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~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第十三話

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匿名ユーザー

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――やって………しまった………
吉影は、茫然と立ち尽くし、呟いた。彼の虚ろな瞳が見下ろす者は、足下に無造作に転がっていて、ピクリとも動かない。夜の人里の灯りが、顔に差す。閉じられた瞳は開くことはなく、僅かに開いた艶やかな唇は一切の呼吸をしていなかった。
――『―ヤツだ――!―ヤツが殺ったんだ―!!―』――
怒号、悲鳴、絶叫。混乱と喧騒の只中、彼と『彼女』の周りだけ、空間が隔離されたかのような冷たい静寂に包まれていた。
―――ついに――やってしまった――――
里の住人の悲鳴、近づいて来る自警団の足音。混乱の只中にいるはずの吉影の耳には、それらが他人事のようにとても遠くで聞こえているように感じられた。
吉影は、やつれ衰弱した顔に絶望の色を浮かべていた。落ち窪んだ双眸で足下に倒れている『彼女』を見下ろす。僅かに蒼みがかった長く美しい銀髪、蒼い服。上白沢慧音の躰は、微動だにしない。その胸は呼吸で上下することはなく、鼓動すら刻まない。
―――終わりだ………なにもかも……
爪を噛み締める顎に力がはいり、爪に血が滲む。
もはや、後には引けない。かがみこんだ吉影の傍らに、猫とドクロを混ぜ合わせたような凶悪な像、【キラークイーン】が現れ……
『彼女』の喉元に向けて、手を振り下ろした――――――


――――――――――――――――――――――――
――――「くそッ……」
吉影は悪態をつきながら森の中を人里に向かって歩いていた。
「あれほど『危険な』目に遭ったというのに、『賞金』を手に入れることが出来なかった…!なんということだ…」
吉影の身体から、おびただしい量の殺気が放出される。爛々と瞳を輝かせて彼のことを凝視していた妖獣共が縮み上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「そして……あの売女天狗に、またしても嵌められてしまった…奴の自宅には親父が四六時中張り込みしているから、恐らくは心配無いだろうが…」
鬱蒼とした森の暗がりの中、憎悪の焔を燃やす吉影。
彼はフランとの決闘が終わり、妖精メイド達に連れられて大図書館を後にしたのち、別の地下室に誘導され、医療箱と共に放り出された。そこからは妖精メイドの監視の中、己の手で体内に残った破片の摘出、傷口の消毒、止血、包帯やギプス…と、全ての治療を行ったのだ。そして、あまりの扱いと居心地の悪さにすぐさま紅魔館を去り、現在に至る、というわけである。
「…くそッ……!」
痛みと憤りに顔を歪め、肩の傷に手をやる。
「奴らの渡してきた薬を塗った場所が、まだ痛む…あのメイド…ッ!さては妖怪用の物と中身を入れ替えたな…」
診療所で聞いた話だと、永琳のつくる薬には大きく分けて人間用と妖怪用があり、どちらも自分に合わない物を使うと有害らしい。レミリアが自ら手を下すのは『契約』によって禁じられているため、十六夜咲夜が時止め中に容器の中身を『人間用』と『妖怪用』で入れ替え、妖精メイドに持たせたのだろう。吉影はすぐに渡された傷薬の使用を止め、持参した同じ容器の傷薬を使った。勿論効果はあったが、渡された傷薬を塗った場所の痛みはなかなか癒えることはない。
「……状況はかなり悪くなってしまった…これ以上わたしの『能力』を知る者が増えることは、なんとしても避けなければならない…」
吉影は胸の中で渦巻く怒りを抑え、思考を始める。
「…だが…あの天狗…そして妹と親友の復讐に燃える吸血鬼…
わたしの『秘密』を護ることはかなり困難になってしまった…ましてやあの守銭奴巫女の要求した額を集めるまでずっと『秘密』にしておくなど不可能に近い…どうする?いっそ、慧音に言ったように自分から告白するか…?」
ふと顔を上げると、前方の視界が開け、森を抜けた。人里のある盆地だ。
「まあいい…とにかく天狗は親父が押さえてくれているのだから、まだ時間は残されている…今日一日考えて、結論を出そう。焦りは禁物だ…」


―――――――――――――――――――――――――
「―――――来たわね……遂に…」
門をくぐり、人里に入って行く吉影を見届ける、二つの瞳。吉影から死角になっている樹の枝に、何の前触れも無くその人影は現れた。
「フフフ…かなり費用はかかったけど…山伏天狗の印刷所に委託したのは正解だったわ…奴もまさか、既に『発行済み』だとは夢にも思っていないようね…」
歓喜に身震いし、爛々と両の目を輝かせ、射命丸はほくそ笑む。
彼女の背後に居並ぶのは、鴉の大群。嘴に新聞をくわえ、主の命令を待ち静かに佇むその姿は、軍隊のそれを彷彿とさせた。
「行きなさいッ!」
射命丸が振り下ろした手のひらと共に、百羽近くの鴉の群集団がギャアギャアと喚きながら、我先に人里へと向かって行った。
「…ククククク……『あえて』よ…貴方を人里まで無事に帰したのは…貴方の『絶望の表情』を見るためよ…」
射命丸が団扇で口元を隠し、口角を吊り上げて笑う。その面持ちはどんな悪魔よりも悪魔らしい、邪悪な色に染まっていた。
「さあ…外来人のクセにこの私を舐め…私の家を焼き払った『罪』…今償ってもらうわ…
徹底的に『絶望』を味わいなさい…フフフ…
フフフフフ……
アハハハハハハハハ……――――――――――」


―――――――――――――――――――――――――
「……むっ…?」
門をくぐり、通りを寺子屋に向かって歩いていた吉影は、頭上の喧騒に顔を上げた。
「鴉…?しかもこの数…
、…ッ!?」
ハッと息を呑む。里の上空をけたたましく喚きながら飛び去る鴉共が、紙の束のような物を投げ落としたからだ。
「まさか…そんな馬鹿な…!」
吉影の額に汗が浮かぶ。落ちてきた紙束を掴み、震える手でそれを持った。
「…ッ!!」
吉影の予感は、的中した。『文々。新聞』と書かれたそれを握る吉影の手が、ガクガクと震える。
顔を上げると、『文々。新聞』が鴉の群れによって里中にばらまかれていく。通りを歩いていた人里の人間達が何事かと空を見上げ、通りに落ちている新聞に目を向けて手に取っていった。
吉影は急ぎ裏路地に逃れ、人目の無い場所で『文々。新聞』を広げる。
ドクン…ドクン…
一面に踊る、『外来人』『真実』『凶悪能力』『妖怪殺し』の文字。
腹を吹き飛ばされたルーミアに吉影が小石を撃ち込んでいる写真。
フランに血を与えている写真の上で、『紅魔館の悪魔の妹を撃破!!契約成立か!?』と、文字が声高に主張している。
「な…なんだ…!この記事は…!?」
吉影の手がワナワナと震える。
新聞の内容はどれも事実を歪曲し、吉影の『凶悪性』を誇張した物だった。
「『【キラークイーン】』ッ!!」
【キラークイーン】の指が新聞に触れ、灰も残さず爆破した。
「ハァ…ッ…ハア……」
塀に背をつき、くずおれる。頭の中で脈が響く。
「……………なんということだ………あの売女…!」
吉影は沸き上がってくる怒りと不安を堪え、急ぎ寺子屋に向かう。



裏路地を通り、寺子屋の見える位置まで来ると、【キラークイーン】で角から覗いた。
「…遅かったか…ッ……」
寺子屋の前には、黒山の人だかりができていた。
「どういうことだ!あの外来人が犯罪者だっただと!?」
「俺の子供をこんなヤツに任せてたっていうのかッ!?」
「知らなかったのか?知ってて黙っていたのか!?はっきりしやがれッ!!」
人里の男達ががなりたて、慧音に詰め寄る。
「何の話だ!?今は授業中だぞ!」
慧音の声にも耳を貸そうとしない。ただ、異様な興奮状態で口々に喚きちらすだけだ。
「とぼけるなッ!コレを見ろッ!!」
男の一人が『文々。新聞』を慧音に投げつける。新聞は彼女の顔に当たったが、慧音は慌てて拾い上げ、目を通し、絶句する。
「こ、これは………!い、いやしかし…」
目を見開きたじろぐ慧音を、里の男達が怒鳴る。
「分かったか!そいつは紛れもなく極悪人だッ!しかも悪魔の妹を倒して下僕にするほどの危険人物なんだよ!!こんな野郎に子供を任せられるかッ!ヤツを出しやがれ!!」
捲し立て、寺子屋に押し入ろうとする男達を、慧音は必死に止めようとする。
「ま、待ってくれ!!彼は三日前から里を出ているんだ!私も行方を調べていて…
、…ッ!?」
慧音の身体が突き飛ばされ、地面に打ちつけられた。男達が強引に押し入り、吉影の姿を探す。


「マズイ……なんということだ…ッ…」
吉影は裏路地に隠れ寺子屋の様子を見ていた。彼の表情には絶望と焦りの色がありありと浮かんでおり、爪はきつく噛み締めたせいで血が流れ出ていた。
「今、奴らに見つかるのはマズ過ぎる…あの目は正気の沙汰じゃない……
…しかし…何処に逃げるというんだ…ッ?人里の外では、『平穏な生活』など望むべくもない…
…どうする…!?」
『絶望的』。この言葉がこれほど似合う局面は今までの彼の人生には無かった。
今までは『敵を倒す』か『逃げる』という選択肢が残されていたが、今は人間を倒しても逃げても破滅しか残らないのだ。
と、吉影が裏路地から寺子屋の方を覗いていた時だった。
――ズガッ!――
「―――え――?」
ドシャッ
視界が真っ赤に染まり、吉影は倒れ込む。後頭部に走った衝撃に、彼は力の入らない身体を起こし、後ろを振り向いた。
「―――ッ――!?」
数人の男が、鉈や鍬を構えて立っていた。
「出ていきやがれ…!!余所者が…!」
手前の男が握る鍬には、血が滴っていた。
「コソコソ隠れて悪魔を手懐けて、何を企んでやがるッ!」
男達は血走った目を剥いて吉影を睨み、倒れ伏す吉影の顔面に蹴りを入れる。
「がッ――!」
吉影の頭が地面に打ちつけられた。鼻が折れ、血が流れる。
「何を企んでいた?ああッ!?」
もう一人の男が唾を飛ばして喚き、吉影の横腹を蹴りつける。
「ぐあっ――!?」
吉影は胃液を吐き、苦しげに呻く。
「俺達や子供を騙して善人面しやがって!裏で何をしようとしてたんだこの野郎!!」
男が鉈を振り上げ、吉影の頭に振り下ろした。
ボンッ

その音は、余りにも小さかった。スタンド使いでない男には、恐らく何も聞こえなかっただろう。
ザシュッ!
「――――え――?」
男は、振り下ろした自分の右手を見た。
「なっ――?お…おご…ッ…!?」
彼の右手は、手のひらだけになっていた。五本の指が何処かに消え、指があった場所の根本から血がダバダバと噴き出している。
「―――へっ?」
吉影を蹴りつけた男は、振り上げていた自分の足を見た。男の手からすっぽ抜けた鉈が、骨に達するほど深く突き刺さっていた。
「ギャアアアアアアアアアァァァァァァ!!」
男はドサリと転び、足を押さえる。
「あ、足がァァァ!!俺の足がァァァァァ!!」
「い、イデェ!痛ぇよォ!!」
血の噴き出す右手を押さえ、男がうずくまる。
「あ………あがッ……!!」
他の男達も、それを見て震え始めた。自分達が取り囲んでいる男が『何者』なのか、ようやく気付いたようだ。
「………………………………………」
吉影は、ゆっくりと起き上がった。ユラリと立ち上がり、顔をあげる。
「……………………………………………」
無言で男達を眺め回す。その目は凍てつくように無表情で、瞳の奥では灼熱の陽炎が揺らめいていた。
「う…………ああ…………」
その瞳で睨まれ、男達は萎縮する。
「うああああああああ!!」
鉈やら鍬やら振り上げて一斉に吉影に襲い掛かった。
ドグオオオオオ!!


吉影は身じろぎ一つせず、そこに立ち尽くしていた。男達は自分の矮小な武器を振り下ろしたポーズのまま、ピタリと止まる。そして――
ドシャァァァン!!
男達が、一斉に倒れた。折れた鍬の刃や鉈が頭に突き刺さっていた。
「は―――えっ?―」
一人、吉影の頭を鍬で殴った男は立っていた。折れた鍬を凝視して、何が起こったのか理解できないでいる。
「……………………………………………」
男の正面に吉影は立ち、一歩歩み寄る。
「う………あああッ……」
男は小さく悲鳴を上げ、後ずさる。
「よ…寄んじゃねえ!ばっ『化け物』がッ!!」
男の言葉に、吉影は口を開く。
「フン…『化け物』だと…?結構だ…この世界では何かと『人間』などと言われてコケにされてきたが…なるほど、ここの人間達は軽蔑すべき『野蛮人』だったようだ。」
「なッ――、おごッ!?」
吉影の右手が蛇のように迫り、男の顔を掴む。
「あ、あがっ!?」
メリ…ミシッ…
男の顔が軋む。
「………………」
吉影は左手で自分の後頭部に触れ、指先を眺める。血がベッタリと付着していた。
「わたしは…『争い』は好まない…」
男を持ち上げ、吉影は呟く。
「おごッ!あがが……」
男がジタバタと暴れるが、意に介さない。
「『闘争』は、わたしの目指す『平穏な人生』とは相反しているから嫌いだ…
だが……」
メキメキ――!
吉影の指が男の顔面にめり込む。
「ゲェっ!ぐががが…!」
ギィィィン!
吉影が憎悪を込めて男を睨みつける。
「平穏を脅かす『敵』だけは……生かしてはおけないッ!!
知らなくてもいいものを知った者は!!この世に存在してはならないのだッ!」
【キラークイーン】がスイッチを押した。
ドグオオオオオオオオ!!
男の顔面が吹き飛んだ。目と鼻の跡だけ残し、皮膚が剥ぎ取られる。
「ギャアアアアアアッ!!」
男の悲鳴が響き渡る。吉影が手を離すと、男はドシャリと地面に落ちた。血が溢れ、土を赤黒く染める。
「ヴァ…うぇ……あがああぁ………」
呻き倒れ伏す男を、吉影は冷徹に見下ろす。
「……………………」
【キラークイーン】の足で男の頭を踏みつける。徐々に力を加え、男の頭蓋を砕こうという時だった。
「こっちだ!この辺りから悲鳴が…、……ッ!?」
寺子屋内を捜索していた男が、裏路地に入ってきた。
「ッ!?」
振り向いた吉影と男達の視線が交差する。
「いたぞォッ!ヤツだ!!」
「あ、あれは…人か!?」
「ひっでぇ、顔面剥ぎやがった…!」
次々と男達が集まって来て、口々に叫ぶ。皆一様に吉影に怯えた目を向ける。
「……………………」
吉影は無言で男達を睨み付ける。憎悪と殺意を込めた視線を向けると、連中は後ずさった。目の前に『犠牲者』の成れの果てがいるのだから、尚更恐怖している。
「く……来るなッ!」
男の一人が落ちていた桶を掴み、投げつけた。【キラークイーン】で軽く弾き飛ばす。だが、それだけの動作でも、スタンドが見えない彼らの恐怖を煽り立てるには十分だった。
「あ…『悪霊』だッ!」
「本当だったのか…!」
「こ…殺せッ!『悪霊』に憑かれるぞッ!!」
男達は鎌や鋤を手に一斉に襲い掛かる。
「うっ……!」
【キラークイーン】の腕で防ぐが、後頭部の傷が痛み、焦点が合わない。
スバァッ!
「ぐっ…!」
肩に鉈が当たり、肉が裂けた。吉影が怯むのを見て、男達が調子づく。
「怯んだッ!今だ!!」
「殺れ!殺せ!!」
「殺せ!!
殺せ!!
殺せ!!」
鎌が足に突き刺さり、吉影はよろめく。彼の中で、痛みと怒りが沸き上がる。憤りはとうに臨界点を超えていた。
歯をギリギリと噛み締め、男達を睨み付ける。

「このクソカスどもがァァァ!!」

瞬間、男達が動きを止めた。四十八人の業を背負う殺人鬼の殺気が、彼らの心臓を締め上げる。彼の背後で泣き叫ぶ四十八人の手の無い女性の亡霊が、彼らの網膜に映し出された。
「う……うわああああああァァァァァ!!!!」
数人の男が鍬を振り上げ襲い掛かった。【キラークイーン】の拳が腕を叩き折り、脚が膝をへし折った。
「アギャアアアアァァァァ!」
悲鳴を上げる男を掴み上げ、男達に投げつける。ボウリングのピンのように男達がぶっ飛び、折り重なって倒れた。
「ぐわあああああああ!!」
だが、尚も男達は吉影に武器を向ける。皆一様に怯えた目をして。
吉影はかがみ、【キラークイーン】の脚で群衆に突っ込もうとした。その時だった。
バッ!

「……………ッ!?」
慧音が吉影の前に着地し、立ちはだかった。吉影と男達、双方を威圧するように睨む。


「け、慧音………」
吉影は目を見開き、狼狽える。慧音は彼の様子には目もくれず、彼の手をひっ掴むと、
「お前達、すまなかった。子供達は皆家に帰した。こいつは私が監理する。道を開けてくれ。」
男達に向き直り、頭を下げる。吉影の手を引き、強引に彼を連れ男達の中を割いて通っていく。男達はたじろぎ道を開け、ただ怯えた視線を二人に向けるだけだった。



ガラッ
扉を開け、慧音は吉影の手を引いて家の玄関に入る。ビシャンと乱暴に扉を閉じ、靴を脱いで上がり廊下を足早に歩いていく。吉影は手を掴まれ強引に引っ張られ付いていく。
「け、慧音…………」
手を引かれながら、慧音の険悪な雰囲気に吉影はおどおどと声を上げた。慧音はピタッと立ち止まると、吉影を振り向き―――

ガツゥン!!
吉影の眉間に頭突きを放った。
「がっ―――!?」
額に重い衝撃を受け、景色が揺らぐ。
「なぜ…嘘をついた!」
慧音が怒気を含んだ声をあげ、頭を振り下ろす。
ガツゥゥン!
「ぐあ……!」
「妹紅からお前が香霖堂に行っていないと聞いてから!
私がどれ程心配したと思っているんだ!!」
一発、二発。慧音の頭突きが吉影を打つ。
「ぐ…!がぁ………!!」
一瞬意識が飛び、吉影の身体がグラリと揺れる。
「人里の人間に手を出すとどうなるか!分からなかったのかッ!!」
さらに一発、二発。
「あがッ……ぎッ…!!」
吉影はくずおれ、膝を着く。
ガッ!
吉影の両肩を掴み、慧音は膝を着いて頭を振り上げる。ビクッ、と吉影は目を瞑った。

――ガバッ――――

「――――――……………?」
慧音の腕に抱かれ、吉影は、目を開けた。
「なぜ……一言…相談してくれなかった…」
慧音は吉影を抱擁して、か細い声を発した。
「…どうするんだ………これから…?…君は…人間の中では暮らせなくなってしまった……」
慧音は、泣いていた。目から大粒の涙を流し、慟哭していた。涙は頬を伝い、吉影の肩の傷に落ちる。
「……辛かっただろう…!君が『外の世界』に居た時…同じ人間に蔑まれ、恐れられるのは……!!
…またアレに苛まれるなんて……」
嗚咽し、ぎゅっと吉影を抱き締める腕に力をこめる。
「……どうして……どうして…こんな事に…………」
咽び泣く慧音の横で、吉影は茫然と力無く腕を垂らしていた。身体から力が抜け落ち、抱き締める彼女に支えられるように膝立ちの体勢で茫然としていた。
「……………………………あ…………………」
耳元に慧音の嗚咽を聞き、吉影の頬を静かに涙が伝った。
「………う………うう…………あああ…………ああああああ………………………………――――――――」
薄暗い廊下に、慧音の咽び泣く声が木霊した――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――ガリ……

――――ガリガリ…

ガリガリガリガリガリ――――――
「――――――……………ぐっ…………」
月明かりの照らす中、吉影は、自分の部屋に居た。畳の上に座り込み、爪を噛んでいる。
「…………くそ……ッ……」
彼の顔は、無惨にやつれていた。頬はこけ、目は落ち窪み、目の下にははっきりと隅ができている。あれから、彼がどれ程の『ストレス』を受け、どれ程『絶望』していたか、その表情を見れば分かるだろう。

あれから数日、彼は自分の部屋に籠っていた。
彼の人生で、これほどの『苦痛』を感じた事は一度だって無かった。
子供時代から会社員になってからも、誰かに苛めを受けたり、上司に虐げられたり期待されてプレッシャーを掛けられたりといった事が無いよう、常に細やかな気配りをしていたからだ。
そして、激しい『喜び』も深い『絶望』も無い――そんな人生こそが彼の『目標』であり、『幸福』であった。
東方仗助や空条承太朗といった『敵』に追われていた時も、彼ら以外彼の『敵』はおらず、『倒す』か最低でも『逃げる』という選択肢はあった。
だが、今は彼の周り全てが『敵』だ。
『倒す』ことも出来ず、『逃げる』ことも出来ない。
『群衆』『ムラ意識』『メディア』――――――彼の最も嫌う者達が、彼を包囲しよってたかって彼の『平穏』を叩き壊し、『精神』を蝕んでいく。
何度か、石が投げ込まれた事もあった。幸い障子を破っただけで当たる事は無かったが、『不特定多数』に狙われているという事実が彼の心を締め上げた。
また、命蓮寺とかいう寺から『寅丸星』妖怪の尼が訪ねて来た事もあった。慧音が対応し、吉影は部屋に隠れていたが、【キラークイーン】に障子を透過させ聞き耳をたててみた。会話は要約すると、こんな内容であった。
『あの外来人を引き渡してもらいたい。
奴は妖怪を躊躇無く殺し、幻想郷のパワーバランスを脅かす危険性がある。
また、今はまだくすぶっているだけだが、彼への攻撃を発端に【妖怪排斥主義者】が発言権を強めるかもしれない。
すでに奴を匿っていることを不満に思う輩が、貴方を妖怪の一味だと主張し始めている。
貴方自身の【安全】と【潔白】のためにも、奴を追放しなければならない。』

(フン……………『貴方自身の【安全】と【潔白】のために』だと………?脅迫以外の何物でもない。)
吉影はその時のことを回想し、鼻で笑う。
(『妖怪も人間も神も皆平等』……それが奴等の『宗教』らしいが、それならば、わたしのような『外来人』は平等ではないというのか?わたしが人里を追放されれば、一夜で野垂れ死にする事は目に見えているはずなのに、奴は慧音にわたしを引き渡すように言った。わたしの生死など眼中にないのだろう。
新聞だって、公平な目線で見れば明らかな偏向報道だとぐらい分かるはずだ。わたしがルーミアに倒されていたら確実に食われ、誰の話題に上ることもなく『当然のように』くたばっていただろうに、わたしがただ『勝った』という『事実』をあたかも『幼児虐待』のように捏造し、それを鵜呑みにする馬鹿共がいる。
フランドールの件だってそうだ。まるでわたしが『闘争』を目的に紅魔館を襲撃し、フランドールを打ち負かした後『血の契約』を結んだなどという嘘っぱちを並べ立て、わたしを『高位の悪魔』ではないかとこじつけの考察を載せていた。魔理沙の破壊痕も、パチュリー・ノーレッジと美鈴の負傷も、全てわたしに擦り付けられた。)
吉影の脳内を、黒い感情がとぐろを巻いて覆い尽くしていく。
だが、憤怒や軽蔑よりも『絶望感』の大きさが圧倒的だった。怒りで精神を奮い立たせようとしても、群れ喚く『敵』を嘲笑っても、『絶望』が鉛の塊のように重くのし掛かる。胸が苦しい。息が出来ない。
「…………うッ…!!」
桶を掴み、顔を近づける。
「ゲホっ……………ゲホッ………ッ………」
食事をとっていないので、胃液しか出てこない。口の中に拡がる酸っぱさが、さらに胸のムカつきを悪化させる。
「…ハァ………、…ハァ………」
目尻に涙を滲ませ、吉影は目を開ける。
「…………………………?」
何かに気付き、吉影は桶を覗きこんだ。
何か白っぽい半透明の物体が、桶の中に落ちていた。それはぶよぶよと液体と固体の中間のような質感で、この世の物ではないような雰囲気を持っていた。
「……………………!」
そのしろい物体が何か、何処からやって来たのかと考えようとしていた時だった。その物体は溶けるようにみるみる小さくなっていった。
「…………………ッ!?」
吉影は慌てて桶を持ち上げ、下を覗いた。白い物体が桶の底から染み出し、床に滴り落ちている。やがて床の上の物体も染み込んでいき、見えなくなった。
吉影は桶を脇に置き、震える手で白い物体のあった場所に触れる。床は何も落ちていなかったように乾いていた。
「ッ!――――――」
桶をその床の上に置き、吉影は後ずさった。エクトプラズムのようなそれについて考えるのはさらに自分の精神に害を及ぼしそうなので、頭を振り忘れることにする。

――――――ガラッ………
背後の音に、吉影は振り返った。
「川尻…………大丈夫……?」
開いた障子の隙間から、遠慮がちに慧音が声をかける。
「………音が聞こえて……………具合が悪そうだったから…胃薬を持って来たんだが……」
慧音は姿を現さず、声だけで吉影に話し掛ける。彼には分かっていた。彼女が顔を見せないのは、自分と目を合わせたくないとかではなく、気を使ってくれているからだと。

彼女の寺子屋は、あの日から休業している。大人も子供達に通わせようとはしなかったし、子供達も吉影のことを恐れていた。授業など到底行える状況ではなかった。
事態は寺子屋の話だけでは済まない。食材を買いに出かけても、皆彼女に白い目を向け、物を売ろうとしない。今は妹紅が食材を届けに来てくれているため、なんとか調達できていた。
慧音は、強い。それは、吉影がよく理解している。だが、人の『トラウマ』というのは、誰にも容易く克服することは出来ないものだ。自分が今彼女を苦しめている―――そんなことを吉影に思ってほしくないからだろう。

「――――――ここに置いておくぞ。」
慧音が障子の隙間から、胃薬の瓶と水の入った湯呑みの載ったお盆を置いた。その瞬間、吉影の瞳が大きく見開かれる。
慧音の手がお盆を置き、障子の外へと消えるまでの間、吉影の双眸は彼女の手に釘付けになっていた。艶かしいその手、絢爛たる爪、上品かつ妖艶な動きを食い入るように凝視する。床に座り込み振り返っている彼の両目の奥で、影が蠢く。
慧音はお盆を置くと、手を障子の隙間から引き、静かに立ち上がって障子を閉めた。足音が遠ざかっていく。
「…………………………………………………」
吉影はユラリと身体を起こし、おぼつかない足取りで障子へと向かう。その目はギラリと異様な光を放ち、狂気を滲ませていた。
(――――あの女に『心』を打ち明けろ――)
障子を開け、『殺人鬼』は部屋をあとにする。
(―― 自分の『本性』を見せてやれ ――吉良吉影――)
ユラリユラリと廊下を歩き、慧音の部屋へと向かう。彼の中から『理性』が消失し、『衝動』のみが身体を動かしていた。
(おまえの首を絞めさせてくれと……打ち明けるんだ――――――)


慧音の部屋に向かう途中、裏玄関の前を通り過ぎようとした時だった。
「……………………………っ?」
吉影は、はっと顔を上げ、耳をすませた。
『………………っ…た…』
『………野郎…………なかっ………』
『…………爆……から回れ……』
裏口の外に、人の気配がある。会話の内容は聞き取れなかったが、なにやら話をしている。
「……………ッ……奴らか……!」
吉影の目付きが鋭くなる。『【キラークイーン】』を発現させ、草履を履き、裏口から外に出る。

ガララッ――――――
「いいか、ヤツが居たら……、…ッ!?」
吉影が戸を開けると、裏口前にたむろしていた男達はビクリと顔を上げ、吉影に目を向ける。
「……………………何のようだ……貴様ら…………?」
吉影は不快感を滲ませ声をかける。
吉影の突然の登場に、男達は怯んだが、まもなく憎しみを籠めた目で吉影を睨んだ。
「てめぇ……里の男衆を半殺しにしておきながら、言うにことかいて『何のようだ』だとぉ!?」
「ノコノコ出て来やがるたぁ、罪悪感もねぇみてぇだな……!?」
「用があるのはてめぇにだよ……川尻浩作」
男達は明確な殺意を吉影に向け、握っていた弓や弩を構えた。それを見て、吉影は胸の内で唾を吐き捨てる。
このわたしにそんな狩猟時代の玩具が通用するとでも思っているのか。
『悪魔の妹を倒した危険人物』だと言っておきながら、『遠くから射殺せば勝てる』などと甘い考えを持っていやがる。
『強者』を『恐れている』くせに『弱者』である自分達で群れ、お門違いの『正義』を掲げ『向かって来る』。
二つのことが『矛盾』している。
まったくもって気に入らない。
長い溜め息の後、吉影は口を開く。
「貴様らの馬鹿さ加減には、心底うんざりさせられるな。」
「なッ――――――」
男達が激昂し喚こうとするが、それを押しきって続ける。
「貴様ら、気づいてないのか?自分達が天狗に『利用』されていることに。」
「なッなに言ってやがるッ!俺達は――――」
「『俺達は』だとッ!?貴様らに自ら考える力があるなら、あんなプロパガンダを鵜呑みにする物か!!」
「『ぶろぱがんだ』ぁ?何ワケわかんねぇこと言ってやかる!!」
「てめぇにやられた奴らは、皆竹林の医者の所に入院してるんだよ!!頭を切り裂かれた奴らは死にかけているし、指や顔がぶっ飛んじまった奴は一生治らねぇそうだ!!全部てめぇかやったことだろうがぁ!!」
「貴様ら未開の野蛮人が二人死のうが二万人死のうが知ったことかァッ!!」
吉影の怒号に、男達は愕然とし、怯む。
「なッ………なん………!?」
ようやっと自分達が対峙しているのが何者か理解しかけたようだ。彼らが吉影の脳天に鉈を振り下ろすのを何とも思っていないように、彼も男達を殺すことに何の躊躇も抱いていないのだ。
「お前…『覚悟して来ている者』……だよな。人を『始末』しようとするってことは…逆に『始末』されるかもしれないという危険を常に『覚悟して来ている者』ってわけだな……?」
【キラークイーン】に構えさせ、一歩踏み出す。それとは対称的に男達は一歩後ずさる。
「こいつ…お、俺達を殺る気だ…。『マジ』だ…余所者のくせに俺達を始末しようとしている…」
男達は、弓に矢をつがえ構える。だが、全身が震え、狙いが定まらない。
「小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はいいか?」
全身に殺気をみなぎらせ、吉影は一歩また一歩と近付いていく。
「貴様らの死はただの集団失踪事件として一面を飾る事になる…安心しろ、わたしが攻撃を受けたことは黙っておいてやる……」
男達が矢を射ろうとした時だった。
「川尻ッ!何をしている!?」
「ッ!!」
慧音が戸を開け、吉影と男達に目をやる。
「け、慧音…………」
吉影は慧音の方を『振り返ってしまった』。
「お、お前達っ何をして……、…!?」
慧音が目を見開いた。
「川尻ッ危ない!!」
「はッ!?」
男達の方へ向き直った瞬間、
「死ねェェェ!!『化け物』ッ!!」
十数本もの矢が一斉に吉影に襲い掛かった。
「しばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
【キラークイーン】のラッシュで迎撃する。折れた矢が裏口の戸や壁に突き刺さる。
「しばッ!!!!」
全弾叩き落としたと思った時だった。
「うおおおォォォォォォ!!」
塀の向こう側から雄叫びと共に、人の頭ほどもある球体が投げ込まれた。
「てめぇの顔面もぶっ飛ばしてやるぜぇぇぇ!!」
黒色火薬を満載した二つの茶碗を縄で縛って作った爆弾が、吉影の眼前に迫る。
だが、吉影は一切恐怖しなかった。
「こんなモノで………!」
吉影の顔が怒りに歪む。
「わたしを『始末』出来ると思ったかァァァ!!」
【キラークイーン】の手で掴み取ると、
「うおおおぉぉッ!」
爆弾化し、男達に向かって投げつけた。
「なッ――――!!!?」
男達は愕然と目を見開く。接触弾に変えられたそれは連中のド真ん中に突っ込んでいく。逃げる間もなく直撃かと思われたその時だった。
「――――――ッ!!?」
慧音が宙を飛び、男達の前に降り立った。彼女は男達に背を向け、弾幕を放った。
「なァッ―――!?」
吉影は咄嗟に爆弾を解除しようとした。だが、遅かった。
ドグオオオォォォォォォ!!
弾幕が着弾し、大爆発が起こった。
「ぐあぁぁぁッ――――――!!」
爆風に煽られ、慧音の身体が吹き飛ぶ。地面に投げ出され、ごろごろと転がり、動かなくなった。
「慧音ぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
吉影は叫び、駆け出した。慧音の横に膝を着き、声を掛ける。
「慧音!慧音!!」
肩を揺さぶるが、ピクリとも動かない。恐る恐る口元に耳を近付ける。
――――息をしていない――
「そんな―――ああっ、そんな――――――!!」
吉影は愕然とくずおれる。やってしまった。理性があったにもかかわらず。
そんな吉影を、男達は遠くから眺めていた。
「やべぇ…半獣やっちまった……」
「ど、どうする……?」
おどおどと男達は声をあげる。
「どうするっつったって…逃げるしかねぇだろ!」
「で、でもッ俺達がやったって知られちまったら…!!」
「なに言ってやがる!や…奴がやったんだろうがッ!お、俺達じゃねえよ!!」
ピクリ、吉影が反応する。
「あの爆弾でこんな爆発が起きるわけねえだろ!いいな、俺達じゃねえ!奴がやったんだ!」
「や、やべぇッ!人に見られる前に逃げるぞッ!」
(なん…だと………?)
吉影が顔をあげ、立ち上がる。憤怒の形相で、男達を睨む。
「お、おいッ!奴がこっち向いたぞッ!」
「いいから逃げるぞ!!自警団に奴がやったと言えば心配ない!!」
「人が出て来たぞ!!早くッ!!」
男達はその場から逃げ去ろうとした。だが――――――
ゾクッ――――――
「――――――ッ!?!?」
男達の背筋を、悪寒が走り抜ける。
「――――――慧音は…ただの人間だった……」
吉影が声を震わせ、男達を睨み付ける。
「普通の人々と同じに子供達を愛し…人里を愛し……教師の仕事に一生懸命な……」

「――――ただの人間だった……ただのッ!人間だったッ!!」
恐怖、戦慄、憤怒。限り無く純粋で果てしなく黒い殺意が、男達の心臓を握り潰した。
「あ――――がぁ――――――」
男達は口から泡を吹きバタバタと気絶した。
「…ハァ…………ハァ………」
吉影はドサリと膝を着き、慧音の肩を揺する。
「慧音!慧音ッ!!慧音~!!」
彼の悲痛な叫びも虚しく、慧音が目を覚ますことはなかった。
吉影が顔をあげると、爆発音を聞いた人里の人間達が通りに出て、彼を眺めていた。誰も近寄って声を掛けようとはしない。
「誰か!
診療所に行ってくれッ!
医者か看護師を呼んで来てくれッ!!」
だが、誰も彼を助けようとはしない。ただ遠巻きに眺めて彼らが投げ掛けるのは、怯えた目、目、目。
「なぜ……何故ッ!誰も助けようとしないッ!!」
吉影は小石を拾い上げると、
「『【キラークイーン】』ッ!!」
小石を空高く打ち上げた。
「爆破しろッ!!」
ドグオオオォォォォ!!
小石が空中で爆発し、爆炎が夜空を照らす。遠巻きに見ていた住人達は慌てて家に逃げ込み、通りには吉影と慧音だけが残された。
「――――――やって……しまった………」
吉影は足下に横たわる慧音を茫然と見下ろした。
慧音は、完全な心配停止状態だった。彼が『手を下す』ことがなくても、このままだと死んでしまうだろう。それならば――――――
「―――――もう……後には引けない……」
吉影は慧音の脇に屈み込み、喉に手を当てた。顎を引き上げ、気道確保をする。
何度か深呼吸した後―――――
覆い被せるように慧音の口に自分の口を重ねた。息を吹き込む。一回――二回――慧音の胸が上下するのを確認し、口を離す。
息継ぐ間もなく、両手を重ね慧音の胸に押し当てる。肘を伸ばし、体重を載せて垂直に圧迫する。だが、弾力のせいで上手くいかない。
「くそッ…!【キラークイーン】!!」
【キラークイーン】の腕で身体を固定し、胸骨圧迫を続ける。一心不乱に続け、三十秒経過すると人工呼吸をする。それを交互に続ける。ただ、無我夢中だった。
空に打ち上げた爆発を見て、診療所の兎達が担架を持ってやって来た。
「心肺停止だ!!早く処置を!!」
【キラークイーン】にそっと抱き上げさせ、担架に載せる。兎達では応急措置しか出来ないため、診療所で永琳の到着を待つしかない。
兎達が担架を運び、その後を吉影は追って診療所に向かった――――――

ED曲   Foreground Eclipse 『Dancing With Happiness And Sadness』

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