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東方魔蓮記 第八話

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匿名ユーザー

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―翌日の昼

新聞はその地で起きた出来事を伝えるものだ。
……ただ、この幻想の地ではそうとも限らないらしい。
紫の記憶にあったが、天狗が書く新聞には嘘の出来事が多い。
そして、それは全ての天狗に共通しているようだ。
もちろん俺は新聞記者の取材に答える気はまったくない。目立つのは嫌いだ。

それにしても、いつまでこいつは俺にしつこく質問をしてくるんだ。
一つも答えていないが、うっとおしい。できれば追い払いたい。
……とはいえ、記者相手に攻撃したら良いことが起きないだろうから攻撃するわけにもいかない。
「だーかーらー、私の取材を了承してくださいよ」
「断る。応じる気は一切ない」
ディアボロにしつこく付きまとう天狗、『射命丸 文』。
彼から情報を得ようと何度も取材をしようとするが、全て拒否されている。

文が得ようとしている情報は、『風見幽香が人間に負けた』という噂の真実。
文も最初は信じられなかったが、とにかく事実を確認しようといろいろと調べた。
その結果、ある人物……ディアボロが噂に関係しているという情報を得たのだ。
情報の裏を得るために、なんとしてもディアボロを取材しようとする文。
それに対してディアボロは文をうっとおしく思い、何とかして追い払おうと思っている。
ヘブンズ・ドアーで解決するように見えるが、現在二人がいる場所は人里の中。
沢山の人がいる中で使うわけには行かないのだ。

「いつまで俺に付きまとう気だ……」
「さっきもいいましたが、貴方が取材に応じるまでです」
「……他に新聞の記事にする十分なネタはたくさんあるだろう?」
「貴方が一番いいネタに関する人物だからですよ」
「どんなネタだ?」
文は耳打ちでディアボロに伝える。
それを聞いて内心ディアボロは驚き、そして策を考える。
「(いつのまに昨日の戦いの情報が伝わった!?……もしこれをこいつが記事に書いたら……)」
恐らく幽香が怒るだろう。
その光景を想像して意図せず冷や汗が流れるディアボロ。
文のためにも、幽香の誇りの(あと、彼女の機嫌を損ねない)ためにも、文にその記事を書かせるわけにはいかない。


ディアボロが文の取材要請を幾度となく拒否しているうちに、いつのまにか二人は人里の外に出ていた。
これがディアボロの作戦だと文は気づいていない。
だが、世の中そう都合よく物事が進むわけもなく……
「(このまま誰の目にもつきにくい場所に誘導して……)」「助けてぇぇぇ!」
悲鳴を聞いたディアボロは、聞こえた方向に走っていく。
文も慌てて飛んで追いかける。
……とはいえ、文は幻想郷に生きるものの中ではかなり飛ぶ速度が速い。
ディアボロを追いかけるのにまったく苦労しなかった。

そして、到着したディアボロと文の目の前には……

―日本刀と鞘が落ちていた。

「(……遅かったか)」
ディアボロは落ちていた日本刀と鞘を拾う。
血は付着していない。刃こぼれも錆もない。では、なぜ鞘から抜かれた状態で落ちていたのか。
……恐らく、悲鳴を発したために所持者が連れ去られたのだろう。
日本刀を鞘に収め、周囲を見渡すディアボロ。何者の気配も感じない。
『今しかチャンスはない』と考えたディアボロは文に対してヘブンズ・ドアーを使う。
不意打ちをうけた文は驚きながらそのまま本にされる。
「(なるべくならこれを使いたくないんだがな……勘弁してくれよ。俺だって幽香を怒らせたくない)」
命令を書き終えたディアボロはそのまま木の陰に姿を隠すと、ヘブンズドアーの能力を解除する。


「……あれ?なんで私ここにいるんでしょうか……?」
気がつくと自分が見慣れない場所にいる。
そんな状態になったらほとんどの場合まず戸惑うだろう。
……だが文は『ま、いいか』というような感じでそのまま飛び去っていく。
それを確認したディアボロは一枚のDISCをケースから取り出して入れる。
「アヌビス神……この刀はどうだ?」
『錆も刃こぼれもなし……全然使われていなかったなこりゃ。旦那はどう思うんだい?』
「俺に刃物類の質問をするな。全然わからないから答えようがないだろ」
『そうだった。……だが、意外と良さそうじゃないか。他になさそうだし、これを使うか』

会話を終え、鞘から日本刀を抜くディアボロ。その瞬間、気づく者は気づくだろう。

―ディアボロの放つ雰囲気が一瞬で変わったことに


「それにしても、こうやって俺が『表側』に出るのは久しぶりだな」
『さすがのお前でも、久しぶりで感覚が鈍っているんじゃないのか?』
「それはないぜ旦那。あのときからから感覚は鈍ってはいない」
その言葉の直後、目の前にあった木を斬るアヌビス神。
だが『日本刀は折れず』、『刃こぼれもせず』、『木も斬れていない』。
……いや、『木の皮だけ』が斬れていた。

アヌビス神の能力の一つ。『斬るもの』と『斬らないもの』を分けてしまえる力。
それは硬い装甲をも無力にし、急所を斬れる確率を大幅に上げる。

『さすがだな……』
「だろ?」
そういってアヌビス神は日本刀を鞘に収める。
『そういえば旦那、この刀どこから?』
「落ちていた。恐らく、持ち主は……」
『……』
心中を察し、沈黙するアヌビス神。
アヌビス神のDISCを取り出してケースに入れると、ディアボロは人里に向かって歩き始めた。

命蓮寺に帰ってきたディアボロを、ぬえが迎える。
「おかえりー……あれ?その刀は?」
「……・・」
ディアボロの気持ちを大体理解したぬえも、それ以上は何も言わない。
亀の中に入ったディアボロは、鞘に収めた日本刀を部屋の隅に立てかける。
「(……………………・・)」
ソファーに座った彼は、そのまま考え込んでしまった。





―その日の夜

ディアボロは夜の人里を歩いていた。……昼に拾った日本刀を持って。
昼のときと雰囲気が違うのを感じながら歩いていると、子供が3人慌てているのを見つけた。
「どうしよう……どうしよう……」
「お前があいつのこと臆病者って言うからだろ!あいつが意地っ張りなの知ってて!」
「え!?僕のせい!?」
「言い合っている場合じゃないよ!とにかく慧音先生に……」
「そうしたら後であいつが先生に頭突きされるだろ!それに先生を心配させるわけには……」

「なら、俺が行こうか?」
ディアボロが子供達の会話に割って入る。
「だ……誰?」
「……この人、あのときの……」
子供の一人はディアボロを知っているような反応をする。
『この人しかない』と判断したのか、ディアボロにお願いする。
「あいつは迷いの竹林に行ったんだ……『僕は臆病者じゃない!』って言って……」
それを聞いて、「意地っ張りな奴だな……」と呟くディアボロ。
「竹林……だな。ここで待っていろ。」
竹林へ向かおうとして、ディアボロは振り返る。
「後、慧音に会ったら正直にこのことを伝えろ」
そう言って、ディアボロは走って竹林に行った。

迷いの竹林。
簡単に言ってしまえば『竹林』の名の通り沢山の竹が生えている。
しかしそのために迷いやすく、竹林が広いのもあって一度迷うと脱出は困難である。
そんなところで効率よく誰かを見つけるならば……
「(これしかあるまい)」
一枚のDISCをケースから取り出して入れるディアボロ。すぐにスタンドを出す。

『エアロスミス』は、戦闘機のスタンド。
相手の二酸化炭素をレーダーに映し出し、機関銃と投下する爆弾で相手を攻撃する。
もしエアロスミスの攻撃を受けると、スタンド攻撃による硝煙反応で探知されるようになってしまう。

周囲は無数の竹。
植物は夜は光合成をしないために二酸化炭素を出すが、それは人間や妖怪のものに比べてかなり弱い。
そのため、レーダーには映らないだろう。もしもレーダーに映るものがあるとすれば……
「(とにかくレーダーの反応を確認するしかないか……?)」
そう思いながら、アヌビス神のDISCをケースから取り出すディアボロ。すぐにDISCを入れて、刀を抜く。
『子供を見つけ出して人里まで護送するんだ。妖怪が襲ってきたら、殺さない程度に斬っていい』
「わかった。不意打ちには刃物のほうがいいのは旦那もわかっているみたいだな」
その会話の直後に妖怪が一体飛びかかってくるが、アヌビス神は躊躇もなく斬る。
しかし血は出ない。『骨だけを斬った』のだ。痛みと神経の切断によって妖怪がバランスを崩して転倒している間に先に進む。

「それにしても……エアロスミスのレーダー反応だけを頼りに探すのは難しいぜ……」
『そうは言ってられない……エアロスミス無しじゃ探すことは無理だ』
「ハァ……ならしょうがないや」
ため息をついて走りながら、レーダー反応を確認するアヌビス神。
子供は大人に比べて呼吸は少し弱いが、もし子供が走っていたとすれば、レーダーによる判断は難しくなる。
「さて、ここはどっちに行けばいいんだか……」
しかもレーダー反応を追いかけているうちに、道に迷ってしまった。
『とりあえずレーダー反応のところへむかっていくしかないだろう』
「(それは……埒(らち)があかないんじゃ……)」
心の中で愚痴を言いながらも、それしか手段がないためにレーダーが反応している場所に向かうアヌビス神。
しかし、走り続けたためにそろそろアヌビス神が息切れしてきた。立ち止まって呼吸を整えだすアヌビス神。
「ハァ……ハァ……」
『……交代だ』
そう言われて日本刀を鞘に収めるアヌビス神。
「ハァ……ハァ……(交代したらいきなり息切れの感覚がしてきたな……)」
呼吸を整えて、歩き出すディアボロ。
「(子供か……もし呼吸に乱れがなかったら、反応が少し弱いはずだ)」
レーダーを確認すると、反応が集中している箇所に気がつく。
「(……?)」
レーダーの反応した場所へ、ディアボロは走って向かう。


「あ……ああ……あああ……(助けて……お父さん……お母さん……慧音先生……)」
少年は五体の妖怪に取り囲まれていた。逃げ場はない。
妖怪に普通の人間が策も無しに勝てるはずがない。それが子供ならなおさらだ。
怯える少年を襲おうとする妖怪達。それを見て、エアロスミスの機銃で攻撃するディアボロ。
突如自分の身体を襲った苦痛に妖怪たちは動揺し、周囲を見渡す。
「そこまでにしてもらおうか?」
ディアボロが少年と妖怪の間に割って入る。それに対して、妖怪達は鼻で笑う。
人間一人増えたってどうってことはない、と思っているようだ。
「その反応……勝てるという絶対的な自信があってそうしたのか?」
そう言って鞘から日本刀を抜くディアボロ。
その瞬間、変化したディアボロの雰囲気に、妖怪達は一歩後ろに下がる。
「もしそうだとしたら……後悔するぜ?」
日本刀を妖怪達に向けて挑発するアヌビス神。すぐに挑発に乗り、襲ってくる妖怪達。

まず一体目の妖怪のパンチを右に避けて、腕の骨を斬る。
続いて二体目の妖怪の蹴りをキングクリムゾンで掴み、腰の骨を斬る。
三体目は攻撃される前に顔をキングクリムゾンで殴る。
四体目は日本刀を腹部に突き刺し、そのまま右に斬る。
五体目は殴ろうとしてきたところをキングクリムゾンで首を絞めて気絶させる。

これはかなわないと判断したのだろうか。
四体目の妖怪と三体目の妖怪が、他の三体の妖怪をつれて逃げていった。

「大丈夫か?」
日本刀を鞘に収め、少年に話しかけるアヌビス神。
かつて刀に憑依していたときはこんなことできなかったな、と心の中で思う。
「う……うん」
立ち上がろうとするも、うまく立てない。
腰が抜けていると判断したアヌビス神は、少年の右手を取るとザ・フールのDISCをケースから取り出す。
『旦那、交代』
『わかった。後はここを出るだけだな』
ディアボロはアヌビス神のDISCを取り出してケースに入れ、手に持っていたDISCを入れる。
「ここを出るぞ。……何があっても慌てるな」
その言葉の直後、ディアボロが少年の右手を握り、同時に二人の身体が宙に浮き始める。
「え……・え?」
少年が驚いているうちに、どんどん二人の身体が地面から離れていく。
やがて竹林より上まで到達した。
「こんなに広くて迷いやすいところも、その上に到達してしまえば意味はない。」
「これでもう帰り道は迷わなくてすむ。……脱出するぞ」
ディアボロと少年は、人里に向かって進み始めた。



無事人里に到着したディアボロと少年。そこには、先ほど慌てていた子供達と慧音が待っていた。
地上に降りると、慧音が少年に近寄る。
「まったく、あれほど夜に人里の外に行くなといっているのに……」
「ごめんなさい……」
謝る少年に対し、謎の笑みを浮かべて少年の肩を掴む慧音。その行動にビクッとする少年。
エピタフで慧音が何をするのかわかったディアボロは、キングクリムゾンを慧音と少年の間に割って入らせる。
慧音が頭を振りかぶった。それを見た少年は、震えがとまらなくなる。

『頭突き』……要は自分の頭を相手にぶつけるのだが、慧音の頭突きは他の者に比べてかなり痛いらしい。
宿題を忘れた寺子屋の生徒のおしおきの手段としても使われてるようだ。

頭を振り下ろす慧音。目をつぶる少年と子供達。
だが、頭突きの音は聞こえない。少年には痛みもない。
不思議に思った少年が目を開けて見ると、頭突きが途中で止まっていた。
だが、慧音自身は何が起こったのかわからなさそうな表情をしていた。
「あ……あれ……・?」
少年が目の前の出来事を理解する前に、慧音がディアボロを見る。
この場で『能力』を持つ者は二人。一人は慧音。もう一人はディアボロ。
慧音が能力の影響をこうして受けたのなら、彼女に能力を使ったのはディアボロしかいない。
「……なんで止めた?」
「……そこまでしなくていいだろう」
その答えにため息をつく慧音。
「……今回は、特別に見逃しておこう」
慧音のその言葉を聞き、頭を下げる少年。
それを見たディアボロは、命蓮寺に帰るためにその場から去っていった。

「(……昔の俺はこんなことしなかっただろうな)」
ふと思い、一瞬だけ微笑むディアボロ。
「(歳月は人を変える……か)」
ふと、かつて自分と対峙した男を思い出した。自分が『あの場所』へと誘われた間接的な原因となった人物。
そんな男も、かつては便器をなめさせられたり、上っていたはずの階段を下りていたり……・

そんな男も、十二年の歳月を経て変わった。
かつての『軽さ』はまったくなく、冷静沈着な性格に変化していた。
そして、どこから手に入れたのかわからない『矢』を、自分を裏切ったものたちに託した。
それがあの『地獄』を、あの場所に辿り着く『幸運』を、この幻想の地に辿り着く『運命』を、この自分にもたらすとは誰も考えなかっただろう。

だが、絶頂の日々を捨てたことに後悔はない。
この幻想郷に俺の過去は存在しない。もう、過去に悩まされることはない。

……この幻想の地で生きていくのも、いいかもしれないな……

そう思えるほど、ディアボロの心は変わりつつあった。

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