍や鐙を着け、飛び乗り手綱を握り締める。
すると、イワカサと名づけられた馬は大きく嘶いて、厩舎を飛び出した。
ドカラッ、ドカラッ、と荒々しい音を朝の町に響かせて、妹紅は向かう。
決戦の地、サンディエゴビーチへと。
妹紅が黒船にこっそりと乗り込んでアメリカに密航してから三十六年も経った。
異国の言葉に戸惑いながらもすごしたこの時間は素晴らしいものだった。
ただ……不満といえば三十六年間ずっと輝夜と殺し合いできなかったことぐらい。
アメリカ西部。
英語と、ステーキと、拳銃の国で過ごして三十六年。
妹紅は、黒く焦げた木片が散らばる空き地に立ち尽くしている。
「……もう日本に帰ろうかな」
ぶっちゃけ、日本に帰りたくなってきた。
この三十六年間、この町で酒場を開き、平穏に暮らしてきた。
時々ならず者が喧嘩を始めたりすることもあったが、平穏だった。
吉良吉影がのどから手を出してでも欲するほどの平穏だった。
そんな酒場がつぶれたのは一週間前……一本の火炎瓶によってもたらされた。
目を閉じると、今でも思い出す。
トランプを投げ出して、拳銃を抜こうとした二人の男。
そこに投げ込まれた火炎瓶。
爆音、飛び散る火、テーブルに引火し、火は炎へと進化し、そして棚の酒を飲み込んで爆炎へと究極進化を遂げたあの暑い日。
残ったのは、ちょっと奮発して買ったやたらめったら頑丈な(妹紅が全力で殴ってもへこまなかった!)金庫と、二歳の若い馬一匹のみ。
埃っぽい風が吹き、妹紅の銀色の髪を揺らす。
「へっへっへ……そこのお嬢ぶへぇ」
絡んできたバカを素手で叩きのめし、どうやって日本に帰ろうかと考える。
日本に帰るには船に乗る必要がある。
だが、船に乗るには金が必要だ。
今の金庫の中身では船に乗ることはままならない。
「金が無いんだよな……」
ジーンズのポケットに手を突っ込み、風に転がされるタンプルウィードの行く先を眺める。
それが転がる先に、一枚の紙が落ちている。
紙は風にさらわれて、妹紅への手元へと飛んでくる。
「何だろう?」
妹紅が手を伸ばすと、紙は引力に引き付けられるかのように手元に吸い込まれた。
妖術の基本、念動力だ。
しわくちゃの紙を伸ばすと、そこにはでかでかとした文字で、
「スティール・ボール・ラン、参加者募集中……」
と書かれていた。
更に妹紅は視線を進めて、
「優勝者には賞金五千万ドル……五千万ドル!?」
妹紅は仰天した。
「おいおいマジかよ。五千万ドルといったら日本に戻ってもまだお釣りが帰ってくるぞ」
五千万ドルという文字に惹かれて、更に読み進めていく。
「史上初、乗馬による全長六千キロにも及ぶ大陸横断レース……スタート地点サンディエゴビーチ……ゴールはニューヨーク……」
妹紅の血のように赤い瞳が小刻みに振動する。
「参加資格16歳以上」
クリアしている。自分は千歳以上だ。
「国籍、人種、性別、経歴、プロ・アマチュアなどは問わない」
好都合だ。
「参加量千二百ドルを支払うこと」
店の金で賄えるかもしれない。
「よし、行ってみるか……サンディエゴビーチ!」
こうなると妹紅は止まらない。
瓦礫の中を漁り、金庫を探し当てる。
中に入っているのは大量の硬貨と、銃身を大胆に切り詰めたウィンチェスターとその弾。
金庫を抱え上げて、瓦礫を再び漁り、使えそうなものを探す。
瓦礫の中から出てくるのは、包丁、フライパン、お玉といった金属製の調理器具ばかり。
「包丁だけでも持っていくか」
金庫を開き、乱暴に包丁を放り込むと、金庫を閉め、辛うじて無事だった店の裏にある厩舎へと駆け出す。
そこには馬が一匹だけ繋がれていた。
よく手入れされた赤色の毛並み。
その下には鍛え上げられて筋肉が見て取れる。
「イワカサ……今日から一緒に長い旅に出るぞ……」
鞍や鐙を着け、飛び乗り手綱を握り締める。
すると、イワカサと名づけられた馬は大きく嘶いて、厩舎を飛び出した。
ドカラッ、ドカラッ、と荒々しい音を朝の町に響かせて、妹紅は向かう。
決戦の地、サンディエゴビーチへと。
バシャ! バシャバシャバシャ! バシャッ!
いくつもの光が、壇上のスティール氏に注ぎ込まれた。
カメラのフラッシュだ。
スティール氏の背後には、大きな北米の地図が張り出されている。
「Mr.スティーブン・スティール。2日後にスタートする『スティール・ル・ラン』についての概要を、何度も説明しておられるでしょうがもう一度、全世界の新聞読者のためにお願いします」
新聞記者がスティール氏に言うと、スティール氏は口を開いて、
「この『スティール・ボール・ラン』は1890年9月25日午前10時、この太平洋『サンディエゴ』のビーチをスタートし、ゴールを『ニューヨーク』とする人類史上初の乗馬による北米大陸横断レースである」
しゃがれた、だが大きな声で言う。
「総距離約6000km。このルートを通り、優勝者には賞金5千万ドルがイーストアンドウエスト銀行の個人口座に支払われる!」
カメラのフラッシュは止み、新聞記者たちは息を呑む。
「二位100万ドル、3位50万ドル、以下10位までやチェックポイント賞尾など細かい各章が決められている。詳しくはあとでルールブックを参照してくれ」
数々の質問が飛び交わされた。
いくつかの質問が終わると、一人の新聞記者が、
「参加を表明した優勝候補の名前を何名か聞かせてください」
と質問をすると、スティール氏は口を開いた。
「まずはワイオミングのカウボーイ、『マウンテン・ティム』。彼は毎年3千頭の牛を引き連れて牧草地4000kmの旅をする。ルックスもイケメンだ。
次にエジプトから来た『ウルムド・アブドゥル』はラクダでの参加! サハラ砂漠を年に3回も横断する!
東洋から来た馬術の名人は『ドット・ハーン』! 彼はかつてユーラシアを征服したモンゴルの遊牧民、『チンギス・ハン』の子孫だ!
そして最後はイギリス下層階級の出身ながら名門貴族に育てられ、競馬界で認められた天才ジョッキー、『ディエゴ・ブランドー』。トラックでの天才がこの長距離で通用するのか……以上だ」
羅列される強者たち。
「距離がすごすぎます……」
そんな中、一人だけ水を差す記者がいた。
「もしゴールまで誰一人たどり着けないという事態が起こったら、レースは大失敗! 出資者たちは怒るだろうし、スポーツ大会全体の信用の失墜にもなる! そのときあなたは、どう責任を取られるつもりですか?」
記者の一人が質問を終えると、
「…………」
スティール氏の顔からどっ、と冷や汗が吹き出た。
下をうつむき、サングラス越しの目はカッと見開かれ、ぶるぶると肩が震えている。
「け…………」
「け……?」
「消 さ れ る か も ……」
その言葉に、記者会場が静まり返った。
しばらくの静寂。
その静寂を打ち破ったのは、
「……なんちゃって」
スティール氏自身だった。
「失敗というのは……」
彼の表情が、険しくなった。
「いいかよく聞けッ!」
声も、さっきまでのしゃがれた老人の声ではなく、ドスの聞いた、若い男のような声に変わっている。
「真の『失敗』とはッ! 開拓の心を忘れ! 困難に挑戦することに無縁の所にいる者どもの事を言うのだッ!」
ガシャリ。シャッターの音が落ちた。
「このレースに失敗なんか存在しないッ! 存在するのは冒険者だけだッ!」
シャッター音が、カメラのフラッシュが、雨のように彼に降り注ぐ。
「この『スティール・ボール・ラン』レースは世界中の誰もが体験したことの無い競技大会となるだろうッ!!」
いくつもの光が、壇上のスティール氏に注ぎ込まれた。
カメラのフラッシュだ。
スティール氏の背後には、大きな北米の地図が張り出されている。
「Mr.スティーブン・スティール。2日後にスタートする『スティール・ル・ラン』についての概要を、何度も説明しておられるでしょうがもう一度、全世界の新聞読者のためにお願いします」
新聞記者がスティール氏に言うと、スティール氏は口を開いて、
「この『スティール・ボール・ラン』は1890年9月25日午前10時、この太平洋『サンディエゴ』のビーチをスタートし、ゴールを『ニューヨーク』とする人類史上初の乗馬による北米大陸横断レースである」
しゃがれた、だが大きな声で言う。
「総距離約6000km。このルートを通り、優勝者には賞金5千万ドルがイーストアンドウエスト銀行の個人口座に支払われる!」
カメラのフラッシュは止み、新聞記者たちは息を呑む。
「二位100万ドル、3位50万ドル、以下10位までやチェックポイント賞尾など細かい各章が決められている。詳しくはあとでルールブックを参照してくれ」
数々の質問が飛び交わされた。
いくつかの質問が終わると、一人の新聞記者が、
「参加を表明した優勝候補の名前を何名か聞かせてください」
と質問をすると、スティール氏は口を開いた。
「まずはワイオミングのカウボーイ、『マウンテン・ティム』。彼は毎年3千頭の牛を引き連れて牧草地4000kmの旅をする。ルックスもイケメンだ。
次にエジプトから来た『ウルムド・アブドゥル』はラクダでの参加! サハラ砂漠を年に3回も横断する!
東洋から来た馬術の名人は『ドット・ハーン』! 彼はかつてユーラシアを征服したモンゴルの遊牧民、『チンギス・ハン』の子孫だ!
そして最後はイギリス下層階級の出身ながら名門貴族に育てられ、競馬界で認められた天才ジョッキー、『ディエゴ・ブランドー』。トラックでの天才がこの長距離で通用するのか……以上だ」
羅列される強者たち。
「距離がすごすぎます……」
そんな中、一人だけ水を差す記者がいた。
「もしゴールまで誰一人たどり着けないという事態が起こったら、レースは大失敗! 出資者たちは怒るだろうし、スポーツ大会全体の信用の失墜にもなる! そのときあなたは、どう責任を取られるつもりですか?」
記者の一人が質問を終えると、
「…………」
スティール氏の顔からどっ、と冷や汗が吹き出た。
下をうつむき、サングラス越しの目はカッと見開かれ、ぶるぶると肩が震えている。
「け…………」
「け……?」
「消 さ れ る か も ……」
その言葉に、記者会場が静まり返った。
しばらくの静寂。
その静寂を打ち破ったのは、
「……なんちゃって」
スティール氏自身だった。
「失敗というのは……」
彼の表情が、険しくなった。
「いいかよく聞けッ!」
声も、さっきまでのしゃがれた老人の声ではなく、ドスの聞いた、若い男のような声に変わっている。
「真の『失敗』とはッ! 開拓の心を忘れ! 困難に挑戦することに無縁の所にいる者どもの事を言うのだッ!」
ガシャリ。シャッターの音が落ちた。
「このレースに失敗なんか存在しないッ! 存在するのは冒険者だけだッ!」
シャッター音が、カメラのフラッシュが、雨のように彼に降り注ぐ。
「この『スティール・ボール・ラン』レースは世界中の誰もが体験したことの無い競技大会となるだろうッ!!」
サンディエゴビーチは、人で埋め尽くされていた。
その様は正に人間弾幕。
「これは……すごいな」
思わず妹紅の口からそんな言葉が漏れ出す。
町からココまで来るのに丸二日かかったが、それでも来る価値はあった。
イワカサから降りると、人の多さを改めて認識した。
妹紅の低い身長だと、余計人数が多く感じる。
肌が白い男、肌が黒い女、アジアから来たと思しき男。
正に人種の坩堝だ。
荷物を盗られないように手に持ち、イワカサを適当なところに繋ぐと、まずは出場登録をするためにあたりを見回した。
「…………受付はどこだ!」
目の前の事実につい日本語で叫んでしまった。
妹紅の低い身長では、人間弾幕に邪魔されて受付の看板を確認することはできなかったのだ。
飛んでみようか……そんな考えが浮かんだ。
だがそんなことすれば何かしらの視線を受ける前にこの人間弾幕にもみくちゃにされてピチュるに違いない。
今の状況でさえグレイズしっぱなしだというのに。
「どうしよう……」
ちょっぴり涙が滲んできた。
千年以上生きているけど、やっぱり涙が出ちゃう。
女の子だもん。
とりあえずこの場から抜け出そうと思い、金庫を抱えたまま体をよじらせると、
「うわあぁぁ~ッ! コモド大トカゲが逃げ出したーッ!」
大きな叫びが響き渡った。
その叫びを皮切りに、人海はいっせいに騒ぎ出し、動き始めた。
「うひゃぁ!」
急な動きに妹紅は巻き込まれ、しりもちをつく。
そんな彼女に、人々の足は容赦なく降り注ぎ、
「痛ッ! 痛てぇ!」
妹紅をボロボロにする。
しばらくして、人の気配が離れると、そこには人並みの大きさを持つトカゲと、妹紅が取り残された。
「……てめぇがこの騒ぎの張本人か……」
妹紅は目の前に鎮座しているコモド大トカゲを見据える。
どうやら、この爬虫類風情がこの騒ぎを巻き起こしたらしい。
「こんがりと焼いて食ったろか……」
金庫を抱えたまま、殺気満々でコモド大トカゲをにらむ妹紅。
風が吹く。
妹紅の白い髪が揺れ、その髪と髪の間から火の粉が生まれる。
その様を見て本能的に危険を察知したコモド大トカゲは、ものすごいスピードで自分が元いた場所へと戻っていく。
「さて、人も少なくなったみたいだし、登録しに行くか」
目の前で起きた出来事に満足した妹紅は、殺気など最初からなかったかのように満足した笑みを浮かべ、登録所へと向かって行く。
登録所へと足を進めた妹紅を出迎えたのは、
ドグオオォ……
「わぁ――――ッ!」
銃声と人の叫びだった。
「ひえぇ……街中で鉄砲なんて物騒だな……」
目を丸くしながらも、金庫をしっかりと抱えた妹紅は、騒ぎの中心へと駆け寄る。
妖術でちょっとばかり体を浮かして、人垣の上から騒ぎの中心をのぞき見る。
そこには、腕を不自然に捻じ曲げて、自分に拳銃を向けて倒れる血まみれの男。
そして腰のホルスターに銃ではなく鉄球を吊り下げているマントの男が立っている。
「決闘か……嫌なもん見ちまったな」
血まみれの男が死んでいるのはどこからどう見ても明らかだった。
妹紅は、舌打ちをして登録所へと歩を進めた。
その様は正に人間弾幕。
「これは……すごいな」
思わず妹紅の口からそんな言葉が漏れ出す。
町からココまで来るのに丸二日かかったが、それでも来る価値はあった。
イワカサから降りると、人の多さを改めて認識した。
妹紅の低い身長だと、余計人数が多く感じる。
肌が白い男、肌が黒い女、アジアから来たと思しき男。
正に人種の坩堝だ。
荷物を盗られないように手に持ち、イワカサを適当なところに繋ぐと、まずは出場登録をするためにあたりを見回した。
「…………受付はどこだ!」
目の前の事実につい日本語で叫んでしまった。
妹紅の低い身長では、人間弾幕に邪魔されて受付の看板を確認することはできなかったのだ。
飛んでみようか……そんな考えが浮かんだ。
だがそんなことすれば何かしらの視線を受ける前にこの人間弾幕にもみくちゃにされてピチュるに違いない。
今の状況でさえグレイズしっぱなしだというのに。
「どうしよう……」
ちょっぴり涙が滲んできた。
千年以上生きているけど、やっぱり涙が出ちゃう。
女の子だもん。
とりあえずこの場から抜け出そうと思い、金庫を抱えたまま体をよじらせると、
「うわあぁぁ~ッ! コモド大トカゲが逃げ出したーッ!」
大きな叫びが響き渡った。
その叫びを皮切りに、人海はいっせいに騒ぎ出し、動き始めた。
「うひゃぁ!」
急な動きに妹紅は巻き込まれ、しりもちをつく。
そんな彼女に、人々の足は容赦なく降り注ぎ、
「痛ッ! 痛てぇ!」
妹紅をボロボロにする。
しばらくして、人の気配が離れると、そこには人並みの大きさを持つトカゲと、妹紅が取り残された。
「……てめぇがこの騒ぎの張本人か……」
妹紅は目の前に鎮座しているコモド大トカゲを見据える。
どうやら、この爬虫類風情がこの騒ぎを巻き起こしたらしい。
「こんがりと焼いて食ったろか……」
金庫を抱えたまま、殺気満々でコモド大トカゲをにらむ妹紅。
風が吹く。
妹紅の白い髪が揺れ、その髪と髪の間から火の粉が生まれる。
その様を見て本能的に危険を察知したコモド大トカゲは、ものすごいスピードで自分が元いた場所へと戻っていく。
「さて、人も少なくなったみたいだし、登録しに行くか」
目の前で起きた出来事に満足した妹紅は、殺気など最初からなかったかのように満足した笑みを浮かべ、登録所へと向かって行く。
登録所へと足を進めた妹紅を出迎えたのは、
ドグオオォ……
「わぁ――――ッ!」
銃声と人の叫びだった。
「ひえぇ……街中で鉄砲なんて物騒だな……」
目を丸くしながらも、金庫をしっかりと抱えた妹紅は、騒ぎの中心へと駆け寄る。
妖術でちょっとばかり体を浮かして、人垣の上から騒ぎの中心をのぞき見る。
そこには、腕を不自然に捻じ曲げて、自分に拳銃を向けて倒れる血まみれの男。
そして腰のホルスターに銃ではなく鉄球を吊り下げているマントの男が立っている。
「決闘か……嫌なもん見ちまったな」
血まみれの男が死んでいるのはどこからどう見ても明らかだった。
妹紅は、舌打ちをして登録所へと歩を進めた。
だが、その一部始終を見ていた車椅子の青年、ジョニィ・ジョースターは違った。
ジョニィの目の前で、二人の男が騒ぐ。
「見たか! 何をしたんだ?」
「腰に持っている鉄球みたいなのを銃を持った奴の腕にブチこんだんだ。それが偶然跳ね返ったはずだ。」
違う。二人の男の話に、ジョニィは心の中で答えた。
ジョニィは見ていた……さっきの男が投げた鉄球がものすごいスピードで回転していたことをッ!
さらにそれが銃を持つ男の腕にくい込んでいたということをッ!
気がついたらジョニィは車椅子を走らせていた。
「ちょっとあんた! その鉄球はなんなんだ?」
車椅子とは思えないスピードを出し、ジョニィは鉄球を持つ謎のアウトローに迫る。
手を伸ばし、
「もう一回見せてくれッ!」
「おい触るな! まだ回転している」
男が警告したときには時すでに遅し
ジョニィの指先が、鉄球に触れた。
次の瞬間、ジョニィは信じられない体験をした。
数瞬、ほんの数瞬だけ……
「おおおおおおおおおおおおおお」
立ち上がった。
立ち上がった瞬間、ジョニィの頭の中にいろいろな光景が走った。
常に栄光と共にあった、ジョッキー時代。
その栄光を一瞬で奪い去った、やけに大きく聞こえた銃声。
暗闇の中、口にねじ込まれる新聞紙。
そして、このサンディエゴビーチの光景。
気がつくと、ジョニイは再び車椅子に座っていた。
心臓が、高鳴る。
足に、そっと触れる。
本当に動いたのか……? ジョニィは、さっきの体験を疑う。
だが、あの【鉄球】に触れた時の、あの奇妙な感触が叫んでいる。
さっきの体験は、本当の事――つまり『真実』だと。
ジョニィは驚きを隠せない表情で、さっきの彼の姿を探すと、彼はすでに馬に乗ってこの場から立ち去ろうとしている所だった。
「待てっ! あんただッ! 知りたいッ! 今オレに何をしたッ!!」
ジョニイはあわてて車椅子を走らせる。
人ごみを掻き分け、口答えしたオッサンを叩き伏せて彼の乗る馬に迫る。
世間はジョニィに諦めろと言った。
言葉で。あるいは無言で。
ジョニィは太陽を背にして聳え立つ彼を見上げる。
やがて、彼は静かに口を開いた。
「死因のトップは何か知ってるか?」
その声に、ジョニィは息を呑む。
「蚊が媒介する伝染病が一位で、馬に蹴られて死ぬ奴がその次だ。お前さんがその順位を入れ替えるつもりか?」
彼の口から紡ぎ出されたのは、辛辣な言葉だった。
「そして妙な期待をするなよ。お前の事情がどんなものか計り知れないが、その椅子から立ち上がったのは偶然に過ぎない」
彼の口から吐き出されたのは、
「単なる肉体の反応で、それ以上のものは何もない」
世間の言葉と同じだった。
つまり――「諦めろ」と。
「やっぱりそれが原因か!」
でもジョニィは諦めない。
「その『鉄の球』! ……回転していた」
目をかっと見開き、
「例えばこのオレにもそれが出来るのか…………!?」
彼に食らいつく。
「もう一度! 礼はする! とにかくもう一ぺ……」
「俺の話はもう済んだ」
ジョニィの話をさえぎって、彼は振り返る。
「…………」
ジョニィは歯を噛み砕かんばかりに歯を食いしばると、
「ならばこっちからもう一度触ってやるぜェェーッ」
自分の肩を掴んだおっさんを踏み台にして彼の元へと跳躍した!
もう少し、あと少しで指先が鉄球に触れそうになる。
すると、ジョニィの指先へ彼の手が伸びた。
彼の手がジョニィの指に触れると、指はありえないくらいにねじれる。
不思議と、痛みや違和感はない。
自然に、まるでそうであるかのようにジョニィの手首は曲がり、気がつくと建物の屋根の先を掴んでいた。
「けなす事言って落ち込ませる前に褒めてやる。なかなか鍛えられた筋肉をしている……上半身はな」
ジョニィに不思議な出来事を起こした張本人は、不敵な笑みを浮かべる。
「そしてはっきり言っておく。この『鉄の回転』は確かに俺の武器だ。だが、おたくさんのような歩けない奴を歩かせる事なんて出来やしない」
「実際こんな事が起こっていてそのままでいられるか!」
ジョニィが涙を浮かべて、
「あばいてやるッ! その『回転』の正体をあばいてやるッ!」
声高々に叫ぶと、さっきまで彼が浮かべていた笑みはやがて……
「馬にも乗れねぇくせに……『スティール・ボール・ラン』はいよいよスタートする」
ジョニィを取り巻く世間と同じような、
「俺はもう大陸を横断して優勝するために……このビーチにはいないんだからな」
嘲笑に変化する。
ジョニィの腕から力が抜けていく。
屋根の端から手が離れ、地面に叩きつけられる。
目の前の彼はすでにジョニィに興味は無いらしく、馬を歩かせてジョニィに背を向けていた。
その姿を見て、ジョニィは確信した。
このビーチにやってきた理由を。
ジョニィの目の前で、二人の男が騒ぐ。
「見たか! 何をしたんだ?」
「腰に持っている鉄球みたいなのを銃を持った奴の腕にブチこんだんだ。それが偶然跳ね返ったはずだ。」
違う。二人の男の話に、ジョニィは心の中で答えた。
ジョニィは見ていた……さっきの男が投げた鉄球がものすごいスピードで回転していたことをッ!
さらにそれが銃を持つ男の腕にくい込んでいたということをッ!
気がついたらジョニィは車椅子を走らせていた。
「ちょっとあんた! その鉄球はなんなんだ?」
車椅子とは思えないスピードを出し、ジョニィは鉄球を持つ謎のアウトローに迫る。
手を伸ばし、
「もう一回見せてくれッ!」
「おい触るな! まだ回転している」
男が警告したときには時すでに遅し
ジョニィの指先が、鉄球に触れた。
次の瞬間、ジョニィは信じられない体験をした。
数瞬、ほんの数瞬だけ……
「おおおおおおおおおおおおおお」
立ち上がった。
立ち上がった瞬間、ジョニィの頭の中にいろいろな光景が走った。
常に栄光と共にあった、ジョッキー時代。
その栄光を一瞬で奪い去った、やけに大きく聞こえた銃声。
暗闇の中、口にねじ込まれる新聞紙。
そして、このサンディエゴビーチの光景。
気がつくと、ジョニイは再び車椅子に座っていた。
心臓が、高鳴る。
足に、そっと触れる。
本当に動いたのか……? ジョニィは、さっきの体験を疑う。
だが、あの【鉄球】に触れた時の、あの奇妙な感触が叫んでいる。
さっきの体験は、本当の事――つまり『真実』だと。
ジョニィは驚きを隠せない表情で、さっきの彼の姿を探すと、彼はすでに馬に乗ってこの場から立ち去ろうとしている所だった。
「待てっ! あんただッ! 知りたいッ! 今オレに何をしたッ!!」
ジョニイはあわてて車椅子を走らせる。
人ごみを掻き分け、口答えしたオッサンを叩き伏せて彼の乗る馬に迫る。
世間はジョニィに諦めろと言った。
言葉で。あるいは無言で。
ジョニィは太陽を背にして聳え立つ彼を見上げる。
やがて、彼は静かに口を開いた。
「死因のトップは何か知ってるか?」
その声に、ジョニィは息を呑む。
「蚊が媒介する伝染病が一位で、馬に蹴られて死ぬ奴がその次だ。お前さんがその順位を入れ替えるつもりか?」
彼の口から紡ぎ出されたのは、辛辣な言葉だった。
「そして妙な期待をするなよ。お前の事情がどんなものか計り知れないが、その椅子から立ち上がったのは偶然に過ぎない」
彼の口から吐き出されたのは、
「単なる肉体の反応で、それ以上のものは何もない」
世間の言葉と同じだった。
つまり――「諦めろ」と。
「やっぱりそれが原因か!」
でもジョニィは諦めない。
「その『鉄の球』! ……回転していた」
目をかっと見開き、
「例えばこのオレにもそれが出来るのか…………!?」
彼に食らいつく。
「もう一度! 礼はする! とにかくもう一ぺ……」
「俺の話はもう済んだ」
ジョニィの話をさえぎって、彼は振り返る。
「…………」
ジョニィは歯を噛み砕かんばかりに歯を食いしばると、
「ならばこっちからもう一度触ってやるぜェェーッ」
自分の肩を掴んだおっさんを踏み台にして彼の元へと跳躍した!
もう少し、あと少しで指先が鉄球に触れそうになる。
すると、ジョニィの指先へ彼の手が伸びた。
彼の手がジョニィの指に触れると、指はありえないくらいにねじれる。
不思議と、痛みや違和感はない。
自然に、まるでそうであるかのようにジョニィの手首は曲がり、気がつくと建物の屋根の先を掴んでいた。
「けなす事言って落ち込ませる前に褒めてやる。なかなか鍛えられた筋肉をしている……上半身はな」
ジョニィに不思議な出来事を起こした張本人は、不敵な笑みを浮かべる。
「そしてはっきり言っておく。この『鉄の回転』は確かに俺の武器だ。だが、おたくさんのような歩けない奴を歩かせる事なんて出来やしない」
「実際こんな事が起こっていてそのままでいられるか!」
ジョニィが涙を浮かべて、
「あばいてやるッ! その『回転』の正体をあばいてやるッ!」
声高々に叫ぶと、さっきまで彼が浮かべていた笑みはやがて……
「馬にも乗れねぇくせに……『スティール・ボール・ラン』はいよいよスタートする」
ジョニィを取り巻く世間と同じような、
「俺はもう大陸を横断して優勝するために……このビーチにはいないんだからな」
嘲笑に変化する。
ジョニィの腕から力が抜けていく。
屋根の端から手が離れ、地面に叩きつけられる。
目の前の彼はすでにジョニィに興味は無いらしく、馬を歩かせてジョニィに背を向けていた。
その姿を見て、ジョニィは確信した。
このビーチにやってきた理由を。
続く
次回予告
魔理沙「魔理沙だぜ☆」
魅魔「あたしゃここにいるよ……」
魔理沙「魅魔様! 今までどこに行ってたんですか!」
魅魔「いや、ね。ちょっと外の世界に行ってきたんだ」
魔理沙「マジかよ! で、外の世界にはどんなものがあるんだ?」
魅魔「エビフライとかエビフライとかエビフライとか」
魔理沙「食べ物ばっかりかよ……」
次回イィィ! 不死鳥は失敗を恐れない第二話『引力』お楽しみにッ!
魔理沙「次回も見てくれないと……」
魅魔「トワイライトスパークだッ!」
魔理沙「ちょっと魅魔様私の台詞盗らないで~!」
魔理沙「魔理沙だぜ☆」
魅魔「あたしゃここにいるよ……」
魔理沙「魅魔様! 今までどこに行ってたんですか!」
魅魔「いや、ね。ちょっと外の世界に行ってきたんだ」
魔理沙「マジかよ! で、外の世界にはどんなものがあるんだ?」
魅魔「エビフライとかエビフライとかエビフライとか」
魔理沙「食べ物ばっかりかよ……」
次回イィィ! 不死鳥は失敗を恐れない第二話『引力』お楽しみにッ!
魔理沙「次回も見てくれないと……」
魅魔「トワイライトスパークだッ!」
魔理沙「ちょっと魅魔様私の台詞盗らないで~!」
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