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おまけ ~宮本輝之輔のドキドキ野外実習~

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匿名ユーザー

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カラン カラン カラン ………
多々良小傘は夜の森を歩いていた。目的は勿論、『食事』である。
「う~ん……やっぱりいないな…驚いてくれそうな人間……」
キョロキョロと辺りを見回すが、妖怪が活発化する夜、人里を出て森の中を歩こうなどという人間はいないため、なかなか『標的』を見付けられずにいた。
「んっ…?」
と、小傘は目を凝らして森の木々の向こうを見た。森の中の道を歩く人間の姿を見付けたからだ。
(やった、人間がいたわ!よ~し、今度こそ………)
小傘は茂みに身を隠し、その人影が通るのを待ち構える。やがて、その人間の姿がはっきり見えるくらいまで迫ってきた。
人間は小傘の見かけよりは年上の少年だった。少年は褐色の肌と銀髪を持ち、コートに身を包んでいる。手に握った折り畳んだ紙を見て何かぶつぶつと呟いており、全くこちらに気付く様子もない。
(まだ…まだよ……もう少し近づいてから……)
高まる胸の鼓動を抑え、小傘は少年が前を通るのを待ち構える。
(3…2…1…、今だっ!)
少年が目の前に来た瞬間、小傘は彼の真正面に飛び出した!片目を瞑り、片足を上げ、舌をペロリと出して、お気に入りのポーズで少年の前に現れ―――――――
「おどろけ~…………ってあれ?」
少年の姿は忽然と消えていた。キョロキョロと辺りを見回すが、何処にも見当たらない。
「あれ?あれれ?」
小傘は混乱し、何が起こったのか分からずにいた。その時―――
「秘術『グレイソーマタージ』!」
ドドドドドドドドドドドドドドド!!
「きゃああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
突如背後から襲って来た五亡星の弾幕に吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。
「何をしたかったのかは知らないが……」
背後から少年が歩いてきて、倒れた小傘を見下ろす。
「僕をただの人間だと思っていると、痛い目を見るぞ。」
少年は懐から【火符『アグニシャイン』】と書かれた紙を取り出し、小傘に向ける。
「さあて、こいつで丸焼きに……」
紙を開こうとした時だった。
「………う………ぐすっ……」
「……?」
「う……うえぇぇぇぇん!」
突然泣き出した小傘に、少年は驚いて声を掛ける。
「ど、どうしたんだ!?急に泣き出して…」
小傘は涙を拭い、泣きながら答える。
「…ひっく、わ、私は貴方を……えぐ、お、驚かそうと思ったのに……逆に人間に…お、驚かされちゃった……」
小傘はまた泣き始める。
「うええ……こ、怖かったよ……!」
どうやら相当びっくりしたらしい。しきりに泣きじゃくる小傘を、少年は呆れ半分、驚き半分で眺めていた。
少年はしばらく何か思案した後、小傘に話し掛けた。
「ええと……キミはさっき、僕を驚かそうとしていたんだよね?」
コクコクとうなずく小傘。
「…残念だが、君の方法は間違っている。あんなやり方では人を驚かす事は出来ない。」
「ッ!!」
少年のキッパリとした口調に小傘はショックを受け、さらに激しく泣こうとする。
「だから~っ!君が泣いていてどうするんだよ!!」
少年が強い口調でそう言い、小傘は泣くのを堪えた。
「よし、泣き止んだな…」
小傘が大人しくなると、少年ははっきりとした調子で小傘に向かって話しを始めた。
「まず第一に、キミのやり方には『ビジョン』が無い。」
「ビ…ビジョン……?」
「そうだ、『ビジョン』だ。キミの求める『驚き』とはなんだ?予期しない出来事への『驚愕』か?人智を超えた御技への『陶酔』か?」
バサッ!少年はコートを翻した。
「違うッ!妖怪の君が人間に求めているのは……『恐怖』!『戦慄』!!『絶叫』!!!人々が自分という『存在』に恐れおののき、ガタガタ震えて命乞いする様だろう!?」
まるで『新世界の神』のようなカルト的な魅力をみなぎらせ、少年は熱弁を奮う。その姿を凝視する小傘の瞳が見開かれ、恍惚の光を放ち始める。
「そして第二に、キミには『アイディア』と『技術』が無いッ!」
クルリと背を向け、少年はそこが壇上であるかのように歩き回り、迫真のジェスチャーを交え熱く語る。
「『真正面』から向かうのはよほど『インパクト』がある時か、敢えて自ら『視線誘導』して気を惹き付ける時以外は駄目だ。やるなら『獲物』の死角からッ!相手の理性を揺さぶり!『動揺』を引き出す!!究極的には姿を表さずに怯えさせるのが理想だな。『正体不明』の恐怖に相手はただ恐れおののく事しか出来ない。」
「『正体不明』……!な、なるほど…!」
小傘は目をキラキラと輝かせ、コクコクとうなずく。
「じゃあ、僕が教えられるのはここまでだ。精進したまえ。」
クルリと少年は背を向け、立ち去ろうとする。
「ま、待ってくださいっ!」
慌てて小傘が呼び止める。
「私に、『稽古』をつけてくれませんか?私は人間を驚かす事が生き甲斐で、これが上手くいかないと生きていけないんです!どんな辛いことでも諦めません!だから、だから……」
少年は振り返ると、小傘を見詰め、質問する。
「キミ…『名前』は?」
「こ、小傘…多々良小傘です。」
ふーんと少年は少し考え、名乗る。
「僕の名は宮本輝之輔だ。
キミ、気に入ったよ。丁度これからある妖怪を驚かしてやろうと思ってたんだ。付いて来て良く見ておくといい。」
「ほ、本当!?」
「ああ、ただし、キミにも少し手伝ってもらうよ。」
輝之輔はクルリと踵をかえし、森の道を歩いていく。
「はい、先生!」
小傘はその後を追っていった。



「チ~ンチ~ン♪チリ~~ン♪」
暗い夜道に、歌声が響く。赤提灯の屋台で、一匹の翼を持つ妖怪が歌を謳っていた。彼女はミスティア・ローレライ。この屋台で八目鰻の蒲焼きと日本酒を売る、居酒屋のような商売をしているのだ。
「チ~ンチ~ン♪チ~ン♪」
妖怪とは思えないノリの良さで、彼女は独唱する。まだ日が暮れて間もないため、妖怪の客はまだない。だが、すぐに蒲焼きの香りに誘われて―――あるいは彼女の歌に惑わされて―――『客』か『獲物』が来るだろう。
「チ~ンチ~ン……、あれ?」
気分良く謳いながら鰻を捌いていた時だった。彼女は開かれた鰻の腹から 何かが覗いているのを見付けた。
「鰻の中から謎の物体~♪これは一体どういうこったい~♪」
意味不明な歌をフィーリングで謳いながら、ミスティアはそれを引っ張り出した。
「これは……紙?」
彼女はいぶかしがりながら、紙をあちこちから眺める。紙が折り畳まれている事に気付き、彼女は開いてみた。
「……えっ?」
紙を開いた瞬間、握っていたはずの紙は消え失せ、代わりに黄ばんだ人の指ほどの棒のような物が数本、手のひらの上に現れた。
「こ、これ…何?」
彼女はおそるおそるその棒を眺めた。
「ま、まさかこれって……っ!!」
ミスティアの手が震え、背筋を悪寒が走る。
「とっ、鳥の骨ッ!!」
彼女は手羽元の骨を取り落とし、ぶるぶると身体を震わせる。
「だ、誰よ…こんなヒドイこと…!」
同胞の無惨な姿を見せつけられたミスティアは、恐怖と憤りで目に涙を滲ませる。辺りを見回すが、誰もいない。
と、ミスティアは鰻を焼いている網に目を落とした。
ブスブス……
鰻の蒲焼きが焦げ始めている。
「いけない!早く上げないと……!」
彼女が串に手を伸ばし、皿に移そうと持ち上げた時……
ペリッ……
「……?」
蒲焼きの下から聞こえた音に、ミスティアは覗き込んだ。
「ま、また『紙』……」
紙が蒲焼きの裏に貼り付いていた。折り畳まれたそれのもう一方の面はブスブスと焦げ臭い匂いを放ち、網に貼り付いている。そして、ミスティアが蒲焼きを持ち上げた事で、紙が『開かれた』。
「ッ!!」
また紙が消え、代わりに何か焦げ臭い塊が網の上に現れる。串を握る手が震え、蒲焼きが地面に落ちた。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
絹を裂いたような叫びが夜道に響く。殆どの部分がブスブスと炭のように焼け焦げた、生焼けの鶏モモ肉が網の上で煙を吐いていた。
ガダンッ!!
ミスティアは倒れ、地面にへたり込む。
「いや……!いやぁ…!!そんな、わ、私が……!!」
ミスティアはうずくまりガタガタと震え頭を押さえる。自分が同胞の肉を焼いてしまった。そのショックに腰が抜け、慟哭する。
「ああっ………あああ…………!」
彼女はポケットからハンカチを取り出し、涙を拭う。
「…………?」
だが、その布の質感に違和感を覚え、震える手で目の前に持ってきて注視し………
「ッ!!!?」
ハンカチだと思っていた物は、自分の下着だった。
『お前のパンティーだ』
そう蒲焼きのタレで書かれていた。
「うう………ああああっ………!!」
幾つもの不可解な出来事が重なり、彼女の表情を恐怖の色に染める。彼女の頬を涙が伝い、嗚咽が洩れる。
また、『紙』が下着の中から覗いた。紙は下着から滑り落ち、彼女の目の前で開き、消えた。
ドシャッ……!
一匹の鶏の死体がまるごと現れ、地面に落ちた。死体は二度と光を見る事のない瞳でミスティアを見上げ、流れ出る血が彼女のスカートに染みを広げる。
「ひぎっ………!!」
彼女の顔が恐怖に歪む。涙が溢れる。
「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カチリ、と死骸が音を発し、
パアアアァァンッ!!
炸裂音と共に破裂した。内臓や脳髄、肉片、血飛沫をぶちまけ、ミスティアの顔、服にふりかかる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
狂ったような絶叫をあげ、ミスティアは顔にへばりついた臓物を払おうとする。泣き叫び、慟哭し、嗚咽を上げ、彼女はのたうちまわる。そして、無意識のうちに『喉に触れた』。
「見たぞッ!『喉に触れる』、それがお前の『恐怖のサイン』だ!!」
彼女の背後に輝之輔が現れ、『エニグマ』が襲い掛かる。
「そして『恐怖のサイン』を見つけた時!我が『エニグマ』は絶対無敵の攻撃を完了するッ!!」
『エニグマ』が彼女を紙に変え、『ファイル』した。
「フフフ、捕まえた……妖怪ってのは力は強いくせに精神年齢が見掛け相応だったり、精神攻撃に弱かったりするから『恐怖』させるのは簡単さ……
でも、今回の相手はちょっとばかし面倒だったな……常に妙な歌を謳って人を狂わすから…別に、耳詮や歌を『ファイル』しても良かったんだが、それだと怯え惑う『叫び』が聞こえないからな……
まあ、こ~いう感じだ。僕が歌を聞いて狂った時に目を覚まさせる役、御苦労だった。これからは自分で………、っ?」
後ろの茂みに隠れている小傘を振り返ると、彼女はぺたんと座り込み、がくがくと震えていた。
「い、いやぁ………怖い……怖いよぉ…!」
ふるふると震え、小傘は瞳を潤ませ輝之輔に恐怖の眼差しを向ける。
「来ないで………っ!鬼!悪魔っ!妖怪~ッ!!」
小傘は飛び起きると、一目散に逃げだした。カランカランと下駄の音が響く。
「やれやれ、ちょっと刺激が強すぎたか………」
輝之輔はかぶりを振り、逃げる小傘の背中に目を向け―――
「お前の『サイン』は、『傘を抱く』だ。」

ガァァ―――――z―ンッ!

『エニグマ』が背後から小傘を襲い、彼女の身体を【紙】の中に呑み込んでいく。
「いやああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」
泣き叫び、バタバタと必死にもがくが、東方仗助の【クレイジー・ダイヤモンド】でも抗えなかった【パワー】、力の弱い小傘になんとかできるわけがない。
瞬く間に傘ごと【紙】に沈み込み、【ファイル】された。

「よ~し、今夜の『収穫』は二人か……」
『エニグマ』が紙に封印された小傘を持って輝之輔の所に戻り、彼はそれを受けとる。
「フフフフフ……この世界には外見は普通の可愛らしい娘が多いからな……しかもおどかすばかりで脅かされることがない娘達ばかりだから、すぐに怖がって『恐怖のサイン』を見せてくれる……素晴らしい、夢のような世界だ……!フフフフフフフフ………」
輝之輔はニヤリとほくそ笑み、紙をファインダーに挟んで懐に仕舞う。
「さあて…今夜はどうやって遊ぼうかな……?鳥の娘は『ツボ』が分かってるけど、化け傘の娘は何が怖いか分からないし………まあ、あれだけ怖がりなんだからちょっとおどかすくらいで泣いてくれるだろうな……また女の子がビクビク怯え泣いているのを録画(まわ)して、ビデオを貯めよう………外の世界に帰ったら、幾らで売れるかな………フフ、フフフ、フハハハハハハハハハ………………………………」
心底愉しそうに不気味な笑い声を響かせて、輝之輔は森の中へと消えていった―――――――


ED    SYNC.ART'S 『夜陰口遊ぶは』

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