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不死鳥は失敗を恐れない 第二話

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shinatuki

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不死鳥は失敗を恐れない 第二話『引力』


 妹紅が目を覚ましたのは、男二人の笑い声だった。
「チッ……野郎二人の笑い声で目ェ覚ますなんざ最悪の朝だな」
 毒づきながら、自分の朝の快眠を邪魔した奴をぶちのめそうとテントから出ると、
「マジかよ……」
 思わず顔をしかめた。
 さわやかな朝には似つかわしくない光景が広げられていた。
 横転した車椅子。
 柵の中で暴れる馬。
 馬に引きずられる青年――ジョニィ。
 それを傍観する小男と、つり目の男。
 柵の一部は派手に壊れ、ジョニィの足を木片が貫いている。
「おい、何があった! 言ってみろ!」
 妹紅は慌てて、事を傍観している小男の肩をつかむ。
「あいつ、昨日の晩からああやっているんだ。昔凄腕のジョッキーだったらしいが、足が動かなくなってジョッキーを辞めざるを得なかったらしい……」
 小男は妹紅の持つ『凄み』に気圧され、説明を始める。
「さっき来た奴の話によれば、あれに乗れたら人間を超えるとか言ってたけど、無理な話だ!」
「じゃあ何故止めさせないッ! 命にかかわるぞ!」
「馬に乗るのを止めさせようとすると、火をつけて自殺するとか言ってやがんだ! あいつマジでブチギレてんだよ!」
 小男の理由にならない理由を聞いた妹紅は、舌打ちすると、柵を飛び越えてジョニィへと駆け寄る。
「おい、何やってる! 怪我してんじゃねぇか!」
「俺に近づくな! これ以上近づいてみろ! 火ィつけて死んでやるウゥゥー!」
 ジョニィの訴えを聞いた妹紅は――
「ああわかったよ。じゃあ死ぬか?」
 自分の手のひらから炎を灯す。
 ジョニィの顔が、青ざめる。
 目の前の少女は、自分を本気で殺そうとしていることが、ひしひしと伝わってくるのを感じた。
「何も馬に乗り込んだりしようとするのを止めろと言ってるんじゃねぇよ。ただ、怪我しているから少し落ち着いたらどうだって言ってるだけじゃないか」
 妹紅は手のひらの炎を消し、すっかりおとなしくなったジョニィに歩み寄る。
「どれ、木が突き刺さっている足だけでも何とかしてやるかね」
 そう言って、妹紅はジョニィの足に触れる。
 木片をしっかりと掴み、それを引き抜くと、血が勢いよく噴き出す。
 足の感覚が無いジョニィにとっては、痛みなんて毛ほども感じなかったが、それでも自分の足から血が噴き出す光景には顔をしかめる。
「次に殺菌と血止めだ。本当なら薬があればいいんだが、生憎無いんでな」
 妹紅は再び手に炎を灯すと、
「手荒にやるぞ」
 それを思いっきり傷口に押し付ける。
「……ぁ……ああ……ぁ!!」
 目の前で繰り広げられる無茶苦茶な光景に、ジョニィも、傍観している男二人もあんぐりと口をあける。
 無理もない。人肉が焼ける光景なんて一生で見ない人の方が多いのだから。
「よし、こんなもんか」
 これでよし、と思った妹紅は立ち上がる。
 さっきまで血をダクダクと流していたジョニィの足には、布が巻かれている。
「あと、一つ忠告。無理やり馬にしがみ付くんじゃなくて、馬の方から乗らせるように仕向けること。私の国では足が不自由な奴がそうやって馬に乗っていた」
 妹紅は壊れた柵を蹴飛ばし、
「私の名前は藤原妹紅。もしアンタが馬に乗って、ファーストステージをクリアしたら、最初のチェックポイントでまた会おう」
 ものすごい速さで走り去った。
「藤原……妹紅……」
 ジョニィはその名を強く胸に刻むと、
「オレは、あきらめねぇぞ……」
 荒ぶる馬へと這いずっていった。



 歓声鳴り止まぬサンディエゴビーチに、
“全参加者のみなさん”
 拡声器で大きくなった声が響いた。
“各自の番号はスターティング・グリッドの番号でもあります。公正をきすため、10時のスタート2分前までに各自の番号のスターティング・グリッド内にお並びください”
「私の番号は……っと、ここだな」
 アナウンスの声に従い、妹紅は器用に馬を動かしてスターティング・グリッドに着く。
「それにしても凄い人数だな。端っこが見えない」
 突然、歓声を切り裂いてファンファーレが鳴る。
「何だ?」
 妹紅は思わずファンファーレの鳴ってきた方向を向くと、
「あっ、かわいい……」
 お立ち台の上に立つ主催者スティール氏の足元を、四頭の手乗り馬が行進していた。
 手乗り馬が立ち去ると、スティール氏は静かに右手を上げて、振り下ろした。
 それと同時に彼の後ろに大きな氷が現れる。
 透明で、美しく、そして巨大な氷の中心には、トロフィーが埋め込まれている。
「この氷は……」
 スティール氏が口を開いた。
「どこの国にも属しない南極という場所から運ばれてきました」
 歓声が、止まった。
「学者によると3億年前に凍ったものだそうであります。この氷の中に穴を開け、優勝者が手にするトロフィーを埋め込みました」
 スティール氏の声が、青空に吸い込まれていく。
「これを『スティール・ボール・ラン』の『聖氷』とし……!! そしてこの氷を溶かすのは我々の熱き思いだッ!」
 場の空気が、まるで『聖氷』の持つ冷気に当てられたかのように静まる。
「あなた方がゴールに到着する時を計測して溶けるように列車でニューヨークに運ばれますッ! 健闘と前進のシンボルッ! そして無事を祈るッ」
 スティール氏は一息ついてから、
「開会の挨拶はこんなもんで――あぁ~イイッすかねェ~~と」
 とびっきり寒いギャグをかました。
 場の空気が、凍りついた。
 スティール氏の後ろに立つルーシーがぱちぱちと手を叩くと、
「「「ウオオオオオ――z___ッ」」」
 空気は一気に沸騰、拍手と、歓声と、叫びが舞い上がり、
「サンディエゴ・ニューヨーク!」
「サンディエゴ・ニューヨーク!」
「サンディエゴ・ニューヨーク!」
 いよいよ始まるのだと妹紅は実感する。
“優勝候補たちが入って来たァーッ!”
 アナウンスが歓声に負けじと響き、
“カウボーイのマウンテン・ティムがいるッ!”
 テンガロンハットを被ったイケメンが入場し、
“イギリス競馬界の貴公子、ディエゴ・ブランドーの姿も見えますッ!”
 気品漂う金髪の青年が入場、
“サハラ流浪民のウルムド・アブドゥルもラクダで入って来た!”
 褐色の肌のブ男(『ヴ男』では無い。これ重要)もやってきて、
“モンゴルから来たドット・ハーンもいるッ!”
 オリエンタルな顔つきの男が前を見据える。
 場のテンションは最高峰。
 今にも爆発しそうだ。
 びりびりとした緊張を感じながら、妹紅は手綱を握り締めた。


 胸が、高鳴る。
「おい、見ろよ。やっぱりイッちゃってたよ」
「みっともねー」
 隣から、さっきの小男とつり目の声が聞こえてきた。
 妹紅は二人の指差す先を見る。
 そこには……
「…………ちくしょぉ」
 ぼろ雑巾のような姿で、馬に舌でなめられているジョニィの姿があった。
 彼が睨むのは、隣で馬に乗っている鉄球男。
「お前の『鉄球』の正体……あきらめねーぞ」
 ジョニィと、
「絶対に、絶対に突き止めてやる……」
 彼の視線が、
「そう、『回転』なんだ……今はついていけなくても……レースが終わってからでも……絶対に……いつか……」
 合う。
「その馬の選択は、正しい」
 鉄球男が、そっと口を開いた。
 妹紅は口を出すのも忘れて、それを見ていた。
「老いた馬には経験がある……このレースような場合、足を挫いたりするような危険な土地に、勢いだけで突っ込んで行ったりしない。体力だけの若い馬のようには……」
 その言葉が、ジョニィではなく妹紅に突き刺さった。
「いっけね……私の馬ってバリバリ若いじゃん……」
 そう、妹紅の愛馬イワカサは2歳だった。
「おたくに興味が沸いたから、ヒントを喋ってやろう」
 鉄球男の瞳が、ジョニィの姿を映す。
 その瞳の色に、ジョニィは吸い込まれ、落ちていきそうな感覚を覚えた。
「おたくはすでに答えを掴んでいる」
 鉄球男の手が、腰元にある鉄球をさする。 
「馬に乗ろうとする意思を持ちながら、何故それを使わない?」
「…………え?」
 ジョニィは、呆然とした。
「答え……? 答えって、何だ?」
 誰にも聞こえないような小声で、ジョニィは自らだけに言い聞かせるように呟く。
「ニョホ」
 ジョニィの目の前で笑う鉄球男。
“いよいよスタート2分前! 参加者総数3654名! 各馬列のグリッド内に入っていきますッ! 列の向こう側が見えません!!」
 鉄球男の総金歯が太陽の光を反射し、まぶしく輝く。
 その瞬間、ジョニィは悟った。
“ビーチ沿いに全員が並びますッ! なんという圧倒的な光景でしょう!”
 大きなアナウンスに、妹紅の薄い胸から心臓が飛び出しそうになった。
“まるで一つの都市ですッ! これが動き出すのですッ! 大地の彼方に……”
 無性に叫びたくなってくる。
“それに続く偏西風の彼方に…………!”
 ぐい、と歯を食いしばり、
“世紀の事件がいよいよスタートしますッ!”
「もう一度……もう一度オレの顔を……なめてくれ、オレの馬」
 ジョニィは老馬に手を伸ばす。
 馬の頭が、降りてくる。
 馬の首に手をかけて、ジョニィは確信した。『回転』だ。
 全ての希望は『回転』の動きにある!
「もっと……もっと知りたい……もっと『鉄球』を……」
 無意識的に、彼は呟いていた。
 自然に、体が持ち上がり、馬の鞍に収まる。
「また……走れる……」
 手綱を握り締め、前を見据えた。
 次の瞬間、
「ウォオオオォォォォ!」
 獣じみた咆哮が、妹紅とジョニィを襲った。
 騎手たちのときの声だ。
“『スティール・ボール・ラン』スタート時刻です!”
 アナウンスと共に、馬を走らせた。
 一斉に、馬の列が崩れ、轟音を上げて砂煙を上げる。
 花火の音なんて聞こえない。
 アナウンスの声なんざ耳に入らない。
 もう馬の足音しか聞こえない。
 全てを走ることに傾かせている妹紅の前に、一頭の馬が躍り出た。
 さっきのアウトローだ。
「あの鉄球男か……良いだろう。潰してやる」
 妹紅は飛びっきり凶悪な笑みを浮かべると、イワカサを加速させた。

 加速する妹紅の姿を見て、ジョニィは目を見開いた。
 まだ温存するつもりのジョニィはアナウンスもしっかりと聞いていた。
 目の前を走るアウトローの名前はジャイロ・ツェペリ。
 自分の足を再び動かすための『何か』を持っっている男。
 しばらくは事を静観していようと思った矢先、
「おおっと!」
 隣の馬がよれた。
「二人が飛び出したせいで他の馬たちも興奮し始めている!」
 ジョニィは、天性の馬術でよれてきた馬をかわす。どうやら彼の腕は鈍っていないようだ。
 彼の背後で、馬が二頭、転倒した。
 更に三頭、四頭と連鎖的に馬が転倒していく。
「このままだとマズイな……馬の転倒に巻き込まれる」
 そう思って前に出ようとした矢先、彼の横を白い毛並みの馬が通り越した。
「彼は……!」
 白い毛並みの馬、風にたなびく金色の髪、そして自信に満ち溢れた顔つき。
「ディエゴ・ブランドー!」
 その姿はまさしくイギリス競馬界の貴公子ことディエゴ・ブランドーだった。
 更に、ディエゴを追うものがもう一人。
 ジャイロと妹紅の左後方から迫ってくる巨体。
 ラクダに乗った優勝候補、ウルムド・アブドゥルだ。
 妹紅はその巨体に気圧され、ジャイロから離れる。
 ラクダが、ジャイロの馬に体当たりを仕掛けた。
 体当たり。たったそれだけの行為でジャイロは大きく姿勢を崩して減速する。
 妹紅が離れていなかったら今頃ジャイロともつれ合ってリタイアだっただろう。
 ラクダの走り。
 スローモーションに見えるが、足の長さは馬の約2倍。
 更に独特の走り方と広い歩幅で馬と張り合うスピードは十分にある。
 しかも体重は馬の約1.5倍の800キロクラス。
「コイツ、近づく者を全て押しつぶしてゴールを狙うつもりだッ!」
 驚きの表情を隠せないジョニィの眼前で、アブドゥルがもう一度ジャイロに体当たりを仕掛けた。
 体制を崩したジャイロを、妹紅とディエゴの二人は見逃さない。
 減速したジャイロを差すべく猛加速。ジャイロを抜きにかかる。
 そんな二人を横目にジャイロは、鉄球を取り出した。
 鉄球は、ジャイロの手元で回転を始める。
 ひとりでに飛び出した鉄球は、木立の方向へと飛んでいく。
 何をするつもりだろうか。ジョニィは疑問符を頭上に浮かべたが、ジョニィが考えてくれるのを待つほどレースは遅くなかった。
 アブドゥル、ジャイロ、妹紅、ディエゴの四人は木立へと向かう。
「まずいーッ」
 ジョニィは自分の事を忘れて目の前の烈戦に見入る。
「あのままじゃ木の間に挟みこまれるぞ!」
 思わず叫んでしまう。
 三度目の体当たりが、ジャイロに降りかかる。
 ジャイロは木とラクダに挟まれ、つんのめり、致命的なまでバランスを崩してしまう。
「誰かが『タイム・ボーナス』を手にするというのなら、それはこのアブドゥルだ。気の毒だが――最後の一撃だ」
 アブドゥルがジャイロにとどめを刺すべくジャイロに再び迫る。
「あ――」
 ジョニィが口をあんぐりと空けた瞬間、
“サボテンですッ! アブドゥルが群生サボテンに突っ込んでいるうーッ!”
 耳にアナウンスの声が突き刺さった。
 木立の陰にあったサボテンにアブドゥルは勢い良く突っ込み、彼のラクダに針が何百本といわんばかりに刺さる。
 ついにラクダは転倒し、アブドゥルは白目をむいて倒れた。
 ジャイロは体勢を立て直し、走り抜ける。
「なんてこった……優勝候補がこんなにもあっけなく……」
 横で一部始終を見ていた妹紅は、戦慄を覚えた。
「…………」
 妹紅にぴったりとマークをしているディエゴは涼しい表情で馬を走らせ、
「今のは……『鉄球』だ……」
 後ろから見ていたジョニィは、真実を知った。
 鉄球の回転で岩を削り、砂埃を出してサボテンの像を浮き出させ、そこにアブドゥルを誘い込んだことを。
 そしてそのサボテンの位置はスイカの中身を叩いて知るように、岩の陰に送り込んだ鉄球の振動で位置を探したに違いない。
 ジョニィの頭から流れている血は、乾き始めてぱりぱりとはがれ始める。
 ジョニィの前を走るジャイロの口が、動いた。
「もらえる物なら、病気以外なら何でも頂くぜ」
 誰にも聞こえない筈なのに、彼は呟き、
「……タイムボーナスは特にな~」 
 歯を見せてにやける。
 にやけて見えた金歯が、きらりと輝いた。



 次回予告
魔理沙「魔理沙だぜ☆」
除倫「除倫よ。それにしても馬で大陸横断って、無茶苦茶ね。やれやれだわ」
魔理沙「まったくだぜ。そういえば、このレースって、優勝した奴誰なんだ?」
除倫「アタシに聞いてどうするのよ。知るわけ無いじゃない。120年も昔のことなんだから」
魔理沙「アンタの国だろ? それくらい知っていると思ったんだけどな」
除倫「生憎だけどアタシ現代っ子なの。他をあたってちょうだい」
魔理沙「なるほど。誰がいいかな?」
除倫「スピードワゴンさん辺りじゃない? あの大会のスポンサーやってたってアンタの持ってきた新聞に書かれていることだし」
 次回ッ! 不死鳥は失敗を恐れない第三話『勝利への試練その1【馬のクセ】』お楽しみにッ!
魔理沙「次回も見てくれないと……」
除倫「悪の力をもって正義を行います!」
魔理沙「……それ何かおかしくね?」

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